――第2番ケージ 零号機エントリープラグ――

レイ(何を迷っているの?)

自問しながら、隣の初号機の方へ首を回す。

レイ(決めたのではなかったの? 私は・・・碇君を・・・)

初号機を――正確には、初号機の中のシンジを――見つめる赤い瞳が、突然スピーカーを

通して流れ始めた話し声の方へと動く。

  『シンジ、今日の晩ゴハン、何?』

  『え? ・・・・ピラフ、だけど。』

  『またぁ〜? タマにはもう少し気の利いたモノ作りなさいよ。』

  『気の利いたモノって?』

  『そんなの自分で考えんのよ!』

  『そんなぁ。』

  『文句言わないのっ。それとも、アタシのためにゴハン作るのが不満なワケェ?』

  『そうじゃないけど・・・。それより、こんな話してると、リツコさんに叱られるよ。』

  『へーきよ。どーせ、今頃はミサトと一緒にお茶してるに決まってんだからっ。』

  『聞こえてるわよ、アスカ、シンジ君。バカなこと言ってないで、訓練に集中しなさい!』

レイ(・・・・・・・)

再び、瞳を初号機へ向ける。

 ―――・・・行きなさい、レイ・・・・あなたのシンジの所へ・・・―――

レイ(碇君が誰を好きでもかまわない・・・それがアスカなら、私は嬉しい・・・・・・・・でも)

装甲板に覆われた巨大な頭部が真正面に見える。

レイ(・・・碇君に、私をわかって欲しい・・・)

唇を結んだ口元が小さく肯く。

レイ(・・・綾波レイ、出撃します)

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 綾波司令  第23話「お風呂のココロ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

カポーーーーン♪

シンジ「いいなあ、お風呂は・・・。心が安らぐな・・・。」

本部1F、D-5区画、大浴場。その日の訓練を終えた碇シンジは、一人くつろいでいた。

カララ・・・。

シンジ(こんな時間に誰が入ってきたんだろう?)

チルドレン達の入浴時間は、一般職員とあまり重ならない。

「碇君・・・。」

聞き覚えのある―――しかし、ここで決して聞こえるはずのない声が、後ろから響いてきた。

シンジ「えっ? ・・・あっ!!」

一糸纏わぬ、素っ裸の綾波レイが、洗い場のタイルの上に立っていた。

シンジ「ど、ど、ど、どう、し、したの!? あ、あ、綾波!!??」

湯船の中、慌てて向きを変えたシンジは、大きな富士山の風呂絵に向かって叫んだ。

シンジ「こ、ここは男湯だよっ?!」

レイ「私は司令。ここは、1分前に女湯に変わったわ。」

シンジ「エッ!!? そうなの!??」

大慌てで湯船から飛び出そうとしたシンジは、自分もまた素っ裸であったことを思い出し、

再び大慌てで湯船の中へUターンした。

シンジ「あ、綾波。向こう・・・向いててくれないかな?」

レイ「どうして?」

シンジ「だって、僕、裸だし・・・・綾波だって・・・その」

レイ「私はかまわないわ。」

 

―――同時刻 『女湯』―――

アスカ「ファーストがいないと、広くて気持ち良いわねー。チョット、泳いじゃお〜・・・・・とうっ!」

バッシャーン!! バシャバシャ!

 

―――再び 『男湯』―――

シンジ「か、かまわないって・・・・ぼ、僕達、裸なんだよ!?」

レイ「だから・・・いいの。」

シンジ「ええっ!?」

思わず振り返ったシンジ゙の目に、蒼いまでに真っ白な身体が飛び込んできた。

もう一度、必死の思いで首を元に戻す。

シンジ「ど、どうして・・・」

レイ「碇君に、私を見て欲しいから。」

 

―――同時刻 女湯―――

アスカ「アスカ選手、早い、早い! たちまち、最初の50メートルをターンしましたっ!!」

バシャバシャバシャッ!!

 

―――男湯・・・―――

シンジ「僕に・・・?」

レイ「ええ。」

ためらうことなく湯船に近づいたレイは、シンジのスグ後ろで立ち止まった。

レイ「碇君・・・」

シンジ「だ、ダメだよ!! 綾波!」

レイ「どうして?」

シンジ「だって、こんな・・・こんなトコロで綾波の裸を見るなんて!」

―――ドコだったら、良いというのか? それはともかく・・・

以前、レイのマンションで見た彼女の裸身がオーバーラップして、またまたノドがゴクリと音を立てる。

レイ「・・・・・・。」

後ろからは、何の返事も返ってこなかった。

シンジ「だからさ・・・・だから・・!!?」

風呂の湯とレイの裸と、その両方でユデ上がったシンジの頬を、ひんやりと心地良い掌が

両側から包んでいた。

シンジ「綾波・・・?」

ぐりんっ。

シンジ「イタタッ!?」

お湯の中、180度回転したシンジの眼前に、白い二つの胸が迫ってきた。

シンジ「ブッ!」

一瞬、意識が遠のくシンジ。そのまま、後ろへ倒れかけた少年の頭をつかまえて、レイはしゃがみ

こんだ自分の顔の方へと、シンジの顔を向け直す。

レイ「しっかりして、碇君。」

シンジ「う、うん。」

クラクラするシンジの目の前で、水色の髪の少女の顔が像を結ぶ。

レイ「もう一度・・・・目をそらさずに、私を見て。」

そっとシンジの顔から両手を離すと、レイは、そのまま真っ直ぐ立ち上がった。

シンジの前に、間違いなく、すべてをさらした少女の姿があった。

シンジ(綾波・・・)

静かにシンジに向けられるまなざし。

シンジも、今度は目をそらさなかった。

レイ「これでも・・・私はあなたのお母さんと同じなの?」

水色の髪、赤い瞳の少女の肉体は、亡き母の生まれ変わり。

しかし、そこに立っている少女は、シンジにとって、まぎれもなく「綾波レイ」であった。

シンジ「そんなこと・・・ないよ。やっぱり、綾波は・・・・綾波は・・・・あ、あれ?(クラクラ・・・)」

シンジの目に映るレイの裸身が二つになった。

シンジ「綾波は・・・一人?しかいない・・・大切な・・・」

レイ「!・・・碇君っ!」

―――レイちゃん感激!!

両手を差し伸べてシンジを抱きしめようとしたレイの前で、シンジの姿が消えた。

レイ(碇君・・・どこ?)

シンジ「(ブクブクブク)」

 

―――三たび 女湯―――

バシャバシャ―――タッチッ!

アスカ「ゴール! 惣流・アスカ・ラングレー選手、日独米同時新記録でブッチギリの優勝です!

    ・・・さっそく、インタビューしてみましょう! ・・・おめでとうございます、アスカ選手! 

    この喜びを、誰に伝えたいですか? ・・・ハイ。それはモチロン、カジさん!・・・じゃなくて

    ・・・・その・・・えっとー・・・ん〜と・・・(エヘ)   ・・・なーに照れちゃってるんですかぁ?

    ・・・・そ、そんな! 照れるだなんて! ア、アタシが、この感激を真っ先に伝えたいのは

    ・・・・・シ・・・・シ・・・・・シン・・・・・・・・・・・・・・・バッカみたい。アガろっと!」

ザババ〜〜!

 

―――んで 男湯―――

レイ「碇君? しっかりして、碇君?」

シンジ「・・・・・うーん。」

ペチペチ。

レイ「碇君・・・?」

シンジ「う・・・・・あ、綾波。」

レイ「よかった・・・。」

洗い場で、シンジに膝枕をしたまま、片手を胸に当て、安堵の吐息をもらすレイ。

湯アタリから回復した頭が徐々に意識を取り戻す。

が、余計なことに目の焦点まで合ってきたりして・・・・・・レイちゃん、ポッチリ。 

シンジ「あや・・・ブッ!!!」

ゴチン☆

レイの太股からズリ落ちた頭が、タイルを直撃する。

レイ「い、碇君?!」

再びアチラの世界へ旅立ってしまう、不幸だかラッキーなんだか良く分らない少年であった。

 

―――その夜の葛城家―――

アスカ「シンジ。アンタ、ちょっと変よ。」

シンジ「え? そ・・・そうかな?」

エビ入りピラフを前に、アスカがシンジを見ていた。

シャツの胸に描かれた『平常心』の文字とは正反対なその顔を、ジ〜〜〜っと見つめる蒼い瞳。

アスカ「・・・本部で何かあったの?」

カチャリ!

不必要に力の入ったスプーンが皿に当たって音をたてる。

シンジ「な、何も・・・」

アスカ「フーーーーン。」

疑わしそうな視線がシンジに向けられる。

アスカ「隠しゴトしてたら承知しないわよ。」

シンジ「あ・・・当り前じゃないか。何言うんだよ・・・・ハハ。」

不自然を絵に描いたような反応を示すシンジ。

アスカ(アヤシ〜〜〜イ)

 

プシュッ―――

ミサト「たっだいまー、シンちゃん、アスカ。」

玄関のドアが開く音とともに、ミサトが帰ってきた。

シンジ「おかえりなさい、ミサトさん。」

アスカ「・・・あかえり、ミサト。」

リビングのドアが開いて、ミサトが入ってくる。

ミサト「お客様を連れてきたわよん!」

制服姿のミサトの後ろから、両手でスポーツバッグを持った人物が現れた。

レイ「こんばんは。しばらく、おじゃまするわ。」

シンジ「(ドキッ)え!? ど・・・どうしたのっ??」

アスカ(また来たわね、この『御法度女』! ・・・・・シンジ? 何赤くなってんのよ!?)

 

着替え入りの鞄を手に、スタスタとレイが近づいた。

レイ「碇君・・・大丈夫?」

シンジ「エッ!? ・・・う、うん。」

顔を赤らめたシンジが、チラリとアスカの顔を覗き見たようだ。

アスカ(・・・ん?)

アスカの直感が、事件の発生を告げる。

レイ「そう。」

小さく頷いて、ミサトの後をついていくレイ。

後ろ姿を見送っているシンジ。

アスカ(怪しい・・・。そういえば、レイのやつ、とうとうオフロに来なかったわね・・・)

腕組みをして、シンジを眺めるアスカ。

 

―――葛城家 バスルーム前―――

回っている洗濯機を背に、シンジはトイレに来たアスカに捕まっていた。

アスカ「なんでレイがこの家に来んのよ?!」

シンジ「知らないよ!」

アスカ「あのバッグ見た? しばらく居座るツモリよ、アイツ!」

シンジ「でも、いつかも泊まった事あったし・・・別にイイんじゃ・・・」

アスカ「まったく、ズーズーしいわね。いっくら、自分が司令だからって・・・」

シンジ「それとこれとは関係ないと思うケド・・・」

アスカ「・・・・えらくレイの肩持つわね?」

ジト目がシンジに向けられる。

シンジ「そういうわけじゃ・・・」

アスカ「そーいえば、シンジ。」

ドキリ。

アスカ「訓練の後、オフロに来なかったのよ、アイツ。アンタ、知らない?」

シンジ「ボ、僕が知るワケないじゃないかっ!?」

アスカ「・・・何、必死に否定してんのよ?」

 

―――その日の深夜 葛城家―――

シンジ(・・・唄?)

寝つかれずに、ミルクでも飲もうとキッチンのドアを開けたシンジは、足を止めた。

リビングの方から、歌を唄っているような声がかすかに聞こえてくる。

見ると、ベランダへと続くサッシが開けられ、夜風にカーテンが揺れている。

そのカーテンが動いた拍子に、ベランダに佇む人物の後ろ姿が目に入った。

シンジ(綾波・・・)

無地のパジャマを着たレイが、片手を手すりにかけて立っている。

シンジが近づくと、歌声はピタリと止んだ。

シンジ「歌・・・上手だったんだね。」

レイ「・・・・あ、ありがとう。(ぽっ)」

シンジは並んでベランダに立った。

シンジ「なんだか、不思議だな。ずっと一緒に戦ってきたのに・・・綾波の唄を聞くのが初めてだなんて。」

レイ「・・・忙しかったもの。」

二人が見つめる先に、夜の第3新東京市が遠く浮かび上がっていた。

シンジ「・・・ゴメンね、綾波。」

レイ「どうして謝るの?」

シンジ「いつのまにか、綾波と母さんを重ね合わせていたんだ・・・・でも、違うんだよね。

    綾波は・・・・綾波の心は・・・母さんじゃない。なのに、僕は・・・・ずっと、綾波を傷つけていたんだ。

    今日だって、綾波にあそこまでされないと・・・判らなかった。

    だから・・・ゴメン!」

キツく目を閉じたシンジが頭を下げた。

レイ「・・・・碇君?」

シンジ「ゴメンッ! 綾波!!」

レイは黙って、ただ首を左右に振った。

レイ「あなたは悪くないわ。それに・・・」

顔を上げたシンジを見て、レイは小さく微笑んだ。

レイ「今も、こうして碇君と一緒にいられるもの・・・。」

 

シンジ「綾波・・・」

向き直ったシンジの目の前で、赤い瞳が何かを訴えかけていた。

レイ「碇君・・・」

シンジの目を見つめて、レイは自分の心に素直に従おうと決めた。

 

―――同時刻 リビングの入口―――

アスカ「・・・・・・・・。」

ペンペン「・・・・・・・。」

凸凹の影が、月明かりのベランダを観察していた。

アスカ(そーゆーコトだったの・・・・・・アンタの出番よ、ペンペン!)

ペンペン「ギャ?」

 

トテトテトテ・・・・・・ヨッコラショ

 

シンジ「あ・・・綾波?」

レイ「碇君・・・」

白い指先が、そっとシンジのシャツの袖をつかんでいた。

うっすらと目元を染めた瞳がシンジを見ている。

そんなレイから、シンジは目を逸らすことができなかった。

シンジ(・・・もしかして、綾波は・・・ずっと僕のことを・・・)

レイ(碇君が、私を見ている・・・)

 

アスカ(ううぅ〜〜〜! ・・・なにしてんのよ、ペンペン?!)

 

ソロソロソロ・・・  (←ペンペンです) 

 

シンジ「綾波・・・」

レイ「碇君・・・」

ペンペン「クワァ・・・」

Chu・・     Chu・・

シンジ(綾波の唇って、固いんだ・・・)

レイ(キス・・・冷たいもの)

ペンペン「(タラタラ・・・)」

ベランダの手摺りから首を伸ばした温泉ペンギンのクチバシに、目を閉じた少年少女が両側から

口づけていた。ペンペンの顔面から大量の冷汗が流れ落ちる。

ペンペン『なぜに、ワタクシがこのような役回りを・・・』

 

アスカ(フーーー、よくやったわ!)

 

―――葛城家 リビング AM0:30―――

アスカ「・・それじゃ、説明してもらうわよっ!」

用済みになったペンペンを冷蔵庫の中へ放り込んだアスカは、コウコウと点った灯りの下、

こともあろうに自分の目の前で不義密通を演じようとした二人を厳しく取り調べていたっ!

シンジ「せ、説明って・・・何を・・」

ギロリッ!!!

シンジ「うぅ!・・・」

間違い無く、寿命が3年は縮んだシンジ君。

そんなシンジを横に、レイは平気な顔でチョコンと正座していた。

アスカ「・・・いつからなの?」

話の都合で、これまた急な質問を浴びせるアスカ。

シンジ「いつから・・・て(ホンの1分前じゃ・・)」

レイ「アナタが日本へ来る前から。」

ドカーーーーーンッ!!

―――それだけは言ってはイケナイ! 禁句であるっ。

     もっとも、レイが省略したセリフは『碇君のことが好きだったの』で、それを、アスカが勝手に

     『碇君と付き合っていたの』と、勘違いしただけなのではあるが・・・

ブルブルブルッ。

握り締めたアスカの両の拳が震えている。

バキッッッ!!!!

ペンペンを放り込んだ冷蔵庫の壁面が、5cmヘコんだ。

アスカ「・・・・先に寝るわ。」

下を向いて立ち上がるアスカ。

シンジ「待ってよっ! アスカ!!」

アスカ「いまさら慰めのコトバなんて聞きたくないわ。」

むこうを向いた背中から、低い声が聞こえてくる。

シンジ「お願いだから早トチリしないでよ! 僕がアスカのこと嫌いなワケないだろっ? (・・・ハッ!?)」

キィーーーン・・・

シンジの隣で、大気が絶対零度近くまで冷え込んだ。

レイ「・・・・そうなの。」

正座した膝の上に両手をのせたレイが、下を向いていた。

シンジ「エエッ!!??」

中腰のまま、振り返るシンジ。

アスカ「・・・いつまでも、お幸せにっっ!」

そんなシンジを目の隅で睨んで、リビングを出て行くアスカ。

シンジ「アスカッ!!」

追いかけようとするシンジ。

レイ「・・・キス、してくれたわ。」

相手が温泉ペンギンだったことは、まだ知らない。

シンジ「・・・うぅ!」

エヴァンゲリオン初号機専属パイロット、碇シンジ。

生誕後14年目にして、初めて経験する人生の修羅場であった。

 

―――ちなみに ミサトの部屋―――

ミサト「ふごごごぉ〜〜〜・・・むにぃ〜〜・・・あっ、加持君、あたしのおイモ取らないでよっ・・・ごおーっ。」

運良く、このごろ修羅場とはめっきり縁遠くなった葛城三佐が爆睡してたりする。

 

―――翌日 本部1F 大浴場『女湯』―――

アスカ(シンジのバカ・・・レイの大ウソツキ・・・アスカのバカッ!・・・・こんなトコロ、出てってやるっ!・・・)

湯船に口元まで浸かったアスカは、立ち昇る湯気を睨みつけていた。

白くぼやけている壁に映された絵は、三保の松原。

カララ・・・

アスカ(レイ!)

入口に後ろを向けた赤い髪がピクリと震える。

アスカ(何しに来たのよ・・・!)

自然に力が入った両肩が上がる。

「ア、アスカ・・・?」

うわずった声がアスカに質問していた。

アスカ「エッ? ・・・シ、シンジ!?」

思わず振り返ったアスカの目に、腰にタオルを巻いたシンジの裸が飛び込んできた。

アスカ「・・・・キャーーーッ!! なんでハダカなのよっ!?」

湯船の中、後ずさりするアスカ。

シンジ「エッ!? わ、ワーーーッッ!!!」

パラリ。驚いた拍子にタオルが落ちる。

思わず両手で股間を隠し、タイルの上に“女座り”をしてしまうシンジ。

二人の間で、時間が硬直する。

アスカ「早く出て行きなさいよっ! このヘンタイ!」

シンジ「なんで僕が出て行かなきゃいけないのさ?! ここ、『男湯』だよ!」

すると、アスカの目がスーっと細くなった。

アスカ「アンタ、ここ―ネルフ―に来て、どれだけ経ったと思ってんの? ウソをつくなら、

    もっと上手なウソをつきなさいよ!」

湯の中から、片手を伸ばしてシンジを指差す。

シンジ「アスカこそ、何言ってんのさ! 昨日から『男湯』は『女湯』になったんだよ!」

拾ったタオルで股間を押さえながら、必死で反論するシンジ。

アスカ「・・・・・バカ?」

シンジ「・・・え?」

アスカ「昨日も今日も明日からも、ココは『オ・ン・ナ・湯』!! あの『三保の松原』が、その証拠よっ!」

腕を回して、後ろの壁面を示すアスカ。

そのとき、シンジの脳裏に、初めてネルフに来た頃、ミサトから聞かされたセリフが甦ってきた。

   『ここのお風呂って、意外と古風なんですね・・・・富士山の絵が映されてるなんて、銭湯みたいだな。』

   『あぁ、アレ? 副司令の趣味なのよ。「風呂場はこうでなくっちゃイカン」なんて言ってね・・・チナミに、

    女湯は“三保の松原”よ。・・・・今度、あたしと一緒に入って見てみる?』

   『え、遠慮しておきます。』

シンジ「でも、綾波が・・・」

アスカ「・・・レイ?」

このとき、惣流・アスカ・ラングレーが何を考えたのかは分からない。

ただ、しばらくして口を開いた彼女は、タオルを腰に巻いて出て行こうとしたシンジに向かって、こう言った。

アスカ「・・・待ちなさいよ。」

シンジ「え・・・」

アスカ「すこし、温まってイケば・・・」

むこうを向いた肩と細い首筋、俯き加減の赤い髪。

シンジ「う・・・・うん。」

一人分程の間隔を空けて、シンジはアスカの横に並んで湯船に入った。

二人の前で、湯気がゆらゆらと揺れている。

アスカ「ファーストもアタシも・・・・女の子って、イヤね。」

シンジ「・・・・そんなこと、ないよ。」

湯が動いて、アスカの肩がシンジの肩に寄り添った。

アスカ「二度目だね、シンジ・・・」

シンジ「アスカ・・・」

 

レイ(・・・行くのよ、ペンペン)

ペンペン「クワ〜(またですか・・・)。」

 

ペタペタペタ・・・・・・チャプン

 

アスカ「し、下は見ないでよね・・・」

シンジ「う、うん・・・」

ペンペン「(プクプク・・・)」

Chu・・   Chu・・

アスカ「ん゛!?」

シンジ「え゛!?」

ペンペン「・・・(ダラダラ)」

 

レイ(・・・よくやったわ)

 

―――本部からの帰り道―――

シンジ「アスカ、ちょっと待ってよー!」

アスカ「フンッ。」

頭の後ろで両腕を組んだ少女が、夕暮れ時の舗道の上を歩いて行く。

すこし遅れてついてゆく少年。

さらに、その後をキズだらけの温泉ペンギンを抱いた少女が歩いて行く。

レイ「・・・ペンペン、二階級特進。」

ペンペン「クワワ〜(まだ生きてるんですケド・・・)。」

 

 

『綾波司令』 第23話「お風呂のココロ」 終

 

 

次回予告

少女が守り続けた街は、彼女の願い通り、そこにあった。

ぎごちなく心を通じ合った人々も、変わらず彼女の傍らにいた。

そして、始まりのための終末が近づく。

少女を「無」へと帰すために・・・

次回、『綾波司令』 第24話 「最後の“G”」 

お楽しみにねンッ! ・・・って、あれ? これ前回の予告と同じじゃない?

「外伝が本編に昇格致しました。」―――作者(^^;


マナ:なんだか、ペンペンが可愛そう・・・。(・;)

アスカ:可愛そうなのはアタシよっ。ファーストのヤツぅぅーっ!(ーー)

マナ:2人の問題でしょ? ペンペンは関係ないのに・・・。

アスカ:ペンペンはアタシの家族だもん。協力して当然よっ!

マナ:アスカと綾波さんに、良いように使われてるとしか見えないわ。

アスカ:あの場合、あぁするしか仕方なかったのっ!

マナ:そうかもしれないけど、わたしはペンペンを巻き込まないでって言ってるのっ。

アスカ:じゃー、どうしろってのよっ! わっかんないこと言う子ねぇーっ!

マナ:そうだっ! 次からペンペンの代わりにわたしが出動するっ。

アスカ:(ーー)

マナ:シンジだって、堅いクチバシより、わたしの方がいいはずでしょ?(*^^v

アスカ:わかったわ。ペンペンよりアンタが使えるか、テストしてあげようじゃない。

マナ:テ、テスト?(@@) やるやるっ!

アスカ:テストは碇司令でやるわよっ! 碇司令の唇に向かって突撃っ!!!

マナ:そ、それは、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!o(TOT)o
作者"k100"様へのメール/小説の感想はこちら。
k100@poem.ocn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system