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  夏休みだから・・・プールなお話                ☆属性・・・旬モノ(夏期限定)
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「暑かったわ・・・」

一年中同じ気候のこの街の学校にどうして春・夏・冬の休みがあるのか、私は知らない。

私が生まれた時から変わらない季節。

変わらない習慣。

変わらない人という存在。

それはともかく、

明日から夏休み。

学校へ行かなくてもいいから、毎日クーラー三昧。

とてもうれしい。

 

まず、スカートを脱いで、

次に、上着。そして、靴下。

下着は上から下が順番。

 

クーラーのスイッチを入れておいて、先に入るのはバスルーム。

汗ばんだ肌に少し熱めのシャワーを当てるのはとても気持ちのいいこと。

ゆっくり浴びたら、シャワーを止めて、ほてった身体をバスタオルで拭いながら部屋の中へ。

冷え切った空気が私を迎えてくれる・・・・

 

 

 

「そう・・・・・壊れてるのね」

 

 

 

PiPiPi―――

「はい、碇ですけど・・・・あ、綾波? え? 暑い? プールに連れて行って? じゃあ、明日にでも・・・」

 

 

明日から待望の夏休みです。

思い切って、シンジ君を誘っちゃおうと思ってます。

そのために、新しい水着も買いました。

肩紐のない白のビキニです。

お店でも試着したけど、もう一度着てみます。

終業式から帰ったばかりだから、ちょっと汗ばんでるけど、我慢するのは無理・・・です。

 

まず、スカートのボタンとホックを外して、

上着のボタンを上から順番に一つずつ。

靴下も、当然脱ぎます。

カワイイ飾りがお気に入りのブラジャーとパンティー。

なんだか、鏡の前で裸になるって変な感じです。

これがシンジ君と一緒なら―――なんちゃって! へへ。

 

さて、今、鏡の前に白い水着を着たわたしが立ってます。

この前、芦ノ湖でデートした時、シンジ君はわたしの手を握ってくれました。

とてもうれしかったです。

次も、シンジ君は手を握ってくれるでしょうか?

それとも・・・

 

 

PiPiPi―――

「・・・はい、碇です。あ、霧島さん? え? プール!? う、うん! もちろんOKだよっ!・・・」

(やった! 霧島さんと・・・マナとデートだぁ! あ・・・綾波に行けなくなったからって電話しとかなくちゃ)

「(PiPoPa・・・Pirurururu、Pirurururu)あれ・・・出ないや?」

 

それもそのはず、

「水風呂、気持ち良いもの。電話、聞こえないもの」

この心地良さは誰にも邪魔されたくない。

 

 

「まったく、どーして日本の学校って、こう形式ばっかなのかしらねっ」

でも、ま、明日から夏休みってのは悪くないわ。

とりあえず着替えてから、明日からの計画を立ててみよ。

 

よっと。

 

ふふん。

我ながらナイスなプロポーションだわっ。

ん? ん〜〜〜・・・

もう少しバストはあった方がイイわね?

ウエストは・・・・まぁまぁ、かな?

ピップから下はあんまり自信ないのよね〜〜、ファーストよりはマシだと思うけど。

とりあえず、ミサトみたいにはなりたくないわね。

 

さてと、

ブラを取ったら、パンツも脱いでっと。

やっぱ、乙女の身だしなみとしちゃ下着も替えとかなくちゃね。

いつ、バカシンジがその気になってもいいように・・・・って、違うわよっ!

あーんな優柔不断のスットコドッコイ、誰が相手するもんですかっ!

このあたしの身体は・・・

「加持さんの(バカシンジの)もの・・・・・て、違―――うぅっ!!!」

 

ドタン! バタン!

 

「何大声出してるの、アスカ?・・・・うわっ!!」

 

「Vielen DankU!!!(祝)」

 

・・・・・・・・

 

「・・・というワケで、明日あたしをプールに連れてくのよ。もち、プール代・昼食代・おやつ代はアンタ持ち」

「そ、そんな・・・お詫びにこうして肩揉んでるじゃないか?」

「あたしの裸を見たのよ? 出血大サービスじゃんっ」

「でも、明日は約束が・・・」

「約束ぅ? ダメダメ。このアスカ様が最優先よ! それとも、シンジ。アタシの着替えを覗いたぁ!って、
 ミサトや碇司令に言い触らされてもイイの?」

「それだけは勘弁してよっ! ミサトさんはともかく父さんには言わないでよ!」

「じゃ、その『約束』とやらは却下! あ〜、明日が楽しみだわぁ」

「そんな、アスカ・・・」

 

(仕方ない・・・マナには別の日に替えてもらうように電話しておこう)

「(PiPoPo・・・Pirurururu、Pirurururu)あ、あれ・・・出ないや?」

 

それもそのはず、

「明日はデート、シンジ君とデート、マナちゃん、女を磨いちゃいま〜す!」

ザバザバザバーーッ。ゴシゴシ。ワシャワシャッ。

「(ザバーーッ)あ〜〜ん、シャンプー目に入っちゃったよー」

聞こえてない。

 

てなわけで、運命の女神に完全に見捨てられた碇シンジ君。
同居人の目を盗んで何度電話しようが、レイは水風呂に浸かりっぱなし。
マナは明日に備えて早々にベッドの中でおやすみなさい・・・・。
なすすべもなく、トリプル・ブッキングの日を迎えるのであった。

 

―― 翌日 ――

元気満々のアスカに手を引かれ、やって来ました、市民プール。
ここのお勧めは、右に左にウネウネくねりながら場内を一周する流水プールと、
全長100メートル、青空から水面へ一気に滑り降りる3連ウォータースライダー、
さらに2人乗りゴムボートで真っ暗なトンネルの中を冒険するジャングル急流下り等々。
もちろん、普通のプールだってあります。
今日は、夏休み初日。結構な混雑ぶりなのです。

「やっぱ、夏休みの一発目はプールで決まりねぇ。ホラ、シンジ。さっさと入場券買ってきなさいよっ」
「わかってるよ。だから、うろうろしないでそこで待っててね?」
「だいじょーぶだって」 

妙に足取りの重いしもべ―シンジ―を引きずってきた手で、相変わらずノリの悪い背中をバシバシッ叩き、
最後に手のひらを頬っぺたの下に添えてウインクする本日のご主人様。
口では『大丈夫』といいながら、早くもキョロキョロしているところがまったくもって安心できない。

ほんとかなぁ・・、と心配しながら入場券販売機の列に並ぶフリをしつつ、素早く周囲に目を走らせる。

(いた!)

入場券売り場の向こう側の角。
絶対に見間違いようのない大〜〜〜きなつばの白い帽子が、シンジとは反対の方向を首を伸ばして眺めている。
素早く後ろを振り返るシンジ。
アスカは入場門の隙間からプールの中を眺めている。
入場券購入の列から抜け出して、シンジはマナのもとへ駆け寄った。

「霧島さん?」
「シンジ君!」

ここは事情を説明して謝る一手である。

「―――というわけで、本当にゴメン! この埋め合わせは必ずするから、だから・・」
「・・・わかった。他ならぬシンジ君の頼みだもの。それに、アスカさんに嫌われたくないしね。」
「ホントにゴメンね、霧島さん」
「シンジ君? マナって呼ぶ約束だよ?」
「あ、うん。ありがとう、マナ・・・」

(シンジ君、一つ“貸し”だからね)

前を歩くシンジの背中に、心の中でそっとささやき掛けるマナちゃんは、やっぱりイイ娘である。

 

(あとは綾波だけど・・・まだ来てないのかな?)

一向に繋がらないレイの携帯へとりあえずプールの名前と待ち合わせ時間を入れてはあるものの、
特徴ある水色の髪とTPOを選ばない壱中制服の組み合わせは見えない。

(とりあえず、綾波は後回しにしておこう)

アスカ・マナ・シンジ、3人分の入場券を買い、マナを連れてアスカの所へ戻るシンジ。
今度は、アスカに事情を説明する番である。

「遅ーーーいっ!・・・・・なんで、霧島さんがココにいるのよ?!」
「こんにちわ」
「あの・・・アスカ、昨日約束してたのって、霧島さんだったんだ。それで、霧島さんに聞いたら、アスカと一緒でもイイって」
「そんなこと霧島さんから言ってもらう憶えはないわっ!」
「・・・ごめんなさい、アスカさん。勝手にシンジ君と約束したことはあやまります。でも、迷惑じゃなかったらわたし・・・」
「べ、別に、あやまってもらうようなコトじゃないわよ・・・」
「アスカ・・・ちゃんと説明しなかった僕が悪いんだ。お願いだから機嫌直してよ」
「・・・・・しゃーないわね。それじゃ一緒に行きましょ、霧島さん」
「アスカさん・・!」
「ありがとう! やっぱり、アスカだっ!」

(霧島さんが悪いワケじゃなし・・・・ここで怒ったら、あたしがバカみたいじゃん)

本質的に、アスカは気持ちの優しい女の子だ。 心の奥で、彼女の良さをシンジは再認識する。

 

一方、綾波レイは・・・ 

(ここは・・・どこ?) 

初めて行く市民プールの場所がわからず、すっかり迷子になっていた。 

 

「ジャーンッ。シンジ、見て! 見て! おニューの水着よ!!」
「わたくし霧島マナは――<中略>――着てまいりましたぁ! ・・・どう、似合う?」

頭と腰に手を当ててポーズを取ってみせるアスカは、紐で結ぶタイプのレモンイエローのビキニ。
通常の水着よりも体を覆う面積が少ない分、日本人離れしたスタイルが人目を引く。
にっこり笑いながらちょこんと立ってみせるマナは、肩紐を使わない白のビキニ。
アスカのそれより体を覆う面積は大きいが、スレンダーな体にぴったりとフィットしている。

「ちょ、ちょっと待って。浮き輪、膨らますから」

慌てて2人に背中を向けたシンジがひとりプウプウやり始めたのは、泳げないからだけではなく、
実は目のやり場に困ったからである。

そんな少年の腕を、横からそっと引っぱる少女が1人。 

「わたしの肩につかまればいいよ・・・」
「それじゃ、マナが泳げないよ」
「いい。シンジ君と一緒に泳ぎたいの」
「でも、恥ずかしいよ・・」
「シンジ君・・・?」
「そーーよ、霧島さん。シンジの言うとおりよ! 若いうちから甘やかされちゃ、ロクな男にならないわっ!」
「そんな、甘やかすだなんて・・・」
「シンジ! アンタも嫌なら嫌ってハッキリ言いなさいよっ?!」
「べ、別に、嫌ってわけじゃ・・・ないんだけど」
「シンジ君!」
「ムゥ〜〜」

そんな微笑ましい関係の少年少女3人連れが一緒にプールに入ると、当然の結果として・・・

「なんでこうなるんだよ? アスカ、もう少し離れてよ!」
「あたしは、あんたが溺れないか心配で一緒に泳いでやってんのよっ。霧島さん1人じゃ大変でしょ。ね、霧島さん?」
「え、ええ・・・」
「ホラね、霧島さんも助かるって」
「だからって、女の子2人に両側から支えてもらうなんて恥ずかしいよ」
「なに言ってんの。これって、両手に花じゃん」
「1人で十分だよっ」
「霧島さん? シンジが自由に泳いでイイって言ってるわよ」
「アスカ、意地悪はやめてよっ。ゴメンね、マナ」
「いいの。気にしてない」
「さっすが、愛し合う2人は違うわねぇー。でもね、このあたしの裸2回も見たのはシンジだけ、な・の・よ・ね・ぇー?」
「ア、アスカ?」
「わたしは、シンジ君の裸を見ました」
「マ、マナ!?」

「・・・・・・(やるじゃない、霧島さん?)」
「・・・・・・(アスカさんこそ)」

このように、いっそう微笑ましい関係へと発展するものである。したがって、碇シンジが、

「・・・・ね、ねえ、ちょっと休憩しても、いいかな?」

と、遠慮勝ちに提案したとしても、それは驚くには当たらない。

・・・・・・・・

永遠とも思える時間を普通のプールで過ごした碇少年。気がつけば、お昼の休憩時間である。

いっこうに姿を現さないもう1人の少女のことが、そんな彼の頭をチラチラよぎらないではなかったが、
『綾波だから大丈夫だろう』
という根拠の足りない分析の結果、シンジの携帯は、コインロッカーの中、孤独に『魂のルフラン』を奏でている。

「あの、お弁当2人分しかないけど、よかったらアスカさんも・・・」
「悪いわねー、霧島さん。お気遣いいただいて。でも今日はシンジが豪華なお昼を奢ってくれることになってますのぉ」
「う、うん・・・」
「それじゃ、シンジお願いねっ」
「何を・・・買ってくればいいの?」
「ん〜〜、そうねぇ・・・シンジが食べたいのだったら、なんでもいいわ」
「でも、それじゃ・・・」
「あんたに任せるわよ」
「わかった。じゃあ、ここで待ってて」
「それじゃ、わたしも・・・」
「霧島さん、あたしはシンジに頼んでるの」
「でも・・・」
「いいよ、マナはそこで休んでて」
「わかった。待ってるから早く帰って来てね、シンジ」
「うん・・・マナ」
「ムゥ〜〜ッ」

いや、あいかわらず微笑ましいですねぇ。

・・・・・・・・・

「あれ? なんだろう?」

アスカの昼食+αをトレイにのせて戻ろうとしたシンジは入場門付近の人だかりに気がついた。

   「かわいそうに」
   「女の子の行き倒れだってさ」
   「この制服、市内の中学のだよな」

ザワザワザワ。

「ま・・・まさか?!」

不吉な予感に、トレイを下において入場口へ駆け寄るシンジ。その彼の目に・・・

(あ・・・!)

時はお昼時、陽炎揺らめく炎天下。
券売機まであと数歩、という路上に、水色の髪の少女が、片手に水着入りのバッグを握り締め、
カエルの干物よろしく、うつ伏せに倒れ伏していた。

「綾波!」

少年の呼びかけに、死んだと思われていた少女がムクリッと顔を上げる。

「「「オォッ」」」

どよめく野次馬たち。

「い、碇君・・・?」
「綾波ー!」

入場口の手すりを挟んで見つめ合う2人。

「ゴメン・・・場所、知らなかったんだね? 綾波、さあ、こっちへおいでよ」
「うん・・・」

ズルズルズル。倒れ伏したまま、シンジの元へと這い寄るレイ。その腕が、ヨロロ・・ッと少年へ伸びる。

「碇君・・・」
「綾波?」
「すみませーん。先に入場券を買ってくださーい。」
「・・・・・・」
「・・・・もしかして、お金忘れた、とか?」

自分をぐるりと取り囲む野次馬の中、コクリッと、肯いた少女はほんのり頬を赤らめてこう言った。

「ごめんなさい。こういう時、どんな顔をすればいいか、わからないの」
「うつ伏せになってた方が・・・い、いいと思うよ」

・・・・・・・・・

「―――で、ファーストも来た、と」

意地悪〜い流し目で、バツの悪そうなシンジを突っつくアスカ。しかしながら、その口調がどことなく
嬉しそうなのは、マナの行動を阻止する仲間が確実に1名増えたことを直感しているからに違いない。

「クーラー、壊れたから・・・」

ずるずると、シンジに買ってもらったラーメンを啜りながら、判りにくい説明をするレイ。
着替えた水着は水色のビキニ。購入の動機は、不明である。

「霧島さん、お塩はもう少し控えめにした方がシンジの好みって、知らなかった?」
「お肉、いらない」
「ご、ごちそうさま。気にしないでね、マナ?」

結局、マナが作ってきた2人用の弁当はシンジが買い足したアスカ・レイ2人分の昼食と一緒に、
てんでんバラバラになって4人の胃袋の中へと消えた。

「ううん。次は、もっとシンジ君に喜んでもらえるお弁当作ってくるっ! だから、また来ようね?」
「う、うん・・・!」
「ムッ・・・」
「・・・・」

 

てなわけで、お昼の休憩時間終了。ラジオ体操イチッ、ニッ、サンッの後、午後の部開始である。

「いよいよ、アレへ行くわよっ」

気合いの入ったアスカの指先が、ビシッ!と差したのは、中央にそびえる3連ウォータースライダー。

「私は流水プールがいいわ」
「あんなのいつでも行けるでしょ? 空いてるうちに人気あるトコ回んのよ」
「シンジ君も早く行こ?」
「ぼ、僕はいいよ。苦手なんだ。下で見てるから、気にしないで行ってよ」
「じゃあ、必ず待っててね!」
「ホラ、ファースト、霧島さん、行くわよ!」 

 『キャーーーッッ!!』   『ひえぇぇーーーっ!』   『ぅわぁぁああっっ!』
 ザバァーーーンッ!!! ドブゥーーーゥンン!!! ズバァーーーンッッ!! 

本気―マジ―な悲鳴とともに物凄い水しぶきが立て続けに吹き上がる。
なんたって、全長100メートルのウォータースライダーである。屋根なし。カーブなし。早い話が超滑り台。
途中、2カ所ほど傾斜が緩やかになるだけで、あとはひたすら眼下の水面に向かって一直線。
着水寸前の男女の顔は、笑顔どころか完全に引きつっている。
飛び込んだ女の子達が時々慌てた顔で胸やお尻に手をやるのが、すぐそばでアスカ達を待つシンジには見える。

(水着が脱げそうな勢いで突っ込むなんて、普通じゃないよ。断ってよかった・・・) 

自分が下した判断の正しさにほっと一安心しながらも、駆け足で登っていった3人を心配してスライダーを眺める。 

(みんな・・・大丈夫かな?)

そんな少年の心配をよそに、女の子たちはやる気満々である。

「ファースト、霧島さん、勝負よっ!」
「お嬢ちゃん、危ないから立たないでくれるかな・・・」
「へ? ・・・わ、わかってるわよ!」(←※危ないので真似しないでくださいね)
「ハハ・・・」
(他人のフリ・・・それは、時に必要なこと)

首尾良く3人横一列に並んでスライダーのてっぺん。
遙か下を見下ろすと、着水プールの向こう側でシンジがこっちを見上げている。
この瞬間、アスカの言う『勝負』はただの競争ではなくなった。

(アスカ・・・行くわよっ!)
(わたしが一番に行くからね、シンジ君!)
(碇君・・・私を見ているのね)

賞品―シンジ―は一つ。ライバルは2人。早い者勝ちである。
互いを牽制し合うように隣をチラチラ・・・・係員の笛が鳴って、ヨーイ、ドンッ! 

「そりゃぁあーーーっ」
「エイッ」
「・・・・・・(こうするのが一番合理的)」 

両サイドの手スリをたぐり、勢いをつけて滑り出すアスカとマナ。
ペッタリと仰向けになる、レイ。
座った姿勢で水しぶきを上げてレモンイエローと白のビキニが疾走し、
ゆっくり滑り出した水色のビキニが寝転んだまま徐々に加速を開始する。 

「ジャンピング・スポットォーッ!!」(←※これも真似をしてはいけません)
「ま、負けないもんっ!!」(←※同じく) 

二つある減速ゾーンをポンポンお尻を弾ませながら滑り降りてくる2人に対し、ウネウネと身体を
くねらせてやり過ごすレイが、抵抗の少ない姿勢の分、ついに体半分リードを奪う。もっとも・・・ 

(空・・・青い空) 

本人は上しか見ていない。

そして・・・勝負は一気にクライマックスを迎えるのであった。

「ゴォォーールッ! ・・・ゲッ!!?」
「シンジく・・・ヒッ??!」
「私が死んでも代わりはいるもの・・・」 

ここ、第3新東京市総合市民プール―――
そのオープン以来、かつてないスピードで着水プールへ突入した3人の娘があった。
上半身を前へ倒し過ぎたアスカが水面に足を取られて頭から突っこみ、
反対に仰け反ってしまったマナが空中に弾かれた後一回転して水面へ叩きつけられ、
つま先から斜めに入り込んだレイはそのまま姿が見えなくなった。 

腰を抜かしたシンジが、巨大な水煙に覆われたプールを呆然と眺めていると、やがて・・・
留めゴムがはずれた髪をベッタリと顔面にへばりつかせたアスカが、『イッタイじゃないの――っ!』と大声で
喚きながら仁王立ちに立ち上がり、
したたかに体の前面を水に打ちつけたマナが、真っ赤になったお腹や太股や二の腕や鼻の頭には目もくれず、
何故かしきりに胸のあたりを両手でペタペタと確認し、
永遠に潜航してしまったと思われたレイが、2人のちょうど中間に、土左衛門よろしくポッカリと浮かび上がった。 

「この勝負、引き分けねっ」
(ある・・・たしかに『ある』よね?)
「まだ・・・生きてる・・・」
「ホントに・・・大丈夫?」 

 

第2ラウンドは、2人乗りゴムボートでトンネル急流下り。

大方の予想どおり、リードしたのはこの娘である。

「シンジ君、一緒に乗ろ?」
「うん」 

自然にかつ素早くシンジの腕を取る霧島マナ。
あっ、と思ったアスカが声を差し挟む暇もなく、 

「シンジ君が前、わたしが後ろね」 

ムニュ。 (←お約束ですね) 

「あ、あんまりくっつかないでよ。はずかしいよ・・・」
「フフフ。カーワイー」

だらしなくニヤけた顔のシンジを先頭に早くもボートに座っている2人。 

「それじゃ・・・行くよ、マナ」
「ウン。シンジ・・・」 

精一杯キリリッとした表情を浮かべたシンジの腰にしっかりと両腕を回してしがみつくマナ。
そんな2人を乗せたゴムボートは、ジャングルトンネルの中へ姿を消した。 

「ファースト・・・」
「何?」 

「追いかけるわよ」
「どうして?」 

「山あり谷あり急カーブありの薄暗〜いトンネルの中、若い男女が行動を共にしてるのよ?
ましてや、乗ってるのがお人好しのバカシンジとあの押しかけスッポン女となれば・・・」 

・・・・・・・ 

「・・・早く乗って、アスカ」
「あんたも、よーやくコトの重大さが分かってきたようね? 追撃するわよっ」
「・・・了解」 

 

「やっと2人きりになれたね、シンジ」
「そ、そうだね」
「アスカさんと綾波さんに悪いことしちゃったかな・・・・キャッ!」
「そんな、マナの責任じゃないよ・・・・うわっ!?」
シュォォオーーッ! 

 

「見えないわ・・・」
「もっと漕ぐのよ! レイ!」

普通こういうところでは流されるままにするものだが、この2人にそんな常識は通用しなかった。

「次、下り。傾斜25度・・・右、30度変針」
「待ってなさいよーッ」
ザシャァアアーーーッ!! 

 

「びっくりしたー。急に落っこちて曲がるんだもん」
「怖かった? 僕がついてるから・・・だ、大丈夫だよ」
「 ! ・・・シンジ君」
「どうしたの?」
「頼もしい!」
「わっ! あ、危ないよ」 

 

「頼もしい!」「わっ! あ、危ないよ」 

「・・・目標を捕捉したわ」
「スピードアップよっっ!」 

 

「次くらいが・・・最後の急流、だね」
「もう少し、こうしていたかったなぁ」
「さぁ、行くよ・・・マナ」
「うん・・・シンジ」 

 

「そーーはさせるもんですかっ! 突撃よ、レイ!」
「ええ・・・」 

 

「いよいよだ・・・」
「シンジ・・・(キュ〜ッ)」 

「バカシンジーッ!」 

「えっ!?」
「ア、アスカさん?」 

「とぉおおー!」 

ドシンッ!! 

「何するんだアスカ? わ、わーーー!」
「あ、あぶ・・・キャーーー!」
「あわわっ!」
「結局・・・こうなるのね」

ズドドドドーーーッ。 

「あたた・・・。アスカ、無茶しないでよ・・・綾波・・・・も!?」
「うっさいわね! たまたまボートがぶつかったくらいでなに・・・・よ・・!?!」
「アスカ、これはあなたのブラ。私のを返して。碇君? 鼻血がでているわ・・・・それに、霧島さんは、どこ?」
「う〜〜〜ん・・・(プカプカ)」  

 

当然のごとく、係員にコッテリと絞られた4人は大人しく流水プールを漂っていた。 

「やれやれ、とんだ夏休み初日もあったもんね」
「それもこれも、みんなアスカのせいじゃないか」
「なんですって? あんたと霧島さんがイチャイチャしてるからじゃないのっ」
「マナは関係ないよっ」
「へぇ〜、それはそれは」
「イヤな言い方しないでよ」
「あの・・・アスカさん、私、楽しかったですから」
「だってさぁ、シンジ?」
「マナも、あんまりアスカに気を遣うことないよ」
「・・・うん。でも、本当だよ。楽しかったのは」
「ムムッ・・・」

ちなみに、本来の目的に立ち返った水色の髪と水着の少女は、賑やかな友人たちの傍らで、目を閉じ、
ひんやりとした水の流れに身を任せていた・・・・・が、
彼女が、今回一番のボケ役であったことは疑いようもない事実である。 

 

ついでに書けば、このあと彼等が年上の不良グループに絡まれ、シンジが傷つきながらも必死に3人を守って
アスカ達を感動させる――等というありそーな展開は、今回の彼があまりにも恵まれ過ぎなので省略である。 

 

んで、夕方―――

夏休み最初の一日をたっぷりプールで楽しんだ少年少女一行は、それぞれの家路へと着いたのだった。

 

まず・・・ 

「シンジ君、また一緒にお出かけしようね?」 

目尻をチョコンと下げて、霧島マナがその安心しきった笑顔を少年へ向けた。

「うん。もちろんだよ!」

シンジ、0.5秒で即答。

「楽しみだな〜・・・フフフ」

白い帽子とワンピースの少女は、後ろ手に持ったランチバッグを楽しげに振り振り帰っていった。 

 

 

次に・・・ 

「・・・碇君」

「なに、綾波?」

「クーラー・・・・また、壊れると思うわ」

「え??」

「それじゃ・・・バイバイ」

「バ・・・・バイバイ?」

謎の言葉と、この人物にしては意外な挨拶を残して、制服姿の綾波レイがスタスタと舗道の上を去っていった。 

 

 

最後に・・・ 

「ねぇ、シンジ。あんた、本っっ当に・・・霧島さんのコトが好きなの?」

「な、何なのさ・・・急に」

「べっつにぃー。ただ、身近にもぉっとカワイイ女の子がいるんじゃないかってネ。たとえば、アスカちゃんとかぁ」

「え・・・?」

「・・・・・べーーーーだっ! 先に帰ってるわよ!」

「・・・アスカ、ちゃん?」

西の空と同じ色の髪をなびかせ、どこかふっきれた表情で少年をからかった惣流・アスカ・ラングレーが、

ピョンピョンと踊るようなステップを踏んで、向こうに見えるコンフォート17へと駆けていった。 

 

 

そして、ただ1人路上へ残された碇シンジは、右の手のひらを軽く握り、夕日を浴びるミサトのマンションを

見つめて呟くのだった。

「とりあえず・・・・アスカには我慢してもらったお礼言わなくちゃ」

 

―――マナちゃんにはいいんですか?

 

 

おしまい。

 

(作者から)
暑さで息も絶え絶えのk100です。
なんともフニャけたお話で申し訳ありません。
『鋼鉄U』はマナちゃん出ないんだよな〜、と思いつつ書いてたら、『鋼鉄』のパロディみたくなってしましました。(^^;
ご批判、お叱り、教育的指導等々ありましたら、メールでどうぞ。
お待ちしています。


マナ:も、もしかして、わたしが1番有利っ!? k100さん、だーーーい好きっ!

アスカ:ふっ。最後のシンジの心の内が理解できてないようねっ!(ーー)

マナ:何勝手に深読みして、勘違いしてるか知らないけど、あれは1番好きなマナちゃんとの仲を見せ付けちゃってごめんねってことよ。

アスカ:あら。自意識過剰ってヤツかしら?

マナ:(ーー)

アスカ:(ーー)

レイ:クーラー壊れたの。

アスカ:ウソおっしゃいっ!

レイ:だから、今日は碇君と一緒に水風呂入るわ。

アスカ:ぬわんですってーーっ! そんなこと許すもんですかっ!

マナ:わたしだって、負けないんだからーーーっ!

アスカ:あーー、アンタまで何してんのよっ! こうなったら勝負よっ!

レイ:誰が最後まで、碇君と水風呂に入っていられるか・・・ね。

アスカ:さっ! お風呂に入るわよっ!

マナ:わたしだってっ!

レイ:負けないもの。

アスカ&マナ&レイ:シンジ、早くこっちにいらっしゃいよっ!
作者"k100"様へのメール/小説の感想はこちら。
k100@poem.ocn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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