エヴァンゲリオン「映画補完計画-中篇」
タイトル 「二人の心、重なりあうその瞬間を求めて」

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お互いがお互いを拒絶しあい、お互いがお互いを求めている
その事実は自分にしかわからなく、自分以外には絶対に分からない事実である

<ミサトのマンション>

「ミサトさん、僕はアスカに嫌われてしまったんでしょうか?」

「あなたはそう思うの?」

「あなたはアスカに嫌われたと思ってるの?」

「僕は・・・。」

「僕はアスカのことが好きです」

「え?」

「だから嫌われているなんて信じたくないんです」

「シンジ君、あなたの気持ちは分かったわ」

「だけどシンジ君自身はアスカがシンジ君のことを嫌っていると思ってるの?」

「わかりません・・・。」

「わからないって、あなたが分からなくてどうするの・・・。」

『しかし、シンジ君もいきなりアスカが好きだなんて』
『今までそんなそぶり見たことなかったのに、以外だわ』
『でもこのままうまくアスカとシンジ君がくっつけば、シンクロ率も上がるかもしれないわね』
『・・・。』
『やっぱり保護者しっかくだわ・・・。』

「僕はアスカのことが分からないんです・・・。」

「いつも僕が邪魔みたいなこと言っているし・・・。」

「やっぱり僕のこと嫌いなのかな・・・。」

「そんなことな・・・。」

「え?」

ミサトは慌てて言葉を戻す
ミサトは二人で解決してほしかったのである
そう、保護者として・・・。

「それは私には分からないわ」

「そうですか・・・。」

「分かりました」

「今日はありがとうございました」

食事を片付け終わるとシンジは自分の部屋に戻っていった
ミサトは悩んでいた
保護者としての自分
ネルフとしての自分
どちらを優先するかはミサト次第
今回は保護者としての自分を優先したようだった
しかし、今後この選択を迫られるようになるだろう
今までうまくやっていけたミサトだが、今回ばかりは苦しんでいるようだ

「ええ、どういたしまして」

『シンジ君が帰った後に言ってもしょうがないわね』
『まったく、私はやっぱり自分のことしか考えられないのかしら?』

自分に問いかける
彼女もまた解決しなければいけない「問題」というのがあるのだろう

次の日から学校が始まった

前までのクラスメートだったトウジ、ケンスケと再び出会い
そしてアスカも登校していた
シンジは内心、アスカは登校してこないと思っていた
その理由は自分が学校にいるから・・・。
シンジは内心うれしく思った
同時にアスカと共に学校生活を送れるかどうかが不安だった

一方アスカも同じことを考えていた
シンジが自分のことを今どう思っているのか
そして、シンジの心の内を知りたかった

「ようシンジ!!お久しぶりやな」

「うん、そうだね、おひさしぶり」

「相変わらず愛想ないやっちゃなー」

「そうかな?」

シンジは平然を装いながらトウジとやりとりをしている
ケンスケも途中から会話に参加してきた
そして二人で話が盛り上がってきたところでシンジは窓の外を眺めているのであった
今、彼にはアスカのことしか考えられないのであった
今の今までは何も考えたくなかったシンジだがこの心の変化は彼自身にも分かっていた
『ミサトさん、ありがとう』
だが彼にはまだアスカに話しかけるほど勇気が出なかった

「アスカーお久しぶりぃ」

「どう、元気してた?」

突然のヒカリから話しかけられて、すこしおどおどしながら答えた

「うん、もちろん元気よ」

「でもなんか元気ないみたいだけど大丈夫?」

「どうも親切にありがと、だけどちょっと一人にしてくれないかな?」

「え?、あっ、わかったわ」

「ごめんね、突然はなしかけちゃって」

「こっちもゴメンね、ちょっと色々考え事あってさ」

アスカは手早く話を終わらせるとまた一人で考えていた
自分の気持ち
シンジの気持ち
そしてこれからどうすればいいのか・・・。

<昼休み>

シンジは自分の弁当を作ることすら忘れていた
アスカは当然のことながら、作ることすら考えていなかった

シンジは授業がおわると同時に購買に向かった
すぐに行かないと売切れてしまうからである
遅れてアスカも購買に向かった
アスカはどうしても前を歩いているシンジを気にしてしまう
なるべく前を見ないようにするアスカ
たまに人とぶつかってしまうが、そんなことはまったく気にせず購買に向かうのであった

シンジがパンを選び終わり教室に帰ろうとして振り返ったときアスカと目が合ってしまった

「あっ」

思わずシンジが叫んでしまった
シンジ自身もその言葉に驚いていた

アスカもまた驚いていた
何か話しかけよとも思ったが、その勇気は湧き上がってこなかった
いつもみたく『なにぼけーっとしてるのよ!!』
などと言える自信が彼女にはなかった

「あっ、ごめん」

なぜか謝ってしまう
癖なのか何なのか分からない
それともアスカとしゃべりたかったのかは、彼にもわからなかった
とにかく、つい言葉がでてしまった

「え?」

「ごめん、なんでもない」

そしてパンを選び始めるアスカ
それは何事もなかったかのように
しかし彼らは気づき始めただろう
彼らの距離は今の会話で縮まったということを

『アスカは僕の不意に出た言葉に反応してくれた』
『また昔みたいに戻れるかもしれない・・・。』


『いきなり謝られても・・・。』
『何か言いたかったのかしら?』
『それとも、私にまた怒られるのが怖かったのかしら?』
『だけど、私は何もいえなかったわ。やっぱりまだ怖いのね・・・。』


わずかな勇気が二人を結びつけるのは確実
だがその一歩が重すぎる
もう彼らは逃げるという選択肢を忘れかけてきたころだった

<学校の教室>

教室でアスカとシンジのことについてクラスの女子がしゃべっていた

女子A「なんか、惣流さんも碇君も元気ないよねー」

女子B「二人の仲になんかおこったのかなあー?」

女子C「もしかして、碇君にふられちゃったとかー?」

女子A「そういえば惣流さんって、なんか碇君に何かと言えばまとわりついていたしね」

女子C「だから、碇君もさすがにうんざりきて惣流さんを振ったとか?」

女子B「そうかもしれないねー」

女子C「だって二人とも一回も口利いてないよ。前まで喧嘩とかよくしてたのにぃ」

<教室の前の廊下>

アスカがパンを買い終わると
教室からその声が聞こえてきたのだった
アスカにとってその話題は聞きたくもないような内容である
彼女たちの会話を聞くと私はシンジに嫌われるような態度しかとっていなかったということを実感してしまう
『さっきもすれ違うざまに謝られたのは、もう関わってほしくないという意味なの?』
彼女に不安がつのる
思い返してみれば、自分がシンジに対して優しい態度を取ったことは今の今まで一度もない
優しい態度どころか、あれやれ、これやれとか文句ばっかりしか言っていなかったことに気づく
『そんな態度を取り続ければ、私を殺そうとするのも当然か・・・。』
今となって後悔という言葉が重くのしかかる
『私はあなたを好きでいたのかもしれない。だけどあのころは気づかなかった』
『今あなたを失った私にはとてもよく分かる』
『だけど、もし、彼がこの私の気持ちを拒否したら・・・。』
そう考えるとどうしても前に進めない
ミサトの言っていた通り逃げているだけ・・・。

「アスカァ?大丈夫?」

ヒカリだった。自分がボーっと廊下の前でパンを持ちながらじっとしていたので思わず声をかけてしまったのだろう

「あぁ、大丈夫よ・・・。」

「何か悩みがあったらいつでもいってね。私できるだけのことはするから」

「うん、ありがと」

「でも今回は自分で解決しなくちゃ始まらない気がするから・・・。」

「ゴメンね・・・。」

「いいのいいのアスカ。自分でそう思っているんだったら私が手助けする必要などないわ」

「だからがんばってね」

「ヒカリ、アリガト・・・。」

彼女の親切な気持ちについ心が痛んでしまう
ヒカリにも約束をしてしまったし、もう後には返せない
けど、あのクラスの女子たちが話していることが気になってその気になれない
『私はやっぱりシンジに嫌われちゃったのかな?』
『そうだよね・・・。』
『そんなうまくいくはずないわよね・・・。』
クラスの何気ない会話が10倍、20倍になって重くのしかかるのであった
自分の今までしてきたことを思い返すのがとてもつらいものであった
『あのころは何も思っていなかったのに・・・。』

<校庭>

トウジとケンスケが一緒に食べようと誘ってきたが
今の彼にはアスカのことしか頭にないため、一人で考える時間がほしかった
そのため、トウジ達の誘いを断って一人で昼食を校庭の隅で食べているのであった
『今日、久しぶりにアスカを見たけどやっぱり元気なかったな・・・。』
『僕のせいなのかな?僕があんなことをしてしまったため、いつも元気なアスカがあんなに落ち込んでるのかな?』
半分正解であり半分間違えである
彼には確信が持てる回答がみつからない
だから話しかけられない
アスカが自分のことをどう思っているかが少しでもわかれば、対応できるものの
彼にはまったくわからなかった
むしろその答えは彼女自身とミサト以外にだれもいないのである
シンジにとって、これ以上悪いことが起きてほしくなかった


二人の間には簡単に傷がつきやすく、その傷はすぐに深い傷に変わりひびが入ってしまうほどもろいものだった
しかし、この二人の間はすぐに修復することもできる
その事実をつかんでいるのは今現在ミサトただ一人なのであった
この事実を二人に忠告すればすぐに元通りになる可能性は確実にあがる
しかし、彼女は保護者としてそれをやらなかった
彼らで解決してほしいというのが彼女の判断であり保護者としての対応であった

<ミサトのマンション>

「どうだったぁ?学校は?」

「トウジたちにも会えたんですが、アスカが・・・。」

「アスカがどうしたの?」

「ずっと下を向いたっきりほとんどしゃべっていませんでした」

「シンジ君は楽しくトウジ君たちとしゃべれた?」

「え?」

「シンジ君は楽しくできたの?ってきいてるの」

「ま、まぁ」

「本当に楽しくできたの?」

「すごい楽しかったってわけじゃないですけど・・・。」

「けど?」

「やっぱりアスカのことが気になって・・・。」

「シンジ君もやっと変わってきたわね」

「ぇえ?」

「昨日までは誰ともしゃべろうともしてなかったのに、昨日からちょっと元気になってきたみたい」

「自分でも少し感じています。これもミサトさんのおかげです」

「私のおかげじゃないわ。自分で自分を変えたのはシンジ君自身よ」

「そ、そうですか?」

「そうよ」

「僕はただ、昔みたいに戻りたいだけなんです・・・。」

「そう・・・。その日は近くするのも遠くするのも、シンジ君。あなた自身よ」

「あなたが変われば彼女、アスカも変わるはずよ」

「そうですよね・・・。アスカが変わるのを待ったって始まりませんよね」

「シンジ君、応援してるわよ」

「ありがとうございます、ミサトさん」

ミサトはシンジに笑顔を見せると部屋に戻っていった
『シンジ君、だいぶ変わってきたわね』
『私は何も今までできなかったけど、これからは保護者として精一杯尽くさないとね・・・。』
『シンジ君も元気になってきたようだし、ビールでも・・・。』
『今日はやめとこっか・・・。』

<シンジの部屋>

『ミサトさんにも応援してもらったことだし、明日アスカに話しかけてみよっかな?』
『でも、話しかけたことによって嫌われたらどうしよう・・・。』
『大丈夫だよね?』
誰に問うわけでもなく自問自答を繰り返していたシンジであった

<アスカの部屋>

まだクラスで聞いたあの会話に悩んでいるようであった
アスカの心はもろくすぐに傷ついてしまうような物になってしまったのだ
今の彼女には、疑問と不安しか頭になかった
『私はシンジに嫌われていないよね?』
『でも、心の奥では私のことを嫌っていたのかも・・・。』
『シンジに限ってそんなことないわよね?』
『だけどそうとも言い切れないよね・・・。』
『教室で彼女達にも、私の態度はきつく映っていたらしいし・・・。』
『そういえばわたし、昔シンジに対して「なにくよくよしてんのよ!!」とか言ってたよね・・・。』
『今の私がそれだ・・・。』
『昔の私はどこにいったの?』
『誰にでも強気でいて、どんなことが起きても一人で解決してきたじゃない!!』
『つらい勉強にも耐えて、必死にがんばってきたじゃない!!』
『その私はどこに行ったの?』
『もう、あのころの私には戻れないの?』
『戻れるもんなら戻りたい。戻れるものであれば・・・。』

アスカの心は昔に比べてか弱くなりすぎている・・・。

『気持ち悪いって最後にシンジに言った言葉・・・。』
『あんなこと今じゃ死んでもいえない』
『どうして?もうあのころの私に戻れないの?』
『なにがそうさせてるの?』
『逃げているの?』
『自分が傷つくことに逃げているの?』
『そんなこと物ともしなかった私が自分が傷つくこと逃げている?』
『私はシンジに内心、頼っていたのかもしれない・・・。』
『口ではあんなこといってたけど、シンジには何か頼れるものがあった』
『私は頼れるものをなくしたからこんなにちっぽけな存在になり差がったの?』
『きっとそうだわ・・・。』
『実は私は何かにたよっていたからあんなに強気になれたのかもしれない・・・。』
『はじめは超エリートパイロット惣流・アスカ・ラングレーっていう存在に頼っていたのかもしれない・・・。』
『ドイツに居るときは学力トップのエリートとして自分の心を保っていられたのかもしれない』
『だけど、その頼れるものが今となってはもうなくなった』
『その中で唯一たよれたのが碇シンジ。彼だったのかもしれない』
『私はいつのまにか彼に頼っていたのかもしれない』
『だけど、今となってはそれをなくしかけている・・・。』
『だから、私は昔の私に戻れないのかもしれない・・・。』

自問自答を繰り返しているうちに、自分の弱さに気づき始めるアスカ
しかし、それをプラスにするかマイナスにするかは自分しだい
彼女に少しの勇気があれば素直になれるのかもしれない

二人はそれぞれの気持ちの整理をしていた
それは深夜にまで続き、決着のつく結論が導き出せなかった
そのまま二人はベッドで静かに眠りについたのであった・・・。

<翌日の朝>

「おはよー、シンちゃん」

「おはようございます、ミサトさん」

「そういえば、シンちゃんって言われたのひさしぶりですね」

「あらそうだったかしら?」

ミサトは内心確信する
『だんだん自分の心もやわらんでいることを』

「なんか久しぶりな気がします」

「そうかもねん、朝ごはん用意してくれないかな?」

「はい、ちょっと待ってくださいね」

ミサトはこの何気ない会話がとてもうれしく思えた
『この変化はなにかしら』
『昨日、なにか自分で分かったのかしら?』
『とにかく、今のシンジ君は昔のシンジ君を取り戻したようね』
『むしろ前より明るくなったかしら?』

「ミサトさーん、朝ごはんできましたよー」

「あらシンちゃん、ずいぶんおいしそうね」

「はい!今日は朝からなんか調子がいいんで、ちょっと腕によりをかけて作ってみました」

「もしかしてシンちゃん、私においしい料理たべてほしかったの?」

ミサトは半分からかうつもりで言ってみた
コミュニケーションをはじめて取ろうとした最初の言葉だった

「そうかもしれませんねー」

ミサトはこの変化に驚きを隠せなかった
おとといまでは、まったくしゃべろうともしなかった彼が
今となっては冗談をいうまで変化したのであった
この変化を少し不安に感じるが、やはり保護者としてうれしい極まりないことだった

「あらそう、じゃあおいしくいただかせてもらうわー」

「はい、残さず全部食べてくださいね」

「残す分けないでしょー」

「しかも全部って言葉、なんかきにくわないわねー」

そして朝食を取り終わった二人は
それぞれの場所に向かって歩いていった

<アスカの部屋>

彼女はスーパーで買ってきたパン等を食べているのであった

「もう少しまたもな生活しなくちゃだめかなぁ?」

つい小声がででてしまう
だが、部屋でぐったりしていた昔の彼女を考えると彼女もまただいぶ変化したようだった

そして身だしなみを整えると学校に向かうのであった

<ミサトのマンションの廊下>

「じゃあいってきまーす」

「はい、いってらっしゃい」

「私もそろそろ仕度しなくっちゃね」

そういって彼女は扉をしめる
隣の部屋からアスカがでてきたのを確認すると・・・。

シンジとアスカは廊下で計算されたように出会うのである
いつしかこの瞬間は来るとお互い分かっていたが、あまりにも早かったので
気まずい雰囲気が流れてしまう・・・。

そのときだった

「お、おはよう」

二人の間に気まずい空気が流れているところを
シンジが廊下でそう叫んだのであった
その言葉は決してミサトに話しかけるようなものではなかった
それは、相手をうかがいながら話しかけた一言だった
シンジらしいといえばシンジらしい言い方だった

「えっ?あっ、お、おはよう」

「せっかくだから、一緒に学校までいこっか?」

「え、ええ」

二人は学校に向かうのであった

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今回の作品はこの物語での中篇にあたります
つまり次の章で最後になります
しかし、アスカからの視点で見た物語
    シンジからの視点で見た物語
    ミサトからの視点で見た物語
を、作って行きたいと思っています。
楽しみに待っている方は少ないと思いますが、なにとぞよろしくおねがいします


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