「本当の希望は別にある。新たなる痛みとともに」





「そのことを決して忘れないで。リリン――」






この時の流れの中で (後編 B−part)


夜の通学路を全速力で駆け抜けて到着したそこは、ひどい有様になっていた。 鈴原に縋りついて泣き喚くヒカリ。彼女に胸を貸しながら強張った表情でうつむく鈴原。 その傍らにうずくまる相田の眼鏡にはヒビが入り、左頬は真っ赤に腫れていた。 子犬の住居だった段ボールは見る影もなくぐしゃぐしゃにされ、路上に転がっている。 そして、何枚も重ねられたタオルの上に横たわる小さな姿―― わたしはヒカリに声をかけることも忘れて、子犬に駆け寄っていた。 もともと汚れていた毛並みは、血と泥でボロボロになっていた。 ところどころに見られるおかしな形の汚れは靴跡だろうか。 口から舌をだらりと垂らし、力なく横たわるその体は、断続的な痙攣を繰り返している。 それは確かに命の証ではあったけれど、命が消えゆく証でもあった。 「なによ……これ……」 呆然となってわたしは呻いた。 こんなの……ひどい。 だれかが悪意を持って傷つけた、その痕跡をところどころに刻まれて、 子犬は今にも息絶えようとしていた。 その姿が、まるで「シンジ」が死にかけているように見えて。 「惣流……」 「なにがあったのよ――だれがこんな!」 「ごめん……ごめんね、アスカ……。あたし――あたしっ……!」 「泣いてんじゃないわよ! このコはもっとつらい思いしてんのよ!?」 わたしは――激昂していた。 瀕死の子犬を前に、なんら有効な手段を講じることもできず 自分たちの無力さを責めることしかできないヒカリたちに。 それは仕方のないことだと冷静な部分では理解していたが、 しかし理性で感情を従えるには、今のわたしは血が頭に上りすぎていて。 わたしはポケットから携帯を取り出し、短縮ダイヤルをプッシュした。 チルドレン専用の、作戦部長への緊急コール。 がさつでだらしないミサトだからまさかと危惧したが、1コールで繋がる。 「ミサト!? 至急保安部の車1台こっちよこして! 緊急事態よ!  ――うるさい、つべこべ言わないで急ぎなさいよ!  それから医療班の準備もお願い!  到着次第すぐにオペ開始できるように!  ――確認なんてとってるヒマがあったらさっさと連絡してよ!  このコにもしものことがあったら、あたしもう、EVAになんか乗らないからね!?」 電話の向こうでミサトがなにやらわめいていたが無視。 怪我を負ったのが子犬というのはわざと伏せた。 もしも最初に言おうものなら、問答無用で却下されるのは目に見えていたから。 携帯をしまったわたしは、再び子犬を見下ろした。 呼吸がさっきよりもいっそう浅く、弱々しくなりはじめている。 なのに、どうすればいいのかわからない。 わたしの頭の中につまっているのは戦闘やEVAの操縦、 科学技術や理論のことばかりで、重傷を負った子犬の治療法なんて見当もつかなかった。 「……ちくしょうっ……!」 あまりにも無力な自分を呪って毒づく。 これじゃあ、わたしもヒカリたちとおんなじじゃないのよ……! 自分に対する憤懣を外で吐き出す以外に処理する術を知らず、 わたしは振り返って鈴原のことをにらみつけた。 「いったいなにがあったのよ……! なんでこんなことになってんのよ!?」 泣きじゃくるヒカリをなだめながら鈴原が説明した内容はこんなところだった。 鈴原と相田は、1時間ほど前にシンジから電話を受け、この子犬の世話を頼まれた。 理由は――ファーストによって担ぎ込まれたわたしの看護をするため。 なんだかんだで人の好い鈴原たちは二つ返事で引き受けたけど、 子犬の世話なんて繊細な仕事に不安を覚え、悩んだ末にヒカリに救援を依頼した。 これがそもそもの間違いだったと、鈴原は自責の言葉を吐いた。 「こないな時間に女を外に呼び出すなんて、ホンマにアホや、ワイは……!」 子犬のトイレを始末するため、 鈴原が近くのコンビニにビニール袋をもらいに行っている間のことだった。 たまたまここを通りかかった頭の悪いスケベ男どもに、ヒカリが絡まれたのだ。 無論ヒカリは頑迷に抵抗したし、相田もヒカリを守る盾になってくれたらしい。 だが、暴力沙汰とは縁のない相田は一撃で殴り倒され、 チンピラどもはヒカリを怯えさせて大人しくさせる魂胆だったのか、 遊び半分に子犬を蹴り回した。 鈴原が戻ってきたのはそのときのことだ。 怒り狂った鈴原はチンピラどもをぶちのめして撃退したが、そのときにはもう遅すぎたのだ。 「悪いのは俺だよ」 それまで沈黙を保っていた相田が、聞いたこともないような深刻な声でつぶやく。 「俺がもっと強かったら……こんなことにならなかったんだ。  畜生……! なんで俺はこうなんだよ……畜生!」 「な――なに言ってるのよ相田くん!  相田くんはあたしのこと、ちゃんとかばってくれたじゃない!」 「一発でのされて、かばったもなにもないよ!  サバゲーとかやってヒーロー気分に浸ってるくせに、現実じゃあこれなんだ。  自分が情けないよ……!」 「もうやめえ! 悪いのはワイや!  ワイがイインチョに頼もうなんて言わへんかったら、こないなことにはならんかった!  ワイが考え足らずやったんが全部悪いんや!」 「――いい加減にしなさいよ、あんたたち!」 たまらずに、わたしは怒鳴り声をあげて3人の諍いを遮っていた。 「どう考えても悪いのはそのチンピラどもじゃないのよ!  あんたたちが自分のこと責める必要なんてどこにもないわよ!  バッカじゃないの!?」 ……違う。 黙り込む3人に背を向けながら、わたしは確かに自らを苛む声を聞いた。 悪いのは、だれでもない。 本当に悪いのは。 この子犬をこんな目に遭わせた本当の原因は。 だれでもない――このわたしだ……。      *     *     *     *     *     * 「――馬鹿言ってんじゃないわよ!」 ミサトの怒声に、シンジが首をすくめた。 普段へらへらしているだけに、感情的になったときのミサトの形相は確かに怖い。 しかも、そればかりじゃない。 エレベーターホールには赤木博士やマヤや医療スタッフまで勢揃いして、 わたしたちの到着を待ちかねていたのだ。 そして、その中にわたしたちに対する好意的な視線はひとつとしてない。 けれど、わたしはひるまない。 ミサトを正面から見据えたまま、胸に抱えた子犬を守るように少しだけ指先に力を籠めた。 「あたしたちはマジメよ、ミサト。  このコを助けて。このままじゃ死んじゃうわ!」 「いい加減にしなさいアスカ!  ここは動物病院じゃないのよ!?  子犬一匹のためにNERVの医療班を動かせるはずがないじゃない!」 わたしたちは、NERV本部にやって来ていた。 無論、子犬を治療するためだ。 あれから程なくシンジとファーストが合流し、ほとんど同時くらいに保安部の車が到着した。 一緒に行きたいとごねる鈴原たちをなんとか抑えて抑えて車内に入り、 シンジとファーストに状況の説明をしたのだが、 チンピラたちの件りでは怒りに頬を紅潮させていたシンジも、 子犬の治療のためにNERV医療班の緊急配備を要請したと説明すると、 さすがに呆れはてた表情をしていた。 「それは……いくらなんでも無茶だと思うよ、アスカ……」 「じゃあ、他になんかいい手があるってえの!?」 「ないけど……」 「ほら見なさい!  このコを助けたいんだったら、あんたも一緒にミサトに頼むのよ!  ファーストも! いいわね!?」 「厭」 「なんですってえ!?」 「NERV本部に属するあらゆる施設・人員の私的利用は違法行為。  だからダメ」 「あんた、このコが死んでもいいっての!?」 「それは別問題だもの」 「このっ……!」 「ア、アスカ落ち着いてよ!  しょうがないよ、綾波はもともと無関係なんだから。  巻き込んだりしたら、綾波に悪いよ。  僕たちだけでお願いしよ。ね?」 懇願するように見つめてくるシンジに、わたしは振り上げた手を下ろした。 あまり衝撃を与えると子犬に良くないと判断したせいもあったけれど。 「……わかったわよ。  ただし、余計なことは言うんじゃないわよ、ファースト。  言っておくけど――今のあたしは、反逆罪だってクソくらえなんだからね」 わたしの言葉に、ファーストは眉ひとつ動かさなかったけど、 シンジは明らかな驚きの表情を見せた。 多分、わたしがNERVに居られなくなるような真似をしてまで この子の命に拘るのが意外だったんだろう。 ……そりゃそうよね。 10年前のわたしにとって、NERVはただひとつ許された居場所だった。 それを自分から捨てるような発言をわたしがするなんて、 シンジにしてみれば信じられないはずだもの。 ――10年。 肉体は14歳の頃に戻っても、わたしの心に降り積もったこの歳月は決してなくならない。 10年前のわたしだったら、間違いなくこの犬を見捨てていた。 それができなくなってしまったのは、この心に宿る温もりのせい。 ドイツでの孤独を癒してくれた、たったひとりの家族のせい―― 「ムチャクチャ言ってるのは自分でも承知してるわよ!  でも助けてあげたいの! 死なせたくないのよ!  お願いミサト! あたし、なんでもするから!」 「――話にならないわね」 ため息混じりの冷たい声。 赤木博士が、侮蔑の眼差しをわたしに向けていた。 「医療班の緊急要請なんて言うから何事かと思って待機してたら、死にかけた子犬の治療?  アスカ、セカンドチルドレンとしての自覚が足りないのじゃなくって?  あなた、ただでさえシンクロ率が下降気味で、チルドレン適正が疑われはじめているのよ。  この上こんな問題を起こしたりして……EVAに乗れなくなっても良いの?」 「構わないわよ!」 わずかな逡巡も見せず、わたしは赤木博士に切り返した。 まさかこんな反応が返ってくるとは思わなかったのだろう、赤木博士の顔に驚愕の色が浮かぶ。 「クビにでもなんでもすればいいじゃない! だから、このコを助けてよ!」 「アスカ! あんた、自分がなに言ってんのかわかってんの!?」 「わかってるわよ!  どうせ――どうせ、このコが死んだら、あたし立ち直れないもの。  シンクロ率なんて二度と上昇しないわ!  だったらクビになろうがなんだろうがおんなじよ!」 「それは脅迫行為と受け取って構わないのね?」 「好きにすればいいじゃない!」 「……あなたには失望したわ、アスカ」 ため息を落とし、赤木博士が背を向ける。 「このことは碇司令に報告させてもらうから。  ――ミサト、あなたの管理責任も問われるわよ」 「……わかってるわよ」 苦々しげにミサトが吐き捨てる。 わたしに対してその矛先が向けられなかったのは、せめてもの救いだったのだろうか。 そうだ。ミサトや赤木博士は正しい。 だれが見たってどっちがバカなことを言っているのかなんて明白だ。 NERVは国連直属の特務機関。ボランティア団体なんかじゃない。 人類防衛という任務上、作戦行動において非人道的な選択を強いられる場合もある。 有り体に言えば、100人を助けるために10人を犠牲にする、 それがNERVに要求される姿勢であり、規範なのだ。 NERVのために適用される予算は天文学的な数字のものだ。 お金は玩具じゃない。 人類社会の根底を成す概念であり、世界を支配する絶対の法則だ。 個人の所有する財産は人命より軽くとも、金銭という概念は人命より重い。 EVA一機を維持するために、何千人という餓死者を生み出す金が動く。 NERVそれ自体の活動を保証する予算ともなれば、どれだけの犠牲者を強いるのか。 NERVの存続とそのスタッフの活動は、無数の人命を踏み台にして成立しているのだ。 綺麗事じゃない。 医療スタッフが十全な活動を続けられるだけの予算、その陰で人間さえもが踏みにじられる。 私が今している願いとは、それら甚大な犠牲を 子犬一匹のために浪費させようとしていることに他ならない。 EVAと使徒との戦闘の巻き添えを受けた重傷人でさえ、 NERVの医療機関で直接診てもらえることはほとんどないというのに、だ。 そんなことは充分理解している。 伊達や酔狂でドイツ支部の技術部一課長を務めていたわけではないのだ。 ――それでも。 「招集して申し訳ないけれど、医療スタッフは解散。ただちに各自の持ち場に戻って。  セカンドチルドレンとサードチルドレンはわたしの執務室に出頭すること」 ミサトの指示ともに、エレベーターホールに集まっていた職員たちが解散をはじめる。 シンジが隣で、唇を噛みしめうなだれているのが見えた。 その表情に見えるのは、悔しさではなく諦め。 わたしは――思考が灼熱化するのを感じた。 「――待ってください!」 ホールを離れはじめていたスタッフの足が止まる。 何事かと振り返った彼らの前で、わたしは抱えていた子犬をそっと床に下ろし。 自然な動作で、床に頭をつけていた。 「お願いします――このコの治療をしてあげてください。  わたしはどんな処罰を受けても構いません。  だから――お願いします! このコを助けてください!」 ホールに、ある種異様な緊張が走るのがわかった。 「ちょっ――何をしているの、アスカ! やめなさい!」 「お願いします、ミサト、医療班のみんな!  わたしのこと、どんなに叱ってもいい。軽蔑してもいいから!  だから……このコを死なせないで……!」 「そんなことをしても駄目なものは駄目なのよ!  みっともないから頭を上げなさい、アスカ!」 「――お願いします!」 突然真横から聞こえた声に、わたしは頭を上げた。 視界をずらすと、いつの間にかわたしの横にシンジが並んでいる。 わたしの隣で――わたしと同じように、土下座をしている。 「シンジくん……!?」 「お願いします、ミサトさん。  NERVがそんな組織じゃないってことはわかってます。  でも……今回だけでいいですから、僕たちのワガママを聞いてください!  この子犬、僕が世話してたんです。  最初はやせてて弱ってて……でも、ようやく元気になってきたところだったんです!  助けてあげたいんです! 死なせたくないんです!  だから――お願いします!」 真剣な顔でミサトを見上げ、そして額を床につけるシンジ。 わたしは――その姿に、思わず見惚れてしまっていた。 だって、人の言うことにはとりあえず従い、我を通して波風を立てたりしない、 それがシンジの対人スタンスだったはずなのに。 何を言われても自分の意志を貫き通す、そんなシンジを見たことあるのは、後にも先にも、 例の参号機の事件であいつがエヴァを降りると強硬に言い張った、あのときだけだったのに。 人前で恥ずかしげもなく土下座なんかするその姿は決して恰好の良いものではない。 それでも、あのシンジがそんなことをしているという事実がとても愛おしく。 そして、それはわたし自身に関しても同じなんだということに気がついて。 ふたりの変化が、紛れもないわたしたち自身の関係の変化によるものなのだ、と。 疑念を差し挟む余地すらなく理解することのできた真実に、 わたしは目頭が熱くなるのを感じながら、シンジと一緒に頭を下げていた。 「「お願いします!」」 ユニゾンするふたりの声。 わずかな沈黙のあとに、ミサトが口を開いた。 「……アスカ。どうして、そこまでしてその子犬を救いたいの?」 突然の問いかけに、わたしは一瞬言葉に詰まる。 なぜ?――そんなの決まっている。 この子犬が他人とは思えないからだ。 ドイツでの孤独を癒してくれた大切な家族――「シンジ」。 名前もないこの子犬にわたしがあのコの姿をダブらせているのは確かだ。 罪悪感――それもある。 この子犬がこんなことになってしまったのは、すべてわたしの身勝手のせいだから。 シンジが鈴原たちにこの子犬の世話を依頼したのは、わたしの看護をするためだ。 そうなった原因は、わたしが自分の中に救う恐怖心に勝てなかったから。 ファーストによって暴かれたわたしの中の真実と向き合うことができなかったから。 わたしがもっと強ければ。 ファーストとのやりとりの中で意識を失うようなことさえなければ。 いや、さらに遡るのなら、そもそもこの子犬と出会ったときにこそ、 わたしの罪は集約されているはずだった。 「シンジ」を見捨てた事実と向き合うことを恐れて、 子犬を拾って飼いたがっていたシンジを、ほとんど強制的に諦めさせた。 もしもあのとき、わたしがシンジに賛同していれば、 この子犬はわたしたちの新しい家族としてあの部屋で飼われていたはずだ。 そうすれば、この子犬がこんな酷い目に遭うことなんか有り得なかった。 なにもかもが、わたしの弱さに起因している。 この時代に帰ってきた、そのことさえも。 「このコが――」 こんなことになったのは、わたしの責任だから。 そう口にしようと開かれかけたわたしの唇が、わたしの中のなにかによって押し止められた。 それはあるいは、そのとき不意に感じたファーストの視線のせいだったかもしれない。 (それでいいの?) 二度に渡って問いかけられたファーストの言葉。 (あなたは単に、本当の希望を手に入れるために傷つくことが怖いだけ) (本当の希望は別にある。新たなる痛みとともに) 希望――わたしにとっての、本当の希望。 わたしは改めて、ぐったりと横たわる子犬を見下ろした。 弱々しい断続的な呼吸音、今にも途絶えそうな拍動。 その小さな体を覆う、残酷な死の気配。 失われつつある生命の炎を頼りなく揺らし、それでも確かにこのコはまだ生きていた。 未来への可能性をその身に宿して。 子犬に優しく手を伸ばす。 触れるか触れないかぐらいの微かな接触。 それでも確かに伝わる温もり。体温。 ――命であることの、確かな証明。 生きている。 このコはまだ、生きている。 わたしと同じように――生きている。 お互いの体温を伝えあう。 それが、温もりを感じるということ―― ――生きているということ。 「……生きてれば――きっと、なにかあるから」 飼い主に捨てられ不信を学び、再び温もりを得られたかと思えば傷つけられて。 永遠の救いなんてどこにもない、前に進む度に挫折と孤独を強いられる、 つらく悲しいことばかりのこの世界だけど。 それでも。 「生きていることは……きっと、それだけで希望だから」 わたしがあの雪の夜、黒い瞳をした子犬を拾ったのは、 寂しかったからとかシンジに似ていたからとか、そんな単純な理由だけじゃない。 愛おしかったから。 あの寒い夜に巡り逢うことのできた温もりが、わたしの生をも実感させてくれたから。 希望を見つけた、そんな気持ちになれたから。 新たなる痛みに苦しみながら、 その先に癒しがあると信じて生きていくことは、きっと無駄じゃない。 自分と、他人がいる限り。 今までも――これからも。 「このコに生きててほしいから」 あのコに生きてほしいと、そう願ったから。 ミサトの瞳を正面から見据えて。 わたしは迷いもなにもなく、そう言った。 そしてまた、しばらくの沈黙が降りて。 ミサトの表情が――今まで見たこともないくらい、優しいものに変わった。 「……わかったわ」 「ミサト!?」 「作戦部長として、セカンドチルドレンの提言を採択します。  医療班は至急この子犬の治療に当たってちょうだい」 「はい!」 ミサトに指示を出され、医療班の人がふたり出てきて子犬を優しくストレッチャーに載せる。 そのうちのひとりが、わたしに柔らかく微笑みかけた。 「大丈夫。絶対に助けるから。……君の言葉、医師として重く受け止めます」 わたしは驚いて、相手の顔をまじまじと見つめてしまった。 もう一人の方も、なにも言わないけれど優しい視線をわたしに向けている。 わたしの言葉が彼らの心を揺り動かした、ということなのだろうか。 わたしはなぜか、どうしても涙を堪えることができなくなってしまって。 「お願いします……!」 そう言って頭を下げることしかできなかった。 「――越権行為よ、ミサト!」 赤木博士の怒声がホールに響く。 視線を向けると、そこではミサトと赤木博士が厳しい表情で睨み合っていた。 「わたしが責任をとります。  ――構わないわ。行ってちょうだい、あなたたち」 ミサトの許可を受けてストレッチャーが医療棟の方へ運び込まれていく。 それを火のような怒りの籠もった視線で見送りながら、赤木博士は口を開いた。 「……減給では済まないわよ、葛城三佐」 「覚悟の上よ」 凛然と断言するミサト。 そのあまりにも堂々とした風情は、女のわたしでさえ見とれてしまうほどに凛々しく美しく。 ……ということは。 横目でちらりと見ると、 案の定シンジが顔を真っ赤にして見とれていたので、思いっきりつねってやった。 赤木博士はそれ以上はなにも言わず、怒りに満ちた歩調で足早に立ち去っていく。 マヤがミサトにぺこりと頭を下げて、 わたしたちにガッツポーズを向けたあと、その後を追っていった。 「……よかったんですか、ミサトさん?」 おずおずと尋ねるシンジに、ミサトはいつもの笑顔を向けた。 「シンちゃんたちは心配しないでい〜の!  だいたい、あんたたちに土下座までされて断れるはずないっしょ?」 「ミサト……」 「ほら、なんて顔してんのよアスカ!  いつもみたいに、『ミサトにしては役に立ったわね』くらいのこと言いなさいっての!」 10年前のわたしなら、確かにそう言ったのだろう。 あるいは、そんなことを言われれば「なによそれ!?」と怒ったりもしたのだろう。 ――けれど。 「だって……だって……!」 わたしはまるで小さな子供に戻ってしまったみたいに泣きじゃくって。 ミサトは――そんなわたしの頭を、慈しむように撫でてくれた。 「知らない間に大人になってたのね、アスカ」 それは、わたしの知らないミサトの表情で。 10年前は決して向けられることのなかった、ママのような優しい笑顔で。 どうして―― どうしてわたしは、10年前、あんな風にミサトに接していたのだろう。 どうして彼女のこんな笑顔を見たいと思わなかったのだろう。 わたしは――気がつくと、泣きじゃくったままミサトの胸に顔を埋めていた。 「ごめんなさい、ミサト――今までずっと、ごめんなさい……!」 「ちょ、ちょっとアスカ、どうしたのよ?  わたし、アスカに謝られる覚えなんてないわよ?」 そうね、ミサト。 だって、あなたは違うもの。 あなたはわたしが謝らなければならないミサトじゃないもの。 だけど―― いま一瞬、ほんの一時だけでいいから。 わたしのミサトの代わりに、その温もりをちょうだい。 これが――わたしがミサトに言うことのできる、最後のワガママだから。 わたしたちが子犬が無事助かったという報告を聞いたのは、それから1時間後のことだった。      *     *     *     *     *     * ……泣き声が聞こえる。 幼いわたしが泣いている。 新しいアルバムを手に入れて、それなのに心は癒されなくて。 破り捨てられた写真を一生懸命拾い集めながら、泣きじゃくっている。 「綺麗な写真じゃダメだったの?」 幼いわたしは首を振る。 そんなことない。だって、この写真はとても温かいもの。 「汚れた写真の方が良いのかい?」 幼いわたしは首を振る。 そんなことない。だって、この写真を見てもつらいだけだもの。 「それでも、汚れた写真を捨てることはできないの?」 幼いわたしは肯く。 だって、この写真は確かにわたしたちが撮ったものだから。 「汚れた写真の入ったアルバムに戻したいの?」 幼いわたしは……動きを止める。 わからない。 だって――どっちを選べば幸せになれるのか、わからないんだもの。 「どっちを選んでも、きっと幸せになれるわ」 本当に? 「だが、どっちを選んでも、同じくらい辛く悲しい思いをするだろうな」 ……じゃあ、どうすればいいの? 「それはあなたが決めるしかないのよ」 決められない。 だって、どっちを選んでも幸せで、どっちを選んでも苦しいなんて。 わたしはただ……ひとりぼっちで汚れた写真を見てるのがいやだっただけなのに。 「それでも、手放すことができないんだろ?」 綺麗なアルバムにしたいの。 「その方法は知っているでしょう?」 写真を見て、みんなで笑いたいの。 「できるさ。ちょっとした勇気ひとつで簡単に、ね」 幸せになりたいの! 「きっとなれるわ。あなたが本当に自分と向き合うことができれば」 辛い思いは……もう、したくないの……。 「だけど、それも君を形作ってきた心のひとつなんだよ」 ……うん。 本当は、ずっと気づいてた。 認めてしまえば、苦しい思いも受け容れなくちゃならなくなるから知らないふりをしていた。 だけど――苦しい中にもきっと喜びがあることを、わたしはもう、知ってしまったから。 冷たいページと温かいページが交互に続く、小さなアルバム。 綺麗な写真と汚れた写真が混ざり合った、わたしのアルバム。 その全部が――わたしの大事な、世界でたったひとつのアルバム。 それを埋め尽くす写真のひとつひとつが、 わたしの心というジグソーパズルを形作る、決して欠かすことのできないピースだから。 「決心できた?」 わたしはうなずく。 「そうだな。君の信じるままに進めばいい」 わたしはうなずく。 「あなたはずっと頑張ってきたもの。胸を張って自分の道を歩けばいいのよ」 わたしはうなずく。 「後悔したって、きっとまた、新しい写真がそのアルバムを埋めてくれるから」 わたしはうなずく。 「だから――大丈夫よ」 遠くから聞こえてきた懐かしい女の人の声にわたしはうなずいて―― ゆっくりと、森の出口に向かって歩きはじめた。      *     *     *     *     *     * 子犬が退院できたのは、3日後のことだった。 幸い、多少の打撲と擦過傷があっただけで内臓や骨に異常はなく、 弱っていた体をゆっくり休めれば自然快復するという診断が下されたのだ。 ただし、ミサトは緊急事態でもないのに事前報告なしに医療班を総動員した罰則を受け、 半年の間12%減給、冬季ボーナス没収を命じられた。 シンジはそれを聞いて暗い顔をしたものだけど、 「正直、良くて降格、ヘタすりゃクビだと思ってたからね。  むしろこの程度ですんでラッキーよん♪」 と明るく言ってのけるミサトに安心したらしい。 そうして今日、葛城家に新しい家族が迎え入れられることになった。 「かんぱ〜い!」 グラスとグラスがぶつかり合って、盛大な音を立てる。 鈴原と相田とヒカリ主催による子犬の歓迎パーティが開かれ、 普段3人と1羽しか棲息していない葛城家はいつになく賑やかだった。 何しろ2バカとヒカリだけじゃなく、加持さんや赤木博士、 マヤとファーストまで参加しているのだ。 総勢10人と1羽。 決して狭くはないリビングも、今日ばかりは窮屈に感じられた。 ちなみに、今日の主役である子犬はもちろん上座。 いきなりたくさんの人間に囲まれて落ち着かない様子だ。 「それにしても、何事もなくてよかったよな、お前」 「ホンマや。正直、腹ァ切って詫びる決意固めとったからな」 「ふふ、鈴原、あれからずっと青い顔してたもんね」 2バカとヒカリが、さっそく子犬に構っている。 この3人、子犬にもしものことがあったらとずっと気に病んでいたらしい。 わたしにしてみれば、彼らはたまたまその現場に居合わせてしまったというだけで 責任を追及される立場じゃないと思うんだけど……律儀というか、真面目というか。 ヒカリはともかく、鈴原と相田があれほど落ち込むというのは意外だった。 ふたりとも、ただ無神経でなにも考えていないだけの単純バカだと思っていたから。 要するに、わたしはこいつらのことをなにも見ていなかったということなんだろう。 鈴原がチルドレンとして選抜されたとき、わたしは嫌悪感を抱くことしかできなかったけど、 多分鈴原には鈴原の事情とか思うところがあったのだろう。 そして、親友ふたりがEVAのパイロットに選ばれながら、 自分だけが取り残される形になってしまった相田にも同様に。 あるいは、もっと彼らのことを知っていれば、彼らとも仲良くなれたのかもしれない。 「それにしても、葛城にペンペン以外の動物の世話ができるとは思えないがなあ。  ペンペンと違って人間の言葉もわからないし、食事も自分だけじゃできないんだぞ?」 「……ちょっと加持くん、あんた、人をなんだと思ってるわけ?」 「怒るなよ、本当のことだろ? 何しろ大学時代――」 「ぎゃーっ! あのことは言うなあーっ!」 加持さんとミサトは、なんだか仲良くぎゃいのぎゃいのと言い合ってる。 でも……こうして見ると、あのふたりって美男美女で本当にお似合いなのよね。 表面上はケンカばかりでも、若い頃に付き合っていたというその絆が、 10年を経てもまだふたりを結びつけているのがよくわかる。 ふたりの間に立ち入ることなんて、だれにもできやしないんだ。 そんなふたりの幸せを、わたしは今なら、心の底から願うことができた。 今となっては自己欺瞞でしかないと、充分に知りながら。 「犬よりも猫の方が可愛いと思うんだけどね」 「そんなこと言って、センパイ、笑ってますよ?」 「あら、あの子犬が可愛くないなんて言った覚えはないわよ?」 「ほんと、素直じゃないばあさんよねえ」 「ばあさんは余計よ、ミサト……」 みんなから一歩離れたところでお酒を飲んでいる赤木博士。 実は、ミサトが減給処分だけで赦された理由の背景には、この人が絡んでいる。 ミサトと険悪なムードのまま別れたあの直後、なんと彼女は、 わたしたちチルドレンの精神状態の診断とその処方についての報告書をまとめ、 子犬の治療が終わる前に副司令に提出したのだそうだ。 曰く―― 「セカンドチルドレンのシンクロ率の上昇と下降はこの子犬の健康状態と  著しい関係が認められ、非凡なシンクロ率を記録した彼女を対使徒戦時に於いて  有効に運用するためにも、医療班を以て子犬の治療に当たる旨、上申致します」 ……すごい詭弁だ。 「脅迫と受け取るわよ」と彼女自身が怒ってみせたわたしのセリフを、 ほとんどそのまま流用して正式な報告書にするなんて。 もちろん、こんなのが通用するほどNERVは甘い組織じゃない。 ただ、形式だけでも赤木博士がこんなものを提出してしまった都合上、 子犬の治療が行われたのはセカンドチルドレンの私情と参戦部長の独断によるものではなく、 技術部長から根拠ある提案として示唆されたもの、という事実が後付けされたのだ。 そんなわけで、ミサトと赤木博士は仲良く減給処分、ただし降格やクビは免れた。 そして、そもそもの現況であるわたしは、 ふたりの大人が泥をかぶってくれたおかげで無罪放免となったのだった。 正直、その話をミサトから聞いたとき、わたしはすぐに信じることはできなかった。 だって、わたしの中で、 赤木博士はそんな行動からは最もかけ離れたところにいる人物だったから。 業務遂行のために一切の感情を廃する機械みたいな女、それがわたしの中での 赤木博士のイメージであり、ドイツ支部で技術部長を務めることになったときは、 彼女を規範として実績を上げ続けていたのだ。 だけど、それもわたしの勝手なイメージでしかなかったのだろう。 赤木博士は機械なんかじゃなくて人間で、優しさや情けだってちゃんと持っている。 任務の上で表情ひとつ変えずに部下を切り捨てることもできるし、 その一方で友人や部下のために思いやりを見せることもできる。 つまりはそれだけのことなのだ。 冷たい女だと思って敬遠していたあの頃、 もしそのことに気づいていれば、彼女とも仲良くなれたかもしれなかったのに。 「それにしても、自分たちまで呼んでいただけてよろしかったんですか、葛城さん」 「いいのいいの。日向くんや青葉くんにも今回はお世話になったしね」 「いえ、自分はなにもしてないっすよ。音頭とったのは伊吹さんですし」 「ありがとね、マヤちゃん」 「い、いえ! わたしなんかよりも一番頑張ってらしたのは日向さんですよ」 「そうそう、日向の張り切りようはすごかったよなあ。  是非葛城さんにもお見せしたかったですよ。なあ日向?」 「よ、余計なことは言うなよ青葉!」 「ふふ〜ん、もしかしてわたしって魔性の女ってやつかしらぁ?」 「リッちゃん、なんかあそこで戯言ほざいてるのがいるぞ?」 「無様ね」 「うっさいそこぉ!」 ミサトと赤木博士が深刻な処分を免れた陰には、マヤたちの活躍も欠かせなかった。 マヤが日向さんと青葉さんに呼びかけ、 ミサトと赤木博士の減刑嘆願の署名運動を行ったのだ。 その結果、なんと本部職員全体の約80%の署名を集めることに成功。 司令も副司令も、これだけの職員の声を無視することはできなかったのだろう。 「シンジくんとアスカの懸命さが、みんなの心を動かしたのよ」 お礼を言いに行ったとき、マヤはそう言って微笑んだ。 わたしたちが泣きながら土下座したという話はちょっとした美談となって伝えられ、 多くの職員がその話に感動を覚えて署名を承諾したというのだ。 もちろん日向さんと青葉さんもそのひとり。 わたしは、彼らがこんな風に優しいことなんて知らなかった。 EVAのテストのときや使徒との闘いのときにあれこれ指示を出したり、 状況を連絡してきたりするだけの人たちとしか、認識していなかった。 でも、彼らだってれっきとした心を持つ人間だったのだ。 言葉を交わせば、心を開きさえすれば、もっと親しくなることだってできたはずだった。 10年前のわたしは、そんなことにも思い至ることができなかったくらいに愚かだったのだ。 「……野菜、食べる?」 「あ、綾波、犬にタマネギ食べさせたらダメだよ!」 「どうして?」 「どうしてって……タマネギは犬の体には良くないんだよ」 「なんや綾波、しょっちゅう本読んどるくせしてそないなことも知らんかったんかいな?」 「鈴原! そんな言い方ないでしょ!?」 「せ、せやかて……」 「無神経なやつ」 「な、なんやケンスケ! ひとりだけイイコぶりよって!」 「そうなのね……。じゃあ、碇くん」 「へ? あ、い、いや、僕は自分で食べるから……」 「あっら〜、レイったら大胆ね〜♪  ほらシンちゃん、あ〜んしてあげないと!」 「う、裏切りモォン!」 「イヤ〜ンな感じぃ!」 「フケツよぉ、ふたりとも!」 「どこかで聞いたセリフね……」 「……どうしてわたしのこと見るんですか、センパイ」 ファーストは、わたしの前で見せた 異様な空気なんてウソみたいに普通の顔をして生活している。 あれは、単なるわたしの錯覚だったのだろうか。 それとも……もうあの顔を見せる必要はないと、彼女はそう判断したのだろうか。 でも、とりあえず。 「わっ!? アスカ、押さないでよ!」 「さんきゅ、ファースト! あ〜ん」 シンジを押しのけて、ファーストが差し出したフォークの先のタマネギをぱくっと一口。 う〜ん、デリシャス。、 「……どうしてそういうことするの?」 「あたしのシンジに手出ししようなんて10年早いってことよ」 「そう。邪魔するのね」 わたしはファーストが大っ嫌いだった。 でも、こうしてシンジを巡ってやり合うのは決して嫌いじゃない。 このときだけは、ファーストが人形じゃなくて人間になるから。 彼女なりに感情をむき出しにしてわたしをにらみつけてくるから。 もしかしたら、10年前もこんな風に付き合うことができたのかもしれない。 一時期、わたしとファーストの中は決して険悪なものじゃなかった。 一緒に本部施設に行ったりラーメン食べに行ったり。 積極的に会話することなんてなかったけれど、 それでもわたしたちは、お互いがそこに居ることを認め合うことができていた。 その頃の関係を保つことは、不可能ではなかったはずだった。 その機会を潰してしまったのは……他でもない、わたし自身。 「うわ、綾波のやつ殺る気やで!?」 「あんなに感情を露わにしたレイははじめてね……」 「呑気なこと言ってないで止めてくださいよリツコさん!  ちょっと、綾波もアスカも落ち着いてよ〜!」 「……もてるってのも考えものなんだなあ」 「おっ、その年でその境地に至るとは、君はなかなか見所があるな。  そう、女ってのは男にとって、甘露であると同時に劇薬なのさ。  過ぎたればなお及ばざるが如し、一度に付き合う女はひとりにしておいた方がいい」 「いや、さすが加持一尉。含蓄のある言葉ですね」 「なに、君だってなかなか女性に人気ありそうじゃないか、青葉くん」 「いや、自分なんてまだまだですよ。  こないだもちょっと別れ方しくじっちゃいまして……」 「ていうかあんたら、中学生の前でなんて会話してんのよ!?」 「「フケツです、ふたりとも!」」 「思いも寄らないユニゾンね……」 「ところで、あっちは止めなくてもいいんですか?」 「あなたやってみる? 日向くん」 「……遠慮しておきます」 「君子危うきに近寄らず。人の恋路は、この世で一番危険な場所だからな」 一通りファーストとやり合ったあと、わたしは隅っこの方に移動して一息ついた。 そこからみんなを見渡して、部屋を満たす和やかな時間に、わたしは目を細める。 「あ、見て見て! ペンペンがワンちゃん抱っこしてる!」 「クェッ!」 「ははっ、お似合いやないか、この2匹」 「よかったわね〜、ペンペン。かわいい弟ができて」 「むしろ、葛城が寂しいんじゃないのか?」 「余計なこと言わないでいいの!」 「これは売れるぞ〜! カメラカメラ!」 「わたしも!」 「……マヤ、いい年してみっともないわよ」 「心配しないでも、ちゃんと先輩にも焼き増ししますから」 「だ、だれもそんなこと言ってないでしょう!?」 ……楽しかった。 そこはまるで、天国みたいな場所で。 みんなが笑っている。 みんなが身を寄せ合って、楽しそうに言葉を交わしている。 かつて、傷つき荒んで笑顔を失ったわたしたちが。 すれ違いを重ねてあらゆる絆を断ち切ったはずのわたしたちが。 今また神様から赦されて、人生をやり直しているかのように。 胸に押し寄せる温かな想い。 10年前は感じたことのない想い。 ――言葉にできない幸福を。 わたしは今、生まれてはじめて噛み締めていた。 「はい」 冷えたグラスが渡される。 見上げると、労るような表情をしたシンジが立っている。 「なんだか、元気ないね?」 「……そんなことないわよ。すごく楽しいもの」 「うん、僕も。こんな楽しいって感じたの、生まれてはじめてかもしれない」 「ふふっ。あんた、ミサトの昇進パーティのときも、ひとりだけ引いてたもんね?」 「……うん。あのときはまだ、みんなでいることが楽しいとか思ったことなかったから」 「今は思ってる?」 「うん――アスカが僕のこと受け容れてくれて、はじめてわかった気がする。  人に受け容れてもらうことがどれだけ幸せか。  人を受け入れることがどれだけ満たされるか。  人と一緒にいることが、どれだけ安心するか……」 「うん。あたしも。……シンジに逢えて、良かった」 「……アスカ?」 「なに?」 「なにって……」 不安そうな表情を見せるシンジに、わたしは微笑んだ。 多分、わたしの人生の中で一番綺麗な、一番透明な笑顔。 シンジはいっそう不安に駆られたように口を開きかけて。 「ねえ、碇くん!」 ヒカリに突然声をかけられ、その機会を失ってしまった。 「碇くんったら!」 「あ、ご、ごめん。なに?」 「このコの名前、なんて言うの?」 「あ――」 突然、シンジが頬を赤らめた。 なにかもの言いたげな視線をわたしに向けてくる。 ……なんだろ? 「はいはーい! わたし、シンちゃんがいいと思いま〜す!」 「……同居人と同じ名前にしてどうするのよ、ミサト」 「え〜? でもさあ、このコ、シンちゃんに似てない?」 「あ。そういえば――」 「ホンマや。なんかおどおどしたとことかそっくりやな」 「鈴原! 余計なこと言わないの!」 「あ、いや……。そのコ、メスなんです」 「あ、そうなの? じゃあシンちゃんはダメか……」 「というか、シンジくんの様子だと、もう名前決まってるんじゃないの?」 「あ、いえ、決まってるっていうか……。  ぼ、僕が勝手に呼んでる名前があるだけで……」 「な〜んだ。じゃあ、それが立派な名前じゃないの。  で、シンちゃん、このコのことなんて呼んでるの?」 「……ア……」 「? 聞こえないわよん?」 「……アスカ、って……」 一瞬の間を置いて、みんなが驚きの大合唱。 わたしはわたしで、そんなことはまるで予想もしてなかったから、 ぽかーんと間抜け面を晒してシンジを見つめていた。 「シンちゃん……やるわね」 「まさかそう来るとは予想外だったわ」 「い、イヤ〜ンな感じ……」 「自分の女の名前ペットにつけるなんざ……ヘンタイやで、センセ」 「フ、フケツ……!」 「な、なんでそうなるんだよ!?  そうじゃなくて、なんだかそのコ、アスカに似てるなって思ったから……」 シンジの言葉を聞いた途端――じわりとわたしの視界がにじんだ。 胸の奥から熱いものが込み上げてくる。 それが喉を伝わり、顔を伝わり、瞳に至り、涙となってこぼれ落ちる。 堪えきれずに、わたしは大きくしゃくり上げていた。 みんなの視線がわたしに集まる。 「ちょ、ちょっと、どうしたのよアスカ!?」 「ア、アスカ……その、ごめん、迷惑……だった?」 そうじゃない。 そうじゃないわよ、バカシンジ。 だけど、わたしはわたしの想いは言葉なんかにはならなくて。 だって、シンジがわたしのことを見てくれていたんだもの。 わたしの上辺なんかじゃなくて、わたしの本質を見ていてくれたんだもの。 あの雪の日に、わたしがあの子犬を見て感じたことを。 時を隔てて、あの子犬を鏡に映したようなこの子犬に対して、シンジが感じてくれた。 その喜びを、どうして言い表すことができるだろう。 だから、わたしはただ首を振って、 シンジの心配が見当外れであることを伝えることしかできなかった。 そうよ。 わたしもあんたとおんなじだったのよ、シンジ。 相手の心に踏み込むことが怖くて。 自分の心に踏み込まれることが怖くて。 心に壁を作って自分を守ることしかできなくて。 けれど――それでも人の温もりを失いたくなかったから。 どうして―― どうしてわたしたちは、10年前、 そうやってお互いを理解し合うことができなかったのだろう? こんなにもよく似た形の。 こんなにも互いを求めあってやまなかったふたつの魂。 どうしてわたしたちはすれ違ってばかりで、重なり合うことができなかったのだろう。 それは、こんなにも簡単で。 こんなにも――心が安らぐことだったのに。 だけど。 「――はい、アスカ」 ミサトの声。 肩を震わせ泣いていたわたしの胸に、小さな塊が押しつけられた。 驚いて視線を向けると、そこには不思議そうな顔をしてわたしを見上げる子犬の姿。 もう一人のわたしの――「アスカ」の温もりが。 わたしは、ミサトから「アスカ」を受け取って。 おずおずと、その実在を確かめるように抱きしめた。 「アスカ」は一瞬だけむずがったけどすぐに大人しくなって。 わたしの頬を伝う涙を、ぺろりと舐める。 「アスカのことが気に入ったみたいね」 「そうみたい。良かったね、アスカ」 シンジの言葉が、わたしと「アスカ」のどっちに向けられたのかはわからなかったけれど。 わたしは、ぼろぼろと涙を流しながら何度も何度もうなずいた。 「うん……うん、うん――」 ああ――ママ。 ママ、わたしは今、生まれてはじめてあなたに感謝します。 わたしをこの世に産み落としてくれたことを。 わたしに、こんな素晴らしい幸福を手に入れる機会を与えてくれたことを。 生まれてきた良かったと――わたしは今、心の底からそう想います。 だから―― 「もう……充分」 わたしの唇の隙間から、掠れた、くぐもった声が漏れた。 不明瞭なそれは、まるでわたしの心の迷いのようで。 だからわたしは、顔を上げて、はっきりと繰り返した。 「もう、わたしは充分幸福だから――だから、夢はこれでおしまい」 わたしの言葉に、驚きの表情を浮かべる人はだれもいなかった。 温かな笑顔を浮かべ、みんながわたしを見守ってくれている。 本当に、おしまいなんだ。 そのことを実感して、わたしは切なくなったけれど。 「もう、いいの?」 穏やかなシンジの言葉に、わたしは直接答えずに。 「10年後の話なんだけどね。  マヤと青葉さんね――結婚して、とってもラブラブな生活送ってるんだって」 この10年間、ヒカリから毎日のように送られてきた メールの内容を思い返しながら、わたしは訥々と喋りはじめた。 「日向さんはね、サードインパクトのせいで  両親なくした子供たちのために、孤児院開いたんだって。  相田はそのお手伝いで、孤児院の女のコと熱愛中。  ペンペンはね、なんと猫と結婚したんだって。  あんたいったい何類よって感じでしょ?  鈴原は、なんとNERV本部の技術部所属の研究員。  3バカトリオの筆頭みたいな感じだったくせに、生意気よね」 わたしの言葉に口を差し挟む人間はだれもいない。 夢中になってわたしは続けた。 「ヒカリはね、初恋実らせて鈴原とゴールインして、今でもわたしの親友なの。  一度も日本に帰ったことないのに、10年たった今でもわたしなんかにメールくれて……  それも、ほとんど毎日よ?  お人好しもいい加減にしなさいよ、まったく。  でも――わたし、まだ一度もヒカリにお礼言ってないの。  10年間、わたしを支えてくれたのは間違いなくヒカリだったのにね」 ミサトと加持さん、赤木博士、そしてファーストを視界に収める。 もう二度と逢えない3人の姿を焼き付けるように。 「ミサトと加持さんと赤木博士はね、サードインパクトの前に死んじゃったの。  戦自が本部に侵攻してきて――ミサトと赤木博士は戦死したみたい。  加持さんは、まだ死体すら発見されてないから、もしかしたらまだ生きてるのかな?  ファーストは、サードインパクトで死んじゃったんだって。  だれも詳しい話は知らないみたいだから、本当のところはわかってないけどね。  でも……結局わたし、この10年間、お墓参りもしてないの。  薄情な女だよね、わたし……。自分で自分がイヤになっちゃう」 そして――シンジ。 わたしはあえてシンジの姿を見つめずに、唇を動かした。 「シンジとは、この10年間一度も逢ってない。声も聞いてない。  なにをしてるのかって話も全部シャットアウトしてた。  もう二度とシンジとは関わり持つもんかってムキになっちゃって……。  バカみたいよね、わたし。  本当は、ずっとシンジのこと忘れられなかったのに」 思い出すたびに憎くてムカついて……だけど、それでも頭から姿が消えることはなくて。 気がつくと、楽しかった頃のこととか思い出したりもしてて。 どんな男にさえ心動かされないくらいに、わたしの心を囚えて離さなかった男のコ。 10年間、わたしの中にある愛憎のすべてを捧げてきた少年。 あの日に帰りたいと、心の底から願ったから、今わたしはここにいる。 あの日のシンジとやり直したいと、そう願ったから。 そうして得られたこの幸福は、何者にも替え難いものなのに。 「もっと早く素直になってれば――  そうしたら、ひょっとすると今頃、昔みたいに仲良くなれてたかもしれないのにね。  それとも、昔よりずっと険悪になってたかな?  わかんない。  わかんないけど――」 それでもわたしは。 シンジの顔を正面から見据える。 いつも胸に思い描いてきた笑顔。 だけど、それはわたしの想い出の中だけの偶像。 本当の、「今の」シンジの笑顔を、わたしはまだ知らないのだ。 「もう一度――シンジと向き合いたい。  わたしと同じ、10年の時間を積み重ねたシンジと、もう一度逢いたいから。  憎しみあって傷つけあってばかりだったあいつと、本当にやり直したいから――」 「……頑張ってね。アスカ」 シンジが一歩わたしに近づき、わたしは一気にシンジとの距離を詰めた。 重なり合う互いの唇と唇。 大好きだよ、シンジ。 そんな言葉じゃ括れないくらい、わたしの中はあんたの存在でいっぱいで。 14歳のあんたを愛することができたように。 きっと、24歳のあんたを愛することもできるはずだから。 わたしの中に降り積もった時間は、決して消すことのできない成長の印。 充実とはほど遠い時間だったけれど、 それでも今のわたしがここに在るのは、確かにその10年という時間のおかげだから。 確かにここは、わたしにとっての楽園だけど。 わたしの中に流れたその時間を、なかったことになんてできない。 わたしと同じ時間を生きてきた人たちの存在を、なかったことになんてできない。 たとえ、共有する記憶が安らぎをくれるものばかりでないとしても。 憎しみ、罵り、傷つけあうことしかできなかったとしても。 あの日、あのとき、彼らとともに過ごした時間は、決して無駄じゃなかったはずだから。 あの日の想い出を――いつか、一緒に語り合いたいから。 「もう一度、みんなに逢いたいって――そう、想ったから……」 シンジから離れてみんなを見回す。 もう二度と逢うことのできない、この一瞬だけのみんなの顔。 わたしの――永遠の宝物。 ――ありがとう。 心の底からの感謝を籠めて、わたしはみんなに頭を下げた。 「もう――いいのね?」 静かなファーストの言葉に、わたしはうなずきを返し。 そうしてわたしは、穏やかな温もりに包まれたまま、 世界が消えていく感覚を再び味わっていた。      *     *     *     *     *     * 「もう――いいのかい?」 少年の声に、わたしは目を開いた。 すでにそこは、葛城家のリビングなどではなく、 身体の芯を凍らせるような寒さの降りる、夜の街の中。 夢の終わり――そんな言葉が頭をよぎった。 「今のは……夢……?」 わたしの言葉に、少年は曖昧な微笑を返した。 「夢ではあるけれど、君だけの夢じゃないよ。  あれは、この世界が見た夢――この世界を映し出す無数の影の中のひとつ。  こう成り得たかもしれないという可能性を、君たちの願いが紡ぎ出した虚像なんだ」 言葉の意味はよくわからない。 ただ――少なくとも、現実ではなかったと、そういうことなんだろう。 「……わたし、どれくらい向こうにいたの?」 「こちらの時間で言えば10秒足らずだよ。  あちらの世界には僕は干渉していないから、  君が向こうでどれだけの時間を過ごしたかは判らないけれどね」 「……そうなんだ……」 たった10秒。 数えればすぐにも過ぎ去ってしまう、わずかな時間の間に垣間見た夢―― 小径を寒風が吹き抜ける。 遠い記憶の中にある常夏の空気とのギャップに、わたしは身を震わせて。 「……寒いのね……ここは……」 「ドイツだからね」 「そっか……。もう、日本じゃないのね」 「それでも――君は、ここに還ってくることを望んだんだろう?」 わたしは唇の両端を吊り上げて、傲然と胸を張ろうとして。 だけど、唇は震えて歪み、わたしはこらえきれずに涙をこぼした。 「……還りたい……」 それは、紛れもない本音。 あの楽園に。 あの、幸福な時間に。 永遠に身を委ねることができていたなら、それはどれだけ素晴らしいことだっただろうか。 「本当は――還りたいわよ、あの時代に……。  みんなで幸せをつかむことができたかもしれないあの時に、還りたい……!」 慟哭。 それは、わたしの魂からの叫びだった。 この世界は辛すぎるから。 だれもがただ笑って過ごす、そんなことができるには残酷すぎるから。 ――だけど。 眼尻に温かな感触。 わたしはそのとき、ようやく自分が抱いている温もりの存在を思い出した。 シンジ。 このドイツでただひとり、わたしが本当に心を許すことのできる家族。 わたしを労るように、慰めるように。 シンジは、わたしの涙を優しく舐め取ってくれる。 そうね――そうよね、シンジ。 確かにあの世界は楽園そのものだった。 だけど――あの世界では、きっとあんたに逢うことはできなかった。 あんたもみんなと同じ、わたしと同じ時間を生きてくれた大切な存在だもの。 たとえ、やり直すことができてそれで幸せになれたとしても、 あんたがいてくれないんなら、その喜びはいつか壊れる。 この10年間のなにもかもが、わたしにとってのかけがえのない経験だったのなら。 あんたとの出逢いは、その中でも一番光り輝く宝物だもの。 涙を拭い、シンジを抱きなおして、わたしは少年に笑顔を向けた。 「還りたいけど――それでも、ここがわたしの生きるべき時間だもの。  素敵な夢をありがとう。  おかげで、ようやくわたし、前に向かって歩き出せそうな気がする」 楽園の記憶と現実とのギャップは、きっとわたしの心を苛み続けるだろうけど。 それでもわたしは、この現実の中で生きていくしかないのだから。 わたしのお礼の言葉に、少年は苦笑した。 「礼なら僕ではなく彼女に言ってあげてくれ。  君のことをどうしても放っておけないと、そう主張したのは彼女なんだからね」 「――彼女?」 問い返しながらも、わたしにはひとつの予感があった。 いや、それは確信だっただろう。 その少女が再び姿を現すことを、わたしは当然のことと思っていたのだから。 「……ファースト……」 いつの間にか、少年の傍らにはファーストが立っていた。 10年前とまったく変わらない、第壱中学校の制服姿の少女。 ファーストは赤い瞳で、静かにわたしを見上げていた。 記憶とは明らかに異なる視線の高さ。 それが、逆説的に彼女の不変を証明していた。 「……10年ぶりね、ファースト」 「ええ」 「あんた、成長してないのね」 「肉体が滅んでしまったから」 「……幽霊ってワケ?」 「違うわ。今のわたしたちはこの世界の影。  この世界に生きる人が心の水面に映し出した影。  あなたが過ごしたあの世界と同じ存在。  でも、幽霊でもいい。多分、それが一番近いと思うから」 抑揚のない声で無表情に語るファーストに、わたしは反射的に激昂して手を振り上げた。 けれど――わたしの掌は、彼女の頬の感触を伝えることなく素通りしてしまう。 確かに彼女の頬を捉えた、そのはずなのに。 「……触れないんだ……」 「肉体がないもの」 「なによそれ……。そんなのずるいわよ、バカ……!」 吐き捨てるように言いながら。 わたしは目頭が熱くなるのを感じて、ファーストから目を背けた。 「だいたいなによ――なに、勝手に死んでんのよ。  あたしとあんた、ちゃんと決着ついてないじゃないの」 「決着?」 「シンジをどっちが恋人にするか! 勝負しようって言ったじゃないのよ……!」 「……そうね。ごめんなさい」 「謝ってんじゃないわよ。  でも――あの夢の中にいたの、やっぱりあんただったのね」 「そうよ」 「色々お節介焼いてくれちゃってさ……」 「ごめんなさい。  それでも干渉しないでいられなかった」 「……あんたが、そんなこと言うなんてね」 「昔みたいに笑ってほしかったから」 それは、10年前のファーストであれば決して言わないような言葉ではあった。 けれど、なぜかわたしは違和感を覚えることはなかったし、反発も感じなかった。 ファーストがそう言うであろうことは、なんとなく予想していたのだ。 「……笑ってなかったかな?」 だから、わたしはそれだけを尋ねた。 ファーストはごくあっさりと肯定を返す。 「……そっか。  言われてみれば、心の底から笑ったことなんて、いつのことだか忘れちゃってたかもね。  面倒、かけたわね」 「いい。  わたしをラーメンに誘ってくれたときのような笑顔をまた見たかっただけだから。  だから――あの世界はわたしの夢でもあった」 「夢……か……」 「そう。現実から未来を繋げるときにあなたたちが思い描く世界」 10年前のあのときに、魂を縛られたままだったから。 だから、わたしにとっては、あの世界だけが夢だった。 今こうして生きている現実の中に、わたしの心は存在していなかったから。 「……だったら、わたしにとってあの世界は夢なんかじゃないわ。  ただ単に辛い現実を埋め合わせてただけ。  夢なんて――とっくの昔に、見ることやめちゃったもの」 「いいえ。あなたはもう、新しい夢を手に入れているわ」 ファーストの言葉に、わたしは一瞬躊躇った後、子供のように素直にうなずいた。 それは、あの世界でようやく見出すことができたもの。 止まっていた時間が動き出したとき、 わたしの心が10年の時の流れを現実として受け容れることができたとき、 この胸に新たに芽生えた確かな願い。 「夢は現実の先にある。現実は夢の終に訪れる。  そうして現実と夢とを互いに見つめて、これからあなたは生きていけるわ」 「だから……わたしに、あんな夢を見せてくれたの?」 「ええ。これから先に起こる現実に、向き合ってほしいと思ったから」 ……余計なお世話よ、バカファースト。 だけど――この胸にある温かな想いは、確かにそのおかげだから。 「……ありがとね、ファースト」 「いい。わたしも楽しかったから」 「……そうね。本当に楽しかった。まるで……夢みたいに……」 もしかしたら、わたしとあんたは仲のいい友達になれてたのかもしれないわね。 そう言おうとして、けれどわたしは唇を開くことができなかった。 それが、あまりにも悲しく虚しい言葉に思えたから。 わたしの本当の想いは、きっとそんな言葉じゃ伝わらないと思ったから。 だから、わたしは毒づくように、代わりの言葉を口にした。 「……幽霊なんかになれるんだったら、根性で生き返りなさいよ、バカ」 わたしの言葉を冗談だと思ったのか、ファーストは小さく笑った。 それは、わたしがはじめて見た、わたしだけに向けられたファーストの笑顔で―― なぜかわたしは、幼い頃に見たママの笑顔を思い出していた。 「――そろそろ行こう、リリス。時間だよ」 少年が静かに呼びかける。 そう言った彼の姿は、立体映像のように向こう側の景色を透けさせている。 少年が口にした呼び名に聞き覚えはなかったが、 ファーストにとっては自分を示す名前だったらしい。 静かにうなずくと、ファーストは素っ気なくわたしに告げた。 「さよなら」 「……行っちゃうの?」 「必要がなくなったから消えるだけ。  わたしたちは、あなたの心がこの世界に映し出した影だから」 「……天使じゃなくて?」 わたしの言葉に応えずに、ふたりは微笑んで―― 「わたしたちは、ただのヒト」 「本当の天使は、君の腕の中にいるだろう?」 わたしはシンジを見下ろした。 突然、シンジがピンと耳を立てる。 そして、滅多にない勢いで暴れると、わたしの腕の中から抜け出し、 路地の先の方へと走り去ってゆく。 「ちょ――シンジ!?」 いきなりのことに驚いたわたしが立ちすくんでいると、ふたりが悪戯っぽく囁いてきた。 「ほら。天使の導きには従うものだよ」 「きっと、本当に幸せな夢が見られるわ」 言い終わらぬ間に、ふたりの姿はどんどんと揺らめき薄らいでゆき。 まずは少年の姿がかき消えて。 そして、ファーストも――   「――ファースト!」 わたしは思わず、消えゆく彼女を呼び止めていた。 ファーストの赤い瞳がわたしを見つめる。 けれど、わたしはなんと声をかけようとしていたのか自分でもわからず。 「……さよなら。ありがとう、レイ」 その声が、果たして彼女の耳に届いたのかどうか。 冷たい風の舞う夜の空気に、ファーストの姿は完全に溶けてなくなった。 それから、どのくらいの時間、そうしてわたしは棒立ちになっていたのだろうか。 気がつけば身体の芯まで冷え切っていたわたしは身を震わせて、 シンジが駆け去っていった方向に向けて歩き出した。 冬の夜の幻が見せた一時の夢は終わりを告げた。 わたしに残されたものは、温かな楽園の記憶と、それを失ったことによる深い傷痕。 そして――その痛みがもたらす、現実を歩いていくための意志。 そうだ、ヒカリにシンジのことを教えてあげよう。 わたしの大切な家族、かけがえのないパートナーであるシンジのことを。 多分、執拗なくらいわたしに恋人の有無を尋ねてくるのは、 わたしがいつまでもひとりぼっちなことを心配してくれているからだと思うから。 シンジのことを話せば、ヒカリも少しは安心するかもしれないもの。 いや待てよ、ただ教えるんじゃ面白くないかもね。 「恋人ができました」とか、「一緒に暮らしてる人がいます」とか、 そんな感じで驚かせてやるのも悪くないかもしれない。 なにしろこっちは、普段からヒカリのおのろけメールに付き合ってあげてるんだから、 これくらいのイタズラしてもバチは当たらないわよね。 まあ、どうせ真相問い質すために大慌てで返信してくるだろうから、 そのときに「実は犬でしたー」って感じで、写真付きで教えてあげようかしら。 うん、それがいい。 ヒカリのヤツ、きっとビックリするわ。 そうだ、それから日本行きの予定も立てなくちゃ。 本部があるから名目はなんとでもなるけど、とりあえず、いま進行させてるプロジェクト。 この目処がある程度でも立ってくれないことには、わたしがここを離れるわけにはいかない。 そうなると、明日から忙しくなるわね。 まずは業務をスムーズに進行できるだけの、職場での人間関係の再構築。 ……今までずっとサボっていた分、一から頑張らなくっちゃね。 でも、ミサトたちのお墓参りと、ヒカリとの再会と―― そしてなにより、シンジに逢うためだもん。 別に、シンジと感動の再会を果たすなんて夢想をしてるわけじゃない。 あれから10年も経っているのだ。 わたしなんかと違って恋人だってできただろうし、結婚だってしてるかもしれない。 そもそも、10年前とは外見も中身もまるで様変わりしていて、 逢った瞬間にわたしがあいつに幻滅する可能性だってあるのだ。 だけど――それでも、わたしにはあいつしかいないから。 闇の中に、シンジの後ろ姿が見えた。 どうやら、さっきのようにだれかにじゃれついているらしい。 暗がりのせいで詳しく判別はできないけれど、 しゃがみ込んでシンジをあやしてくれているようだ。 楽しそうな笑い声。 どうやら、随分と人の好い男性らしい。 「こら、シンジ! 知らない人についてっちゃダメでしょ!」 びくんとシンジが緊張するのがわかった。 わたしの教育は完璧ね。 だけど――そんな自己満足に浸る間もなく、男性の言葉がわたしを射抜いて。 「あはは。なんだ、お前もシンジって言うんだ?  ドイツの犬なのに僕とおんなじ名前だなんて、珍しいね」 その言葉は、紛れもない日本語で口にされて。 聞き覚えなんて全くないのに、なぜか懐かしさを喚起させる声。 思考が――止まる。 ……なんて? 今……なんて? シンジを抱き上げて、男性が立ち上がった。 わたしよりも頭ひとつ高い影。 そのシルエットが、路地の闇の中からわたしに近づいてくる。 「すみません、人懐っこいから飼い犬だとは思ったんですけど、可愛くて。  この犬の名前、シンジって――」 たどたどしいドイツ語が、途中で不自然に止められた。 夜の中でも互いに容姿が判別できる距離。 わたしは男性を見上げて驚愕に表情を固め。 男性はわたしを見下ろして驚愕に表情を固めていた。 一目で、わたしは理解した。 理解することができてしまった。 黒い髪と黒い瞳。一目で東洋人とわかる独特の顔立ち。 それは、記憶にある姿よりも幾分骨っぽさを増し、あどけなさは消えてしまっていたけれど。 わたしよりも頭ひとつ分くらい背は高くなり、体の厚みも増していたけれど。 わたしと同じ、10年の時を重ねた碇シンジに間違いなかった。 「……アスカ……?」 「……シンジ……」 互いに自分の目を疑うような慎重な口調で。 けれど、確かに間違いなんかなくて。 ……頭の中がめちゃくちゃだ。 ほんのついさっきまで、日本に赴き逢おうと決意していた青年。 その本人が、思いもかけず目の前にいる。 あんまりといえばあんまりな不意打ちに、わたしは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。 大人っぽくなったのねとか、 身長伸びすぎよとか、 なにげにハンサムに育ったじゃないのとか、 なんでこんなところにいるのよとか、 10年間なにやってたのよとか。 その一方で、あの世界でキスしたこととか、シンジに抱いた強烈な恋心とか、 色々な記憶がごちゃごちゃになって頭の中で思い出されて。 わけがわからなくなって。 どうしよう。 どうすればいいんだろう。 言葉が、なにも見つからない。 そうしてわたしたちは、バカみたいに無言のまま互いを見つめ合っていたんだけど。 不意に、シンジが表情を崩した。 顔形は変わっても、受ける印象はあまり変わらない笑顔。 どきん――とわたしの胸が高鳴る。 「……久し振り。元気だった?」 「ま、まあね。特に病気も怪我もしないで、うまくやってるわよ」 思ったよりもスムーズに出てきた言葉に、わたしは自分でもビックリしていた。 頭の中はこんなにわけのわかんない状況になってるっていうのに。 シンジはわたしの言葉に、安心したように「そっか」とうなずいた。 「10年ぶりくらいだよね」 「そうね。それくらい」 「アスカ、大人っぽくなったね。ちょっとビックリした」 「そ、そりゃあ、もう24だもの。  あんただって……充分大人っぽくなったわよ……」 「そ、そうかな?  ケンスケとかには、中学生の頃から全然変わらないって言われるんだけど」 「変わったわよ。……ビックリしたもん」 カッコ良くなってて。 悔しいから、言わないけどさ。 「その――今までなんにも連絡しなくて、ごめん」 「そ、そんなの別に、気にしてないわよ。わたしだって似たようなものだもん」 シンジは苦笑いを浮かべて。 「この犬――アスカの?」 「う、うん……」 「シンジっていうんだ」 「そ、そうよ」 「僕の……名前?」 「た、たまたまよ。なんとなく……間抜けなところがあんたに似てたから……」 「なんだよそれ。ひどいなあ」 そういって、シンジをわたしながら微笑むシンジのその顔は、 驚くくらいに10年前の面影を色濃く残していて。 追い詰められて、壊れていたときのシンジじゃない。 お互いに、優しい気持ちで接していられたあの頃の。 「な、なんでこんなところにあんたがいるのよ……?」 自分の声にわずかな媚がにじんでいることを自覚しながら、わたしは尋ねた。 はしたない。 そんなことを考えたけど、それでもちらりと期待してしまう。 わたしに――逢いに来てくれたんじゃないかって。 だけど、もちろん現実はそんなに甘くなくて。 「うん……。とりあえず、今日は下見ってところかな」 「し――下見?」 少なからず落胆した気持ちをなんとか抑えながら、わたしは訊き返す。 うん、とシンジは生返事をした後、なんだか言葉を探しているように見えた。 「ええと、どこから説明すればいいのかな……。  僕ね――今、NERVの本部に勤めてるんだ。  アスカと同じ、技術開発部。肩書きもなんにもない平職員だけどね」 「え……」 「驚いた?」 「う、うん。あんた、NERVが嫌いなんじゃなかったの?」 「そりゃあ嫌いだよ。トラウマみたいになってる。  本当は、ケンスケみたいに日向さんの孤児院を手伝おうかって思ってたんだ。  だけど――それでいいのかなって、ある日考えちゃって」 微かな苦みを漂わせ、シンジは笑った。 「そうやってNERVと関わりを断った人生を選ぶのは、逃げみたいに感じたんだ。  それじゃあいつまでたっても、EVAや父さんを克服できないまま、  14歳のあの頃に縛られて生き続けていくことしかできないんじゃないかって」 わたしと逆じゃないの。 静かな表情で熱っぽく語るシンジに見入りながら、わたしはそんなことを思っていた。 惰性でNERVに留まり、14歳のあの頃に縛られ続けていたわたし。 だけど、シンジはあの日々の呪縛を自ら破るために、NERVに入ったのね。 大人になったのだ。 姿形や声だけではなく、わたしはシンジを見て、心の底からそう思った。 あの、14歳のシンジはもう、どこにもいないのだ。 14歳のわたしが、もうどこにもいないように。 「今、トウジと一緒に新しいプロジェクト任されてるんだ。  一応扱いとしては僕がリーダーだから、トウジは部下ってことになるんだよ?」 「そ、そうなんだ……」 ヒカリが言ってた鈴原の上司って、シンジのことだったのね。 そりゃあ、ヒカリが信用するはずだわ。 ――それにしても。 ドキドキする。 あの頃のシンジと目の前のシンジが重なり合って見えて。 あの少年が、10年の時を重ねた青年となってわたしの目の前にいる。 わたしが10年の時を重ねて、少女から女になったように。 同じ時を重ねたふたりが、10年の時を越えてここで向かい合っている。 ――今さらながらに、わたしはシンジと再会したのだという実感を認識したのだ。 だけど、シンジはわたしの様子になんて気づきもしないで。 「うん。だから――  そのプロジェクトを成功させることができたら、ドイツに来ようと思ってた。  ドイツ支部の技術開発部一課長に、一介の本部職員じゃ釣り合わないから、  せめてそれくらいの実績が必要だって思って……」 「え……」 「それで、プロジェクトも無事成功してね。  トウジにも色々無理言ったから、洞木さんにはちょっと恨まれちゃったけど。  でもその実績が認められて、来月から僕、こっちに出向になるんだよ。  今日はそのための下見」 「ちょ、ちょっと――」 「……ホントはさ。  さっき言ったNERVに入った理由だってウソなんだ。  ただ、洞木さんからアスカがドイツ支部にいるって聞いて……  それで、少しでもアスカと繋がりを持ちたくて……。  女々しいよね。自分でも情けないってわかってるんだ。  だけど、それでも――」 「…………」 「ずっと――逢いたかった。アスカ」     わたしは大きく目を見開いた。 シンジは、決して寒さのせいばかりでもない赤みを頬に宿し、わたしを見つめている。 まるで、EVAに乗り込んで使徒に立ち向かっているような真剣な表情で。 わたしが――10年前の世界でも心ときめかせた、あの表情で。 顔に血が上るのが自覚できた。 だって。 だって、こんなのずるい。 こんな不意打ちしてくるなんて、わたし、どうすればいいのかわからないじゃない。 シンジはわたしを見つめたまま、言葉を続ける。 「10年前のこと、この10年間のこと、これからのこと――  ずっと、アスカに逢って、そんなことを話したいって思ってた。  ……ううん、そんなのウソだ。  僕は――ただ、アスカに逢いたかったんだ。  アスカの顔を見て、アスカの声を聞いて――アスカの存在を、ずっと感じたかった」 「シン――」 「アスカのこと……好きなんだ。  あのときと違って、アスカに逃げ込んでるんじゃない。  アスと一緒に生きていきたいって……本気で、そう思ってる」 シンジの告白に。 わたしは――完全に壊れてしまっていた。 ウソ……。 そんなの、ウソだ。 だって、こんなの、あんまりにも都合が良すぎるじゃない。 わたしの時間が動きはじめて。 喜びも痛みも愛しさも苦しさも、すべて併せ呑んでシンジと向き合いたいと願って。 その途端に、こんな再会するなんて。 (これから先に起こる現実に、向き合ってほしいと思ったから) そのとき突然閃いたのは、ファーストの言葉だった。 そして、続けて思い返される、ふたりの言葉。 (ほら。天使の導きには従うものだよ) (きっと、本当に幸せな夢が見られるわ) ……ハメられたんだ。 ようやくわたしは思い至った。 なにが天使よ。なにがこの世界の影よ。 さんざんもっともらしいこと言ってたけど、 こんな俗っぽい企み考えつくなんて、あんたたち、イヤになるくらい人間よ! いったいなんだってのよ。 わたしがいったい、なにしたって言うのよ。 なんで――こんな幸せを、神様はわたしにくれるのよ。 シンジはなにも言わない。 ただわたしを見つめて、わたしの返事を待っている。 だけど、わたしはなにも言うことができなくて。 シンジの顔を見ることさえできずにうつむいて。 願っていたはずなのに。 シンジとやり直すんだって、そう決意したはずなのに。 夢の世界でのアグレッシブさなんてすっかりなりを潜めてしまって。 今のわたしは、まるで見知らぬ場所に放り出された子供みたいに。 不安で――心細くて。 だって……もう、シンジを憎むことなんてできないから。 シンジへの負の感情をすべて認めて受け容れて、それでもシンジを求めたわたしは、 シンジに恨み言や怒りをぶつけるなんて安易な方法で気を引くことはできないから。 けれど――それは、どうやってシンジに接すればいいのか、 その方法を見失ったということでもあって。 だって。 幸せなときにどうすればいいのかなんて……だれも、教えてくれなかったんだもの……。 だから。 こんなとき、なんて言えばいいのかわからない。 どんな顔をすればいいのか、わからない―― 途方に暮れて、泣き出しそうになるわたしの耳に。 染み込むようにして届けられたのは、彼女の声。 「――笑えばいいのよ」 弾かれたようにわたしは顔を上げて。 シンジの姿の向こう側、薄闇の中にたたずみ微笑む少女の姿を、確かに見た。 それは、とても簡単なこと。 だけど、わたしが知らなかったこと。 きっと、あんたもそうなのね。 わたしは少女に、心の中で語りかけた。 きっとあんたも、教えてもらったのね―― わたしたちの大好きな、この人に。 わたしは、視界いっぱいにシンジの姿を収めて。 あの日々の少年の姿とは違う、時を重ねたシンジの姿を認めて。 赤ん坊みたいな微笑みとともに、彼の胸の中に身を躍らせた。 ずっと――心から求め続けていた、温もりの中に……。 幸せな記憶ばかりじゃなくても。 思い出すだけで死にたくなるくらいむごい記憶があったとしても。 それでも―― 今ここにある温もりは、本物だから。 わたしの中に輝くこの幸せは、本物だから。 この時の流れの中で、あなたと共に生きていきたいから。 ひとつの夢が終わりを告げて。 新しい現実が幕を開く。 それは、さらなる新しい夢へと続く道。 ――新しい希望へと、至る道。 いくつもの痛みを越えて。 いくつもの喜びとともに。 今、わたしたちふたりの時間が、新しい時を刻みはじめる。 わたしとシンジの堅い抱擁に挟まれて、可愛い天使が、祝福するように鳴き声をあげた。 〈了〉
あとがき 最後まで読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます。 新参エヴァFF書きの香(か)と申します。 処女作ではないですが、一応この作品が投稿デビュー作となるのだと思います。 未熟者ですが、今後ともよろしくお願いいたします。 この話、本来は前・中・後とポンポンポンと終わるはずだったんですが、 私の見通しの悪さのせいで、中編と後編は2分割という事態になってしまいました。 前編とかタイトルにつけるのはこれで最後にしようと思います。 さて、実は私、こんな作品を書いておきながら、 好きなキャラクターとしてアスカさんはそんなに高い位置にいらっしゃいません。 1位が加持さん、2位がケンスケ、3位が同率でリツコさんと冬月先生という怪人です。 でも、一番内面を想像してて楽しいキャラクターはアスカさんだったりします。 おかげで今作は、苦労しましたが非常に楽しく書くことができました。 やっぱりLASですね、LAS。 9話辺りの口ゲンカするシンジくんとアスカさんなシーンをもっと書きたかったです。 なお、本編に入れようと思って書いたけどいまいちそぐわなかったので 削除したシーンを、ちょいと編集しておまけとしてご用意させていただきました。 24歳のシンジくんとアスカさんのいちゃいちゃトークです。 興味がおありの方は、ソースの末尾をご覧ください。 特に甘くもないですけどね(苦笑)。 この話が皆さんの心の補完に少しでも役立てれば幸いです。 最後に、拙作を快く掲載してくださり、私にデビューの場を与えてくださったタームさんと、 逆行なんだかイタモノなんだか甘モノなんだかシリアスなんだかよくわかんない話に 最後まで付き合ってくださった読者のみなさまに御礼申し上げます。 ありがとうございました。


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