「出かけるのか?」

びくぅっ!

いつもの事とはいえ、やはり急に声をかけられたら驚いてしまう。
振り返ると、やはり髭面の父が立っていた。

『いつの間に・・・(汗)』

「アスカちゃんとデートか・・・」
邪推してニヤリと笑うゲンドウ。後頭部にでっかい汗をかくシンジ。
だが、邪推されたからではない。

『アスカ・・・ちゃん・・・『ちゃん』って・・・』
ちゃん付けの呼び方にびびってたりする。

『・・・まだ、慣れないなぁ・・・』
「どうした? 照れることはないぞ」
そう言って小さな白い封筒を手渡す。
「軍資金だ(ニヤリ)」
「あ、ありがとう」
おこずかいはもらっているが、まさかデート資金まで手に入るとは
思ってもいなかった。
「あら、シンジ。出かけるの?」
奥からパタパタとスリッパの音と共に母が出てくる。実質、家庭の
全権を握っているユイである。
「う、うん」
相変わらずの人懐っこい笑顔だが、からかいの色が見え隠れする。
「シンちゃん。晩御飯は外で食べるのよ? 早く帰ってきたりした
ら許しませんからね。もちろん、外泊もOKよ♪」
「か、母さん・・・」

うふふ・・・と優しく微笑むと、母も愛息子になにか手渡した。
金色に縁取られた派手な紙箱だ。
見たことがあるデザインだ。しかし、子供に渡すものではない。

「なに、これ?」
まさかと思いつつも、一応尋ねてみる。
「コンドーム。激薄よ☆」

がんっ!

景気よく滑り、玄関のドアに頭をぶつけてしまう。
「あらあら。気をつけないとあぶないわよ?」
「か、かかかかか母さん!」

真っ赤になって母に意見しようとするが、突き出された母の指に止
められてしまう。

「いい? シンちゃん。あたしたちはね、早くアスカちゃんを義娘
にしたいの。早く孫の顔が見たいの。早く孫を抱っこしたいの」

中学生を相手にとんでもないことを言う。
だが、妻の横で深く頷くゲンドウ。同意見のようだ。
「・・・? で、でも・・・その・・・こ、これ使ったら・・・できないんじゃないの?」
真っ赤になりながら問いかける。
至極当然の意見だ。
「大丈夫よ。全部に穴あけてあるから」

ごんっ!

またも頭をぶつけるシンジ。
確かに、その箱には針か何かで穴を開けた痕であろうデコボコがあった。
そんな手間隙かける間があったら、他の手段もあっただろう。
「も、もういいよ。行ってきます!」
母の異次元的な思いやりの箱を靴箱の上に置いて、玄関から飛び出して行く。
「がんばれよ」
「遅く帰ってこなきゃダメよ〜〜」
その背中に両親の声がかけられる。
「勘弁してよ・・・・・・」
そう溜息をついた。
とは言うものの、照れまくって真っ赤ではあるが嫌がってはいない。
幸せそうなのだ。
ふ、と視線を隣の部屋に向ける。

バンっ!

いきなりそのドアが開いた。
「行ってきますっ!!」
茶色みがかった赤毛の少女が飛び出してきた。
やはり真っ赤な顔をして。
『がんばれよ〜』
『お泊りOKだからね〜〜♪』
その背に、やはりシンジと同じような声がかけられる。

「もう!!」

バタンッ!!

と乱暴に閉められるドア。
はぁはぁ、と息を乱しながらも、両親の冷やかしを愚痴る。
「まったくも〜〜・・・ドコの世界に中学生の娘に誘発剤飲ませようと
する親がいるのよ」

シンジは苦笑しながら声をかけた。

「おはよう。アスカ」
「え? あ? シ、シンジ?! あ、あの・・・おはよう・・・」
くすくすと笑いながらアスカの様子を窺う。

やはり好きなのだろう赤い色髪留めに、クリーム色のワンピース。
やはり赤いローヒール。
淡いピンクのルージュはワンポイントかな?

「じゃあ、行こうか」
「うんっ」
そう言って、アスカの手をとって街へと向かう。
街は今日も暖かだった。



はっぴい Day’S
1・Step とっても非日常


車の音は騒がしかったが、公園までくるとそうでもなかった。
春と夏の境目の、なんとも具合のいい気候が心を和ませる。
近くのファーストフードで昼食を買い、公園のベンチに腰をかける。

「シンジ。シンジのパパたち、優しいの?」
座ってすぐ、アスカが口を開いた。
「うん。アスカのお母さんは?」
「優しい・・・って言うか、親バカよ。アレ」
口は悪いが、幸せそうに言った。
「今日なんて、シンジと出かけるって言ったら『女の子の嗜みよ』っ
て、ヘンな物飲まされそうになったのよ?」
出掛けに言ってたアレか・・・。
苦笑するシンジ。

「だいたい、名前からしてヘンよ! 『子宝』よ? 『子宝』! 信
じらんなーい!」

NERV謹製、排卵誘発剤『子宝』。
ネーミングセンスはともかく、子供に恵まれない夫婦に大人気の一
品である。
ちなみに小売価格8.700円(税抜き)。

ひとしきりの文句を聞き、一息つくタイミングを見計らって、ファー
ストフードの袋からアイスウーロン茶を取り出して渡してあげる。
当然、ストローをさしてからだ。
「ありがと」
演説後だけに冷たいお茶が美味しい。
「で、そっちは何かわかった?」
完全に落ち着くタイミングを読みきって、アスカに問いかける。そ
の辺は慣れたものだ。
「え? うん・・・・・・やっぱり無かったわ・・・」
「そっか・・・」
言葉では残念そうだが、シンジの顔にさほど失意の色は無い。
「仕方ないよ。とにかく、僕の情報と交換しようよ。少しでもわか
ることがあるかもしれないしね」
「そうね」
袋からエビチリバーガーをとり、かぶりつく。
アスカのリクエストだ。エビ甘さとチリソースの甘辛さがとてもい
い。
五月の乾いた空の下、二人はちょっと早いランチを楽しんだ。



中学二年となった二人の春休みは入院という形で終了し、結局五月
頭まで学校に行けなかった。
春休みの初日、二人の乗ったバスに大型トラックが突っ込んできた
のだ。
完璧な飲酒運転で、さらに追突したバスに対して文句まで言う始末。
叙情酌量の余地もなかった。

不幸なことに、その二人の両親はNERVの司令と、その上層部の
人間で、さらに音にも聞こえた親バカである。
運転手とその会社はけちょんけちょんにされてしまった。
今は会社の影も形もない。それも建物と人間ごと・・・・・・。
ああ、恐ろしい恐ろしい・・・・・・。

幸い外傷はなかったのだが、なぜか意識が戻らず、NERVの医療
スタッフの頭を悩ませていた。
ちなみに、医学的なことで悩んでいたのではなく、二組の親ばかの
心配の阿鼻叫喚に悩まされていたのだ。
そして事故から一週間、二人は同時に目覚めた。

「・・・白い・・・また知らない天井だ・・・」
ぼんやりと目を開けると、とんでもない大声が耳に飛び込んできた。
「シンジっっっ!!!」
「シンちゃんっっっ!!!」
びっくりして飛び起きてみると、喜びにむせぶ二人の大人がいた。
「と、父さん?! え? それと・・・・・・」
「シンちゃん?! まさか私を忘れちゃったの?! お母さんよ!! 
思い出して!!」
「か、母さん?! え? な、なんで?!」
シンジは訳がわからない。と、言うか理解できていない。
頭が覚醒しきっていないということもあるが、それにしても様子が
おかしい。

『ちょっと!! どういうことよ!! なにがどうなってるの?!』
聞いたことがある少女の声に、今度こそ、完全に覚醒した。

「アスカ?!」

ふらつく身体に鞭打って、ベットから飛び出す。
「シンジ?!」
「シンちゃん!!」
二人の止める間もなく、廊下に飛び出す。
「アスカぁっ!!」
恥も外聞も無く叫ぶ。
「・・・・・・っ!! シンジ?!」
隣の部屋から、同じようにアスカが飛び出して来た。
「え? アスカ?」
「うそ・・・シ、シンジ・・・なの?」
二人は訳がわからないように見つめあう。
「「アスカ!!」」
二人の男女がアスカのいた部屋から飛び出して来た。
「え? だ、誰?」
「ア、アタシのママと・・・パパだって・・・」
「・・・え?」
少女の眼の焦点がズレ始めている。
シンジはこれまでの付き合いからヒステリーを起こす直前だと気付
いた。
「アスカっ!」
その少女の身体を強く抱きしめる。少しでも彼女の心の負担を削る
ために。

「どういうことよぉおおおおおお
 おおっ!!!!!!!!!!!」


それでも、少女の絶叫は病院中に響き渡ることは防ぎきれなかった・・・。


頭部強打による記憶の混乱。
これが二人の診断の結果である。
精神的に落ち着くまで一ヶ月の時間を要した。
シンジはともかく、アスカの心が落ち着かなかったのだ。
だが、シンジの献身的な看護により、少女の心は瞬く間に安定して
行く。
それは、四月の末には退院するまでに至った。
流石に精神科の医師も驚きを隠せなかった程に・・・・・・。
『やはり、二人は結婚させるしかないな』
親友付き合いのある碇・惣流家の親たちはその思いを深めていった。


だが、本当の意味で二人を理解している者はいなかった・・・・・・。



「・・・・・・って、これだけだよ」
ひとしきり自分の得た情報を出していたシンジが、やっと話し終え
る。

「やっぱりね・・・昨日、ネットカフェ行ったでしょ? あの時にあ
 そこのIDぶん盗って、夕べクラッキングしてみたんだけど・・・」
「ち、ちょっと! いつの間にやったの?!」
少女はその言葉に、ふふんと自慢げに鼻を鳴らす。
「ソフトの方は家で作ったのよ。ちょっとデータ大きくなったけど
ね♪ あ、クラッキングの方はカメラ馬鹿の家と電気街を経由し
たから、たぶん大丈夫よ」

『カメラ馬鹿・・・・・・ケンスケかぁ・・・ゴメン・・・』

三馬鹿の一人であった友の顔を思い出して、心の中で手を合わせて
謝る。
「でね。聞いてる?」
「う、うん」
友の顔をスッパリ消して(酷い)、アスカに顔を向ける。

「・・・・・・やっぱり、ここにはセカンドインパクトが起きてないわ」

「やっぱり・・・」
「あ、わかってた?」
「そりゃあ、僕でもわかるよ。四季があったらさ」
「そうねぇ」
二人して空を見上げる。
ぽかんと晴れ渡った空の青がまぶしい。
「それにしても・・・」
「ん?」
「まっさか、アタシとシンジが幼馴染になってるなんてね〜〜」

くすぐったそうに笑って言う。けっして嫌そうではない。
「それより、僕らの年齢だよ。中学生に戻ってるもん」
「ホントよね〜〜・・・病院で会ったときビックリしちゃったわよ。懐
かしくってさ」
「うん」


あの、サードインパクトの後、
この二人の間にいろんなことがあった。

死んだはずの人たちも赤い海から世界に戻ってきて、神になるはず
だったゼーレの人間は赤い海に溶けた。
全部が全部、元のままというわけではなかったが、それでも、世界
と人間たちを受け入れた綾波レイという一人の少女のおかげだろうか、
世界は少しだけシンジたちに優しくなっていた。

拾い集め、つなぎ合わせただけの脆い硝子の心を持つ二人にとって、
お互いが支えであり、生きる術。
こんな二人にとって、世界の微妙な変化は心を癒すために必要不可
欠だったのだ。

何度も少年を拒絶した少女。
拒絶されても、少女を好きであり続けた少年。
少女の心の半分が拒絶し、半分が狂おしいほど求めた。
お互いが狂おしいほど求めてはいたが、拒絶を恐れ触れることもか
なわなかった。
ぎこちない歯車が上手く噛み合いだしたのは、二人が戻ってきてか
ら二年もたってからだ。

途方も無く重い楔を心に打ち込まれた二人の心を癒していったのは、
時間という神の恩恵と帰ってきたNERVの人間であった。
それは悔恨からだったのかもしれない。免罪符を求めただけかもし
れない。
だが、たしかに赤木リツコも葛城ミサトも二人を出来るだけ幸せに
導こうとした。
せめて、これからは人間らしく、子供らしく生きさせてあげたいと
思ったからだ。


───そして五年。
二人は触れ合うことの喜びと安らぎを理解していた。

だが、
ここで事故が起こる。
二人にとって最後の実験となった、深神経バイパス遠隔接続実験中
(よく解らなかったが、リツコがそう言ってた)に二人の意識が戻ら
なくなった。
リツコを筆頭に、関係者たちが慌てて原因を調べる。
脳波はほとんど動かない。
脳死といっても差支えが無い。
眠るように動かない二人。
昏睡状態に陥ったと皆が思った

だが、二人の心はそれどころではなかった。

いわゆる“魂”という形となって、深淵の中を引きずりまわされて
いたのである。

心が千切れそうになる感覚。
引きちぎられそうになる意識。
せっかく埋まりかけた心の傷が引き裂かれ、大きく口を開ける。
記憶と言う名の血液が噴出し、激痛をまとわり付かせる。

“シンジ!!”
“アスカ!!”

二人は互いの名をを呼んだ。
身体は無い。
魂しか無い。
固体として区別する領域も無くし、ただの意識の渦。
だけど、唯一、二人を区別する“想い”が叫んだ。
何かに手が届き、それが求め狂う相手だとわかると全力で手繰り寄
せる。

もう、
二度と、
絶対に、
絶対に、
絶対に、
絶対に離さないっ!!!
もう、離してたまるかぁ!!!!!!

誰が叫んだかわからない。
それ以前に“声”じゃない。
だけど、虚無の嵐の中、たしかに二人の叫びが響き渡った。
それは意識の爆発のようなもの。
お互いが同時だったのかもしれない。

だけど、“想い”は同じだった。





そして、唐突に世界に光が訪れた・・・・・・・・・。









気がつけば、LCLから戻ってこなかったはずの父がおり、母まで
いた。
アスカの方も、死んだはずの母親がおり、自分らを必要としなかっ
たはずの父親までいた。
二組の両親ともに、親バカで、仕事を真面目にするのだが家庭優先
という性格になっていた。
二人が求めていたような、絵に描いた家族の幸せ。
ほしくてほしくて堪らないのに、涙を噛み殺して耐えてきたもの。
“ふつうの生活”
それがここに存在していた。
“ひょっとしたらLCLの中の夢を見ているのではないのか?”
その疑惑はあった。
あまりの幸せに疑いを持つことは仕方がないのだ。
それだけ裏切られ続けてきたのだから・・・・・・。

学校に行ってみると皆がいた。
トウジも、ケンスケも、ヒカリも・・・・・・。
それと、なぜか担任がミサトだった。
「え?! ミサトさん?!」
「ミサト?! ナニやってんのよアンタ?!」

当然、怒られた。
「こぉ〜らぁ! ソレが心配してた人に言うセリフかしらぁ?!」

二人とも“ミサトの愛のアイアンクロー”を喰らってとても痛かっ
た・・・・・・。

保険医に至ってはリツコだった。
当然ながら、保健室はネコグッズであふれていた・・・・・・。
「担当医からの診断表は見せてもらったわ。とにかく、今までのこ
とより、これからのことを一緒に考えましょう?」
ネコスリッパを履いた美人保険医は、そう言って微笑んだ。


『そうだよ。これからの事だ・・・・・・』
一人ではなく、アスカといるのだ。
そして、今は支えてくれる家族がいる。
だったら、自分たちの居た世界との相違点を調べ、これからどう生
きるか一緒に考えよう。
シンジはアスカにその考えを伝え、日曜日にデートという形で情報
交換に出たのだ。
まぁ、毎日顔をつき合わせている上に、登下校はおろか帰宅しても
一緒にいる(“超”親公認。子作り許可証付・・・)のだが・・・。
今日にしても、気がつけばデートがメインになっていた・・・。


整理してみると、
まず、セカンドインパクトは起こっていない。
長い歴史のスパンから言えば、それに値する隕石などの天体的な衝
撃はあったかもしれないが、とにかく自分たちの知る南極での事件は
起こっていない。
温室効果で、けっこう氷とか溶け出しているのだが、南極大陸は無
事である。

そして、NERVはあるが、仕組みがかなり違う。
温室効果による自然破壊に対する生態系の保護と、絶滅危惧種の動
植物の保護や遺伝子補完。
自然破壊により、著しく食糧事情を悪化させ、エネルギー資源の消
失による壊滅的なインフレ状態に陥ったアメリカに対する国際支援。
そして、アメリカからの食糧輸入によって支えられていた国々への
援助等、数えるだけでもきりが無い。
どちらにせよ、かなり健康的な組織である。
その司令として存在するのが碇ゲンドウ、その人なのだ。
海面の上昇や地震のせいで、箱根に第三新東京都市があったりする
のは代わりが無いが、地下にあったはずのジオフロントは無い。
ゼーレは秘密の組織であるから、存在したとしても尻尾はつかめな
いであろうが、その形跡が無い。

だが、キールはいる。
それも、この第三新東京都の都知事としてだ。
ゲンドウの友人らしく、シンジたちが退院したおり、駆けつけて労
わってくれた。
本当に心配してくれた心情にあふれる態度を思い出すと、やはり違
う世界なんだと実感した。
そして、シンジとアスカが幼馴染で、現在中学二年なのだ。
使徒戦を終え、治療とリハビリと、世界の復興の手伝いで五年。二
人は十九になっていたはずだった。
だが、今は十三。
シンジは来月。アスカにいたっては半年後にやっと十四だ。

「でもね〜〜・・・まっさか、シンジと幼馴染になってて、隣に住
んでるなんてね〜〜」
「イヤだった?」
上目遣いに問いかけるが、不安がってはいない。
「そう言ってほしい?」
ニヤリと意地悪な笑み。
「いやだよ」
「とーぜんよね。アタシみたいな美少女と、ず〜〜っと一緒にいた
 んだもんね〜〜」
「あは・・・」
シンジは、この世界に来て、やたらパワーアップした天使の笑顔で
返した。

『うっ・・・反則・・・』

見慣れたものとは言え、愛らしさまで含む中学生の顔から放射され
る笑顔の破壊力はシャレにならない。
たちまち胸の動悸(別名:ときめき)が高まり、顔が赤くなってゆ
く。
元の世界では既に寝室を共にしていたりするのだが、現在の心の器
は“うぶな中学生”。お互いのちょっとした仕種にさえどきどきする。

誤魔化すように見上げると、晴れ渡った空が眼にしみるようだ。
中学生とは思えないような前の世界の経験が、万感の想いと共に少
女の脳裏を駆け抜ける。
「あのね、シンジ・・・」
「ん・・・?」
「ココってさ、暖かいわね・・・」
「うん・・・」

木漏れ日の公園のベンチ。
ゆっくりと近寄ってくる夏の気配。
自分らの戦っていた世界ではなかった、当たり前の学生の生活。
泣きながらあがき続け、血を流しながら這いずり回っていたあの世
界。

───もしかしたら・・・・・・。

シンジは思う。
自分やアスカが求めても手に入れることがかなわなかったモノを、
“誰か”が、あるいは“何か”が与えてくれたのではないか?
同じ世界に生まれ、そして苦しみ、生きてきた自分たちに御褒美と
してくれたのではないか?

“ソレ”は何かはわからない。
だけど、もう一度、そして今度は“ありふれた時間”をやり直せる
ことに感謝したい。
もう一度、そして今度は皆と笑っていける時間をくれたことに・・・・・・。

「シンジ?」
“幼馴染”になった少女が覗き込む。
「え? ああ、ゴメンゴメン」
ハンバーガーの袋や紙コップをまとめて、くずかごに捨てる。
「ちょっと、考え事しちゃって・・・」
「ふぅん?」
少女はぴょんっと元気に立ち上がる。
「さてと・・・今度は映画の比較と行くわよ♪ こっちの流行ってる映
画ってどんなのかな?」
「えっとね・・・」
コンビニでかったタウン誌を開いて、映画の案内を調べる。

よく晴れた日曜のお昼。
二人の遊び時間はまだまだ終わらない。
















くすっ・・・・・・。
「みっけ♪」
物陰から二人を見る目があることに気付けるはずもなかった・・・・・・。


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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