「目標を光学で確認」

 モニターに映し出されたソレは、イカとプラナリアとエイを足して3で
割ったような姿をしていた。

 ピンクがかった臙脂色がなんともキモい。

 「碇司令の居ぬ間の第四使徒の襲来。意外と早かったわね」

 「前回は十五年のブランク。今回はたったの三週間ですからね。かなり
  身勝手ですね」

 割と落ち着いた声でマコトが述べる。

 「こっちの都合はお構いなしか・・・・・・女性には嫌われるタイプね」

 軽口で返すミサト。
 とは言うものの、緊張しきりなのは確かである。

 気持ちと同じように、顔も真面目モードに切り替え、モニターのシンジ
に顔を向ける。

 「シンジ君。準備は良い?」

 『はい!』

 元気なシンジの声に発令所の面々も安堵する。

 無論、ゲンドウがいたのならば彼は別の表情をしたであろう。

 「すぐに出てもらうから」

 『了解です』

 キョウスケの口真似で返し、顔を引き締める。

 ミサトとキョウスケも苦笑しつつモニターを見つめる。


 「あれが使徒か・・・・・・」

 遅れて発令所にやってきたリシュウがモニターに映る第四使徒の姿に驚
く。


 あんな怪物を、シンジ一人に戦わせるのか?
 あんな子供一人に・・・・・・。


 だが、少年の乗る初号機以外に効果的なダメージを与える方法は無いと
いう。

 あらゆる物理的な攻撃を無効化する能力があるという。

 結果、まだ14歳の少年に最前線で戦わせることになってしまっている
のだ。

 なんと不甲斐無い話であろうか。

 『シンジ・・・・・・』

 孫のように感じ始めている新たなる弟子の少年を心配せずにはいられな
かった・・・・・・。



 『ムチャしたらダメなんだからニャ・・・・・・アスカに怒られるニャ』

 発令所に置いていかれたアルファがリツコの足元で静かにシンジを見つ
めていた。



─────────────────────────────────────────────────────────────

   For “EVA” Shinji

       フェード:六

─────────────────────────────────────────────────────────────


───第四使徒、シャムシエル・・・・・・。


 プラグ内のモニターに映るデータを見ながら、前回の戦いを思い出して
みる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・が、上手くいかない。


 “あの時”は嫌々乗っていたこともあり、記憶もあやふやなのだ。
妙に苦戦した記憶もある。

 後・・・・・・・・・。


───ん? 何か忘れているような・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 「あっ!」


 『ど、どうしたの?!』

 イキナリの大声にミサトが驚く。

 「い、いえ、何でもないです!」

 その言葉に一応の安堵をする発令所の面々。


 だが、シンジはとても大事なことを思い出していた。


 『ト、トウジたちのこと忘れてた・・・・・・どうしよう?』


 シンジは半泣きになっていた。
 前回の苦戦の一つはパレットライフルの乱射による弾幕のせいでの視界
の低下、そしてもう一つはトウジたちをエントリープラグ内に押し込んで
戦ったが為の思考ノイズである。


 『どうしよう・・・・・・今からじゃ間に合わないし・・・・・・』


 ミサトに『あそこに友達が来るはずですから避難させて』と言っても良
いが、『なんで知ってるの?』と聞かれれば説明の仕様が無い。

 カンの良いミサトのことだ、そこから何かを嗅ぎつけるかもしれない。


 いや、その可能性が大きい。


 『仕方ない・・・・・・二人から引き離して戦わないと・・・・・・』


 まぁ、学校でハルミの行動でシンジが窮地に立ったことを恥じていたト
ウジのことだから、勝手にシェルターから出たりしないだろう。

 たぶん。

 きっと・・・・・・。

 ・・・・・・出ないでほしいなぁ・・・・・・。

 段々と自信が無くなってゆく。

 だが、彼はもう一人の存在を失念していた。



                     *   *   *   *   *   *


 「なぁ、トウジ。話があるんだけど・・・・・・」

 「・・・・・・なんや?」


 比較的すばやくシェルターに避難していたトウジにケンスケが話しかけ
る。

 ちなみに、ヒカリは前回からトリップしたまんまである。


 「ちょっと外に出てみないか?」


 「アホぬかせ! 前ン時、ハルミが外におったさかいシンジが苦戦した
  んやで? シンジの邪魔になるやろが!」


 流石に漢気に惚れたトウジのセリフである。
 が、そう来ることをケンスケは先刻承知している。
 彼は屁理屈なら負けはしない。


 「まぁ、まてよ。確かにハルミちゃんのせいでシンジは危機になっただ
  ろう。戦闘は護衛任務の方が難しいからな。だぁがぁっ!!!! シ
  ンジは俺たちのために戦ってくれてるよな?」

 「お? おお、そやな・・・・・・」

 「俺たちはシンジの苦労や痛みを知ることはできん!」


 ケンスケの眼が(インチキ臭いが)燃えていた


 「お、おお・・・・・・」

 「だったら! せめて見守ってやることが“友情”というものではない
  のか?! 違うか?!」

 「う・・・・・そ、そやろか?」


 訳の解らぬ気迫に押されるトウジ。


 「そうだぜ! 確かに近くでいたら邪魔だ! だが、遠くから眺めて応
  援するのはどうだ?」

 「う、う〜ん・・・・・・せやったらいける・・・・・・かな?」


 屁理屈で押しまくり、トウジが論理的に考える間もなく連れ出すケンス
ケ。


 詐欺師の才能ありありである。




 「ああ、いけないわ綾波さん・・・・・・そ、そんなコト、学校のトイレでな
  んて・・・・・・ああ、ダメよ・・・・・・!!」


 二人を止めるはずのヒカリはまだ帰還を遂げてはいなかった・・・・・・。



                    *   *   *   *   *   *


 「シンちゃん!! 攻撃して!!」


 ミサトの支持通りにシンジはパレットライフルを発射する。


 当然、ミサトたちは知らぬことだが、“前回”のシャムシエル戦の時と
違い、三点バーストにしている。


 連射時の弾幕で視界が奪われることを危惧してのことだ。


 その攻撃を見ながら、元々軍人であるミサトとキョウスケは驚きを隠せ
ない。


 中,近距離程度の間合いを空け、移動しながら射撃しているのだ。

 それも、何気なく撃っているようでいて、ワンホールとはいかないまで
も、その弾のほとんどは同じような位置に着弾している。

 『シンちゃん、射撃戦に慣れてる?! ・・・・・・どういうこと?』


 ミサトたちの驚愕の横で、リシュウは訝しげに初号機を見つめていた。



 『・・・・・・・・・・・・本気をだしておらん・・・・・・意図的に自分に枷をして戦っ
  ておる・・・・・・』


 剣士として、数え切れぬ死線を潜っていたリシュウならでは眼力である。
 余人のそれとは比べ物にならない。

 たちまち、シンジがかなり余力を残して戦っていることを看破してしま
う。


 『相手をなめて油断しているのか・・・・・・? 違うな・・・・・・強いて言うな
  らば・・・・・・』


───目前の敵とは別の“何か”に、自分の実力を見せぬように戦ってい
   る・・・・・・。


 である。


 眼の前に迫る“使徒”とやらとは別の“何か”に実力を知られぬように
戦っているとリシュウは感じた。

 それは、剣士として余人では考えられぬ人生を送ってきたリシュウのみ
が持ち得る感覚であった。


 いずれにせよ、シンジの背負い込む物は考えている以上に大きく、重い
ことは理解できた。


───シンジ・・・・・・。


 まだ十四年しか人生を送っていない少年にそんなものを背負わせている
“モノ“にたいして憤慨しつつ、少年の無事を祈る剣の師であった・・・・・・。


                    *   *   *   *   *   *



 リシュウが看破した通り、シンジはシンクロ率を50%代まで落として
いた。


 無論、現在の戦闘のパーセントとしては支障は無い。

 問題は、“シンクロ率を落としたまま、戦闘を行い、次の使徒の能力を
上げない”事である。

 “前”とほとんど同じ様に戦わなければ、次の使徒は予想を超えて強く
なってしまう。

 事実、発令所の面々が気付くわけもないのだが、シャムシエルはシンジ
に回り込ませないように小刻みに移動しているのだ。

 これは、サキエル戦の時、ハルミを庇って戦ったことを“経験”として、
守ろうとする“何か”から引き離そうとするシンジの思惑にシャムシエル
が反応して行動しているのだ。

 よって、かなりじれったい戦いになってしまう。

 ここですぐに踏み込んで接近戦のみで戦えば、次の第五使徒の防御力を
上げかねないのだ。


 それを考えての行動であったが、このままでは・・・・・・。



 ビュンッ



 風を切る触手が初号機を襲う。

 無論、避けることもできたのだが、あえてパレットライフルで受ける。

 真っ二つになるライフル。


 「くっ・・・・・・」


 残りは両肩に内蔵してあるプログレッシブナイフのみだ。


 『シンちゃん!! 今、予備のライフルを送るわ!!』


 ミサトからの支持が飛ぶが、


 「いえ、接近戦でいきます!」


 と、間髪入れずシンジは拒否した。



                      *   *   *   *   *   *


 「ちょ、ちょっと!」


 いきなり支持を無視されたことに驚くミサト。


 「葛城三佐。自分もシンジの戦法が良いと思います」


 モニターから眼を離さずに、キョウスケがシンジを推した。

 「へ? なんで?」


 「失礼ながら、葛城殿はあの第四使徒の防御に気付いてはおらんようで
  すな」

 リシュウも口を挟んだ。


 「あやつに弾が当たる寸前に赤い壁に阻まれておる。おそらく、あれが
  皆さんの言うところのATフィールドとかであろうな」


 「へ? じゃあ・・・・・・」


 「光学センサー以外の観測からも着弾が確認されていません。全弾、A
  Tフィールドに阻まれているようです」

 マヤの冷静な報告に、ミサトもやっと頭が冷える。


 「・・・・・・となると・・・・・・あの二本のムチを掻い潜って、懐に飛び込む必
  要がある・・・・・・か」


 「・・・・・・じゃな」


 リシュウが頷き、皆も納得する。
 それ以外に手が無いのだ。


 「やっぱり、こんな状況に対抗する長物が必要になるわね・・・・・・」


 ドイツの弐号機にはソニックグレイブ等の長物の白兵武器がある。
 初号機にも必要になってきているのだ。


 「リツコ」


 そう呼ばれた彼女は、無言でミサトにファイルを渡す。
 眼は、キョウスケたちと同じようにモニターから離していない。


 「・・・・・・マゴロク・E・ソード?」
 「ええ・・・・・・東郷先生の支持の元に既に開発に取り掛かっているわ」


 ハッとして、リシュウを見る。
 彼は既に、このような状況を想定していたのだ。

 そのリシュウは睨むようにモニターのシャムシエルを見つめていた。


 そんな沈黙の中、マヤの声が飛ぶ。


 「ダメ!! シンジ君!!」


                     *   *   *   *   *   *


 シンジに焦りはなかった。

 ただ、迂闊ではあった。

 あることを(又も)失念していたのである。


 びぃんっ


 「え? わぁっ!!」


 そう、アンビリカブル・ケーブルの事を・・・・・・・・・。


 S2機関で戦っていた記憶が強い為、序盤のケーブル付を忘れていたの
だ。

 懐に飛び込もうとした初号機が、後ろに反ってしまう。

 そんな隙を許してくれる使徒ではなかった。

 突き刺すように触手が迫る。


 「くっ!」


 両手からATフィールドを出し、はさむように一本を受け止めて受け流
す。

 だが、二本目は来なかった。

 「え?」

 シャムシェルの右の触手は、足元の地面に突き刺さっている。


───いけないっ!!


 その意図に気付いた時には遅かった。

 地面を潜り込んで襲い掛かってきたのだ。

 とっさの判断が送れ、左足が巻きつかれる。


 「わ、わぁっ!!」


 ぐんっ!!


 初号機は、人形のように投げ飛ばされた。



                     *   *   *   *   *   *


 「「「「「「シンジ(君)!!」」」」」」

 発令所で全員が叫んだ。


 地面に激突する寸前に受身をとったので無事だと思うが、背中からケー
ブルが消えているのが見えるので、もはや内臓電源しかない。


 それも、5分しかないのだ。


 「ケーブルは切断されたの?」


 リツコの緊張した声がする。


 その声にマヤも冷静さを取り戻し、送られるデータをチェックする。


 「い、いえ。ケーブルは投げ飛ばされる直前にパージされています」


 「え?!」


 あの状況でケーブルを自分の意思でパージしたというのだ。


 これなら接続するだけでなんとかなる。


 ただ、第四使徒の後ろに電源ビルがあるという問題を除けば、の話であ
るが・・・・・・。



 その時、ミサトはある事に気付いた。


 初号機がしゃがんだまま、左手を見つめているのだ。


 「!! マヤちゃん! 初号機の左手部分を拡大して!!」

 「え? あ、ハイっ!!」

 モニターを分割し、部分拡大されてゆく左手部分。

 それを見た時、その場にいる全員の顔色が変わった。



                    *   *   *   *   *   *



 「結局、こ〜なるの〜〜?」

 プラグ内でシンジは涙していた。

 受身をとって、しゃがみこんだままの初号機。
その左手のすぐ横。

 あきらかに“人”がいるではないか。

 それも、三人。

 うち二人は、シンジが案じていた通りのトウジとケンスケ。

 で、最後の一人は・・・・・・。

 『綾波ぃ〜〜〜・・・・・・頼むよぉ〜〜・・・・・・』

 こういう結果になることを防ぐべく、二人を説得に来て見事失敗して
いる綾波レイ、その人であった。



                    *    *   *   *   *   *




 「ほら、碇君が来てしまったわ。・・・・・・これで碇君の戦いの邪魔になっ
  てしまうのね・・・・・・」

 ぼそりと、かなり遠まわしに二人を責めるレイ。

 「・・・・・・それは認める。すぐに逃げればよかったとな・・・・・・」

 「・・・・・・そう」

 「だがな! お前の訳のわからん説教のせいで避難するタイミングを逃
  したのも事実だ!」


 状況も弁えずに叫ぶケンスケ。
 迫る危機に対しての現実逃避なのかもしれない。


 「・・・・・・責任転換ね・・・・・・男らしくないわ・・・・・・」

 そんなケンスケの非難の声もレイには効かない。
 シンジの邪魔をする、シンジの大切な友達という難しい位置の存在。


───碇君の邪魔はさせないの・・・・・・。


 と、行動に移ったのまでは評価できるのだが、この“帰還者”たる綾波
レイ、なぜだか説明がやたらと長いときている。


 二人の行動がどういう風に愚かで、シンジの妨げになって、ヘタをする
とどういう最悪の結果(トウジの義足やサードインパクト含む)を仮説と
して説き、故事まで織り交ぜて解説した。


 その結果、初号機がリフトオフし、シャムシエルと対峙し、ここに初号
機が投げ飛ばされるまで永延と話し続けられて退避行動をとることができ
なかったのである。


 ケンスケの怒りも尤もだ。


 で、トウジはと言うと、


 「シンジ〜〜っ!! スマン!! ワイはっ!! ワイわぁああっ!!」

 ・・・・・・・・・のたうちまわって己の愚かさを悔やんでいた。



                     *   *   *   *   *   *



 『綾波ぃ・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・』

 シャムシエルも迫る、足元には大切な友達。

 いつまでも悔やんでいるわけにはいかない。

 結局“前回”と同じく、初号機のプラグに入れるしかなかった。

 しかも、今度は三人・・・・・・・・・。



 何事も無く入ってくるレイ。

 液体の中に入れられたことで慌てる二人。

 「二人とも、落ち着いて! 液体が肺に入ったら呼吸ができるようにな
  るから!」

 「そ、そないな事、言われ、ても・・・・・・・・・・・・・・・あ、ホンマや・・・・・・
  って!!」

 「カ、カメラが・・・・・い、息がぁ・・・・・・って・・・・・・あ、息ができ・・・・・・
  って・・・・・・ええっ?!」


 呼吸ができると解っても、二人はエラく驚いていた。


 シンジは良くわかっていなかった。
 自分の状況を。


 『? どうしたの二人と・・・・・・・・・も・・・・・・?』



 「碇君・・・・・・(ぽっ)」


 「え・・・・・・? うわっ!! あ、綾波ぃいい?!」


 いつの間にかレイはシンジの正面に回って、シンジの腰に足を絡めて抱
きついていたのである。



 「お、お前ら・・・・・・そんな関係だったのか・・・・・・」


 顔を赤くしたレイの表情から、二人がこの狭いエントリープラグの中で
只ならぬコトをヤっているようにしか見えない。


 「ス、スマン、ハルミ!! シンジは売約済みやった!!」


 ナゼか妹に謝罪するトウジ。


 「ち、違うよぉ!! ちょ、ちょっと綾波!! 離れてよ!!」

 「ダメ」


 ふるふると可愛く嫌がる。


 「この中に四人は狭すぎるわ・・・・・・こうしないと無理なの・・・・・・」


 なんだかこじ付けっぽいが、事実でもある。


 『シ、シンちゃん!! とにかく撤退して!!』

 ミサトの焦った通信が入る。

 三人も異物を飲み込んだプラグは、確実にシンクロ率を落としていた。
 それに、残り時間は二分を切っていた。

 だが、シンジの瞳はまだ諦めていない。


 『僕は、逃げちゃいけないんだ!』


 そんなシンジの熱い瞳に頬を赤く染めて見とれるレイ。

 「逃げる時間がありません! このまま戦います!!」

 シンジは両肩からプログレッシブナイフを抜く。



                    *   *   *   *   *   *


 「シンジ君!! 無茶はダメよ!!」

 リツコが叫ぶ。

 だが、シンジは受け入れない。

 一気に下がるシンクロ率。



 そんな中、リシュウは瞠目していた。



───なんという心の強さ・・・・・・


 と、


 諦めてヤケになっているのではない。


 状況を冷静に判断し、現状で最良の道。
 死中に活路を見出す道を選んだのである。


 それも、まだ十四歳の少年がだ。


 「さっき、シンジが言ってました」


 いつの間にか横に立っていたキョウスケが語りかけてきた。


 「凄く怖い。だけど、守りたい人の為に戦う・・・・・と」

 思わずキョウスケを見てしまう。

 彼はモニターから眼を離していない。

 少年を信じているのだ。

 リシュウも発令所内の騒ぎを無視し、モニター内で戦うシンジに眼を戻
す。

 自分たちにできることは、少年のことを信じてやることしかないのだか
ら・・・・・・。





 初号機の変化は急であった。


 「あ、あれ?! シンクロ率急上昇?! 43・・・56・・・・・・66・・・・・・72%?!」


 「なんですってぇ?!」



                    *   *   *   *   *   *


 撤退はできない。

 なぜなら、この使徒は初号機を追尾している。

 つまり、撤退する事により、その退路からセントラルドグマに侵入され
る恐れがあるのだ。


 かと言って、このまま倒されたら全てが無駄になってしまう。


 それより何より、レイも、トウジも、ケンスケも巻き込まれて・・・・・・。


 シンジの脳裏をハルミの顔がよぎる。



───トウジに何かあったら、あの子は一人ぼっちになってしまう・・・・・・。



 シンジの決意がさらに硬くなる。

 
 『そんな事には・・・・・・・・・・・・・・・・・・させない!!!!!!』


 シャムシエルの触手が襲い掛かる。
 それを左手で受けた。


 弾くのではなく、巻きつけたのだ。


 たちまち初号機の左腕から煙が立ち上る。


 「くっうぅうううっっ!!」


 歯を食いしばって耐える。


 「そ、それが、なんだぁああっ!!」


 シンジの左腕に激痛が伝わる。高熱で痛むのだ。


 だが、心が痛むよりマシだ!!


 そんな初号機にもう一本の触手が迫る。


 だが、シンジはそれを待っていたのだ。


 左腕に巻きついた触手で迫る触手を絡め取り、さらに左腕に巻きつける。

 慌てて手繰りよせるシャムシエル。

 だが、それもシンジは待っていたのだ。

 二本の触手引く力の勢いに乗せて、使徒に飛び込んで行く。


 流石に驚いて間合いを空けようと触手ごと動こうと力を入れる。

 その瞬間、右腕に握ったナイフで二本の触手を切断した!!


 思い切り引いた触手の反動で、シャムシエルの懐はバンザイする形で完
全にガラ空きになった。


 『上手いっ!!』


 思わず叫んだミサトの声が通信機からこぼれる。


 全くの無防備となったシャムシエルに初号機が弾丸の如く踏み込んだ。



 がぎぃんっ



 コアが、十字に裂けた。


 両腕のナイフで切り裂いたのである。


 ぱぁんっ!! と砕け散るコア。


 海老のように身体を仰け反らせ、第四使徒の機能は完全に停止した。


 時間がズレること数秒。

 初号機の内臓電源も切れた。



 「・・・・・・・・・ミサトさん、終わりました・・・・・・」


 かなりの疲労の色を浮かべるシンジ。

 触手を巻きつけていた左腕の感覚が無い。


 『待ってて、すぐに回収にいくから!!』


 ミサトの声を聞いてから、後ろを振り返り、


 「・・・・・・終わった・・・・・・よ・・・・・・もう、大じょう・・・ぶ・・・・・・」


 それだけ伝えると、シンジは気を失った。


 「碇君! しっかりして!!」


 レイを押し倒す形になっているが、そんな“些細な事”を気にするレイ
ではない。

 「シ、シンジ?! しっかりせぇ!! オイ!!」

 「このヤロウ! 綾波を押し倒してイイ気持ちになりやがって!」


 プラグ内、発令所内にシンジを心配する大騒ぎ(一人は別)を起こした
まま、シンジは気を失い続けていた。


 だが、その安らかな顔には、皆を守ることができた満足の笑みが浮かん
でいた・・・・・・。











 『このヤロウ! 綾波を押し倒してイイ気持ちになりやがって!』

 『ちゃうわボケッ!! 気絶しとんじゃ!!』


 ドゲシっ!!


 ケンスケを肘で殴る音は、大騒ぎの発令所には届かなかった・・・・・・。









今回の戦闘
   都市被害・・・・・・・・・・・・・・軽微
   初号機・・・・・・・・・・・・・・・・小破
   初号機パイロット・・・・・・失神
            検査入院
   相田ケンスケ・・・・・・頭部打撲







 ──あ(と)がき──

 スミマセン(^^;)
 エラく長い文になってしまいました。

 対第四使徒戦は、三人にとって大きな転機となるイベントでしたから入
れたかったんです。

 まぁ、関係ない話になっちゃいましたけどね・・・・・・(^^;)

 次は・・・・・・ラミエル戦の手前。
まぁ、インターミッションてトコですか・・・・・・。
 
 シリアス度、ほとんど“0”・・・・・・(^^;)

 あ゛あ゛・・・・・・アスカ来日まで遠っっっ(;;)

 では、また・・・・・・

 〜〜シンジ君の生活に幸いあれ・・・・・・〜〜


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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