メタリックがかった白い鎧の戦士が、己が得物を振り回す。

 対する異様に露出度の高い服──というより半裸──の女性はただ防御
に徹するしかない。

 メタリックホワイトのプロテクトアーマーの戦士はハリセン状のビーム
兵器を小刻みに振るう。

 半裸・・・・・・というか、上半身セーラー服で、下半身は二本の数珠と半透
明のベールだけという倒錯的な格好の女戦士は、梵字の浮かぶ障壁で耐え
るも、ちくちくと削られて徐々に体力を失ってゆく。

 『ナンマイぱーんち!!』

 状況を打開すべく、大降りの攻撃を出してしまうも、あっさりとバック
ステップでかわされ、

 『撲滅っ!!』

 と、ビームハリセンで引っ叩かれた。

 『きゃあああああっ!!』

 彼女は、玩具の様に吹っ飛び地面をバウンドする。

 『ホッカイダー WIN!!』

 画面上の『宇宙刑事ホッカイダー』に勝利マークが輝いた。

 びしっと、ポーズを決める鎧の戦士。

 『悪は滅びるのよ!!』


 「あ゛あ゛〜〜〜〜・・・・・・オレのナンマイダーがぁ〜〜〜・・・・・・」

 情けない声を出す敗北者の眼鏡少年。

 「駄目だよ、相田君。フェイントには引っかかるし、防御は立ちガード
  ばっかりだし、大攻撃は多いし、それじゃあ負けさせてくれと言って
  るようなものだよ」

 涼しい声の勝者、銀髪の少年。


 美少年で、アルピノの彼はとにかく目立つのだが、ゲームショップの店
頭で、同人ゲームのデモプレイで見事な腕を披露しているところ、あっち
の世界と紙一重な人間なのがうかがい知れる。


 ちなみに、そのゲーム『まにあマテリアル』とゆータイトルで、多くの
同人世界のヒロインたちが戦う格ゲーという、やたら“濃い”ヤツだ。


 当然、眼鏡少年は相田ケンスケ。
 美少年は霧島カヲルである。

 「う〜〜〜・・・」

 「さぁ、次は誰を使おうかな? 『念仏戦隊』シリーズは君が使ってい
  いよ。ボクは・・・・・・次はダメ皇女がいいかなぁ・・・・・・」


 嬉々としてキャラクターを選ぶカヲルの姿は、取り返しの付かないオタ
ク道を突き進む者のそれであった。


 「・・・・・・・・・ヲイ・・・・・・」

 「ん? なんだい? やっぱりロリ系がいいのかい?」

 「・・・・・・・・・違う」

 「解ったよ相田クン。女教師だね? とても君らしいよ」

 「違うわぁあああっ!!!!! 何が悲しゅうてココでこんな事してな
  きゃならんのか聞いとるんじゃぁっ!!」

 ついにキレた。


 が、同人ソフトを売っている店とかで独り言をかますヤツは多い。


 彼もその他大勢にしか見えない。

 って言うか、見事に溶け込んでいたり・・・・・・・・・。



 そんなケンスケに哀れみのような眼差しを向け、


 「解らないのかい? 彼女たちの買い物が終わらないからさ」


 彼は親指を立ててその場所を示した。


 商店会の一角で、ワイワイ水着を選ぶ美少女たちと美女がいた。


 赤みがかった茶色の髪の少女、青みがかった銀糸の髪の少女、そして、
うすい茶色の髪の少女、黒髪の少女。

 四人の様々な魅力を振りまく少女たちと、一人の黒髪ショートの小柄な
女性が、きゃあきゃあ言いながら水着を選んでいる。

 周りにいる男たちも、彼女らに声をかけたいのだが、近寄っても無視さ
れるし、へたに触れようとすると殺気を含んだ眼で射抜かれて失神させら
れる有様。



 彼女たちに触れてよい人間は既に決まっているのだ。



 「鈴原〜〜。こっちの色、似合うと思う?」

 「え? お、おぉ・・・・・・えと、その・・・・・・」

 真っ赤になる角刈りの少年。

 流石に今日はジャージではない。

 「シンジ。こっちのビキニの方がいい?」

 「シンちゃん、こっちの白いの似合うかな〜?」

 「シンジくん、あたしにハイレグは大胆だと思う?」

 「ねぇ、シンジくん。私にはこの黒の方がいいかしら?」

 「か、勘弁して・・・・・・」

 四人の女性、それもかなり上位の美人系囲まれてもみくちゃな少年。

 その二人の少年が、男たちの羨望の中心にいた。


 彼女たちの買い物が終わるまで、ハッキリ言って関係の無いケンスケと
カヲルはとってもマニアなゲームショップで時間をつぶしていたのである。


 「ちくしょ〜〜・・・・・・シンジばかりじゃなく、トウジまで・・・・・・」


 彼女いない暦をトウジに勝利しているケンスケは、涙を流さんばかりに
悔しがっていた。


 もっとも、まだトウジもヒカリも告白してはいないのだが、見た目と内
容は恋人同士である事は言うまでもない。


 「まぁまぁ、相田君」

 カヲルが優しく彼の肩に手を置いた。

 「ボクといっしょに“濃い”世界を楽しもうよ。それはきっととてもい
  い事なんだ」


 「いやじゃあああああああああああああああああああああああっ!!!」


 初夏のビル街を、漢の心からの泣き声が木霊して行くのであった。





                                              はっぴい Day’S
                                               
                                               7・STEP 夏の扉




 第三新東京都の繁華街。

 そこにある大手デパートの屋上にあるオープンカフェ形式のファースト
フード店。

 そこの丸テーブル三つにメンバーが揃っている。

 一つはヒカリとトウジ。

 二人は照れて、ちょっとだけ嫌がったのだが、


 「こっちはあたしたちでいっぱいだから、そっちに座ってね」


 と、妙に訳知りのマヤに諭され、二人で向かい合わせに座っている。

 傍目にも初々しいカップルだ。

 もう一つは当然、シンジたち五人。

 シンジ、アスカ、レイ、マナ、マヤ、そしてカヲルである。

 カヲル以外は少しでもシンジに引っ付こうとして椅子を寄せているので、
テーブルの上がかなり狭い。

 もう一つは、言うまでも無くケンスケ独りである。


 ともかく、女性陣の水着も選び終わり、明日に迫るバカンスについて話
し合っていた。

 「ちょっと、カヲル。アイツ、やたらと鬱陶しいんだけど?」

 やや気持ち悪げにケンスケを指すアスカ。

 その気持ち悪がられた当人は、

 「へ、へへへ・・・・・・オレはノーマルさ・・・・・・オレにはオタク道なんか見
  えないぜ・・・・・・アニメ顔に萌えたりすることはたまにしか無いし、ア
  クションドールも十個しか持ってないし・・・・・・」

 等と取り返しの付かない謎の台詞を呟いていた。

 「いやね・・・・・・シンジ君を待ってる間ヒマだったからね・・・・・・」

 無意味に爽やかな笑顔のカヲル。

 「父さんの書斎にあった心理学系の本で読んだゲシュタルト崩壊のや
  り方を試してみたんだけど・・・・・・いやぁ・・・・・・上手にできたよ」

 と、またもニッコリと笑った。

 つつ〜〜っと、冷たい汗が後頭部をつたうシンジ。

 「カ、カヲル君・・・・・・あのね・・・・・・」

 「大丈夫だよシンジ君。彼は相田君だよ? 一時間も経たないうちに餅
  についたカビ・・・・・・もとい、不死鳥の如く復活を遂げてくれるさ」

 言いよどんだ部分に何やら彼への素直な感情が見えたのだが、まぁ、そ
れはそれとして、シンジも彼の復活を信じる事にした。

 「そ、そうだね・・・・・・」

 幾らアスカたちに殴られても懲りずに盗撮するド根性は、ある意味見上
げたものである。

 決して誉められたものではないが、一応は彼の精神力の強さを認めてい
るのだ。


 「ところで、何で補習決定者の眼鏡がココにいるの〜?」

 極、基本的な疑問を口に出すレイ。

 疑問を投げかけられた当人はこっちの世界に帰還を遂げておらず、仕方
が無いのでシンジが解説する。

 「どうせ明日から学校に軟禁されるんだから、今日ぐらいは遊びたかっ
  たんだって」

 「・・・バカみたい」

 ボソリと呟くマナ。

 だが、その声にケンスケは再起動を果たした。

 「な、なんだとぉ?! お前みたいな奴にオレの気持ちが分かってたま
  るか!!」

 「分かるわけないでしょ」

 極めて冷静に返すマナ。

 「くっ・・・・・・お、お前だって、シンジに教えてもらわなかったらオレと
  どっこいどっこいじゃないか!!」

 「あんたなんかと同じにされたら迷惑だけど・・・・・・成績の悪さは認める
  わよ? だからシンジくんに教えてもらったんだもん。ね?」

 と、最後にシンジにウインクを贈る。

 イキナリ飛んでくるプレゼントに慌てつつも、

 「そ、そうだね・・・・・・。だけど、霧島さんが真面目に勉強したから、す
  ごく進んだんだよ?」


 と、真に単純に誉める。


 だが、まったく飾り気がない分、少女の心を震わせる。

 「そ、そんな事ないよ! シンジくんが一生懸命、勉強教えてくれたか
  ら・・・・・・」


 僅かに眼を潤ませながら言う。


 「あは・・・。ありがとう」



 『ふぐぅっ!!』



 その場にいた女性陣(ついでにカヲルも)が鼻血を吹きそうになる。

 本当に優しく、思いやりの篭った笑顔なのだから・・・・・・。


 「シ〜ンジぃ〜〜・・・・・・アタシもがんばったのよ」
 「わたしも〜〜・・・・・・」
 「シンジ君・・・・・・」
 「だめよ。今はあたしなんだから〜」

 女性陣、ぐにゃぐにゃの軟体動物である。

 「へっ・・・・・・どうせオレなんか・・・・・・」

 と、『の』の字をテーブルに書きだした。

 まぁ、そんな彼の事など眼に入るわけも無いのだが・・・・・・。



 ちなみに別テーブルでは・・・・・・。



 「す、鈴原・・・・・・」

 「ん? なんや?」

 「明日は・・・・・・う、海だよね・・・・・・」

 「せ、せやな・・・・・・」

 「は、晴れる・・・かな?」

 「ど、どないやろな・・・?」

 と、隣のテーブルより初々くて微笑ましかったりした。




 この店はセルフサービスなので、誰かが取りに行かなくてはならない。

 シンジたちのテーブルは流石にハンバーガーや飲み物の数が多く、一人
では持てないので(ジャンケンに負けた)マナとマヤの二人が取りに行っ
た。


 残りのシンジ、アスカ、レイ、カヲルは和んだ表情で見守っている。


 「・・・・・・明日さ・・・・・・楽しみだね」

 シンジが口を開いた。

 「?」

 振り返るアスカたち。

 「僕達、遊びに行く思い出なんてなかったしね」

 あの“時代”、アスカとレイと三人は修学旅行にすら行けず、ミサトの
慈悲で施設内のプールを使う事ぐらいしかできなかった。

 戦いだけの思い出。

 今、同じ時をすごしていた仲間と同じ時を巡り、そして、今度はその仲
間たちと“遊び”に行けるのだ。

 シンジが感慨深くなるのも当然だろう。

 「シンちゃん・・・・・・」
 「シンジ・・・・・・」

 二人もそんなシンジの想いが理解できるから、心が潤む。

 「“こっち”の僕達は行ってたかもしれないけど、“僕ら”はそんな記憶
  ないしね」

 ほろ苦い笑みを浮かべるシンジ。

 三人の顔が僅かに暗くなる。


 が、


 「だから、明日からいっぱい遊ぼう」

 一転、シンジは満面の笑みとなる。

 せっかく“普通”の中学生の生活ができるようになったのだ。

 楽しまなければ損だ。

 そう笑顔が言っている。


 「シンジぃ」
 「シンちゃん」


 二人が首にかじりついた。

 「わ、わぁ! ちょっと!!」

 そんなシンジの笑顔が二人には嬉しかった。

 いつも傷ついた笑顔ばっかりだった彼が、心から楽しそうな微笑みを浮
かべているのだ。


 痛々しい笑顔しか知らなかったカヲルたち三人は、シンジが少年の笑顔
をくれることが何より嬉しいのだ。


 その笑顔をくれるから、彼女たちも笑顔になれるのだから・・・・・・。


 「あ、あ〜〜〜〜〜〜っ!! ずぅ〜るぅ〜いぃいいい!!」

 「ソレ、抜け駆けよ! 不潔だわ」

 どすんっと食べ物&飲み物をテーブルに置き、二人もシンジに絡みつく。

 「わ、わわっ!! 皆やめてよぉ〜! 霧島さん、マヤさんも〜〜・・・・・・」

 「いやよ」
 「や〜よ」
 「イヤ」
 「ダメ」

 同時に拒否される。

 それも、満面な笑顔で。

 幸せな苦痛の悲鳴を上げて椅子ごと後ろに倒れるシンジを見つめながら、
カヲルは微笑んでいた。


 『良かったね。シンジ君・・・・・・幸せになれて・・・・・・』


 それが、カヲルの“幸せ”であった。





 いつもの騒ぎなので気にならないトウジたちは、もじもじと語り合い、




 「へへへ・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうせオレは拉致られて補習という檻に入
  れられて、勉強という調教を受けるんだ・・・・・・そうさ、オレは社会の
  奴隷になっちまうのさ・・・・・・・・・」



 完璧且つ徹底的に無視されている形のケンスケはまたも壊れるのであっ
た・・・・・・・・・。



























 と、カヲルの様に微笑ましく見つめる者もいるが、それはもう、少ない
なんてモンじゃないくらいの少数派。

 大半は・・・・・・。

 「畜生・・・・・・・・・いい気になりやがって・・・・・・あのガキ・・・・・・」

 「生意気だよな」

 「ああ」

 「やっちまうか?」

 「そうだな。それで女たちもらっちまおうぜ」

 「いいな、ソレ」

 なんてのまでいる始末。

 もちろん、そんな事にならないように親バカ爺婆連合軍がいるのである。



 ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ!!



 たちまち10を越す銃に男たちは囲まれてしまう。

 周りにいたサラリーマンやカップル。果てはウエイトレスや太った主婦
までが銃を構えているのだ。

 それも小口径は一つも無い。

 デザートイーグルやM93Rなどゴツくて大口径ヤツばっかりである。

 一発でも当たれば、その部分が消失しそうである。



 「わ、わぁ!!」

 「なんだよぉ!!」

 「オレ達が何したってんだよぉ!!」



 慌てる男たち。


 「悪いな。NERVの保安警備部なんだけど、逮捕させてもらうよ」


 無精髭に長髪の男が前に進み出て、端的に地獄のような末路を伝える。


 当然、男たちは真っ青になる。

 「な、なんでNERVが・・・・・・」

 「お前ら、あの子たちに危害を加えようとしたろ?」

 「そ、そんな・・・・・・」

 「じょ、冗談ですよ・・・・・・な、なぁ、おい」

 「そ、そうですよ」


 慌てて弁明するも、時既に遅きに遅し。


 「だめだめ。言った時点でオワリだよ。ウチの司令って怖いんだ」

 何の感情も無い眼を向けつつ、煙草を取り出し火を着ける。

 引っ立てられてゆく男たち。


 当然、シンジ達は今の騒ぎに気付いていない。


 ぷかぁ・・・と煙草の煙を燻らし、空を見上げる。


 『悪いなぁ・・・・・・シンジくんたちへの不審者を一人拿捕する毎にボーナ
  スが出るんだ』

 迂闊な台詞をほざいた彼らも、セントラルドグマができる頃には開放さ
れるだろう。

 ちなみに、園芸用スコップで製作中だ。

 今はシンジとアスカを入院させた建設業者だけで掘っていた。


 大体、20立方メートルくらいはセントラルドグマを作る事ができたか
ら、がんばれって掘れば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理か。



 『恨むなら、大酒飲みの妻を持つ俺を恨んでくれ』


 彼には、青空の雲にその妻の姿が浮かんで見えた。


 『・・・・・・ミサト・・・・・・今日もおみやげに“えびちゅ”をもって帰ること
  ができるよ』

 そう、口に出さずに語りかけると、空に見える愛妻は、



 ──Good job!──



 と、素晴らしい笑顔で親指を立てた。


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