───サードインパクト。

 人が人を超えて神となろうとした愚かしい行為。

 妄執にまみれた老人たちの愚行。


 皆が皆を理解しあえるということは、皆が皆の心の傷を飲み込むと言う事。


 心を閉じようとしてもその方法も無くなると言う事。


 人間が人間と言う形の枠から外れ、一つになる。それはつまり、全員で“一人”に
なると言う事。


 そんな人ごみの中の様な孤独に耐えられない少年は、その世界を拒否した。

 “女神”は、彼の想いを尊重した。

 最初に、彼の想い人は戻ってきた。

 次に、彼の絆の人々も戻ってきた。


 彼の想い人──惣流・アスカ・ラングレー──は心を壊していた。

 だが、あの海の中で彼の心に触れ、彼の心の声を聞いた。

 自分の首を絞めたことも理解できた。

 全部許せるのか? というと全部は無理であろう。

 その代わり、自分のそばにいる事で彼を許した。


 彼の家族も戻ってきた。

 父、ゲンドウはあの海の中で自分の罪をやっと理解した。

 少年を息子として愛する事が、妻の想いと生きられる事を理解した。

 彼は、やっと人間になった。

 少年の憧れであった女性、ミサトも“還って”きた。

 自分の死を確信していたのであるが、なぜか生きている。

 それは、彼女が八年も待っていた男にも言えた。


 彼──加持リョウジ──も戻ったのである。


 そして、ミサトと加持の共通の友であるリツコも戻ってきた。


 確かにゲンドウに撃たれた。だが、確かに彼女は生きているのだ。


 少年に関わる人間、全員が戻ってきていたのである。




 だが、世界の全ての人間が戻ったわけではない。



 ゼーレの人間、政府軍、戦自、等の大半は消えたままである。

 後に、世界中を調査した加持の報告をまとめると、



 『チルドレンたちに危害を加える可能性のある人間のみ生還を果たしていない』


 と言う事がわかった。



 それは世界と融合した女神──綾波レイ──の意思であろう。


 これ以上チルドレン・・・・・・いや、少年を傷付ける可能性のある人間を受け入れる気
が無かったのだ。


 こうして、世界人口はサードインパクト前の三分の二にまで減り、世界復興は残っ
たNERV本部の急務となった。

 世界に残るMAGIを一つに統合し、ネットワークを通じて災害復興支援を後押し
し、情報操作を行い、死人に口なし的に全ての罪をゼーレにかぶせてNERV解体の
危機から抜け出した。

 もっとも、政府のシステムも沈黙していたので何を言わずとも世界はNERVに支
配されていたであろう。








 そして、サードインパクトから一年。

 真なる意味で世界は平和を取り戻していた。





 だが、

 少年──碇シンジ──の戦いは終わってはいなかったのである・・・・・・・・・・・。



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                          Vs ―ヴァーサス―
                             EoE・After

                             VS:1

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 第三東京市は完全復興を果たしていた。

 人々が戻ってきた時には使徒戦の時にできた穴すらも影も形もなくなっており、そ
のまま工事を行っても差障りがなかったほどである。

 それは、前のままの生活風景を少年が望んでいたからであろう。

 その世界復興の影の立役者たる少年──碇シンジ──は、まだコンフォートに三人
で暮らしていた。


 父であるゲンドウはリツコに対して心からの謝罪を行い、なぜかあっさりと許した
リツコと再婚した。

 もっとも、今までが今までであるから尻に敷かれることは間違いない。

 と言うか、敷かれている。


 ミサトは加持と一緒になったのか? というと、まだである。

 今までの罪滅ぼしとばかりに、加持は世界復興支援の為に世界を飛び回っているか
らだ。

 戻ってきた時に、ミサトはやっと独身から脱却できるのだ。

 しかし、家事をどうするのかは未だに謎である。












 では、アスカは?


 彼女は・・・・・・・・・・・・・・・シンジに戦いを挑んでいた。




 「アスカ・・・・・・・・・」

 「黙って!! アタシはねぇ、白黒ハッキリしないと気がすまないのよ!!」


 シンジは困った顔をするが、それ以上は言わない。


 少女の真摯な眼が自分を見つめているからだ。


 「解ったよ・・・・・・だけと、僕も負けない」

 「へぇ・・・・・・言うじゃないの・・・・・・」


 感心した風にも、嘲りとも言える眼で少年を見る。

 もちろん、そんな眼で見るのも策である。


 「いくわよ・・・・・・」


 緊張の為、シンジの喉がなった。










 「シンジ・・・・・・アンタと会った空母で、アタシはアンタみたいな情けない奴にシン
  クロ値で負けてる事が許せなかった。

  アタシは一番にならなきゃいけなかったの。

  そうしないと誰もアタシなんか見てくれないと想ってたから。

  だから男なんかといる事はなかった。皆バカばっかりだったし、アタシのうわべ
  しか見てくれない。

  綺麗だなんだと言って来るけど、アタシの心なんか解ってくれなかった。

  だけど、アンタは失礼にもアタシの心にズカズカ踏み込んできた。

  アタシが寂しい時や落ち込んだ時、なぜかアンタの顔が浮かんだ。

  アタシは加持さんが好きだったはずのに、気が付いたらアンタの顔ばっかり浮か
  んでた。

  使徒に心の中を見られた時、アタシの前に立ってたのはアンタだった。

  こんな情けないヤツがなんでアタシの前に立つのか解らなかった。

  ううん、違う・・・・・・認めたくなかったの。

  アタシがアンタの事・・・・・・シンジの事が好きだって事・・・・・・。

  だって悔しいじゃない。自分より劣ってるって思ってるヤツのことばっか考えて
  るなんて。

  だけど、気持ちは止まらなかった。

  どんどん大きくなってきたの。

  でも、アンタに気持ちを伝えたかったのに、ファーストの影がチラチラしてて、
  それを見る度に嫉妬で胸が痛くなって何も言えなくなった・・・・・・・・・。


  それに・・・・・・拒否された時の事考えたら・・・・・・怖くて・・・・・・・・・。


  全部終わって、シンジと一緒にまた暮らして、シンジのそばにいるけど・・・・・・ま
  だ不安なの・・・・・・。

  だから、はっきり言ってあげるわ・・・・・・・・・。


  シンジ、アンタが好き。


  誰よりも・・・・・・・・・ずっと・・・・・・大好きよ・・・・・・・・・」




 「うぅっ・・・・・・!!」


 シンジは痛恨の一撃をくらった。


 顔が真っ赤になってうつむいてしまう。

 アスカの直球一本勝負な告白が心に突き刺さった。


 「ふふん。どう? これは効いたでしょう? なによりも本音の言葉だもんね〜」


 勝利を確信しているが、アスカも顔が赤い。

 自分をさらけ出したのだから当然だろう。

 
 「ほらほら。シンジ、アンタの番よ♪」

 「わ、解ってるよ・・・・・・」


 シンジは深呼吸して気を落ち着かせた。

 彼は真っ向勝負に出る。

 真っ直ぐ黒瑪瑙の瞳を、アスカのブルーサファイアの瞳に向けた。


 それだけでアスカは陥落寸前だ。





 「アスカ・・・・・・・・・僕がずっと見てる・・・・・・ずっとアスカのそばにいるから。

  もう、アスカから離れないから。

  もう、アスカから逃げたりしないから。
 
  倒れそうになっても、アスカを支えてあげるから。

  こんな僕じゃ情けなくて嫌かもしれないけど・・・・・・・・・。

  僕は、アスカのそばにいたいんだ。

  アスカ・・・・・・・・・好きだよ・・・・・・・・・大好きだよ・・・・・・・・・」


  そう言って、アスカに微笑みかけた。





 ずばぶしゅうっ!!





 会心の一撃!!

 アスカは倒れた。



 短い言葉に全てを込めたシンジの攻撃はアスカの心を貫通して大穴を開けた。



 「・・・・・・大丈夫?」


 シンジはアスカを抱き起こした。


 「き、効いたわ・・・・・・アタシ、立てないかも・・・・・・」


 アスカの顔はリンゴより真っ赤である。


 「僕がそばにいてあげるって言ったろ? 部屋まで運んであげるよ・・・・・・」


 「うん・・・・・・」

 
 少女は、きゅっと少年を抱きしめた。

 少年も優しく抱きしめる。

 そこだけ時間が静止したかのような幸せが溢れかえっていた。


 「ねぇ・・・・・・今の勝負、アタシとシンジ・・・・・・どっちの勝ちかなぁ?」

 「わからないよ。ねぇ、ミサトさん。どっちでした?」


 完璧かつ徹底的に忘れられた同居人で、この勝負の判定人であるミサトに声をかけ
た。


 彼女は、“えびちゅ”ではなく、焼酎をビンでラッパ飲みしていた。






 「やってられっかボケ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」







 すっかり出来上がって酒徒化していた。

 「あ〜あ・・・・・・これじゃあ無理だね」

 「ウン・・・・・・ねぇシンジ・・・・・・」

 「ん?」

 「アタシの部屋・・・・・・連れてって・・・・・・」

 「うん・・・・・・勝負の続き・・・・・・かな?」

 「ばか・・・・・・・・・」


 宝物のように大切に抱き上げ、彼女の部屋へと歩き出した。

 それは、新居に花嫁を運ぶ新郎の様でもあった。


 「・・・・・・シンジぃ・・・・・・」

 「アスカ・・・・・・」


 二人は、他が何も見えていない。

 見えるのはお互いの眼であり、姿だけ。

 心は既に触れ合っているのだから・・・・・・・・・。









 「か〜〜〜〜〜じ〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・早く帰ってきて〜〜〜〜〜〜・・・・・・」






 ベランダから星空を眺めつつ、大虎は闇に吠えるのだった。




今回の勝負・・・・・・・・・
 判定不能により引き分け
 通算成績
 シンジ 0勝 0敗 1013引き分け
 アスカ 0勝 0敗 1013引き分け


 シンジの戦いは・・・・・・終わらない・・・・・・・・・。


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