辛い戦いを乗り越え、自分たちの生活を取り戻したシンジ。

 学校の旧友たちも戻り、生活環境は元に戻った。




 だが、副産物もあった。

 あの父が、父として自分を見つめてくれるようになった事、

 トウジの足が元に戻っていた事、




 そして・・・・・・・・・。




 綾波が戻ってきた事である。

 「綾波!!」

 「違うわ。わたしは四人目だもの・・・・・・」

 「さいですか・・・・・・」


 四人目の彼女はシンジの妹となり、碇レイとなった。

 家族が増え、シンジはかつてない幸せを噛み締めていた。






 だが、ライバルであるアスカとの戦いは続くのだ・・・・・・・・・。





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                           Vs ―ヴァーサス―
                              EoE・After

                              VS:2

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 戦いとは言っても、いつもいつもやっている訳ではない。

 テストというのならともかく、授業中などにできる訳もないのだ。



 だが、今日の3〜4時間目の授業は家庭科・・・・・・それも調理実習である。



 二人の戦いが始まる・・・・・・。







 「おお、肉叩くんか?」


 白いエプロンが似合ってないトウジがシンジに聞いてくる。


 シンジはハンバーグの種肉を手のひらに打ち付けているのだ。


 「うん。こうやって中の空気を抜くんだ。じゃないと裂けることもあるからね」


 この班は教科書を開く手間が要らない。

 家事に慣れきっている少年がページをめくるより先に答えてくれるからだ。




 「あれ? アスカ、玉ねぎの中にパセリの茎いれて煮るの?」


 A組の母、ヒカリはやはりエプロンが似合っていた。


 「当たり前よ。この方が味がすっきりするしアクセントになるの」

 「へ〜〜・・・・・・」

 こっちはポタージュスープである。

 調理実習と言えばシンジの独壇場のようだが、実はアスカも相当腕を磨いており、
シンジに迫る勢いなのだ。


 「どう?」


 こしたジャガイモと混ぜ、味を調えてから小皿にとってヒカリに味見させてみる。

 「ん〜〜・・・・・・ちょっと薄いんじゃない?」

 「そっかなぁ・・・・・・」

 首をかしげるアスカ。

 彼女にはそうは思えないからだ。







 「なぁ、センセ。このソースなんやけど・・・・・・なんやちょっとヘンやないか?」

 「そう? 手製のドミグラスソースだからこんなもんじゃないかなぁ・・・・・・」

 「いや、マジちょっと・・・・・・なんちゅうか・・・・・・いや、不味いんと違うて・・・・・・」


 トウジは困っていた。

 確かに不味いのではない。

 美味いと言えば美味い。

 ただ、妙な味なのだ。

 あえて言うなら、感覚的に“違う”という味である。




 「鈴原〜。そっち焼けた?」

 ヒカリがトウジに問いかける。

 「あ、おお・・・・・・シンジに任せたさかいな・・・・・・」

 「もう。碇君にばっかり・・・・・・ん? どうかしたの?」

 「いやな・・・・・・このソースなんやけど・・・・・・」

 お玉に掬い取って小皿にちょいと乗せてヒカリに渡す。

 指につけて、ペロっとひとなめするヒカリ。


 「何これ?」


 その声にシンジが振り返った。

 「え? 美味しくないかな?」

 「え?! ううん。違うわ。美味しいわよ。美味しいけど・・・・・・なんだろう・・・・・・」

 「な? ワイもなんちゅーか・・・・・・説明でけへんねん」


 そう悩み続ける二人に気付いて、アスカがやって来た。


 「どうしたの?」

 「え? ええ・・・・・・碇君がハンバーグソース作ったんだけど・・・・・・味が・・・・・・」

 「ええっ?! シンジが味付けミスしたって言うの??!!」


 アスカにとって、それは信じられないことであった。


 渚カヲルの笑顔並に信じられないし、ミサトの禁酒宣言すら上回るほどの大事件な
のだ。


 「だって・・・・・・ほら・・・・・・」


 また別の小皿にちょんとソースを乗せて渡した。

 小指に付けてなめてみる。

 「んん〜?」

 「ね? ヘンで・・・・・・」


 「な、何これ?! めっちゃめちゃ美味しいじゃないの!!!」


 「「へ?」」


 「く・・・・・・今回はアタシの負けね・・・・・・」


 がっくりと肩を落とすアスカ。


 「ちょ、ちょっと待ってよアスカ。僕はまだアスカの食べてないんだよ? なのに
  いきなり敗北宣言なんておかしいよ!」

 「だ、だって・・・・・・」


 自分の作っていたポタージュを小皿にとってシンジに渡した。


 「ん?」


 「ヒカリが味がうすいって・・・・・・」


 件のスープを一口啜ると、シンジの眼は驚愕に大きく見開かれた。


 「す、すごいよアスカ!! 僕、こんなに美味しいの食べた事ないよ!!」

 「ホ、ホント?! お世辞じゃない?」

 「ホントだよ。ホントに美味しいんだ。うすいって言ってたみたいだけど、僕には
  ちょうど・・・・・・」


 「「あっ」」


 そこまで言ってから、二人は同時に気付いた。


 「「僕(アタシ)ったら、無意識にアスカ(シンジ)の舌にあわせちゃったんだ!!」」


 呆れかえるトウジとヒカリ。


 ほとんど0コンマ数グラム単位まで相手に合わせてあるのだ。

 それ以外の人間の口に合わないのは当たり前である。

 「でも、本当に美味しいわ・・・・・・やっぱりシンジってスゴイ・・・・・・」

 「ち、違うよアスカ。僕の料理はアスカの為だけに作ってるものだから他の人に合
  わないんだ。だから、アスカの方が凄いよ」

 「違うわ。アタシの料理だってシンジ専用だもん。でも、他の人の舌でうすいって
  言うのだったら、まだシンジ専用じゃないもの・・・・・・」

 自分の言葉に落ち込むアスカ。

 そんな少女の肩に優しく手を置いた。

 「まだまだって言うなら、僕が教えてあげるよ・・・・・・僕だけのアスカになるように、
  僕がずっと料理を教えてあげるよ・・・・・・ずっとそばにいるから・・・・・・」

 「シンジ・・・・・・」

 肩に置かれたシンジの手に自分の手を重ねる。

 「じゃ、あんまり覚えない方がいいかな? そしたらずっといてくれるんでしょ?」

 甘えるようにシンジに微笑みかける。

 その頬は桜色だ。

 「違うよアスカ・・・・・・上手になっても放してあげないよ。僕だけの料理を作ってくれ
  る女の子だから・・・・・・僕だけのアスカだから・・・・・・」

 優しくアスカを抱きしめる。

 なすがままの少女。

 「シンジ・・・・・・」

 「夕べも言ったよね? 僕がずっとそばにいるって・・・・・・」

 「うん・・・・・・」

 二人はお互いのぬくもりを交換し合っていた。

 二人は、二人でいることが自然なのだから・・・・・・。










 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっとれんわ」」









 A組の母と、関西弁の少年はユニゾンでサジを投げていた。





 今回の勝負。
  勝負を忘れた為に判定不可。
  よって、
  シンジ 0勝 0敗 1013引き分け
  アスカ 0勝 0敗 1013引き分け
  のまま。


 シンジの戦いはまだ続く・・・・・・。



 〜〜〜おまけ〜〜〜

 「相田君!! ご飯、真っ黒になってるじゃないの!!!」

 ご飯係であったケンスケは料理をする女子をカメラに収めていたが為に焦がしてし
まいフクロにされ、

 レイは・・・・・・

 「肉・・・・・・好きだから・・・・・・」

 ケンスケの分も全て平らげておかわりを求めていた・・・・・・・・・。


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