世界が違おうとも文化文明が変質していない限り行事などはそう変化しない。


 結局、人々の想いは同じだと言う事なのであろうか?


 こと日本の場合、よほどのことがない限り行事は敢行する。

 一月は正月で、

 二月にはバレンタインデーがあり、

 三月には桃の節句がある。

 人間の生活様式は、遮るものがなければ変化しないという事なのであろうか。






 まぁ、それはそれとして、






 桃の節句・・・・・・俗に言う“お雛祭り”を終えると、これまた大変な時期が迫ってくる。

 この月は女の子だけが恵まれている様な気がしないでもない。

 二回も女の子の日が存在するからだ。


 もっとも、後者・・・・・・三月十四日の方は、実質は歴史的な記念日であるものの、日本の
メーカーの陰謀で女性が何かプレゼントを頂ける日となっており、女性達は甘んじてそれ
を受けるのが定説となっている。


 受け取る事のできない女性はともかく、その前の月に義理でも配っていればなんとか頂
けると言う寸法だ。




 ここに、一人の人間がいる。




 この月は彼もタイヘンなのであった・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


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                            〜〜白い日〜〜

                              三月の乱

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<巻の一> VS編



 「お兄ちゃんからクッキーもらったの・・・・・・うれしい」


 今や名実共に“碇レイ(注:四人目)”となった彼女は、先月シンジにパフの代わりにイ
ンスタントラーメンを砕いたものを入れた謎の手作りチョコをあげた。


 奇怪極まりないものであるが、なぜか歯ごたえも味がよく、兄として妹の成長を素直に
喜んでくれた。

 そのお礼にと、この日は手作りクッキーをあげたのである。


 もっとも、マヤや義母であるリツコ、そしてミサトにもあげている。


 そして、本命たる少女アスカには・・・・・・・・・・・・。


 「シンジ!! 勝負よ!!」

 「うん」


 二月から三月を跨いだ、えらく気の長い一戦である。



 二月十四日、まずはアスカのターン。

 アスカはなんとトリュフに挑戦し、シンジに手渡している。


 ドイツ語ではなく、日本語・・・・・・それも漢字付きで、


 『私の想いです  私のシンジへ・・・・・・貴方のアスカより』


 と書かれたカードが付いていた。


 真っ赤な顔をしてシンジは感極まったものである。



 で、シンジのターン!!

 「アスカ・・・・・・これ先月のお礼・・・・・・受け取ってくれるかな?」


 白い箱を真紅のリボンで飾られたそれは、アスカをイメージしたものか?


 「そ、そこまで言うなら受け取ってあげるわよ」


 足が地に着いていないが、声だけ態度がデカかった。


 箱の中身は・・・・・・・・・・・・。


 アスカのくれたトリュフの逆の色、ホワイトチョコで作られたトリュフが四つだけ入っ
ていた。


 「四つだけ?」


 そう聞いてくるアスカのチョコを一つとり、口に入れてアスカに渡した。


 「んン?! ん・・・・うン・・・・・・・ン・・・・・・・・・・・」


 シンジごと味あわせてから、口を放す。

 
 「・・・・・・どうかな?」


 顔を赤くしながらもシンジが聞いてくる。


 「卑怯よ・・・・・・これじゃあ味が解んないわ」

 「じゃあ、ハイ」


 シンジがもう一つとって、指でアスカの口に入れてあげた。


 「・・・・・・・・・美味しい!!」

 「よかったぁ」

 「だけど、さっきと味の差がわかんないわよ?」

 「・・・・・・・・・試して、みる?」

 「うん・・・・・・」


 残りの二つ、シンジはアスカにたっぷりと時間を掛けて味あわせてあげるのであった。






 それも、HR前の教室で・・・・・・・・・。






 「「「「「「「「「「「「「やってられっかぁ!! ボケ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」」」」」」」」」」」」」



今回の勝負

 行事なのでノーカン♪

 シンジの戦いは、やはり続く・・・・・・。




<巻の二> For“EVA”編


 「・・・・・・・・・(ぽっ)」
 「碇君、ありがとう!」


 学校の先輩&同級生の女生徒、



 「シンジさん、ありがとう・・・・・・(真っ赤)」
 「・・・・・・・・・ありがとうございます・・・・・・(真っ赤)」


 ハルミとその友達、



 「ありがとねシンちゃん♪」
 「シンジ君ありがとう」
 「ありがとう、シンジ君」
 「もぅ〜♪ シンちゃんたら」

 ミサト込みの発令所スタッフ。


 それとアスカの護衛の女性にまで手作りクッキーを配り終えた彼を、



 「シ〜ンジ♪」
 「碇君・・・・・・」

 家では二人が待っていた。


 「はい。コレ・・・・・・」



 シンジが冷蔵庫から出してきたのは、ホワイトチョコレートの厚い層のケーキ・・・・・・。



 「す、すご・・・・・・」

 「い、碇君・・・・・・」



 なんと、白いオペラであった。



 普通、オペラというケーキはかなりのチョコレートの層を重ねて作る。


 それは店にもよるが、ガナッシュクリームあったり、ムースでもあったりする。


 シンジはそれをホワイトチョコレートのムースで作ったのだ。


 その隙間にはさまれた、極薄にスライスされたフルーツの層がオペラであることを否が
応でも理解させる。


 三十を超える層の厚さが、その手間のかかり具合を二人に感じさせていた。


 「二人に作ったんだから食べてよ」

 「で、でも・・・・・・」

 「キレイでもったいないの・・・・・・」


 正直な意見である。


 その白壁の頂上には、ビターチョコで『大切な人へ』と書かれていた。


 ご丁寧にも、アスカの分はドイツ語である。


 「僕がまた作ってあげるから・・・・・・来年も、再来年も・・・・・・」

 「シンジ・・・・・・」

 「碇君・・・・・・」


 それは、これからを生き抜くという宣言。


 ずっと一緒にいるという誓いであった。


 「だから、今回の分、食べてよ」

 「・・・・・・うん!!」

 「・・・・・・そうね」


 少女達はフォークで、書かれた想いの文章ごとオペラを切り、口に運ぶ。


 「「おいしい・・・・・・」」


 二人の少女の感想に少年は、優しい笑顔ではにかんだ。


 味も然ることながら、少年の想いがそのまま伝わる優しい味である。

 少女達は、来年もこの少年のケーキを食べる事を誓うのであった。




<巻の三> はっぴい編


 「シ〜ン〜ジ〜・・・・・・」

 「シンちゃ〜ん・・・・・・」

 「シンジくぅ〜ん・・・・・・」

 「シンジくん・・・・・・」


 女の子+女性に退路を塞がれ、身動きのとれない少年。


 「カ、カヲル君、助けてよ!」


 流石の少年もにじり寄る危機から逃げる術はない。

 可能性の一片は親友にかかっていた。


 が、世の中そんなにご都合主義は働かない。


 「シンジ君、無茶を言わないでほしい。もし介入したとすれば、ボクは朝の目覚めを迎
  える事がなくなってしまうよ」

 彼は飄々と答えた。

 呑気に文庫本──ゲーム小説と思われ──を持っているところ、最初から助ける気が無
いようだ。


 「そ、そんな・・・・・・・・・みんなヒドイよ!! お返しのチョコレートケーキが気に入らな
  いならそう言ってくれたらいいじゃないか!!」


 彼が皆にあげたホワイトデーのプレゼントは手作りの天使のケーキ(ホワイトチョコの
ケーキの事)であった。


 ケーキに乗っていたマジパンで作られた小さな天使姿の人形が、彼の想いをうかがい知
らせる。


 アスカの分は赤い髪の長い髪の青い眼の天使。レイなら青みがかった髪と赤い眼の天使、
とそれぞれをイメージしたものを作って乗せている芸の細かさだ。


 味に関しても申し分ない物であった。


 「はぁ? ナニ言ってんのよ。あのケーキに文句なんて無いわ」

 「そうよ。大変だったでしょ〜?」

 「うん。シンジくんの想いを受け取ったって感じだわ」

 「ありがとうねシンジ君」


 本当に心からのお礼を言う四人。



 その部屋の隅で、


 「ふ・・・・・・・・・・・・ボクも食べたかったよシンジ君・・・・・・」


 等と呟く者もいたりなんかするのだが、まぁ、それはそれである。



 「だ、だったらなんで・・・・・・」

 「だってさぁ・・・・・・アタシらがあげたヤツより手間がかかってるじゃない?」

 「え? そ、そうなの?」




 無論、嘘である。




 彼女たちもシンジの為にチョコレートを作るのなら手間を惜しんだりしない。

 二月の半ばから用意していたのだ。



 「だからね〜〜シンちゃん」

 「うん。お返しのオーバーした分くらいは・・・・・・」

 「私たちが直接返す事にしたのよ」


 既に退路はなくなっていた。


 「え、えと・・・・・・」


 シンジは“前”の世界でゼルエルと対峙した時より多く冷や汗をかいていた。


 このままでは生き地獄直行コースだ。


 それも、甘ったるい生き地獄の・・・・・・・・・。



 「覚悟完了してよね。シ・ン・ジ♪」





 「た、たすけて・・・・・・」


 「へっへっへっ・・・・・・ウブなネンネじゃあるめぇし・・・・・・」(←注:レイ)


 「きゃぁああ〜〜〜やめて〜〜〜許して〜〜〜お婿さんにいけなくなっちゃう〜〜〜」




 「「「「もらってあげるから心配しないで♪」」」」






 ち〜〜〜〜〜〜〜ん♪






 「(シクシク)なんで僕だけがこんな目に・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




 それでも、キミは幸せなんだよ? シンジくん。






<巻の終>



 「シンジぃ・・・・・・」


 「ん? なんだいアスカ」


 「今日ね、ホワイトデーなの」


 「知ってるよ。だからアスカにチョコレートを・・・・・・」


 「ううん・・・・・・もうプレゼントもらっちゃった」


 「・・・・・・?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・二ヶ月だって・・・・・・・・・」


 「!!!!????」


 「だからね、シンジ・・・・・・・・・きやっ!」


 「アスカぁ!!」


 「も、もう・・・・・・お腹の子がびっくりしちゃうわよ」


 「・・・・・・・・・ありがとう」


 「・・・・・・え?」


 「ありがとうアスカ」


 「・・・・・・」


 「日本のホワイトデーって、バレンタインにプレゼントしてくれた女の子にお礼をする
  日だよ。だからアスカ、ありがとう」


 「シンジ・・・・・・」


 「僕と一緒にいてくれてありがとう。僕のそばにいてくれてありがとう。僕を支えてく
  れてありがとう」


 「・・・・・・・・・・・・うん」


 「でも、今日は皆にもお礼を言わないといけないね。ミサトさんも、リツコさんも、伊
  吹さんも・・・・・・・・・僕達をを見守っていてくれてありがとう。僕とアスカを会わせてく
  れてありがとう。僕達に幸せをくれてありがとう・・・・・・って・・・・・・」


 「・・・・・・・・・うん」


 「もっともっと、幸せになろうね」


 「・・・うん」






 執務室のモニターの前でミサトは顔を覆っていた。

 指の隙間からこぼれる熱いものが彼女の思いを伝えている。



 その横でリツコは上を向いていた。



 今は前を向けないから、

 目頭の熱さが止まるまでは、視界が歪むからモニターが見られない。



 「ぶ、無様ね・・・・・・」



 これ位の強がりしか口に出せない。







 ホワイトデー・・・・・・・・・。

 日本でのそれは、女の子がくれた想いにお返しをする日。



 彼らの行く末に幸せが訪れますように・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


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