戦闘とは、常に一対一とは限らない。

 その行動を有利に進める為、同盟を組んだりするのは歴史的に見ても少なくない。

 いや、戦争におけるセオリーと言える。


 セカンドインパクト前、独国は連合国の攻撃によって沈黙している。

 なんだかんだ言ったところで数の暴力には敵わないのだ。


 だが、数の暴力というのは実は曲者で、連合国が勝てば勝ったでそれぞれが分け前を求めて騒ぎ出す。

 浅ましい事この上ない。


 昔の大国である米国にしても、現在は救い様のないインフレと食糧難にあえいでいる。


 圧倒的な数の暴力によってエネルギー大国を手中に収めたものの、セカンドインパクトによりエネルギー
源を失い、全世界に散らせた軍を再編成することも間々ならず、見るも無惨に落ちぶれ果てた上に、他国に
戦争報酬と補償金を毟り取られたのだ。


 つまり、本当の意味で国交というものは大事にしなければならない。


 そして、ある少年とある少女の国交・・・・・・いや、親交は鋼より固く、ゴムよりしなやかだ。

 この連合に攻められる者は悲惨である。


 それは、無意識な攻撃であるから余計に始末が悪かった・・・・・・・・・。



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                             Vs ―ヴァーサス―
                                EoE・After

                                VS:5

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 「それにしても半年振りか・・・・・・久しぶりだなぁ」

 「そうですね。でも、よりによってミサトさんが出張中に帰国できるなんて・・・・・・」


 ここは毎度のコンフォート17の一室。

 ミサトとシンジとアスカの暮らす部屋である。


 ミサトは昨日から松戸へ出向し、向こうでN2リアクター発電システムの状況レポートをとっている。


 シンジ達にあてられて退避しているという説もあるが・・・・・・まぁ、それはそれである。


 そんな時に加持が帰国した。


 もっとも、本格的な帰国ではなく、一時帰国だ。


 彼の復興支援活動と情報収集活動は、もう少し続くだろう。



 ミサトは撤退行動をとって、援軍とすれ違う結果となってしまった。


 戦術的撤退を敢行し、逆に敗北に繋がった例は少なくないのだ。


 「よ、アスカ。相変わらず無愛想だな」

 「・・・・・・・・・ほっといてよ」


 久しぶりに会う加持だというのに、アスカの機嫌はすこぶる悪い。

 女性遍歴の経験豊富な加持だからこそ理解できる。


───邪魔者を見る眼。


 である。


 せっかくシンジと二人っきりになれたというのに、加持という異物が現れたのだ。

 シンジ以外の男を必要としない今の彼女は、相手が誰であろうと不機嫌になる。


 「ほら、アスカ。せっかく加持さんが戻って来たんだから、そんな顔してちゃダメだよ」

 「ナニよ!!」


 ぷくっと頬を膨らませる。

 その様子に思わず少年は口元を緩ませる。


 「ふくれたアスカも可愛いなぁ・・・・・・」

 「な、ナニよ!! 自分だって可愛いくせに」

 「そんな事ないよ。可愛いのはアスカだよ」



 ・・・・・・・・・そばにいて背中が痒くなる。



 ここに来たのは失敗だったか? 状況を甘く見たか?


 加持は昔の勘が鈍っているのを実感した。



 昔、二股三股もかけられたのは、その勘によるものである。

 だが、ミサト一本に絞っている今、彼のハンターとしての勘は鈍りきっていた。


 戦況確認を怠ったのである。



 「おいおい。仲がいいのは良いけど子供ができるのは勘弁してくれよ」


 軽口を叩いて戦況を変えようと努力する。

 
 「そんなヘマする訳ないでしょ?」

 「アスカもまだ15歳ですからね。身体が整うまでもっと大事にしてあげたいし、二人っきりをもっと楽
  しみたいですからね。あ、もちろん子供は欲しいですけど・・・・・・」

 「やだ、もぉ〜〜♪」



 ・・・・・・・・・失敗である。



 「・・・・・・しかし、あのアスカがなぁ・・・・・・昔はそういうこと嫌悪してたろ?」


 遠距離射撃に変えてみた。


 「はぁ?! ナニ言ってんの?! アタシは子供のままって言ってる訳?」

 「アスカは優しいですからね。いいお母さんになると思いますよ?」

 「な、ナニ言ってんのよ。シンジだって優しいパパ決定のくせに」

 「うん。だって、僕たち家族の事で寂しい時があったろ? だから僕たちの子供にはそんな思いさせたく
  ないんだ・・・・・・」

 「・・・・・・そうね・・・・・・でも、娘だったら大変よ? お嫁さんに出す時、泣くんじゃないの?」

 「うっ・・・・・・・・・よ、嫁にはやらないよ!!」

 「ぷっ・・・・・・・・・あははははは・・・・・・気が早すぎるわよ。まだできてもないのに」

 「あ、そっか・・・・・・あはは」

 「うふふふ・・・・・・」



 ダメでした・・・・・・・・・。



 迫撃攻撃で沈黙だ。




───これか、ミサト。これなんだな?



 加持は心からミサトに同情した。

 常からミサトより二人に中てられて辛い日々を送っているという連絡はあった。

 だが、これほどの被害状況だとは思いも寄らなかったのだ。


 自分が知っている、あの男嫌いのアスカはもういない。



 すっかりシンジの飼い猫状態となっているぢゃありませんか。



 「・・・・・・さてと、そろそろ御暇しようかな。二人に中てられっぱなしなのも痛いしな」


 穏やかな笑みを二人に投げかける。

 が、本当に中てられて痛かったりするのは大人の事情でヒミツである。


 「あれ? 加持さんもう行っちゃうんですか? 夕飯を用意しようと思ったんですけど・・・・・・」


 帰れ帰れという眼を加持に向けるアスカとは逆に、シンジは久しぶりに会えた知人に好意を投げかける。

 また、その二人のギャップも痛かったりする。




 「なによ、シンジ・・・・・・アタシと二人になるのイヤだっての?!」
 


 そんな異物の排出を止めようとするシンジに彼女はキレた。



 「そんな訳なんだろ!! なんて事言うんだよ!!」


 礼儀を欠いた言い方にシンジも声を荒げる。


 「ウソ!! アタシと二人っきりになるのがイヤだから加持なんかを呼び止めるんだわ!!」

 「違うよ!! そんな事で加持さんなんかを止める訳ないだろ!!」



 ・・・・・・・・・“なんか”扱い・・・・・・・・・二人ともヒドイな・・・・・・・・・。



 傷つく大人がいたりする。


 「だったらなんで加持“なんか”呼び止めたりするのよ!!」

 「それとこれとは話が違うだろ?! 僕だって加持さん“なんか”にかまってないで、アスカと二人でテ
  レビみたり、話したり、食事したり、お風呂に入ったり、ベッドに入ったりしたいよ!!
  だけど加持さんはお客様だよ?! それにミサトさんをもらって欲しいじゃないか!!」

 「はっ!! そ、そうね・・・・・・あの行き遅れをもらってくれるような酔狂な趣味の持ち主なんか、加持以
  外にいるわけないわよね」

 「そうだよ!! それに、僕はいつだってアスカと二人っきりになりたいよ・・・・・・」

 「え・・・・・・・・・? もうっ・・・・・・いつも一緒に寝てるでしょ・・・・・・・・?」

 「・・・・・・・・・足りないんだ・・・・・・・・・」

 「え?」

 「僕はもっと全身でアスカを感じていたい。アスカを抱きしめていたい」

 「アタシもよ・・・・・・・・・」

 「だけど・・・・・・大好きなアスカと一緒にい過ぎたら怖いと思う事もあるんだ」

 「え?」

 「だって・・・・・・壊しそうなんだ・・・・・・アスカを求める心が強すぎて・・・・・・・・・」

 「ばか・・・・・・」

 「うん・・・・・・ごめんね」

 「ナニ言ってるのよ。アタシだって、シンジの事を好き過ぎて殺しちゃいそうになるのよ? だからおあ
  いこよ」

 「うん・・・・・・アスカ・・・・・・」

 「シンジぃ・・・・・・」



 既に二人の目には二人の姿しか映っていない。

 心の垣根を取り払った二人には、周りの風景より、眼前の愛しい存在のみが重要なのだから・・・・・・。



 だから、



 例えほっぽり出している客がいたとしても、眼に入らないのだ。



 「シンジぃ・・・・・・アタシを壊して・・・・・・」

 「アスカ・・・・・・僕を殺していいよ・・・・・・」



 唇を重ね、舌を絡ませる二人には、もはや何も耳に入らないし、眼に止まらなかった・・・・・・。





 ベランダで所在無げに煙草を燻らす男が一人・・・・・・・・・。




 愛する女・・・・・・・・・ミサトを慮って、一刻も早く任務を終わらせ、帰国し、彼女をこのクソゲロ甘な部屋か
ら救出する事を誓う男の口から、この状況を適格に表現する言葉が吐かれていた。




 「ダメだこりゃ・・・」




 と・・・・・・。






 今回の勝負。
    シンジ&アスカ連合軍VS加持リョウジ

                加持軍の圧敗


 シンジの戦いは終わらない・・・・・・・・・。


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