彼は暗い道を進んでいた。

 真っ暗と言うのではなく、赤暗いと言えば良いか?

 目印らしいものも無いと言うのに、彼は真っ直ぐ目的地に向かう。



 そこに“彼”がいるから。

 自分は“彼”を欲しているから。

 “彼”に痛みを与えてしまったから。

 “彼”の痛みを少しでも和らげてあげたいから・・・・・・・・・。




 “彼”には“彼女”がおり、その“彼女”がいるから、“彼”の傷は癒えてゆくだろう。

 だけど、心の奥にある自分の与えた傷まで癒えるわけではない。



 自己満足でしかないことは自分でも解っている。


 ただ、“彼”に会う為の口実が欲しいだけなのだろう。



 途中、足元に別の意識を見つけた。

 それは弱々しく輝いていたが、弱いなりにも必死に“彼”への想いにしがみ付いていた。

 “ここ”にいると言う事は、世界へ帰還できなかったということ。

 世界への想いがなかったと言う事ではなく、“彼”への想い以外が消失し、戻る術を無くしていたのだ。



 彼はその想いを拾い上げ、一緒に連れて行くことにした。


 “彼”のいる世界へ。


 “彼”とまた出会う為に。






 そして光の中へ戻って来た時、








 ボクらは兄妹になっていた。





                            はっぴいDay’S


                         11・STEP 彼と彼氏の○○





 「お兄ちゃん!! いつまで寝てるの!!」


 ・・・・・・・・・耳がキーーンとしたよ。


 頼むから耳元で叫ばないでほしいね。


 枕元の目覚まし時計はまだ五時だった。

 今日の出発は九時じゃなかったかな?


 ボクは眠いよ・・・・・・。


 「シンジくんがお弁当作ってくれるのよ?! だったら早起きするに決まってるじゃない!!」


 あ、そうだった。


 忘れていたよ。

 ボクはムクリと起きて顔を洗って歯を磨く。

 歯を磨く時は洗面所から出ないといけない。

 なぜって? 妹であるマナが鏡の前を占拠するからさ。


 お陰で歯がよく磨けるよ。




 一応説明さてもらうと、


 ボクの名は霧島カヲル。


 昔は渚カヲルとかタブリスとか言ってブイブイいわせていたものだけど、今はただの中学生さ。


 だけど、とっても満足した生活を送っているよ。

 だってシンジ君の友達としてずっといられるからね。

 今、一生懸命に鏡の前で寝癖を直しているのが妹の霧島マナ。

 ボクと一緒にあの赤い世界からこっちへ引っ越してきた女の子さ。

 もっとも、シンジ君への想いしかなかったから戦自の記憶なんてサッパリみたいだけどね。


 一緒にこの世界へとシンジくんの心を追ってやって来たんだけど、そのせいか兄妹になってたんだ。

 せっかく人間になれたというのに、双子であるマナに遺伝子の強いトコを盗られたのか、やっぱりアルピノ
さ。

 フフ・・・・・・ちょっと悲しいね。


 まぁ、可愛い妹付の男の子に転生したからチャラにしたよ。


 でも、まぁ、やっぱり人間てのは自分以外を受け入れる力がないよね。

 銀髪で赤い目のボクはあっちこっちでイヤな眼で見られたよ。

 マナは気が強くて優しい子だったけど、ボクを庇ったりしたせいで、とばっちりを受けてた。

 もっとも、ボクを虐めるだけなら許せても、家族に被害を与えられたら黙っていられない。


 ATフィールドでボコボコにしてやったよ。


 あ、もちろん正体を見せずにだよ?

 姿を見せながらやったら父さんやマナに迷惑かかるしね。


 そんなこんなで小学二年生くらいの時は友達の“と”の字もなかったよ。

 マナもね。



 そんな時だったよ。


 “彼”・・・・・・・・・シンジ君に会ったのは。



 もちろん、ボクの知ってるシンジ君じゃない。

 だけど、すぐにこの世界の彼だって解ったよ。

 だってシンジ君は差別しないんだ。

 ボクの髪をキレイな色だって言ってくれて(ぽっ)、マナと遊んでくれた。

 ボク達と遊んでたから、彼も近所でちょっと虐められたけど、それでもやっぱりボクらと遊んでくれたよ。

 そんな優しい彼に、“前”の世界の想いのあるマナは一発でノックアウトされてたし、ボクも真の友だと確
信してたよ。


 もちろん、彼を虐めたクソガキ・・・・・・もとい、男の子たちは素っ裸にして公園の木に吊るしてやったよ。

 ATフィールドでザク斬りのサラダにされなかっただけ感謝して欲しいものだね。



 毎日とは言わないけど、けっこう彼は遊びに来てくれてたよ。

 例の赤毛・・・・・・ゲフゲフ・・・・・・アスカ嬢が幼馴染だっていうのに、見つからないように遊びに来ていてく
れてたんだ。


 スゴイよね。


 優しいね♪ やっぱり。


 父さんの転勤の時は、流石に泣いたね。

 マナも泣き崩れてたよ。

 でも、ボクらは必ず会えるって確信してた。

 実際に三年後に再会を果たせたけどね。



 それも、ボクの知ってる“あの”シンジ君と・・・・・・。


 いや、嬉しかったね〜。


 ボクの事をすぐに解ってくれたし、友達になってくれて本当に嬉しいって言ってくれたしね。


 泣きながら抱きついてきてくれたよ♪



 これからはずっと一緒に学校生活できるんだ。

 おまけに僕らの部屋はシンジ君たちの隣さ。

 いつでも遊びに行けるのさ。



 「ほら、お兄ちゃん行くよ!!」

 「ふぁかったほ、ふぁら(わかったよ、マナ)」


 口をゆすいで、タオルで口元を拭いてから荷物を持ってマンションの隣の部屋へ。

 もちろん、チャイムを鳴らす必要はないんだ。

 キーは知ってるからとっととドアを開けて、部屋に入った。


 「おはよう」

 ボクが爽やかにそう言うと、今正にシンジ君の部屋の前へと移動しようとしていた三人がいた。

 「ちっ・・・・・・間に合ったか・・・・・・」

 惣流さん、ヒドイんじゃないかな?


 「結局、四人でやるのか〜〜」

 残念そうだね、リリス・・・・・・いや、六分儀さん。


 「仕方ないわね。フェアじゃないし」

 そうですよ伊吹さん。


 「ホラ、早くジャンケンしよ。せっかくのハイキングなんだから」

 わかったよマナ。


 ボクはいつもの様に勝手にお茶を入れて飲む。

 今日の茶の葉は玄米茶だね。うれしいよ。

 ボクは持ってきた文庫本を開いて、本の続きでも読んでるとするよ。

 『○たちの沈黙』さ。

 いやぁ〜・・・・・・ハン○バル教授は最高だね。

 リリンの奇跡を感じるよ。

 この人の心の追い詰め方は正に芸術だね。


 今度はどの手で相田君を・・・・・・ゲフゲフ・・・・・・いや、なんでもないよ。フフ・・・・・・。



 「「「「せーーのっ!! さっいしょっはグー!!」」」」

 おお、始まったね。


 シンジくんを狙う女の戦いってヤツだね。









 ・・・・・・・・・あの世界の戦いに勝者はなかった。

 ボクを生み出したゼーレにしても、司令にしても・・・・・・・・・。

 実際に、前線で命を削って戦っていた適格者達にしても・・・・・・。


 あんな世界は要らないとは言わないけどね。

 あの時間があったからこそ生まれた絆があり、想いがある。



 ただ、つまんないエゴに踏みにじられたけどね・・・・・・・・・。



 だから今の皆は幸せなのさ。

 あの時代、あの戦いを乗り越えてきた皆だから、この幸せを受ける権利がある。



 それに、皆には言ってないけど、この伊吹さんも実は帰還者なんだよね。

 もっとも、ボクらのいた世界の・・・・・・じゃないけどね。

 本の隣のページの話みたいに、隣り合った別の世界からの“帰還者”さ。


 もっとも、記憶なんて持ってないけどね・・・・・・。


 どうしてこっちへ来たのかって言ったら・・・・・・実は僕が連れて来ちゃったんだよね。


 理由? シンジ君の情報を仕入れようして掴んだら返すの忘れて、そのまんまこっちへ持って来ちゃった
からさ。


 ヒドイ? でも、結果オーライだよ。

 結局、みんなライバルとして張り合ってるしね。

 生活にも張りが出てるって事さ。



 「勝利ぃいいっ!!」



 おお、マナ。やったじゃないか。

 悔しがる三人を尻目に部屋に風のように飛び込む。


 でも、音をたてずにそこまでやれるのはスゴイね。

 尊敬に値するよ。



 「ンん〜〜シンジくぅん・・・・・・」



 「くぉるぁあ〜〜っ!! 誰がそこまでやっていいと言ったぁ!!!」

 「シンちゃんになにするのよ〜〜!!」

 「シンジくんっ!!」



 う〜〜ん・・・・・・いつものパターンか。




 「あ、カヲル君。おはよう」

 少しして彼が挨拶をしてくれたよ。

 「おはようシンジ君♪」

 見事な紅葉をほっぺたに浮かべてシンジ君が起きてきたのさ。

 うんうん。アスカ嬢の愛の鞭ってやつだね。

 「何ニヤついてんのよ、アンタは」

 「いやぁ・・・・・・シンジ君に痛そうなマーキングつけたなぁ・・・と・・・・・・ぐはっ」

 「フンっ」


 ふっ・・・・・・さ、流石はNERV前の機械を破壊した脚力だね・・・・・・。


 鳩尾に入ると、とてもとても痛かったよ・・・・・・。


 「ダメじゃない、お兄ちゃん。アスカの蹴りをくらったら」

 ・・・・・・いつも言ってるけど、ボクは労わってほしいんだな・・・・・マナ。




 よっこらせと身体を起こして、台所のシンジ君を眺める。


 え? お腹は大丈夫かって?


 ははは・・・・・・ナニを言ってるんだい。この程度すぐに回復さ。


 でないと、惣流&六分儀&マナ&伊吹同盟攻撃を食らったら即死だよ?


 慣れだよ慣れ。



 とにかく、シンジ君さ。

 昨日の晩から仕込んでいたんだろう、一升の炊飯器×二のご飯を分けて、おにぎりを作ってるよ。

 ・・・・・・毎度思うけど、早くて正確だね。


 形が整ってるし・・・・・・おお、いつの間に薄焼き卵なんか焼いたんだい?

 俵握りに巻いておいしそうだね。

 ノリ、桜でんぶ、青ノリ、ふりかけ、きな粉、青菜もあるね・・・・・・流石シンジ君・・・・・・って、もうできた
のかい?

 
 むちゃくちゃ早いね(^^;)


 ソーセージでタコさん・・・・・・定番だね・・・・・・って、タマネギの輪っかでハチマキつけてるよ。

 ちゃんと口まで・・・・・ソレはニンジンの細切りかい? 芸が細かいね。


 ウズラの卵でミニスコッチエッグ。


 ミートソースのスパゲティもあるね。


 おや、カレー風味のキャベツの炒め物かい?

 サラダの代わりなんだね。


 もちろん唐揚げもあるね。これは当然、惣流さんのだね。

 唐揚げにそえられたレモンがいいねぇ。


 大豆肉のミートボール風は六分儀さんのだね?


 ・・・・・・さっきから気になってたんだけど、その包みは・・・・・・・・・パン?


 サ、サンドイッチまで作ってるのかい?


 そうか、マナの分だね?

 マナはパン好きだからね〜〜・・・・・・。


 彩りはブロッコリーかい?


 一度に三品づつ作っていくシンジ君。


 シンジ君・・・・・・キミは料理人か保父さんが向いてるよ?


 あ、保父さんは難しいね。

 若いママ達に誘惑されてるキミが見えるよ。


 料理人・・・・・・レストランのコックもいいね。

 ウエイトレスは皆でやるんだ。

 ウエイターはボクだね。



 ・・・・・・・・・そんな事を想像するだけで楽しいよ。



 ね? シンジ君。

 可能性はいっぱいだね。

 あの時代を生き抜いて良かったね。

 せっかくボクが死んで、人間の滅亡を防いだのに老人たちのせいでサードインパクトを起こされて・・・・・・。

 結局、ボクはシンジ君を傷付けただけだったね。


 すまない。シンジ君。

 だけど、今度はキミを守るよ。

 この世界に戦自はいないけど、現れたらボクは命を懸けて滅ぼすつもりだよ。

 もう、これ以上キミたちは苦しまなくていいんだからね・・・・・・・・・。











 やがて朝ごはんができた。

 もちろん、料理を運ぶのを手伝うよ。

 「ゴメン。遅くなっちゃった」

 全然早いよシンジ君。


 全員・・・・・・シンジ君、ボク、マナ、惣流さん、六分儀さん、伊吹さん、鈴原君、洞木さん、メガネ・・・・・・
いや、相田君。

 9人分だよ?

 キミは9人分のお弁当を二時間弱で作ったよ。

 それもボクらの朝ご飯込みで。



 キミは自分を卑下してたけど、本当にキミは凄いんだよ?

 ボクはなんでもできたけど、それは何にもできないのと同じなんだよ?

 キミ達人間には可能性がある。

 なんでも伸ばせるんだ。

 タブリスとしてのボクは、何でもできるようにされてたけど、結局死ぬ事でしかシンジ君を守れなかった。

 そしてそれは大間違いだった。

 人間たちの方がよっぽど色々思いつくのさ。



 良くも悪くもね・・・・・・・・・。







 さてと、ボクも早く食べよう。



 ・・・・・・でも、いつの間に塩ジャケと味噌汁と卵焼きを作ったんだい?

 味噌汁の具はシジミだよ・・・・・・・・・。

 ホントに呆れるばかりさ。


 「シンジ〜、ショーユ取って〜」

 「はいこれ」

 「シンジくん、海苔はもうないの?」

 「味付けのりでいいですか?」

 「シンジくん、海苔の佃煮〜〜」

 「『ご○んで○よ』でいい?」

 「シンちゃん、おかわり〜」

 「レイ・・・・・・食べ過ぎだよ・・・・・・」


 いつもながらの風景だけど、やっぱりシンジ君は押され気味だね。

 マナ、ボクも手伝うから、さっさと既成事実作ろうじゃないか。


 シンジ君とマナの愛の結晶・・・・・・楽しみだよ♪





 ・・・・・・・・・え? えらくマナの肩をもつって?

 ナニ言ってるんだよ。マナはボクの妹だよ?

 幸せを願ったらいけないのかい?






 ・・・・・・・・・それだけじゃない気がする?















 ・・・・・・・・・するどいね。















 じゃあ、コッソリと教えてあげるよ。



 ボクはマナの兄さんだよね?

 マナとシンジ君が結婚すると、




 ボクはシンジ君の『お義兄さん』になるのさ!!!




 シンジ君がボクを「にいさん」と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






 鼻血モノだよ!!!!!






 でも、今はヒミツなのさ♪






 「じゃあ、歯を磨いてから出発しよう」

 「そうだね。シンジ君」



 今日もいい天気だよ。



 とってもハイキング日よりだね♪






 ボクたちは戦争のない双子山に出かけた。












 シンジ君、











 これからも、幸せに生きようね。











 ボクがそうしてあげるから・・・・・・・・・。


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