見えるほど近くにあるというのに、双子山に上った経験なんか数える程しかない。


 考えてみたら、小学校の時の遠足が最後だったような気がする。

 でも、今回は友達だけで登る。


 ・・・・・・あ、と、友達だけじゃないけど・・・・・・・・・


 友達からランクアップしないかな〜〜〜なんて思ったりも・・・・・・・・・・・・・・・。



 いやん♪



 迫る姉さんとノゾミ、そしてお父さんを振り切って、私はなんとか皆と合流した。

 あの勢いであれば追撃してきそうなものだけど、なぜか追っ手はやって来なかった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・そう言えば逃亡中に黒い服を着た人がチラリと見えたけど・・・・・・・・・・・・・・・。


 ウン。気のせいよね。


 碇君、アスカ、六分儀さん、霧島さん兄妹、引率という形の伊吹さん、そして・・・・・・・・・。

 「よ、イインチョ。遅かったのぉ」

 鈴原・・・・・・・・・(ポッ)。

 そして私、洞木ヒカリ。

 計八人で・・・・・・・・・・・・・・・・。

 「待てよ!! オレもいるんだぜ?!」


 アレ? いたの? メガネ・・・・・・ゴホゴホ・・・・・・相田君。


 「い、委員長まで・・・・・・・・・」


 あ、ごめんなさい相田君。けっして悪気は無いのよ?


 「余計悪いわ!!」

 「ハハハ・・・・・・ダメじゃないか相田君。女の子にそんな言い方したりしたら」

 相変わらず霧島君がおっとりと口を開いた。

 でも、いつも思う事だけど、相田君相手には容赦が無いような・・・・・・・・・。

 「カ、カヲル・・・・・・・・・」

 ああ、やっぱり相田君は怯えてる。

 「確かにキミには思ってくれる女の子はいないよ? 皆無と言ってもいいね。シンジ君みたいに笑顔一つ
  でナンパできる訳じゃないし、トウジ君みたいにさりげない優しさを醸し出す事もない。君の外見的な
  印象なんて変態盗撮マニアぐらいなものだからね」


 ・・・・・・・・・やっぱりキツイわね。霧島君・・・・・・・・・(←否定はしていない)。


 でも・・・・・・・・・鈴原の事、ちゃんと理解しているのね♪ 感心感心。


 「うぐぐぐ・・・・・・だ、だが、お前はどうなんだよ!! オレの事はどうでもいいだろう?!」

 「ボクかい? ボクはマナやシンジ君が幸せだったらどうでもいいのさ」

 さらりと流す霧島君。

 妹思いと言ったら良いのやら、友達思いと言ったら良いのやら・・・・・・判断が難しいところ。


 「ち、ちくしょう〜〜〜・・・・・・オレだってなぁ・・・・・・」


 本格的にいじけの入る相田君。

 でも、相田君。

 あなたにはそういう権利は無いのよ?


 「相田君」


 実に優しげに相田君に語り出す霧島君。

 流石に慣れたけど、この顔になった時の方が彼はキツイ。


 「シンジ君は皆と遊んでても先生に文句言われないようにがんばっているし、

  マナはシンジ君が一生懸命勉強を教えてくれたからそれに答えるようにがんばったし、

  惣流さんはシンジ君といて色々文句を言われるのがイヤでがんばって勉強してるし、

  六分儀さんはシンジ君の邪魔にならないようにがんばって家事をやっているし、

  伊吹さんはシンジ君たちと分担で家事をする為に大学の講義を減らして家でがんばってるし、

  知っての通り洞木さんは家で家事をがんばっているし、

  トウジ君は母親の分妹さんの面倒をしっかり見てるよね?

  で、キミは?」


 「う・・・・・・・・・」

 「ボクには見えるよ相田君。高校の登下校中とかにリポーターに囲まれるんだ。それでボクの声にはプライ
  バシー保護の為にボイスチェンジャーがかけられて、君について聞かれたことを答えるのさ。

  『いや、彼ならやると中学の時から思ってましたよ』・・・・・・ってね」


 「ひ、人を犯罪者扱いするなぁ!!」

 「おや? 犯罪者ってボクが何時言ったんだい? ボクはリポーターに囲まれて聞かれてるとしか言って
  ないんだよ?」

 「う・・・・・・・・・」

 「うんうん・・・・・・自覚はあるんだね」


 「ち、違う!! オレは、オレはぁああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」



 相田君の声は、双子山に文字通り『木霊』した。



                           はっぴいDay’S

                         12・STEP マの山へ


 「霧島君、ちょっとやりすぎよ」

 私は“一応”彼に注意する。

 言って聞く相手でもないし、相田君にも自業自得なところもある。

 「いやあ・・・・・・すまないね、洞木さん。朝方『羊たちの○黙』読んじゃってね。ちょっと感化されちゃっ
  たんだ」

 チラっと後ろを見ると、

 「・・・・・・違う、違うぞ・・・・・・オレは盗撮マニアなんかじゃない・・・・・・確かに更衣室にカメラを仕掛けた事
  はあるし、プールの女子更衣室にカメラを置いた事はある・・・・・・だけど未遂なんだ・・・・・・未遂だから違
  うんだ・・・・・・」

 アヤシさ大爆発で相田君が意味不明なことを呟いていた。


 ちょっと感化されて人を壊すのは如何かと思う。



 ・・・・・・・・・だけど、今、相田君が言ってた更衣室のカメラの話ってナニ?



 正気じゃないから信憑性は低いけど、やってたなら許せない。

 って言うか、犯罪じゃないの。

 ああ、でも私のいるクラスから犯罪者なんか出たりしたら間違いなく内申に響くわ・・・・・・。
 私は委員長としての資質を問われるのね?!
 ああ、ヘタをしたら高校入試に響くじゃないの!!
 相田君のせいで?!
 あ、でも鈴原のところへ永久就職って手も・・・・・・。
 イヤン!! 私って気が早いわ!!
 だってまだ名前で呼んでもくれないし・・・・・・アスカみたいに『シンジ♪』『アスカ♪』って言い合えるほど
の仲になりたいわ。
 でも、そうなったらそうなったで、イキナリ強引に出てきたらどうしよう?
 鈴原・・・・・・ううん・・・・・・ト、トウジ・・・・・・(きゃ♪)
 トウジってばけっこうダイタン・・・・・・。
 あ、ダメよ・・・私たちはまだ中学生なのよ・・・・・・ダメだって・・・・・・私は委員長として・・・・・・ああ、そんな恥
ずかしい・・・・・・ダメん♪


 「・・・・・・・・・リ」

 ああ、場所を選んで欲しいの・・・・・・恥ずかしいったらぁ〜♪

 「・・・・・・カリ」

 でもでもでも、トウジがどうしてもって言うんだったら・・・・・・・・・。

 「ヒカリっ!!!!!」

 「きゃっ!!」

 びっくりする私の顔の前にアスカの顔があった。

 あれ? どうかしたの?

 「いきなり別の世界に行かないでよ! びっくりするじゃない」

 え? 別の世界? 何言ってるのよアスカ。

 溜息をついて『まぁ、いいわ』と私の前を歩き出した。

 ヘンなアスカ。

 そんな彼女と私を『どうしたの?』って顔で碇君が見つめてる。

 「なんでもないわよ」

 そう言うアスカの笑顔は、私から見ても綺麗だった。















 あの事故の起きる前、アスカと碇君は険悪な状態になっていた。

 傍目から見ても仲が良いのは解ってる。

 というか、二人とも相手が近くにいないと落ち着かない。

 でも、生来の意地っ張りであるアスカが人の忠告なんか受け入れる訳が無い。

 だから私も黙ってた。


 そして、それが裏目に出た・・・・・・・・・。


 何を思ったか、相田君が変な気を利かせて碇君を買い物に誘ったのだ。

 そして、彼はアスカにはデート用の買い物に行っているというニセ情報を流した。

 アスカは皆に強い女の子ってイメージを貼り付けられてるけど、実際は孤独を異様に恐れてるか弱い心を
持っている普通の女の子。



 それに気付くわけもない相田君のヘボ作戦は私達に内緒で実行された。



 ちょうど私の家に来ていたアスカの携帯にそのメールが入り、アスカは顔色を変えて飛び出して行った。

 落として行ったアスカの携帯を拾い、後を追った私の前で、アスカと碇君は言い争っていた。


 碇君は訳が解らないからオロオロしてたし、

 アスカは自分を騙してたと問い詰める。


 頭に血が上ってるアスカが冷静に状況判断できる訳も無く、テンションは上がり続けた。

 ふと見ると、近くで相田君が隠れてカメラを構えていたのでひっ捕まえて問い詰めてやっと理解した。


 なんて馬鹿な事を!!!!!

 アスカを傷つける事を何より嫌う碇君にそんな事をさせるなんて・・・・・・・・・・・・!!!!!!


 「もういいっ!!!!!!」


 私が相田君に血の粛清をやっている間に、アスカの切れてしまった声が響く。

 アスカは近くに止まったバスに飛び乗る。

 そして彼女を追い、碇君も飛び乗った。

 走り出すバス。

 頭に血が上ったアスカが行き先なんか見てる訳が無い。

 せめてどこ行きのバスか確認しようと、行き先を調べている時、









 そのバスにトラックが突っ込んだ。








 完全に信号無視。

 そして飲酒運転。

 ブレーキと間違えてアクセルを踏み込んだ大バカモノ。

 さらにバスの運転手に向かって、『いきなり出てくるんじゃねぇっ』て文句を言っていた。


 道交法すら知らないバカの後頭部にファイナルエルボーをかまし、二人を探す。








 二人は、










 車から投げ出され、















 固く抱き合った格好で、














 外灯に、ぶつかっていた・・・・・・・・・。





































 アスカは碇君に庇われた形で頭部を強打し、

 碇君はアスカを庇って、背中中にガラスを突き立てていた。

 実際、碇君に庇われてなかったら、アスカはズタズタになっていただろう。







 ずっとお見舞いに通ったけど、何日も何日も意識が戻らなかった。


 初めて抱き合ったのが、二人の最後なんて悲しすぎる。

 私は毎日、祈りながら通院した。








 一週間後、唐突に二人の意識は戻った。



 記憶が混乱した形で・・・・・・・・・。



 特にアスカが酷く、ヒステリー状態だった。

 でも、碇君は辛抱強く看病した。

 毎日通ったけど、アスカにはまだ会えない。


 碇君は直ぐに落ち着いてたから会うことができた。


 「がんばるわね。大丈夫? 碇君」

 「あ、うん。大丈夫だよ鈴原さん」


 ・・・・・・まだ記憶が混乱しているみたいだった。

 でも、鈴原さん? やだ、も〜〜〜〜〜〜〜♪

 鈴原の奥さんみたいじゃないの♪


 「あ、えっと・・・・・・洞木さん・・・・・・だよね? 今は」


 変な納得の仕方だったけど、記憶があるんだったらまだマシなのだろう。

 私はそう思ってあえてつっこまなかった。

 「アスカ、大丈夫かな?」

 心配そうな声でつい言ってしまう。


 「うん。今度は絶対に離れないから。絶対に大丈夫」



 多分、私はびっくりした顔をしていたんだろう。



 今までのオドオドした顔が無い。

 私の知ってる碇君と違う。

 ううん・・・・・・・・・違うんじゃない。

 なんて言うか・・・・・・久しぶりにあった同級生? そんな感じになっていた。


 変な話だけど、私はその時、彼が少し大人になってると感じた。



 彼の言葉通り、五月に入るとアスカは退院してきた。



 前よりなんだか元気になった。

 前より英語と数学の点が上がった。

 そして、前より碇君に素直になった。


 ・・・・・・・・・でも、前より碇君に対しての愛情表現が酷くなった。


 六分儀さんと霧島兄妹が転校してきて、なんだかよく解らないけどマンションの一室でアスカと碇君と六
分儀さんが共同生活を始めて、なぜか保健室の赤城先生の後輩である伊吹さんまで一緒に暮らしている。

 前以上に碇君の性格が良くなって、なんだかカッコ良くなった。

 だから、今の碇君はよくモテル。

 で、アスカ達は必要以上にベタベタする。


 「ほ〜〜〜・・・今日も嫁さんと仲ええのぉ〜〜〜」

 鈴原のからかいも、

 「ふふ〜ん。いいでしょ♪」

 とアスカが返してくる。



 ホント〜〜に正直になったわ・・・・・・。



 それはそれで親友としては嬉しいけどね・・・・・・・・・。



 でも、本当に良かった。


 確かに、今のライバル達との碇君を巡っての戦いが平和とは言わない。

 だけど、正直に自分の気持ちをさらけ出している今のアスカも好きだ。

 やっぱり自分の友達があんなに嬉しそうな顔をしているのはとっても嬉しい。



 ・・・・・・・・・・・・・・ちょっと風紀を乱されているのは困ってるけどね・・・・・・・・・・・・・・・・



 「ヒカリ〜〜〜〜〜〜〜置いてくわよ〜〜〜〜〜〜」

 向こうで親友が手を振ってる。


 自分ばっか幸せを噛み締めている親友に、


 「待ってよ、アスカ」


 と急いで駆け寄ってゆく。




 ホント、女の友情って薄情。


 でも、私の時は協力してもらうわよ。


 散々、私達に仲を見せ付けていちゃついているんだからね。





 でも、そんな日が来たら、私も風紀を乱すんだろうなぁ・・・・・・・・・(ぽっ)。





 そんな弾むような気持ちで、鈴原の横を歩き出した。



 山の上までもうちょっとだ。


 私は鈴原と一緒に碇君達の後を追った。











































 「ヲイ・・・・・・オレは無視か?」

 「ハハハ・・・・・・何を言っているんだい相田君。僕がいるじゃないか」

 「なんでお前と仲良く歩かにゃならんのだ!!!!!!!!!」

 「決まってるじゃないか。シンジ君達や洞木さん達の邪魔にならないようにする為さ」

 「うう・・・・・・オレの春は・・・・・・」

 「来ないね(キッパリ)」

 「うう・・・・・・」

 「さぁ、仲良く西洋の拷問の話でもしようじゃないか。まず熱湯とタワシを用意してだね・・・・・・」

 「や〜〜〜め〜〜〜ろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 平和な双子山で、メガネ少年の叫びは木霊するのであった。


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