───なんて事だ・・・・・・・・・。


 彼は自分の愚かさを思い知った。

 計画は完璧である。

 カミソリの刃の隙間も無いほど。

 だが計画と言うものは、実行する事の方が難しいのだ。

 彼はその事実を愚かしくも失念していたのである。


 中立軍の姿はあっても、友軍らしきものは影すら無い。

 正に孤立無援である。


 「クソ・・・・・・どうすりゃいいんだ・・・・・・」


 彼の心を深い闇が取り込もうとした時、


 「何をやってるんだい?」


 と、異様に優しい声がした。


 「・・・・・・見ればわかるだろう?」

 「ん〜〜〜・・・・・・解らないねぇ・・・・・・山積みの課題と唸る君がいるくらいだね」

 「そのまんまだ!! 課題が終わないんだよ!!」

 「な〜んだ。そっか」

 あははと明るく笑う少年。

 「くっそ〜〜・・・・・・俺にはやはり友軍はいないのか・・・・・・」

 「いないね(キッパリ)」

 「・・・・・・・・・」

 「キミがそのまんま成績暗黒街道をまっしぐらに進んで、高校にも行けずに浪人して、自分の不甲斐無さ
  を棚に上げて社会に恨み言述べながら町を歩いて、タチの悪い美人局のお姉さんに引っかかって、保険
  金掛けられて殺されたってなんとも思わないけど、そんな事になったらシンジ君が悲しむからね。是非
  ともキミには頑張ってほしいのさ」

 ボロクソであった。

 「・・・・・・俺の存在価値って・・・・・・・・・」

 やや捨て鉢な言葉が出るのも致し方ないことであろう。

 「んん? いい事思いついたよ相田君。キミの保険金の受取人名義を僕の父さんにするんだ」

 「・・・・・ドコがいい事なんだよ」

 「何を言ってるんだい。父さんの事だから、そのお金はマナの為に使ってくれるよ? シンジ君との結婚
  資金にするに決まってるじゃないか。キミはシンジ君とマナの新婚家庭の礎になるんだよ」

 「お前!! 俺をなんだと思ってるんだっ!!!!!!!」

 「ん〜〜〜・・・・・・」

 唇に指を当てて、美少年は考えた。

 「・・・・・・・・・獲物・・・かな? 食いちぎってズタズタにしても胸が痛まないし・・・・・・ね?」


 ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!


 人語を失ったような絶叫が、“学校”の図書室に木霊した。




                           はっぴいDay’S

                       13・STEP 夜の大捜査線 前編




 案の定、悪鬼となった山岸マユミ嬢に叩き出された。

 ひょっとしたら彼女の背中に鬼面が出ていたかもしれない。

 それ程お怒りであった・・・・・・。


 「また追い出された・・・・・・・・・」

 ガックリと肩を落として歩くヒカリ。

 真面目に委員長を続けてきた彼女にとって、態度が悪いと図書室を追い出されることは恥以外の何物でも
ない。


 それもこれも、このメガネ男のせいである。


 (他の人の4倍とはいえ)夏休みの宿題をほとんど手を付けていなかったケンスケは、特別に課題を突き
つけられた。


 増量数分の合計量、宿題のざっと4倍。


 自業自得とはいえ、ムチャ多い。


 さらにヒカリは、ミサトに監視員を命じられてしまう。

 これで彼女の友人ズ(つまりはアスカ達)が巻き込まれ、ケンスケの逃亡確立は限りなくゼロになる。


 それを見越してのミサト教諭の策であった。

 人心を掌握したヤな策である。

 ミサトの根性曲がりな部分をヒシヒシと感じると言うものだ。


 ヒカリの溜息も深くなるばかりだ。


 「ケンスケも懲りんやっちゃなあ・・・・・・もっと静かにしとったらどないや?」


 その横でトウジが呆れた眼で友を嗜めるも、


 「お、俺はネズミなのか・・・・・・イタチに玩ばれてただ殺されるだけのネズミなのか・・・・・・? 白いイタチ
  が俺をいたぶるんだ・・・・・・・・・助けてガンバ」


 やっぱり壊れたまんまであった。


 「アカンわ・・・・・・」


 その他の面々は静かなものだ。


 カヲルは(ナニが楽しいのか)ニコニコとケンスケを見つめ、レイとマナはムスっとして歩いている。


 ?


 二人足りない。


 「アスカと碇君は病院に行ったままなの?」


 実に何気なく、

 ヒカリが燻っていた火に、ガソリンとシンナーと混合液体燃料を掛けてしまった。


 瞬間、顔を赤黒く染めてゆく美少女二人。反比例的に青くなるトウジとヒカリ。


 「「そうよっ!!! あの赤ザル〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」」


 いきなり再起動し、怒声の雄叫びを上げる二人。

 なんとなくユニゾンしているのが二人の怒りの深さであろう。


 「まぁ、いいじゃないか。たまに二人っきりにさせてあげてもね」


 突拍子も無いセリフを二人に投げかける少年。

 ビル火災にナパーム落とす行為だ。


 ヒカリやトウジは瞬間的に青を通り越して白くなる。


 「殺っ!!!」


 音の伝達速度でレイの拳が放たれる。




 ずぱぁあああんっ!!!




 いい音がして吹っ飛ぶメガネ。


 ・・・・・・・・・メガネ?


 そう、命中する前にカヲルはケンスケを盾にしたのである。


 ぷしゅ〜〜〜〜〜・・・・・・と煙を吹くケンスケ。


 「どうどう・・・」

 「わたしは馬じゃないわよぉ〜〜〜〜っ!!」

 流石のヒカリも宥める事しかできない。








 事の発端は五時間目の社会の時間であった。




 誘眠の魔法のようにボソボソと語られる日本史。

 昼食後である五時間目の授業ほど眠くて辛いものはない。

 真面目なシンジは当然ながら眠ってはいなかったが、食べに食べまくるレイはスッキリと夢の世界へと旅
立っていた。


 「むにゃ・・・・・・わたしが守るもの・・・・・・zzz」


 他の生徒はともかく、シンジは何の・・・・・・というか“何時の”夢を見ているのか理解できた。


 「うにゅ・・・・・・どういう顔をしたらいいか解らにゃい・・・の・・・」


 やや、壊れてはいたが・・・・・・・・・。


 そんな時にその人物はいらしたのだ。

 「ちょっとスミマセン」

 切りそろえられた金髪の白衣の美女。

 仮にも中学校の保険医が髪をパッキンに染めていいのか? と言いたくもなるのだが、これが彼女のポリ
シーの様なので致し方も無い。

 言わずもがな、第壱中学保険医兼NERV医療部主任の赤城リツコである。

 「おや、赤木先生。どうかなさいましたか?」

 本を閉じてこの美女に相対する社会教師。

 教師とは言っても男は男。

 一般社会に出てからは滅多に役に立たない歴史なんかより、美人と話すほうが楽しいに決まっている。


 「ええ。ちょっと生徒二人をお借りしますわ」

 そう言って教室を見回し、シンジ達の姿を見つけると、

 「碇君、惣流さん。今日は検診日よ?」

 と声をかけた。


 「え? あ。そうか」

 「今行くわ」


 例の交通事故の後遺症から完全に立ち直ってはいない(と思われている)二人は、定期的に病院で検査を
受けているのである。

 病院・・・・・・とは言っても、NERVの医療研究部の最高レベルの検診システムによって行われるものであ
る。

 その待遇は国外VIP並みである。

 用心深い・・・・・・というか、スーパー親バカな人達のせいで、なかなかもう定期検査に来なくてもいいよと
言ってくれない。


 もっとも、アスカはシンジと二人になれるので文句は無かったりする。


 二人はすぐさま鞄に教科書等を詰め込み、席を立つ。


 シンジはレイに何か言い残してから行こうとしたのだが、

 「よく寝てるから、後でメール送ればいいじゃない」

 というアスカの案を受け入れ(真に受け)て、そのまま二人で教室を出て行ってしまった。


 『アスカ・・・・・・やるわね・・・・・・』

 と、ヒカリが思ったとか思わなかったとか・・・・・・・・・。


 実際、アスカはレイが起きないように音をたてずに移動していたのだ。

 何かたくらんでいる事は間違いない。

 ケンスケにしても、教室を出る寸前のアスカの、

 ──ニヤリ・・・・・・──

 というゲンドウ笑いを見てしまったのであるが、レイにこの事を教えるとアスカに殺され、教えなかった
としたらレイに殺される。

 よって、『自分は寝てたからわかんな〜い』という妥協案に出た。

 ・・・・・・・・・つまり、寝たのである。


 もっとも、レイほどの美少女であるのならば、

 『はっはっはっ・・・・・・夜更かしかな? 仕方の無い子だなぁ』

 と笑って済ませてくれたであろうが、残念ながら相田ケンスケはれっきとした男であり、遺憾に思うが美
少年ではない。

 尚且つ、見た目がカメラヲタクである。

 シンジ級であるのならば、

 『うんうん・・・・・・いつも家事をやって疲れているんだね・・・・・・まぁ、今回は大目に見よう』

 とか思ってくれるであろうが、残念ながら彼は相田ケンスケである。

 『むむ・・・・・・また夜中までエロサイトを覗いていたのか? いや、覗いていたのだ! そうに違いない! 
  なんとゆう不真面目な態度だ!! 許せんっ!!!』

 と決定される事は間違いなし。

 そんな誤解で課題が上乗せされたのは公然の秘密である。





 後にレイは、この時間眠ってしまった事をケンスケをサンドバックにしつつ大後悔する事となる。





 で、


 五時間目の休み時間、何時ものよーにシンジに会いに来たマナは、彼がいない事に驚き、レイを叩き起こし、
ヒカリに訳を聞いて焦っている所へ、ケンスケが、

 「後でメール入れるって言ってたぜ?」

 と余計な事を言って、レイとマナに、

 「「なんで止めなかったのよぉ〜〜っ!!!!!!!!」」

 と理不尽なリンチを与えられたのは、いつもの事である。


 結局、二人は愛しい彼のメールを待つ為にヒカリに付き合ってケンスケの課題の監視を手伝っていた。

 それがさっきまでの話である。




 そして現在。

 何の音沙汰も無く、無常にも時計は四時を示していた。

 「でも、変ね。碇君だったら律儀にメールくらい送るんじゃないの?」

 「せやな・・・・・・何かあったんやろか?」

 心配そうな二人に、

 「止めてよ!! 勝手にシンちゃんを不幸にしないでよ!!」

 「そうよ!! どうせ検査が長引いているんだわ」

 と二人が食って掛かった。

 「あ、ゴメン・・・・・・」

 「悪かった・・・」

 素直に謝る。

 「まぁまぁ、二人とも。鈴原君や洞木さんだって心配してるからそう言ってくれてるんだよ? いくらイ
  ラついているとは言え、そんな言い方はないんじゃないかな?」

 カヲルの言葉にちょっと落ち込む二人。

 今度はその二人をトウジたちが励ます。


 まことに微笑ましい光景だ。


 結局は皆が皆してシンジ達を心配しているのだから、その光景は否が応でもカヲルの心を満たす。

 人間達の優しい部分を見られることは、人間が好きな彼にとっては糧ともいえるのだから・・・・・・。




 ちゃんちゃちゃちゃ、ちゃんちゃちゃちゃちゃ〜〜〜〜〜〜ん♪


 不意にレイの携帯から、なんだかレベルアップでもしそうな音楽が流れた。

 メールの着信音である。

 「ん? シンちゃん?!」

 慌ててカバンからミニサイズのシンジストラップ(NERV謹製)付きの携帯を取り出して確認する。


 発信者は・・・・・・『赤猿』となっていた。


 「なぁ〜んだ・・・・・・アスカかぁ〜」

 本人にばれたら大変な騒ぎになりそうな登録名である。

 「なんなのよ〜・・・まった・・・・く・・・・・・・・・・・・」

 メールを読むレイの顔色が段々悪くなってゆく。

 そう、鬼の如く赤黒く・・・・・・・・・。

 「ど、どうしたっていうのよ?!」

 慌ててマナも覗き込む。

 ハッとして、これも鬼と化す。

 「んん〜? 何かな?」

 固まった二人の間から、カヲルが呑気に覗き込む。



 画面には、


 『From ASUKA

  へっへ〜〜〜ん。

  これからシンジと二人っきりよ♪

  八時になっても連絡無かったら・・・・・・ま、色々やってるから♪

  それじゃあね〜〜〜〜〜♪

  To.居残りの皆様へ☆』


 とあった・・・・・・・・・。



 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 火山の噴火直前であった。

 遅れて覗き込んだケンスケが、


 「うわっ!! 惣流の作戦勝ちかぁ〜」


 等と、いらん事をほざいてレイとマナからランページゴーストを食らって血の海に沈む。





 「「あんの赤毛猿がぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」」





 ついに火山が噴火した。

 浅間山も富士山もビックリの大噴火だ。


 トウジですらヒカリと抱き合って震えるしか無い程、今の二人は恐怖の化身となっていた。











───ニヤリ・・・・・・。

 真に恐ろしいアスカのゲンドウ笑い。

 メールを転送し終えたアスカは、ぱくんっと携帯を閉じた。


 ここは本屋のレジの横である。

 シンジが参考書と料理の本を買っている間に、レイにメールを送ったのだ。


 これで邪魔は入らない。

 シンジと二人っきりである。

 どうせレイとマナの事だ。

 簡単に引っかかってくれるだろう。

 仮に、空振りに終わったとしても、“あの”メールからでは細かい事まで解らないだろう。


 『ククク・・・・・・・・・今日こそ久しぶりにシンジとベッドを共にするわ・・・・・・』


 久しぶりとは言っても、中学生の身体になってからはそんな事などした事がない。


 いや、チャンスはてんこ盛りであったのだが、せっかくだから普通の中学生生活を楽しもうとしたのが間
違いであった。


 その間にレイが増え、マヤと同居になり、マナが隣に越して来て・・・・・・・・・。

 スゥイーーーートな時間は全く無くなってしまったのだ。


 どうせなら、とっとと結ばれて妊娠でもして既成事実でも作っておけばよかった・・・・・・・・・。

 と、常々思ってたりしてたのは公然のヒミツである。


 だが、今日こそチャンスである。

 シンジの身体なぞ、すみからすみまで知り尽くしているという自負がある。


 だったら、シンジの初めては自分の初めてと無理にでも交換してやる!!


 それに、“前”の世界では夫婦同然に暮らしていた二人だ。

 自分もシンジも、お互いの性感帯は知り尽くしている。


 だったら、“はぢめて”とは言え、失敗は無いであろう。



 『フフフ・・・・・・・・・見てなさいよぉ・・・・・・・・・』


 アスカの目は萌え・・・・・・いや、燃えていた。


 『父ちゃん、オレはやるぜ!!』のノリだ。


 言うなれば、『ママ、アタシはヤルわよ!!』であろうか?


 「どうしたのアスカ?」

 シンジが心配そうに覗き込む。

 「え?! ううん。なんでもないわ」

 「そう?」

 なんとなくではあるが納得して二人で店を出た。


 こんな優しい男を他人に渡してたまるもんですか!!





 そしてアスカは打って出た。





 途中、何故か公園のトイレに寄る。




 そこまではレイもマナも情報を得た。




 しかし、そこでレイとマナの命で捜査していた黒服が二人をロストしてしまったのだ。







 現在、PM 05:06。

 大捜査の夜が始まろうとしていた・・・・・・・・・。


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