都会の喧騒から離れたココは、とても静かだった。





 壁は組んだ丸太。床も木。


 窓の外は夜の雪景色。


 暖炉ではくべられた薪がまだ燃えていた。



 自分に割り当てられた部屋なのに、ベッドで横になる自分の横には自分以外の人間がいる。




 愛しい彼。


 大切な彼。


 本気で好きなのに、散々いじめてしまって、よく逃げられた。


 でも、自分が本当に寂しい時には絶対に離れなかった優しい彼。



 どうしても素直になれない自分がもどかしかった。


 大切な想いを口に出せない自分が憎らしかった。




 でも、そんな自分に対して、彼が強引ともいえる行動に出た。



 嬉しかった。


 拒めなかった。


 彼も同じ気持ちだって解ったから・・・・・・。

 




 でも、問題は、自分達が若すぎた事。





 だから内緒にする事にした。



 いつか結婚できる年齢になる日まで。











 そう、たとえ自分の親にも・・・・・・・・・。











 でもね〜〜〜・・・・・・はよ言うときゃよかったと後に後悔してたり・・・・・・・・・・・・。
























───PM 6:45 レイ・マナ混合チーム 第三東京市上空


 「こちら“Blau Blitz(青い稲妻)”。先行するチームに入電。
  ターゲットコード “あたたかなる王子”と“赤猿”の確保最優先!! 
  されど毛一筋の傷をも負わせると貴君らの命は保障されない!!
  これは全隊に波及される」

 『Luft Wolf(空の狼)隊、了解』

 『Rot Wolf(赤い狼)隊、了解』

 無骨な軍用偵察攻撃ヘリBlau Blitzはサイレントモードで飛行していた。

 その狭い座席に座るのは、パイロット以外では美少女二人。

 彼女達は自分の想い人の操が汚されるのを恐れている為か落ち着きが無い。

 先行する“Luft Wolf隊”と“Rot Wolf隊”は特殊戦闘ヘリで最高速度だとマッハ1.2にもなるのでもう視
認はできない。


 一隊七機編成という変わった構成だが、それでもダークブルーとワインレッドの機体は綺麗な隊列を組ん
だまま高速飛行を続けていた。


 当然ながら、全機軍用の特殊機体である。

 「シンちゃん・・・」

 「シンジくん・・・」

 少年を心配する少女の口から、その心情が漏れる。

 「「あなたとスるのはわたし(あたし)よ・・・・・・」」



 ギンっ!!!



 お互いの言葉に気付き、顔を見合わせて睨みあう。

 別の意味で高まる緊張感に、往年の名俳優ロイ・シャイダーに似たパイロットは顔を青くして震えていた。



───同時刻 都市高速道路上 伊吹隊

 「都心部からはずれて芦ノ湖に向かうのならここでバイパスに乗るはず・・・・・・急いで!」

 『サンダー・フォース隊、了解!』

 『メガ・フォース隊、了解!』

 地上を爆走する戦闘バギーの群れ。

 大型のコンボイに似た、高速移動用大型特殊戦闘指揮車両“175”は後方からバギーに指示している。


 MAGI・弐式に直結させたマヤのノートパソコンには衛星軌道上から送られてくる多量のデータが映し出
されている。

 マヤはそのデータを片っ端から検索し、不必要なものをどんどん消してゆく。

 キミは医学部じゃなかったっけ? と言いたくなるほどの手際である。

 どちらかというとネットクラッカーが向いているような気がしてくる。


 『ターゲットと思しき車両、発見!! 車両確認・・・・・・メタルブラックのポンティアック・ターボジェッ
  ト後輪駆動2ドアクーペ・トランザム82年型モデル・・・・・・ナンバー照合・・・・・・NERVナンバー!! 
  間違いありません!! 惣流家の車両です!!』


 通信機から飛び込む声に顔を上げるも指はキーの上を走っていた。


 「確保してください!! もちろん怪我なんかさせないように!!」

 『了か・・・・・・うおっ!!』

 「どうしました?!」

 『タ、ターゲット加速!! くぅっ・・・・・・速い!!』

 「流石はアスカの御両親・・・・・・やるわね・・・・・・」

 おそらく車を改造しているのであろう。

 だが、こちらも普通車ではない。

 「全隊、ターゲットを拘束してくださいっ!!」

 『『『『『『了解!!!!!!!!!!』』』』』』


 日暮れに差し掛かる第三東京市で、真にはた迷惑な追跡劇が繰り広げられるのであった・・・・・・。







                          はっぴいDay’S

                      15・STEP 夜の大捜査線 後編






───PM 7:05 双子山周辺

 『こちらFチーム、“ひつじの涙”捜索終了! 該当者なし!』

 『こちらMチーム、“フライング・ハイ”捜索終了! 中学生らしいカップルは居たがターゲットにあらず!』

 「そんなのほっといて捜索を続けなさい!!」

 『了解!』

 『こちらGチーム、“ミルク・くらうん”捜索終了! 第壱中学の副校長と小学生を発見! 
  如何いたしましょうか?』

 「そんなの証拠写真とってほっぽり出しなさい!! シンちゃんの確保優先だってば〜〜!!」

 『り、了解!!』


 捜索は芳しくなかった。

 メールを受けてからはや二時間。

 事によったらシンジの身体はおろか心まで陵辱されている可能性がある。



 アスカならヤる!!



 根拠は全く無かったのだが、なぜだかレイはそう確信していたりする。

 ただのやっかみに違いないのだが、正面きってそう言える者がいるわきゃない。


 それよりなにより、レイとマナは自分らが作戦をミスっている事に今頃気付いていた。



 『なんで施設内対象者捜索作戦に、クラッキングができるマヤを連れて来ていないんだ?』



 である。

 レイはともかく、マナは実動実戦隊向きである。

 つまり、作戦実行部隊隊員“のみ”で戦っているようなものである。


 後方支援が無い戦闘・・・・・・・・・。


 補給の無い機甲師団が戦える訳ないのだ。


 「こんな事でシンちゃんの貞操が・・・・・・あ〜〜〜〜〜っ! わたしのばか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」



 今更言ってもねぇ・・・・・・・・・。





───PM 7:08 伊吹隊 


 カーブをものともせず走る黒いトランザム。

 ほとんどチェンジだけでカーブにドリフトで突入し、アクセル踏み込んで切り抜ける。

 後に残るのは路面のドリフト跡のみ。

 まるでブレーキという存在を忘れたかのようなキチガイじみた運転に部隊員も顔色が悪い。

 『一体、誰が運転しているんだ? レーサーか?』



 いや、レーサーではない。


 ないのだが・・・・・・公道ではわりと知られた人だった。

 十数年前から“コヨーテ”の名で公道レーサー達を震え上がらせていた伝説の人・・・・・・・・・・・・。


 「ふんふ〜ん♪ バギーのくせによく舗装道路をついて来れるじゃない。いいわね〜〜楽しくって♪」


 ───キョウコさんであった。


 「キット(K.I.T.T./Kyoko Industries Two Thousand)、1キロ以上の直線まで後どれくらいなの?」

 カーナビのように取り付けられているスーパーサポートAIに問い掛けると、

 『後15秒です。キョウコ』

 と、丁寧な英語が答えてきた。

 「OK♪ SPM準備ね〜」

 『はい』


 直線に入った瞬間、トランザムのフロントバンパーがせり出し、車体の両脇から小型のウイングが出る。

 リア・ウイングが可変し、トランザムはそのまま加速する。

 さっきまでの速度がラリーだとすれば、今の速度はF1だ。

 いくらフルチェーンされているとはいえ、舗装道路をバギーでは追いつける訳がないのだ。

 更に、本来は高速追跡モードであるSPM(Super Pursuit Mode)を逃亡に使われてはたまらない。


 「わ、わぁっ!! 速すぎるっ!! 追いつけない!!」


 流石に慌てる面々。




 しかし、




 クゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン。




 その車間を縫うように黒いバイクが出現する。

 まるで鞭のように車体をしならせ、バギーの群れをかきわけて前方のトランザムを追いかける。


 黒いバイクに漆黒の特殊バイクスーツ。

 そしてそのバイクを操る者の背中にあるのは、『NERV保安部』のマーク。


 『いきなりバイクが・・・・・・照合該当なし?! いったい・・・・・・』

 通信機からは混乱する実動隊の様子が見て取れた。

 「黒いバイク・・・・・・? 保安部?」

 マヤが思考の海に行く前に、通信機から良く知った声が聞こえてきた。

 『やっほ♪ マヤちん、おげんこ〜?』

 この、とてつもなく根アカな声は・・・・・・。

 「・・・・・・葛城さん?!」

 『そおよん♪ リョウから頼まれちってね〜。町中が混乱してるからこの子を使って暴走車両止めてってさ』

 いつもいつも頼りない女ではあるが、こと戦闘となるとイキナリ頼れる女となる。

 この友軍はハッキリ言って天の助けだ。

 「お、お願いします!! その黒いトランザムに追いつけないんです!!」

 『当ったり前じゃない。スーパーサポートAI“キット”をつんでる“Kyouko2015”よ? フォース
  のバギーの能力なんか凌駕してるわよ』

 「じ、じゃあどうやって・・・・・・」





 「だから“この子”で来たのよん♪」

 ヘルメット内部からミサトの網膜に転送表示されるデータから芦ノ湖に向かっているのは間違いない。

 そして、今のうちに距離を詰めなければならないことも解っている。

 ならば・・・・・・。

 ミサトは通信機のチャンネルを保安部にいる加持に切り替えた。

 「リョウ。ハイパースラストお願いねん♪」

 『解った。頼むぞ』

 保安部のコンピューターに直結してあるこのバイクには特殊追跡モードが搭載されており、コンピューター
のサポートにより、とてつもない加速を得る事ができる。

 サポートが必要なのは、速すぎて人間では運転できないからだ。


 『4、3、2、1、Go!!!』


 シートに固定される身体。

 グリップにつかまれる両手。

 全てがこのモードにおける搭乗者の安全の為。


 お蔵入りになったとは言え、いかなる犯罪者も逃さない特殊警察車両は伊達ではない。

 ただ、運転するものに人並みはずれた度胸と技術が必要なだけなのだ。

 この、“Street Hawk”には・・・・・・・・・・・・。


 「キャッホ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」


 後のテールが赤く光ったと思った瞬間、バイクは点になった。

 「な・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ??!!!」

 流石のフォース隊も眼が点になった。

 ハイパースラスト・・・・・・時速300マイルの世界で走行するバイクの世界など解る訳もなかった・・・・・・。




───PM 7:35 双子山周辺

 「どういうことなのよ〜〜?!」

 周辺地区──駅前から双子山の頂上まで──をローラー作戦で探索したのであるが、シンジとアスカの影
すらも発見できない。

 発見できたものは・・・・・・・・・。

 
 ローティーン〜ハイティーン・・・・・・・・・二十三組。
 対象年齢範囲外カップル・・・・・・・・・・・・・八十七組。
 援助交際等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三十六組。

 等のカップル達。

 後は、覗き等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二十七人。



 である。

 それでも発見できない二人・・・・・・・・・。


 そして、ついにロッジに前に集結してしまった。

 「い、以上、捜索終了です」

 流石に捜索隊の声も固い。

 怯えているからである。

 総指揮官たる少女に。


 「やられたっ!! こっちはダミーよ!! 全軍、芦ノ湖へ急行!!」

 「「「「「「り、了解!!」」」」」」


 しかし、まだ冷静であった。

 少年に凌辱行為が及んだと決まったわけではないからだ。

 部隊員たちは少年の貞操の無事を心から祈りつつ、機体へと駆けて行った。




 『でも、俺だったら据え膳食っちまうよなぁ・・・・・・』

 と思ったりした事は、まあ当然ではあった・・・・・・。





───PM 7:45 芦ノ湖湖畔 ボート乗り場近く場駐車場前


 「やられたわね・・・・・・」

 「あら? 何の事かしら♪」

 ミサトの前では楽しげに微笑むアスカママことキョウコと、死人のような顔色のアスカパパがいる。

 そして、赤みがかった金髪の少女と黒髪の少年はどこにもいなかった。


 流石に追い付きはしたのであるが、ゴールには同着であった。

 追跡と確保が任務だった気もしないでもなかったが、途中からただのレースと化してしまい、ドライビン
グ・ハイになっていたミサトはそのままのノリで突っ走ってしまったのである。


 『やるっ!! そこで切り込んでこれるとは思わなかったわよん♪』

 『いい度胸してる。体重移動はムチャクチャなのに良く走れるわね』 


 てな感じ。




 マヤとMAGI弐式によるセキュリティのクラッキングによって付近のホテルに居ない事は確認されてい
る。

 レイの指揮するフォース隊らと違い、こちらはクラッキングのプロである。

 付近一帯の捜索など10分も掛らないのだ。


 もっとも、彼女らの部隊分け等はキョウコの策の一つである。



 シンジ達がいる可能性が高く、かつ速度を必要とするのならば、車に弱いレイがヘリを使う事は読んでい
たし、マナ達の性格からレイ・マナコンビとマヤに分かれるであろう事はNERV本部のMAGIも予測を
立てている。


 それに、マヤは高所恐怖症だ。ヘリに乗る訳がない。


 つまり、情報を与える事によって、情報収集能力を落とさせたのだ。


 この辺が年の功と言える。


 要するに、情報戦,心理戦に先に持ち込まれ敗北したのである。



 『マヤ!! シンちゃんはいたの?!』

 スピーカーからレイの焦った声が飛び込んできた。

 「・・・・・・いないわ。こっちはフェイクだったみたい・・・・・・・・・って、そっちにもいないの?!」

 『ど、どういう事?!』

 マナも焦っている。


 もうメールに記されていた時間に迫っているからだ。


 「あらあら。シンジくんたら、うちのアスカを傷物にしちゃっているのかしら? これは責任をとっても
  らわないとね〜♪」


 腕を組んだまま、キョウコは勝ち誇ったような声で言った。

 「く、くぅ〜〜〜〜〜・・・・・・・・・シンジくん・・・・・・・・・」

 マヤの涙混じりの呟きが、悔しげな空気の中無常に消えてゆく・・・・・・・・・。





 と、





 ヘリから降り、その場に駆けつけたマナの携帯が、いきなり第九のメロディーを奏でた。


 この着メロは、兄のカヲルである。



 「お兄ちゃん? ナニよ・・・・・・」

 掛る状況に、この元気娘の声も力が無い。





 が、





 『マナ、遅いじゃないか。遅くなったら連絡を入れてくれなきゃ心配するよ?』

 「・・・・・・だって・・・・・・」

 『シンジ君だって心配してるよ』

 「う、うん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、え??!!!」

 『あ、ちょっと待ってね・・・『あ、マナ? 皆いるの? 遅いから心配してたんだよ?』』

 「えっ??!! えええええ?! シ、シンジくん???!!!! いっ、今までどこにいたの??!!」

 飛び上がらんばかりに驚くマナ。

 携帯からもれた声に、レイとマヤも驚き駆けてくる。

 『どこ・・・・・・って、ずっとうちにいたよ? 今日、僕の食事当番だったでしょ? たまに豪華な食事にし
  ようと思って・・・・・・冷めちゃったけど・・・・・・』


 「そ、そんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ヘナヘナヘナと座り込む少女達。

 と、キョウコ。


 捜索隊の面々も力なく座り込んだ。


 『あ、あれ? もしもし? どうかしたの?』

 のんきなシンジの声も耳に入る様子が無い。






───時に、PM 7:59 作戦は終了した。





 「泰山鳴動して鼠一匹」



 とてもその言葉が心に滲んだとさ。

 マル♪





                       *   *   *   *   *   *




 「アスカ」

 「ん? 何?」

 キッチンで後片付けをしているアスカに少女達が詰め寄った。


 シンジはお風呂掃除と部屋のベットメイクをやらされている。

 ちなみに、カヲルはリビングで煎茶を味わっていた。


 「あなた、シンちゃんに何もしなかったの? どうして?」

 あのメールの文章から、アスカが何かたくらんでいた事は明白である。

 だが、帰ってきてみればそんな様子もそぶりも無い。

 ただ単に早く帰って来て、一緒に食事の準備をしていただけのようなのだ。

 だからアスカへの制裁は、一週間の食事の後片付け当番と、一週間、入浴順番は最後というだけで終わっ
ている。


 だが、それでも納得できない。


 「どうしてって・・・・・・ん〜〜・・・・・・まぁ、言ってみたら気分の問題よね」

 「き、気分?!」

 「だって・・・・・・そうやってシンジに抱いてもらって、結婚にこぎつけても、それってシンジが“責任取っ
  て結婚”って形にしかならないわよね?」

 「え? う、うん」

 「アタシはちゃんとシンジに愛してもらって結婚して欲しい。アンタ達だって“愛してるから結婚”して
  ほしいでしょ? 無理に関係したって、そんな気持ちじゃ心まで手に入れられないもん・・・・・・そんなの
  アタシ嫌よ・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「だけど、今日は流石にやりすぎたわ・・・・・・だから明日はシンジに近寄らない。それだけのペナルティは
  当然だしね・・・・・・」

 「・・・・・・・・・アスカ」

 「さてと・・・・・・洗い終わったから部屋に戻るわ。どーせ明日はママからお小言もらわなきゃなんないしね」

 そう言ってレイとの共同部屋に戻るアスカ。


 マナとマヤはそのままアスカの言葉を反芻していた。

 ・・・・・・ムリに関係結んでも心まで得られない・・・・・・

 その言葉は二人の心に深く刻まれるのだった。



 「アスカ・・・・・・」

 「ん? 何? レイ」

 「どうして今日、シンちゃんを誘ったの?」

 いつもと違う空気に、流石にレイは気がついた。

 「・・・・・・・・・あらら・・・・・・気付かれたか・・・・・・」

 「どうして?」

 “前”の声と顔で問い掛けるレイ。

 そのレイに、“前”の顔で、

 「今日ね、シンジと会った日なの・・・・・・あのオーバーザレインボウで・・・・・・・・・」

 「そう・・・・・・」



 それは少女の人生を決定付けた日。

 交じり合うはずの無かった運命が、一人の少年に結びついた記念日。



 奇しくも“この世界”のアスカが碇家の隣に越して来て、二人が出会った日でもあった。


 二人にとって、まさに運命の日。

 二人だけになりたかった事も仕方ないと言える。


 「・・・・・・・・・楽しかった?」

 「うん! とっても」

 正直なアスカの声に、レイも微笑みを浮かべた。

 「じゃあ、わたしも記念日には二人っきりにさせてもらうわよ〜? アスカだけなんてズルイもん」

 「ふふ〜ん。アタシを出し抜けたらね♪」

 そう言って挑発するアスカの笑みはとても幸せそうであった・・・・・・・・・。


















 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひょっとして、オレ、忘れられてない?」

 気が付けば夜。

 ほっぽりだされた指揮車の横にそのメガネは放置されていた。


 ・・・・・・所謂、放置プレイ?


 「ちゃうわぁああああああああああああっ!!! いい加減に解放しろぉ!!」

 ンな事言われても・・・・・・ま、朝にでもなったら誰かが助けてくれるさ。


 「いやじゃあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 どこまでも近所迷惑なケンスケ君であった。


 「シメに入るなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」




                     *   *   *   *   *   *











 「アスカちゃん!! あなたナニやってたの!! 千載一遇のチャンスだったのに!!」

 「そうだぞ、アスカ。パパは三途の川を渡りかけたっていうのに・・・・・・」

 二人にそう詰め寄られても、娘は平然と笑っていた。

 「まぁまぁ、落ち着いてよ」

 「これが落ち着いていられますか!! 経費はともかく、散々苦労して眼を引き付けてマンションから引
  き離したのに・・・・・・あなただって危険日だったんでしょ? だったら、こうガバっと・・・・・・」

 「い、いや、それはちとやりすぎでは・・・・・・」

 「アナタは黙ってなさい!!」

 「・・・・・・・・・ハイ」

 そんな両親のやりとりに苦笑しながら、


 「大丈夫よ。今更、既成事実なんか作らなくても」


 「「え?」」


 少女は、ニヤリとおもっきり不吉な笑みを浮かべた。


 「中一の冬休み、うちとシンジの家族とスキーに行ったわよね?」

 「!! アスカ・・・・・・」

 「お前、記憶が・・・・・・」

 「うん。ちょっとだけ戻ったの・・・・・・」


 この場合は“混ざった”と言った方が適切なのであるが、キョウコ達が気付く訳もない。


 「そ、そうなの。良かっ・・・」

 「まぁ、聞いてよ。あの時、ママ達ってすっごくお酒飲んだでしょ?」

 「え? あ、そう言えば・・・・・・」

 「確か、二日目の晩だったな。三日くらい酷い二日酔いで死ぬかと思ったんだっけ・・・・・・」

 「でね、その晩に・・・・・・・・・・・・・・・アタシ、シンジと・・・・・・・・・」

 「え?!」

 「ホ、ホントなのか?!」

 「証拠も残ってるはずよ? 記念としてロッジのノートにシンジに書かせたから」



 「や、やったわ!!!!!!!!!!!! 逆転満塁ホームランよ!!!!!!!!!!」

 「よしっ!!!!! これで碇アスカだ!!!!!!!!!」

 娘の告白に阿波踊りとサンバをミックスさせたような奇怪な踊りを披露する夫婦。

 なんか娘の年齢としては間違ってる気もしないではないのだが、まぁ、この家庭から言えばこれで良いの
であろう。



 「待ってよ!!! だけど、シンジは思い出してないの。それじゃあ意味ないのよ??!!!」


 娘の言葉にキョウコ達も静まる。

 だが、内心の喜びは隠せない。

 顔がにやけっぱなしである。


 「シンジ君は思い出してくれると思う?」

 「多分ね・・・・・・思い出し(混じり)かかってたもん」

 「そう・・・・・・うふふふ」

 「だけど、このままだったら、アタシはシンジの“過去に経験した女”になりかねないわ。だから心を掴
  むのが先よ。大体、女性経験云々で男を決めるわけじゃないんだから・・・・・・・・・」


 自分が“本当の意味”で大人になっていた事を思い出したからか、急に大人びた言葉を出す。

 その変化にキョウコは喜んでいるが、男親としては複雑だ。


 「・・・・・・それに・・・・・・ジョーカーは持ってるから焦る事ないしね・・・・・・」

 記憶の中、シンジから強引に出た事もちゃんと思い出している。

 いざとなったら切り札としてその事を使うつもりなのである。




 ヲイヲイ、夕べレイ達に言った感動的なセリフはなんだったんだよ・・・・・・。




 「あんなもん、牽制に決まってるでしょ? ああ言われたら強引に関係もとうって気になんないわよ」

 ・・・・・・・・・。

 女神すらひっかけますか・・・・・・あんたは・・・・・・・・・。




 キョウコは娘の計算高さに惚れ惚れとしていた。

 シンジに対して強引に出ず、か弱い少女の部分をむき出しにして見せ(演技ではない。シンジにはウソを
つきたくないのだ)、自分のポイントをしっかり上げている。

 そして、自分の切り札を懐に隠しつつ、ポジションは維持をする。

 『ママの知らないところで大人に成長したのね・・・・・・ママ、嬉しいわ・・・・・・』

 と、感動している横で、

 『私の知らないところで、オンナになって行くんだな・・・・・・・・・しかし・・・シンジ君・・・・・・・・・』

 尻に敷かれるであろう“男”という同士にホロリと涙する父親。




 勝利を確信し、益々勢い付いてゆくであろう惣流家。



 どっちにしても“嫁”が来る事に変わりの無い碇家は傍観者に徹し、

 六分儀家と霧島家、そして伊吹は、今回の事で戦術変更を余儀なくされるのであった。





 これが、今回の騒動の“真”の顛末である・・・・・・・・・。











 そして、




 「・・・・・・・・・なんだろう? ゾクゾクする・・・・・・」

 迫る危機に身を竦ませる少年。






 今、新たなる少女達の戦い局面が始まろうとしていた・・・・・・・・・。














 「イヤ〜ンな感じ〜〜」


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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