さぁああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・・・・・。




 外は雨。




 湿度が上がってやんなっちゃう。


 学校で色々言われてる、あたしのクセのある茶髪が濡れてややストレート気味になってる。


 雨で濡れてるからだ。


 とりあえず冷えた身体をシャワーで温めて、シンジさんのワイシャツを借りる。


 なんだか抱きしめられているような気分で恥ずかしい・・・・・・・・・。







 さぁあああああああああああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







 六月は水無月といって雨が少なかったってシンジさんが言ってたっけ。


 セカンドインパクト後に日本から四季が無くなり、俳句の季語が意味を成さなくなった。

 あたしは生まれてから今まで日本から離れた事がないから、夏と違う季節というものが理解できない。



 でも、“春”という感触は理解できるような気がする。



 シンジさんの隣にいて、シンジさんと同じ空気を吸う。

 シンジさんの事を見つめていて、シンジさんが気が付いて微笑んでくれる。


 他愛無い事だけど、

 子供みたいって笑われるかもしれないけど、

 あたしの胸の奥はそれだけで“ぽかぽか”と暖かくなる。


 外の暑さとは違った、あたたかさ・・・・・・・・・。




 切なくて苦しいのに、

 悔しくて悲しいのに、

 やっぱり嬉しくて堪らない・・・・・・・・・。





 でも、シンジさんには相手がいる・・・・・・・・・。

 その女が憎くて仕方が無い。

 考えるだけで胸の奥から鉄の塊みたいなものが駆け上がってきて、あたしの心を突き刺す。









 痛い。








 とても苦しい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 その苦しさと痛みを与える女・・・・・・・・・。



 碇・アスカ・・・・・・・・・。



 あたしのシンジさんの妻・・・・・・・・・。




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                            リクエスト作品 壱

                              水無月の雨

                              ───────────────────────────────




 今、シンジさんは眠っている。


 シンジさんはNERVという組織の最前線で戦わされていたらしい。


 当時十四歳のシンジさん。

 今のあたしと同じ歳で戦ってたシンジさん。

 優しいシンジさんにとって、それはとても悲しくて辛い事だったんだろう。

 あたしなんかじゃ想像もできないや・・・・・・。




 苦しくて悲しくて辛い戦いの中でシンジさんは、あの女と出会ったそうだ。




 最初の関係は劣悪で、罵られ、叩かれ、嫌悪されていたらしい。


 シンジさんの優しさを理解できない女だったみたいだ。



 今現在はシンジさんべったりで、あたしみたいに寄ってくる女を監視して睨みつけている。



 勝手な女・・・・・・・・・。



 その時の戦いの事はシンジさんから聞いたことが無い。

 どうも言いたく無いらしい。

 だから聞こうとは思わない。

 シンジさんは傷付いているみたいだから・・・・・・。


 あたしじゃダメなのかな・・・・・・・・・?


 あの女じゃないとダメなのかな・・・・・・・・・?


 そう思ったら・・・・・・いつも涙が出てくる・・・・・・・・・。




 悔しい・・・・・・・・・・・・。




 寂しい時にそばにいてくれるシンジさん。

 泣いてるあたしを笑わせてくれる為に必死になるシンジさん。

 あたしの眼を真っ直ぐに見返して微笑んでくれるシンジさん・・・・・・・・・。




 悔しい悔しい悔しい・・・・・・・・・・・・・・・。




 あたし以外にもシンジさんを好きな人は大勢いる。


 青みがかった銀髪の人・・・・・・レイさんもそう。


 「碇君は・・・たくさん傷ついて、たくさん苦しんで、たくさん泣いたの・・・だから他人の悲しみに敏感なの」

 あたしには理解できない歴史を歩いていた。

 支えられたのはあの女だったって事?


 「シンジ君はね、とっても繊細なんだ。心は硝子のようにヒビだらけでいつ壊れてもおかしくなかったの
  さ・・・・・・。
  惣流さん・・・・・・あ、前の名字だよ。彼女も同じように心がズタズタだったんだ。
  そんな彼女を正面から見つめて、彼女の心に触れることができたのはシンジ君だけだったのさ。
  ・・・・・・二人とも、ほとんど同時に心を壊されて、ほとんど同時に回復した・・・・・・・・・だから、シンジ君に
  とっても、アスカさんにとってもお互いは必要だし、大事な存在なんだ・・・・・・・・・。
  だから、嫌わないでほしいな・・・・・・・・・」


 シンジさんの親友、カヲルさんはそう言ってた。


 あたしだってその話は聞いてる。

 頭じゃ理解してる。

 でも、感情は理解できない。






 昔はそうでもなかった・・・・・・・・・。


 ただ、シンジさんの隣にいる女としか感じてなかったから・・・・・・・・・。


 だけどある時、

 シンジさんに持ってる感情が“恋”だと気付いた時、


 あの女のあたしを見る眼が変わった。




 『敵』だ・・・・・・・・・と。




 そういうあたしも、あの女をそう見ていた。

 シンジさんの奥さんだって人に言われた時から・・・・・・・・・。


 シンジさんの“隣”を独占する『敵』だと、

 あたしがシンジさんの妻になる為の最大の障害だと・・・・・・・・・。


 あたしは気付いてしまった。





 シンジさんの戦いが終わった後、シンジさんはNERVの食堂に勤める事になった。

 シンジさんは正式に料理の勉強をした訳じゃない。

 独学で学んだそうだ。

 でも、ヘタな料理人よりずっと上手。


 人を喜ばせるっていうことの楽しさを知っているからだ。


 そん所そこらの儲け一辺倒の料理人なんかが太刀打ちできるわけが無い。

 正式に免許を取り、料理人となってからは更に腕が上がったらしく、今は料理長なんかやってる。


 ケーキを焼いてくれたりしたけど、一度食べたら外で食べられなくなった。

 材料選び、手順、調理、デザイン、飾りつけ等でそこらのケーキ屋が追従できないからだ。


 だから友達にも教えてあげない。


 あたしだけのコックさんだ。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの女の・・・・・・でもあるか・・・・・・・・・。




 あの女もNERVにいる。

 技術科という所で働いている。




 まさか・・・・・・シンジさんはその為にNERVにいるの?




 そんなの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やだな・・・・・・・・・・。












 さぁああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。












 そのシンジさんは今眠っている。

 こんな美少女がワイシャツ一枚でいると言うのに、呑気なもの。



 すぅ・・・・・・・・・。



 静かな寝息を聴くだけで、胸の奥が締め付けられる。


 今日はシンジさんはお休みだそうだ。


 たまの休日をソファーで寝転んで過ごしている。

 もちろん、家事を終えてだ。


 寝顔を飽きることなく見つめていると、長めの睫毛がぴくんと動く。


 夢を見ているのかな・・・?


 あたしだったらいいな・・・・・・・・・。


 それとも・・・・・・・・・・・・あの女の夢を見ているの?




 あたしには・・・・・・・・・解らない・・・・・・・・・。








 さぁああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。








 シンジさんの寝顔を見ていると、いつも思う。


 何でこんなに素敵なの?

 何でこんなに優しいの?

 何でこんなに愛しいの?


 そして、

 何でこんなに近くて遠い所にいるの?


 

 やだやだやだ・・・・・・・・・。




 もっと近くに寄って来てほしい。





 遠くはイヤ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 
 離れちゃイヤ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






 ぷつ・・・。



 あたしはワイシャツのボタンを外す。


 上から一つづつ。


 けっして“大きい”という胸じゃないけど、あの女みたいに、あんなに下品に大きいわけじゃない。

 シンジさんにとって丁度いい大きさだと思う。


 あたしだったらもっと色々してあげるのに・・・・・・。


 シンジさんの為だったらどんな事でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





 あたしの、外すボタンは・・・・・・・・・もう無い・・・・・・・・・。





 喉がカラカラになる。


 あたしだって女だ。



 好きな人が目の前にいるのに我慢できる訳が無い。



 あたしは唇をシンジさんに寄せた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 シンジさん・・・・・・・・・・・・・・。


































 「どぉりゃああああああああああああああああああああっ!!!!!」






 ずどごぉおおおおおおおんっ!!!






 あたしの後頭部にジャンピングニーパットがモロに入った。


 後頭部から鼻の奥がツーーンとして、涙が滲む。


 痛みより衝撃がキツかった。


 こんな非常識な行動をかましてくれるのは一人しかいない。


 「くぉるぅああああああああ〜〜・・・・・・ミク!! アタシがいないのをいい事にナニやってんのよ!!!」


 やっぱり・・・あの女だ。


 「るっさいわねぇ・・・・・・あたしがシンジさんにナニやってたってアンタに関係ないでしょ??!!」

 「関係あるわぁあああっ!!! アタシはシンジの妻よ!! アンタは“娘”でしょうがぁっ!!!!!」

 「フンっ!! “今”の妻じゃないの。いずれバツ一の女ね」

 「ぬぁんですってぇえええええ??!!」

 あの女が鬼になる。


 見た? シンジさん。これがこの女の本性よ!

 あたしは振り返ってシンジさんを見る。




 「んん〜〜・・・・・・パパ、ちゅ〜〜〜♪」




 レモンティー色の髪の女の子・・・・・・。

 いや、あたしの恋敵その2がシンジさんの唇を奪っていた。


 「「あ゛、あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!!!!!」」


 “自称”妻といっしょに“ユイカ”をシンジさんから引っぺがし、あたしはシンジさんの唇を消毒する。

 当然、あたしの唇で♪


 「ナニやってんのよ!! それはアタシの役目よ!!!!!」


 あの女はあたしをシンジさんから引き離し、その唇を汚す。



 あ、あ、あ、舌いれてるわね??!!



 あたしのシンジさんが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ(T△T)!!!!




 「ん? んん? アスカ・・・・・・・・・?」

 あたしのシンジさんが女の臭いかなんかで眼を覚ましてしまう。

 覚醒用のアンモニアのような女だ。


 「どうしたのみんな? おやつ出そうか?」


 なんとなく寝ぼけながらあたし達に優しげな微笑を浮かべてくれるシンジさん。


 あたし達はそろってフニャけてしまう。


 あたし達はこの微笑が大好きなのだ。


 中毒って言ってもいい。


 「・・・・・・・・・パパ。私ね、紅茶がいいの」


 先にユイカがおねだりする。

 あ、くそっ! 出遅れた!!


 「解ってるよ。ほら、ミクも」


 あたしに差し出されるシンジさんの手・・・・・・。


 あたたかい優しさに満ち満ち溢れていた。


 「シ〜ンジ、アタシはぁ?」


 ちっ・・・・・・・・・・・・濁声で台無しだ。


 「ははは・・・・・・今日のケーキはモンブランにしてあるよ。好きだったろ?」

 「うんっ!!」


 ケっ・・・・・・十代の娘のつもりか?

 やってらんね。


 「・・・・・・ミク、どうしたの?」


 心配そうなシンジさんの顔。


 あん。そんなんじゃないの。

 ただ、ちょっと・・・・・・・・・ね。


 「あたし、ホットミルクがいいなぁ・・・」

 「解ってるよ。雨に濡れたんだろ?」


 ・・・・・・やっぱりシンジさんだ。


 あたしの事を、あたしの本心のココロ以外だったら理解してくれるシンジさんだ。




 あたしのミクという名前は“未来”と書くらしい。

 いずれやって来る未来。

 “アスカ”という過去の妻を、あたしという未来の妻が勝ち取る日まであたしは戦い続ける。


 だから、あたしは“パパ”と呼ぶのを止め、“シンジさん”と呼ぶようにしたんだ。



 赤い髪のあの女、“碇アスカ”。

 レモンティー色のツインテールの髪の“碇ユイカ”。

 そしてあたし、茶色のショートヘアーの“碇ミク”。




 あたしたち女の戦いはまだまだ続く。



 そんな決意も新たな雨の六月であった。





















 「わぁっ!!! ミクっ!! なんて格好してんだよ!!」

 「やぁん♪ シンジさんに見られたぁ♪ これは責任とってもらわないとね♪」

 「あん。お姉ちゃんズルイぃ〜〜!! 私も見せる〜〜」

 「アンタ達!! ナニやってんのよっ!!!!!!!!!!!!!!!」

 「ア、アスカも文句言いながら脱がないでよぉっ!!」















 雨の六月。

 この家は騒がしくも平和だった。









 ──あ(と)がき──

 ハイ、リクエスト作品一発目。

 ジンブさんの、
 『シンジアスカ結婚後の、女の子生まれました!育ったらファザコンです!アスカVS娘のシンジ争奪戦
  勃発!て言うのが良いな〜』

 でした。


 ちょっと私の味付けですがよろしいでしょうか?

 ただのファザコンは多いもので、こんな風味です。

 当然、ミク(“未来”の音読みw)は半オリキャラです。

 ミライちゃんネタは掃いて捨てるほどありますからね〜〜(^^;)

 性格は、彼女が大嫌いな母親のクローンw

 ユイカちゃん(私の世界では次女w)もけっこうありますよね。

 で、こんなんできちゃいました(^^;)



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメ?



 と、とにかく、文句がありましたら・・・・・・・・・聞きたくないけど・・・・・・・・・言ってください。



 それではまた・・・・・・・・・・・・。


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