戦い済んで・・・・・・第一中学も平和を取り戻していた。


 別に『シンジ君が特定の彼女を作りました〜〜テヘ☆』という超事件が起こった訳ではない。

 
 って、ゆーか、ンな事件があったら学校がタイヘンな事態に陥っちゃうのだから・・・・・・。


 
 なんのコトはない。



 中間テストの結果発表が終わったのだ。



 いや、ある特定の生徒にはキツイ事件であったであろう。


 「はう・・・・・・・・・」



 机に突っ伏す少年一人。

 そう、例えばケンスケのような少年にとってはキツかったであろう。


 流石に最下位ではなかったが、ズンドコには違いはない。


 「・・・・・・お前なぁ・・・・・・せやから今回こそ皆と一緒に勉強しょう言うたったのに・・・・・・」

 呆れつつ友を咎めるトウジ。

 今回もシンジ達と固まって勉強したおかげで楽勝ムードだ。


 こうなってくると彼の人気も上がってくる。

 わりと勉強ができ、ジャージを着てはいるが私服までそうという訳でもないし、顔もまぁまぁ。

 スポーツをやっても協調性があるものだから皆を引っ張っていける。

 さらに男気があるのだ。


 しかし、声はかけられない。

 『なによ、アンタ達!! 今まで見向きもしなかったってぇのに、鈴原がイケてるのを知ったら手の平を
  返すっての?! ざけんじゃないわよ!! 鈴原は私のよ!! 誰にも渡さないんだからね!!』

 という謎のオーラがミステリーな委員長からミラクルなパワーで発せられているのだ。

 超音波破砕砲と毒電波くらって脳みそを『ぷー』にされたいなんて酔狂な人間はいない。



 よって、トウジ本人は“自分はもてない”と信じきっていた。

 流石は鈍感壱号である。


 「ちくしょう・・・・・・シンジばかりかトウジまで・・・・・・・・・」

 世の無情を嘆くメガネ。


 だが、好かれているからこそ、このように扱われまくっているとも言える。


 大体、彼女だってできたじゃないか。

 無視されたり忘れられたりするロンゲよりマシと思って欲しいものである。


 「ムチャ言うなぁ〜〜っ!!!!」


 「なっ、なんや?! イキナリ?!」

 「なんでもないよ・・・・・・・・・」

 似合いもしない自傷的な笑みを浮かべるメガネ。

 「(うるせぇ・・・)」


 「やぁ、相田君。元気無いね」

 「う゛・・・・・・カヲル・・・・・・・・・」

 天敵登場に冷たい汗を流す。

 ふらりと現れた天使の笑みを持つ悪魔は、やっぱり天使の笑みでケンスケに話しかけてきた。

 「追試かい? 大変だね。体育祭も近いというのに・・・・・・」


 第一中学の体育祭と文化祭は試験の後に行われる。

 体育祭が終わって三週間後には文化祭となるのでダレて勉強されるより、先にテストに集中させてから行
事に移らせてそっちも集中させようという、学校側の配慮である。

 どっちにしても、ケンスケ君は体育祭と文化祭しか興味が無いご様子だ。

 「当然!! その二つにはシャッターチャンスがあるからだ!!」

 ・・・・・・・・・だそうである。


 「で、お前は何しに来たんだよ」

 「もちろん、我が友、相田君に会いに来たのさ」

 「ナニ言いやがる」

 「冷たいね・・・・・・ボクは悲しいよ」

 芝居がかったオーバーなアクションで悲しむカヲル。

 こんなもので騙されるのはシンジくらいなものである。

 当然、はなから疑ってかかっているケンスケには効く訳が無い。

 「・・・・・・・・・で? ホントは何しに来たんだ?」

 「うん。実はね」

 コロリと表情を直して、何事も無かったように振舞う。

 だから信用できねぇんだ、コイツ・・・・・・・・・。


 「実は今回、ボクの成績も悪くってね・・・・・・言うなれば劣悪? 最下位なんだよ」

 「へぇ・・・・・・お前さんがのう・・・・・・」

 トウジはへんな事に感心していた。

 そりゃそうだ。

 学年トップクラスがイキナリ最下位になったというのだ。

 学校側も慌てただろう。

 「でね、相田君は追試だったよね?」

 「ん? あ? あ、ああ、そうだけど・・・・・・・・・」

 なにやら冷たい汗がドバァドバァと流れ出した。

 嫌な予感がヴァリヴァリするのだ。

 「ボクも追試なんだよ・・・・・・・・・フフフ」

 「え?!」

 「追試組は同じ教室でするんだったよね? 今回はボクと一緒だね。追試の間中・・・・・・・・・・・・・・・・・フフフ」

 「わ、わ、わ・・・・・・・・・わざとだろ?! テメェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

 「アハハハハハ・・・・・・・・・」

 カヲルの哄笑(ケンスケにはそう聞こえる)が教室とケンスケの心に響き渡ったとさ。






                            はっぴい Day’S

                            18・STEP 戦争前夜祭





 さて、シンジたちの通う第壱中学にも体育祭の時期が迫っていた。


 クラスが少ないこともあり、A,B,Cの三クラスで競い合う形となる。

 当然ながら、シンジたちと、カヲルとマナは敵同士だ。

 「なんでまたシンジ君と戦うことになってしまったのか・・・・・・ボクは悲しいよ」

 「シンジくんと争うなんて、間違ってるわ・・・・・・私、悲しい」

 兄妹は同じようなリアクションをとった。

 流石に血が繋がっているだけはある。

 「ふっふ〜〜ん♪ こーなる運命なのよ」

 「シンちゃんは、わたしが守るもの☆」

 ナニから守るというのか?

 何はともあれ、シンジ組VSカヲル組VSマナ組という形となった。



 で、今は昼休み。


 いつもの様に八人は屋上で弁当を食べながら和やかに話をしていた。


 ケンスケもついに手作り弁当である。

 それも二段重ねの・・・・・・。


 一段目はご飯。

 それも二つに切られたタクアンが一本入ってる。

 所謂・・・・・・・・・○サルさん弁当?

 「・・・・・・・・・」


 そして二段目は・・・・・・。


 「ナニこれ?」

 シンジは首をかしげた。

 「ん? ケンスケこれは・・・・・・」

 トウジは思い当たるものがあった。

 「ナニよ!! これは??!!」

 アスカは怒っている。


 弁当箱の中にはクラスの女子の体育風景(スクール水着写真込み)が入っていたのである。

 「なんなの・・・? これ・・・・・・」

 マナも冷たい目。

 「・・・・・・知るかよ」

 ケンスケはヤケだった。

 「一段目はご飯だったから・・・・・・・・・・・・・・・・・・コレってば・・・・・・・・・・・・」

 ついにヒカルは気付いた。

 そして、四人の女子は口に出してしまう。


 「「「「“オカズ”?」」」」




 ずぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んと空気が重くなる。




 それは仕方がないだろう。

 よりにもよってそんなベタな事かまされているからだ。


 『ハぁ〜〜ルぅ〜〜コぉおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜』


 自分にぷすぷすと刺さる汚物を見るような視線に耐えながら、ケンスケは傷だらけのハートの復讐を(自
称:ケンスケの所有物)ハルハラ・ハルコに誓っちゃったりするのであった。







 「で、シンジは何に出るんや?」

 なんとか空気を取り戻し、普通の会話が戻った屋上。

 えっぐえっぐと涙を拭きつつも、シンジに分けてもらったオカズ(本物の食べ物)で腹を満たして、なん
とかケンスケも復帰を果たしていた。

 シンジの横で卵サンド(本日はサンドイッチである。ヒカリ言うところの残り物が聞いて呆れる)を咥え
ながらのトウジの質問。

 「僕は・・・・・・パン食い競争と騎馬戦と障害物競走と・・・・・・なんだっけ?」

 「碇君は400mリレーも出るはずよ」

 甲斐甲斐しくトウジの持つ紙コップにポットの麦茶を入れつつ、ヒカリが後を続ける。

 「なんだシンジ。今年はけっこう出るんだな。どうかしたのか? 去年はたいして・・・・・・」



 ぐいっ。



 ズルズルズルズルズルッ。


 十本の手が一瞬でケンスケを物陰に引きずり込んだ。


 シンジへの禁止行動第一種に“過去の事を問う”と言うのがある。

 シンジとアスカは例の交通事故のせいで記憶を失っている・・・・・・と言う事になっていた。

 だが、そこはシンジ。

 違うとは言っても、“この世界”のシンジの過去を思い出せないと言う事は、“この世界”のシンジを否
定しているような気になって落ち込んでしまうのである。

 無論、少年がその事で落ち込む事を見逃す友達&自称恋人達ではない。

 そんな事で少年を傷付けようものなら・・・・・・・・・・・・。




 『ケンスケ! おのれには学習能力ないんか?! シンジが記憶無くしとんのまた忘っせとんのか?!』

 『そうよ! シンちゃん、まだけっこう気にしてるんだからね!』

 『相田君! いい加減にちょっとは考えて喋りなさいよ!』

 『アンタ、ほっっんとにバカね!! シンジが傷ついたらグーで殴ってコロスわよ?!』

 『シンジくんの敵だって言うのなら、相手になってあげるわよ?!』


 身近なトコロではこんな感じである。


 相変わらず全員小声だが、殺気を含んだ気迫に満ちていた。

 前にも記した事であるが、こーゆー時は静かにしているほうが良い。

 絶対に下らないセリフは慎むべきなのだ。


 「で、でも、これくらいいいじゃないか。記憶が無いって言っても、あやふやなだけなんだろ? 
  だったらたいしたことないんじゃ・・・・・・」



 なんてコトほざいたら“火に油”であるからダメダメである♪



 『『『『『ぬぁん(ですってぇ)やとぉおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????!!!!』』』』』



 物陰からものゴッツにぶい音がしていたのだが、シンジはカヲルとまたしても双子山を見ていた。

 皆がキレてケンスケを引きずって行く前に、前と同じ手順でシンジの注意を景色に向けさせたのである。

 「シンジ君。夏休みに登った双子山って、あれだったよね?」


 と、いう塩梅に。


 「夏休みに行ったっていうのに、なんだかずいぶん前の話みたいだね」

 「うん。皆で一緒にいるから楽しくって・・・・・・・・・その思い出が溜まっていくからかな・・・・・・」


 黒髪の少年はそう微笑んで柵に手を置き空を見上げた。

 夏休み前に見上げた春の晴れ上がった空と同じようで違う、秋が近寄ってくる高く感じる青空。

 セカンドインパクトも無く、気候の変動だけの災害で終わった前世紀。

 季節の廻りという恩恵を残している日本では、当たり前の光景であり、シンジにとっては初めての秋。


 無論、“こっち”のシンジはそれを当たり前のように受けて、それなりに楽しんでいたであろう。

 だが、“今”のシンジは全てが初めてで、全てが楽しかった。


 季節の移り変わりも、平和で呑気な友達との語らいも・・・・・・・・・。


 だから体育祭に積極的に関わる事にしたのである。

 文化祭にしてもそうだ。


 中学生からやり直しているのだ。


 だったら、色々やってみるのも楽しいだろう。


 「そうだね。色々がんばれるよね。体育祭の時の勇姿、ボクは期待しているよ」

 「もう・・・・・・カヲル君はそうやってプレッシャーかける〜」

 「あはははは・・・・・・ゴメンゴメン。そんなつもりじゃなかったんだけどね」


 カヲルは本当に楽しそうに笑う。

 幸せそうに生きているシンジを見られる事が本当に嬉しいのだ。

 物陰からもれてくる鈍い悲鳴をBGMに、まもなく迫ってくる競技に想いを馳せるのだった・・・・・・。








 「シンジくんの走る姿、ちゃんと見に行くからね♪」

 素麺を啜りつつマヤが断言する。

 「ちょっと! アンタは大学でしょう?! ちゃんと行きなさいよ!」

 「大丈夫よ。先輩の手伝いで第一中の総合医務班行くんだもん。コレも研修の一環よ♪」

 ちゃっかりとしたマヤである。

 余談ではあるが、マヤは第三新東京中央大学の医学部である。

 「せっかくシンジ君と同じ競技にしたかったのに、人数が埋まってるなんてね・・・・・・運命とは悲しいものだよ」

 カヲルの眼から涙がこぼれる。

 うっかり汁に入れてしまったワサビがしみたのだ。

 「あ〜〜あ・・・。せっかくシンちゃんと同じチームなのに、競技が違うんだもん」

 「なによ。アタシと一緒じゃイヤだって言うワケ?」

 ざくざくと揚げ餃子を噛みながら文句を言う。

 ちなみに、本日の夕食は──ご飯と素麺。つゆはちょっと梅風味。揚げ餃子、茄子の塩もみと、パイナッ
プルやリンゴといったフルーツ──である。

 調理担当はマヤであった。

 「そっちはいいじゃないの。こっちなんか組が違うのよ?」

 さして不満顔でもないマナが、珍しくなだめ側に回る。

 「ん? そーゆーアンタは、シンジと組が違うくせに平気そうね? 競技が重なってるの?」

 「え? 私? 私は出ないわよ」

 「はぁ?!」

 冷たいものが多い為、あえて熱くしてある麦茶をすすりつつ、あっけらかんと言う。

 「だって、うちの組の医務班に入れられちゃったんだもん。団体とか参加義務があるヤツ以外は出なくて
  いいもん。シンジくんの応援するだけよ♪」

 「そう言えば、マナは保健委員だったね」

 今更ながら納得するお兄ちゃん。

 「ナニ言ってるのよ! シンちゃんの応援ったって、組が違うじゃないの!」

 「気にしないも〜ん」

 「うぐぐ・・・・・・」

 思考ベクトルが同じだというのに、言い負けてしまうレイ。

 やはり、けっこう悔しい。

 が、救いの手は意外なところからやって来た。

 「でも、良いじゃない。アスカとレイは僕が応援してあげるから」

 「「へ?」」

 にこやかに天使が救いの手を差し伸べてくれたのである。


 そうなのだ。同じ組なのだから応援してくれるではないか。

 自分に声援を送ってくれるではないか!

 二人は(今更ながら)そのことに気が付いた。


 それも、気が付かせてくれたのは、シンジである!


 「シンちゃん・・・・・・」

 「シンジぃ・・・・・・」

 二人が潤んだ眼で見つめる。

 「ん?」







 凶兵器発動!







 やわらかな天使の微笑みである。

 たちまち、この場にいる者は夢想空間に引きずり込まれてしまう。



 『あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ♪』



 うれしい心の悲鳴だった・・・・・・。













 浅暗い闇の中──────


 五つの影が丸いテーブルを囲んでいた。

 「それで、スケジュールの変更はありましたか?」

 「いえ。まだ確認されてないわ」

 女性の声が二つのぼる。

 なんだか見たことがある風景であるが、本人達は大真面目である。

 「・・・・・・」

 一つの影は、テーブルに肘をつき、顔の前で手を組んだまま鈍くサングラスを光らせている。

 その正面に、もう一つ影があったが、何やら一心にキーを叩いている。

 モニターの反射光から中年の男であることが分かった。

 「さける人員は限られている。そして、ポイントもな」

 皆に言い聞かせるような初老の声がする。

 その声にキーを叩く男以外が反応する。

 「なにより戦力が少ないのは如何ともしがたいな。手は、あるのか?」

 自分の左隣の席に問いかける。

 問いかけられた影が僅かにサングラスを動かす。

 「問題ない・・・・・・今回も協力者がいる」

 「協力者? まさか・・・・・・」

 「うむ」

 その問いかけに答えるように、闇の中に二つ影が現れる。

 「・・・・・・やはり・・・・・・」

 この場にいる人間たちと同じくらいの年恰好の女性と、バイザーを着けた初老の男である。

 「お久しぶりですわね・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 相変わらず、サングラスの男の右隣にいる女性──ユイ──の肉親といったほうが納得できるほど、ユイ
に似た女性──六分儀レイカ──はそう挨拶した。

 やはり、いつ見ても“祖母”という言葉が似つかわしくない。

 「しかし・・・・・・貴方がまた来てくださるとは・・・・・・・・・」

 「シンジ君の関わる行事だよ? 知事の仕事と秤にかけたらこっちに傾くのは当然ではないかね?」

 バイザーの男が慄然と気持ちを口にする。

 「さて、今回も私が手を貸すのは他でもありません」

 レイカが周りを見渡しながら口を開く。

 まるで威嚇をする豹のよう。

 「レイの為・・・・・・という事もありますが、いずれレイの夫になってくれるシンジ君の活躍の記録を残して
  おきたかったからです。私の同意したことはその一点です」

 「・・・・・・何を仰いますやら・・・・・・シンジくんはアタシたちの娘であるアスカの未来の夫。そして、アタシ
  たちの未来の息子ですわ。余計なアイテムを残すだけになりますわよ?」

 丁寧ながら、十分に怒気を含んだ声音の女性の声がする。

 ユイの左側の女性、キョウコである。

 もっとも、前回とは違い、今のキョウコには心に余裕があった。

 『うちのアスカちゃんとシンジ君はとっくに・・・・・・くくく・・・・・・』

 である。


 「ふむ・・・・・・間を取って、マナの婚約者ということにするという手はどうかね?」

 「「間じゃないっ!!」」

 「む・・・・・・やはりダメか」

 ・・・・・・・・・相変わらず図々しい霧島であった。


 「・・・・・・今日、皆に集まってもらったのは、そんな言い争いをしてもらうが為ではない」

 サングラスの右手でかけ直し、ゲンドウが場の空気を戻した。

 黒い色眼鏡が鈍い光を映す。

 「その通りだ。我々は来週の土曜日に迫っている現状に素早く対応せねばならんのだ」

 バイザーの男──キール知事──が後を続けた。


 その声にはっとしてユイが席を立ち、灯りを着けた。

 パパッと蛍光灯に光が入り、碇家のキッチンが明るくなる。

 またしても八時になっている。

 段取りに時間がかかり過ぎ、日が暮れていたことに気が付かなかったのである。

 「・・・・・・・・・・・・なんとかシュミレーションが終わったぞ。流石のMAGIでもデータが少ないと中々計算
  が終わらないものだな」

 モニターから上げた顔は、さっきまでの技術者のソレではなく、アスカの父の顔に戻っていた。

 「見てくれ」

 壁の大型モニターにシュミレーション結果が映し出された。

 相変わらず無駄に物凄いリアルなCGで描き出されてゆく建造物。

 それは学校に見えた。

 そう、シンジたちの通う第壱中学である。

 まるでリアルタイムにカメラで撮っているかのような画面内の学校がグルンと回り、校庭に移動する。

 ラインだけが引かれた運動場に、シャカシャカと線が生え、瞬く間にいくつものテントがたてられる。

 校舎から線が校門に伸び、それは旗の付いたロープになった。

 一分もしないうちに人のいないだけの体育祭当日風景となった。

 人が存在しない分、不気味な光景である。

 「これが予想風景だ。当日の天気も気象衛星からリンクして予想した。誤差は3.47%。晴天とまではかな
  いかもしれないが、曇りにはならない」

 「問題ない。修正可能範囲だ」

 ゲンドウがまたもサングラスを直し、画面を見やる。

 「それで、惣流。シンジのクラスの陣は?」

 「ここだ」

 カタッとキーを押すと、校舎側にロープに囲われたA組の陣地が現れ、オレンジ色で二年の場所が示され
た。

 「シンジ君は出席番号からこの辺りになるんだが・・・・・・」

 「・・・・・・問題でもあるのか?」

 「アスカ君とレイ君が不確定要素になりうる・・・・・・二人によって場所が変更させられる・・・・・・ということ
  かね?」

 少ない情報ではあったが、キールは何を言わんとしているかすぐに読みとった。

 「・・・・・その通りです。流石は知事」

 「つまらん世辞はいい。で、我々は何処で待機すれば良いのかね?」

 「ポイントはココです」

 ちょうど運動場をはさんだ向かい側に父兄席が出現する。

 「・・・・・・遠いですわね・・・・・・これではシンジ君とレイの仲睦まじい絵が撮れませんわね・・・・・・」

 レイカの眉がひそめられる。

 「御安心ください。シンジ君はウチのアスカといちゃついてくれますから、そんな心配は無用ですわ」

 間髪いれずにつっこむキョウコ。

 「・・・・・・なるほど・・・・・・二人の少女に寄り潰されて、隣のクラスへ避難するという事態もありえるな」

 ギン!! と、母と祖母の射抜くような眼を向けられるも、流石は霧島教授、しれっと流す。

 のらりくらりとしながらも、霧島は一歩も引かない。



 前回もそうであったが、キールにとって、こんな争いはどーでも良かった。

 自分にとっては孫のようなシンジ。

 そのシンジのいい表情が撮れたらどーでもいいのだ。

 それは、シンジの父であるゲンドウもそうである。

 よって、顔には出さない二人の統一意見、


 『『早く終わんないかな〜〜〜』』


 が又も脳裏に浮かんでいた。


 「レイはシンジ君に会いたい一心で心臓の病気を完治させ、よく食べよく走る元気な娘になったのですわ
  よ?
  その愛と想いの深さを理解できないとは・・・・・・・・・哀れとしか表現できませんわね」

 「何を仰いますやら・・・・・・ウチのアスカちゃんのシンジくんへの積み上げられた想いの高さを感じ取れな
  いとは・・・・・・。呆れを通り越して哀れみしか感じえませんわ」

 「マナとカヲルは人付き合いが少なさはシンジ君との触れ合いによって解消された。そして、二人に笑顔
  をもたらせてくれた。
  彼とマナが結婚し、お互いの心を思いやる平和な家庭・・・・・・素晴らしいとは思わないかね?」

 相変わらずの言い合いをボ〜っと聞いていているユイ。

 やはり愛息シンジを取り合う言葉の羅列は聞いているだけで楽しいものだ。

 『ああ、シンジがこんなにも愛されてる♪ 流石はシンちゃん♪ もっと言って♪』

 である。



 ずず〜〜〜。



 ゲンドウとキールは、ぬるくなった麦茶をすすりつつ、いつまでも続く言い合いを聞き流していた。

 「碇・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「また、飯抜きかな・・・・・・」

 「でしょうね・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・(グゥ〜)」

 「「はぁ〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・(溜息)」」





 こうして親バカ爺婆連合軍の夜はまたもふけて行くのであった・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


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