ドクンッドクンッドクンッ・・・・・・。


 心臓の音が耳から零れ落ちそうだ。


 顔が火照る。

 膝が震える。

 身体が硬直する。


 彼の前に立つ少女もそうなのだろう。

 顔は見えないが、耳が赤い。


───同じ気持ちなんだ・・・・・・・・・。


 少し気が楽になる。

 でも、それだけじゃあ何の解決にもならない。


 逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

 逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

 逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

 逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

 僕一人で逃げちゃダメだぁっ!!


 懐かしい自分の叱咤に、一瞬、前の世界を思い出す。

 だが、気を取り直して眼前の少女の肩に手を触れた。


 びくんっ


 その少女は驚いて振り返る。

 黙ってたっているだけなら可憐な美少女。

 茶色みがかった髪が、普段の元気さを物語る。


 「シ、シンジくん・・・・・・」


 まだ顔が赤い。

 その涙で潤む瞳が内面の不安さを表している。

 やっぱり、同じなんだ。

 少年は、その顔を見て、意を決し、呼びかけた。


 「逃げよう」

 と・・・・・・・・・。


 「う、うん!」

 少年──碇シンジ──の言葉に自分を取り戻し、硬直した身体を再起動させた少女──霧島マナ──は、
顔を隠すと校舎に駆け込んでいった。

 続いてシンジも走る。

 一分一秒もココに居たくなかった。




 「マナ〜〜〜! ガンバレよ〜〜」

 「シンジ〜〜! 今日はがんばるんだぞ〜〜!」




 体育祭当日。

 父兄席に陣取り、でっかい幟をいくつも立てている親バカ爺婆連合軍。


 『ファイトだアスカ! シンジの妻!』

 『勇者レイ! シンジの本命!』

 『勝者マナ! 景品シンジ!』

 などと書かれた幟を見て平気でいられようか?


 さらに、


 『犯っちゃえ! シンジくん!』


 なんて書いてある旗が立ててあったり・・・・・・・・・。

 これは、『やっちゃえ! シンジくん!』という旗を作るはずが、間違った辞書変換で“犯っちゃえ”に
なったものを、ウッカリ気付かず布プリントしてできたものである。


 広げた今も気が付いていないところがナニであるが・・・・・・・・・。


 「やあ、父さん」

 「あ、レイカさん。やほ〜〜〜〜♪」

 のほほんとしたカヲルや、祖母扱いされるのを拒否したレイカにレイカさんと呼ばされているレイは楽し
そうに手を振った。

 それ以外の三人は真っ赤になって校舎に突撃する。

 特に再起動が早かったアスカの逃げ足はたいしたものだ。

 「(はぁはぁはぁ」・・・・・・・・・父さん・・・・・・」

 「パパぁ・・・・・・・・・」

 「(ゼェゼェゼェ)・・・・・・お父さん・・・・・・・・・」


 「「「勘弁してよ〜〜〜〜〜〜〜〜(涙)!!!!!」」」


 至極もっともな意見であった。


 ともかく、怒涛の体育祭は波乱ずくめで始まるのである。





                              はっぴぃ Day’S

                            20・STEP 戦闘・開始






 「んじゃま。位置について〜〜〜〜、よ〜〜〜〜い♪」



 ドゴォーーーーーーン!!



 男子200m走。

 スターターの“パァン”という軽快な音ではなく、小型の大砲でもぶっ放すような音が響き渡る。

 「ひゅう〜〜・・・・・・いい音♪」

 で、そのスタート地点でゴツイ銃をもった女教師が、周りの静寂を無視するかのように、なにやら恍惚とし
てたり。

 「ミサト!! ナニやってるのよ!!!!!」

 ミサトの真横でバカでっかい音を聞いて耳を押さえている子供達を治療すため、医療班が出動する。

 「いやぁ〜。いいっしょ? コレ」

 「な、何よそれ? なんで銃なんか・・・・・・」

 「へ? ああ、違う違う。これ、スターターよ? スゴイでしょ〜〜? アタシの知る最強のハンドガン、
  ブラック・マンバのスーパーハイグレード・レプリカよん♪ 音も実際のと同じだからとってもエクス
  タシ〜〜」



 スパーーーーーーンッ!!! 



 リツコに頭部を大型ハリセンで殴打されて、連行されていくミサト。

 ちなみに、いつもはそんな銃器の説明は嬉々としてやってくれるカメラ眼鏡男がいたのだが、最初に音に
倒れた少年がそーだったりするのでウンチクは発生しなかった。


 「・・・・・・今の女教師は?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・シンジ君とアスカとレイちゃんの担任の葛城ミサト教諭だ・・・・・・あ、ウチ(NERV)
  の保安部の加持君(別姓)の妻だそうだ」

 「・・・・・・・・・加持君か・・・・・・・・・減俸は覚悟してもらうとしよう」


 (加持『ミサト〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!(涙)』)







 か〜〜ぜが〜〜呼んで〜〜る〜〜〜♪ いつか〜〜き〜い〜た〜〜あの声がぁ〜〜♪


 競技の間かかっている曲に、アスカが首をかしげる。

 「シンジ。これ、なんの歌なの?」

 「う〜ん・・・・・・僕もわからないよ。トウジは?」

 「ワイも知らん。・・・・・・ん? 待てぇよ・・・・・・そういうたら、なんや聞いたことあるような・・・・・・?」

 「あ、やっぱり? 僕もなんか聞いたことあるような気がするんだ」

 「うん。アタシもなんだけど・・・・・・だから気になっちゃって・・・・・・」

 「そっか・・・・・・あ、レイ」

 名を呼ばれてすっ飛んでくるレイ。

 呼ばれるまでボ〜〜ッと曲を聴いていたからシンジが声をかけたのだ。

 「ナニナニナニナニナニ? シンちゃん、デートのお誘い?」

 「い、いや、そーじゃなくて・・・・・・」

 「おう、六分儀。おまえ、今かかっとる曲、知らへんか? わしら、どっかで聞いたことあるような気が
  するんや」

 言いよどんだシンジに代わってトウジが問いかける。

 「ん〜〜」

 意味深だが、子供っぽい笑みを浮かべ、

 「別の世界で一緒にいた人のテーマソングだったりして♪」

 「「「は?」」」

 さっぱり分からなかった三人であった。


 ・・・・・・・・・まぁ、わかんない人はわかんないか・・・・・・・・・(苦笑)







 「さぁ、行くわよ! アスカ!」

 顔を叩いて気合を入れ、アスカがスタートラインへ進む。

 それぞれのラインの向こうに白い封筒が落ちて・・・いや、置いてある。

 俗に言うところの借り物競争だ。



 「惣流〜! 気ぃぬくなや!」
 『ハン! ジャージに言われなくても分かってるわよ』

 「アスカ〜〜!! がんばれ〜〜〜!!」
 『(ころっ)あ〜ん、シンジぃ〜〜☆』

 「赤毛〜〜てきと〜〜に恥かくのよ〜〜」
 「く、黒地に白のラインのぴちぴちスパッツ姿! これは売れるぞぉ〜〜〜!!」
 『アイツら・・・・・・後でコロス!!』


 「位置について〜〜〜、よ〜〜〜い」

 と、スターターはヒカリであった。

 前任者のミサトの尻拭いである。



 ぱぁんっ



 「よっし!」

 流石に早い!

 “こっち”のアスカは運動と料理以外は×少女ではあったものの、運動神経はバツグンなのだ。

 当然、一番に封筒を取り、中を見る。


 「・・・・・・・・・」


 一瞬の躊躇の後、


 「シンジ!!」

 「え?! 僕?」

 シンジの手を取り走り(引きずり?)出した。

 元来、運動も得意では無かったシンジだが、事故後のリハビリも兼ねた運動を行っていた事と、本来眠って
いた能力も相まってかなり速い。


 ゴールテープを切り、係の少年に確認の為の紙を見せた。


 ──枕──


 そう書いてあった。

 ニッと笑うアスカ。

 係の少年は、何も分かっていないシンジと紙を見比べ、赤くなった。

 深読みしたらしい。



 運営委員会による合議になったことは言うまでもない。






 「さてと。わたしの番ね〜」

 今度はレイの番がやってきた。

 「レイ〜〜!! しっかり〜〜!!」
 『うん☆ ご褒美はシンちゃんがいいわ☆』

 「六分儀〜〜!! きばれや〜〜!!」
 『(ぼそっ)ジャージ、五月蝿い』

 「あん☆ シンジぃ〜〜」(←見てない)
 「おおう。スレンダーボディーに、ぴちぴちスパッツ!! すんばらしいっ!!」
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・後でぶち殺す』



 ぱぁんっ



 アスカに劣るとはいえ、当然のごとくレイも足が速い。

 ただ、他のランナーの一人が陸上部だったがために出遅れてしまう。

 それでも二番目に封筒を取り、紙を見る。


 ──好物──


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


──なんてアバウトな・・・・・・。

 ハッキリ言って、女の子の好みを知っておこうとする何者か(おそらく運営委員の誰か)の作為を感じる。

 しかし、だからと言って迷ってるヒマはないのだ。

 「シンちゃん!!」

 「え、ええ?! また僕?!」

 アスカの止める間も無く、引き摺っていかれ一番でゴールする二人。

 流石に係の少年も、紙とシンジを見比べて困惑する。


 が、


 「美味しいのよ?」

 の言葉に、思春期の少年は鼻血を噴いた。

 レイに教育的指導が入ったことは言うまでもない。







 現在の合計点、
 A組連合軍 14
 B組連合軍 16
 C組連合軍 14



 「マナ、大丈夫?」

 「(ゼェゼェ)あ、シンジくん♪」

 若干一名の破壊活動により、医療班は多忙を極めていた。

 その一名のテロリストの正体は、当然のごとく2年A組の酔いどれ天使である。

 すでにビール臭いが、酔った風も無い。

 その分、性質も悪いが・・・・・・・・・。

 ナニをやっている(現在進行形である)かは、あえて語るまい。


 シンジの差し出したスポーツドリンク(レモン入り)を受け取ると、美味しそうに飲んでゆく。

 「ゴメンね。ミサト先生のせいで・・・・・・」

 心底申し訳なさそうに言う。

 「あ、いいの。気にしないで☆ これが今日のあたしの仕事なんだし」

 疲労していないと言えば大嘘になるが、シンジが気にかけてくれていることが何よりうれしかった。

 別のクラス。さらに今は敵軍だというのに、シンジは気にかけてくれている。

 その優しさだけで胸がいっぱいになる。

 「あ、でも疲れてるみたいだから、明日の朝御飯は僕が作るよ」

 「え?」

 明日の食事当番はマナである。

 疲れているというのに、食事まで作らせるわけにはいかない。

 ちなみに、今日の夕食は外で食べることになっている。

 「い、いいよ〜・・・あたしの当番なんだし・・・・・・」

 「ううん。いつも皆に迷惑かけてるんだから、これぐらいは当然だよ」


 そう言って少年は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・微笑んだ。





 ビィイイイ! ビィイイイ!

 『熱核ジェネレーター破損! 隔壁溶解します!』
 『DANGAR! DANGAR!』
 『総員、撤退準備!!』
 『艦長ぉ!!』
 『くっ、だめか・・・・・・』
 『損傷率、86%・・・87・・・89・・・96・・・制御不可!! だめです!!』
 『無念だ・・・・・・』



 ちゅどーん!!



 “理性”という名の護衛艦は散った。




 「マナ?」

 顔を真っ赤に染めた少女を心配して、シンジが声をかける。

 「・・・・・・シンジくん・・・・・・」

 「え?!」

 イキナリ、シンジの首にマナの腕が絡む。

 とっても息が熱かったりした。

 「あたしね、あたし・・・・・・」

 「マ、マナ・・・・・・?!」

 現実味の無い、突然の行為にシンジの心がフリーズする。

 「あたしね、食べたいものがあるの・・・・・・・・・」

 「え? あ、うん。な、なんでも作ってあげるけど・・・・・・」

 「それはね・・・・・・」

 熱い息をシンジの耳に吹きかけつつ、マナが進行を開始する。

 シンジの左足にマナの足が絡む。

 逃げるに逃げられない状況へと移行してゆく。





 「あたしね・・・・・・シンジくんを食『ああぁっ!!』」
 
 そのバカ声に驚いた二人が声の元をたどる。

 そこには、スゴイ顔で睨みつける厳つい眼の少年が立っていた。

 この学校では珍しくも無い留学生のようだ。


 「キ、キサ、キサマ・・・・・・マナから離れろ!!」

 どうやらマナの知り合いのようだ。

 「え、えと・・・・・・誰?」

 見たことも無い少年のことをマナに聞くが、

 「知らないわ。あなた、誰?」

 「だ、誰・・・・・・・・・・・・・・・・・・って・・・・・・・・・・・・・・・」

 その少年は打ちひしがれて跪いてしまう。

 その行動は、いちいち芝居がかっている。

 「無関係ならあっち行ってよ。今は重要な場面なんだからね!」

 「あ、じ、じゃあ、僕、行くから。それじゃあね!!」

 「え?!」

 身体からマナが離れた僅かな隙を突き、シンジは風のように駆け抜けた。

 後にはマナと少年しか残っていない。

 「ちょっと、アンタ!! あたしとシンジくんの甘い時間を邪魔するんじゃないわよ!! チャンスだった
  のにぃいいい〜〜〜!!!!!」

 マナも怒りを少年に吐き出し、さっさと行ってしまった。


 後には、少年と風だけが残る。




 ひゅううう〜〜〜〜〜・・・・・・・・・。




 「くそぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・あんなヤツのドコがいいんだ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 マナのクラスメイトにも拘らず、“OUT OF 眼中”の為に全然記憶に残っていないムサシ・リー・ストラス
バーグ君はそう叫ぶのであった。










 「さてと、次は僕の番だ」

 キュッとA組の印である赤いハチマキをしめて、シンジがスタートラインに立った。

 男子、障害物競走の始まりである。

 「シンジ〜〜〜!! 怪我するんじゃないわよ〜!!」
 「シンちゃ〜〜〜ん!! がんばって〜〜〜〜☆」
 
 アイドルに対するのと同じ黄色い声援が飛ぶ。

 もっとも、アスカにしてもレイにしてもアイドルというものは、直訳の通り“偶像”だと受け止めており、
よほどの事がない限り聴いたりしない。

 歌唱力、歌の表現力、そして情感のこもらない歌を口にする奴らに興味など無いのだ。


 「シンジく〜〜〜ん!! 怪我したら看護はまかせてね〜〜〜♪」

 クラスが違うというのに声援を飛ばすマナ。

 だが、C組の面々も、マナのシンジに対する(異様なほど)強い想いは知っているので諦めていたりする。


 『くっそ〜〜〜〜〜〜・・・・・・』


 若干一名の少年はともかく・・・・・・。


 「シンジ君。信じているよ」

 普段の声量だが、かなり強い想いが感じられる。


 ここに来て、やっと応援するカヲル君であった。


 カヲルは今まで自分の組はおろか、誰の応援もしていなかったりする。


 「シンジ〜〜〜!! 気張れや〜〜〜!!」

 ストレートだが、さっぱりとした気持ちのよい応援だ。

 『すずはら〜〜♪』

 その気風のよさに、公平な立場から離れて微笑む委員長。

 「がんばれよ〜〜!! 一生懸命走る姿は絵になり、オレの金になる!!」



 ドガッ! ズガッ! ドゴッ! バギョッ! グジャッ!



 なんともイヤンな鈍い音と共にケンスケは踏みまくられる。


 それでも声援が嬉しいのか、シンジはみんなのいる方に微笑みかけた。


 『『『はう〜〜〜〜・・・・・・』』』


 当然、三人の少女たち(+一男子)は撃沈・・・・・・轟沈と言っても良いか・・・・・・。

 ちなみに、マナも含めた少女たちの居る場所、それは2−Aの陣地・・・・・・つまり、他の女子たちもいたり
する。



 ぽんっ!!



 と、一瞬で赤くなる女子たち。

 一部男子も赤くなってたり・・・・・・・・・。



 名前順ではなく、身長順なのでシンジの位置は後ろの方だ。

 にも関わらず、なぜか隣にムサシがいた。

 『みてろよ〜〜〜〜・・・・・・・・・』

 どーも、自分とシンジの差をマナに見せ付ける為に、ムリに順番を代わってもらったようである。


 ちなみに、先日ケンスケが気にしていたように、シンジは競争物に進んで関わっていなかった。

 もともと人と競い合うという気もちが薄い為だ。


───人が行くなら道を譲る。


 それがシンジの生き方であった。


 が、“こっち”に来て、もう一度やり直すことになったとき、どうせなら色々やって楽しむことを思いついた。

 “競う”のではなく、競技を“楽しむ”のだ。

 もっとも、十九歳になった心を持っているからこその考えである。

 前のままの十四歳では思いつきもしなかったであろう。




 「位置について〜〜〜。よ〜〜〜い・・・・・・」

 スターターは交代してB組の委員長がやっていた。

 この委員長も女の子である。

 真横にいるシンジの真剣な横顔に顔を赤らめつつ、引き金を引く。



 パァンっ



 軽い音と共にランナーが駆け出す。

 軽快な音楽が後を追いかける。


 「おおっ?! シンジ、早いやんか!」


 「「「「「「シンジ(碇)く〜〜ん☆」」」」」」


 女子達の黄色い声援が飛ぶ。

 確かにシンジは意外に早かった。

 シンジ自身も驚いているほど身体が軽い。

 チルドレンとしてのトレーニングの記憶が、こっちの身体の筋肉に作用していたのだ。

 シンジとアスカ、もちろんレイも、トレーニングしてきた記憶がそのまま脳や筋肉に作用し、瞬発力などは
そのまま受け継がれている。

 アスカは薄々気付いているのだが、シンジの方は全く気付いていない。

 ちなみに、レイはどーでもいいから気にしていない。



 ハードルを飛ぶシンジ。

 ただ、バネを利かせすぎて二つづつ飛び越してしまう。

 「「「「「「きゃあ〜〜〜〜〜〜☆」」」」」」」


 声援が大きくなるばかりだ。


 「シンジ!! マジ、スゴイで!!」

 あまりのことにトウジも驚く。

 「あったり前でしょ!! シンジよ!!」
 「シンちゃん、スゴイもん!!」

 やたらとテンションが上がっているアスカとレイ。


 平均台に乗るシンジ。

 身体が傾くことなく駆け抜ける。


 こんなトコを見る度、アスカはシンジは本当に天才なんだと思う。


───アタシは天才なのよ!!


 これはアスカの口癖だった。

 だが、どちらかと言うと、アスカのそれは努力で培ったものだ。

 血のにじむような努力を繰り返し、それで“天才” 呼び名を手に入れた。


 シンジはシンクロ率からしてもそうだが、掛け値なしに天才である。

 ユニゾン特訓の時もそうだったが、自分が持っているレベルに瞬く間に追いついてくる。

 追い抜いても、すぐ追い着いてくるのだ。



 シンジは基本的に無気力であった。

 それは幼年期の環境が起因していた。

 やる気そのものが無かったのだ。

 だから今、やる気になっているシンジに追いつくのは至難である。

 なにせ、遺伝子的に言っても天才の血筋なのだから。

 アスカのことを“アスカ”という個人として見てくれるシンジを理解し、彼を好きになり、彼を信じられ
るようになった今、シンジの凄いところを見ることは、ある種快感であった。



 「シンジ〜〜〜!! 行っけ〜〜〜!!」

 『うんっ!!』

 アスカの声を身体という帆に受け、シンジはまた加速した。

 ネットを滑るように抜け、袋をはいて飛ぶ。

 五回も跳ねるとゴールに着いた。


 「「「「「「「「きゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜☆」」」」」」」」


 ぶっちぎりで一等であった。

 自分を応援してくれた皆に手を振る。

 彼が幸せなのは、皆がいてくれるから・・・・・・。

 皆が大好きだから・・・・・・。


 その想いは、そのまま笑顔になる。



 全員、ノックダウンしたことは言うまでも無かった・・・・・・・・・・・。


















 おまけ♪


 ムサシくんは、シンジ君の真似をしてハードルを二つ飛び越そうとし、ドスゲぇ急所を二つ目のハードル
で打ち、医療班に担架で運ばれていったとさ。


 マヤはシンジの応援で忙しく、治療することとなったリツコは一言、

 「フ・・・・・・無様ね・・・・・・・・・」








 ソレがナニについての言葉かは永遠の謎である・・・・・・。


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
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