白い影と赤い影、そして青い影が入り乱れる。

 「とった!!」

 白い影が赤い影の背後に回りこむ。

 が、

 「ふ、甘い!!」

 物凄いステップで眼前から消える。

 「そうはさせないわ!!」

 赤い影の移動地点にいつの間にか青い影が移動し、足払いをかけた。

 「なに?!」

 思わず体勢を立て直そうとしてしまい、手から獲物を離してしまう。

 「いただきっ!!」

 風のように素早く、獲物をふんだくる白い影。

 「「速い!!」」


 ターゲットは白い髪の少女──レイ──に変更された。

 赤い髪の少女──アスカ──も諦めない。

 青い鉢巻きのマナも当然だ。

───あの、アンパンは渡さないっっっ!!!

 これが共通意見であった・・・・・・・・・。



 「・・・・・・あいつら、ナニやっとんや?」

 機動兵器の攻防戦のような光景を見、当然の疑問を横に居るカヲルに投げかけた。

 「あれかい? シンジ君のとったパンの所有権争いさ」

 何でもない事のように、にこやかに返してくるカヲル。

 「パン・・・・・・って、さっきのパン食い競争のか?」

 「そうだよ」

 「・・・・・・かぁ〜〜・・・・・・ヒマな奴らやなぁ〜〜」

 呆れた風に言う。

 まぁ、誰だってそう思うのだが・・・・・・。

 「本人たちにとっては真剣なのさ」

 「さよか」


 で、当の本人はというと、プログラム表を眺めて楽しんでいた。

 「あ〜〜〜 この次の次が応援合戦だ・・・・・・恥ずかしいなぁ・・・・・・」

 これでも、楽しんでたりするのだ。


 「え〜〜・・・・・・お煎にキャラメル〜〜、カチ割りはいかがっスか〜〜〜?」


 古き良きどこかの球場で聞こえていたような声でハルコが売り子をしている。

 父兄席のみではあるが、無許可で売りさばいていた。


 そんな声が響いてゆく空は、まだ秋口を感じさせないほど晴れ渡っていた。





                          はっぴい Day’S

                       21・STEP 決戦!! 第壱中学




 現在の通算成績は、

 A組 48点
 B組 53点
 C組 55点

 A組は、二年であるシンジやトウジ、女子ではアスカとレイがいくらがんばっても、ケンスケ等が点を綺
麗に落とすから今一つ決定打が無い。

 B組は、何気なく身体能力バツグンのカヲルがコンスタンスに点を稼ぎ、進軍してゆく。

 カヲルは楽しんだもの勝ち戦法でいるのに点だけはある。

 C組に至っては、不死鳥のごとく復活を遂げた二年のムサシ君が異様にハッスルし、点を稼いでいるから
始末が悪い。

 よって、ケンスケは突き上げを食らうこととなる。

 「このメガネ男!! アンタ何やってんのよ!!」

 「そうよ!! わたしたちががんばっても全然ダメにしちゃうじゃないの!」

 「せっかくシンジくんが稼いでもパーじゃない!!」

 なぜかC組のマナまで混じっているが、それはともかく。

 「な、なんだよ。全部オレか?!」

 「「「「「「当ったり前でしょうがぁっ!!!」」」」」」

 クラス対抗リレーなどの団体戦のおり、ケンスケが混じると謎の女子応援団が、セーラー服(当然、他校
の制服)に短くしたスカート、スパッツ姿という姿で現れて応援するのだ。

 「ナイス、ショット!!」

 と、身体が勝手に(持っていなくとも)カメラを構えた格好になり、ビリとなる。

 ケンスケのパンチラカメラマン精神を突いた見事な作戦であった。

 それにしても、団体戦オール3位はいただけない。

 『いっその事、コイツを亡き者に・・・・・・』

 等という物騒な考えに行き着いても、そうは行かぬとB組C組の見張りが居たりする。


 「くぅ〜〜・・・・・・やってくれるわね・・・・・・」

 アスカは爪を噛んで悔しがった。

 シンジが凄い所を見せてくれて浮かれていたせいか、悔しさも倍増である。

 「どうしよう? シンちゃんがせっかくがんばってくれてるのに・・・・・・」

 それがレイには悔しい。

 無気力さから立ち上がり、前向きになってくれたシンジを見ることは何よりうれしかった。

 それが、一匹のメガネ猿のせいでパ〜〜になる事は納得のいく話ではない。

 『シン(ちゃん)ジの為、やはり亡き者に・・・・・・』

 二人の思考は、やっぱり物騒な方向へと向かってゆく。

 「まぁ、点を取られてるのは仕方ないよ」

 その声に皆が振り向く。

 シンジはタオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを飲んでいた。

 「僕もできるだけがんばるから」

 「お、シンジ。やる気やな〜」

 なにやらうれしそうなトウジ。

 「うん。楽しいからね」

 そう言って、微笑みをくれてから歩いていった。

 「はは・・・・・・シンジ、ええ男になったな〜〜」

 と、友の成長を喜ぶトウジ。

 『鈴原・・・・・・・・・☆』

 そのトウジの男気に、見ほれるヒカリ。

 「くっそ〜〜・・・・・・今の撮り損なった・・・・・・」



 どぐぅっ



 全然懲りてないメガネの腎臓の位置に蹴りを入れるアスカ。

 のたうちまわるケンスケ。

 時間にして、たっぷり三分の空白時間を女子たちは持ってしまった。




 ハッ




 「これだわ!!」

 聡明なアスカは、必勝作戦を思いついた。



                       *   *   *   *   *   *



 「位置について〜〜〜〜・・・よ〜〜〜〜い・・・・・・」


 ぱぁんっ


 軽い音と共にスタートする。

 競技は女子200mリレー。

 一人の受け持ちが200mもあるので、かなり不人気ではあったものの、点数は八点と高かった。

 よって各クラス共に勇士一同が集められ、戦いに赴いていた。

 A組はそんなに陸上部とかはいないのでこれには勝機は薄かったりする。

 オッズでは最下位だ。

 当然大穴であるが、望みは薄い。

 学校で賭け事やってる時点でナニであるが、コッソリとやっているとはいえ胴元が校長であり、父兄と教
師一同がかんでいるから問題は無い(ホントか?)。

 そんな大穴に賭ける物好きもいる。それも二人。


 二人はニヤリといやな笑みを浮かべ、勝負を見守っていた。


 コースは最終、曲がり角に差し掛かっている。

 C組のド根性スポーツウーマンズは流石に早いのだ。

 当然、最下位はA組だ。


 しかし、そのスポーツによって鍛え抜かれた女子に悲劇が訪れる。



 「みんな〜〜がんばれ〜〜〜〜〜」



 コースから少し離れたところに“その少年”はいた。

 “その少年”は、“満面の笑み”で・・・・・・天使が降臨したかのような透きとおった笑みで、“皆”を応援し
ていた。



 スポーツ一直線の少女の心を雷雲が立ちこめ、稲光とともに嵐を巻き起こす。

 その嵐は花を纏い、激しいのにも関わらず優しく心をかき乱す。

 貫くような強引さは無いのに、毟り取るような強さがあった。



 一瞬にして精神汚染は完了した・・・・・・。


 少女はコースを曲がりきれずにそのまま駆けていってしまった・・・・・・。

 続くB組も同様である。

 最後のA組ランナーは、肺腑を抉るような気分を味わいながらも少年の顔を見ないように走り抜けて行っ
た。


 「皆、どうしたんだろう・・・・・・」

 少年は、幼馴染の少女に言われた通りにしていた。

 『ココに立って皆を応援するの。他所のクラスの子も一緒にね』

 と・・・・・・。


 ケンスケにやられた策をそのままやり返す。

 実にアスカらしい仕返しであった。


 もっとも、これは後日『大後悔時代』を迎える事となる。

 この一件でシンジ君ファンが急増したからだ・・・・・・・・・。


 ともかく、

 A組 56点
 B組 51点
 C組 53点


 巻き返しは始まったのである。


 「わ〜〜い。えびちゅ、えびちゅ〜〜♪」

 「わ〜〜い。コスプレグッズ〜〜♪」

 配当金がドスゲェ事になったミサトとハルコは踊り狂っていた・・・・・・・・・。



                     *   *   *   *   *   *



 「シンジくん、次は何に出るの?」

 お昼になり、皆で陣形を組んでお弁当だ。

 本来ならヒカリの姉たるコダマが襲来するつもりであったのであるが、謎の腹痛で休んでいた。

 ヒカリはというと、「残念ね〜〜」と言ってそのまま学校。

 冷たいと言うか何と言うか・・・・・・・・・。


 で、今日のお弁当はハッスルしたマヤとマナのMMコンビが共同で作っていた、体育祭用の唐揚げ弁当で
ある。

 当然ながら、レイの分は湯葉をたたんで揚げたニセ唐揚げだ。

 量もそこそこで、満腹になって運動量を落とさないよう配慮されていた。


 「シンジは・・・・・・けっこう最後の方ね」

 フォークを咥えながらプログラムを調べてみるアスカ。

 シンジの出るものには青で、自分の出るものには赤で○印がつけられている。

 「シンちゃん、400mリレーに出るの」

 でかいトマトをプチトマトのように齧りながらレイが教える。

 「碇君ががんばってくれているから、今年は点数が高いのよ?」

 「せやな。わいもシンジがあないに走れるや思てなかったわ」

 頭にタオル鉢巻きを装着し、ヒカリ手製のお弁当を食べつつ、甲斐甲斐しく入れてくれた麦茶を啜りなが
ら親友を誉めるトウジ。

 なにやら土建業に従事する若夫婦に見えないことも無い。

 「シンジ君の走る姿・・・・・・格好良かったよ・・・・・・まさしくリリンの代表格だね・・・・・・眼福ってことさ」

 薄焼き卵が撒かれている俵型のおにぎりを頬張りつつ、さらりと少年を誉めるカヲル。

 真っ赤になって下を向くシンジ。

 「でも、がんばりすぎて怪我はしないでね?」

 「あは・・・ありがとう」

 さりげなく心配してポイントを上げるマナ。

 二人の少女と一人の童顔な女性がジト目になる。



 余談であるが、爺婆親バカ連合軍もシンジ達と一緒に食べたかったのであるが、好き好んでこんな垂れ幕
がある場所で食うはずも無く一つ返事で却下されているし、自分達が関わらない方が少年少女がいちゃつき
をオッ始めてくれる事を父兄ズも理解している為、ムリヤリ欲望を押さえ込み其々の家で作ったものを出し
合って食べていた。

 まぁ、手元の置いた40インチモンターで少年達の食事風景を眺めてはいたのであるが・・・・・・。



 閑話休題(それはさておき)。



 「・・・・・・ご馳走さまでした。美味しかったよ」

 行儀良く食べ終え、手を合わせるシンジ。

 赤くなるマナとマヤ。

 ムッとする赤い眼と青い眼。

 「じゃ、残りの競技。がんばろうね」

 おもいっきりハートマーク付きの笑顔でそうのたまう罪作りの少年。

 想い人の『波動砲』に少女達(+1男子)はのけぞりつつも笑顔で答えるのだった・・・・・・・・・。




                     *   *   *   *   *   *




 光があれば影がある。


 シンジという目立つ光があれば、ムサシやケンスケのような影が目立つ。

 今はとりあえず“恋人”というスタンスの女性が存在するケンスケはともかく、完璧且つ徹底的に横恋慕
しているムサシにとってシンジは恋敵にして怨敵だ。

 嫉妬と言うものは所かまわず。

 この学校にも“しっとマスク”は居る訳で、それも勇士はC組に多かったりする。

 当然ながら超人気者のアスカやレイ、そしてマナを独占しているシンジは“しっとマスク’S”にとって
のブラックリストの頂点だ。

 更に、今回はマナという童顔の美女までくっ付いているではないか。

 『殺るぜ・・・・・・』

 と気炎が上がるのも仕方が無い事である。


 ・・・・・・・・・まぁ、欠点は、たとえ彼らの行動が成功したとしても明日の日の出は望めないと言う事だ。

 爺婆親バカ連合軍+“シンジくんを守り隊”の合同攻撃が開始される事は、よほどのアホで無い限り読め
るはずなのだ。

 が、その“よほどのアホ”の筆頭がムサシ君であった。



 この日の午後、競技に入る前に第一のヒットマンが物陰からA10ライフル(改造モデルガン)で狙ってい
た少年が居たのであるが、

 「キミの行動・・・・・・行為に値しないね・・・・・・殺りたいってことさ・・・・・・」

 という謎の言葉を耳にした途端に意識を失い、病院に送られた。


 シンジが校舎のトイレに向かっている隙に、彼の運動靴にカミソリを仕掛けようとした少年は、

 「シンジの靴に何しようっての・・・・・・?」

 という声の後、問答無用の蹴りが股間に炸裂し、これまた病院送り。

 世が世ならNERVの機械を破壊した蹴りであるからして、その脚力は想像したくないものである。


 ともかく、午後の競技は進んでゆく。

 A組  75点
 B組  67点
 C組  70点

 シンジや、それに触発されたアスカやレイ、そしてトウジの活躍する二年のお陰でA組はトップになって
いた。

 B組は、流石にカヲルが居るクラスで、競技をのほほんと楽しんでいる為に高得点には繋がらない。

 対してC組。なぜに低いのかと言うと、シンジ攻撃隊が殉滅されていく過程で陸上経験者が激減し、代走
が出まくったからだ。

 人を呪わば穴二つとはよく言ったものである。


 それでもその失敗をシンジのせいにすり替えて、余計に恨んでいるのだから大したものだ。


 さて、競技もラスト。

 400mリレーである。

 コレの点数は実は決まっていない。

 最下位とトップとの点差に1点を加えたものが一井に与えられる点数である。

 そうしないと逆転劇が起きないからだ。

 二位がその半分の点(端数切捨て)から1点引かれたもので、最下位だけは1点と決まっている。

 よって、一位が9点。二位が3点、三位が1点である。



 「よし!! 復讐の時は来た!! てめぇら!! A組(主に碇)を殺るぞ!!!」

 「「「「「「「「「YAaaaaaaHAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」」」」」」」」」



 「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」


 嫉妬に猛る男らを冷ややかな眼で見つめるC組女子達。

 流石にそんな姿を見たら自分らのクラスを応援する気も失せてくる。

 「どうするぅ?」

 「碇君でも応援しようか?」

 「そっちの方が建設的だよね〜」

 嫉妬は見栄えを悪くする事に気付けないムサシ君達・・・・・・・・・。

 同情はできないが、哀れではあった・・・・・・・・・。



 「競技もこれで最後だね。このまま怪我人も出ず、恙無く(つつがなく)終えられればいいね・・・・・・いい
  一日だったと思うよ」

 B組はのほほんとしていた。

 カヲルの言葉に賛同し、とにかくニコニコしていた。

 このクラス、実はとてもイイ雰囲気だったりする。

 「恙無く・・・・・・これはツツガムシが居ないから平和だって意味さ・・・・・・日本語は深いね・・・・・・まさにリリ
  ンが生み出した芸術だね」

 ・・・・・・ワケの解からない知識が出たりしなければ、の話であるが・・・・・・・・・。



 「いやぁ、皆、がんばってる!! 感動した!! あたしも大穴とってえびちゅが飲める!! いやぁ、
  いい日だわコリャ」

 2−Aの宴会総大将こと葛城(夫婦別姓)ミサト教諭は日の丸扇子を両手にテンションを上げていた。

 なんだか暑さと熱気とは別物の汗を感じないでもない生徒達。

 「あたしも、最後だから応援するよ〜〜」

 と、オレンジ色のチアガール風コスプレをしたハルコが現れた。

 何となくエプロンのようなデザインが不思議なアクセントになっている。

 恐らくはハルコ作であろう。

 頭にはこれまたオレンジのサンバイザーをかぶり、メリハリの効いたプロポーションが刺激的だ。

 「あ、いいわね。ソレ」

 アスカの呟きを目ざとく聞きつけると、ハルコの眼が光った。

 「だ〜〜いじょ〜〜ぶ。アっちんとレイちんの分もあるよ〜〜。あと、マナっちのも・・・・・・」

 ヘンな愛称に汗を感じつつも、『アっちん』と印刷されたビニールを受け取る。

 「あ、でも、あたしはC組なんだけど・・・・・・」

 流石にこれ以上A組の応援はまずい。

 女子と一部の男子はともかく、しっとマスク達の視線がイヤンなレベルに達しているからだ。

 「だいじょ〜〜〜ぶ。コレ、特殊な衣装だからマナっちが必要なのよね」

 「へ?」

 アスカとレイ、そしてマナを呼んで、なにやらボソボソと教えるハルコ。

 少女達の顔に妙な笑みが浮かぶ。

 「OK三連呼よ。アタシ、やるわ!!」

 「わたしも〜♪」

 「それだったらいいかも・・・・・・」

 少女達の意見は一致した。


 後は、本番である。



              *   *    *   *   *   *   *   *   *



 『見てろ、マナ・・・・・・俺はやるぜっ!!!』

 シンジと同じくアンカーの位置にいるムサシ。

 その眼は某アニメの野球選手ばりに燃えていた。

 当然ながらそれは本人意見であり、傍から見ると眼をぎらつかせているにすぎない。

 『やっだ〜〜〜・・・・・・アイツ・・・・・・あたしを襲う気ね?!』

 マナがA組の方に逃走するのも致し方ないといえた。

 『なぜだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!』

 やはりアホ筆頭だ。



 「よっしゃ!! いくで!!」

 第一走者はトウジである。

 赤いハチマキを巻いてキリリとした彼の表情は、ヒカリにクるものがある。

 「すずはら〜〜〜〜〜♪」

 彼女もオレンジ色のチアガール風コスプレだ。

 三つ編みをといた髪は自然にシャギーがかっていて、うすくファンデをつけた顔と相まって、少女らしか
らぬ魅力に満ち満ちていた。

 「おぅ!!」

 自然に手を振るトウジ。

 ニヤつくアスカとレイ。

 しっとマスク化するC組男子。






 スタート地点でスターターを持っているのはミサト。

 ただし、既製品だ。

 最後だから遊びなしなのだろう。


 「んじゃま。あ〜ゆ〜れでぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」



 ぱぁんっっ!!!



 か〜〜け〜〜ろ〜〜星屑のう〜〜みを〜〜〜ま〜〜も〜〜れ〜〜限りなきそ〜〜らを〜〜〜♪


 謎の音楽がその音にあわせてスタートする。

 シンジとアスカは聞いた事があるような気がしたが、今度はトウジは知らないので気にならず走り続ける。


 流石に400mもあると結構キツイものがある。

 だが、トウジは最初っからトップスピードだ。ペースもへたくれもない。


 「すずはら〜〜かんばって〜〜〜〜♪」

 「バカジャージ!! こんな時くらいはきばんなさいよ〜〜」

 「委員長が見てるわよ〜〜〜♪」

 最後なのでアスカ達も応援する。

 と、彼が直線コースに入った時、ヒカリがエプロンのような衣装の肩紐をといた。

 はらり・・・と落ちるエプロン。

 だが、それは腰に巻くタイプの裏地が白いエプロンとなり、その下からはファミレス風衣装が現れる。

 そして、その胸元にはちゃっかりと「SU・ZU・HA・RA」とプリントされていた。


 「「「「「「きゃああああああああああああああああ♪」」」」」」


 A組女子はその大胆な行動に歓声を上げた。

 本当はスコートにもSUZUHARA♪等とプリントされてたりするが、まさかそんなものを見せるまでは大胆に
なっていない。

 「ぬぉっ!!」

 “漢”の部分にミラクルなパワーが送られかかるが、なんとか脚力にそのエネルギーを回して耐えるトウ
ジ。

 お陰ですごい速度が出た。

 トップで次のランナーにバトンを手渡す。

 残念ながらヒカリはトウジ専用制服なので、さっさと退場する。

 それでもアスカとレイが自分のクラスだからと応援してくれていたので、名も無き少年は涙を流してがん
ばった。

 現在A組はトップである。

 「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 ガッツというより、ただの嫉妬&負けん気で追い詰めるかのように後を追うC組ランナー。

 たまに「ザマァミロ!!!」と追い抜いてゆくが、そっちに気が行ってしまいバトンを手渡し忘れて全然
トップになれなかったりする。

 流石にそのあさましい男子の姿に、クラスの女子からも応援の声が出なかった。


 四人目の走者になってから異変があった。


 ゴール手前でC組のランナーが足をくじき、A組のランナーを巻き込んで倒れたのである。

 C組女子の目に、ハッキリと疑念が浮かんでいた。

 『わざとね・・・・・・』

 と・・・・・・。


 当然ながらA組のある少年は二人を心配していた。

 「大丈夫かな・・・・・・」

 その様子に、ますます自分のC組を応援する気が無くなる女子達。

 なんとかバトンを受け、五人目が走り出す。

 トラックを二周し、アンカーたるシンジに向かってくるランナー。

 「すまん、碇。頼む!!」

 「うん。がんばるよ」

 その少年に笑顔を向け、トウジと同じくトップスピードでダッシュした。


 ちなみに、その笑顔をもらった男子は医務班に運ばれていった。

 息が切れていた時に、少年の笑顔は心臓に悪かったのである・・・・・・。


 「「「きゃあ〜〜〜♪ シン(ちゃ〜ん)ジ(くぅ〜ん)〜〜〜♪」」」


 マナも立ち上がって応援に加わった。

 ちなみに端にはハルコもいる。

 四人は並んだまま、肩紐を外す。

 アスカ、『I Love Shiji♪』

 レイ、『I Need Shinji♪』

 マナ、『I Want Shinji♪』

 ハルコ、『♪』

 当然、見えないが三人のスコートには「Shinji♪」とプリントしてある。


 一人はともかく、三人はそれぞれの想いの詰まった言葉を満面引き出していた。

 サイズがぴっちりと合っている為、そのスタイルがむき出しにされているのだ。

 特にアスカは胸が突出して大きい為、慣れない者は鼻血を吹きそうだ。

 だが、ハルコはともかく、その少女達の笑顔はただ一人の少年・・・・・・碇シンジただ一人だけのものである。


 『こ〜〜んちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!』

 その想い人の有様に、ムサシ君もダークフォースを撒き散らす。

 腕を振るフリをしてエルボーをかけるがシンジは少しペースを落としでかわす。


 ピキっ


 女子・・・・・・当然ながらその暴挙にアスカ達は当然として、彼女ら以外の女子達の顔にも血管が浮かぶ。

 不自然に足を出し、シンジの足を踏もうとするも今度はペースを上げて回避する。


 ピキピキ・・・・・・。


 少女らの血管が太くなる。

 「あいつ・・・・・・アホちゃうか・・・・・・?」

 「多分な・・・・・・」

 シンジを応援しながら、トウジとケンスケはムサシの行動に眉を顰めていた。

 ムサシの行動は女子達の怒りを買うだけである。

 アスカやレイ、マナの恐ろしさを思い知っているトウジとケンスケにとって、馬鹿の見本のような行動で
ある。

 仮にこの競技を無事に終わったとしても、明日の朝日が望めるか怪しいものだ。


 何度も攻撃するが避けられまくるムサシ。

 無意識に避けるシンジ。

 そう。彼は意図的に避けているのではなく、今まで培われた経験によって無意識に避けているのだ。

 よって、シンジ本人は攻撃の事実を知らなかったりする。

 「ぜって〜〜〜殺ってやる!!」


 ぶちぶちぶちぶちぶちっっっっっ


 女子陣の血管がぶち切れる。

 そのアホタレの声を耳にしてトウジ&ヒカリ、ケンスケの顔色がぴるぴるぴる〜〜〜と青くなってゆく。


───ど、どんな血の雨が降るのかな?


 である。


 だが、トウジ達はある恐ろしい事に気がついていない。

 ここには・・・・・・爺婆親バカ連合軍がいらっしゃられるのである。。



 ・・・・・・・・・その彼らは無言であった。

 恐ろしいほどに・・・・・・・・・。



 ある者は能面のように微笑み、ある者は顔の前で手を組んでサングラスを鈍く光らせて・・・・・・・・・。



 ムサシの明日はあるのであろうか・・・・・・・・・?



 さて、ランナーは二周目を回り、最後のカーブにさしかかった。

 シンジもがんばってはいるが、初めての400m全力疾走。トウジほど体力馬鹿ならいざ知らず、ついこの
間までインドア生活者であった為にペース配分がムチャでかなりムリが出ていた。

 それでも応援してくれる声が聞こえる為、彼の足は止まらない。

 ムサシにしたらそんな彼が憎らしい。

 もっとバテていれば嘲笑えるのに、なんで運動部でもないシンジが自分に張り合えるのかが理解できない
のだ。

 最後のカーブに入った瞬間、ムサシは攻撃に転じた。

 ショルダーチャージである。

 シンジ程の体格であれば、それだけでお陀仏のハズ!!

 ・・・・・・その後で彼自身も様々な理由でお陀仏であろうけど・・・・・・・・・。


 それはともかく、

 『シンジ、体育祭に散る』か?!


 だが、ムサシ君のタイミングと運は劣悪であった。


 「シンジ〜〜!! スパートよぉ!!」
 「シンちゃん!! もう少しよ〜〜!!」
 「シンジく〜ん!! ふんばれ〜〜!!」

 少女達の声と、

 「シンジ!! フォースを使え」

 父の意味不明な応援。

 「シンジ〜♪ しっかり見てるからね〜〜」

 母の声。

 「「シンジ君、がんばれ〜〜!!」」

 ユニゾンしているアスカの両親。

 皆の応援の声。

 皆が自分を応援してくれている喜びが、彼の足に伝わった。


 ぐんっ


 踏みしめる一歩が強くなる。



 ひゅ〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・ぐわっしゃああんっ!!!



 なんだかシンジの後を何かがふっ飛んで入ったような気もするが・・・・・・。

 そんな事は気にせず、シンジは駆ける。



 走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。



 ぱぁんっ!


 ゴールの音の合図が鳴った。


 ついにシンジは最後まで走りぬけ、級友と知人の歓声の中、少年は二着でゴールインしたのであった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?

 二着?


 「やぁ、勝ったよ。嬉しいねえ・・・・・・」

 アスカ達のジト目の向こう、

 四人目の自己の折、ちゃっかりとランナーを進ませていたB組が五人目のあたりでゴールしていたのであ
る。

 “楽しんだもの勝ち”

 まさしくその言葉を体現したカヲルであったとさ。

 マル。



              *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「ま〜〜ったく・・・・・・お兄ちゃんてば、いつも美味しいトコとるんだから・・・・・・」

 「ははは・・・・・・マナだってシンジ君の応援を楽しんでたじゃないか」

 「でも、楽しかったわ。ホントに・・・・・・」

 「うん。そ〜だね・・・・・・」

 クラスの打ち上げ、その後家族(キール知事込み。入れないと泣く)と楽しんだレストランでの打ち上げ、
部屋に帰ってみるともう八時になっていた。

 ジャンケンに勝ったレイが先にシャワーを浴び、アスカ、マヤが入って最後にシンジ・・・と順番に入り、自
室で汗を落としていた霧島兄妹が戻ってくると、皆呆けていた。


 今日一日にあった事がとても楽しかったからである。


 マヤにしても、同居している皆がとてもがんばっている所を見ることが出来たし、シンジがすごくがんばっ
ているのを見ることが出来たから満足していた。

 「あ、あれ? シンジ?」

 気が付くと、少年は既に夢の世界へと旅立っていた。

 「今日はがんばってたからね〜〜・・・・・・」

 「そうだね・・・・・・ボクも見てて嬉しかったよ」

 「あたしも・・・」

 「うん・・・」

 「ね? ここで皆で寝よっか?」

 「「「「さんせ〜〜(小声)」」」」


 少年が初めて自主的にがんばった競技。

 目立つ事も、人と競う事を好まなかった彼が、初めて楽しんだ学校行事。

 終わってみれば少年にとって楽しい思い出の一つ・・・・・・・・・。


 少年は夢の中でも皆で笑っているのだろう。



 その顔にはやわらかな笑みが浮かんでいた。














 爺婆親バカ連合軍・・・・・・・・・。

 彼らは今夜、酒盛りで眠れない・・・・・・・・・。

 自分らの息子の、自分らの孫にあたる子供の、自分らの義理の息子の大活躍DVDの編集という、最強の
酒の肴があると言うのに眠る事ができるというのか?

 彼らの夜は長かった・・・・・・・・・。


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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