プシュゥウ・・・・・・ン。


 ドアが開いて相変わらず白衣姿の美女が戻って来た。

 「あ、おかえりリツコ。なんか解かった?」

 親友の部屋で報告を待っていたミサトが、アイスコーヒーを渡して労う。

 「ありがとう」

 熱い雫を舌で転がし、喉へと送り込む。


 今の脳にはブルマンよりモカは濃さが丁度よかった。


 顔には出していないものの、グダグダに疲れた脳にコーヒーの苦味がありがたかった。

 コーヒーはインスピレーションの源と言ったのは誰だったか・・・・・・。

 「解かったって言うか・・・・・・一言で表すなら一体化ね」

 ホッと息をついてから愚痴の様に漏らす調査結果。

 「一体化ぁ?」

 メモと付箋を大量に挟んだファイルを机の上に放り出し、カップを持ったまま椅子にドカっと腰を下ろす。

 やや乱暴だが、理解不能といえる訳の解からないものを見た後じゃあ疲れるのも当然だ。

 端末を起動させ、フォルダの中から見た目ちっぽけなファイルを引っ張り出す。

 モニターに映る画像は、ジャングルジムにいびつな多角形が張り付いていて、なんとも言えない不思議な
幾何学模様を立体化させていた。

 「MAGIに作ってもらった分子構造モデルよ。解かる?」

 「・・・・・・・・・んにゃ、全然・・・・・・」

 白旗は早かった・・・・・・。

 「でしょうね。今回の使徒・・・・・・コード“マトリエル”の“本体”の構成分子構造のモデルよ」

 理解できない事は解かっていた為、呆れはしない。

 やはりムッとする作戦部長。

 「ンな事は解かってるわよ! 大体、ソレの調査に行ってたんでしょうが!! でも、コレ何? 真ん中
  のは鉄みたいだけど・・・・・・」

 「へぇ・・・・・・解かったの? 意外だわ」

 「アンタねぇ・・・・・・」

 おっとっと・・・・・・不機嫌モードに入る前に話変えないと飲みに付き合わされてしまう。

 「あなたが言う通り、真ん中のは鉄、そして他のは・・・・・・キチンよ」

 「は? キチンて・・・・・・あの、海老とか蟹とかの甲羅の?」

 甲虫のもそうだけどね・・・・・・と付け足すリツコ。

 「1:2:1・・・・・・キチン、鉄、キチンの順で構成された変異構造分子だったわ・・・・・・だから思ったより
  軽くて、計算より脆かったのね・・・・・・」

 溜息も出る。

 使徒の片付けのおり、“表向きの本体“の涎蜘蛛(ミサト命名)を移動させようとして溶解液をこぼしてし
まい、道路を分断してしまう大惨事になったのだ。

 まぁ、使徒そのもの“本体”の上であったから多少はマシではあったが・・・・・・。

 「・・・・・・・・・ねぇ、リツコ。一体化って言ってたわよね? まさかあの地域全部が・・・・・・?」

 やっぱりこの親友は鋭い。

 まぁ、地域の使徒化という“異変”に真っ先に気付いたのだから当然か・・・・・・。

 「・・・・・・そうよ。ショーウインドゥも、野菜も、本も全部ね・・・・・・見た目も色も変わりないけど、全部が
  一つの同分子構造体になって固まってたわ・・・・・・。おまけに多層構造になってたから、言うなれば鉄の
  スポンジね。気色悪いったって・・・・・・・・・」

 ミサトもちょっとブルっと来た。

 報告書には一般人に被害はない。

 もし、巻き込まれていたとしたら・・・・・・・・・。

 「あらミサト。被害“者”はいるわよ?」

 そのミサトの様子に何を考えていたかすぐに伝わる。

 「え? マジ?! だって報告書には・・・・・・・・・」

 「ええ・・・・・・被害者ゼロだわ。“一般人”にはね・・・・・・」

 そのニュアンスで言わんとする事が理解できた。

 ミサトの眼に剣呑な色が混じる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドコ? うち? それとも・・・・・・」

 「“向こう”よ。南部クンの見立てでは政府の特殊部隊ね。兵装ビルのメンテナンスゲートから侵入して来
  たみたいだったわ」

 「裏・・・・・・とれるかしら?」

 「無理ね。ゴーグルごと一体化してるから、まるで兵隊のプラモデルだわ。コレ、CT画像ね」

 見せられた兵士の顔面の縦割り画像。

 見事にダークブラウンのスポンジ状のそれを見てしまったミサトは、しばらくはチョコレートケーキとエ
ア・イン・チョコは食べられないなぁ・・・・・・という彼女らしいズレた感想を述べた。



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    For “EVA” Shinji 

        フェード:弐拾弐

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 お茶菓子は手作りのチョコレートケーキとエア・イン・チョコ。

 今日はアイスコーヒーをテーブルに置き、シンジ達三人はリビングに落ち着いた。

 窓側にシンジが座り、右側がレイ、左側がアスカである。

 アルファは定位置・・・・・・シンジの頭の上ではなく、NERVのシステムの監視。

 また何者かにアスカが襲われたらかなわないからである。

 「それじゃあ、会議を始めるわよ」

 どう見ても議長はシンジなのだが、この赤みがかった金髪の少女がそうらしい。

 仕切り屋の彼女ならではとも言えることだが。

 「んじゃ、報告するわよ」

 コホンと咳をしてから向き直る。

 「南部さんの言う事には、侵入者は装備からして政府軍らしいの。で、あのアタシ達を襲ったあの刺客は
  フリーの殺し屋らしいわ」

 「フリーの・・・・・・? じゃあ、一殺が10万ドルくらいかしら・・・・・・」

 「レイ・・・・・・・・・“彼”だったら僕達はこの世にいないよ」

 「・・・・・・そうね」

 「何の話よ!!」

 二人だけの符丁を使う話にアスカが怒鳴る。


 レイとシンジの言っているのは真面目な人物像ではなく、セカンドインパクト前まで世界を又に駆けてい
た“G”と呼ばれるフリーランスの殺し屋の事である。

 殆ど都市伝説なのでアスカが知らない事は当然だろう。

 それ以前に、この世界にいるのであろうか?


 「ンな事はどーでもいいのよ!! アタシを殺そうとしたのは政府じゃなくて、日本の個人の可能性があ
  るって事を言ってるの!!」

 日本の・・・・・・と言うのは、キョウスケの話によれば襲撃者の二人は生粋の日本人で、表向きは第二東京市
で大手電機メーカーに十年も勤めていたからである。

 裏の名は当然知られていない。
 プロとはそう言うものだとキョウスケは言っていた。


 無論、個人の思惑だと思わせる策であった可能性も否定できないが、どちらにせよアスカを殺そうとした
事に間違いない。


 「でも理由が解からないよ・・・・・・あそこに隠れてたんだから誰かに道を教えられてたのは間違いないんだ
  し・・・・・・あんなにややこしい所なんだから、僕だったら迷って餓死しちゃうよ」


───そこまで酷く迷うのはアンタだけよ!!


 とは口に出さない。

 「大丈夫・・・・・・碇君は死なないわ・・・・・・わたしが守るもの・・・・・・」

 一人ポイント上げるヤツがいたり・・・・・・。

 「あは・・・・・・ありがとう綾波・・・・・・」

 「な、何を言うのよ・・・・・・」

 本日、初弾の微笑攻撃で撃墜されて真っ赤になるレイ。

 ムっとするアスカ。

 「そんな事より、アタシが死ななきゃならない理由よ!!!」

 アスカの命に係わる事なのだ。

 たちまち真面目な顔つきになる少年。

 「・・・・・・アスカが死・・・いなくなって得をすることってあるの? 損にしかならないと思うけど・・・・・・」

 言葉だけでもアスカが死ぬとは言いたくない。

 その想いに気付いて赤くなるアスカであったが、シンジの問い掛けに真面目に考える。

 「他の支部のチルドレンを使えるから・・・・・・・・・てのは無理があるわね・・・・・・アタシ達ほどのシンクロ率を
  出せるチルドレンの話なんか聞いたこと無いわ」

 実際、シンジが平均79.6%で、アスカが76.4%、ATフィールドを使いこなせるレイが78.9%である。

 他の支部の連中にいたっては、“前”のレイのシンクロ値にも達していない。

 戦う戦えない以前に使い物にならない。

 そんな中で派遣できる訳が無いのだ。

 仮に彼らに匹敵・・・或いは凌駕するシンクロ率を持った者がいるとすれば、それは人間型の使徒である。


 「・・・・・・整理してみましょう」

 よそ見している間にチョコレートケーキを食べ終わっていたレイが、アイスコーヒーを飲み干しながらそ
う言った。

 そのスピードにちょっと驚く二人。

 「アスカがいなくなる・・・・・・碇君が壊れる・・・・・・使徒に負ける・・・・・・終わり・・・・・・何もいい事無いわね」

 「・・・・・・そうねぇ」

 「・・・・・・僕が壊れるって・・・・・・・・・う〜ん・・・・・・駄目だ。否定できないや・・・・・・」

 機嫌が良くなるアスカ。

 それだけシンジの心の自分の締める割合が大きいという事なのだから・・・・・・。

 「あ、もちろんレイがいなくなっても同じだよ? 二人とも大事なんだから」

 「(ぽっ)碇君・・・・・・・・・」

 「(ムッ)・・・・・・全然解決しないじゃないの」

 「そうなんだよね・・・・・・う〜〜〜〜ん・・・・・・・・・」


 実際のところ、シンジ達の“死”は、即人類の破滅なのだ。

 その事を理解している“ゼーレ”達が動くとは思えない。

 では反勢力組織なのか?

 いや、その反勢力は1990年代に壊滅している。

 その事は“知っている”のだ。


 いくら考えても煙も出ない。


 悩んでるシンジを頬を赤らめつつ見つめていたレイが、ふとある事に気が付いた。

 「碇君・・・・・・」

 「うん?」

 「もし、“勘”で犯人を言えって言ったら・・・・・・・・・誰を言う?」

 「“勘”〜? どういう事?」

 聞いていたアスカも当然の疑問を吐く。

 「だから、“勘”・・・・・・・・・計算とか判断で想定した答えが出ないなら、答えが出ないようにそういう策を
  とっている可能性があるわ・・・・・・。
  だったら論理飛躍して・・・・・・“勘”で考える必要がある・・・・・・」

 「そっか・・・・・・」

 シンジも納得する。

 アスカにして見ても、頭の奥でもやもやしていた人物はいる。

 ただ、当てずっぽうで言う訳にもいかないから言わなかっただけなのだ。

 言ってみるだけならいいだろう。

 「・・・・・・勘でいいなら・・・・・・」

 少し考えてからシンジは頭を上げた。

 やや顔色が悪い。

 「いいなら・・・・・・?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・父さん」





 ピシィッ・・・・・・




 空間にヒビが入る音が聞こえたような気がした。

 よりにもよって皆が同じ想像なのだ。

 「ち、ちょっとシンジ・・・・・・アンタなんでそう思ったのよ?」

 言ったアスカも慌てる。

 自分の想い人と同じ答えであるということより、シンジが父親を疑っているという状況がそうさせている
のだ。

 「・・・・・・・・・と、父さんならこんな事くらいやる気がするんだ・・・・・・理由は解かんないけど・・・・・・それに、
  アスカの命が狙われる時に限って父さんと会ってないんだ・・・・・・」

 流石に顔色が悪い。

 優しい彼であるからして当然だろう。

 よりにもよって実の父を疑う羽目になっているのだから・・・・・・・・・。

 「それに・・・・・・」

 「それに・・・・・・?」

 「・・・・・・この時代の父さん・・・・・・母さん以外はなんとも思ってないんだよね・・・・・・・・・」


 シンジの独白に空気が澱む。


 アスカとてその気持ちは解かる。

 自分だって母親が人形を自分と思い込んで“本物”であるアスカを見てくれなかった経験があるのだから。

 それでも、人形と言う代用品とはいえ“アスカ”を見てくれていた事には変わりは無い。



 だが、シンジの場合は端から向けられているモノが無い。



 母親であるユイが存在していたならばこうまで利己的な父親にはならなかったであろうが、ゲンドウはユ
イを取り戻す為なら、そしてその目的の障害になるというのなら、血を分けた息子であるシンジですら眉も
動かさず始末するであろう。

 ・・・・・・・・・自分がシンジに対して酷い事をしている自覚が全く無いのだから・・・・・・・・・。



 もっとも、“今”のゲンドウのメンタリティまでは知る由も無いので彼女らの想像だけである。




 事実、あの混沌とした意識の世界で、ゲンドウはシンジに詫びていた。

 それはナイフでシンジを抉り続けながらも自覚がなかった愚かさに気付いた為であるが、

 『傷つけるのが怖いから傷つけ続けた』

 という結果内容に気付かなかったのは間違いなくゲンドウの罪である。





 グラスに残るのは氷だけになった頃、ようやくレイが口を開いた。





 「わたしも・・・・・・髭・・・ううん、司令だと思ってる・・・・・・・・・」

 沈黙を上書きするようにレイが重く口を開いた。

 「碇君の心が・・・・・・意志が強過ぎて“贄”にはできない・・・・・・だったら絆を断つ事が先決になる・・・・・・」

 級友とかも含まれるが、なぜかそっちに被害は無い。

 その方が効率的なのにも拘らず・・・・・・・・・だ。

 「司令はわたしを“物理的”には傷付けられない・・・・・・碇君がいなくなったら計画が破状する・・・・・・とな
  ると・・・・・・・・・」

 「アタシ・・・・・・か・・・・・・」

 コク・・・・・・と無言で頷くレイ。

 「でも・・・・・・あくまでも納得できる“かもしれない”程度の話よ。だって、アスカを狙うより鈴原君の妹
  さんを狙った方が被害が少なくて効果的だから・・・・・・」


 一度は救えた命が消える。

 確かにシンジにとっては致命的な傷になるであろう。


 そういう意味で言えばアスカを狙う理由は解からない。


 「・・・・・・・・・アスカ」

 心配そうにその空色の瞳を見つめる少年。


 今のレイの想像の通りなら、確かにゲンドウが黒幕ならば矛盾が発生する。

 しかし、三人の勘はゲンドウだと伝えているのだ。


 シンジの心も二人は痛いほど理解できる。

 ヘタをすると・・・・・・いや、ほぼ断定的に自分の父親がよりにもよって自分の絆の命を狙っていると言うの
だ。


 少年の心傷も一つ増えたという事か・・・・・・・・・。


 「あ〜〜あ、失敗したなぁ・・・・・・・・・」

 重い空気を振り払うようにアスカが言った。

 後に手をついて身体を反らせる。

 「ちょっと浮かれすぎちゃったわ」


 シンジと“再会”を果たす前まではちゃんと自分に仮面をつけて“前”をなぞっていた。

 だが、少年と再会を果たすとアスカの心は舞い上がってしまい、周りの状況そっちのけで彼にくっついて
行動していた。


 ・・・・・・まるで母親のトラウマが消えてしまったかのように・・・・・・・・・。


 実質、あの赤い海の彼方から戻って来た自分だからこそ母親の自殺による心の傷には耐えられているのだ
し、加持より確実に“自分”を知ってくれる少年がいるからその傷は広がらない。


 ・・・・・・かえって少年の傷の方が酷すぎる位なのだから・・・・・・・・・。


 そんな風に心身共に強くなったアスカの行動を見、“奴ら”や“司令”はどう思ったであろうか?

 ドイツにいた頃は、途中までとは言え『加持さん、加持さん』と子犬のように付きまとっていたのに、日
本に着いてからは『シンジ、シンジ、シンジ』である。

 おまけに加持に対するそれより、確実に性的アプローチを行っている。

 自分よりシンクロ率が上回っているシンジや、完全にATフィールドを使いこなしているレイに対して嫉
妬を抱かない。

 それ以前に頼りにしているのだ。

 これでは様々な思惑も浮かび上がると言うものだ。


 「・・・・・・まぁ、なっちゃったモノはしょうがないわ。来たら来たで手を打つしかないわね。実際、出方も
  解かんないんだし・・・・・・」

 「・・・・・・・・・そうね」

 アスカの開き直りの意見にレイも賛同する。

 そんなアスカをじっと見つめる強い意思の光。


 当然、シンジである。


 「アスカ・・・・・・」

 「え・・・・・・・・・?」

 その強い光を放つ瞳に、アスカの眼が眩む。

 クラクラする。

 「僕、絶対守るからね・・・・・・・・・今度こそ守るからね」

 「シンジ・・・・・・・・・・・・」

 彼の言っているのはアラエル戦の時の不甲斐無さと、友に手をかけてしまい殻に閉じ篭もって政府軍と量
産機からアスカを見捨てる事になった事だ。


───あの時の徹は踏まないっ!!!!!!


 それが“今”シンジの中で煮え滾る想いである。

 アスカやレイも理解している。

 それが成された時、シンジの心から一番大きな楔が抜けるのだ。


 だから、そんな傷だらけで健気な彼を、



 「・・・・・・え?」

 「シンジぃ・・・・・・」
 「碇君・・・・・・」





 二人は強く抱きしめた。






 「今度は・・・・・・守ってよ・・・・・・?」

 「わたしも・・・・・・」

 「うん・・・・・・」

 そんな二人の背中に手を回し、想いを手放さないように力を込める。

 シンジの腕の中に確かにある“命”。

 “前”の戦いにおいて、手の隙間から全て零れ落ちていったもの・・・・・・・・・。



 今度こそ、生きぬくんだ・・・・・・・・・・・・。

 例えどんなに自分の身体と心を痛めたとしても・・・・・・・・・・・・。

 僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。












 「あららら・・・・・・やるわね〜〜シンちゃん」

 「え・・・・・・・・・・・・・っ?!」

 慌てて前を見ると、物凄く楽しそうな顔をしている作戦部長兼ワイドショー部長がいたりする。

 「わ、わわぁっ!! ミ、ミサトさんっ?!」

 慌てふためく少年。

 さっきまでの凛々しさの欠片もない。

 「いや〜〜・・・・・・愛の巣で睦みあう男女の仲。いいモン見せてもらったわ〜〜♪」

 「ちょ、ちょっとっ!! ミサトさんっ!! アスカ、綾波っ!! ふ、二人とも何とか言ってよぉ!!」

 慌てている為か、それとも保護欲の為か、二人を抱きしめる手を緩められないシンジ。

 それでもなんとか状況を打開すべく二人の顔を覗き込む。

 「ふにゃ〜〜・・・・・・シンジぃ・・・・・・」
 「はぁ・・・・・・碇君・・・・・・」


 ・・・・・・・・・真っ赤な顔してアチラの世界へ逝っていた。


 「うふふ・・・・・・二人とも絶頂しちゃったトコって感じかしら?」

 「そ、そんな・・・・・・・・・アスカぁ・・・・・・綾波ぃ・・・・・・」

 どんどん照れたり情けなくなったりする表情。


 だが、状況は悪くなっても良くはならなかったりする。


 「・・・・・・レ、レイ・・・・・・アスカ・・・・・・碇君・・・・・・・・・」

 震える声が少年の耳に入った。

 「え゛? い、委員長?!」

 「あ、ごみ〜〜ん。洞木さん、部屋に上げてるの忘れてた」

 テヘ☆っと舌を出すミサト。

 「ミ、ミサトさぁああああああああんっ!!!!」

 当然のごとく悲鳴のような声が少年から上る。

 「・・・・・・・・・み、皆が心配してたから様子見に来たのに・・・・・・・・・」


 レイのマトリエル戦の治療と検査で三日も学校へ行っていないのだ。

 それは心配もしてくれるだろう。


 プルプルと震えるヒカリの肩。

 危険な兆候である。


 「あ、あの・・・・・・委員ちょ・・・・・・」

 なんとか止めようとするシンジ。

 だが、一足遅かった。

 「・・・・・・・・・い」


───来るっ!!


 反射的に耳をふさぐシンジとミサト。



 「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!

  大人よぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!

  3Pでイかせちゃうなんて・・・・・・・・・・・・・・・

  碇君のテクニシャア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンっ!!!!」



 超音波をブチ蒔きつつ、ぎゅいんぎゅいんするヒカリ。

 まるで自分の奇声で踊るダンシングフラワーだ。


 シンジ達はただその“声”に耐えるだけ。


 シンジの失策はアスカ達の耳を塞いであげる為、自分の腕で挟むようにして彼女らの耳を塞いであげた事
だ。

 そのせいで二人の頬はシンジの頬に触れ、コレ幸いと二人はそのまま頬ずりへと移行した。



 ミサトの失策は暑いからとマンションのドアを開けっ放しにしていた事だ。

 イインチョのスゴイ声は部屋の中で反響し、外へと飛び出して行った・・・・・・・・・・・・。





 しばらく、第三新東京市で“テクニシャンの碇”という謎の都市伝説が駆け回るのであった・・・・・・・・・。















    お・ま・け


 「ハイ、ミサトさん。これがミサトさんの分ですよ」

 なんとか落ち着きを取り戻したヒカリとミサトの前に置かれたチョコレートケーキ。

 切断面から覗くのは、当然ながらチョコレート色のスポンジ面・・・・・・・・・。


 うぷっ


 「う、う〜〜ん・・・・・・」

 「ミサトさん、疲れてるでしょう? 疲れているときはチョコレートがいいんですよ。ちゃんとローカロ
  リーにしてますから」


 にっこり。


 「うっ・・・・・・」

 シンジをからかって楽しめたのは良いが、その反撃は悪意の“あ”の字も無い、自分を心配する善意とい
う名の暴力であった。

 チラリと横を見ると、ヒカリはアスカ達とにこやかに談笑している。
 援軍は望めない。

 前を見ると、ニコニコと自分を見つめる無垢な瞳・・・・・・。

 さっきの調査結果のモニター画面が頭に浮かぶ。

 だが、この笑顔を曇らせるのは死ぬほど痛い・・・・・・。

 ミサトの苦悩は続くのであった・・・・・・。




 その後でエア・イン・チョコが待っていることも知らず・・・・・・・・・。








 ──あ(と)がき──

 ああ、やっとここまで来ました・・・・・・・・・。

 弐十弐話まできてやっとマトリエル戦後っス。

 実に原作の倍の時間ですね・・・・・・週刊的に送ってますけど・・・・・・。


 チルドレン達を虐めるつもりは無いのですけど、シンジ君はハーレムの中心者としてこんな目にあっても
らいましたw

 美少女達を独占してるんですから、これくらいはねぇ・・・・・・・・・w


 では、そろそろ使徒が降って来る頃です。

 次回でお会いしましょう。


 ではでは・・・・・・。


 〜〜奇跡の価値に幸いあれ〜〜


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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