厚手のカーテンによって日の光が遮られた薄暗い部屋の中・・・・・・・・・・・・・・・。


 別にエアコンがかかっている訳でもなく、窓を閉め切っているわけでもない。

 だというのに部屋の気温は低く感じ、完全に隔離された結界の中のよう。


 ここでは、外の日常から隔離された、あくまで非日常的で、あくまで淫靡な光景が展開されていた。



 ジャラ・・・・・・・・・。



 首輪にかけられた太い鎖が音をたてる。

 大型犬用の太い奴より、もう一回り太い。

 その重さで身体に力が入らない少女は首が垂れてしまう。


 「シ、シンジぃ・・・・・・・・・」

 いつも快活であった赤みがかった金髪の少女が、スカイブルーの瞳を悲しみに曇らせ、自分の“飼い主”
に許しを請う。

 あの勝気だった声も力が見えない。

 というよりその気力が湧かない。


 精神の疲労と現実離れしたこの状況が彼女のキャパシティを軽く超えているのだ。


 「お願い・・・・・・もう酷いことしないで・・・・・・・・・」


 愁いと苦痛に彩られた少女の顔。

 だが、そんな表情を向けるからこそ、“飼い主”の少年は腰から駆け上がってくる歓喜に身を焦がすのだ。

 「酷い事? 僕が? アスカにそんなことしたりしないよ」

 少女が懇願する対象の少年は、黒い皮のソファーに腰を沈めていた。

 一言で説明をするならば、──支配者──。

 極自然な物腰から発せられるオーラ。

 自分の身体に絡みつくような視線を拒絶できないのも、そのオーラを・・・・・・彼を支配者として認めている
からだ。


 そして、その事を少女は自覚している。


 ただ、認めたくないだけなのだから・・・・・・・・・。


 その少年の座るソファーのすぐ近くの床に打ち込まれた楔・・・・・・・・・。

 その楔から伸びた太い鎖につながれた4匹の“犬”。


 少女はその一匹。


 この少年の飼い犬は、この青い瞳の少女以外、3匹いた。

 蒼みがかった銀髪と赤い目の少女、

 濃い茶色のショートカットの少女、

 黒髪ショートの童顔の女性、

 三人とも、少年による“躾”が終わった後である為か服を着ていない。

 それぞれが生気のない瞳でぼんやりと“飼い主”を見つめていた。

 「アスカも・・・・・・こうなるんだ・・・・・・・・・うれしいだろ?」

 「いや・・・・・・いやぁ・・・・・・」

 耳を塞いでしまいたい。

 その残酷な予告を消してしまいたい。

 だが、現実は過酷だ。

 塞いでくれるはずの両手は後ろ手に黒い皮カバーで固定され、美しく成長してゆく肌は、衣服を剥ぎ取ら
れ痛々しく下着姿を少年に晒して彼の眼を楽しませている。

 少女達を守ってくれる筈の家族達もここにはいない。

 よしんば居たとしても、恐らくは庇護を与えてはくれないだろう。

 彼女らの人権は、あっさりと少年に譲渡されており、生命与奪の権利は少年の手に握られているのだ。

 少年に飽きられる事・・・・・・・・・それはこの場にいる女達の人権の消失を意味しているのだ。


 じゃらじゃらじゃら・・・・・・・・・。


 強く鎖を引くだけでアスカの身体は少年の腕の中だ。

 「や、やぁ・・・・・・」

 泣きじゃくる少女の顎をその手でしゃくり上げ、その唇を奪う。

 少女は最後の抵抗として少年の唇に歯をたてる。

 だが少年にとって、その血の味と少女の唾液のカクテルは最高の美酒であった。

 少年の舌の上で転がされ、最高に邪悪な笑みの中で喉を滑り落ちてゆく。

 「なんだい今更・・・・・・・・・アスカの身体には僕の匂いが染み付いているんだよ?
  全身余す所無く、隅々までたっぷりとね・・・・・・くくくくく・・・・・・」

 「やだやだ・・・・・・言わないでぇ・・・・・・・・・」

 頭を振って現実から逃げようとするが、その行為すら少年は許さない。

 例え彼女らの悪夢であろうと、自分のモノなのだ。

 「さぁ・・・・・・今日も遊ぼうよ・・・・・・それとも“躾”てあげようか・・・・・・?」

 顔色を失ってゆく美しい少女に、獲物を味わう獣のようにうっとりと唇を濡らす少年であった・・・・・・・・・。



                 〜   〜   〜   〜   〜   〜   〜   〜   〜



 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何です? これ」

 渡されたファイルを半分まで読んだトコロで、続きを読む気が無くなった。

 「ん? 当然シンちゃんの“極悪”な噂よん♪」

 「悪すぎます!!!」

 シンジの怒りも当然だろう。

 先日、LHRで『シンジの貞操を守るには?』を話し合った折、シンジの生々しい外道な噂を流して、“ク
スハ”という美少女の偶像を破壊しようという案が組まれた。

 任せといて!! とミサトが意気込んでプロットを組んだのは良いが・・・・・・・・・・・・。

 なんでか官能小説風になっていたのである。


 「皆も何とか言ってよ〜〜」

 半泣きでアスカ達を見ると、



 ・・・・・・・・・頬を赤らめてトロンとしてたりした。



 「なんですか? シンジ様」

 「シンジくん・・・・・・私を許してぇ〜〜♪」

 「シンジぃ・・・・・・いやん♪」

 三人はダメダメ空間に入ってた。

 「ホラ、気に入ってもらえたみたいじゃない♪」

 勝ち誇ったようなミサトの笑顔。


 「勘弁してよぉおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 まぁ、当然といえば当然の叫びであった。





                             はっぴぃDay’S

                           25・STEP 悪・測・残




 いつもは英語の授業の筈の一時間目である。

 ゴチャゴチャ言われる事を嫌うミサトは、ここ数日英語の授業の進ませ具合を1.5倍にして今日という日
の英語の時間をLHRに変更したのである。

 これで一時間近く遊べ・・・・・・ゲフゲフ・・・・・・話し合いの時間が取れる。


 てな訳で、先ほどの官能小せ・・・・・・ゴホゴホ・・・・・・プロットのファイルを配ったのであった。



 しばし読みふける学生達。

 こんな文章を中学生なんかに見せていいのか?
 それでも風紀担当かアンタ?

 等といった不粋な話はナシである。

 なぜなら、それがミサトがミサトさんであるが所以なのだから。


 鼻血を出すもの、

 前かがみになるもの、

 ポ・・・・・・、と頬を染めるもの、

 いやんいやんするもの・・・・・・。


 多種多様の悲喜交々である。

 「で、質問は?」

 今日、教卓にいるのはミサトである。

 先生らしいキリリとした顔でナニの感想聞いてるんだか・・・・・・。


 バッ!! と挙手する我らがシンちゃん。


 「ハイ、シンちゃん」

 「だから、なんで僕がこんな奴になってるんですかぁっ?!」

 半分泣いてると書いて半泣きのシンジ。

 恥ずかしいやら屈辱だわでムチャクチャな顔色だ。

 「だって、ホラ。こうまでしないとインパクトないじゃない?」

 「あればいいってもんでもないでしょう??!!!」

 せっかくサードインパクトを乗り越えたのに・・・・・・インパクトはも〜ケッコウなのである。

 「んじゃ、アスカはどう思う?」

 と、イキナリ当事者(笑)に話をふる。

 「へ? ア、アタシ?」

 今まで真っ赤になって読みふけっていた少女がビックリして頭を上げた。

 「あらら・・・・・・最後まで読んだワケね〜〜♪ で、感想は?」

 最後まで読んでないシンジは訳が解からない。

 チラリとシンジを見る眼が熱く濡れており、ちょっと怖かったりした。

 「アタシは・・・・・・その・・・・・・・・・別にいいかな・・・・・・」


 「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ???!!!」


 アスカの答えが信じられない少年。

 だが、冷静になって見回せば皆が頷いている事に気付いたであろう。

 全員がウンウンと頷いていたのである。

 「ちょ、ちょっと・・・・・・ねぇ、レイもなんとか言ってよ〜〜〜」

 慌ててレイの方を見ると・・・・・・。

 「え? 何ですか? シンジ様」

 モードが変わってた。

 「そ、そんな・・・・・・・・・」

 打ちひしがれるシンジ。

 ちなみにマナは頭にカチューシャを着けていて、スッカリとメイドさんモードである。

 「ホラホラホラ〜〜〜♪ 皆に異論は無いみたいよ? あたしの才能もたいしたモンねぇ♪」

 スッカリ勝ち誇ってる風紀担当(のハズ)の教師。

 『だ、だれか助けて・・・・・・・・・』

 滂沱の涙に暮れるシンジ。

 このまま鬼畜少年のレッテル行きなのか?!


 しかし、お姫様(?)のピンチにやってくるのが王子様である。



 ジャララ・・・・・・ン・・・・・・・・・。



 唐突にギターをかき鳴らす音が響いた。

 「そこまでにするんだね・・・・・・」

 「え?! 何者?!」

 そんな声についお約束で名を問うてしまうのは仕方が無いと言えよう。


 それが世界の選択なのだから。


 「ボクかい? 名乗るほどの者じゃないよ」


 いつの間にか教室の後方にその人物は立っていた。

 黒い衣服にスラックス。ご丁寧にも靴も黒ならハットも黒。

 色が違うのは白い肌に、赤い瞳と銀髪だ。

 ポイントは首に巻いた赤いスカーフと白いギター。

 ギターに至ってはナゼか9桁のキーがついており、強化服でも入っていそうだ。


 「カヲル君!!」


 名乗るほどのものじゃない人物は、イキナリ名前で呼ばれるのであった・・・・・・・・・。



                 *   *   *   *   *   *   *   *   *



───オレは今まで真の“愛”を知らずにいたのかもしれない・・・・・・・・・。


 少年は天を仰ぎ見、そう心で呟いた。


 自分が“あの娘”を追いかけ、かの怨敵に殺意を持っていたのは、ハッキリ言って一方的な想いだったの
だ。

 相手のココロも考えず、ただ押し付けるだけの想いは暴行となんら代わりが無いではないか。


 今、彼の心を占めている想いは“あの娘”ではなく、“真の想い人”だ。


 彼女は今、この学校のいやらしい男共のターゲットにされており、マトモに学校に来ていないらしい。


 ・・・・・・・・・心の師、“流しの私立探偵”──なんかこの間のカウンセラーに似てる気もした人・・・・・・──が
さっき教えてくれたのだ。


 ならば、自分を待つ“新の想い人”のため、自分ができることは・・・・・・・・・。

 ス・・・・・・と自分の右手を見ると真新しいブレスレット。

 真紅の“F”の文字が大きく張り付いている。

 『これは“とある宇宙人”と共同開発した強化服が入っているのさ。キミの彼女を想う悲しみのパワーが
  そのままキミの戦闘力に転換される・・・・・・・・・。
  だから彼女を救う力が必要になったらキーワードを叫ぶといい・・・・・・キミの本当の運命のチカラが答え
  てくれるよ』


 「本当のチカラ・・・・・・か・・・・・・・・・」

 ・・・・・・・・・少年・・・・・・ムサシ・リー・ストラスバーグは自分の運命という意味も解からず、“F”マークを掲
げた。


 「変身!!」


 たちまち溢れる真紅の輝き!!


 包まれた光の中、少年は真紅の戦士へと姿を変えた。


 いつもの“しっとマスク”よりかは遥かにマシだが、ある意味今まで以上に情けない。


 バッバッとポーズを極めて声高らかに名乗りを上げる超戦士。

 その名も・・・・・・。



 「フラレンジャーーっ!!!!!!」



 どぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!



 バックに見える赤い爆発。

 ここは屋上なのを忘れてんのか?


 見るだけならばカッコイイかもしれないが、チカラの意味が情けない。


 失恋パワーを源にし、けっして報われる事の無い愛の道を突き進む“伝説”の戦士!

 フラレンジャーに変身した以上、もう絶対に報われない。


 そして、その自称“流しの私立探偵”はこう言った。


 彼女を救う力・・・・・・と。


 つまり、彼自身の助けにはなんらプラスにならないのだ。



 トゥっっ!!!!



 奇怪な抑揚の掛け声で屋上から飛び降りるフラレンジャー。



 たっぱぁあああああああああああああああんっ!!!



 下は、プールだった。



 腹からプールに落ちて気絶したムサシが発見されたのは、五時間目の授業でプールを使う2−Bの女子達
であったそうな・・・・・・。



 彼は後に、『やはり準備体操は必要であった』と語ったそうだ。



                〜   〜   〜   〜   〜   〜   〜   〜   〜



 「で? 何の用なのよ霧島くん」

 ミサトはあくまで冷ややかに言った。

 それはそうだろう。自分の作品に茶々を入れられたのであるから・・・・・・。


 ・・・・・・・・・ちっちっちっちっ


 カヲルは指を立ててミサトの言葉を一蹴する。

 ピキっと井桁マークが浮かぶミサト。

 「貴女はシンジ君の事を心配しているようだけど・・・・・・・・・第壱中じゃあ二番だね」

 「(ムッ)じゃあ、一番は誰だってのよ!!」


 ひゅう・・・・・・・・・ちっちっちっちっ


 軽く口笛を吹いて指を立てて“解かってないなぁ〜〜”なニュアンスの仕種。

 当然ムカつくミサト。

 そんな彼女を無視してカヲルはその振った指でハットのツバを押し上げてから、その手の親指を立てて自分
を指した。

 「ボクさ」

 セリフには、おちゃめな笑顔も付いて来た。


 当然、教室内にも不穏な空気が増す。

 「ちょっとお兄ちゃん!! どーゆー意味よっ!!!!!!」

 流石に妹。真っ先に噛み付いた。

 「アタシが心配してないっての?!」

 続いてアスカ。

 「わたし達、いつもシンちゃんを想ってるわよ〜〜っ!!!!」

 で、レイ。

 このトリプル攻撃にも動じないトコロが流石のカヲルであった。

 「ふぅん・・・・・・・・・じゃあ、質問するけど・・・・・・・・・」

 そして、至極冷静に口を開く。

 「シンジ君を守る為とはいえ、彼の悪い噂・・・キミらを奴隷のように扱っているという根も葉もない噂を流
  し、
  あまつさえ親の七光りでその事実を隠蔽しているという、シンジ君の人格を全否定しているとしか思え
  ない設定・・・・・・。
  マナ達にしたって、そんな戯言に同調する有様・・・・・・・・・。
  これで彼の事を心配しているといえるのかい?」


 「だって、こうでもしないとシンちゃんに狼が襲い掛かってくるじゃない」

 それでも反論するミサト。

 加持と組んで作ったプロットなのだからある意味当然だ。


 だが、以外にもカヲルは現実的な問題を持っていた。


 「じゃあ、シンジ君の高校受験は諦めさせるって事だね?」


 「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」


 「当たり前じゃないかな?
  確かにこの学校だけの“噂”だろうけど、マナ達みたいな美少女にモテモテのシンジ君はやっかみの塊
  だよ?
  そんな彼にこんな噂が張り付いたらどうなるか・・・・・・ちょっと考えたら解かる筈だよね?
  例え校内だけの噂にしようとしても、彼に対して嫉妬している面々がそんな噂を校内だけに留めて置く
  訳無いよねぇ・・・・・・・・・?」

 「う・・・・・・・・・・」

 流石にミサトも言葉が詰まる。

 「当然ながら内申にも確実に響くよ?
  よしんばそうでなくても、合格してその高校に入ったら大変だよ?
  『なんでアイツが受かってんだ? あんな性犯罪者が・・・・・・やっぱり親の七光りか?』って間違いなく
  陰口叩かれるよ。
  それに、マナ達にもね」

 「「「・・・・・・・・・」」」

 流石に沈黙する三人。

 シンジと幸せになりたいというのに、彼を不幸にする寸前だったのだから・・・・・・。

 だが、カヲルは追撃する。

 愚かさを完全に改めさせる為に。

 「マナ達がそんな噂程度でヘコむワケ無いのは知ってるよ。
  だけど、シンジ君はどう思うだろうね?」

 「「「え?」」」

 「シンジ君は思うだろうね。
  『僕の為に皆が陰口を叩かれてる・・・・・・女の子なのにあんな酷い噂を・・・・・・僕のせいで・・・・・・』ってね。
  その後は眼に見えるようじゃないか・・・・・・・・・」


 シンジは涙で眼を潤ませていた。

 『ああ・・・・・・・・・やっぱりカヲル君は僕の親友なんだ・・・・・・・・・』と・・・・・・。


 ぴん、ぴろりろりろりろりん♪


 ・・・・・・・・・しっかりシンジの好感度を上げているのが彼らしい。



 アスカもレイも“前”のシンジを知っている。

 アスカが生意気過ぎた時代に、散々シンジを罵った“内罰的”な部分が出てくるはずだ。

 確かに、あのストーリーのままなら客観的に見たシンジが悪いと言える証拠が整ってしまうのだ。

 そうなると彼の学生生活は真っ暗である。



 また、あの沈み込んだシンジを見るのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・耐えられなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 「シンジ、御免なさいっ!!!!!!」
 「シンちゃん!! 許して!!!!!」
 「シンジくんっ!!!」

 三人は泣きながらシンジに詫びた。


 自分らの精神的な快感の為に、彼を蔑ろにしたのだ。

 いつも自分達の事を気にかけてくれる優しくて愛しい少年を・・・・・・・・・。

 自殺したくなるほど三人は恥じていた。


 「い、いいよう・・・・・・解かってくれたらそれで・・・・・・・・・」

 でも、やっぱり優しい少年は責めない。

 柔らかくてあたたかい微笑をくれる。


 その笑顔に、ガマンできなくなった。


 「わっ、わぁっ!!」


 少年に抱きついてきたのだ。

 そのまま泣き続ける三人の頭を撫でながら『大丈夫だよ』と慰めるシンジ。

 その優しい仕種にクラスの皆も和んでいた。



 少女達が落ち着いてきた頃、カヲルに心の奥から感謝した眼を向けた。


 毎度の事とはいえ、少年の曇りない笑顔に鼻血を出しかかるカヲルであった・・・・・・・・・。







 「ふぅ・・・・・・・・・ちょっちもったいないけど、これはボツね」

 流石に使えないことを(やっと)悟ったミサト。

 焼却炉行き決定のファイルをペシペシと叩く。


 が、


 ここで終わらないのがカヲルである。



 「大丈夫ですよ葛城先生。まだ使えます」

 「へ?」

 懐から彼が添削したファイルを取り出し、ミサトに渡す。

 「これ・・・・・・は?」

 「はい。先生のプロットをボクが一部書き直したモノです」


 ふ〜んとパラパラとページをめくる。


 「んん?! こ、これって・・・・・・・・・」

 その変更に驚くミサト。

 だが、大して変わってはいない。

 登場人物が変更されて“犬”が減ったくらいだ。

 「どう変えたの?」

 自分の被害が緩和されたから心の負担が軽くなったシンジが聞いてみる。

 「何、簡単な事だよ。
  文化祭の時、ここのジブラルタルに居られる時間をタイマーに細工して“ある人物”は時間を売ってた
  んだ。
  だから、その“ある人物”はここにいた“可愛いメイド”になんらかのかかわりがあるって認識が客た
  ちにはあるのさ。
  ・・・・・・で、その“ある人物”が鬼畜だったらどうなると思う?」

 「え? ええと・・・・・・・・・」

 「な〜〜るほどね。怒りの矛先が向くわよね」

 やっと“策”を理解したミサトが頷く。

 「はい。
  つまり、その“ある人物”はその“可愛いメイド”を独占しているって噂を流し、更に“可愛いメイド”
  に“仮装”していた少年以外に“実物”が居るって噂を流すんです。
  これなら、“ある人物”以外に被害は出ません」

 魅了された者も所詮は男。

 シンジが“仮装”した偽りの少女より、本物が居るという噂の方をどんなに話が矛盾していようとも受け
入れるだろう。

 男ってそんなものである。


 「おい・・・・・・・・・一つ聞いていいか?」

 それまで黙っていたケンスケがゆらりと立ち上がる。

 「うん? なんだい? 相田君」

 一種異様なまでに爽やかな笑みを浮かべるカヲル。

 その笑顔の意味をケンスケは知り尽くしていた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・ロクな事にならないという事を・・・・・・・・・・・・。


 「その“ある人物”とやらの人権はどうなる・・・・・・・・・?」

 「ははは・・・・・・・・・何を言ってるんだい相田君。そんなのどうでもいいじゃないか」

 「どうでもいいことあるかぁああああああああああああああっ!!!」

 絶叫するケンスケ。

 「おや? どうしたんだい? 相田君。顔色がチープだよ?」

 「何がだ!!! 大体なんでオレが生贄にならなきゃならんのだ!!!!!!!!!!!!」

 「光栄だろ?」

 「ンなワケあるかぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」

 「はははははははは・・・・・・・・・でもね、相田君・・・・・・もう遅いんだよ」

 「・・・・・・・・・は?」


 ケンスケがマヌケな声を上げたと同時に、教室の戸が開いた。


 カヲルと三人の娘達以外、全員が絶句する。


 入ってきたのはハルハラ・ハルコ。

 タンクトップとショートパンツ姿なラフな格好。

 学校という施設内でその格好は如何かと思いつつも、まぁいいとして、

 問題は首に掛かってるチョーカー・・・・・・いや、妙に幅がぶっとい大型犬用の赤い首輪と顔中をベトつかせ
ている粘液だ。

 ドコをどー見ても真っ当な人間に見えない。


 そのハルコはスタスタとケンスケに近寄って、

 手に“隠し持っていた”それを渡した。

 「はい、ケンちゃん。バナナシェイクあげる〜〜」

 ファーストフードで買ってきたであろう、ナゼか蓋がされていない紙コップに入ったバナナシェイクをプ
レゼントされた。

 なるほど、顔をべとつかせていたのは、蓋もせずに走ったから顔にかかったものなのだろう・・・・・・。

 「・・・・・・・・・ヲイ・・・・・・・・・」

 「な〜にぃ〜?」

 楽しそうに返事するハルコ。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わざとだろ?」

 「え〜〜〜〜? わざとじゃないよ〜〜〜? ちゃんと“途中で会ったナゼかびっくりして聞いてきた男子
  生徒”にも、『ケンちゃんの・・・・・・為だから・・・・・・』って言ってあげたし〜〜」

 と、何故か涙を浮かべて悲しそうな仕種の演技付きで説明するハルコ。


 「こ、このバカっ!! そんな言い方だったらオレは・・・・・・。

  はっ!!!!!!!!!!!!!!!

  ま・さ・か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 バッとカヲルに振り向くと、


 ニッコリ・・・・・・。


 と途轍もなく作り物っポイ笑顔が迎えてくれた。



 「は、謀ったなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」



 絶叫するケンスケを尻目にいつの間にか退出するカヲル。



 矛先はケンスケ。

 露払いはフラレンジャー。

 これで布陣は整った。






───嗚呼・・・・・・・・・謀って楽しいものだねぇ、教授・・・・・・・・・・・・。






 メガネ少年の絶叫をBGMに青い空を見上げると、少年の心の師ハ○ニバル教授が姿が浮かび、

 “Good Job”とサムズアップしていた。













 〜〜お・ま・け〜〜

 「でも、なんで惣流のヤツはこんな設定や受け入れたんやろ?」

 放課後、ヒカリを家に送りながら唐突に思い出した疑問を口にするトウジ。

 「あれ? 鈴原って最後まで読んでないの?」

 「お? おお・・・・・・ちょっとなぁ・・・・・・」

 「あ、そ、そうよね・・・・・・」

 赤くなって俯く二人。

 「で、でな? どんな最後やったんや?」

 「へ?! あ、ああ、アレね・・・・・・・・・アレはね・・・・・・・・・」

 文章を思い出すのは恥ずかしいのか、内容だけを頭に思い浮かべて説明してやるヒカリ。




───アスカも、六分儀さんも、霧島さんも、伊吹さんも、碇君のお嫁さんにはなれなかったの。

   その代わり、皆で碇君の“モノ”になったから、今まで通り、ずっと仲良く暮らしていくの。

   ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っとね・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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