「楽しみだわ。あたしの娘に会うなんて、何年ぶりかしらね?」

 本当に楽しそうな顔で言う金髪の女性。明らかに日本人じゃない。  

「10年ぶりくらいじゃない?」  

こちらは、黒髪のれっきとした日本人。  

2人とも、娘に会う。十年ぶり。と言っている割には若い。  

そこら辺の人にナンパされても可笑しくないほど、若く、綺麗だ。孫が居るとは、とても思わないだろう。  

「ふぅ、本当に楽しみ。」  

微笑をもらす。  

「なに?笑っちゃって、気持ち悪いわよ、キョウコ。」  

「ふふふ、なんでもなわよ、ユイ。」  

キョウコは、少し歩調を速くしユイの前に出る。  

この道を、まっすぐ行けば見えてくる、コンフォートマンション。  

そこには、楽しく過ごしている(だろう)息子たちが居る。  

歩調も速くなるのは当然だろう。  

月明かりに照らされた道の中、ユイからは、はっきりとキョウコの左腕に、「一撃必殺!」と書かれたハリセンが見えた。

 

 

「月光る夜に」

 

 

「もらった!スマーーッシュ!」  

「やば、ガードブレイク!?」  

「とどめっ!回転切りぃ!」  

「あーっ・・・・・フッ飛ばされちゃった・・・・・」  

画面には、YOU WIN と書かれている。  

「へっへーー、マナ、潔くそのデザート渡しなさい。」  

「とほほ・・・・・」  

マナは、机にあるプリンをアスカに渡した。  

「あれー?シンジは?」  

今まで、ゲームに熱中していたせいか、周りに目がいかなくなっていたようだ。  

アスカは、マナから奪ったプリンを食べながら、きょろきょろと首だけ動かし探す。  

「シンジ君なら台所で洗い物してるよ。」  

アスカの食べるプリンを、恨めしそうに見ながら言う。

マナは、そこまで熱中していなかったせいか、案外、周りに目がいってる。  

それが、敗因だろうが・・・・  

「それと、レイも見ないわね。」  

アスカは、レイのことに気づいた。  

前に比べ、かなり仲が良くなった、レイとアスカだが、レイが一人でいるときとかは、相変わらず影が薄い。  

きょろきょろと、探す対象にレイも入れる。  

約、首をきょろきょろさせること、14回。  

マナが、恨めしい目で見る時間、約、17秒。  

アスカの目に、シンジとレイが映った。  

「ありがとう、綾波。おかげで早く済んだよ。」  

「そう・・・・よかった・・・・・」  

シンジとレイが、一緒にアスカがいる(マナもいます。)リビングへと来た。  

レイは、うつむきながら答える。  

顔はほんのりと赤い。  

レイは、感情も前と比べ、豊かになってきた。そんなレイを、快く思っているアスカだが、なんとなくムッとくる。  

「なにやってたの?・・・・」  

声に少し、不機嫌さが混じる。  

「あぁ、洗い物してたらレイが手伝ってくれたんだよ。」   

アスカの不機嫌指数がUPした。  

シンジは、齢14にして、この葛城家の家事をほとんど一人でする。  

掃除、炊事、洗濯・・・・etc・・・・・シンジがいなくなったら、この全てに困ることだろう。  

普通は、保護者がする事だが、その肝心の保護者、葛城ミサトは、本日七杯目のえびちゅを、手に持ちながら、机にうつ伏せて寝ている。  

そのため、レイが手伝うのは、まぁ普通と言えるだろう。  

だが、アスカは、嫌だ。  

アスカは、少しずつ、味わって食べていたプリンを、一気に食べると(それを見ていたマナが、「あ〜っ」と声を出した)  

「シンジ・・・・・」  

「はっ・・・・はい?」  

声に、不機嫌さが混じっているのを、やっと感知したシンジは、少しひく。  

「今度は、あたしに言いなさい・・・・手伝ってあげるから・・・・・」  

「えっ?・・・・・あ、ありがとう。助かるよ。」  

シンジは、思っていた言葉とかなり違ったので、最初のうちはなに言ったのかわからなかったが、手伝ってくれると、言ったとわかったので、礼を言った。  

「私も手伝いますよっ。」  

「ありがとう。」  

マナも、手伝ってくれるらしい。  

シンジは、これから楽になるだろう。  

いつも、一人でしていたが、これからは、みんな手伝ってくれる。  

早くなるだろうし、なにより、話し相手がいるというのは嬉しい。  

シンジは、本当に感謝した。  

ピンポーン  

チャイムの音がした。  

「誰だろう?」  

シンジは、立ち上がり玄関へと向かった。  

シンジからは見えないが、後ろではアスカがレイに、チョップをしている。  

「誰ですか?」  

シンジが尋ねる。  

「あなたのママよ、シンジ。」  

「母さん!?」  

シンジは、すぐさま扉を開けた。  

そこには、ユイとキョウコが立っていた。  

「お邪魔するわよ。」  

そう言うと、ユイとキョウコは、靴を脱ぎ、上がってきた。  

シンジは、暫し唖然としてた。  

いきなりやって来たのも理由のひとつだが、それよりも、何故、キョウコの左腕に「一撃必殺」と書かれたハリセンがあるかだ。  

「今晩は、アスカちゃん、レイちゃん、マナちゃん。」  

シンジが唖然としてる間、ユイ達は、リビングへ行き、アスカ達に挨拶をしている。  

「えーっと・・・・・どちら様でしょうか?」  

アスカ達には、誰だかわからない。  

いきなり入ってきて挨拶されても困る。

アスカ達は、姿勢を正し、マナが尋ねる。  

「あら、自己紹介がまだだったわね。」  

「わかると思ったんだけどなーー。」  

おどけたように言う。  

シンジが、やっとリビングへ入ってきた。  

「私は、碇ユイ、シンジの母親よ。」  

黒い髪の人・・・・ユイが答える。  

「えっ!?シンジの・・・・・・」  

アスカが驚きの声をあげる。  

「そうよー、よろしくね。」  

微笑みながら、アスカ達に握手していく。  

最後に、レイと握手した後、「かっわいーー」と言いながらレイに抱きついた。   

そんなユイの後頭部に、ハリセンを落とした後、金髪の人が、自己紹介をする。

「さて、あたしはキョウコ、惣流キョウコツェッペリン、アスカ、あなたのお母さんよ。」

「ふぅーん・・・・・」

アスカは、別段、驚いた様子も無い。

横では、マナがかなり驚いている。

レイに、「ママだって、アスカの。」と言っている。

「ふぅーん・・・ってなによ、もうちょっと感激してくれてもいいのに・・・・」

「驚かないわよ・・・・・あの時・・・・・絶対、帰ってきてくれると思ってたから・・・・」

「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね。」

キョウコは、微笑む。

アスカは、あの時、母の存在を感じたときからわかっていた。

いつか・・・・必ず・・・・・・また戻ってきてくれると・・・・科学者としてではなく、アスカの母親として。

「ところで、何の用だったんですか?」

シンジが、尋ねる。

「シンジ、それはとてもいい質問だわ・・・・・」

ハリセンを食らっても尚、レイに抱きついていたユイがシンジを見ながら答える。

「実は・・・・・・私たち、シンジ達にお別れを言いに来たの・・・・・・」

「えっ・・・・・?」

シンジは、よくわからなかった。

だがユイの、悲しそうな表情を見て・・・・

「う・・・・そ・・・・・・」

「そっ!うそ。」

急に、ユイの表情が変わった。

笑っている。

「あはは!まさか、シンジ、ほんとに・・・・・・」

しかし、その言葉は続くことはなかった。

キョウコの、大阪で修行したんじゃないか?と、思うほどのハリセンさばきにより、気を失った。

そんな、倒れたユイに対して、今回は誰も同情するものはいなかった。

「さて、ユイも寝たことだし、ミサトもどうせ寝てるでしょ。話は明日として、アタシ達も寝ましょうか。」

何事も無かったかのように微笑む、ある意味怖い。

「アタシ達は、そうねぇ・・・・アスカの部屋で寝るわ。」

「それじゃあ、アタシ達の寝る場所ないじゃない!」

アスカが、抗議の声をあげる。

ミサトのこの部屋は、大きく分けて、リビング、キッチンダイニング、アスカの部屋、ミサトの部屋、シンジの部屋、と分けられる。(大国さん作、葛城家の間取り図参照)

そのため、レイやマナは、比較的大きいアスカの部屋で寝ている。

ミサトが、一緒に寝ない?と誘われたこともあったが、必ず、といっていいほどミサトは寝る時ビールくさい、そのため、本人たちに却下された。

「大丈夫よ。シンジ君の部屋でみんな寝ればいいじゃない。」

ユイを担ぎながら言う。

「なにってるんですか!?そんなのみんな嫌がるに決まってるじゃないですか!?」

「あら?そうかしら?」

キョウコは辺りを見回す。

アスカは、顔を赤くしてる。

レイは、うつむいてはいるが、顔が赤い。

マナは、はっきりと喜んでいる。

そんな様子を見て、キョウコは悪戯っぽく微笑む。

「レイちゃん。いいわね」

レイは、うつむきながら、顔をコクコク上下させた。

「マナちゃん、いいわよね。」

「OKです。」

そしてアスカには、

「どうせ、こんな大所帯だからあんまり進んでないでしょ、ここで一気に、シンジ君のハートをゲットよ!」

アスカの顔がさらに赤くなる。

アスカだけに聞こえるように囁いた後、

「いいわよね、アスカ。」

「まっ、しかたないわね・・・・・」

そう言った、アスカを見てキョウコは慢心の笑みを浮かべた。

「はい、それじゃぁ待ち遠しいだろうから、もう寝ましょうか。」

 

 

 

 

「はいはーい、問題発生であります!」

パジャマ姿に着替えたマナが言う。

他のものもみんなパジャマだ。

アスカは、真ん中に赤い花の模様があるパジャマを着ている。

レイは、素っ気無い白いパジャマを着ている。

マナは、大きく、文字の書かれたパジャマを着ている。

それぞれが、それぞれの美しさを引き立てている。

ちなみにシンジは、ランシャツを着ている。

もう、十一月だが、まだ、四季が戻らず、この格好でいても風邪をひくことはない。

「はいはい、その問題ってなに?」  

アスカが、やれやれといった様子で尋ねる。  

「誰が、シンジ君の両横に寝るかです!」  

やれやれ、といった表情はどこへやら、急に真剣な表情になる。  

レイも同じだった。  

意を決したように、アスカが、それぞれの顔を見回す。  

マナもレイもゆっくりうなずく。  

「あのーー・・・・・ちょっと・・・・」  

シンジの声は当然のごとく無視された。  

「じゃーーんけーーん、」  

マナが叫ぶ。  

もうみんな、出す準備は整っている。  

「「「ポン!!」」」  

裂帛の気合と共に出された拳はそれぞれ、  

レイ、ちょき  

マナ、ちょき  

アスカ、ぱー  

アスカの一人負けだった。  

 

 

 

 

 

 

どさっ!  

「痛っ!」  

どうやら、シンジのベットから落ちたようだ。  

あのじゃんけんで負けたため、シンジの横が、レイとマナ、あたしはレイの隣で寝ていた。  

前は、布団だったが、あたしが嫌というので、あたしにベットを買ってやったついでに、シンジもベットを買ってもらった。  

何故か、2人か、3人は入れるベットだった。  

あたしは、「なんでシンジのほうが大きいの!?」とミサトに抗議しにいったが、「アスカが、シンジ君と2人で寝れる為よ。」と言われた。顔は赤かったと思う。  

思えばそのときからシンジのことを思っていたのかもしれない・・・・・  

部屋には、わずかな月の光が差し込んでいる。  

ベットを見ると、そのわずかな光に照らされて、レイとマナが、とても美しく見える。  

前の自分だったら、絶対自分のほうが可愛いと思うだろう。あたしが一番だと思うだろう。  

だけど、今は違う。  

アイツのおかげであたしは変わった。他人を認めれるようになった。  

そんな、変わった自分が自分は好きだ。  

シンジを見る。  

別に、とびっきりかっこいいというわけではない。  

 どこにでもいる、気の弱そうな少年だ  

 ただ・・・・・  

今、自分はこいつのことを好きなんだと思う。  

どこがいい?って聞かれても、わからないけど、好きだというのは確かだと思う。  

だから・・・・・  

「レイやマナなんかにあんたを取らせないからね。」  

そっと呟いた。  

「アスカ・・・・・・?」  

シンジが起きたようだ。  

あたしは、ぎょっとした。  

もしかしたら、聞かれてたんじゃないかと思うと、とても恥ずかしい。  

「どこ・・・・?アスカ・・・・」  

どうやら、気づいてないようだ。  

あたしは胸を撫で下ろした。  

そして、きょろきょろあたしを探しているシンジに「ここよ。」と声をかけた。  

暫くすると、ベットにもたれかかりながら座っているあたしを、発見したようだ。  

シンジは「よっと・・・」言って、あたしの隣に座った。  

「月が、綺麗だね・・・・・・」  

いきなりシンジがそんなことを言う。  

「そうね・・・・・」  

あたしも同意する。  

シンジの視線は空に浮かぶ月を見ている。  

そんなシンジを横から見る。  

やっぱり冴えない顔で、  

かっこいいというわけでもない、  

けれど・・・・・・・  

あたしはシンジの肩に顔をそっと乗せた。  

自分の心臓が脈打つのがわかる。  

シンジは「ア、アスカ?・・・・」と顔を赤くしながら言っている。  

あたしは無視した。  

シンジの肩に顔を乗せた瞬間、なんか優しさに包まれたような感じで、眠気が一気に襲ってきた。  

けれど・・・・・なんかこう・・・・シンジといると暖かい。自分の心が、  

だから、好きなのかもしれない・・・・  

いつかは・・・・この気持ち、言わなきゃいけないんだろうけど、今はこれで、十分幸せだ。  

レイやマナも、こんな感じにしてくれるシンジが好きなんだろうか?  

コノヤサシサガ・・・・・・・  

 

 

 

 

寄り添って寝ている二人に、優しく毛布をかける。  

「シンジ君、私たちはあなたが好きだよ。あなたが、アスカを好きでも・・・・・・」  

月の明かりだけに照らされる、シンジの部屋。  

とても幸せそうに寝ているシンジとアスカに毛布をかけたマナ。  

マナの後ろにはレイもいる。  

「シンジ君、あなたは酷いよ。私たちをこんなに好きにさせたんだから・・・・・」  

優しくそれでいて悲しそうに微笑む。  

「さて、寝ようか。」  

マナが、レイのほうに振り向く。  

「マナ・・・・・泣いてるの?」  

「泣いてなんかいないよ。」  

「そう。」  

レイには、ちゃんと見えていた。  

差し込む月の光に照らされて映る、マナの顔に一筋の雫がこぼれたことに。  

マナとレイがベットに入った。  

暫くすると、マナの嗚咽だけが響いていた。  

それを聞いたレイも、嗚咽をもらした。  

 

 

 

 

<続>  

 

 

愚者の後書き、  

 

いきなり後書きをいれます。外伝だけのつもりだったんですが、急遽変更。  

いままで、路線がLASじゃなかったので、次回の引越しの話の前に、ちょっとLASにしてみました。  

基本的にこの話は、コンフォート編、引越して学校が始まるまで、学校編、外伝、の4編にするつもりです。  

最後まで付き合ってくれるとありがたいです。  

さて、これでコンフォート編は終わりです。今後は外伝を三話くらい投稿した後、引越しした後編、を書くつもりです。  


マナ:お母さんとの再会なんだから、もうちょっと感動しなさいよ。

アスカ:アタシ・・・びっくりするくらい冷静だったわね。

マナ:あなたが驚いてどうすんのよ。

アスカ:きっと、アタシはシンジがいるだけで落ち着けるからなんじゃない?

マナ:でも、シンジの横で寝るのは、わたしよ。

アスカ:次のジャンケンは、負けないんだからっ!

マナ:いくわよっ! さーいしょはっ!

アスカ:ぐーーーーーーー!

マナ:パーっ! またまた、わたしの勝ちぃっ!

アスカ:(ーー)汚いわよ。アンタ・・・。
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