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ただ、荒野のみが続く世界。

大地は干乾び、ところどころ地面が割れている。

草も生えてはいない。

空は灰で濁り、太陽が濁った光で地面を照らす。

「結局、なんなんだろ・・・・・・・・・・・・・」

少年が一人呟く。

辺りには誰もいない、ただの独り言だ。

「ただ、生き残りたいからやっただけなのに・・・・・・・・・・・・」

少年の目はもう、誰もいなくなった世界を映している。

「生きたいと思ったのに・・・・・・・・・・」

どさっ、と地面に倒れこむ。

見ると、少年の足はかなり酷い傷を負っている。

何かに抉り取られたような惨い傷跡が少年の体にはところどころに見える。

あと、少しの命だろう。

「結局、生きる意味ってなんなんだろう?」

仰向けになり、空を仰ぐ。

「誰か教えてくれよ・・・・・・・・・・・・」

泣きそうな声だ。

だが、この世界にその問いに答えてくれるものはいない。

少年のせいで、皆滅んでしまった。

「誰か教えてよ、誰か教えてよ、誰か教えてよ・・・・・・・・・・・・・誰か!!教えてくれよ!!」

少年が生きている間にその問いに答えるものは来なかった。

「誰かさんの暇つぶし」

暇のつぶし方は人それぞれだと思う。

遊びに行ったり、運動をしたり、本を読んだり。

第三新東京では、第壱中学校がサードインパクトのため、新学期まで休学をしている。

そのため、学校に通う生徒・・・・・・・・・・第三新東京は、まだこの学校しかできていないため、中学生・・・・・・・・学校に通う全ての生徒が暇なのだろう。というか、暇じゃん。

コンフォート、一人の青髪の少女が日当たりのよさそうな場所で本を読んでいる。

なんて、比喩だかなんだか、なんか凄く聞こえるような文体で思ってみたり。というより、つまるところそれほどなんかこう・・・・・・・・・・オーラ?みたいな?

「ううぅ・・・・・・・・・・・・」

目の前で、そのオーラを出しているレイが嗚咽をもらしている。泣き声もとても綺麗だ。

「どうしたの?レイ」

近くで雑誌を読んでいたミサトがレイの嗚咽に気づき、不思議な顔で尋ねる。鳴いている人に質問しても帰ってこないことを覚悟で、

無論レイは「ううぅ・・・・・・・」と嗚咽をもらすばかりで答えはしない。

だが、答えは聞くものじゃない。自分で考えるものだ。目を凝らして観察する。

よーく見ると、レイの手には一冊の文庫本が握られていた。

なるほど・・・・・・・・ミサトはレイの嗚咽の意味に気づいた。

『世界の終わり』・・・・・・・・・・ミサトは、シンジが最近買った本の題名を思い出した。

内容は、一人の少年が生きたいと思った。そのために取った行動のために世界が終わる・・・・・・そんなありきたりな内容の本だ。

ぱらぱらと読んだが、哲学やらなんやら、シリアスか?そうじゃないのか?くらいな中途半端に思える本だ。

だが、売れている。ベストセラーと言ってもいいくらいだ。

結局世の中には、完成した堅苦しいものよりも中途半端な、いじり甲斐のあるもののほうがいいんじゃない?とか思うことにした。

ミサトは、仕事で文字を見ることが多いので、暇なときはできるだけ、文字とか読まないようにしている。趣味は別だが。

レイは、よく本を読む。

自分の知らないことを知るのが好きなのだろう。

前なんか、最近の中学生(がり勉除く)はアインシュタインの『特殊相対性理論』なんか読まないだろう。あのずらずら並ぶ文字を、掃除機で一掃したいくらいだ。

「レーーイ」

立ち上がり、レイの近くまで行って、呼ぶ。

「ん?」

潤んだ目で、ミサトを見上げる。そんな姿はやっぱり、陽光に写る君の姿は・・・・・・・・・・とかなんとか、いいたくなるくらい可愛い。

「なんですか?ミサトさん」

レイが尋ねる。

「いや、そんなに泣ける本なのかなーーって思って」

「泣けます」

いちもにもなく即答した。

「そ、そう」

ミサトは少したじろぐ。

「あの・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ミサトさん・・・・・・・・・・・」

言いかけた言葉がレイのちょっと強い言葉にかき消される。

「ん?」

「生きてる意味ってなんですか?」

一瞬、突拍子もないことを聞かれたので、どうかしたのか?と思ったミサトだが、本を読んでいて疑問に思ったから聞いたらしい事に気づいた。

洞察力は大切ね・・・・・・・・・・とか考えながら考えて、

「んーー知りたい?」

「知っているんですか?」

レイは少し驚いたような声で尋ねる。

「まぁねぇー、仕方ない、可愛いレイのためよ、私が生きている意味を伝授してあげよう・・・・・・・・・ということで、シンちゃん呼んできて」

「なんで碇君を?」

レイがわからないという顔で尋ねる。

そのほうが教えやすいし、何よりおもしろくなりそうだからよ・・・・・・・・・・・・・なんて思っても言わない。

「いいからいいから、さぁ、呼んできなさい」

「はい」

レイは返事をしてから、ゆっくりと立ち上がり、シンジを呼びにシンジの部屋へと向かった。

ミサトはレイが廊下に出て見えなくなってから、財布の中を確認した。

給料日前なので、寒そうにちぢこまっている財布には5000円札と、1000冊4枚あと、小銭がいくらか入っていた。

「可愛いレイのためなら仕方ないか・・・・・」

はぁ、とため息をつく。

その後の言葉にあと、おもしろいもんね。という言葉を言わないように。

「ユイさんやキョウコさんに分けてもらおう・・・・・・・・・・・・・」

そう思ったが、出張で二日は帰ってこないことに気づき、先ほどより大きいため息を吐き出した。

窓越しに外を見る。

自分の財布は寒いのに、外は暖かそうな日差しが照らされている。嫌がらせね。

レイはシンジの部屋の前で戸惑っていた。

普段はマナや、アスカがいるため平気だが、一人となると、どうしてもシンジの前では緊張してしまう。

ドアの前でもじもじしていたが、少し戸惑っていたが、意を決して、ドアノブに手を掛けようとした・・・・・瞬間、がちゃり、とドアが開いた。

レイは、ああ、これが心臓が跳ね上がる思いというものなんだな、と他人事みたいに思うほどなにがなんやら。

「レイ?」

自分の部屋の前で固まっているレイを見てシンジが不思議そうな声をあげる。

「はっ、はい!!?」

なにやら、強調するところを間違えたような発音だ。

「なにしてるの?」

「えっ、いやなにしてるのって・・・・・・・・・・そう、あれ!・・・・・・・・じゃなくて・・・・・・・・・・・」

レイは自分でも喋ってる意味がわかっているのだろうか?

シンジは目を点にしている。

レイが取り乱すとこなど、はじめてみたからだ。

「そうそう!ミサトさんが碇君を連れてくるように・・・・・・・って」

やっと、当初の目的を思い出したのか、何とかシンジに告げる。

「そう、じゃぁ行こうか」

いい終えた瞬間、ぼん、という音が聞こえたかと思うと、

「えっ?行こうかって?・・・・・・・ああ、えっ!?いや、どこに?」

またレイは取り乱した。ちなみに顔は赤い。

シンジにとっては呼ばれてるんだから一緒に行くのは普通の行為なんだと思う。

だがレイは、シンジと2人っきり、という場面に出くわしたことはない。

サードインパクト前ならあるが、今とは違う。

今はマナやアスカが必ずシンジの近くにいた。

そのためあがることはなかった。

『恋というものは厄介よ』アスカに一度そう言われた。

その時は「なんで」?と聞き返したレイだが、今になってその意味がわかった。

「どこに?ってミサトさんのところだよ、行くよ」

「えっ、うん」

まだ赤い顔のまま、シンジの後に続き、ミサトのところへと向かった。

シンジが前を向いている間、見られないように、シンジとの距離を縮めよう。縮めよう。

そんな思考錯誤をしながら、顔を赤くし、結局気恥ずかしさで縮めることもできず、ただ、『恋って厄介だな』と実感しながら。

「しんちゃん、明日ヒマ?」

シンジはとっさにろくでもないことだな・・・・・・・・と思った。

しんちゃんと呼ぶときは、大抵自分が面白半分な時だ。

よからぬことを頼まれる。と思い、少し身構える。だが、ミサトの開口一番の言葉は・・・・・・・・

「レイとデートしてくれない?」

「へ?」

「は?」

予期せぬ言葉なので、シンジ、レイの口から間の抜けた声が発せられた。

「いい?」

「えっ?でも・・・・・・・・・・」

なにやら戸惑うシンジ。

(アスカが怒るだろうな・・・・・・・・・・・・)

アスカが怖いので戸惑っているようだ。

何故アスカが怒るのか?シンジは、自分を暇つぶしの道具にしている。だから、僕がどこか行くと暇つぶしができない・・・・・・・・・・と思っているらしい。

鈍感だ。

「大丈夫よ、アスカやマナにはちゃんと言っとくから」

シンジの考えていることがわかったのか、ミサトはシンジが考えていることを見事言い当てた。

「え・・・・・・・・なら、いいですけど、どこへ?」

「んーーどこへ行きたい?レイ」

決めてないのか・・・・・・・・・・・・・・・

誘っておいてそれはないだろう。

レイも知らなかったのか話を振られて驚いている。

「えっ?」

シンジがえっ、でも・・・・・・・と言った辺りから少し落ち込んだ様子で物思いにふけっていたみたいだ。

「そんな、いきなり言われても・・・・・・・・・・・・・・・」

「レイの行きたいところでいいのよ」

といわれても・・・・・・・・・・・・・・レイは考える。

レイは前の癖か、余計なところに寄り道をしないし、そういうのに興味がない。

そのため、どこがいいか?と聞かれても困る。

レイはこのとき自分のそういうところを恨めしく思った。

どうしよう・・・・・・・・・・・レイは悩む。

『デート』という言葉は知っている。男性と女性がふたりで出かけることだ。

普通は、どちらかが決めておいて、それに賛同すると言う形だが、決めてはいない。

まして、決めるのはレイだ。

普段から、自分にあわせさせるのではなく、相手にあわせるレイだ。

レイは2人の顔を見る。

両方とも「君に合わせるよ」という顔をしている。

よし、と決めてからも少し迷い、結局自分の行きたいのを言うことにした。

「じゃぁ、買い物・・・・・・買い物に行きたいです」

言ったとき、なんとなくレイには2人の顔が「レイらしいなぁ」という顔に見えた。

レイはこの日の夜、緊張のせいか、あまり寝れなかったらしい。

だが、熟睡しようが、眠れずにいようが、関係ない。

葛城家非常収集。記念すべき第一声は・・・・・・・・・・・・

「なんで、レイがシンジと2人っきりで出かけるのよ!!」

身を乗り出しながら、「2人っきり」を強調して言う。

レイ、シンジ、ユイ、キョウコを抜かすメンバーがこのリビングに集まっている。

葛城家非常収集。それは、シンジを必ず抜かしたメンバーが常任議員だ。

主に、シンジをGETするための対策本部である。

だが、今回は違う。

「そうですよ、ご主人様」

マナが賛同する。

ミサトのことをご主人と呼ぶのは、ミサトにそう言われてるからだ。やめろ、と言うのに未だにご主人様と言う。

聞いたならば必ず誰もが誤解するであろう・・・・・・・・・・

「まぁまぁ」

ミサトが紅茶を出す。なだめるつもりなのだろう。

そんなことアスカにもわかっている。だが、出されたものはちゃんと飲む。

出された紅茶を味あわずに飲み干す。

「さて、説明してもらいましょうか?」

「ふぅ・・・・・・・・・・仕方ないわね・・・・・・・・・・・・・レイの今までを考えて見なさい」

言われて考える。

レイはクローン人間だ。いや、それよりも生け贄という表現が正しいのかもしれない。

生まれたときから何かのために生かされて、いや、生かされてすらいなかった。ただそこにあるだけ・・・・・・・・・・・

普通の人じゃ考えられないほど辛いはずだ。

「・・・・・・・・・・・・」

「わかる?そして、レイはやっと人間らしくなってきた。だから、一回くらいいい目見たっていいんじゃない?」

「それだったらあたしも辛かったわよ!」喉下まで出てきていた言葉を飲み込んだ。

自分よりレイのほうが遥かに辛いんじゃないか?と思ったから、

「・・・・・・・・・・・」

「駄目?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「まぁ、落ち込まないで、明日は私のおごりでどっか連れて行ってあげるから・・・・・・・・・・・・駄目?」

「・・・・・・・・・・・・レイのためね・・・・・・・・・」

その答えを聞いてミサトは微笑むと、

「マナは?」

「いいですよ、レイのためですからね」

ミサトは心の中で、いつかあなたたちにもいい目見させてあげるから、今回は我慢してね。と思った。

毎日暇だと、別に朝、早起きする理由がない。

シンジは、布団の中で安息の時間をゆっくりと過ごしている・・・・・・・・・・・・・・・のだが・・・・・・・・・・・

なにやら視線を感じる。

別に気配を感じれるとかそーゆーワケじゃない。多分感だと思う。

なんか、やだなぁーとか思いながら目を開けると、何故かレイの顔が映った。

「綾波!?」

「おはようございます」

「お、おはよう・・・・・・・・・・・」

律儀に挨拶するレイに対してなんか慇懃無礼な態度なシンジ。

何故、レイが自分の部屋にいるのだろう・・・・・・・・・・・・・・

じぃーーと見つめてみる。

一つ解った。可愛い。

普段の質素な服装と違い、薄い布でできた赤の彩色を目立たせている服。スカートは長めで、藍色の彩色の上に、細く、横じまと縦じまの赤、緑、が十字にいくつも交わっている。

普段の質素さからのギャップか、いつもより可愛く見える。

何を考えているんだ。僕は・・・・・・・・・・・・・・

変なことに気を取られていた思考を元の疑問に戻した。

「なんでここに居るの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

答えない。レイは押し黙っている。

「もしかして、ずっと居た?」

レイは、なにやら気恥ずかしそうに顔を伏せると、静かに首を縦に振る。

「何時から?」

「・・・・・・・・・・・七時・・・・・・・・・・」

七時!!?早い・・・・・・・・・・・・・

すぐさま、時計を見る。早い時間帯でありますように、と・・・・・・・・・・・・・

だが、お約束と言う奴なのか、無残にも今は10時だ。

三時間も待たせた!!?

とたん、シンジの体に罪悪感が走る。

自分のせいで三時間も待たせた、自分のせいで・・・・・・・・・・・・・・・

シンジはレイに悪いことをした!と罪悪感に蝕まれているが、レイとしては嬉しい限りだった。

シンジを起こすのはアスカの役目。それが葛城家のオーソドックスと言うか、習慣っぽいやつだ。たまにレイも起こすが、そのときはマナが居るし、何より、早く起こさなきゃいけない。

そのため、シンジの寝顔をじっくり見る暇なんてなかった。

そのため今回のこの時間はレイにとってとても嬉しい時間でもあった。

なお、余談であるが、アスカはちゃんと8時前に起こしに来ていた。だが、レイがシンジを見つめてるそのシーンは、現実ではありえないような、漫画みたいな穏やかさ、そういうのが流れていたため、流石のアスカでも流石に邪魔はできなかった。

憂さ晴らしのために、マナにパイルダーオン(マジンガーZの合体、つまり上から垂直に乗っかる)をかまして(このときマナは「ぎゃっ!」と短い奇声と共に天国へのカウントダウンを登っていた)憂さを晴らした。

だが、超能力者でないシンジにそんなことがわかるはずもない。

「わわっ!ちょっと待ってて!すぐ着替えるから」

慌てて着替えにかかろうとするが・・・・・・・・・・・・

じぃーーーーと、レイの視線を今だ感じる。

「あの、レイ・・・・・・・・着替えづらいんだけど・・・・・・・・・・・」

「!!!」

シンジがそう言うと、レイは「そうだった!!」みたいな感じの顔をして、急に顔を赤らめると、シンジの部屋から飛び出すように出て行った。

ドアを閉めた後、ごん!と生々しい音が聞こえたが、シンジは聞かなかったことにした。

人参、じゃが芋、玉蜀黍、牛乳、砂糖、バナナ。

予定の品はこれだけ、後は、レイに何か買ってあげるものだけ・・・・・・・・のはずだったが・・・・・・・・・・

ファッションセンスの感じられない地味なかっこのシンジと、隣に寄り添って歩く、地味と言えば地味だが、なかなかファッションセンスのあるレイ。

その上、なにやら頬を赤らめ、上の空っていう感じのレイを見たシンジ行きつけの商店街の皆さんは・・・・・・・・・・・・・

「おう!シンジ君、」

「おじさん、人参とじゃが芋・・・・・・・・・・・・・・」

「おう!人参とじゃが芋ね・・・・・・・・・・・ところで隣は彼女かい?」

「違いますよ!そんなんじゃ・・・・・・・・・・・・・・」

「はは、またまた・・・・・・・・・・・そうか、シンジ君にも春が来たか・・・・・・・・・・おい!おまえ!なんか一品おまけしてやれ!」

「そんな、悪いですよ・・・・・・・・・・」

「なに、常連のシンジ君にはこのくらいのサービス当たり前だよ、隣の嬢ちゃんにいいの食わしてやれよ!」

「やぁ、シンジ君」

「すみません、牛乳とバナナ・・・・・・・・・・・・・」

「あいよっ!・・・・・・・・・・おまたせ!」

「あの・・・・・・・・・・違うのはいってますけど・・・・・・・・・・・・・」

「なに!おまけさおまけ!彼女にいいもん食わしてやれよ!!」

「玉蜀黍と砂糖を・・・・・・・・・・・・」

「はい、玉蜀黍と砂糖ね!」

「なに違うもの入れてるんですか!」

「サービスよ!」

「いままで、サービスしてもらいました!いいですよ・・・・・・・・・・・」

「そう、じゃぁそこの可愛い子」

「はい・・・・・・・・・・・」

「おや、おとなしい系かい?まぁいい、これをもっていきな!」

「ちょっと!なにレイに持たせてるんですか!」

「レイって言うの・・・・・・・・・・・いい名前ね、ところでシンジ君、家に招待された客の心構え、知ってる?」

「知りませんけど・・・・・・・・・・」

「いい、客ってのはねもてなされるものだよ、だから堂々と構えとけばいい、手伝う必要もない。ただし、出されたものはちゃんと食べる。これが心構えよ。だから!!受け取ってね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「はい・・・・・・・・・・ありがとうございます」

「おや?シンジ君」「彼女かい?」「隅に置けないねぇ」商店街では、シンジを知らないものはない。

シンジは必ず礼を言うし、親しみやすいふいんきを持っている。何よりも決まった日、決められた時間に大体来るので、よく知られているのだ。

商店街の皆さんにそんなことを言われるたびにレイは頬が赤くなるのを自覚していた。

帰り道、コンフォートからこの商店街までは遠い。歩きで1時間はかかる。

日ごろが暇なので、シンジも暇つぶしの意味をこめて徒歩で行っているのかもしれない。

お天道様はそろそろ沈みだしているが、まだ地面を照らしている。

いつのまにか増えてしまった品、ほとんどがサービスで埋まっている。

シンジが、「自分が荷物を持つよ」と言ってきたが、レイは「自分が持ちたい」と言ったが、シンジがそんなことさせるはずなく、結局2人で持っている。

シンジの横をレイが歩く。速すぎず遅すぎず、しっかりとシンジの横にいる。

その光景は傍から見ると、商店街の人が述べたようにまさに、彼氏彼女と見える。

だが、時刻は3時、こんな中途半端な時間にそこら辺を歩いているものは少ない。

(なんなんだろ、この気持ち・・・・・・・・・・・・・・・)

レイは、自分が今どんな気持ちかよくわからなかった。

気持ちは確かに高ぶっている。

気恥ずかしさもある。

だけど、なんかその気持ちが程よくマッチしているのか、レイには形容しがたい。

隣のシンジを見る。

シンジと自分の距離、約1メートル程度。

その距離をもどかしく思う。

(よし!・・・・・・・・・・・)

レイは心の中で気合を入れると、シンジとの距離を詰めるべく行動に出た。

シンジに気づかれないように、少しシンジの後ろに行く、これでシンジからは自分の手しか見えてないだろう。

そして、一歩、一歩、密かに縮めていく。

そして、シンジの手に自分の手を絡めようとするのだが、今までもそうだったが、恥ずかしさが爆発しそうだ。

躊躇うが・・・・・・・・・・

(アスカだってキスしたんだ。私だって・・・・・・・・・その・・・・・・・キスまではいかなくてもこの位・・・・・・・・・・・)

心の中でもキスという言葉を言うのに躊躇っている。

レイは気を取り直して、シンジの手に自分の手を絡めようとした瞬間・・・・・・・・・・・・首元にチクッという感覚と共に、平衡感覚がぐらっと揺らぎ・・・・・・・・・・

(あれっ?)

思った瞬間にはおぼろげに瞳に揺らぐアスファルトが見えた。

シンジ、レイは気づいていないが、何メートルか後方に三つの人影があった。

春の暖かい日差しの下だというのに黒いロングコート、挙句の果てにパーカーまで着いている。

サングラスで見えないがその三人のうち2人の瞳には焦燥が浮かんでいた。

(どうせ、やばい!このままじゃシンジが!!とか思ってるんでしょうね)

浮いているといえば浮いている。

他の2人が根本的な怪しい人というのに、普通の服を着ている。

言わなくとも解る。アスカ、ミサト、マナの三人。

ミサトの奢りでどこか食べにいくはずだったのだが、アスカが尾行しよう!!とか言い出して、マナが乗り気だったのでミサトも渋々了解したのだった。

(そっとしてあげたいのに・・・・・・・・・・・・・)

財政的に一番お金を使わなくてもいい。ということで了解したのをすでに忘れている。

「ああぁーーー!!!」

「やばいやばいやばい!!」

周りの目を気にしていた(唯一ミサトのみ)ので、シンジに何か展開があったのか?とにかくシンジのほうを見る。

展開は確かにあった。シンジが・・・・・・・・ではなくレイに・・・・・・・・

レイが不信な行動を取り始めていた。

シンジより少し後方に下がり、シンジの見えないところで距離を詰めていた。

(やるわね・・・・・・・・・・・・レイ)

普段、レイならそのようなこと普通にしているのだが、マナがいるときだけだ。マナがレイの緊張をほぐしていたのだろう。

一人のときにそこまで大胆な行動を取るレイに感心していた。

アスカもできるかできないか、だろう・・・・・・・・・・マナはわからないが、

「くそっ!!月は見えるか!!?」

「駄目です!先ほどまで見えていましたが、今は雲で隠れています!!」

「くそっ!サテライトキャノンが撃てないのか!!?」

「大丈夫!!サテライトが撃てないときのための装備もばっちしです!!胸ポケットの中を調べてください!!」

(別に阻止しようとしなくても・・・・・・・・・・・・)

レイをこのまましておいてあげたいと思うミサトだが、アスカやマナの嫉妬心もわかるので、別に口に出してまでやめろ!とは言わない。

だが、そんな思いも、考えの一部にすぎず、大半は、おもしろいから、それと・・・・・・・・・・・

「こっ!これは!!」

アスカが取り出したのはどう見ても銃だ。

「ふふふ・・・・・・・・・M9、赤外線スコープつきでばっちし!ちゃんと当たれば一発で眠りこけます」

「よく、そんなの持ってるわね」

「ええ、実は加持さんからすくねてきたんです」

「はは・・・・・・・・でも無駄だと思うわよ?」

「えっ?」

「何言ってんのよ!!・・・・・・・・・・当てるっ!!」

アスカは、赤い点がレイの首元にきたときにためらわずに撃った。

そして、予想通りにレイは倒れる。

「よし!!これでもうこれ以上の展開はなしと見込んでいいわね」

「そうですね」

アスカがマナと喜んでいる中、ミサトはレイとシンジのほうを見て、にやり、と口元を歪めると・・・・・・・・・・

「やっぱりね」と呟いた。

「えっ?」

アスカとマナの声がハモった。

目を開けると、周りの光景がゆっくり、ゆっくりと自分の後方へと上下に揺れながら過ぎて行く。

いや、景色がではなくて、自分が・・・・・・・・・・・・・

自分の体が上下に規則正しく揺れる。たまに止まったりするけど・・・・・・・・・・・・・

何故・・・・・・・・・・・考えるよりも、体が反応した。いや、感じた。

碇君だ・・・・・・・・・・・・・・・

自分の体は今、碇君におぶられている。

とたん、自分の顔が赤くなったと思う。今日は自分でも思うほど赤面した。

「あ、起きた?綾波?」

碇君が尋ねてきた。

無言でただ、首を上下にこくこくとする。 

「そう、だけど驚いたよ、いきなり倒れたかと思うと、眠ってるんだから」

「ごめん・・・・・・・なさい・・・・・・・・・・」

「いいよ、それに・・・・・・・・・・・・」

「それに?」

「アスカよりは軽かったしね」

私は思わず吹き出しそうになった。

だけど、「ははは・・・・・・・・」と声に出して笑えなかった。

「アスカよりは軽かったしね・・・・・・・・・・・・・」なんとなく敗北感。

(私って、いつもアスカの下なのね・・・・・・・・・・・・・・)

解りきっていたことだ。自分が碇君にとってアスカより下・・・・・・・・・・・そういう表現は正しくないかもしれない、ただ、上下、一番二番じゃなくてただアスカなのだ。

多分碇君の気持ちはアスカにある。なのに私やマナによくしてくれるのは優しいからだと思う。

優しいから・・・・・・・・・・・・・・・だから自分の気持ちに気づいていない。

碇君は鈍感だが、本能とでも言うべきところは鋭い。口では・・・・・・・・・・いや心から「なんで、いっつも僕に構うんだろう?」とか言う。ミサトさんが「好きだからじゃない?」と言っても「そんなわけないじゃないですか」とか言う。

だけど、ほんとは、自覚してないだろうけど、ちゃんと私たち三人が自分に好意を寄せていることを知っている。

だから、気持ちは決まっていてもそれを言ったら私やマナが可哀想と思い、心に閉じ込める。鋭い自分と、自分の気持ちを・・・・・・・・・・

だから所詮私や、マナへは好意じゃなくて同情に近い感情なんだと思う。

アスカが羨ましい。何度思ったことか・・・・・・・・・・・・・

ぎゅっ・・・・・・・・・・・

碇君の前にただ垂れ下がるだけだった自分の腕を碇君の胸元に巻きつける。そして、碇君の肩に自分の顔を乗せる。

碇君が「あ、綾波?」とか言ってる。

知らない。

ただ、目を閉じて寝た振りをする。

邪魔してやる・・・・・・・・・・・・・・・・・

今まで、別に碇君がアスカを選ぶならいい。と思っていたが、やめた。

私が碇君に選ばれたい・・・・・・・・・・・・・

碇君がアスカへの思いを閉じ込めているうちがチャンスだ。

いつか碇君が思いを開いたときに閉じ困っていた思いが自分に変わるように・・・・・・・・・・・だから、アスカには負けない!!

コンフォート無法地帯と名高いミサトの部屋も就寝時間だ。各々ベットに潜り込む用意ができている。

「どう?生きる意味わかった?」

ミサトが寝る前にレイに尋ねた。

だが、レイは何のことかわからないような顔をしている。

「あんた、今朝私に聞いてきたでしょうが・・・・・・・・・・・・」

呆れた口調で言う。

レイはここでやっと「ああ・・・・・・・・・・・・・」と思い出したようだ。

「でも、生きる意味なんてわかりませんでしたよ」

「じゃぁ、今日のデートで何を思った?」

レイは、思い出すように考えたがすぐに、

「アスカには負けない・・・・・・・・・・って」

それを聞いて、ミサトはにやっと笑って、

「それが生きる意味よ」

「えっ、でも・・・・・・・・・・・・・」

レイは納得いかない様子だ。

「アスカには負けない。負けないために、明日はああしよう、次はこうしよう・・・・・・・・・・明日への気持ち、明日は、明日は、明日は・・・・・・・・・・・一日一日の積み重ねは未来、未来の目標・・・・・・・・・・・・・・・レイ、今死にたい?」

「死にたくないですけど・・・・・・・・・・・・・・・」

「死にたくない、生きたい、何のために?アスカに負けないために・・・・・・・・・・・・・それがレイの生きる意味だと思うよ」

「・・・・・・・・・・そうかもしれません」

「そうそう、だから、明日からがんばって!」

「はい!」

レイは元気よく返事を返すと、ベットにもぐりこんだ。

そして、ミサトは決して口に出さず心の中で、

「明日からはシンジを巡る争いが激しくなりそうね・・・・・・・・・・・ふふふふふ、暇つぶし考えなくて済むわ」と一人細く笑んでいた。

愚者の後書きたるもの

ほんと駄目駄目君。レイなんか性格変わってるような気がする。

最初の奴なんか恥ずかしくて読み直してないし・・・・・・・・・・・だからかなぁ・・・・・・まぁ人は変わると言うことで、

はい、今回そういうことでLRSです。やはりLASにはライバルが必要と言うことで今回。出番少なすぎ?アスカ

次はLMSの予定。(あくまでも)

では期待してくれると嬉しいです。


マナ:綾波さん? アスカより軽いことは、負けたってことじゃないのよ?

レイ:どうして?

マナ:女の子が重いってことは、とーーーっても恥かしいことなの。

レイ:そう・・・。弐号機パイロットは、お恥ずかしさんだったのね。

マナ:そうそう。偉そうなこと言ってるけど、スタイルじゃわたし達の方が上ってことよ。

レイ:はっ! 赤外線スコープの気配が・・・。M9はもうイヤ。

マナ:ちょっと。綾波さん、どうしたの? 何処行くの?

アスカ:ほほほほほ。(ーー#

マナ:ひぃっ! ほほ・・・ほほほほほ。(ーー;

アスカ:ほほほほほ。(ズガンっ!)(ーー#

マナ:(沈黙)
作者"河中"様へのメール/小説の感想はこちら。
kazumi-k@po4.synapse.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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