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家捜しっぷ・トゥルーパーズ
 
 
 
「あー遊んだ遊んだ!」
 それは、アスカの帰宅から始まった。
「おじゃましまーす」
「こんにちわー!」
「おじゃまします・・・」
 
 今日は珍しく、ヒカリとレイにマナも一緒であった。
 
 時間は既に夕方近く。今日はこの4人でちょっとした買い物やら何やらで、楽しく過ごしたのだった。
 そして、そのままの勢いで、葛城家にまで来たというわけである。
 
「シンジー!おなか空いちゃったから何か冷たくて甘いの作ってー!」
 アスカはキッチンに抜けながら大声でシンジの名を呼んだ。
「わ、悪いよ、アスカぁ」
 ヒカリが申し訳なさそうに言うが、
「あ、私も久しぶりにシンジ君の作った物が食べたいなー♪」
 マナはうきうき気分でそんなことを言っていた。当然アスカは、
「いきなりなに言ってんのよ、マナ!」
「えー、駄目なのー?」
「アスカ、そう言うの良くないよ?」
 と、たしなめたのは、もちろんヒカリ。
「そーよそーよ」
 ヒカリの後ろで、マナはストライキのように拳を振り上げる。
 まあ、もともと意地悪するつもりもなかったので、
「わぁかったわよ、特別に食べさせてあげるわ!」
 しかしそんな言い方になるのは、やはりアスカなのだ。
「ありがと、アスカ」
 
 とにかくそんな風に、実に騒がしく葛城家に乗り込むと、アスカはシンジの部屋の前に立って、
「と言うわけ何なんだから、さっさと出てきなさーい!」
 ばんっと音を立てて襖を開ける。
 
 しかし・・・
 
「あれ、シンジー?」
 そこはもぬけの空だった。
「シンジどこー?」
 自分で開けた襖も閉めずに、そのまま今度は風呂場へ向かう。
「こらぁ!シンジのくせに一番風呂は・・・あれ?」
 やはりいない。
「ん、風呂は作ってあるのね。感心感心」
 そうではなく。
「そうじゃなくって!」
 そうそう。
 
「出てきなさいよーバカシンジー!」
 と、家中に聞こえるように大声で叫ぶ。
 一瞬だけミサトの部屋の方を見たが、あそこは人類の生活圏ではないので、すぐに考えから外した。
 
 ならどこに・・・?
 
 アスカがそう思ったとき、
「碇君ならいないわ・・・」
 と、そこでようやくレイが会話に加わってきた。テーブルのそばに立って、その手には一枚の紙切れがある。
「ハン!何言ってるのよ!シンジは私の晩ご飯を作るという、重大な使命があるのよ!いないわけがないでしょ? 否っ!いなくて良いわけがないわ!」
 
 さすがはアスカ。気分はシンジを私物化している。
「でもカレンダーには今日の日付にアスカの名前があるよー?」
 と、冷蔵庫の前でマナがカレンダーを指さしている。
アスカはそれを無視すると(汗が垂れたのは暑いせいではなく)、
「で、それはなに?」
 逃げるようにレイに話を振る。
「碇君の置き手紙」
「何ですってぇぇぇ!?」
 叫び声と共に、ズダダダダ!とレイに駆け寄るアスカ。
「そうよ。碇君の名前があるもの」
「あは♪とうとうアスカに愛想が尽きたのかしら?」
 とは、嬉しそうなマナである。
「何ですってぇぇぇぇ!?」
 同じ言葉を叫んで、ぐいっとマナに向かって直角方向転換するアスカ・・・・・ぐわんばる殿下って、知ってる?
 
「もう一度言ってみなさいよ!」
 鬼気迫る形相でマナに詰め寄るが、当の彼女は楽しそうなのをまるで隠そうともせず、
「このカレンダーが、それを如実に現しているんじゃないかなー?」
 と、カレンダーの月頭からを指でなぞっている。
 
 食事当番 シンジ・シンジ・シンジ・シンジ・・・(後5つほど以下略)アスカ・シンジ・シンジ(果てしなく以下略)。
 
 つまりは、まあアスカの名前は一カ所しかないのだ。
「これじゃあ逃げたくもなるわ」
「うぐ・・・」
 さすがに、アスカも言葉が詰まる。
 
 なによ!逃げちゃ駄目だ!って自分で言ってたくせに、この程度で嫌になるなんて・・・
 
「調教が足りなかったのかしら・・・」
 思わず言葉がこぼれるアスカ。
「ア、アスカ・・・」
 とは、状況に飲み込まれていたヒカリ。少し怯えている。
「しーんじられない・・・」
 さすがのマナも絶句である。
 
 しかし、アスカは既に考えを巡らせている。
 
(ま、まさか、ミサトがあまりにだらしないのが嫌になって出ていったとか・・・ひょっとしてミサトのビールの量が減らなくて家計が苦しいのを苦にしてたのかしら!?)
 
 と、ここまで言われてなお、自分が原因であることを欠片も考えないのがアスカである。
 
 現実逃避とも言うけどね。
 
 
「『アスカへ・・・・」
 それは、いきなり書き置きの朗読を始めたレイだった。
 
「今日は前から言っていた映画を見に、トウジ・ケンスケと出かけます。その後も少し遊ぶと思うので、夕ご飯を作れません。悪いけど焼きそばを冷蔵庫に入れておきました。暖めて食べてください。今日はミサトさんも泊まり込みで仕事をするそうなので、一人で悪いけど家のこと、お願いします。シンジ』・・・ですって」
 
「・・・・あ、そっか!」
 と、納得顔でポムと手を叩くアスカ。
「そーいえばそんなことも言ってたっけ。鈴原が映画のチケット3枚手に入れたからって」
「「えー!」」
 逆に声を上げたのは、ヒカリとマナ。
「私そんなこと聞いてないわよ、鈴原に!」
「今日はシンジ君いないんだー・・・」
 口々に好きなことを言う。
 
「もー!鈴原ったら!」
 ヒカリは憤慨して、収まりがつかないようだ。
「あ、でもヒカリ、映画は『スターシップトゥルーパーズ・特別版』だってよ?たしか嫌いな部類じゃなかった?」
 
 それは、昆虫の残虐シーンが話題になった映画だ。
 ストーリーを単純に言うならば、宇宙規模で繁殖を繰り広げる昆虫軍団と人類との戦争を、一人の兵士の視点で描いた物だ。
 この映画ほど評価が分かれる映画も珍しいのだが、対してシンジはこれが一番お気に入りの映画だそうで、DVD(それもdts仕様)版はもちろん、原作本の方まで手に入れているのだ。
 元はケンスケから広がったのだが、意外なことに三馬鹿たちはそろってハマってしまったのだ。
 シンジに至っては、『それぞれ方向性は違うけど、込められたメッセージは同じで、どちらも傑作だよ!』などと言っていた。
 アスカもシンジと一緒にそのDVDを見た事はある。つまらなそうにしていた物の、血が騒いだのも事実である。
 
 そのリメイク版が、つい最近公開されたのだ。
 
 
「あ・・・そうなの・・・でも!」
「鈴原となら何でもいいもんねー、ヒカリ?」
「や、やだそんなんじゃないってばっ。私は中学生が夜遅くまで映画を見に行くのが・・・やっぱり委員長として・・・」
 最後まで言葉が続かないヒカリだった。
「はいはい、今度は意地でも引率してやる事ね、二人っきりで♪」
「もう、アスカってば!」
 真っ赤になって抗議するヒカリを適当にあしらいながら、アスカはマナがシンジの部屋をじっと見ているのに気がついた。
「こぉら、マナ!あんた何シンジの部屋のぞき込んでいるのよ!」
 気づくや否や、マナの襟首をぐわしとつかんでキッチン近くまで引きずる。
 だが、マナはアスカに振り返ると、目を輝かせて言った。
「ねえ、シンジ君のお部屋、見てみない?」
「ええ!?」
 いきなりのマナの提案にアスカは大声を上げる。
 
「な、何言ってるのよ!」
「だってぇ、こんなチャンス滅多に無いじゃな〜い?」
「霧島さん、それは良くないわよ。碇君にもプライバシーがあるわ」
「プライバシーはともかく、あんたなんかをシンジの部屋に入れるわけにはいかないわ!」
「ええー、せっかくシンジ君の好みの女の子を知るチャンスなのにー・・・・」
 その時、アスカの体は確かにピクリと震えていた。その後ろにあった青い物も、アスカと同じタイミングで動いていたのも、マナは見ていた。
「・・・・どういう意味よ」
「あのさ、シンジ君も一応は男の子やってるじゃない?」
 それについては、異論を挟む余地はない。
「しかも思春期真っ盛りの14才!・・・絶対にアレがあるはずよ」
「アレって・・・・まさか!?」
 とは、ヒカリである。
「なによ、アレって?」
 いまいちマナの言葉の意味が分からず、アスカは疑問符を浮かべている。
「何よアスカ、解らないの?(ちっ、カマトトぶりやがって)・・・えっちな本の事よっ♪」
 一部心の声を織り交ぜながら、マナは言ってむふふと笑った。
「えっち・・・て、ええええええ!?」
 突然のそれに、アスカは動転していた。
 アスカの中では、それがシンジのイメージとは結びつかなかったのだ。
 
「そ、そんな物探してどうするのよ!?」
「シンジ君がどんな嗜好の持ち主なのか、その秘密のコレクションから探ろうって訳よ♪」
 動揺しているアスカをよそに、マナは少々顔を赤くして、さらに目を輝かせている・・・興奮してるのか?
 両手を胸の前で結んで、アスカに迫っている。
 そんなマナに、アスカは少し身を引いて、
「ハ、ハン!そんな物探すだけ無駄よ!このあたしがそばにいるのに、そんな物が必要になる分けないじゃない!」
「アスカ・・・!」
 ヒカリが真っ赤になってアスカの腕を引っ張る。
「いくらなんでも、それって大胆すぎだよぉ」
「・・・・はっ!」
 と、正気になるアスカ。
 目の前のマナは、
「なによ、アスカ。シンジ君を慰めてやってるの・・・・?」
 憮然とした顔でアスカを睨んでいる。
 
 カ〜〜〜!!
 
 アスカは一気に顔を赤くして、
「そ、そんなことするわけがないでしょ!あんた何考えてるのよ!!」
「シンジ君のこと」
 しれっとした顔でマナは言ってのける。すごいぞ、あんた。
 
 アスカは思わず怒鳴り声を飲み込んでしまっていた。
「シンジ君がどんな女の子が好きなのか、アスカ、あなただって知りたいんじゃないの?それに、あなたシンジ君がそんな物に頼っているの、許せる?」
「ゆ・・・許せないわ!私という美少女と一緒にいながら、そんな事!」
 真っ赤な顔で怒りをあらわにして、握り拳をグッとつくるアスカ。
「また大胆発言・・・」
 ヒカリはアスカ達とは別の理由で真っ赤になっている。
「いいわ!その話、乗ったわ!」
「さすがアスカ!」
「でもこれだけははっきりさせて置くわよ。シンジと同居しているのはあたし。だからこの作戦の指揮権はあたしにあるんだからね!」
「それはそれでいいよ。そっちの方が効率いいかもしれないし」
 そして、交渉が成立した二人はとりあえず握手を交わした。
 そんな光景を見て、ヒカリがあわてて声を上げる。
「ちょ、ちょっとアスカに霧島さん!碇君がいないのを良いことに、好き放題していいわけないでしょ!」
「でもさヒカリ、今度鈴原の家に行ったとき、隠し方とか参考になるかもよ?」
 そこで、ぴたっとヒカリの身体が停止する。やはり、なんだかんだ言って興味はあるのだ。
 脈有りと見るや、アスカは最後のとどめを刺した。
「それに、委員長として、クラスメートがそんな破廉恥な物を持っているのを、看過できるの?」
「やるわ」
 建前をもらった彼女は、即断だった。
 
「よーし。んじゃファースト、あんたはどうす・・・・」
 アスカはキッチンの方に振り向く。だが、そこにレイはいなかった。
「なに・・・?」
「うわぁあぁ!?」
 声は、アスカの背中から聞こえてきたのだ。
「あ、あんたいつの間に・・・!?」
「どうしたの?碇君の部屋、探すんでしょう・・・?」
「あ、あの・・あんたは」
 どうするつもりか、一応聞いて、
「さ、行きましょう・・・」
 しかしレイは一人で部屋に入ろうとする。
 あまりのことに呆然としていたが、すぐに正気を取り戻すと、アスカは慌てて、どたどたとシンジの部屋の前に立つ。
「ちょっと待ちなさい!」
 アスカは大声でレイを止め、
「全員整列!」
 この場の全員に声をかけた。
「整列って・・・」
 マナが何か声を上げかけるが、
「いーからそこに並ぶ!上官の命令よ!」
 仕方がないので、言われたとおりにする事にしたマナとヒカリだが、男の子の部屋を家捜しするという、普段あまりないシチュエーションにわくわくした気分でもあった。
 そして、アスカの前に並ぶ。レイはと言うと、あまりよく解らない。
 
 3人揃って並んで、アスカは満足そうに頷くと、
「いいっ?探す場所はいくらでもあるわ!見つけて見つけて全部引きずり出すのよ、解った!?」
「わ、わかったわ!」
「違う!」
 と、床をだんっと踏みつける。
「上官への復唱もろくに出来ないの!?こういうときは、『We get you sir!』って応えるのっ!敬礼も忘れんじゃないわよ、解った!?」
「「「ウィーゲッチューサー!」」」
 3人は敬礼までして復唱した。
 こうして、史上最大の襲撃作戦が開始されたのだった。
「命令だもの・・・」
 そして、いつも通りのペースを保つ、綾波レイだった。
「よろしい!アスカ愚連隊(ラフネックス)、突撃!」
 
 結局、あんたもハマってたのか・・・・
 
 
「うわぁ・・・ここがシンジ君の部屋なんだぁ・・・・」
 と、うっとりした声を上げるマナ。
「すっごくきれいにしてるわね。さすが、持ち主の性格が出ているわ」
「碇君の臭いがする・・・・」
 そして感心しているヒカリと、訳の分からないことを言うレイ。
 そんな彼女たちに、アスカは少し不機嫌な顔で振り返る。
「ちょっとあんた達!ぼけぼけっとしてんじゃないわよ!これから作戦を説明するわ!」
 アスカは大声で騒ぎながら、部屋の明かりをつける。
 おかげで、シンジの部屋の様子がよりはっきりと浮かび上がる。
 
 しかしほとんど何もない部屋。ベッドと机以外に隠し場所がない。あとは、押入群だろうか。作戦と言うほどのプランも無いだろう。
「マナとレイは押入。ヒカリは机を調べるのよ!」
「アスカは?」
「あたしはベッドを調べるわ」
「えー!何かずるいー!」
 マナが不満たらたらの声を上げる・・・何を狙ってるんだ?
「上官の命令に逆らわない!」
「ぶー!」
 当然それも無視して、
「よし!それじゃあ、全員散開!」
 
 そのかけ声と共に、シンジの部屋に散り散りになる少女4人。
「そうよ・・・これは委員長としてやるべき事なのよ・・・!」
 ヒカリは自分に言い聞かせながら、まずは一番下の引き出しに手をかけた。
「碇君の押入・・・碇君の臭いがする・・・でもどうして?私、泣いてるの?」
「ああ、押入のカビで過剰反応しているのねー。あなた花粉症になるわよー」
 と、思ったより中身の少ない押入に、上下に分かれて潜入するレイとマナ。
「ちょっとファースト!何でシンジがカビ臭いのよ!ンナ訳がないでしょ!」
 アスカは押入に向かって叫ぶが、
「くしゅん・・・」
 返ってきたのはレイのくしゃみだった。
「まったく・・・・」
 まあ、レイの訳の分からない発言は、今に始まったことではない。
 レイのことはすっぱり忘れて、アスカはシンジのベッドの横で仁王立ちして、にらみつけている。
「さてと・・・まずはどこから探そうかしら」
 とりあえずは、布団をめくってみた。だが、やはりそこにあるわけもなく。
「さすがシンジね。そう簡単に見つけさせてくれないわ!」
 そんなところに置かないよ、いくら何でも。
「よいしょっと・・・」
 と、次はベッドのマットレスを持ち上げる。
 少々重たかったが、問題なく足下の方にそれを立たせて、壁に寄りかからせる。
 マットレスの下の、ベッド本体である金網の上にも、何もなかった。
「んー・・・なにもないわねー」
 残念がるような、しかしどこかホッとしたような声音のアスカ。
 だが、
「んん?」
 その下の方に、なにやら怪しげな黒い鞄がある。弁当箱を大きくしたくらいのそれが二つ。
「まさ・・・か・・・・・」
 アスカはベッドの下に手を伸ばして、それを引きずり出した。
 手応えは、結構ある。それを部屋の中央あたりまで引きずって、アスカはそれを凝視していた。
「まさか・・・この中に・・・?」
 おそるおそる手を伸ばす・・・・。
 ジィィィィ・・・・
 そして、とうとう鞄は開けられた。
「でも、あのバカに限ってそんな・・・・」
 アスカは、中をろくに確かめもせずに、わしっとその中身を鷲掴みにして引きずり出す。
「んな・・・・!」
 
 アスカは、自分の手に握られている物を見て、絶句していた。
 
「・・・っきゃあぁぁぁ!」
 そして即座に悲鳴を上げる。
 思わず放り投げていたそれが、ばらばらと床に落ちる。
「どうしたの、アスカ!?」
 全員が探すのに夢中になっていて、アスカが悲鳴を上げてようやくその場に気がついた。
「見つけたの!?」
 どこか嬉しそうな声で、マナが押入から顔を出す。ほこりをかぶって、髪が少し白い。
「あったのね・・・?」
 その下から、レイも同時に顔を出していた。やはり、髪が白く、おまけに涙目だ。
 まずは、漫画類だった。
「あ・・・・ああああ」
 アスカは自分の目の前に散乱する物から目を離せず、ただ声を漏らしていた。
 
「うっひゃぁ、これは多いわぁ」
 これはマナの弁。
「い、碇君って・・・不潔よ!」
 まるでどこかの誰かのような事を言うヒカリ。
「あ・・・あああ・・・ああ」
「アスカ・・・」
 と、ヒカリはアスカになにか声をかけようとして、
 
「あンのバカシンジ!」
 
 突然叫びだしたアスカの前に、ヒカリはングッと言葉を飲み込んでいた。
「一冊や二冊程度ならまあ黙認しておこうかと思ってたけど、何なのよこの量はぁぁぁぁ!!」
 そして、片膝をついたままそれらを足で踏みつぶす。
「上等じゃない!このあたしという者がありながら、こんな卑猥な代物に手を出す何てぇぇぇぇ!」
 とうとう踏みにじりながら立ち上がる。
 そう、乙女のプライドは、きっと僕たち男の子が考えるよりずっと高いんだねっ!
 
「二等兵共!」
「二等兵ぇ〜?」
 さすがに抗議の声を上げるマナ。しかしそんなことは無視して、
「もう構わないから徹底的に家捜しするのよ!隅から隅まで完っ璧に手を入れて、残らず見つけだすのよ!わかった!?」
「で、でもこれだけあればもう・・・・」
 大体の目的は達せるので、マナがなだめるが、
「口答えしない!復唱は!?」
「「ウ、ウィーゲッチューサー!」」
「よろしい!私もその巣穴に入るわ!」
 と、アスカはマナのいる押入に飛び込んだ。
 
 アスカという名の、ニューク弾。
 
 
「碇、いいのか?」
「問題ない。むしろ良い機会だ」
 
 そんな会話があったのかどうかはともかく・・・
 そこからの彼女らの戦果は凄まじかった。
 
 
 ヒカリは、最初に調べた一番下の引き出しを、完全に引き抜いた。
 そして、その奥に几帳面に並べられた物を発見した。
 DVDである。
「軍曹殿!洞木二等兵、発見しました!」
 ボン!
 と、アスカが無言で押入上段から飛び出してくる。
 そして食いつくように、ぽっかり空いた巣穴に飛びついた。
「むむむむ・・・・」
 それらをひとしきり睨んだ後、
「没収!」
 引きずり出してそのまま部屋の中央に投げ捨てる。
「軍曹殿!こちらにもそれらしき物がっ!」
「了解!」
 再びマナのいる押入上段に突撃して消えた。
「・・・・・」
 しばらく沈黙。
 そして、
「没収!!」
 その奥から、無数のグラビア本が飛び出し、今や(うずたか)く重なりつつあるそこに降り注いだ。
 アスカ・ニューク弾、恐るべし。
「あ・・・・」
 と声を上げたのは、レイだった。
「今度はなに!?」
 早速上段から姿を現して、シャカシャカと、まるで昆虫のように這いずって、下段に消えていった。
 
「ア、アスカってば・・・」
 さすがに引いた感じの声を上げるヒカリは、だがその隣の小さな山に目をやって、
「これじゃ、しょうがないか・・・もう」
 顔を赤くしながら、小さくため息をついた。
「結局、アスカの独壇場ねー・・・」
 と、遅れてマナが顔を出していた。
 やがて、
「あー!こんな所にまでぇぇ!」
 そんな絶叫が聞こえて、
「没収!」
 と、押入下段から鞄が一つ飛び出した。最初の鞄と同じくらいの大きさの物で、
 
 どすん
 
 重たい音を立てて、山の頂上に乗っていた。
「これで隠せそうなところは全部ね・・・」
「しっかしまぁ、よくもこれだけ、あっちこっちに隠した物だわ!!」
 激怒が収まらぬ様子のアスカの声と、鼻水混じりのレイの声が聞こえて、
「ふう」
 二人同時に押入から体を出した。
 
 そして、アスカは自分が積み重ねたその山を、改めて眺めていた。
「うぬぬぬぬぬぬぬ・・・・」
 握った拳がぷるぷる震えている。
「あんの馬鹿シンジ・・・・・・!」
 歯ぎしりする隙間から絞り出すように言って、アスカはずかずか山に近寄って、片足を大きく振り上げる。
 それを見て慌てたのは、マナである。
 その足が振り下ろされる寸前、
「まあまあ。とりあえず、見つけられたことだし、始めましょう?」
 と、アスカに飛びついていた。
「・・・何を?」
 言われたアスカは、きょとんとしてマナを見る。完全に当初の目的を忘れている。
「忘れたのー?シンジ君の、好みの女の子探しよ♪」
「ああ・・そんなことも言ってたっけ・・・」
 アスカはもうどうでも良いのか、やる気のない声で足を降ろして言うが、マナはまだまだこれからと言った感じだ。
 
「とりあえず、みんなで読んでみましょ」
「え、えええええ?そんなことまでするの?」
 アスカは目を向いて、マナに大声を上げる。
「当ったり前じゃない。さってと・・・まずはこれ!」
 マナが手に取ったのは、漫画である。表紙のついている物は全て裏返してあったので、とりあえず、マナはそれを元に戻した。
 カラフルな表紙が、現れた。
 
「・・・うわ・・・いきなり・・・」
 そしてすでにマナは没頭していた。しかし、周りが呆然としているのに気がつくと、
「ほらほら、何あたしにだけ読ませているのよ!中を読んで、分類するんだからっ」
 と、手をぱたぱた振って3人を促す。
「分類って・・・」
「とりあえず、女の子タイプで分類するのよ。解らない物は別にして、みんなで考えましょ」
 呆然としていたところだったせいか、3人はそれぞれ適当な物を取って読み始めるのだった。
 どうも、今日はマナが仕切り役に落ち着いているみたいだ。
 
 とは言え、やはりわき上がる好奇心には勝てないんですねぇ。
 
「え・・・・うそ、そうなっちゃうの・・・うわぁ・・・・」
「ふ・・不潔よ!不潔よ・・・・不潔・・・ふけ・・・」
「な、何でこんな事が馬鹿みたいな事が出来るのよっ・・・ひえっ・・・うわっ・・・うっわー・・・」
「・・・・・・・(ポッ)」
 
 そんな怪しい雰囲気を放ちながら、4人は分類を進めて行く。
(どれが誰かは、文字の色でご判断下さい)
 
 
 そんなこんなで殆ど分類は終わって、残りはそれぞれが読んでいるだけとなった。
 
「さすがに疲れたね・・・」
 ヒカリが心底疲れたような声を上げる。だが、顔は火照ったままである。
 外はもうとっくに日が沈んでいた。
「そうね・・・」
 マナはその最後の本を読み終えて、それを『年上の女系統』の分類に置いた。
「はい、おわり」
 ヒカリも読み終えて、手にした物を『年下系統』の分類に置いた。
「終わったわ・・・」
 そして、レイも読み終え、本は『同年代・幼なじみ系統』の分類に納めた。
 最後にアスカは・・・
「・・・・フン!」
 一応読み終えて、不機嫌そうにだが真っ赤な顔で『同年代・ショートカット系統』に投げ捨てた。
 
 分類は、このように終わった。
 
 まず、年上・年下・同年代と分けた。さらに同年代については重要なので、幼なじみ・優等生タイプ・ショートカット、となった。
 外見についてのみの分類なので、きれいに分けることが出来た。
 ここでは女の子タイプの模索なので、ストーリー系統についても考えていない。
 
 
 一同、みなしばらく押し黙って。
 
「な、なかなか貴重な体験だったわー」
「うん・・・」
 マナの言葉に、ヒカリも火照った顔で素直に頷いた。レイは、
「・・・・」
 黙っているが、顔は少し赤い。
「ふん!やっぱり変態よ、変態!」
 アスカは一人、不機嫌だった。
「まあ、こうして分類を終えると・・・何でも有りって感じね」
 マナは、それらを眺めた。
「まあ、とりあえず、私はシンジ君の守備範囲内ってことね。むふふふ・・・・♪」
「でも、こんなに守備範囲が広いんじゃ、殆ど女の人なら何でもいいって感じよ?」
 ヒカリは半ば呆れ顔で仕分けされた山を指さす。
「男なんて、そんな物なのよ。これじゃ、マナはおろか、ヒカリもファーストも、下手するとミサトもリツコもオッケイって感じじゃない」
 アスカは完全に呆れ顔である。
 だが、言い出しっぺのマナは、何か腑に落ちないような顔に変わっていた。
「でも、こうしてみると何かが足りないような・・・」
「うん・・・何か足りないよね碇君の物としては・・・」
 ヒカリもマナの言葉に同意した。だが、何となく見えてこない。
「なによ、シンジの物にしては、って?」
「アスカがいないわ・・・」
 
 レイの言葉に、アスカはびくっとした。
「「え・・・?」」
 マナとヒカリがレイを見る。
「だって、同年代で、ショートカットの私と霧島さん。優等生といえば委員長。そう言えばアスカがしょっちゅう私のことを優等生っていっているから私も含んでいいわね。それに年上の女は葛城三佐や赤木博士、それに伊吹二尉も」
「そういえば・・・私もおかしいと思ってたのよ。だって、ロングヘアーの、活発で我が儘な女の子が無かったんだもの!」
 ヒカリは慌ててその分類された物を見回した。
「ヒカリ、我が儘って誰のこと言っているのよっ?」
「だって・・・」
「そう言えば、ハーフや外人もなかったわね」
 マナの声は冷静だった。
「つまり・・・」
「つまり何よ!」
 レイの言葉に、アスカは思わず大声で怒鳴っていた。
 
「つまり、アスカは碇君の守備範囲から外れているって事ね」
 
 
 時が止まったように、全てが静止する。
 
 
「んな・・・!!」
 始めに声を出したのは、アスカだった。
 アスカは、無意識にしろ薄々気がついていたことを、いや意識的に考えないようにしていたことを、今はっきりとレイに言われてしまった。
 顔が一瞬にしてこわばる。
「あ、綾波さん・・・!」
 ヒカリが小声でレイの袖を引っ張るが、彼女の言葉は止まらない。
「ちがうの?だってここまできれいに無いのよ?」
「綾波さん・・・それはいくら何でも短絡過ぎない?」
 さすがにマナもアスカに気遣って言うが、自分もそれ以外に考えられないでいた。
「あなた、言ったでしょ?」
 レイはマナの目をまっすぐ見て言う。
「碇君の好みの女の子を知りたいって」
「そうだけど・・・でもこれじゃよく判らないし・・・・」
 マナは、レイの視線にたえられなかった。
「そうね。でも好みじゃないタイプは解ったでしょう」
「そ、それは・・・」
 
 ぱあん!
 
 そのとき、大きな音を立てて、レイの頬が鳴っていた。
 それをしたのは、ヒカリだった。
 
「綾波さん、いい加減にして!」
「ヒカリ!?」
 親友の意外な行動に、呆然としていたアスカは現実に引き戻された。
 呆然としていた・・・?
 そう、アスカはたった今、自分がただ呆然としていたことに気がついたのだ。
「アスカの気持ち、知ってて言っているの!?」
 
あたしの気持ち・・・?
 
「知ってるわ」
「じゃあ、どうして!」
「だって、その本人が気がついていないじゃない」
「そ、それは・・・そうだけど!」
 一体二人は何を言っているんだろう・・・?
 あたしの気持ち?
 
あたしの気持ちは・・・・・
 
なんだろう・・・・何かが・・・・
 
「だからって・・・・あれ、アスカ?」
 その時、ヒカリはアスカから何か奇妙な波動を感じ取っていた。
「ふっふっふっふ・・・・・」
 なにか、とてつもなく暗い部分から聞こえてきたような、その笑い。
「あ、アスカちゃーん?」
 マナがふざけたカンジで呼ぶが、反応がない。
「あたしの気持ち、ねえ・・・・」
 
 その時、3人が息をのんでいた。
 
「今のあたしには・・・・」
 
 アスカの気持ち。それは、
「殺すわ」
 
 そのとき、ヒカリの体は反射的に動いていた。
 ヒカリだけではない。マナもレイもヒカリと全く同じ行動をとっていた。
 
 アスカを押さえつけるのだ。
 3人は一斉にアスカを押さえつけていた。
「あのくそったれのケダモノ馬鹿シンジを血塗れにしてやるのぉぉぉぉぉ!」
「だ、駄目よアスカ!殺人はいけないわ!」
 なら、何なら良いのですか、委員長?
 
「弐号機で握りつぶしてやるのよぉぉぉぉぉ!」
「そんなことで出撃許可は下りないわ・・・・」
 静かな声音だが、3人の中ではレイがもっとも力強くアスカを押さえつけていた。
「とにかく落ち着いてよ、アスカ!」
「うるさぁい!茶髪オカマのくせに!」
「な、なんでこっちにまで波及してんの!?」
 いや、あまりに愉快だったんでつい・・・・
 
 それはともかく(ごめんなさい、マダマニアウサ様)。
 
 まあ、なんだかんだ言っても、さすがのアスカも3人に押さえつけられては、まともに動くことも出来なかった。
 あとはアスカが落ち着くのを待って・・・・
 
 と、ヒカリが考えた矢先、
 
 ぴんぽーん・・・・・
 
 それは、転機が訪れたことを知らせるチャイムだった。
 そして、
「ただいまー」
 扉が開いて、シンジの声がアスカ達にまで聞こえていた。
 
まずいっ!
 
 3人は同時に血の気が引いていた。対して、アスカは強烈なまでに全身を真っ赤にしている。
 
 まるで、弐号機がそこにいるようだった。
 
「シ〜ン〜ジィィィィイイイイ!!!」
 どす黒い声を腹の底から叫んで、アスカの体がガタガタと激しく暴れ出した。
 
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺して・・・・・・」
 
 呪詛のように、アスカは物騒な言葉をまくし立てている。
 寒気を覚えながら、ヒカリは部屋の外に向かって叫んだ。
 
「だめ碇君!逃げて!」
 
 
 委員長の声が、玄関で靴を脱いでいる3人に届いていた。
「あれ?委員長の声がしたよ?」
「なんや、委員チョも来とるんかいな」
「うーん、これは盛り上がりそうだねぇ」
 と、ケンスケがトウジを横目に見てニヤリと笑っていた。
 3人はそれぞれコンビニで買ってきたペットボトルを手にしていた。結局外で食べないで、シンジの料理を食べて今日を終わりにする事になったのだ。
「でも、何か逃げてって言っていたような・・・・?」
 シンジは怪訝に思いながらもキッチンに出る。
「んな、アホな。何から逃げるっちゅうんじゃ」
昆虫(アラクニド)でも、いるのかな?」
 ついさっきまで観ていた映画の影響か、ケンスケはそんなことを言っていたが・・・・
 
 
 アスカはそれと大差なかった。
 
「ウウウウウウウウウウウウ!」
 もはや低くうなるアスカがそこにいた。
 しかし、その力はそろそろ3人掛かりでも押さえきれなくなりつつあった。
「だめ・・・」
 ヒカリは、
「もう・・・・」
 レイは、
「限界!」
 マナは、とうとうアスカを解き放ってしまった。
 その途端、弾けるようにアスカは飛び上がっていた。
「ブァッカ、シンジィィィィィィィ!!」
 
 タンッ
 
 床に着地すると、
 
 チャキチャキチャキチャキ
 
 そのまま4足で部屋から出る。
 ゼルエル戦の初号機を彷彿させるアスカ。
 気味悪いほどの速度でリビングに出て、
「あ、アス・・・」
 アスカ、目標を補則。
 シンジの言葉を最後まで言わせずに、アスカは獲物に飛びかかっていた。
「このばかぁ!」
 叫んで、アスカは体を低くしたままシンジに足払いを賭ける。
「カァ!?」
 シンジは「アスカ」と言い切らない内に倒されて、
「うぅわっ?」
 床に背中を打ち付けていた。
「あんたってやつはぁぁぁ!」
 床に倒れるシンジに向かって、アスカはひょーんと飛びかかって、両手足をフルに使って、思いっきりフクロにしていた。
 そう、一人で袋叩きなのだ!
 四つ足のままシンジに覆い被さって、右脚で殴って(・・・)左腕で蹴って(・・・)、とにかく逃げ場を与えずぼてくり回していた。
「ホゲッ!?」
 殴られ、
「ギ・・・・」
 蹴られ、
「絶対許さなぁぁぁぁい!」
「ギャースーーー!?」
 アスカは一見コミカルに動いているが、まったく強烈な一撃一撃がシンジをあっちの世界に導いていた・・・・。
「あんた!」
 一通り殴って、アスカは目を回しているシンジの胸ぐらをつかんで起こす。
「一体何が不満なのよ!ウジウジあんな物に頼って!」
「た、頼るって・・・・?」
「あんな物眺めて何が楽しいってのよ!」
 眺めるだけじゃ・・・ま、それ以上は野暮って事で。
 うん、若いもんなシンジ君。
「あ、アスカ!ちょっと痛いよ!一体僕が何をしたって言うんだよ!!」
「自分の心に聞けぇぇぇい!!」
 しかし、胸ぐらをつかまれたまま頭を揺さぶられて、心も何もないと思うが・・・・。
「判らないよ!」
「なら思い出せぇぇぇいい!」
 そして・・・・・・
 
CENSORED!!
お見せできない惨劇が流れております。
 
 
「鈴原に相田君!アスカを止めて!」
 そのとき、シンジの部屋から這いずって、襖に寄りかかりながらヒカリが叫んでいた。
「委員チョ!?これは一体どういうことやねん」
「いいから!今はアスカを!」
「ほ、ほなかて・・・・」
「これじゃぁ・・・」
 もはや完全にアラクニドと化したアスカを前に、二人は腰が引けていた。
「早くっ!!このままじゃ碇君が死んじゃう!」
 普通ならオーバーであるはずのその言葉は、今のその光景にはあまりにリアルで、
「「り、了解!」」
 二人はとっさにアスカに飛びついていた。
「そ、惣流!これ以上やったら碇のやつ死んでまうで!」
「うるさぁぁぁい!」
 しかしアスカは男二人掛かりでも物ともせずに、シンジの両肩をがしっとつかむと、ぽいっと真上に投げ飛ばす。
「「「ええ!?」」」
 その光景を見ていた、トウジ・ケンスケ・ヒカリから一斉に声が上がる。
 そして、当のシンジも、
「え?」
 自分に起こったことを把握しきれずに、呆然と眼下のアスカを眺めていた。
 一瞬の浮遊感だが、シンジは眺めている自分を実感していた。
 そのアスカは・・・シンジを見上げた。
 異様な笑顔で。
「ひっ!?」
 何かがフラッシュバックする・・・そうアレはどこで見たのか・・・
 シンジの記憶の網から外された、零号機からの拒絶・・・
 その断片と酷似していたのだが、それをシンジが思い出すはずもなく、またそんなヒマもなかった。
 だが、必要以上の恐怖があった。
 
 シンジの体はすぐさま重力に引かれる。
 そんなシンジを、
 
 ドス
 
 アスカは突き上げた拳を腹に打ち込むことで支えた。
 さらに、
「オラオラオラオラオラァ!」
 
 ドスドスドスドスドスドス・・・・・!
 
 そのまま腹を両手で殴りつけて、シンジをまるで格闘ゲームのように宙に浮かせている。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 そして二度目の悲鳴。
 悲鳴を上げたのは、シンジだけではなかった。
「シンジ君!」
 マナとレイがシンジの部屋から出てきた。
「だめ、アスカ!」
 そしてトウジ達に続いてアスカに抱きついた。
 両腕をケンスケとトウジ。
 両足をマナとレイ。
 完璧に拘束した。
 
 だが、
 
「だ、だめだ!手足を押さえてもまだ八十六パーセントも攻撃力が残ってる!」
 ケンスケはアスカの肩にしがみついて叫ぶ。
「ほなどうすんねん!?」
 トウジも反対側でケンスケに聞き返す。
「神経を狙うんだ!アラクニドと一緒だよ!」
「殺す気かいな!?」
「いや、何か惣流の戦意を一気に沈めるような(ニューク)弾発言があれば・・・」
 その言葉を聞いたヒカリは、はっと何かを思いついた。
(でも・・・)
 本当に効果があるのか?
 
 一瞬の逡巡の後、しかしヒカリは即座に叫ぶ。
 思いついたのならば、やるべきだからだ。
「アスカ!シンジ君を殺したら、だれがアスカのごはんを作るの!?」
 
 ぴたり・・・・・
 
 止まってやがるし。
 
「止まった・・・・」
 ケンスケがポツリと言って、
 
 ズル・・・・・ドサッ
 
 シンジは床に落ちた。
「碇ぃ!」
 トウジがシンジに飛びついた。特に目だった痣はなかったが、全体的にボロボロである。
 なんだかんだ言っても、アスカは少女だったと言うことなのだが・・・・
「い、いきなり何するんだよ、アスカ!」
「フンッ、自分の心に聞く事ね!!」
「判る分けないだろっ?帰ってきたらいきなり殴られて、訳が分からないよ!」
「そう!なら、こっちに来なさい!」
 と、アスカはシンジの耳たぶをつかんで引きずろうとする。
 当然そんなことは不可能なので、
「あいっててててて!」
 シンジはアスカの誘う方に動くほか無い。
「そんな強く引っ張らないでよ、アスカぁ!」
「うるさい!!これを見なさい!」
 そして、シンジはその惨劇を目にした・・・容赦なく散乱している男の秘密(笑)。
「んな・・・・・っ?」
 
 碇シンジ、心臓停止。
 
 しばらく、固まって立ちすくみ・・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁー!?なんでこれが表にでているんだよー!?」
 悲鳴を上げて部屋に転がり込んで、その山と積まれた男の秘密に覆い被さった。
「どう?自分が如何に汚らしい存在か、思い知ったかしら?」
「く・・・・人の秘密を引きずり出すなんて・・・・最低だよっアスカ!」
 
 ・・・・・っ
 
 そのとき、アスカの胸の中で、何かが対流したような、不快な感覚があった。
 
「フン!そんな物しかない男の方がよっぽどたちが悪いわよ!!男って何でそんな物が必要なのよ!」
「だ、だって・・・それは・・・・」
 シンジは完全に言葉に詰まってしまう。その隙を見逃さずに、アスカは一気にたたみかける。
「しかも年下から年上まで、何でもありだったじゃないの!女なら何でもいいって訳っ?」
「そんなことは無・・・って、中身まで読んだの!?」
「ええ、読ませてもらったわよ。ここにでているの全部!」
「そんな・・・・・酷いよ、アスカ・・・・酷いよ!」
 シンジは立ち上がって、アスカの瞳を睨み付けた。思えば、彼がこのような眼で彼女を見るのは初めてだったのではないだろうか?
「酷いのはあんただって一緒よ!こんな物に頼っているなんて、絶対許せない!」
 負けじと言い返したアスカのそれは、かなり決定的な発言なのだが、シンジはもちろん、言った本人もそのことに気がついていない。
「何でアスカがそんなことを言うんだよ!関係ないじゃないか!」
「そ、それは・・・・」
 確かに関係がないのだ。今のアスカには軽蔑こそすれ、怒る理由がない。
 そこに気がついて、今度はアスカが言葉に詰まったのだ。
 
(そうよ・・・・なんであたしってここまで怒っているんだろう・・・?)
 
 今のアスカの頭脳は、全体的に激怒が支配しているのだが、冷静で客観的な思考を可能にする部分も、また残されていた。
 アスカの中に僅かに浮き上がった疑問が、冷静な部分を作り出していたのかも知れない。
 言葉で考えない、右脳による部分。
 言葉にならない、疑問。
 
 本人が気がついていない気持ちが、それに起因しているのか。
 
(判らない・・・さっきもなんか、気分が悪くなったし・・・)
 
「どうしたんだよ、アスカ。何か言うこと無いの?」
 アスカは答えられなかった。
 その理由を、自分ですら知らないのにどうして答えられようか・・・・
 
 その沈黙に、シンジは苛立ちは覚えていた。
 苛立ちは、即座に怒りに変換される。
「なんだよ・・・理由なんか無いのに僕の部屋に勝手に入って、隅々まで手を入れてアレを引きずり出したのかよ!!」
 シンジは限界に達しかけた怒りの勢いで、アスカに詰め寄った。
 そして、その直後である。
 
「ごめんなさい!!」
 
 襖の外でマナが声を上げていた。
「ごめんなさい、碇君。私が・・・私がみんな悪いの・・・・」
 涙混じりに、彼女はシンジに向かって、頭を下げていた。
「霧島さん・・・?」
 シンジのその声は、マナのその有様に、怒気が抜けていた。
 
「あ、あたしが言い出したの。えっちな本を探して、そこからシンジ君の女の子の好みを割り出そうって・・・・」
「はあ!?」
 あまりと言えばあまりの理由に、シンジは素っ頓狂な声を上げた。しかし、残る男子二人も似たようなものだ。
「で、最初はアスカも洞木さんも乗り気じゃなかったんだけど、言い合う内になし崩し的に・・・」
「でも、軍・・・・いえ、アスカが指揮を執ったわ・・・・」
 レイのその言葉は、下手をすれば沈静化しかけたその場を再び荒らしかね無かったが、
「あんたは真っ先に入ろうとしたでしょ!」
 アスカが素早く突っ込んでいた。しかし、今なんて言いかけたんだ、レイ・・・?
「で、惣流は本当に碇の部屋からこれが出てきて、ぶちぎれた、と・・・?」
「ううん。アスカがああまでなったのは、もっと後」
「ほな、一体・・・・?」
「・・・シンジ君のあれから、アスカ以外が好みの女の子だって結論がでて・・・」
 マナはその山と積まれた物を指さしていた。その時は、気分良くアスカをからかったが、今となっては・・・・
「へ?」
 トウジとケンスケは揃ってアスカに顔を向けていた。
 ぶすっとした顔に加えて、青筋が浮かんでいる。
 シンジはと言うと、開いた口がふさがっていない。
「本を分類したら、アスカのタイプだけすっぱり無かったわ・・・」
 レイは淡々と話していた。
 トウジとケンスケは『ぼへぇ〜』と呆然としていた。
 シンジもだ。
 つまり・・・・
「つまりだ、話を総括すると・・・」
 ケンスケは言いかけて、思わずため息をついていた。
「・・・くだらん」
 トウジもケンスケと全く同じ意見を持ったようで、彼もまたため息をついていた。
「くだらん、て・・・・!」
 ヒカリは絶句しそうになって、
「それが原因でアスカはあんな事しちゃったんだよ!?」
 語気を上げてアスカを指さす。
「ほなかて・・・・」
 トウジとケンスケはその場を眺めた・・・
 散らばる男の秘密。
 それに起因する、アスカの暴走。
 そして・・・・
「なあ・・・?」
 お互い顔を向けて、すっかり疲れた顔で肩を落とした。
「??」
 ヒカリはそんなトウジ達に疑問符を浮かべている。
 
「結局、ただの夫婦喧嘩ってことだよ」
 ケンスケは苦笑混じりに、だがともすれば決定的なことを言っていた。
「ほんま、つまらんモンに巻き込まれたもんや・・・・」
 トウジはため息混じりに言った。
「「な・・・!?」」
 その言葉に過剰に反応したのは、まあ言うまでもないだろう。
 アスカとシンジは、ボンッと音でもしたんじゃないかと言うくらい、顔を赤くした。
「ば・・・・!!」
 
 ”馬っ鹿じゃないの!?なんでこんな破廉恥な男と!”
 
 だが、なぜかアスカはその言葉を出せなかった。
 
 その変化を、ケンスケは読みとっていた。そして眼鏡を正しつつ、ニヤリと笑う。
「話を総括するとだ、この場を納めるには碇と惣流がじっくり話をすれば良いって事だ」
「せやな。そうすりゃ勝手に収まるやろ」
 そして、二人は踵を返してシンジの部屋からでようとする。
「ちょ、ちょっと二人とも!」
 ヒカリは慌ててそんな二人を交互に見て、困った顔で引き留める。
 二人は肩越しに振り返って、
「いいから、帰ろうぜ。ここからは碇と惣流の問題だし・・・」
 そして、トウジが腕時計を向ける。
「もう、時間も大分遅くなっとるしの」
「でも・・・」
 マナが声を上げて、アスカとシンジを見比べる。
 さっきまでの雰囲気からして、今この二人が話し合いで解決するとは思えなかったからだ。
 しかし、ケンスケ達の眼は確信に満ちていた。
「いいから。多分、今日の問題は収まるはずだよ。ついでに長らく燻っていた問題も、まとめて片づくかも知れない」
「せやな。いいかげん見守るのも疲れたしの」
 そう言って、二人はシンジの部屋から出た。そして、外から振り返ると、
「惣流、男がこの類の物を持つのは、もう仕方がないことなんだ」
「そや、いわば男の性みたいなもんや。それを引きずり出して、碇を吊し上げたところで、誰も責めることなどできん。許してやりや」
 そして、玄関に向かって消えた。
 
 残った女子3人はそれぞれ顔を見合わせると、
「帰りましょうか・・・」
 言ったのはヒカリだった。
「そうね、時間が遅いのは確かだわ・・・・」
「で、でもぉ」
 マナだけは渋っているようだが、
「解決するかどうかはともかく、私たちにすることがないのは確かだと思うわ。だから、帰ろ?」
「・・・・わかったわ」
 そして、ヒカリのそれに同意して、ヒカリ達もシンジの部屋から出る。
「ごめんね、シンジ君・・・ごめんね・・・・本当に・・・・」
 マナの目尻にはまだ涙が残っていた。そんなマナを、シンジはもう責める気持ちにはなれなかった。
「もういいよ、霧島さん。そう思ってくれるのなら、もういいから・・・」
「碇君、私・・・」
 委員長のそれを、碇は首を横に振って押しとどめた。
 今は、マナに言ったことが全てだからだ。
「碇君、大丈夫・・・・?」
「体のこと?それなら大丈夫だよ、綾波」
「そうじゃなくて・・・・」
「大丈夫だよ」
 レイは、シンジの言葉の意味を理解して、
「そう・・・・」
 そして三人とも玄関に向かってリビングから出ていった。
 
 玄関では、トウジ達が待っていた。
「ほな、夜も遅いし、ワシらが送ってっちゃる」
「色々話したいしね」
 3人は顔を見合わせて、
「大丈夫、家近いから・・・それに話なら明日でも・・・」
 ヒカリは力無く微笑んで、手を振った。
「近くも遠くもあらへん。危険は起こるときにはどこでも起こるさかいな」
「それに、今日聞いた方がいいと思うしね」
「えー?なんかあなた達の方が危険そー」
 とは、完全にいつもの調子で言うマナだった。
「な、なんちゅうこと言いよんねん!」
「だってぇ、こんなかわいい娘が揃っているんですもの♪」
「あほんだるぁっ。だれがワレみたいな茶髪オカマを襲うかい!」
「ま、またそれを言うわけ!?」
「ちょ、ちょっと鈴原に霧島さん!二人とも失礼なこと言ってるわよ!」
「どちらも事実だわ・・・・」
「うーん、綾波も結構言うようになったねぇ」
 
「・・・・・・!」
 
「・・・・・!」
 
「・・・・」
 
「・・・」
 
 そうして、いつものペースを取り戻しつつあった喧噪は、やがて紛れて消えた。
 
 
 アスカは全員がでていったのを気配で知ると、シンジに視線を向ける。
「あ、あのさ・・・・」
 顔が赤いのは引いたが、何となく決まりが悪くて言葉が巧く言えない。
「う、うん・・・」
 シンジも同じ様で、先ほどまでの怒りや勢いは、欠片もない。
 アスカはこのまま沈黙してしまいたい欲求に駆られたが、
「とりあえずさ、リビングに行こ・・・?」
「・・・・うん」
 
 
 そして、シンジとアスカは、リビングのカーペットの上で
向かい合って座っていた。
 時刻は既に、十時を回っていた。
 二人とも、食事を済ませていなかったが、シンジは外出から帰ってきてするべき事だけして、すぐにアスカの前に座っていた。
 だが、こうして向かい合ってから、既に十分ほど無言でいた。
 
 シンジは、考えていた。
 アスカの行動を。
 マナの言葉に誘われて、自分の好みの女の子を知るという名目で、アレを引きずり出した。
 そしてその結果、アスカは除外だったと、彼女らは結論づけた。
 そして、もっとも不可解なのは、アスカがそれに腹を立てていることなのだ。
 
 
 どうして、アスカはあんなに怒ったんだろう・・・?
 
 
 よくよく考えてみれば、アスカが自分の秘密を目撃したところで、軽蔑こそすれ激怒するなんてのは、あり得ないことだった。
 シンジも、そのことに気がついていた。
 
 
 なぜ・・・?
 
 
 そして、同じく判らないでいる。
 
 ただ、一つ違うのは、シンジは自分の気持ちに気がついていたことだ。
 
 シンジの気持ち、それは・・・・
 
「アスカ」
言葉は、シンジから始まった。アスカもまた何か思うところがあったのか、体をピクリと震わせて、シンジに顔を上げていた。
「なんで、あんなに怒ったの?」
「なんでって・・・・」
「だって、アスカには関係ないだろう?僕があんな物を持っていても、怒る理由なんか無いじゃないか・・・どうして?」
 シンジは同じ質問を出していた。
 さっきは、答えられないアスカに業を煮やしたが、今は静かな眼で見守っていた。
「それは・・・」
 だが、アスカは言い淀んだ。
 しかし、シンジは静かに待った。
 おかげで、アスカにもおぼろげながら、見えてきたことがある。
 シンジがそれを持つことも、その中身を検証した結果も、自分の胸の中で不快感が渦を巻くのだ。
「気分が悪くなるからよ」
 アスカはそれを認めていた。
「どうして、気分が悪くなったの?」
「それが分かれば、苦労しないわよ!」
 苦労・・それはつまり、
「アスカ・・・苦しいの?」
 
 とくん・・・
 
 アスカはシンジが優しげに投げかけたその言葉で、確かに心臓が跳ね上がったのを覚えていた。
「苦しいなんて事は・・・!」
 アスカは強がっているが、頬を上気させている。
 
 どうして、アスカが怒ったのか。
 彼女自身、完全に気がついていない答えを、シンジはある推測を立てていた。
 まさか、あり得るとは思っていなかったが、今がそれを確かめるチャンスだと、おもった。
 そして、
 
「ごめん」
 
 シンジはアスカに謝っていた。
「え・・・・?」
「ぼくが、アスカを苦しめていたんだね・・・アスカの気持ちにも気がつかずに」
「あたしの・・・気持ち?」
 
 
『だって、その本人が気がついていないじゃない』
 
 
 レイの言葉が不意に頭をよぎっていた。
 
「あのさ、マナが僕のアレから好きな女の子のタイプを推測するって言ってたけど、それって多分無理だよ」
 シンジは方向を変えて話していた。
「無理・・・?」
「うん。他の人はどうか知らないけど、その・・・なんていうか、逆にそう言う対象にならないんだ」
「?」
 肝心な言葉が抜けているため、アスカは意味が分からず疑問符を浮かべるだけだった。
「なんか、そう言うことをしようとしても、罪悪感の方が強くて、する気になれないんだ・・・」
 もしかしたら、とは思う。
 だが、怖くもある。
 それまで、時折シンジを葛藤させていた事。
 
 しかし、今がそれの答えを知るチャンスなのだ。
 
 シンジは意を決した。
 
「好きな女の子を汚しているみたいな気がするんだ」
 
 ながらく、燻っていたその気持ち。
 
 言っちゃった・・・・
 
 言ってシンジは顔を真っ赤にしていた。
 シンジの顔が赤いのに気がついたが、アスカはそれは気にしないで、
「そういう・・・物なの?」
 先ほどからでている決定的な言葉の意味に気がつかず、そんなことを聞く。
「うん・・・僕はね。でも、トウジ達も気がついたみたいだから、多分そう言う物何じゃないかな?」
「へえ・・・・」
 と、納得しかけて、アスカは気がついた。
 
「好きな女の子はならないっ?」
 
「・・・うん」
 シンジはさらに顔を赤面させて、俯いてしまった。
「・・・・」
 アスカもそれに負けないくらい、全身を真っ赤にしていた。それこそ先ほどの時とは違う意味で弐号機がそこにいた。
「ねえアスカ」
 顔面は火照ったまま、恐る恐るシンジは聞いた。
「やっぱり、気分が悪い・・・?」
 それを言われたアスカは、ハッとなってシンジの顔を見ていた。
 驚いたような、だが真剣な眼差し。
「・・・悪く・・・無い」
 アスカは僅かに唇を動かして、シンジに答えた。
 応えたのだ、シンジに。
 シンジはホッと息をつくと、
「よかった・・・」
 そして微笑んだ。
 弱々しい彼が見せる、優しい笑顔は、自分の気持ちに気がつき始めたアスカにとどめを刺した。
 
 あたしの気持ち・・・それは・・・
 
 だが、それを頭の中で言葉にする前にする事があった。
「・・・・ねえ」
 アスカは頬を赤くしたまま俯いて、しかし上目遣いでシンジを見た。
「うん?」
 そんなアスカにドキドキしながら、シンジは答える。
「じゃあさ、ちゃんと言ってくれる・・・・?」
 普段の彼女からは考えられない、消え入りそうな声でアスカは言った。
「ちゃんとって・・・・うん」
 シンジは恥ずかしそうに言いよどんだが、今更迷う理由はない。
 
 シンジの気持ち、それは・・・
 
「僕は、アスカのことが好きです」
「うん。それで?」
 
「恋人に、なってくれますか?」
 
 
 あたしの気持ち・・・それは・・・
 
「いいわよ!」
 
 碇シンジが、好きってことだったのね・・・・
 
 アスカは今、はっきり確信していた。
「あんたの恋人になってあげるわ!」
 全くいつもの調子でいいながら、だがアスカは笑顔だった。
「ありがとう、アスカ・・・・」
 二人は少しお互いみつめあって、
「でも、条件があるわよ」
「へ?」
 アスカは突然そんなことを言いだしていた。
「まあ、大体想像がつくでしょうけどねー」
 
 はい。
 
「ま、まさか・・・」
 シンジは、思わず自分の部屋に顔を向けていた。
「そ!アレは全部処分するのよ!」
「ううっ・・・!」
 シンジは顔が引きつるのを覚えていた。
 もちろん、そんな事はアスカも気がついていた。
「なによ、あたしみたいな恋人が出来るのに、未練があるなんて言うんじゃないでしょうね!!」
「そ、そんなことはないけど・・・・」
 シンジはしどろもどろだった。
「必要なの・・・・?」
「ぎく」
 ずばり、『YES』なのだが、それをはっきりと言うほど、彼も愚かではなかった。
 そんな小さな葛藤をシンジは抱え、そしてアスカも気がついた。
「だーいじょうぶ!」
 アスカはそう言いながら、シンジに抱きついていた。
「そんな必要なくなるからね!」
「ええ!?」
 シンジは思いっきり狼狽していた。
「あ、アスカ、自分が言っていること判って・・・むむむ!?」
 狼狽するシンジの唇を、アスカは自分のそれで塞いでいた。
 二回目のキス。
 だが、鼻を塞がないキス。
 二度目だけあって、アスカは躊躇しなかった。
 
 しかし、やはりこそばゆい。
 だが、すぐに止めたくはない。
 
 何かに集中して紛らわせないと・・・
 
 そう思ったアスカは、自然と口を開いて、自分の舌をシンジの口に差し込んでいた。
 びっくりしたのはシンジである。
 いや、キスをされた時点でかなり驚いていたのに、さらに舌を入れてきたのだから。
 だが、それが何であるかは、例のアレで知っていたので、それに習って自分の舌も絡めた。
 
 おかげで、キスはさらに十分以上に及んでいた・・・・。
 
「ぷはぁ!」
 終わらせたのは、シンジからだった。
「あ、あああああの、アスカ?」
「うん・・・・?」
 アスカはキスの余韻でうっとりとした声で答える。
「さっき言ったこと、本気?」
「うん・・・・今はまだ早いけど、ね」
「アスカ・・・・」
 そして、今はただ微笑み会う二人だった。
 
 
 次の日の朝、コンフォート17の共同ゴミ捨て場に、新聞紙で梱包された本類がゴミに出されていたのだった。
 
 
 そして、学校の屋上・・・・
「エロ本が取り持った仲か・・・・」
 ベランダに寄りかかって、ケンスケは感慨深げに、呟いていた。
「まったくや・・・ほんま、世の中何がどうなるか・・・」
 
 
「判らないわねぇ」
 同じ屋上の、別の一角でヒカリが、その光景を横目に、一人箸を口に運んでいた。
 
 ヒカリの隣で弁当を食べているのは、シンジとアスカ。
 
 弁当箱は、一つ。
 箸も、一つ。
 
 昨日までなら、そんな事態になろう物なら喧嘩が勃発するところなのだがその弁当箱、かなり大きい。
 
 ヒカリはため息をついた。
 
 二人(と言うよりアスカ)はすでに恋人同士となったことを宣言していた。
 さらに詳しい話は、ヒカリ達も聞いていた。
 
「あ、この卵焼き、かなりおいしいんじゃない?」
「うん、今日は自信があったんだ♪」
「ねえ、もう一個ちょうだい」
「うん。じゃあ、あーんして」
「はーい♪」
 
 はむっ
 
「ああん、おいしーい」
「ありがとう、アスカ」
 しっかし、この変わり様たるや・・・・
 
 ヒカリは、思った。
 まさか、これからもこんな光景が続くのではないだろうか・・・・と。
 そして、ヒカリのその眼に、ある種決意のような光が輝いていた。
 
 
 放課後・・・・
 
「ここね・・・・?」
「うん」
「でも、本当に良いの?」
「いいの。やってちょうだい・・・いえ、やって下さいっ軍曹殿!」
 ヒカリは決意も固く、敬礼していた。
「ヒカリ・・・よし、それじゃあ作戦を説明するわ」
 アスカは鈴原家の前で整列する三人に振り返った。
 マナと、レイと、そしてヒカリ。
「まず全員で鈴原の身柄を拘束。終わったら私と洞木二等兵、そして綾波・霧島両二等兵の組みで、鈴原の自室を捜索。一つ一つ潰してゆくのよ! まずはベッド周辺。続いて机。机に関しては引き出しの裏まできっちり手を入れること。そして最終的には押入群も全てひっくり返すのよ!わかった!?」
「「「ウィーゲッチューサー!」」」
 三人は揃って復唱した。
「発見したブツについては、全て洞木二等兵に一任するわ」
「サーイエッサー!」
「今回、洞木二等兵の門限が7時になっているから、捜索限界時間は3時間半。それまでに片をつけるのよ!」
 
「それでは時計を合わせるわ。現在一五二三まで十秒・・・・・・・・・あわせて!」
 三人は同時にリューズを押した。
「いいことっ?命をくれてやるつもりで望むのよ!!」
 そして、鈴原家に振り返って、トウジの部屋を見上げる。
「アスカ愚連隊、突入!」
 
 
アスカは戦い続ける。
そして勝利する!!
 
 
―完―
 
 
 
 
 
「なんで、僕まで・・・・」
 碇シンジ参謀は、そんな彼女らの後を追いながら、涙していたとさ。
 
 
 
 
ホントに完

あとぐぁき
 さて、と・・・対空機関砲(バルカンファランクス)は・・・おや!?
 失礼、もうあとがきでしたか!
 ちょっとマナ・アラクニドの襲撃に備えていたモノで・・・
 なんでも、マダマニアウサ様のご自宅が蒸発したとか何とか・・・おそろしや、おそろしや。
 
 ええと、今回もまた判らない人には絶対に判らないネタをちりばめてしまいました。
 
 元のネタは映画『スターシップトゥルーパーズ』です。
 前半、少々しつこかった気もしましたが、この映画を知っている方には楽しんでいただけるんじゃないかなぁ、と。
 ちなみに、dts仕様のDVD版は勝手な設定ですので、探しても多分ありません(もしあるのなら、欲しいのでご一報下さいね♪)。
 
 『茶髪オカマ』に関しては・・・ごめんなさい、あまりに面白かったのでつい使ってしまいました。マダマニアウサ様、すいませんでした。
 
 ちなみに、シンジのアレの隠し方は、まんま私の(以下削除)。
 そう言うわけで、どこか生々しいLAS作品になってしまいました。
 
 今回、この作品と平行してMIDIも作ってたんで、本当に大変で、もー疲れました。
 長期連載も計画しております。既に第一話はできあがっているのですが、話の整合性を確保するため、第二話が完成するまで公表は見合わせています。
 しばらくお待ち下さい。
 
 それでは、またご指摘・ご感想・文句・苦情などございましたら、お気軽にお願いしますね。
2000.5.31修正
2000.5.27完成


アスカ:アンタのせいで、シンジに怒られたじゃないのっ!

マナ:だから、わたしはちょっとおちゃめで・・・(^^;;;

アスカ:アタシまで除きみたいに、怒られてどうしてくれんのよっ!

マナ:怒られた、怒られたって・・・。怒髪天モードに突入したのは、アスカの方じゃない・・・。(ーー;;;

アスカ:あったりまえでしょうがっ! あんなのいっぱいっ!

マナ:自分に似た写真が無かったから、怒った癖にぃ。

アスカ:まったく・・・。まぁ、もう全部捨てちゃったからいいけどね。

マナ:ところでさ、まぁシンジもおっとこの子なんだから、あんな本くらい持ってても不思議じゃないけどね。

アスカ:まぁねぇ。それもわからないではないけどね。

マナ:これなに?

アスカ:なにそれ?

マナ:シンジの部屋から、1枚だけ持って帰ったの・・・。

アスカ:シンジの部屋にそんなのあったのぉっ?

マナ:うん。ちょっと不思議だったから、相田くんに誰の写真か聞いたんだけどさ。知らないって。

アスカ:アタシも知らないわよ。誰よそれ。

マナ:さぁ・・・。銀髪の赤い瞳の男の子なんて、いたかしら? なんで、お風呂に男の子が入ってる写真なんか・・・。

アスカ:なんか危険な・・・。女の子の裸の写真持ってた方が・・・安心するわね・・・。
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