そこには二人しかいなかった。 目の前に広がる海。 普通の海じゃない海。 彼は隣りにいる少女を見た。 この少女さえいなければもう自分を傷つける者はない。 彼が選んだこの少女も必ず自分を傷つける。 彼の手は無意識にその少女の首にかかった・・・そして締めた。 もう少しで少年は永遠に一人になれるとこだった。 もうすぐ自分以外なにもない世界を・・・それを手に入れられるはずだった。 少年と少女の始まり by ころすけ 「げほっげほっ」 少女は空気を求めて全身で呼吸しているようだった。 少年はそんな少女の横でぼーぜんと自らの両手を見つめている。 少年はその空虚な心のなかで自分に問いかけていた。 (・・・・なぜ?なぜ僕は手を離してしまったんだ?もう少しで手にはいるはずだったんじゃないの?僕を苦しめる者のない永遠の世界が。・・・何故?なぜ?) そんな少年の姿をやっと呼吸を整えた少女は気にもしていないようだった。 お互いなんの言葉もなく永遠とも思える時間が過ぎていく。 少年は自分の中の自分に問いかけており、自分の殻に閉じこもっていた 少女はそんな少年は眼中にない様子で、自分の記憶のあやふやな部分を思い出そうと必死だった。 (私はママと一緒に戦っていたはずなのに。 なぜこんな世界にいるの?わからない。 ママはどこ?わからない。 なぜこんなやつと二人きりなの?わからない。 わからない。わからない。あ〜もう!) 「ちょっと!」 「・・・・・・・。」 「ちょっと!聞いてるの!」 「・・・・・・・・・・・・。」 「無視するんじゃないわよ!」 「・・・・うるさいな。」 「何よ!しゃべれるじゃない!」 「・・・・・・・・・。」 「暗いわね。ところでここどこよ。普通じゃないわよ。ここ。」 「・・・知らない。」 「あっそ。ところであんた誰?」 「えっ?」 「だからあんた誰なの?」 「お・・ぼ・えてないの?」 「知らないわよ。何であたしが初対面で首を絞められなくちゃいけないのよ!犯罪よ。犯罪。まさか!あんた変質者なの?近寄らないでよね。気持ち悪い。」 「近寄らないさ。僕はもう誰にもね。」 「なんか暗すぎよね。あんたって。」 「ははっ。初対面って言う割には言いたいほうだいだ。」 「まあ、そういう性格だから仕方ないわね。」 「・・・・変わらないね」 「ん?何か言った?」 「別に。」 「あんたね〜。そんな顔して「別に。」なんて言ってさ。かまって下さいって言っているようなもんじゃない。そうとしか見えないわよ。」 「そんなつもりじゃないよ。僕はもう誰にも心を開かないって決めたんだ。」 「誰にもって私しかいないじゃない。他の人達はどこに行ったの?ここにはどこを探しても私たちしかいないの?ねえ。どうなのよ!」 「たぶん。みんなこの海に消えちゃったんだよ。残ってるのは僕たちだけさ。きっとみんな幸せだよ。そして僕だけが不幸なんだ。」 「はぁ〜?あんたバカァ。自分だけが不幸なんていうのは子供かバカだけよ。あんたはバカの方ね。」 「僕の何がわかるって言うんだよ!」 「わからないわよ!でもここにいるのは私とあんただけなんでしょ。もう片方がこんなんじゃあんたと私どっちが不幸かわからないくらいよ。でも私は不幸じゃないわ!生きてるもの。こんな海になって自分を自分と感じれないなんて冗談じゃないわよ。だから少なくともこの海になっちゃってる奴らより幸せ。つまりあとはあんたと私しかいないんだから私はすごく幸せってことね。」 「・・・・・ぷっ。むちゃくちゃだよそれ。」 「おっ。笑ったわね。ちゃんと笑えるじゃない。でも後ろばっかり見ていても前には進めないわよ。」 「ふぅ〜っ。僕は僕が嫌いだった。だからみんなが僕を嫌いなのも仕方ないと思ってた。」 「それで。」 「だから逃げたんだ。だれもいない世界。僕だけの世界。だれも僕を傷つけない世界を望んだ。」 「それがこの世界ね。でもどうして私はあんたといるの?」 「それは僕にもわからない。ただ僕に関する記憶は消えているみたいだから、半分は望み通りなんだろうね。」 「でも、わたしだけ人として残ったのよね。ひょっとしてあんた私の彼氏?」 「違うよ。どっちかというと憎まれていた方だね。」 「げっ。まじ。私ってそんなつまんないこと思ってたの?」 「そうだね。僕はひどいことをしたから」 「いったい私になにしたのかそれは知らないわ!でも・・・許してあげるわよ。」 「許す?」 「そうよ。許してあげるわよ。」 「いいの?」 「だって私は覚えてないもの。覚えてないことで人を憎むなんて出来ないし、それに2人しかいないのよ?憎んでなんていられないじゃない。だから許してあげるわよ。」 「・・・・・・・ヒック」 「ちょ、ちょっと何で泣いてるのよ。いきなり何なの?」 「うれしいんだ。僕を許してくれたことが。僕はその一言を誰かに言ってもらいたかったのかもしれない。そして今それを聞くことができたんだ。」 「おおげさね。でも好きなだけ泣いてもいいわよ。」 「うん。ありがとう。」 (でも、少しこいつの見方がかわったかな?) 「もうそろそろ泣きやんだ?」 「うん。もう大丈夫だよ。」 「それでこれからどうするの?」 「そうだね。何も考えてなかったな。」 「あんた。この世界をつくったんでしょ。何かないの?」 「う〜ん・・・。」 「う〜ん・・・って。住むところとか食べ物とか色々あるでしょ。どうするの?」 「自給自足・・・」 「え〜っ!まじ。」 「だってそれしかないんじゃないかな。」 「ま、まあ他に案がなければ仕方ないわね。」 「ぷっ!ははははは。」 「な、なに?なんで笑うの?」 「ごめん。農業なんて似合わないって思ったというか、農作業してる姿を想像しちゃって。」 「か、かなり酷いこというわね。」 「ま、まあまあ。それより僕の話をきいて欲しいんだ。」 「なに?いきなり真剣な顔して。」 「僕が逃げたことでこの世界が出来たって話はしたよね。」 「聞いたわよ。周りがこんなんじゃ信じないわけにはいかないでしょ。」 「だからもう一度世界を作り直してみようと思うんだ。」 「えっ?」 「僕が逃げる為の世界じゃない。 僕が傷つかないための世界じゃない。 みんながそして自分が自分の意志で生きていける。 そんな世界を作りたいんだ。」 「どうやって?」 「それはわからない。」 「わからないって・・・・・」 「でも。あきらめちゃ駄目なんだ。」 「・・・・」 「それにひょっとしてって考えもあるんだ。」 「どうするの?」 「ATフィールドを張るようにみんなに呼びかけるんだ。」 「ATフィールドって誰にでも張れるもんじゃないでしょ?」 「人間は誰もATフィールドを持ってるんだ。ATフィールドは心の壁なんだ。これが人間1人1人を分けていたんだ。今みんながATフィールドを無くしてるから区別が出来なくなってるんだ。だから、みんながATフィールドを張って自分個人を形成していたことを思い出せば。心の壁を作れたら。みんながこの海から帰ってくると思うんだ。」 「でも、もしそうだとして、それをどうやって成功させるの?」 「とにかくやってみるよ。」 少年はそう言って目の前の海に入っていった。 そのままたたずんでいると周りから波紋がひろがっていく。 少年の周りからの波紋が海の全体を覆っていく。 そうしてどれくらいの時間がたっただろう? 1人また1人海から帰ってきた。 少女と少年が願ったように。みんなが帰ってきた。 が。 少女が驚きに目を見開いた。 「あんた!存在が薄くなってる!どうして?どうなってるの!」 「ごめん。予想はしてたんだけど。僕のATフィールドでみんなに干渉したせいかな。僕のATフィールドが保てないみたいなんだ。わかってたことだから。」 「あんたバカァ!前向きにあきらめないって言ったじゃない!」 「これは自暴自棄とか後ろ向きとかそういうことじゃないんだ。僕がこの世界を作ったのは後ろ向き。でも今のこれから作りたいとおもった世界は前向き。全然違うんだ。だから僕は僕の存在が消えたとしても満ち足りた気持ちで消えることが出来るよ。」 「あんたそれでいいの?」 「泣かないで。僕はいつも側にいるから。ね。」 少年はそういって少女が今まで見たこともないような綺麗な微笑みを浮かべた。 「唯一の心残りは僕のこと忘れられたままってことだけかな?」 「えっ?」 「思い出せない?」 「そ、そんな急に言われたって。私だって忘れたくて忘れたんじゃないわよ!」 「うん。その言葉で十分かな。じゃあ、行くね。」 そういって少年は消えた。 あとに残された少女は時間と共にやがて全て思い出した。 「どこにいったのよ!ばか・・・。寂しいじゃない。」 「(僕の心はいつも側にあるよ・・)」 Fin
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