「何でアタシがアンタと一緒に隠れなきゃいけないのよっ!?」

「じゃあ一人で違うとこ行けばいいだろっ!」

「アンタが行けばいいじゃない!」

「嫌だよ!下手に動いて見つかったらシャレになんないじゃないかっ!」

「アタシだってそうよ!」

「フン!・・・・・・・」

「フン!・・・・・・・」


・・・・・この一週間、何度こんなことを言い合ったのだろう・・・。


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シンジとアスカの逃避行

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<一週間前>

いつもと変わらぬ様子で朝食を終え、いつもと変わらぬ朝を過ごしていた二人の前に、

いつになく真面目な表情をしたミサトが、二枚のカードをテーブルの上に差し出した。

「何ですか?これ・・・・・」

「アンタバカァ?クレジットカードに決まってるじゃないの。」

「いや、それくらいわかるけど・・・」

「で、何なの?これで買い物でもしろっての?ミサト・・・・」

アスカがそう言って見たミサトの顔は、使徒との戦いを彷彿とさせるほど、真剣なものだった。

二人はそんなミサトの様子から、只事ではないと気付き、黙ってミサトの言葉を待った。


「・・・・・・ネルフとゼーレが合併したのは、知ってるわね?」

「は・・・はい・・。」

「合併って言っても、事実上、ネルフが吸収されちゃったんでしょ?」

「ええ・・・そうよ。つまり今、私達の組織で最高の権限を持つのは、碇司令ではなく、ゼーレの幹部達になったってこと。」

「それが・・・どうか、したんですか?」

「・・・・先日、ゼーレの幹部会議で、今後、全てのエヴァは有事の際において、ダミープラグによって、

稼動させることが決議されたわ・・・。」

「・・・え?・・・それって・・・」

シンジの言葉を遮って、アスカが口を開いた。

「もう、アタシ達はエヴァに乗らなくていいってこと?」

「・・・・そう・・そういうことになるわ。いえ・・・それだけならよかったんだけど・・・

その決議に付随して、こんな命令が出されたの・・・・『エヴァンゲリオンのパイロットは、

ゼーレの責任下において、速やかに殺害せよ』・・・・・ってね・・。」


「「・・・・・・・・・・・・・え?」」


一瞬、二人は自分の耳を疑った。しかしなお、ミサトは続ける。

「・・・・今現在、あなた達パイロットは唯一、人為的にエヴァを操作できる人間・・・・。そんな人間が、

ネルフ側にいる以上、いつ、ネルフがエヴァを使って、謀反を起こさないとも限らない・・・・したがって、

ゼーレにとっての不安要素は、即刻、抹消せよ・・・・というのが、ゼーレ幹部の見解なの・・・。

まだ、ゼーレはネルフを信用してないってことね・・・。まあ、合併前の関係を考えれば、当然かも知れないけど・・・」


「そ・・・・そんな・・・・・・。」

「嘘・・・・・でしょ?」


愕然とするシンジとアスカ。


しかし、これが嘘などではないことは、ミサトの態度から、容易に推察できる。


だが、信じられなかった。信じたくなかったのだ。


「・・・で、ゼーレとネルフが一つになってる今、私も立場上・・・あなた達を殺す側の人間なんだけど・・・・」

ミサトがそう言った時、二人は思わずびくっとした。

「・・・・・・・心配しないで。」

「「えっ?」」

「・・・・私が、ずっと一緒に暮らしてきたあなた達を、殺せるわけないでしょう?だから・・・・・」


ミサトはそう言うと、先にテーブルに置いた二枚のカードを二人に手渡した。

恐る恐るそれを受け取る、シンジとアスカ。


「・・・・・それを使って・・・逃げてちょうだい。」

「・・・逃げる・・・?」

「そう・・・・。今頃、碇司令は、幹部陣に対して、殺害命令取り消しを必死に訴えてるわ。

もし、これが受理されたら、あなた達は殺されずに済むわ・・・。だから、それまで逃げて・・・・。」

「・・・・父さんが・・・・」

「そう・・。ネルフ側のスタッフは、皆、この命令に反対してるのよ・・。ずっと一緒に戦ってきた子供達を、なんで

殺すんだ、ってね・・・。だから、命令取り消しが受理される可能性も・・・あるにはあると思うの。だからそれまで、

逃げて・・・。私も内部から、ゼーレの動きを抑制しておくから・・。」


「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

二人は沈鬱な面持ちで、ミサトの話す内容に耳を傾けていたが、ネルフの皆は自分達の味方なんだ、

ということを知ると、少し、落ち着いてきた。

「・・・・・アスカ、どうする?」

「・・・・・・決まってるでしょ。・・・・生き残ってやるわよ・・絶対、死んでたまるもんですか。」

「・・・・・僕も同感だよ。」


「いいのね・・・・二人とも。」


こうして、いつ終わるとも知れぬ、二人の逃避行が始まったのであった・・・・。


<箱根山>

あれから一週間もの間、二人は第三新東京市周辺をひたすら逃げ回った。

これは、下手に遠くに逃げようとすると、動きが目立って見つかる、というアスカの判断によるものである。

実際、幾度か追っ手に捕まりそうになったものの、死に物狂いで振り切ることに成功していた。


そして今二人は、箱根山の麓の、少し窪んだ洞窟のような所へ身を潜めていた。


「今、何時?」

不意にアスカが尋ねる。

「0時5分・・・・そろそろ眠くなってきたな。」

寝転びながら、シンジが答える。

「アンタってつくづく呑気ね・・・・アタシなんか気が張ってて、全然眠くならないってのに・・・」

「そんなこと言われても・・・・・眠いのはしょうがないじゃないか。」

そう言いつつあくびをするシンジに、アスカは少々呆れ顔。


「・・・・そういえばさあ、ファーストもやっぱアタシ達みたいにこうして逃げてんのかなぁ?」

「う〜ん・・・どうかなぁ。でも、零号機はもうないんだから、綾波は別にいいんじゃないかな?」

シンジがそう答えた時だった。


「・・・・・・・・・・・」


「!?」

はっと、シンジが上体を起こした。

「どうしたの?」

「いや、今、人の声が聞こえたような・・・・・」

「嘘!?もう来たっての!?」

「わかんない・・・・それに・・」

そこまで言って、シンジは口を止めた。

「・・・・・何?」

「いや、ごめん・・・何でもないよ。」

シンジはそう言って、ゆっくりと、洞窟から顔を出し、辺りを見回した。


・・・・まさか・・・な・・・・。


シンジは信じたくなった・・・・いや、信じる気になれなかったのだ。

今聞いた声が、自分にとって、聞き覚えのある、あの声だったなんて・・・。


しかし、シンジのそんな思いとは裏腹に、現実は、残酷な真実を二人の前に指し示す。


「こっちだ!!いたぞ!」


その声とともに、二人に照らされるライト。


「・・・・・・・え?」

今度の声は、アスカにもはっきり聞き取れた。


・・・・・そして、瞬時に頭の中に、声の主の姿が浮かび上がる。

その姿は、今、目の前に映っている影に、重なった・・・・・。


「・・・・青葉・・・・・さん?」

シンジは見てしまった。

目の前でライトを照らしている、その人影の姿を・・・・!


「・・・・嘘・・・・・・・」

呆然とするアスカ。


「よし、捕まえろ!」

青葉の声とともに、後ろに潜んでいたと思われる黒服の男達が、洞窟目掛けて走り出す。

「アスカッ!!」

シンジはすぐさま、まだ状況を信じ切れていないアスカの手を引き、洞窟を飛び出した。

そしてなるべく、黒服達から離れるように走り出した。


「・・・・・・・・・・!」

走りながら、シンジは唇を噛み締めた。

・・・・何で・・・・・何でだよ・・・・・・!



「威嚇発砲を許可する!!」


「「!!??」」

二人は一瞬、空耳か何かかと疑った。・・・・いや、疑いたかった。


「シ・・・シンジ・・・・今の・・・・・」

「・・・・・・・・・・。」

シンジは無言で頷く。

「何で・・・・・・・・?」

もう、何がなんだかわからないアスカ。

・・・・だが、今の声は紛れもなく、日向のものであった。


パーン! パーン! パーン!


「「!!」」


二人は一瞬、身をすくめた。だが、立ち止まるわけにはいかない。


幸い、弾丸は命令通り、ただの威嚇だったらしい。

だが、この次の保障はない。


二人は走った。

息が切れ、足がもつれ、転びそうになっても、走り続けた。


<第三新東京市内>

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

「ぜえ・・・ぜえ・・・ぜえ・・・」

暗闇に包まれている路地裏に、二人は倒れこんでいた。


「・・・・・・もう嫌・・・・・・。」

アスカがぽつりと呟いた。

「・・・・・・・・・。」

シンジは無言で、空を見上げていた。


昨日までの追手は、見たことも会ったこともない人間ばかりだった。

だからおそらくは、ゼーレ関係の者達だろうと思っていたのだが・・・。


よく考えてみれば、ネルフにも、二人が知らない人間など、たくさんいる。

むしろ、その方が多いくらいだろう。


それでも、一週間前のミサトの言葉を信じて、『ネルフは味方』と信じて、

今まで逃げてきたのに・・・・・。

たった今、青葉と日向の存在を確認したことで、そんな思いは完全に、打ち砕かれてしまった。


・・・あんまりじゃないか・・・・・・。


シンジは泣きたくなった。

だが、泣くわけにはいかなかった。


・・・・自分の隣で、疲れ果てている少女に視線を向ける。


・・・アスカだけは・・・・。

シンジは固く、決意していた。

アスカは、心神喪失の状態から立ち直り、今までと変わらない日常を過ごせるようになっていたのだ。


・・・・・せっかく、元通りになれたんだ・・・・・


シンジは、何がどうあっても、アスカだけは死なせたくなかった。


だから今ここで、涙を流すわけにはいかない。


ぎゅっと涙をこらえ、立ち上がる。


その時だった・・・・。


「あらあら・・・もうギブアップかしら?」

目の前に、人影が浮かび上がった。


・・・シンジは、我が目を疑った。これは夢じゃないか、とも思った。

・・・・だが、現実だった・・・・・。



「・・・・・・・・リツコさん・・・・・・・・。」


シンジが呆然とした表情で、目の前に立っている人物の名を呼ぶ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

アスカはただ無言で、リツコに視線を向けている。

そんな二人の視線をあざ笑うかのように、不敵な笑みを浮かべるリツコ。

「それじゃあ・・・・・・ゲーム・オーバーね・・・。」

シンジは見た・・・リツコの背後の幾人もの人影を。

そしてその中にいる・・・・・マヤの姿をも。


「くそおおおっっ!!!」


シンジはアスカの手を引き、脱兎のごとく、リツコ達とは反対の方向へ駆け出した。


「無駄よ・・・・・そっちへ行っても・・・。」

落ち着いた、リツコの声が聞こえた。

だが、聞いてはいられない。


シンジはアスカを無理やり引っ張るような形で、路地裏を飛び出した。

しかしそこで、急停止を余儀なくされた。


こちら側へ、拳銃を向けている人物がいたために。


そしてその人物は・・・・・・シンジにとっても、アスカにとっても、今一番会いたかった人物でもあり、

また、今一番会いたくなかった人物でもあった。



「・・・・・・・・・・・・嘘だ・・・・・・・・・・」


シンジはふっと力が抜け、地面にへたりこんだ。


「・・・・・・・・・・・・なんで・・・・・・・・?」


アスカもシンジと同様に、地面に膝を着けた。


「・・・なんで・・・・・・なんでよ・・・・・・?」


アスカの目から涙がこぼれた。


「なんで・・・・なんでアンタがここにいんのよっ!?」


吐き捨てるようにアスカが叫んだ。


シンジとアスカに向けて、オートマティックの拳銃を向け、微笑を浮かべている人物。






それは・・・・・・・・・・ミサトだった。




「なんで・・・・・・・ミサトさんが・・・・・・?」


もはやシンジには、現実を現実として処理できる能力は残っていなかった。


「だから言ったでしょう・・・・・無駄だって・・・。」

そう言いながら、リツコが路地から姿を現した。

黒服の男達と共に、二人の背後に立つ。

無論、マヤも一緒である。


「全く・・・・・手間かけさせてくれたなぁ。」

そう言いながら、広い道路からゆっくりと歩いてきたのは青葉。

その隣には日向。そして背後にはやはり黒服の男達。




そして、冷笑とも言える表情を浮かべたミサトが、口を開いた。



「久しぶりね・・・・・二人とも・・・。」



「・・・・・・ずっと・・・ずっと・・騙していたんですか・・・・・・?」

シンジは憎悪の視線をミサトに向けた。


しかし当のミサトは、心外だといった風な表情を見せた。

「そんなわけないじゃないの・・・・・私は確かにあなた達の味方だったわよ?

ただし・・・・・一週間前までだけど・・・・・。」


「・・・・・・・・じゃあ、どうして・・・・・・?」


「・・・簡単に言うと、買収されちゃったのよ。」



「・・・・・・・・・・・・・!」



「だって、あんた達を始末するだけで、二階級特進に平素の五倍のボーナスよ?

これは見逃せないじゃない?人として・・・・・・。」


淡々と話すミサト。


「何が・・・・人ですか・・・・・・!」

シンジは拳を握り締める。

「・・・ま、私だけじゃないわよ?ここにいる皆、そうなんだから・・・。」

ミサトはそう言うと、シンジとアスカを取り囲むネルフのスタッフ達を見回した。

皆、顔色一つ変えず、シンジ達二人に視線を向けている。



「・・・・・・・アンタ達・・・・・最低よ・・・・・・・。」

ずっと黙ってミサトを睨みつけていたアスカも、口を開いた。


「・・・ずっと・・・・ネルフの皆は味方だって・・・思ってたのに・・・」

アスカの声は震えていた。・・・・・そしていつになく、弱々しかった。


「・・・・・・・それに・・・・・ミサトのこと・・・・ずっと・・・家族だと思ってたのに・・・・」

そこまで言って、アスカは視線を下に向けた。

もうこれ以上、ミサトの顔は見たくなかった。



「家族、ねぇ・・・・・。ま、楽しかった家族ごっこのことなんか、とっとと忘れちゃいなさい・・・。

で・・・最後に、遺言でもあるかしら?あれば、聞いといてあげるけど?」


微笑を浮かべるミサト。


「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・。」


二人とも、すぐに言葉が出なかった。


「ないのかしら?」



ミサトが念を押した後、シンジがゆっくりと口を開いた。


「・・・・・・・・・あります。」


「あら・・・・・・何かしら?」


「・・・・・・ミサトさんにじゃないですけど・・・・・。」


シンジはそう言うと、顔をアスカの方へゆっくりと向けた。


「アスカ・・・・・・・君に言いたいことがあるんだ・・・。」


「・・・・・アタシに・・・・?」


消え入りそうなアスカの声に、シンジは無言で頷く。


「・・・・・・こんな時に・・・言うことになるなんて・・・・思わなかったけど・・・・」


シンジはそこで口を止めた。

そして少し息を吸うと、再び、口を開いた。




「・・・好きだ。」


「!」


「アスカが・・・・・・・・好きだった・・・ずっと前から・・・」


「・・・・・・シンジ・・・・・・・・・」


「・・・それだけが・・・言いたかったんだ・・・・・」


言葉としては、ごくわずかだった。

しかし・・・・その想いは、アスカの心の一番奥に、しっかりと、染み渡った。


「・・・・・・・アタシも・・・・」


アスカは、涙をぽろぽろとこぼしながら、声を絞り出した。


「・・・シンジが・・・・・・・好き・・・・。この世の・・誰よりも・・・・・・」


アスカはそこで唇を噛み締めた。もう他に、言葉はいらなかった。


「アスカ・・・・・・・・・・・。」

シンジはふっと、微笑んだ。目の前に迫っている死も、怖くなくなった気がした。




「へえ・・・・最期の瞬間に愛の告白とは・・・・ロマンチックだこと。」


そう言いつつ、銃口をシンジに向けるミサト。


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


シンジは、やれるもんならやってみろ、と言わんばかりの面持ちで、ミサトを睨んでいる。


「・・・・・・シンジ君?最後にもう一つだけ・・・・質問があるんだけど?」


「・・・なんですか。」


「もしも・・・・あなたがこの後も、生きていられるとしたら・・・・・何がしたい?」


「・・・・・何言ってるんです・・・・?僕は今ここで・・・」


「いいから・・・・・答えて。」


少しためらった後、シンジは口を開いた。


「そんなの・・・・・・・・決まってますよ。」


一呼吸おいて、続ける。


「アスカと、結婚します。」


シンジは何の恥じらいもなく、言った。

それが紛れもない、自分の本当の気持ちであったが故に。


「・・・・・・・・・・・!」

アスカは口を手で覆った。


もう止まらない、涙。



「へえ・・・・・・・じゃあ、アスカは?」


今度はアスカに、銃口を向けるミサト。


アスカは必死に口を開け、声を出した。


「あ・・・アタシも・・・・シ・・・シンジと・・・結婚・・・す・・る・・」


そこまで言って、アスカは顔をシンジに向けた。


シンジは優しく、微笑んでいた。まるで、アスカの全てを包み込むかのように・・・。


・・・アスカもそんなシンジの表情を見て、自然に、微笑んだ・・・。







「・・・・・・・・・ということですが、どう致しますか?・・・・・司令?」

ミサトはそう言うと、不意に後ろを振り返った。


そこに見えたのは、ゆっくりと、歩み寄って来ているネルフ司令・碇ゲンドウ。


「と・・・・父さん・・・・・・」


シンジは驚きつつ、声を漏らした。

ゲンドウは眼鏡を軽く押し上げると、静かに呟いた。



「フッ・・・問題ない・・・・・・・・・・・・・・・・・合格だ。」



       パーン!



「「!!?」」


突然の発砲音。

とっさに目をつむる二人。



・・・・・・・だが、体には何の衝撃も感じない。

少しして、何か柔らかいものが降りかかる感触。


恐る恐る、シンジとアスカが目を開けると、そこに映るのは、自分達の体にかかった、紙テープやら紙ふぶき。

ふと見ると、少し煙が上がっているミサトの拳銃の銃口にも、それらの切れ端がいくつかくっついている。


「「・・・・・・?????」」


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。


続いて、呆然とする二人に浴びせられる、惜しみない拍手。



そして。


「おめでとう」

「おめでとう」
 
「おめでとう」

「おめでとう」
 
「めでたいなあ」
 
「おめでとさん」
 
「クエックエッ」
 
「おめでとう」
  
「おめでとう」
 
「おめでとう」
   
「おめでとう」

「おめでとう」



パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。


「「・・・・・・・・・・・・・はああ????」」


訳のわからない二人を取り囲み、拍手を続けるネルフの皆さん。


「いやあ、よかったよかった。」

「やっぱリツコの作ったこの拳銃型クラッカー、よかったわあ。」

「そう?なんなら量産してあげましょうか?」

「赤木博士!僕が使った『威嚇専用銃』もよかったっすよ!」

「私は一つくらい台詞欲しかったですね・・・・」


思い思いの話を展開する面々。


ここでようやく、シンジが意識を持ち直した。


「ちょ・・・・ちょっと!!何が・・・・何がどうなってるんですか!?」


もうわけがわからない。『まごころを、君に』の後半よりわからない。

シンジはマジでそう思った。


「はっはっは!すまんな二人とも!実はこういうわけだぁ!」


少し離れた場所から、高らかに響く何者かの声。


しかしシンジとアスカはその声に、聞き覚えがあった。


「「・・・・・・・!?」」


二人が振り向いた先。


そこには、バカでっかいプラカードを持った、死んだ筈の三重スパイ、加持リョウジが立っていた。



「「かっ、加持さん!!??ど、どうして!!??」」


久々に冴える二人のユニゾン。

やがて二人の視線は、加持が持つ、プラカードへと注がれた。


・・・・・そしてそこには、でっかく、『ドッキリカメラ』の文字・・・・!!


「「あ・・・・・・あ・・・・」」


プラカードを指差し、ぱくぱくと口を動かす二人。


「俺が死んだとでも思ってたのかい?それももちろん、ドッキリの一部さ!」


加持は最高の笑顔でそう言うと、ビッと親指を立てた。


「「ドッ・・・・ドッキリぃぃぃぃ!!!?????」」


思わずユニゾンで叫ぶ二人。


「ごめんね〜シンちゃん、アスカ・・・。」

ミサトはそう言うと、テヘヘと笑い、ポリポリと頭を掻いた。


「え・・・いやだって・・・あれ!!???」

さっきまであれほど殺意を漂わせていたミサトはどこへ行ったのか?

シンジはもはや形容しがたいほど、頭がパニックに陥った。


「じゃ・・じゃあミサトアンタ・・・・一週間前のあの時から既に!?」


震える指先をミサトに向けながら、尋ねるアスカ。


「いや・・・・厳密には・・・・ネルフとゼーレが合併って話が出た時からよん♪」

ウインクして答えるミサト。


「そ・・・それって三週間くらい前じゃないですか!?」

「そんな頃から組織ぐるみで騙してたってわけぇぇ!!???」

「まあ・・・・・そうね♪」


「「・・・・・・・・・・・・!」」

二人はもはや、何の言葉も出せなかった。


「大体ねぇ・・そんなことできるわけないのよ・・・・?もうゼーレは存在しないんだから・・・」

ミサトの隣にいたリツコが、落ち着き払って口を開いた。


「「そ・・存在しない!!??」」


「ああ・・・キール議長がギックリ腰で引退してな。それがきっかけになって、

他の連中もバタバタ辞任しちまって、自然崩壊。・・・ドッキリみたいだけど、こいつは本当の話だ。」


まだ手にプラカードを持っている加持が、説明する。


「「ギ・・・・ギックリ腰って・・・・・・」」


もう二人にはわからなかった。全てがわからなかった。


・・そして今は夢なのか、現実なのか・・・それすらも、今の二人にはわからなかった。


「しかしだなあ・・・見抜こうと思えば見抜けたと思うんだがなあ・・・。」

「そうよね〜本当にゼーレが動いてたら、子供二人殺すのに一週間もかかるわけないもんねえ。」

「大体、殺害命令の出てる相手を何度も取り逃がすこと自体、ナンセンスだと思ってほしかったわね。」

「でもどうせなら、あと一ヶ月くらいやりたかったすよ。」

「そもそもこれが本当だったら、クレジットカードなんて番号すぐ割り出されて、使えないように細工されるわよ。」

「それにしても・・・・・ずっと一緒に暮らしてた二人にも見破られないなんて・・・・私、演劇の才能あるのかしら?

女優に転向、ってのもいいわね♪」


・・・・・・などなど、勝手なことを言い合う皆さん。

眼前の二人の存在など、まるでムシ。


そこで、段々思考能力が戻ってきて、現状をほぼ把握したアスカは、わなわなと肩を震わせ始めた。


シンジは、なんかもうどうにでもなれといった表情を浮かべている。


ペチャクチャペチャクチャペチャクチャ・・・・。


到底、止みそうにない喋り声。


ぷちっ。

アスカの中で、何かが切れた音。




        「・・・・全員、黙れっっっっ!!!!!!!」




        ・・・・・・ペチャクチャペチャッ・・・・・・・・・







        ・・・・・・・・・・しーん・・・・・・・・・・・。




一瞬、波を打ったかのように、静まり返る一同。


アスカはゴホンと咳払いをすると、再び大声を張り上げた。



「ぬぅわんでアタシ達が、こんなことされなきゃいけないのよっっっ!!!????

アンタ達、何か恨みでもあんのっっっっ!!!????」



スタッフ一同を指差し、激昂したアスカの叫びに、一瞬、時が止まった。


やがて、申し訳なさそうに、ミサトが口を開いた。


「それは・・・・司令から聞いたほうがいいわ・・。これ企画したの、司令だし・・・。」


ミサトはそう言いつつ、視線をゲンドウに向ける。

当然、シンジとアスカの視線も、そちらに注がれる。


「と・・・・父さんが企画・・・・・・!?な・・なんで・・・・・・!?」


またも唖然とするシンジ。


「フッ・・・・・普段から、つまらぬ意地を張るお前達に、素直に本音を言わせるためにしたことだ。」


「「えっ!?」」


「こういう極限状態にでも追い込まねば・・・・なかなか口にせんだろうと思ってな・・・。」


「「・・・・・・???」」


「忘れたとは言わせんぞ・・・・・・冬月。」

そう言って振り向いたゲンドウの隣には、いつの間に現れたのか冬月が立っていた。


・・・・・そして何故か、その手にはラジカセ。


「・・・・・わかった。ぽちっとな。」


冬月はそう言うと、再生ボタンをぽちっと押した。



そして流れ出す、つい先ほどの音声。



『・・・好きだ。』

『アスカが・・・・・・・・好きだった・・・ずっと前から・・・』

『・・・・・・シンジ・・・・・・・・・』

『・・・それだけが・・・言いたかったんだ・・・・・』

『・・・・・・・アタシも・・・・』

『・・・シンジが・・・・・・・好き・・・・。この世の・・誰よりも・・・・・・』



「「・・・・・・・・・・・!!」」


一気に、耳まで赤くなる二人。



『アスカと、結婚します。』


『あ・・・アタシも・・・・シ・・・シンジと・・・結婚・・・す・・る・・』



ぽちっ。

冬月は停止ボタンを押した。


「「・・・・・・・・・・!!!」」


シンジもアスカも、これまで生きてきて、これほど恥ずかしい思いをしたことはない、というくらい、恥ずかしかった。


二人とも、蒸気が出そうなほど顔を真っ赤にし、ただただ俯くばかり。


「フッ・・・・シンジ・・・・この言葉に嘘はないな?」


眼鏡を押し上げ、ゲンドウは尋ねる。


「えっ・・・・・・」

「・・・それとも・・・・己の命惜しさに、同情を買うために吐いた台詞なのか?」

そのゲンドウの言葉に、思わずシンジは声を荒げた。

「違うよ!そんな安っぽい気持ちで言った言葉じゃない!!あれは僕の本当の気持ちなんだ!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・静寂。


「・・・・・・・あっ・・」

シンジはまたしても、墓穴を掘ってしまったことに気付いた。


そして、沈黙を破る歓声。

「ヒュ〜ヒュ〜」

「シンちゃん、かっこい〜」

「シビレたなぁ。」

「負けたよ、シンジ君。」

「漢やのう、センセ・・・・・」


パチパチパチパチパチ・・・・。


「・・・・・・・・・も・・もう・・」

また、顔を赤らめるシンジ。

しかし、シンジ以上に真っ赤になっていたのは、他ならぬアスカであった。


「・・・・・・・は、恥ずかしいわねぇ・・・」


そしてゲンドウは、そんなアスカにも視線を向けた。

「・・・・惣流君も、あれは本当の気持ちかね?」

「えっ・・・・」

一瞬、返答に困るアスカ。

しかし、いつになくか細い声で、続けた。

「・・・・ほ・・本当です・・・」


そして、やはり送られる、暖かい拍手。

パチパチパチパチパチ・・・・。


「や、やめなさいっての・・・もう・・・」


恥ずかしさのあまり、怒る声にもいつもの覇気がないアスカ。

ずっと俯いているシンジ。


ゲンドウはそんな二人を見て、ニヤリと口元を歪める。


「フッ・・・・・・・・問題ない。」


そして二人に背を向けると、冬月の方を向いた。


「冬月先生・・・・・・・・・・あとを頼みます。」

「・・・・・・・・ああ。ユイ君によろしくな・・・」


ゲンドウはゆっくりと去っていった。


「え・・・ユイって・・・・母さんがどうかしたんですか?副指令・・・・」


思わぬところで母の名を聞いたので、怪訝に思って尋ねるシンジ。


「ああ・・・・碇はユイ君の墓へ、報告をしに行ったのだよ・・・」

「報告・・・・・何のですか?」

「決まってるだろう・・・・・息子の結婚が決まったことの、だよ。」


「・・・えっ・・・・・」

やはり赤くなるシンジ。


「これでようやく、ゼーレを利用してまで進めていた計画を、実行に移せるというわけだな・・・。」


その冬月の言葉を聞き、ミサトが口を開く。

「じゃあやっぱり、碇司令の『人類補完計画』って、シンジ君とアスカを結婚させることだったんですか?」

「ああ・・・・そういうことになるな。人類なんてのは名ばかりで、自分の欲望を叶えるためだけの計画だがな・・・。」

「さすが碇司令・・・。ゼーレの老人達は、本当に全人類を補完する目的で計画を進めていたのに・・・・・それを、

こんな形で利用するとは・・・・。」

思わぬ真実を知り、心から感心する加持。


「この計画の実行日は2019年6月6日・・・・・・・それが、何を意味する日かわかるか?シンジ君・・・。」

冬月の意味深な問いかけに、シンジはしばし、考え込んだ末、答えた。

「僕の・・・・18歳の誕生日です。」

「そう・・・・つまり君が、結婚できるようになる日だ・・・・。碇はこの日に、君達を入籍させ、そして式を挙げさせるべく、

計画を進めているのだよ。」


「「・・にゅっ、入籍に・・・・式!?」」


揃って目を丸くする二人。


「まあ日頃から、一刻も早く、孫の顔が見たいと零していた碇のことだ・・・。少し行き過ぎの面もあると思うが、

大目に見てやってくれ。」


「・・・孫、かあ・・・・・。」

「・・・孫、ねえ・・・・・。」


ふと、呟いた二人。


「「ん?」」


しかしはっと、顔を見合わせる。


「「・・・ま・・・孫って・・・・・・」」


お互いの顔を見ながら、ますます赤くなっていくシンジとアスカ。


二人が真っ赤な顔を俯かせると、周囲からは、どっと歓笑が沸き起こった。






・・・・・・・なお、2019年6月6日に、『人類補完計画』が、ゲンドウのシナリオ通りに進み、

完全なる成功を収めたことは、書き記すまでもないだろう・・・・。









fin.


マナ:なんて大仕掛けなドッキリなの・・・。(ーー;

アスカ:もうっ。ミサトの奴っ!

マナ:怒ってるわけ? アスカには、いいエンディングに見えるけど?

アスカ:アタシには始めから教えておきなさいってのよ。

マナ:ふっ・・・素直じゃないくせに、そんなことしたら意地張るだけよ。きっと。

アスカ:あまいっ!

マナ:素直になれるって言うの? まっさかぁ。

アスカ:せーーっかく、シンジと2人っきりで1週間も過ごせたのよぉ。あぁ、勿体無い。

マナ:むっ・・・なんか、よからぬこと考えてるでしょ。(ーー)

アスカ:命の危険が無いことを知ってたら、シンジと2人で・・・うふふふふふ。(*^^*)

マナ:葛城さん・・・。アスカに秘密にしてたのは、きっと正解ですよ。絶対。

アスカ:うへへへへへへへ。(妄想狂)

マナ:この顔・・・今回の作戦がばれてたらシンジが危険だったわ。(危)
作者"紅氣"様へのメール/小説の感想はこちら。
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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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