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もしもシンジとアスカの性格が逆だったら――学園編――

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<碇家>

「ねえシンジ・・・起きてよ・・・起きてってばあ・・・」

眩しいばかりの陽光が差し込む部屋で、一人の赤い髪をした少女が小さな声で何度も語りかけている。

ベッドの上の、大きな膨らみに向かって。

しかしその膨らみからは、健やかな、イビキに近い寝息が聞こえるだけで、何の反応もない。


「やっぱ起きない・・・はあ・・・。」

溜め息をこぼす少女。


「いや、諦めたら駄目よ。今日こそはいつもより強く言うって、決めたじゃない。」

少女は自分自身に言い聞かせるように言うと、キッと目標物―ベッドの上の膨らみを睨みつけた。

「こら。シンジ、起きなさい。」

・・・・だが、声のボリュームは同じだった。

やはり、駄目か・・・少女がそう思いかけた時。


「・・・ぅるせぇなぁ・・・・・」

消え入りそうな声が聞こえた。と共に、もぞっと、ベッドの中から黒髪の少年が姿を現した。

少年は上体を起こし、焦点の定まらない目で少女を見た。


「なんだ・・・アスカか・・・・」

開口一番のけだるそうな台詞に、アスカと呼ばれた少女も口を少し尖らせる。

「な・・なんだはないでしょ・・・折角起こしに来てあげてるのに・・・」

ぼそぼそとそう言いながら、顔を俯かせる。


「そりゃどうも・・・だからもうちょい寝かせて・・・・」

再び夢の世界にいざ参らんとする少年。

「ああ、駄目だってば!遅刻しちゃうわよ、シンジ!?」

慌てて少年を現世に引き戻そうとするアスカ。

布団でもひっぺがしてやれたら手っ取り早いのだが、彼女の内気な性格では、とてもそんな荒業に打って出ることは出来なかった。

「わかったよ・・・起きればいいんだろ・・・」

なんとか、アスカの嘆願に近い思いが通じたのか、シンジと呼ばれた少年はだるそうに、再び上体を起こした。

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

まだ虚ろな目で、アスカを見つめるシンジ。

「・・・・・・・・・・・・・な、何?」

心持ち頬を赤くしたアスカが尋ねる。

「服、着替えたいんだけど。」

「え?」

「・・・・・お前、俺の着替え見たいの?」

「え?・・・・なっ・・・!!」


シンジの言葉、そして今の視線の意味を理解したアスカは、一瞬で顔が真っ赤になった。


「な・・何言ってんのよ・・・・」

アスカはシンジに背を向けると、急いで部屋を出て行った。



<リビング>

「・・・まったく、シンジったら・・・。いつもアスカちゃんが迎えに来てくれてるのに、本当にしょうのない子ね。」

軽く微笑みながら呟いたのは、シンジの母・碇ユイ。

「あなたも新聞ばかり読んでないで、さっさと支度してください。」

ユイが呼びかけた先には、ひたすら新聞を読みふけっているシンジの父・碇ゲンドウ。

「・・・ああ。」

「もう・・・いい年してシンジと変わらないんだから・・・。」

「・・君の支度はいいのか?」

「はい、いつでも。会議に遅れて冬月先生にお小言言われるの、私なんですからね。」

「・・君はもてるからな。」

「バカ言ってないで、さっさと着替えて下さいね。」

「ああ・・・・わかってるよ・・ユイ。」


そうは言いつつも、まだひたすら新聞を読みふけるゲンドウ。

(まったく・・・この人は・・・)

ユイは軽く溜め息をついた。



一方、リビングから伸びている廊下では。

「シンジ・・・もうちょっと、急いだ方が・・」

「ああもう、うるせぇなあ・・アスカは・・」

「そ・・そんな言い方しなくたって・・」

終始心配そうにしているアスカと、面倒くさそうに歯を磨いているシンジ。

毎朝こんな調子にもかかわらず、まだ一度も学校へ遅刻したことがないのが不思議である。



「んじゃあ、行ってくるわ!」

「行ってきます・・・」


やたら威勢のいいシンジの声が響いた後に、消え入りそうなアスカの声が微かに聞こえる。

「行ってらっしゃい、二人とも気をつけるのよ。」

「「はーーい。」」


ちゃんとアスカも返事をしているのだが、ほとんどシンジの声しか聞こえない。


二人を見送ったユイは、再び視線を食卓に向ける。

そこに座っているのは、相も変わらず新聞を読みふけっているゲンドウ。

変わったのは、読んでいる面が経済面から社会面になったくらいである。


「あなた、もう、いつまで読んでるんですか。」

「ああ・・・・わかってるよ・・ユイ。」


そう言いつつ、続いてスポーツ欄に目を通すゲンドウ。


「・・・はあ・・・。」

疲労の入り混じった溜め息が、ユイの心情を如実に表していた。



<通学路>

「今日も転校生が来るんだってな。」

急ぎ気味に走りながら、アスカに話し掛けるシンジ。

「ええ。ここももうすぐ遷都されて新しい首都になるんですもの、どんどん人も増えてくると思うわ。」

シンジと並んで走りながら、答えるアスカ。

「どんな子かなぁ、可愛い子だったらいいなあ。」

そう言いながら、思わず顔がニヤけるシンジ。

そんなシンジを、アスカは少し寂しそうな目で見ていた。

が、シンジはそんなアスカの様子には、てんで気付いていないようだった。


同時刻、シンジ達と同じように、通学路を疾走する青色の髪をした少女の姿があった。

彼女の走っている道は、彼女の位置から後20m程の交差点で、シンジ達が走っている道と交わる。


「ヤバイヤバイ、初日から遅刻じゃかなりヤバイってカンジだよねぇ〜。」

食パンをくわえながらも、器用に喋る少女。慣れたものだ。

その少女が、交差点にさしかかった時だった。


「「!!!!!」」

ゴッチ〜〜〜〜ン!


別の道を走っていたシンジも、全く同時に交差点にさしかかったらしく、二人は頭から見事に衝突した。


「あいててて・・・・」

地面に尻餅をつき、頭を押さえているシンジ。

「だ、大丈夫!?シンジ・・・」

心配そうに駆け寄るアスカ。

だが、シンジはアスカの方は向かず、前を向いたまま。

「?」

何かあるのかと、アスカもつられてシンジの視線の先を追う。

「アイタタタ・・・」

そこには、シンジと同じように尻餅をついている青髪の少女。

少女はしばらく、頭をさすっていたが、やがてはっとして、スカートを手で押さえた。

「ゴメンねー。マジで急いでたんだー。」

そう言ってすっくと立ち上がると、少女は再び走り出した。

「ほんと、ゴメンねー。」

少女は走りながら振り向いてそう叫ぶと、一層加速していった。


「・・・・・・・・・・。」

シンジはしばし、尻餅をついたまま、少女の後姿を見ていた。

そんなシンジの背後では、アスカが少し頬を膨らませ、むっとしていた。

もちろん、シンジがそんなアスカの様子に気付くはずはない。



<学校・2−A教室>

シンジとアスカが教室に入ったとき、まだ半数ほどしか生徒は来ていなかった。

走った甲斐もあって、始業までには結構余裕があったようだ。

シンジは、ここぞとばかりに、悪友のトウジ、ケンスケに、今日の朝の出来事を嬉々として語っていた。


「・・・で、見えたんか?その女のパンツ。」

かなり露骨に聞いてくるトウジ。

「おう、バッチシ!!」

白い歯を見せつつ、ビッと親指を立てるシンジ。

かなり誇らしげである。

「かあ〜〜お前って奴は、朝っぱらからホンマにうらやましいやっちゃあなぁ〜〜」

そう言いながら、恨めしそうに額に手を当てるトウジ。


そんなトウジの耳が、突然、横から伸びてきた手に引っ張られた。

その手の主は、このクラスの委員長を務める、洞木ヒカリだった。

「いてててて・・・・なんやあ・・イインチョ・・・」

「もう、朝っぱらから何バカな話してんのよ!鈴原週番でしょ!?早く花瓶の水替えてきなさいよ!」

「わかったわかった・・・カンニンや、イインチョ・・」


耳を引っ張られたまま、トウジはヒカリに連れて行かれた。

そんな様子を、シンジは面白そうに見ていた。

「はは、やっぱ尻に敷かれるタイプだな、トウジは。」

「・・・・・・・・シンジもちょっとは見習えばいいのに・・・」

楽しそうに笑うシンジの背後で、アスカがボソっと呟いた。

「あ?何で俺が見習わなきゃいけないんだよ。」

アスカの方へ振り返り、文句を言うシンジ。

「だってシンジは、ガサツ過ぎるから・・・。」

「ガサツぅ?へっ、お前みたいなネクラから見りゃ、誰だってガサツに見えるっての。」

「ネ・・ネクラじゃないもん。」

少しムッとして言い返すアスカ。

「い〜やネクラだね。十年一緒にいる俺が言ってんだから間違いない。」

ニヤニヤと楽しそうに言うシンジ。

「・・ネクラじゃ・・ないもん・・。」

「ネ・ク・ラ♪」

なおも楽しそうにからかうシンジ。

「・・・・・・・・・・・・・。」

アスカはきゅっと唇を結び、シンジを負けじと睨んでいたが、段々、その青い瞳が潤んできた。

そんなアスカの表情に気付き、思わずギョっとするシンジ。

「お、おい!な、泣くな泣くなよ!今のウソ、ウソ、全部ウソ、だから泣くな、な?

いやつーかお前泣き過ぎだぞ?・・・中二にもなって・・・。」


「な・・・泣いてないも・・ん・・・。」


かなりギリギリのアスカ。

一方のシンジは大慌て。

「だ、だから泣くな泣くなって!!ウソ、ウソだからっ!!」


さっきまでとは打って変わって、オロオロしっ放しのシンジ。


そんなシンジの様子を、冷めた目で見ている者が一人。


(結局お前も、尻に敷かれてるようなもんじゃないか・・・。)


その男、相田ケンスケは、ふう、と溜め息をつくと天井を見上げた。

「あ〜、平和だねぇ〜」


そんな時、駐車場に一台の赤いスポーツカーが、絶妙なドリフト走行で駐車した。

「!!ミサト先生!!」

その車の音を聞いた瞬間、シンジは、泣きそうなアスカのことも忘れ、一目散に窓際に走り寄った。

ビデオカメラを携えたケンスケと、花瓶の水を入れ替え終えたトウジもシンジに続く。


三人が窓から身を乗り出してスポーツカーを眺めていると、その中から黒髪の長身の女性が姿を現した。

その女性はサングラスを外すと、窓辺にいるシンジ達に気付き、Vサインを送った。

三人も満面の笑顔でVサインを返す。


「やっぱええなあ〜ミサト先生は・・・」

幸せそうに溜め息をもらすトウジ。

シンジとケンスケも、満足そうにお互いに頷き合っている。


「なによ、三バカトリオが!ばっかみたい!」

腹立たしげに言うヒカリ。

アスカは特に何も言わなかったが、かなり面白くなさそうな表情。

まだ少し瞳が潤んでいたので、ぐいっと手でこすり、何事もなかったかのように、窓側とは反対の方向に目をやった。



そして、朝のHRの時間。

教壇に立ったミサトが、声を張り上げた。

「喜べ男子!今日は噂の転校生を紹介する!」

そう言ってミサトが横に動くと、青髪の少女が姿を見せた。

「綾波レイです。よろしくっ。」

その瞬間、思わずシンジは声を上げた。

「ああっ!!」

何事かと、レイがその声の方向に目を向けると、シンジの顔が視界に入った。

「あんた!!今朝のパンツのぞき魔!!」

いきなり、大声で叫ぶレイ。

「なっ・・・何言ってんだ!!お前が勝手に見せたんじゃねーか!!」

突然ののぞき魔呼ばわりに、思わず声を荒げて否定するシンジ。

だがレイも負けてはいない。更にシンジに食って掛かっていく。

「そっちこそ何言ってんのよ!じぃっと見てたくせにぃっ!!」

「え・・そ・・それは・・・」

シンジは、じぃっと見ていたことは否めないので、反論に困った。

そんなレイとシンジの様子に、しばしあっけに取られていたクラスメート達も、徐々に騒ぎ始めた。

「の・・のぞきやて?偶然やったんちゃうんか、シンジ!?」

「どういうことだよ、碇っ!!」

「碇君、そんなことしたの!?」

「うっそーー!!??」

一気にやかましくなる教室。

「だっ・・だからそうじゃないんだって!!!」

必死に誤解を解こうとするシンジ。

「あ・・そうだ!アスカ!!」

シンジは急に振り返ると、自分の後ろの席に座っているアスカの名を呼んだ。

「!!」

不意にシンジに呼ばれ、ビクッとするアスカ。

「お前も、この変な女に言ってやってくれよ!!俺は何もしてないって!!朝一緒にいたからわかるだろ!!?」

かなり必死なシンジ。

「・・・・・・・・・・・。」

アスカはしばし黙り込んだ。

教室中の視線が、アスカに向けられる。

やがてアスカは、口を開いた。

「・・・・・・・・・私、知らない。」

そう言うと、アスカはぷいっと、そっぽを向いてしまった。

今日は朝から何かとシンジにむっとすることが多かったので、そのささやかな仕返しであった。

「はあ!?ちょ・・ちょっと待てよ!!知らないって何だよ!!知らないって!!」

まさかのアスカの回答に、焦りまくるシンジ。

「・・・・・・・・・・・・。」

だがアスカはそっぽを向いたまま、微動だにしない。

そして、突き刺すような冷たい視線をシンジに向けているクラスメート達。

「あっ!!そうかお前、さっきネクラ呼ばわりしたこと、まだ根に持ってんだろ!?あれはもう謝ったじゃねーか!?」

「・・・・・・・・・・・。」

「ああもう!!何とか言えって!!」

シンジが焦りまくっていたその時。

「わーかったーーーーっ!!!」

突如、レイの大声が響きわたった。

「わ・・・わかった・・・って・・何がだよ・・?」

訝しげに尋ねるシンジ。

「あんた達、デキてんでしょっ!!」

ズビシッ!と、シンジとアスカを指差して叫ぶレイ。

「なっ・・・・!!たっ・・ただの幼馴染だよ!!うるせえなっ!!」

またもや焦りまくるシンジ。

「あっらー?その割にはムキになっちゃってぇ・・あーやーしーいー。」

ニヤリと微笑みながら言うレイ。

そして教室には更に興奮が巻き起こった。

「お前らやっぱりそうだったんかっ!!」

「碇!!お前と言う奴はっ!!」

「いやーんな感じぃ!!」

「えーー本当なのぉ!!??」

「ひゅーひゅー」

もう止まりそうにない熱狂。

「あーもう、だから何でそうなるんだよ!!!」

シンジもかなりヤケになってきている。

一方、もう一人の当事者、アスカはと言うと、先ほどと同じように、そ知らぬ顔をしてそっぽを向いていた。

ただ、横顔は髪に隠されて見えないものの、髪の隙間から半分ほど出ている耳は、真っ赤に染まっているのが見てとれた。


ヒカリだけは、すぐに、そんなアスカの様子に気付いた。アスカの、シンジに対する想いを知っているが故に。

そしてヒカリは、アスカを気遣って、声を張り上げた。

「皆席に着いて!!授業中よ!!」

だが、そんなヒカリの優しい気遣いも、よりによって、こういう場を一番に収めるべき人間の一言の前に脆くも崩れ去った。

「あらぁ〜いいじゃない〜私も興味あるわ〜続けてちょ〜だい。」

このクラスの担任、葛城ミサトであった。

「ミっ・・ミサト先生・・・!!そんな・・・・」

ミサトの、とても教師の発言とは思えない一言に、呆然とするシンジ。


そしてそのミサトの一言によって、ますますヒートアップする教室・・・。




・・・・・・・かくして、今日も明るく楽しくそしてやかましい、2−Aの一日が始まったのだった・・・・。








fin.











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あとがき


お久しぶりです。今回は、ふと思いついたネタで、一気に書き上げました。
う〜む・・一応シンジとアスカの性格を入れ替えたつもりなんですが・・・
なんかシンジはやたら荒々しく、アスカはやたら女々しくなってしまいました・・。

まあ、たまにはこういうのもいいかと・・・どうか、大目に見てやってください。

また気が向いたら、『もしもシンジとアスカの性格が逆だったら――ユニゾン特訓編――』
とかも書くかもしれません。その時もまたどうか、読んでやって下さい。お願いします。

それでは、読んでくださった方、誠に、どうもありがとうございました。
感想、一行でも書いていただけたら本当に嬉しいです。
なお、返信率は400%です(笑)。

では、またお逢いしましょう。紅氣でした。


マナ:あっらぁ、アスカったら可愛くなっちゃって。

アスカ:性格が入れ替わらなくても、アタシは可愛いわよっ!

マナ:こんなアスカだったら、わたしもやりやすいんだけどなぁ。

アスカ:アンタに毎日泣かされるから、イヤよっ。

マナ:そんなことしないってば。やーねー。

アスカ:それより、シンジがアタシの性格になったら、なんで荒々しくなるわけぇっ!?

マナ:そのまんまじゃない。

アスカ:なんでよっ! なんか納得いかないわっ。

マナ:今度はシンジじゃなく、他の誰かと性格かえてみたら? 渚くんとか?

アスカ:絶対イヤっ!

マナ:そこまで、強く否定しちゃ可哀想よ。

アスカ:アイツの性格になったら、アンタのこと好きになるかもよ。

マナ:・・・・・・やっぱり、やめましょ。(ーー;
作者"紅氣"様へのメール/小説の感想はこちら。
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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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