短編集 『somunamblism』    byろさんぜるす

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○『Sleepwalking』


このごろ僕には心配なことがある。


それは彼女・・・・


僕の同居人である惣流・アスカ・ラングレーのことなんだけど・・・・


彼女は・・・




夢遊病なんじゃないだろうか?




どうして、そう思うのかだって?


それは・・・・

その・・・・


・・・・・・・


・・・・・・・


実は最近目を覚ますと、あるんだ。


アスカの顔が目の前に。


要するに夜の間にアスカが僕のベッドに潜り込んで来るんだ。


しかも、質が悪いことに本人はそのことを全く覚えていないから僕は
毎朝アスカに殴られている。


最近では僕の目覚ましは、電子アラームと雀の鳴き声にアスカの

「きゃ〜っ!えっち!ちかん!変態!!」というセリフの三重奏と

なっている。


そんなこと言われたって僕にどうしろって言うんだよ?


僕の部屋は襖だから鍵をかけることもできない。


つっかえ棒という手を使ったこともあったけど、


僕の部屋に入れなかったアスカがそのまま部屋の前で寝て


風邪を引いてしまったことがあるので、それ以来使っていない。


(ちなみにその後、僕も風邪を引くはめになった。
       理由は言うまでも無いだろうけど・・・・)


という訳でなし崩し的に僕はこの状況を受け入れるしか
無くなってしまったんだ。



え?

本当は嬉しいんじゃないか、だって?



ば、馬鹿なこと言うなよ。


さっき言ったとおり、それで毎朝僕は殴られているんだから。


殴られてそのまま再び眠るはめになったことだって
1度や2度じゃないんだから。


そ、そりゃあ。


近頃はアスカの寝顔があんまり可愛いもんだから、
ついつい見とれちゃってることだってあるけど・・・・・・


いわば不可抗力ってやつだよね。

うん。


それに、僕だって何もせずに手をこまねいてたわけでもない。


今日はリツコさんに解決策を教えてもらってきたんだ。


そして、今まさに実行しようとしてるわけなんだけど・・・・




「・・・本当にこんなことしちゃって大丈夫なのかな?」

今、僕の目の前には穏やかな寝息を立てているアスカがいる。

目を覚ましている間はやかましいぐらいに活発で、僕のことを迫害する
アスカだけど寝顔は天使そのものだ。

・・・・・・・

・・・・・・・

ゴホン

それは、ともかく。

僕はリツコさんに教えてもらったとおりアスカのベッドに潜り込んだ。

確かにコレならアスカが僕のベッドに潜り込むことも無いだろう。

さすがはリツコさん。

・・・・・・・

・・・・・・・

でも、これっていわゆる『夜這い』ってやつじゃないのか?


え?

不潔だって?


べ、別にやましい気持ちなんて無いよ。

これは不可抗力だよ。




僕だって夢遊病なんだから。



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●一応表題作ということなんでしょうか・・・

 コレは夜這いじゃないのか?と、シンジ君。

 ええ、間違いなく立派な『夜這い』ですとも!

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○『雨、降って・・・』



「雨、止まないな。」

「そうやなぁ・・・」

「そうだね・・・」

暗い空を見上げて呟いたケンスケの言葉にトウジとシンジが相槌を打つ。
学校の帰り道にゲームセンターに立ち寄った3人だったが、一時間ほど
遊んでから外に出てみると雨が降っていた。
どうせ、にわか雨だろうとゲームセンターでそのまま雨宿りを決めこんだの
だが、雨が止む気配は一向にない。
時刻はとっくに6時を回っていた。

「はぁ・・・・」

シンジは時計を見て溜息を漏らした。
雨に足止めをされ、シンジは今晩の夕食の買い物をしてなかったのだ。
家で空腹を抱えているであろう同居人の少女のことを考えると一刻も早く
帰りたいところなのだが・・・・・

「はぁ・・・・」

「どうしたんだ?碇。溜息ばかりついて」

「なんやセンセも腹減ったんか?」

ワイはもう限界や。そう言ってその場にしゃがみこんだトウジの腹が盛大
に鳴った。その様子を見てシンジは苦笑しながら答えた。

「違うよ。今日の夕ご飯をどうしようかと思ってさ」

「残りもんでどうにかするしかないんじゃないのか?」

「せやなぁ。ウチもよく昨日、一昨日の残りもんが出て来よるし」

「うーん。でも、残り物だとアスカが怒るんだよ」

困ったようにそう言うシンジを、トウジとケンスケは呆れたように見つめた。

「シンジ、自分のこと情けないと思わないんか?」

「え?何で?」

きょとんとするシンジにトウジとケンスケは揃って溜息を吐いた。

「シンジ。お前、最近惣流を甘やかし過ぎてへんか」

「そうかなあ?」

「そうだぜ。夕飯もお前が作るんだから、文句言うなら食わせなきゃ
良いんだよ。」

「せやせや、自分じゃ飯作れへんくせに人が作ったもんには一丁前に
いちゃもん付けよって。」

「現に今日の弁当だって・・・・」

今日の昼食時、アスカがお弁当に入っていた唐揚げが油っぽいとシンジに
クレームを付けたのだ。

「うーん、でも実際、少し油分が多かったような気もしたし・・・」

「人に作ってもらっといて少しぐらい我慢できへんのか。あの女は」

「碇、このまま惣流のわがままに付き合ってたら惣流の下僕になっちまうぞ。」

「・・・・分かったよ。気をつけるよ。」

シンジは苦笑しながらそう言うと顔をゲームセンターの外に向けた。

「それにしても、雨止まないね」

「せやなぁ・・・・」

「これじゃあ、いつまで経っても帰れないよ。」

「しょうがない。濡れて帰るか?」

ぼやく2人に遂にケンスケが強行突破を提案した。

「大丈夫?」

シンジの住むコンフォートマンションはここから割と近いところにあるが
トウジとケンスケの家まではかなりの距離があるのだ。

「いや。だから、途中で碇の所に寄って傘を貸してもらえないか」

「うん、いいよ」

「ほんじゃあ、センセの家まで走るか」

こうして、3人は雨の中を走ってコンフォート17マンションを目指すことと
なった。



【コンフォート17マンション】

何とかマンションまで辿り着いたときには3人とも立派な濡れ鼠となって
いた。ぐっしょりと濡れたワイシャツが体に張りつきとても気持ち悪い。

「はあ、酷い目に合ったわ」

「まったくツイてない日だぜ」

「まあまあ、ウチに着いたら何か温かい物でも出すからさ」

不平を漏らす2人をシンジが宥め、3人は重い体を引きずってミサトの
部屋の前までやってきた。憧れの『ミサトさん』の家に上がるのにびしょ
濡れのままでは大変とトウジとケンスケは慌てて手で水を払い始める。
シンジは財布の中からカード取り出すとドア脇のスリットを通した。

ピッ、と電子音が響き、エアの抜ける音と共にドアが開く。

「ただいま〜、アス・・・」

「シンジ〜!!」

帰宅の挨拶を言い終えるよりも早く部屋の奥からドタドタと足音を立てて
弾丸のように飛び出してきたアスカがシンジに抱きついた。

「あ、アスカ?」

「バカ!!6時までには帰るって言ってたのに遅いから心配しちゃった
じゃないのよ!!」

「ご、ごめん・・・」

「もう!びしょびしょじゃない!電話してくれれば迎えに行ってあげたのに」

そう、言いつつもアスカはびしょ濡れのシンジの体を抱きしめる。

「あ、あの。アスカ・・・・」

「夕ご飯なら後で良いから、アンタはさっさとシャワー浴びなさい。まったく
風邪でも引いたら、どうすんのよ!?」

そう言って、アスカはシンジの背中を押してさっさと風呂場に行かせようと
彼の背後に回り・・・・・

そこで、やっとトウジとケンスケに気が付いた。

シンジの背中を押そうとした形で動きを止めるアスカ。一方、トウジとケンスケ
も顎が外れたのかと思うほど口を開き目を見開き変なポーズのまま硬直していた。




玄関を沈黙が支配する。




アスカはしばらく目を宙に泳がせていたが、おもむろに手を伸ばすとドア脇の
パネルに触れた。エアの抜ける音と共にドアが閉まる。

「アスカ・・・・・・んぐっ」

何かを言いかけたシンジだったが、その言葉はアスカの唇によって遮られた。

濡れた鞄が重い音を立てて床に落ちた。







閉ざされた扉の向こうでトウジとケンスケはいまだに硬直し続けていた。

降り続く雨もまだ当分は止みそうになかった。




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●雨降って・・・2バカ固まる(笑)

 『温かい物』というより熱々ですね。

 しかし、アスカがへっぽこ。

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○『誤差』 



暗闇と静寂が支配する部屋。

そこに突如12個のモノリスが浮かび上がり老人達の姿が映し出された。

「最近のサードチルドレンの様子はどうだ?」

「われわれの予想よりも人格の崩壊が進んでおらぬように思われるが?」

「むしろ、最新のデータによればサードの精神状態は非常に
 安定していると言えるな。」

「ロンギヌスの槍が失われた今、初号機とサードチルドレン無くしては
 人類補完計画は実行できんぞ。これは由々しき事態だ。」

「原因は何だ?」

「セカンドチルドレンとの関係が大きな要因となっていることは
 疑いようが無い。」

「伏兵だな・・・」

「セカンドとサードの恋愛関係。」

「碇の親馬鹿化。」

「いずれも、われわれのシナリオには無いことだ。」

「それも、碇にちゃんとした鈴をつけていなかったためだ。」

「いや、鈴ならば付いていた。」

01のナンバーのモノリスが厳格な声で言った。

「しかし、奴は寝返った。」

「情報によれば、サードとセカンドの仲を取り持ったのは奴だそうではないか。」

「われわれは縁結びの鈴には用は無い。」

「どうやら、そろそろ正鵠を射るわれわれの切り札を出すしかないようだな。」

01のモノリスの言葉に答えて部屋の中央に一本の培養槽が浮かび上がった。

その中には銀髪の少年が浮かんでいた。

「タブリス。」

名前を呼ばれ少年が目を開ける。

「気分はどうだね?」

その問いに少年は薄く微笑んで見せた。

「碇よ。今度こそわれわれのシナリオの上で踊ってもらうぞ。」

その言葉とともに部屋の照明が一瞬にして暗転した。



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その後ネルフには渚カヲルと名乗る銀髪の少年がサードチルドレンの

心を惑わすべくゼーレから送り込まれて来たものの、セカンドとサード

チルドレンのラブラブさにあてられて失意のままにどこかへと

去っていったそうだ。



え?

人類補完計画?サードインパクト?

そんなもの起きたわけ無いでしょう。



ちなみにゼーレのボスだったキール議長は某スパイによって

捕まえられたときこんな言葉を残したそうだよ。


曰く、

「最近の中学生は進んでいる」

とね。



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●ゼーレをも破るLASの力!!

 誤差とは当然『歳の差』です。
 ジェネレーションギャップは怖いですよね。

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◎後書き

 ウイルスによる1ヶ月以上に渡るブランクや、

 真面目なものばかりを考えたりしていて、

 最近筆の進みがいまいちでした。

 そこで、気分転換に、とても一本のSSとして投稿することが

 はばかられるような短いSSをリサイクルして短編集にしてみました。

 書いてるほうは非常に楽しかったんですが、

 読むほうとしてはいかがなものなんでしょうか?


マナ:シンジぃ、夜這いなんて不潔よぉっ!

アスカ:アタシの夢遊病を治す為だもん、仕方ないじゃん。

マナ:なに、ニヤニヤしてんのよっ!(ーー#

アスカ:シンジはいいけど、あの2バカは許せないわ。

マナ:ただ、傘借りに来ただけじゃない。

アスカ:愛の巣に普通ノコノコやってくるぅ?

マナ:あ、アイノス・・・いやぁぁぁっ!

アスカ:恥ずかしいったら、ありゃしないわ。

マナ:やっぱり、不潔よぉぉっ!

アスカ:なにが不潔よっ! アタシ達の愛が世界を救ったのよっ。

マナ:もうだめ・・・。LAS3連発には耐えられないわ。(ーー)
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