想い、星空の下で
by Makkiy  第一中学校 「ねぇ惣流さん、そろそろ僕と付き合う気にはならないかい?」 「お生憎様、アンタなんかと付き合う気なんてないわよ、渚」  3年生の美形として、ダントツの人気を誇るカヲルが、アスカに言い寄っている。 「なんで君は僕と付き合おうとしないんだい? 僕なら君にとって不足はないと思うんだ けどね」 「そういうキザな態度が気に入らないのよ」  キッパリと言い切る。 「好くより慣れさ、付き合っていけば自然と解り合えるさ」 「そういうのが嫌いっていってんのよ! いい加減ウザイからあっちにいきなさいよね」 「酷い言われようだね」  カヲルは軽く笑ってみせる。 「フン!」  アスカは鼻息を荒くついた。 「仕方ない、今日のところは引き上げるとするよ、けど、また明日も来るからね」 「もう来なくていいわよ!」  ここは2年生の教室であるため、カヲルは3年の教室へと戻って行った。 「・・・・・・」  そんな様子を無言で見ていた人物が。 「ねぇアスカ、カヲル君と付き合うの?」  碇シンジである。 「はぁ? アンタバカぁ!? このアタシがあんなのと付き合うわけないじゃない!」 「そ、そうなんだ」  なぜだかシンジは、アスカのそのセリフを聞いてホッとした。 「しっかしアイツもしつこいわね、ま、何度来てもアタシが了解するわけないけど」 「でもアスカ、なんでカヲル君と付き合おうとしないの? カヲル君って優しいし、美形 だし、アスカにとっても不足はないと思うんだけど・・・」 「・・・アンタも渚と同じこと言うのね」 「・・・え?」 「顔とか、単に優しいってだけじゃ、アタシは付き合おうとは思わない、アタシはそんな 単純な女じゃないわよ」 「・・・そんなものなのかなぁ・・・」 「そうなのよ!」  アスカからの言葉を聞いて、尚更シンジは安心したような表情を浮かべた。 (良かった・・・アスカ付き合わないんだ・・・、でも、なんで僕はこんなに安心してる のかな)  シンジ自身、アスカに対する気持ちがあるのかどうか、そしてそれがなんなのか、未だ よく分かっていない。 「あ、なんだか安心したって表情浮かべてるわね〜、もしかしてアタシが付き合うのが嫌 だったとか〜?」  ニヤッとしてシンジに言った。 「そ、そんなんじゃないよ」 「どうだかねぇ〜?」 「か、からかうなよな」  顔を赤くしたシンジ。 「ま、このくらいで勘弁しといてあげるわ」 「だから、そんなんじゃないんだってば」 「ふ〜ん?」  アスカはまだニヤニヤしてる。 「そ、そろそろ授業始まるから席につこうよ」 「あ〜はいはい、分かってますよ〜〜」  適当に返事したアスカは、自分の席へと戻って行くのだった。  碇家、シンジの部屋 「・・・僕がアスカに対して持っている感情って、なんなんだろう」  シンジはベッドに寝転がり、部屋の天井を見ながら、自分に問い掛けていた。 「幼馴染? 女友達? クラスメイト? ・・・分からないよ」  自分の持っている感情も分からないなんて、僕って情けない奴だな とか思ってみる。 「分からない・・・、だって、今までそんなこと考えたこともなかったんだし」  以前、こんなことをアスカから言われた事があった。 『そうやって物事を考えようとしないのは、自分が今の自分自身に満足してる証拠よ!』 「自分自身に満足してる・・・か。僕はそんなつもりはないんだけどな」  シンジは横を向いた。 「いつだって、もっと変わりたいと思ってる、けどそんな簡単に変われるもんじゃないん だよね・・・」  シンジは自分の言ったセリフにハッとする。 「アスカって、僕のそういう最初から諦めてる態度が気に入らないのかな・・・」  そう言えばアスカって、いつもなにかにつけて僕を罵倒したりからかったりするよね。 「僕は・・・アスカに対する気持ち、感情は分からない」 「だったら、アスカは僕の事、どう思ってるんだろう・・・」  コンコン  その時、ベランダの窓からガラスを叩く音が。 「アスカかな?」  シンジとアスカの家は(マンション)、ベランダを通して繋がっているため、こうして アスカがベランダ越しにやってくることは決して珍しくない。 「今開けるよ」  ガチャ  窓の鍵を開けた。 「今日はなんの用?」 「アンタねぇ、用事がないと来たらいけないってーの?」 「別にそんなことは言ってないけど」 「ま、いいわ。ちょっと一緒に外を歩かない?」 「なんで?」 「なんでもよ! いいから外に出るわよ!」  グイッ  そう言ってアスカはシンジの腕を掴むと、引っ張って行った。 「あらアスカちゃん、いらっしゃい」  外に出るため、リビングを通りかかったら、ユイとゲンドウが居た。 「あ、おばさま、ちょっとシンジを借りていきますね」 「いつもシンジがお世話になってありがとうね」 「いえ、そんなことないですよ」  アスカは一度ユイに会釈すると、シンジを引っ張って玄関を出て行った。 「しっかし暑いわね〜」 「そうだね」  2人は、住宅街の路地を並んで歩いている。 「・・・ねぇシンジ、聞きたいことがあるんだけど」 「随分と唐突だね」 「・・・べっつに〜、ただ聞きたいからそう言っただけよ」  少し空を見上げるようにして言ってみる。 「・・・それで、聞きたいことって?」 「・・・アンタさぁ、今日学校で、どうして渚と付き合わないか って聞いたわよね」 「うん」 「アンタ、本当にアタシと渚が付き合ったほうがいいと思ってんの?」 「え?」 「だってさ、やっぱり今日のあー言うこと言われると、そう思うじゃない」  アスカのこの問いにシンジは、 「だってカヲル君、アスカとお似合いだと思うし・・・」 「なんでそうなるワケ?」 「だってさ・・・やっぱり美男美女ってことで・・・」 「・・・学校でも言ったでしょ、単に顔とかで付き合うつもりなんてないって」  アスカは、少し複雑な面持ちになった。 「・・・そうなんだ」  カツッ・・・カツッ・・・  静かな路地を、2人の歩く足音が響く。 「ね、シンジ」  と、アスカがシンジの前に出た。 「実は、もう一つアンタに聞きたいことがあるんだけど」 「・・・なに?」  アスカは、少し言う事に戸惑っているような感じだったが、 「あのね・・・」  口を開いた。 「・・・アンタ、アタシの事どう思ってるの?」  ドックン  シンジの心臓の鼓動が跳ね上がる。 「ど、どうって・・・」  シンジにとって、今一番答えることが難しい質問。 「シンジが、今アタシにいだいている感情って言うか、気持ちよ」 「そ、それは・・・」 「早く答えて」  アスカが、急かすように、シンジに顔を近づける。  ドキッ  シンジの鼓動が、よりいっそう高まる。 「え、えっと・・・その・・・」  恥ずかしくなったシンジは、横を向く。 「ア、アスカはどうなんだよ?」  答えが見つからなくて、シンジは、質問のほこさきを、アスカに返す。 「アタシが最初に聞いたんだから、アンタが答えなさい」  アスカは、なにがなんでもシンジの気持ちを知りたい、自分の気持ちを言うのは、その あとでもいい そう思っていた。 「僕は・・・」  やがて、シンジが答えを言おうとしている。  ゴクッ  アスカは、シンジの気持ちを聞けると 生唾を飲み込んだ。 「・・・分からないよ」 「え?」  アスカは驚いた表情をした。 「・・・僕がアスカのことをどう思っているのか・・・僕自身分からない」 「な、なによそれ」  シンジと小さい頃から一緒にいたアスカは、こういう返事が来るかもしれないと、おお かたは予想していた。 「・・・ゴメン、アスカの求めていた答えとは違うと思う、けど、分からないものは分か らないんだよ」  だが、いざこうしてシンジの言葉として実際に聞かされると、受け入れがたいものがあ った。 「な、なんでもいいのよ、アンタがアタシのことどう思ってるか、本当のことならなんで もいいから答えなさいよ・・・」 「・・・ゴメン」  シンジはうつむき、そう答えるしかなかった。 「・・・もういいわよ・・・」  アスカもうつむいて、唇を噛んでいた。 「もういいわよバカッ!!」 「ア、アスカ!?」  ダッ!  アスカは、来た道を、逃げるようにして走り去っていく。 「ま、待ってよアスカ!」  シンジが叫ぶが、アスカは振り向かない。 「・・・アスカ・・・」  シンジは突然の出来事に、ただただその場に立ち尽くすしかなかった。 「・・・ゴメン」  もう姿が見えなくなったアスカに、その一言を言うしかなかった。 (・・・僕は、本当に自分のアスカに対する気持ちが分からないのだろうか・・・、ただ 分からないということにして誤魔化してるだけじゃないのだろうか)  今一度、自分に、アスカへの感情を問い掛けてみる。 (・・・けど、誤魔化しなのかどうなのか、それすらも分からない・・・) 「・・・ははっ、僕って本当に情けない奴だね・・・」  自虐的な笑みを浮かべてみる。 「・・・けど、やっぱり分からないものは分からないよ・・・」  何度問い掛けても、分からないものは分からない、それがシンジの、アスカに対する、 そして自分自身にも対する答えだった。  アスカの部屋 「・・・なによ・・・バカッ・・・」  アスカはベッドに寝そべっていた。 「・・・アタシの気持ちに気付くどころか、自分の気持ちすらも分からないなんて・・・」  その瞳からは、涙が零れ落ちていた。 「・・・もう・・・いいわよ・・・。・・・もういい・・・」  アスカはキッと表情を引き締めた。 「・・・もうアンタなんかに、答えを求めるのは止める。今まで何度も遠まわしにアタシ の気持ちを伝えてきたつもりだった・・・」  ベッドから起き上がる。 「・・・けど、シンジは気付いてくれなかった」  ゴシゴシ・・・ 手で涙を拭った。 「・・・渚・・・か」  脳裏に浮かんだのは、告白してきているカヲル。 「・・・もういいわ・・・、渚の告白に応じてやろうかしら・・・」  悲しげな表情・・・ 「・・・もう、渚と付き合ってやるわよ・・・」  人は、精心的に不安定になると、自暴自棄になりやすい・・・。 「・・・明日にでも、付き合ってやるわよ」  カヲルと付き合う・・・、それが、アスカの出した結論だった。  翌日、第一中学校 「やあ惣流さん、そろそろ僕の告白に応じてくれる気になったかい?」  ここは屋上。 「・・・そのつもりで呼んだのよ」 「と、いうことは?」 「アンタと付き合うって言ってんの」 「どういう心境の変化だい?」 「・・・別に」  アスカはフェンスの方を向いて、俯き加減に言っていた。 「まぁいいさ、これで僕達も彼氏彼女の関係になれるわけだね」  嬉しそうにいうカヲルに対し 「・・・そうね」  アスカは暗い雰囲気だった。  そこに、成り行きを見ていた数人の女子生徒が、 「た、大変だわ・・・」  アスカがカヲルの告白に応じたのを見て、女子生徒達は2年B組へと急いで向かった。 2年B組の教室  ガラッ  女子生徒が勢いよく教室のドアを開けると、 「みんな、大ニュースよ!」 『なんだなんだ?』  その声に、教室にいた生徒達が振り向く。 「3年生の渚先輩と、惣流さんが付き合うことになったんだって!」 『ええ〜〜!?』  教室全体から、驚きの声が上がる。 「そ、そんな・・・」  その中でも、その事実を一番受け止めることができない少年、シンジも、驚きの色を隠 せないでいた。 『け、けど、それって事実なの?』  1人の生徒が、その女子生徒に問う。 「間違いないわ! さっき屋上で2人が話してるところ見たもの!」  この言葉を、耳を傾けて聞いていたシンジは 「ほ、本当に付き合いだしちゃったの・・・アスカ・・・?」  自分は何を言ってるんだろう、アスカとカヲル君が上手くいけば良いと思っているハズ なのに。 「せんせ・・・えらいことになってしもうたな・・・」 「トウジ」  鈴原トウジも、この事実に驚いている様子だった。 「まさかあの惣流が、渚先輩と付き合うなんてな・・・」  彼も、アスカはシンジとお似合いだと思っていたため、この事実によるショックがかな り大きい。 「・・・仕方ないよ、だってアスカとカヲル君、お似合いだしさ・・・」 「シンジ、ホンマにそう思うてんか?」 「だって・・・」 「・・・シンジは、惣流のこと、どう思うてるんや?」 「・・・分からないよ」 「はっきりせん奴やな」 「・・・実は昨日、アスカに同じ事聞かれたんだ。それで、今トウジに言った事と同じ事 を言ったんだ・・・」 「・・・シンジ、渚先輩と惣流が付き合いだした理由、シンジ自身にもあるんやないか?」 「え? どういうこと?」 「自分で考えてみぃや」  トウジは、あえてシンジに自分で考えさせるようなことを言った。 「・・・取り合えずアスカ自身に、これが本当なのかどうかだけでも聞いてみよう」  シンジが廊下に出ると、 「ア、アスカ・・・」  カヲルと並んで歩いているアスカの姿が。 「・・・・・・・」  アスカは、無言で冷ややかな視線をシンジに向けると、何も言わず、そのまま通り過ぎ ようとした。 「ま、待ってよアスカ」 「・・・何よ」 「か、カヲル君と付き合いだしたって本当なの?」 「本当よ」  シンジの質問に、アスカは間髪入れず答えた。 「残念だったね、シンジ君。惣流さんは僕と付き合うことにしたんだよ」 「か、カヲル君・・・、な、なんで残念なのさ・・・」 「さてね? 自分で考えてみるといいよ」  カヲルもまた、シンジに自分で考えさせるセリフを言った。 「・・・・・シンジ」  そして、シンジの横を通り過ぎるとき、アスカが一言言った。 「・・・アンタとは、所詮幼馴染にしかすぎなかったのよ」 「!!」  このアスカの言葉に、シンジは目を見開いて呆然とした。 「・・・じゃあね」 「ま、待ってよアスカ!」  だがアスカは振り向かない。  シンジは、このアスカの「じゃあね」が、永遠に感じられるようだった。 「・・・なんでだよ。僕はいつだってアスカが幸せならいいって思ってた。カヲル君とア スカが上手くいけば、それでアスカはきっと幸せなんだって思ってた」  ググッ・・・ シンジは拳を握り締める。 「・・・なのに、なんでこんなに・・・胸が締め付けられるんだよ・・・」  目が霞んできた。 「うっ・・・くっ・・・」  ポタッ・・・ポタッ・・・  廊下の床に、雫が落ちる。 「・・・アスカにどんな感情をいだいてるかすら・・・分からないハズなのに・・・」 「・・・なのに、なんで涙が出てくるんだよ・・・」  だが、その答えも出てこない。 「・・・こんな時でも、自分の想いがなんなのか分からないなんて・・・」  そしてシンジは呟いた。 「・・・最低だ、俺って」  この握り締めた拳は、小刻みに震えているのだった。  その日の夜、碇家 「・・・母さん、ちょっと話があるんだけど、いいかな」 「あら、珍しいわね、シンジが話を持ちかけてくるなんて」  リビングでドラマを見ていた母ユイが、本当に珍しいものを見るような顔で言った。 「いいわよ、私で相談に乗れることなら、なんなりと話してみなさい」 「・・・うん、ありがとう母さん」  こう言う時、人は誰に相談すればいいか分からないでいるもの。シンジは、母という存 在に感謝した。 「相談というのに、リビングでするのもなんだから、ダイニングの椅子に座って話しまし ょうか」  普通、逆じゃないのかな? ダイニング  シンジとユイは、テーブルを挟んで向かい合って座っている。 「さて、話してみなさい」 「うん・・・」  ここでシンジは、全てを話した。 昨日の学校で、自分がアスカに言った事、昨日の夜でのアスカとの出来事、そして今日 学校で、アスカがカヲルと付き合い始めたこと、自分の気持ちが分からないこと・・・・ そして、胸を締め付ける切なさがなんなのか・・・。 「・・・・・・・」  シンジから一連の出来事を聞いたユイは、しばし無言でいた。 「あ、あの・・・・母さん・・・」 「・・・シンジ、今あなたが話したこと、自分自身でどう思うの?」 「え・・・? ・・・自分・・・自身?」 「そうよ、他の誰でもない、あなた自身」  ユイは真剣な口調と表情で、シンジに問い掛ける。 「僕は・・・分からないよ」 「分からないじゃなくて、考えるのよ」  少し強い口調でユイは言った。 「考える・・・?」 「そう、それが今のあなたに必要なことよ」 「今の僕が必要なことは考えること・・・?」 「・・・正直、私からはあなたに答えをあげることは出来ない・・・。正確には、私には 答えられないと言ったほうがいいかしらね」  ユイは、テーブルに置いてあるコーヒーを一口飲んだ。 コトッ コーヒーカップを置く。 「なぜなら、それはあなたとアスカちゃんとの問題だから」 「僕と・・・アスカの・・・」 「ただ、その切なさがなんなのか、それだけは教えてあげましょうか」 「・・・うん」  コクリ と頷いたシンジ。 「少なくとも、あなたがアスカちゃんに、何らかの想いをいだいているのよ」 「想い・・・」 「それが何なのかは、これもあなた自身が考えることで、私からはなんとも言えないわ」  ユイは、軽く目を細めた。 「・・・僕は・・・一体どうすればいいんだろう・・・」 「それを考えるのもシンジ自身の役目」  と一旦言葉を切り、また続ける。 「一つだけ私からアドバイスを言わせて貰うと、シンジ自身が考えて、考え抜いて出した 結論、答えなら、それでいいんじゃないかしらね」 「考え抜く・・・」 「そうよ、それが大切なの。だから、その結論が良い方向に傾こうと、悪い方向に傾こう と、決して後悔はしないでもらいたいの」 「母さん・・・」 「”後悔はしないように、やるだけのことはやる”これが私からの、母としてのアドバイ スよ」 「・・・ありがとう、母さん」  自分は、本当に良い母を持った そう思ったシンジであった。 「あとは、考え抜いたことを、アスカちゃんに言うなりなんなりするといいと思う」 「・・・うん、自分で考えてみるよ」 「頑張りなさい、アスカちゃんと上手くやりなさいよ」 「な、なんだよそれ」  シンジは顔を赤く染めた。 (・・・ありがとう、母さん)  今一度シンジは、心の中で感謝するのだった。  住宅街の路地 「・・・僕自身で考える・・・か。トウジとカヲル君もそんなことを言ってたね・・・」  シンジは、1人考えごとをするため、夜風にあたりながら路地を歩いていた。 「・・・そう言えば、アスカとは保育園から一緒だったよね。だから、今まで一緒である ことを、当たり前に感じていたのかもしれない・・・」  下を向いて歩く。 「僕が困った時助けてくれたのはアスカ・・・、僕がいじめられてた時助けてくれたのも アスカ・・・、僕を助けてくれたのは、ほとんどがアスカだった・・・」  普通、逆じゃないか とか思うシンジ。 「けど、一度だけ僕が慰めたこともあった・・・」  それは、小学校1年生の頃・・・。 「あれは、学校の帰りだったね・・・。その日は風が強くて、まだ体重の軽い僕達は必死 に踏ん張りながらの下校だった」  少し昔を振り返ってみるシンジ。 「その時、アスカの帽子が飛ばされちゃったんだよね・・・。しかも運悪く、用水路に落 ちちゃってさ・・・」  今度は上を向いて、星空を見てみる。 「それで、泣きじゃくるアスカに、僕が自分の帽子を被せてあげたんだった・・・。今で もよく覚えてるよ、『僕の帽子あすかにあげるから、だから泣かないで』 って言いなが ら、必死にアスカをなぐさめた」  雲ひとつない、満天の星空だった。 「そしたらアスカが 『ありがと・・・しんじ・・・』って僕に抱きついてきたっけ。あ の時は、どうしたものかと、顔を赤くしてあたふたしたものだったね・・・」  ははっ と軽く笑ってみる。 「・・・けど、嬉しかった。アスカから頼られたんだって、アスカから好かれたんだって 凄く嬉しかった」  シンジは、またしても自分の言った言葉にハッとした。 「・・・アスカに好かれて嬉しい・・・?」  なにか、見つけれた気がした。 「・・・今の僕はどうなんだろう・・・、アスカに好かれて嬉しいのかな・・・?」  いや、もう少しで見つけれようとしている。 「決して嫌じゃないと思う・・・、それどころか、昔以上にきっと嬉しいハズ・・・」  あと少しで・・・ 「アスカに好かれて嬉しい・・・、それは、僕がアスカのことを・・・」  もうちょっとで・・・、 「・・・好きだからなのかもしれない」  見つけられる。 「・・・好きってどういうことだろう・・・」  これが見つけれた時、僕はきっと・・・、 「幼馴染として好き・・・? クラスメイトとして好き・・・? それとも・・・」  アスカに大切な事を・・・、 「アスカという1人の少女が・・・好き・・・?」  言えると思う。 「・・・多分、僕は、全てのアスカが好きなんだと思う」  だから、今は考える。 「断言は出来ない、だって、人間の想いって、自分自身でもなかなか見つけることはでき ないから・・・」  そして、答えは出る・・・、 「断言は出来ない・・・、それでも僕は、アスカのことが好きだ、好きなんだ」  それは僕が心の奥底で、今まで求めていたものかもしれない。 「だったらどうする? 好きならどうする?」  言おう、アスカに言おう。 「そうさ、言うのさ、この気持ちを、この想いを、アスカに!」  碇シンジ14歳、今ここに、一つの答えを見つけたのだった。 「・・・ここは・・・?」  シンジは、いつの間にか、公園へと来ていた。 「ここって、僕やアスカが、喧嘩したときなんかによく来てたっけ」  考え事をしながら歩いていると、人はなぜか思い出の場所に来る。 「けど、お互いがここに来ることを知ってるから、いつもこの公園は僕達の仲直りの場所 でもあったっけ・・・」  シンジは、軽く公園内を歩いてみようと思った。 「・・・僕たちは、お互いがお互いを必要としていた・・・、そして僕は、これからもそ うでありたい、そう思ってる」  と、ここでシンジは、二つの人影を見つける。 「アスカ・・・カヲル君・・・」  そのシンジの呟きに、2人が気付いた。 「やぁシンジ君、こんなところでどうしたんだい?」 「2人こそ・・・どうしてここに・・・」  そのシンジの問いに、アスカが答えた。 「・・・渚に呼ばれたのよ・・・」 「アスカ・・・」  シンジは、複雑な想いに捉われていた・・・、夜に公園で、アスカがカヲルに呼び出さ れた・・・。 「・・・あの・・・アスカ」  今、自分がアスカに言う事を言わなければ、アスカは手の届かないところに行ってしま いそうで・・・。 「アスカに、言いたいことがあるんだけど・・・」 このまま何も言わなければ、アスカのカヲルとの仲が、進展してしまいそうで・・・。 「・・・なによ」  だから、この場で言おう、今すぐ言おう。シンジは、そう決断した。  ゴクッ  これから言う言葉に緊張して、生唾を飲み込む。 「・・・アスカ、君とは、ずっと幼いころから一緒だったよね」  例えこの場にカヲルが居ようとも、自分の想いには関係ない。 「・・・だから尚更、一緒にいることを当たり前だと思ってた・・・、一緒にいることの 大切さに気付かなかった」 「・・・だからなんだっていうのよ」 「だから、アスカとカヲル君が付き合い始めて、考えさせられた・・・考えた・・・。僕 はアスカのこと、どう思ってるんだろうって」  シンジの独白は続く。 「昨日までは、そんなこと分からなかった、考えようともしなかった」 「・・・・・・・」 「けど、実際にアスカがカヲル君と付き合いはじめて、胸が締め付けられるような切なさ を感じた」 「・・・・・・・」  アスカは無言で、そして真剣な表情で、シンジの独白を聞いていた。 「・・・それで考えた、この切なさはなんだろうって。そして考えて、出た答えが・・・」  一度言葉を区切って、そして・・・ 「僕はアスカのことが好きなんだ、ということ」 「!!」  アスカは、驚いた表情をした。 夜で暗かった、だが星空の明るさが、その表情をはっきりとさせた。 「今だからじゃない、ずっと前から好きだったんだと言うことが、分かったんだ」 「・・・それでアンタは・・・」 「・・・うん、アスカとカヲル君は付き合い始めた、それは事実」  そして、胸に秘めた一言を・・・ 「それは分かってる、けど、この言葉は言わせてもらいたい」  アスカに、この一言を・・・ 「・・・言ってみなさいよ」  言うんだ! 「アスカ、僕はアスカの事が好きだ、好きなんだ! だから・・・だから・・・!」  そして、言った・・・ 「僕と付き合ってください!」  その瞬間、空気の流れが止まった気がした・・・。 「・・・アンタ、今さらになってアタシと付き合えって言うの?」 「・・・今ごろになって、と言うのはもちろん承知の上だし、アスカは僕の事を嫌ってい るのかもしれない」  だけど・・・ 「だけど、今言った言葉は、僕が考えて出した答え・・・、そして、アスカに聞いてもら いたい言葉」  それは、誰がなんと言おうと、変わりない。 「だから、僕と付き合って欲しい。 もちろんアスカが嫌だというなら、付き合わなくて もいい」  例えアスカにフラれようとも・・・ 「ただ、アスカがOKの返事を出してくれるまで、僕はアスカに自分の気持ちを伝え続け るつもりでいるよ」  僕はアスカに自分の考えた答えを、言えるだけ言った・・・。  もう、悔いはない・・・。  そして・・・、  そして次の瞬間シンジが見たのは 「うっ・・・ぐすっ・・・」  涙を流して口元を手で押さえているアスカの姿だった。 (・・・なんでなのよ・・・)  アスカは思った、シンジに答えを求めるのは止めたハズなのに、なんでこんなに嬉しい んだろう、と。 「・・・アスカ?」 「・・・バカッ・・・ずっと待ってたんだからね・・・シンジからの答えを、言葉を、ず っと・・・」  そう、アタシはいつも待ってた、渚と付き合うって言ったあとも、ずっと。 「・・・ゴメン」  僕は謝った、今まで僕からの言葉を待ってくれていたアスカに。 「ちょ、ちょっと待ってほしいね、惣流さん、僕との関係はどうなるんだい?」  その様子を見ていたカヲルが、反発しようとした。 「アンタとの関係?」  だが次の瞬間、 「アンタとは、ただのお遊びよ」  ガガーーーン カヲルは見事に撃沈した。 「・・・シンジ、行きましょ」 「うん」  アスカはシンジの腕を取り、歩き始めた。  そして、この星空の下で、2人の運命も共に歩き始めた。  学校にて 「ねぇシンジ、今日帰ったらどこかに行きましょうよ」 「うん、いいよ、どこに行こうか?」  アスカとシンジは、先日まで以上に、よく話すようになった。 「う〜んとね、やっぱりデパート行きましょ!」 「え〜? またなの〜?」  だが、2人の間になにがあったのかは・・・ 「シンジは嫌なの?」 「そんなことないさ、アスカとなら」  この2人と、星空と・・・ 「・・・ふふっ、よかったね、2人とも」  教室のドアの影から、微笑んで見ているカヲル以外は、 「じゃー早速計画立てましょうか!」 「早いね〜」  知る由も無いのだった。  Fin.
あとがき はじめまして、The Epistlesに初投稿させて頂きます、Makkiyと申します。 意外と、シンジがカヲルとアスカを取り合うと言うのは少ないのではないでしょうか? やはりカヲルはナルシス○モと言うイメージが強いこともあるのかもしれませんね。 このような小説でも、読み応えがあったと感じて頂けるのなら、幸いです。 では、失礼します。


マナ:Makkiyさん、投稿ありがとーっ!\(^O^)/

アスカ:ラブラブで、とってもいい話ねぇっ!(^^v

マナ:あの・・・な、渚くんって・・・。(ーー;

アスカ:所詮、アイツは、アタシとシンジの中を取り持つ道具に過ぎなかったのよ。

マナ:一瞬、期待を持っただけに、余計哀れに見えるわ。

アスカ:そんなことないわよ?

マナ:どういうとこがよ。

アスカ:アイツは、栄えあるアタシとシンジのキューピッドになったんだから。

マナ:それを、世間ではピエロと呼ぶのよ。(哀)
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