とある週末。

シンジはアスカと共に街に出ていた。

幼馴染であり、同級生、そして自他共に認める恋人同士。

二人は映画を見た後、繁華街に程近い公園の中を歩いていた。
 

こうして二人でデートをするのは今日が初めてではない。

だが、いつもとは何かが違う。

気まずい雰囲気が、二人を包む。
 

シンジは口数の多いほうではない。

だから、二人きりの時はいつもアスカが話し、シンジは聞き役になる。

だが、今日はアスカがほとんど口を利かない。

故に、二人は黙ったままとなる。
 

この二人、別に喧嘩をしているわけではない。

ただ、言葉を紡ぐ事ができなかっただけなのだ。
 

話は三日ほど前に遡る。


ふたり

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とある晩の碇家、リビング。

父、ゲンドウが晩酌をしている。

シンジは廊下で深呼吸をした後、リビングへと入っていった。
 

「あの・・・父さん。」

「・・・・どうした?」

「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

「ああ・・・・構わん。」

「あの・・・・・・・旅行に行きたいんだ。」

「旅行だと?」

「うん、一泊だけだけど・・・」
 

シンジは事の次第をゲンドウに話した。
 

「・・・というわけなんだけど・・ダメかな?」
 

上目使いに父を見ながら、答えを求めるシンジ。

ゲンドウは何も言わず、自分の脇にある盆の上からお猪口を持ち上げ、シンジの目の前に置いた。

そして、お銚子をシンジの目の前に突き出した。
 

「・・・・・ん。」
 

訳のわからないシンジではあったが、取り敢えずお猪口を手に取り、酒を注いでもらう。
 

「・・・親が未成年の息子に飲酒を勧めるわけ?」

「なに、たまにはよかろう・・・・・飲めぬクチではあるまい?」
 

(注:未成年の飲酒は法律で禁じられています。良い子&良い親は真似してはいけません(笑))
 

「・・・・じゃ、いただきます。」
 

二人は小さく乾杯のポーズを取ると、一気に煽った。

ゲンドウは空いたお猪口に酒を注ぎ直す。
 

「・・・・・・ふぅ。」

「お前とこうして酒を酌み交わすのは初めてだな・・・・シンジ、いくつになった?」

「17だけど・・・」

「そうか・・・・」
 

ゲンドウは黙ったまま、酒を口にしていた。

シンジもまた、父に倣って酒を飲む。

二本目のお銚子が空になったところで、ゲンドウは唐突に切り出してきた。
 

「・・・・誰と行くのかは決まっているのか?」

「・・・・まだだよ。何時行くのかも決めてないんだ。」

「シンジ・・・・・お前も物事の分別がつく年だ。自分で考え、行動できるのであれば旅行は許可しよう。ただし・・・・・・」

「・・・ただし?」

「自分でも言っている通り、お前はまだ未成年だ。自分で責任の取れる範囲は限られている。

その範疇を超えた場合、その責任は親に回る。それを迷惑とは言わん・・・子供を守るのは親の役目だからな。

だが、他人に迷惑をかける行動はするな。

それさえ守れるのなら、何をしようとお前の自由だ。」

「・・・わかったよ。ありがとう、父さん。」

「ユイには話したのか?」

「ううん、父さんの許可を貰った後に話そうと思ってたから。」

「そうか・・・・・・」
 

シンジは嬉しかった。

最大の難関を乗り越えた事、そして父が自分を認めてくれている事が。
 

しばらく取り留めのない話を肴に飲んだ後、シンジは席を立った。
 

「じゃ、僕はもう寝るから・・・・話ができて良かったよ、父さん。」

「ああ・・・・」

「じゃ、おやすみ・・・・」

「・・・・・・待て、シンジ。」

「・・・・何?」

「・・・・・・避妊はしっかりするんだぞ?」
 

口の端を上げ、ニヤリと笑うゲンドウ。

シンジは顔を真っ赤にしたまま、口をパクパクさせていた。
 

「な・・・・・・いきなり何を言い出すんだよ、父さんっ!」

「それが男の義務というものだ・・・・・・さぁ、もう寝ろ。」

「・・・・・おやすみっ!」
 

シンジは顔を真っ赤にしたまま、リビングを出ていった。

それと入れ替わるように、ユイがリビングに入ってきた。
 

「アナタ・・・・シンジをからかいすぎちゃ駄目ですよ?」

「ああ・・・・わかっているよ、ユイ。」

「アナタなりの愛情表現でしょうけど・・・・・・・・でも、あの子も大きくなりましたね・・・・。」

「・・・男としてはまだ半人前だがな・・・・まだ先は長いさ。」
 

シンジは知らなかった。

母、ユイがキッチンでその話を聞いていた事を。

そして、夜遅い時間にも関わらず、何処かへ電話をしていた事も・・・・・・。
 

翌日、母があっさり許可を出したのは言うまでもない。
 



 

その日のほぼ同時刻、惣流家のキッチン。

アスカはテーブルでオレンジジュースを飲みながら、母・キョウコが風呂から上がってくるのを待っていた。

しばらくして、パタパタとスリッパの音を立てながらキョウコはキッチンへ入ってきた。
 

「あら、アスカ・・・・まだ起きてたの?」

「うん・・・・ねぇママ、お願いがあるの。」

「・・・・・何かしら?」
 

キョウコは食器棚からグラスを取り出すと、オレンジジュースを注いだ。
 

「あのね・・・・アタシ、旅行してきても良いかな?」

「何処へ?」

「えっとね・・・・・・」
 

アスカは前日の出来事を話した。
 

「そう・・・・・一泊ね・・・・・」

「うん・・・・・ダメ?」

「私の一存では決められないわ。パパにも聞いてみないとね?」

「はぁ・・・・・やっぱりそうなるのよね・・・・・・」
 

アスカの父親は単身赴任でアメリカにいる。

そして彼は目の中に入れても痛くない、というほど一人娘を溺愛していた。

基本的には甘いのだが、旅行などに関しては保護者同伴でなければ許してくれなかった。

ましてや、今回は・・・・・・・。
 

「はぁ〜〜〜〜あ・・・・・・気が重いなぁ・・・・」

「どうして?ちょっと電話で聞くだけの事じゃないの。」

「それはそうなんだけどぉ・・・・・・」
 

キョウコはその表情を見て、瞬時に娘の考えを理解した。

そして、安心させるようににっこりと微笑む。
 

「大丈夫よ・・・・・シンジ君が一緒なら、あのヒトも安心でしょうしね。」

「な・・・・・・なんでシンジが出てくるのよっ!?」

「あらあら、違ったのかしら?

女の子が二人で旅行、なんて言うよりは良いと思ったんだけど・・・・。

あのヒトもナンパとかされたら・・・・なんてヤキモキする事もないし。

それとも・・・・シンジ君以外にBFができたの?」

「冗談じゃないわよっ!!シンジ以外のオトコなんて・・・・・・・あ!」

「ふふっ・・・正直な子は大好きよ、アスカちゃん?」

「・・・・・・ンもぅっ!」
 

アスカは頬を紅潮させたまま、プイっと横を向いた。
 

「アスカ・・・・・」

「・・・・・何?」

「アナタ・・・シンジ君のことが好き?」

「な・・・・何よ・・・・・唐突に・・・・?」

「正直に答えて頂戴。」
 

アスカはキョウコのほうを見た。

先程までの笑顔ではない、真剣な表情。

アスカは姿勢を正すと、キョウコに向き直った。
 

「アタシは・・・・・シンジが好き。

今までずっとそばにいて、ずっと一緒に過ごしてきて・・・・・良いところも、悪いところも見てきたわ。

もちろん、シンジの全てを理解しているわけじゃない。

だけど・・・・全部ひっくるめてシンジが好き。大好きよ。」

「・・・例え一泊とは言っても、若い男女が二人きりで過ごすとなると・・・・予想はつくわね?

アナタは怖くないの?」

「・・・・・正直言って、怖いわ。

嫌だって言ってるわけじゃない。興味がないわけでもない。

ただ・・・・・それだけの関係になるのが怖い。

今までの関係が崩れる事になったら・・・・・・。
 

でも・・・・アタシは信じてる。

シンジはそんな事だけじゃ揺るがないって。

例えそうなったとしても、きっとシンジは今までと変わらないって。
 

だから、もし・・・・シンジが望むのなら・・・・きっとアタシ・・・・・」

「・・・・もういいわ、アスカ。」
 

キョウコはゆっくりと立ちあがると、アスカを両腕で抱いた。
 

「・・・・・ママ?」

「変な事を聞いてゴメンね、アスカ。

・・・・でも、それはとても重要な事なの。

身体を求め合うのは簡単な事よ。でも・・・・それを軽弾みな事はしてほしくないの。

あなた達はまだ若いわ・・・・これから色々な経験をして、何度も失敗を重ねて・・・そして成長していく。

やがて大人になって、母になって、おばあちゃんになって・・・・・その時、後悔してほしくないのよ。

わかってくれるかしら、アスカ?」

「うん・・・・・」

「良いわ、パパには私から話をしてあげる。

アナタは楽しんでらっしゃい・・・・・」

「ママ・・・・・・ありがとう・・・・・」
 

突然、リビングの電話が鳴り出した。
 

「・・・・こんな時間に誰かしら?」
 

キョウコはアスカを抱いていた腕を解くと、リビングへ向かった。

アスカはグラスをシンクに浸し、オレンジジュースのボトルを冷蔵庫に仕舞った。

ほんの1・2分で電話を終えたキョウコが、キッチンに戻ってくる。
 

「・・・・誰から?」

「ナ・イ・ショ。

さ・・・・アナタはもう寝なさい。明日も早いんでしょ?」

「ウン、ありがと・・・・おやすみなさい!」

「おやすみ・・・・・」
 

アスカがキッチンを出ていった後、キョウコはリビングへと戻った。

受話器を取り、夫の携帯番号をプッシュする。
 

『この事を話したら、どんな反応が返ってくるかしら?』
 

受話器から聞こえるコール音を聞きながら、キョウコはクスクスと笑っていた。
 
 



 

公園の中を無言のまま歩く二人。

シンジはアスカをチラッと見た。

心ここにあらず、といった風なアスカ。視線は完全に宙に浮いていた。
 



 

アスカ・・・・どうしたんだろ?

いつもより口数が少ないし、何だか上の空だし・・・・。

何か怒らせるような事でもしたかな?

いや・・・それはない・・・・怒ってるような感じじゃないし・・・・・。

どうしよう・・・旅行の事、ちゃんと言わなきゃならないのに・・・・・。

言い出せないよ・・・・これじゃ・・・・・。
 
 
 

ンもう・・・・何だか意識しちゃってる・・・・。

ママがあんな事言うから・・・・・シンジの顔が見れないよぉ・・・・・。

初めての旅行・・・・それも二人っきり・・・・・。

いっくら鈍感なシンジだって、絶対考えるわよね・・・・夜の事・・・・・。

それをアタシから誘うなんて・・・・言い出せないよぉ・・・。


 
 
 
 
 

・・・あれ?

アスカ、顔が紅いや・・・・・熱でもあるのかな?

風邪なんか引かせられないし・・・。
 
 

「ねぇ、アスカ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」



 
 
 
 

・・・・はぁ・・・どうやって切り出そう・・・・・・。

 
 

やっぱり様子がおかしいな。

返事すらしないなんて・・・・。
 
 

「アスカ・・・・・アスカってば!」

「は・・・・はいっ!」



 
 
 
 

え?え?え?

なんでシンジの顔がすぐ近くにあるのぉ?


 
 

「・・・何よ!ビックリさせないでよ・・・・・」

「さっきから呼んでたのに、ぼーっとしてるから・・・・」

「・・・・へ?」



 
 
 
 

ヤ、ヤだ・・・・・アタシ、ボーっとしてたの?

もしかして・・・ずっと呼ばれてたのに気付かなかったの?


 
 

「アスカ・・・具合でも悪いの?それとも、疲れた?」



 
 
 
 

あ・・・・やっぱりシンジだ。

アタシの事、いつでも気遣ってくれる・・・嬉しいな・・・・。


 
 

「ち・・・違うわよ・・・・ちょっと考え事してただけ。」



 
 
 
 

あーん、違う違う違う!!

ちゃんと『アリガト』って言わなきゃなんないのに・・・・。


 
 

「そう?ならいいけど・・・・・」







良かった・・・体調が悪いんじゃないんだ。

・・・・でも良くないか。

考え事って・・・何を?

聞きたいけど・・・・・聞けないよね・・・・・・。
 
 
 

ええいっ!

いつまでもこんな風に考えてたって埒が開かないわっ!

シンジなら大丈夫!アタシ、信じてるんでしょ?

・・・・行くわよ、アスカ!!


 
 

「ねぇ、シンジ・・・・」

「・・・何?」

「ちょっと話したい事があるの・・・・そこのベンチに座らない?」

「あ・・・うん・・・・」







・・・・何だろ、話って・・・・・。

深刻そうな顔してるし・・・・まさか、別れ話とか?

・・・・・確かに、僕といてもつまらないだろうし・・・・・僕なんかよりずっとアスカにお似合いの男なんて・・・・。
 

・・・・・待て、待て、待て!!

僕はいったい何を考えてるんだ!?

アスカはそんな娘じゃないよ!!
 

・・・・でも・・・・僕は・・・・・・。
 
 

「「・・・・・・・・・・・」」



 
 
 
 

う・・・ちょっと失敗だったかしら?

歩いていた時はそんなに感じなかったけど・・・・・寒い。

何処か喫茶店にでも行けば良かったよぉ・・・・・。


 
 

・・・あれ?アスカ震えてる・・・・・。

今日は冷え込みがきついから、寒いんだ。

・・・あ、そうだ!
 
 

「・・・あのね、シン「アスカ、ちょっと待ってて!」」



 
 
 
 

・・・え?え?

ちょっと・・・何処へ行くのよ?

せっかく言い出そうと思ってたのに・・・・・。

寒いし・・・・寂しいよぉ・・・・シンジぃ・・・・・。


 
 

はっはっはっはっ・・・・・・・・。

確か・・・・入り口のところに・・・・・・あった。

・・・ふう、結構疲れるな・・・・・。

えっと、小銭は・・・っと。

あっちゃー、一本分しかないか。

まぁいいや・・・・アスカが暖かくなればいいんだから。

確かこの銘柄、好きだったよね。

・・・さて!早く戻らなきゃ!
 
 
 

・・・・・・何処行っちゃったのよぉ・・・・シンジぃ・・・・・。

『ちょっと』とか言いながら十分くらい・・・・あれ?

まだ五分も経ってないのかぁ・・・・。

人を待つのって辛いモノなのよね・・・・って、アタシいつもシンジを待たせてる!?

でも・・・シンジは何も言わない。

怒らないし、文句も言わない。

いっつも甘えてるんだ、アタシ・・・・・。


 
 

はっ・・・・はっ・・・・はっ・・・・・・見えた!

早く行かなきゃ・・・・。
 
 
 

・・・・足音?

シンジが帰ってきた・・・・あんなに走って・・・・・。

嬉しいよぉ・・・シンジぃ・・・・・・。


 
 
 
 
 

「・・・はぁはぁはぁ・・・・・・ゴメン、アスカ・・・・・・」

「・・・何処行ってたの・・・よ・・・?」



 
 
 
 

・・・え・・・ココア?

アタシの為に買ってきてくれたの?

こんなに急いで・・・・汗までかいて・・・・・。

暖かいよ・・・・シンジ・・・・・。


 
 

・・・・ふぅ、いくら冬だからってダウン着たままマラソンしたら、汗かくよね・・・・。
 
 

「・・・もう・・・こんなに汗かいて!!

身体冷やして風邪でも引いたらどうするのよっ!?」







・・・・あ、アスカ?

・・・・ハンカチ、汚れちゃうよ?
 
 

「・・・・ゴメン。」

「・・・・・バカ・・・・・・・」







アスカ・・・こんなに一生懸命に汗を拭いてくれてる。

僕の事・・・・・心配してくれてるんだ。

少しでも疑った僕は・・・・バカだよね・・・・・・。

・・・大丈夫、アスカなら。

ちゃんと言わなきゃ駄目なんだ・・・・。
 
 
 

アタシ・・・・・何を悩んでたんだろ?

信じてるんでしょ?

好きなんでしょ?

大丈夫よ・・・・シンジなら。


 
 
 

「「あの・・・・」」

「あ・・・何?アスカ・・・」

「・・・シンジから先に言ってよ・・・」

「え・・・・」

「「・・・・・・」」



 
 
 
 

ちゃんと言わなきゃ!
ちゃんと言うんだ!
 
 

「・・・じゃぁさ、せーので一緒に言わない?」

「うん・・・・ズルしないでよ?」

「わかってるよ・・・・・せーのっ!」
 

「「今度の休みに、旅行に行かないっ!?」」







 

ポカンとした顔で見つめ合う二人。

まさか同じ事を言うとは思ってもいなかったのだ。
 

「どうして・・・・なんで?」

「それを聞きたいのは僕のほうだよ・・・・・」

「え・・え・・・えぇ〜〜〜!?じゃぁ何?アタシ達ずぅっと同じ事考えてたワケぇ?」

「ずっと考えてたって・・・・だから今日は口数が少なかったの?」

「シンジはいつもと変わりないじゃない!」

「僕は・・・・・その・・・・・アスカが元気ないなって・・・・だから・・・・」

「あ・・・・・・ゴメン・・・・」

「い、いや!アスカが謝る事なんてないんだ!僕が勝手に・・・・その・・・・・勘違いしてただけで・・・・・・」

「・・・勘違い?何を?」

「いや・・・・だから・・・・僕と一緒にいるのはつまらないかなって・・・・それで・・・・」

「それで?」

「・・・・・別れ話でも・・・切り出されるんじゃないかって・・・・・・ゴメン!!」

「・・・ヒッドぉ〜いっ!シンジはアタシの事疑ってたんだぁ〜〜〜!!」
 

両手で目を抑え、蹲るアスカ。

シンジはアスカが泣き出したと思い、ますます慌てふためいた。
 

「わっわっわぁ〜〜〜!ゴメンゴメンゴメン!!!僕が悪いんだよ、アスカ!!」

「・・・・いんだから・・・・」

「・・・え?」

「・・・・こーしなきゃ、気が済まないんだからぁっ!」
 

急に身体を起こしたアスカは、シンジの首に抱き付くと強引に唇を奪った。
 

「・・・・・ん・・・・・♪」
 

た〜〜〜〜〜〜〜っぷり一分半は続いただろうか。

アスカは頬を紅潮させながら、満足そうな顔で唇を離した。
 

「・・・・・・・ふぅっ♪」

「・・・・・・・・騙したね?」

「だって・・・・・・」

「・・・・・はぁ。」
 

幸せそうな表情で腕を絡めるアスカに、何も言えないシンジ。

アスカはシンジの腕に顔を埋めたまま、小さな声で聞いた。
 

「・・・・ね、どうしてすぐに言ってくれなかったの?」

「・・・・切り出せなかったんだ。その・・・アスカと旅行に行く、っていうのはすぐに決めたんだけど・・・・泊まりだし・・・・。

父さんに話した時・・・言われた言葉が・・・・・耳から離れなくって・・・・」

「・・・・なんて言われたの?」

「え・・・・・・・・・・・その・・・・・・・・・・・・・『避妊はしっかりしろ』って・・・・・・」

「・・・・・・・えっち。」

「仕方ないだろ?僕だって・・・・・男なんだし・・・・・・・」

「・・・・アタシも同じだよ。」

「・・・え?」

「あのね・・・ママに言ったの・・・・旅行の・・・・そしたら、すぐにシンジの名前が出て・・・・。

『後悔だけはしないで』って言われて・・・・・・。

旅行は何度も一緒に行ったけど、二人っきりで泊まるのは・・・・初めてでしょ?それで・・・その・・・・・・・」

「プッ・・・・・アッハハハハハハハハ!」
 

突然笑い出したシンジに、アスカは驚いた。
 

「ちょ・・・・何笑ってンの?」

「だってさ・・・・・僕達、考える事まで似てきたんだ・・・・・面白くない?」

「・・・・・・まぁね。付き合い長いし・・・・・・『似た者夫婦』ってカンジかな?」

「・・・・・アスカ・・・・・・夫婦って・・・・・・・・」

「あ・・・・・・・・・・・」
 

自分の言った台詞に、そして言われた台詞に反応して真っ赤になる二人。

暫くの沈黙の後、シンジは静かに口を開いた。
 

「・・・・・ねぇ、アスカ。」

「・・・・・何?」

「余計な事は考えないでさ・・・楽しく過ごそうよ。今日みたいに肩肘張ってるようじゃつまらないし。

なるようになる・・・僕達はそれでいいんじゃないかな?」

「・・・そうよね・・・・そうだよね、シンジ!」
 

アスカはシンジを見上げた。

そこには、アスカしか見ることのできない最上級の笑顔があった。
 

アスカは勢い良く立ち上がると、シンジの腕を引っ張った。
 

「今までの時間を取り返すんだから!

シンジっ、デートの続きよっ!」

「そうだね・・・行こう!」
 

シンジが立ち上がると、アスカはその腕にぶら下がるように飛びついてきた。

二人は歩き始める。

いつものように。

いつもの笑顔で。

寄り添いながら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「・・・・でさぁ、シンジはなんで旅行に行こうなんて思ったの?」

「あ・・・・あのね、駅前にスウィフトモールってアーケード街があるだろ?そこの楽器店に楽譜を買いに行ったらさ、ちょうどイベントをやってたんだ。

先着一万名までが籤引券を貰えて、それで当たったんだ・・・・特等が。」

「・・・嘘?アタシと一緒じゃない!!」

「一緒って・・・・・どういうこと?」

「この前駅前にNERVが開店したでしょ?」

「ああ・・・・あの大きいデパート?」

「そう!でね?開店初日に行ったの!」

「・・・・あれって平日じゃなかったっけ?だからアスカ、あの日遅刻・・・・・・・・・・」

「・・・・細かい事は気にしないの!

でねでね?初日だから『1』がつく入場者・・・1番目とか、1111番目とか?そういう順番になったら籤引ができて・・・・当たったの!一等賞!」

「へぇ・・・・アスカは何番目だったの?」

「とーぜんっ!1番目よっ!」

「ハハハ・・・・・アスカらしいや・・・・・・で、行き先は?」

「アタシだってシンジの聞いてないよぉ?」

「そう言えばそうだね・・・・・じゃ、また一緒に言おうか?」

「じゃ、行くわよ・・・・・せーのっ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

二人に幸多からん事を・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 


後書きという名の戯言:

初めまして、map_s@駄文書きと申します。以後、お見知りおきを。

・・・・って言うか、何を書きたかったんだろう・・・・・
当初はベタベタで超甘甘・・・・ってのを考えてたのに・・・・・

ま、所詮駄文しか書けない作者なんで、こんなもんでしょう(苦笑)

ココまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

ターム様>こんなんで良ければまた載っけてやってください m(__)m

んでわ。


マナ:な、な、なによっ! 泊まりってーーっ!

アスカ:だって、1等当たちゃったんだもん。

マナ:だからって、シンジを誘わなくってもいいでしょっ!

アスカ:他に誰を誘えってのよぉ。仕方無いじゃない。

マナ:わたしが、一緒に言ってあげるわっ!

アスカ:イヤよっ! 誰がアンタなんかとっ!

マナ:じゃ、綾波さんとでもっ!

アスカ:イヤだって言ってるでしょうがっ! 女の子同士で行ったら、ナンパされるんじゃないかってパパが心配するのよ。

マナ:シンジと行った方が、心配だわっ!

アスカ:へへへーーー、羨ましいんでしょうぉ。

マナ:うぅぅ・・・。

アスカ:所詮、アンタとシンジは旅行になんか行けないのよっ! わかったわねっ!

マナ:うぅぅ・・・。

アスカ:アンタなんか、シンジとどっこも行ったことないでしょっ! アタシなんか旅行よぉぉぉぉ(^O^)

マナ:ずるーいっ! アスカが旅行で、わたしはシンジと一緒お風呂に入っただけなんてーーーっ!(;;

アスカ:ちょっと待ったーーーーっ!!!(ーー#
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