朝はいつも同じ。
 
「ほら!もうっ。早く行くわよ!バカシンジ!」
「わかってるよぉ・・・もう・・・。誰のせいで食器片付けられなかったと思ってるんだよ・・・。」
「なんか言ったぁ!?」
「うわっ・・・ゴ、ゴメ・・な、何も言ってないよ!」
 
カバンを振り上げて怒り出すアスカに
条件反射的に謝るシンジ。そして横では・・・
 
「ほらぁ、シンちゃんもアスカも痴話喧嘩はそれくらいにして、早く行かないと遅刻よ?」
 
ニマニマとした表情のミサトが二人をからかっている。
 
「ミ、ミサト(さん)!?誰がシンジ(アスカ)なんかと痴話喧嘩してるって言うの(言うんですか)!?」
 
そしてミサトに返す言葉はしっかりと息ピッタリなユニゾン。
 
いつも・・・こうだった。
そう・・・『日常』だったお互いのやりとりから一日が始まる。
 
 
 
「それにしても・・・高校に進学してまでもあの頃のみんながいるなんてねぇ。」
 
通学途中のアスカが突然言い出す。
シンジとアスカは同じ高校に進学していた。
 
 
『あ、アンタと同じ高校じゃなきゃ誰がアタシのお弁当と、アタシのストレス解消を誰がしてくれるのよ!』
『ぼ、僕はアスカのストレス解消器なの!?』
『そうよ!だから・・・あ、アタシがアンタに合わせて高校のランクを・・下げてあげるわよ。』
 
そんな会話だった。
同じ高校へと進学した時の会話は。
 
 
「・・・僕はアスカに無理矢理・・・あ、・・・いえ、何もありません・・・。」
 
途中で止めた言葉は 横を歩くアスカの表情を見たからだった。
 
「ふーん、そう。アンタはアタシとは離れたかったわけだ?」
 
少し 不機嫌になった顔と ココロは淋しいままでそんな強がりを言ってみせた。
 
「そ、そんなことはないよ。で、でも・・・トウジや洞木さん、ケンスケまで一緒ってのもめずらしかったよね。」
 
慌てて濁す答え。だがそんな答えでもアスカは嬉しかった。
沈黙よりかは・・・
 
「まぁね。ヒカリと鈴原はわかる気がするけど。」
「え?どうして?」
 
本当に知らないという顔で聞き返したシンジ。アスカは思わずため息を浮かべる。
 
「・・・アンタ、ヒカリが鈴原のこと好きって知ってるでしょ?」
「あ、そっか。トウジも洞木さんのこと好きだもんね・・・。」
「・・・なにそれ・・・。」
「あれ・・・?アスカは知らなかったの?トウジが中学の卒業式終わった日に言ってたけど・・・。」
「き、聞いてないわよそんなこと!アンタ・・・そんなスクープをアタシに黙ってたわけぇ!?」
「べ、別に言う必要もなかったし・・・。トウジと洞木さんのことなんだから・・・。」
「・・・それもそうね・・・。」
 
通学
学校
友達
会話
彼氏・・・(シンジ)
彼女・・・(アスカ)
そんな言葉をココロに浮かべているのは
年頃とも言うべき二人
二人以外にも
人なら必ず持つ感情
なんの羞恥もいらないそれらは 持つ事に意味があるからこそ 人は生きていけるのかもしれない
かつて壊れかけた世界があるからこそ そう思えるのかもしれないけれど・・・
 
 
 
 
「アスカと碇君って付き合ってるんでしょ?」
「いつも登下校一緒だし・・・。」
「手こそ繋いでないけど、一緒に暮らしてるそうじゃない?」
「もしかして二人って・・・もう結婚のことまで考えてたりするわけ?」
 
「シンジと惣流は付き合ってるんやろ?」
「いつもと言っていいほど一緒にいるよな、中学の頃から。」
「もしかして・・・キスもしたのか!?」
「なんで碇ばっかいい思いしてんだよ・・・。」
 
など、同級生・上級生問わずに聞かれる質問に対してシンジとアスカは同じ言葉を言っている。
 
「僕(アタシ)とアスカ(シンジ)はそんなんじゃない(わ)よ!!」
 
中学から仲のいいヒカリ、ケンスケ、トウジの三人にとっては、あの頃から今の高校生活までの二年間何をしていたのだ、という大きな疑問を抱えずにはいられない答えだった。
 
「ま、二人がああ言うならいいけど。でも、さっさとくっついちゃえばいいのにねぇ。」
「せやせや、あんなに仲ええならのぉ。」
「全く・・・いや〜んな感じ。」
 
本人達の前では決して口にしないそれは
三人の心の中だけの言葉だった。他の大多数の生徒も同じことだろうが。
 
 
 
「シンジ!いい?午後1時!噴水公園の噴水前よ!ずぇぇったいに遅れないでね!」
 
愛しい人だった
その人に 素直になれなかったけれど
二人で遊べる時間を大切にしたくて
映画に誘った
 
 
そして・・・
 
「うーん・・・これもいいわねぇ。あ、でもこれもいいかもぉ。」
 
鏡の前で1時間ほど独り言を連発する少女が一人。
どうやら服選びに迷っているようだ。
 
「・・・うー・・・。うん!これにしよっと!」
 
そう言って決めた服は、レモンイエローのワンピース。そう、初めて二人が出逢った時にアスカが来ていたものよりサイズが少し大きいものだ。
別段、今日は記念日でもない。デートに誘うからと言っても、週末の土曜や日曜には時々だが二人キリで買い物にも行っている。
だから二人でどこかへ行く事に関してはめずらしくもない・・・ただ、待ち合わせをする、ということ以外は。
これにも特別な意味はない。
アスカが先に用事があっただけ。家に一度帰るのも億劫なので待ち合わせてから行こうということだったから。
 
「いい?シンジ。1時よ、1時!アタシは朝のうちはヒカリとの約束があるから、その後で噴水公園まで行くけど、アンタは遅れるんじゃないわよ!?」
「わかってるよぉ・・・。」
 
ヒカリとの用事のために、出かけようと玄関にいるアスカを見送るシンジ。
 
「じゃ、行ってくるわ。」
「はい、行ってらっしゃい。」
「・・・って、なんか変よね。また昼に会って遊ぶのに。」
「・・・まぁ別にいいんじゃないかな。」
「ま、ね。・・・じゃ。」
「ん。」
 
他愛ない会話を済ませてマンションを後にするアスカだった。
 
 
「シンちゃ〜ん♪」
 
 
ダイニングへと戻ってくるシンジを迎えるはおなじみとなったからかい役、保護者の葛城ミサトだった。
 
「な、なんですか?」
「アスカとデェトなんでしょう?」
「べ、別に・・・デートっていうほどのことじゃ・・・。」
「あら、二人キリで映画見に行くなんてデート以外のなにものでもないじゃなぁい?」
 
意地悪く言うミサトは楽しさ満点の笑顔を表していた。
 
「・・・・か、からかわないでくださいよ・・・。で、デートならアスカは僕なんか誘わないし・・・。」
 
顔を赤くしてそう言ったシンジにミサトは少し驚いていた。
 
(・・・シンちゃんって鈍感だとは思ってたけど、これほど鈍感だったとは・・・。使徒いなくなって平和だから平和ボケも重なって余計に鈍感になっちゃったのかしら?)
 
そんなことを思っていた。
 
 
 
一方アスカは・・・
 
「はぁ・・・なかなかいいものないわねぇ・・・。」
 
ショッピング・モールの中。ブランド品が豊富な店を何軒か見回っていた。
 
「アイツに似合いそうな服って・・・なかなか見つからないのよねぇ。パッと見冴えないだけに!」
 
ため息を吐きそうになった言葉だがわざと語尾を強く思い浮かべる。
そして・・・左手首につけてある一つの銀のブレスレットを眺めた。
 
「・・・アイツからはこんな綺麗なものもらっておいて・・・アタシだけアイツに何もあげてないのって・・・やっぱり・・・悲しいわよね・・・。」
 
 
 
ブレスレット・・・そうシンジがアスカへと贈ったものだった。
 
『アスカ・・・合格おめでとう。」
『・・・アンタバカァ?アタシが落ちると思ってたわけぇ?あんなヘボ高校。」
『・・・でも、合格したから・・・そ、それで・・・あの・・・これ。』
 
そう言ってアスカへと差し出す小箱。
 
『・・・何よ、これ?』
 
少し頬を朱色に染めて問うアスカ。
 
『いいから・・・開けてみて。合格祝いだから。』
 
そして、アスカが小箱から取り出したのは
銀色に輝くブレスレットだった。
 
『・・・綺麗・・・。これを・・・アタシに?』
『うん。』
『・・・高かったんじゃないの?』
『うん。でも・・・アスカが喜ぶかなって思ったから・・・。』
 
この言葉に顔を赤らめ、そして嬉しさで溢れる笑みを表したアスカだった。
ただ、言葉は素直になれなかったが・・・
 
『・・・ありがと。あ、ありがたく頂いておくわ。い、いい?あ、アンタとアタシは・・・ど、同居人であってせ、戦友だから・・・あ、あた、アタシは受け取ってあげるのよ?』
 
かなりどもった言い方。素直な気持ちを隠して言っているが、ブレスレットを受け取ったアスカの笑顔にシンジも笑顔を見せた。
 
 
「はぁ・・・アタシも・・・アイツに何かあげなくちゃ・・・そして・・・アタシの素直な気持ちを・・・。」
 
少し そんなことを思い浮かべたアスカは顔を赤くした。
 
「シンジへのプレゼント・・・どうしよう・・・・。」
 
一通り見回った店にはアスカ好みのものがなかった。再び 外に出て店を探そうと思ったアスカ。
そして、一軒の店を見つけた。
 
「・・・?・・・『名前刻みます・・・お好みのイヤリング、ブレスレット、指輪等に愛する人の名前を・・・』?
 そうだ!」
 
その店の看板を見て何かを思いついたアスカ。少し、嬉しい気持ちになっていた。
 
 
 
 
 
「それじゃ、ミサトさん。行って来ます。」
「はい、行ってらっさい。アスカと上手くヤルのよぉ♪」
「な、なにをですか!?」
「デ・ェ・トよ、デェト☆頑張んなさいね〜♪」
「・・・もう・・・い、いっつもからかうんだから・・・ミサトさんって・・・。」
 
テレながらも嬉しそうに家を後にしたシンジ。
噴水公園へと向かった。
 
 
 
 
「ちょ、ちょっと遅れそうかな・・・。ヤバイなぁ・・・遅れたらアスカにまたなんか奢られそう・・・。」
 
急ぎ足で噴水公園へと向かっていたシンジ。どうやら思ったより家を出るのが遅かったようだった。
 
「・・・もう12時57分?・・・ホントヤバイかも・・・。1分以上遅れたらなんか言って来るからなぁ・・・アスカは。」
 
 
 
 
 
そして・・・やっと噴水前へと着いたシンジ。すでに噴水の前にはアスカがいた。
 
 
 
「・・・ゴメン!アスカ・・・遅れちゃった・・・。」
「・・・・5分遅刻ね・・・。」
「ゴメン・・・。」
「・・・ケーキ。」
「・・・・へ?」
「だから、アタシを待たせた罰よ!ケーキ買って。」
「わ、わかったよ。アスカ。」
「ん、よろしい!じゃ、早く行きましょっ。」
「うん。」
 
楽しいデートが始まる・・・と、アスカとシンジも思っていた。
だが・・・
 
 
 
 
 
運命の出会いと言うものが在るなら
二人が出会えたことも運命の賜物であって
これまで歩んできた道も
その運命のなかの一つ
そして
二人がここまで来たのも
数ある道の中から二人が選んだ道なのかもしれない・・・
 
 
映画の内容は・・・ありきたりなものでもあった。
運命的な出会いをした男女が
楽しみと哀しみの日々を過ごし
あることから離れ離れになってしまう
が
想い続けた互いの事を胸の奥で消さずに行き続けた男女は
幸せの内に運命と言える再会を果たし
結ばれたのだった。
 
 
 
「はぁ・・・けっこう感動的だったわね。」
 
少し涙を流した跡があるアスカ。
 
「うん。感動したね。」
「はぁ〜あ・・・アタシもあんな運命的な恋してみたいなぁ。」
 
確かにシンジへと向けられるであろう言葉だった。
しかしシンジはアスカのそんな言葉を耳にして
そのアスカの望む相手が自分ではないと思ってしまう。
そして・・・
 
「・・・アスカなら・・・すぐにできると思うよ・・・。」
「・・・・そうかしらねぇ・・・。」
 
シンジのその言葉に対しては少し淋しそうな顔をしたアスカ。
 
「そうだよ・・・。だから・・・」
「・・・だから?」
「・・・アスカって・・・僕みたいな男の子と一緒にいるより・・・もっと他の素敵な人のほうが・・・いいんじゃない?こういうことするのは・・・。」
「・・・なっ、なによそれ・・・。何が言いたいわけ!?」
「な、なにって・・・」
 
急に不機嫌になり怒鳴ってしまった。
驚いたシンジは少し目を大きく開いた。
 
「・・・そう、アンタ・・・アタシとこういうことしたくなかったのね?」
「そ、そんなつもりは・・・」
「・・・知らない!もういいわ!先に帰ってる!!バカシンジなんか・・・大嫌い!!」
 
そう言ったアスカは瞳に涙を溜めていた。溢れそうになった瞳をシンジに向けず、シンジには背中を向けて帰ろうとしたアスカ。
 
「あ、ま、待ってよ・・・アスカ!」
 
慌てたシンジ。急いでアスカをとめようとした・・・が。
 
シンジが一歩踏み出した瞬間だった。
 
 
 
 
 
周りの人々の楽しげな会話やざわめきを切り裂くように
急ブレーキの音が辺りに響いた。
 
そして・・・何かと何かがぶつかる音と・・・
人が倒れる音が聞こえる・・・
 
 
「?・・・・・シンジ?」
 
 
 「き、キャー!?」
 「お、おい・・・人がはねられたぞ!」
 「きゅ、救急車呼べ!」
 
あたりの慌てたざわめき声がやけに遠くに感じた。
アスカは・・・一つの・・・今は笑顔が消えたカラダを・・・
血に塗れたカラダを・・・立ちすくんで眺めていた・・・
 
手にしていたカバンが落ちる
その音がやけに耳の奥に響いた・・・
アスカの中で・・・何かが割れた感じがした・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
シンジ・・・・?なんで・・・・倒れてるの・・・・?
なんで・・・・どうして?血まみれに・・・・
ねぇ・・・・どうして!?
アタシ・・・・シンジに・・・・最後になんて言った・・・?
 
バカシンジなんか・・・大嫌い!!
 
いや・・・シンジ・・・・・起きて・・・・おきてよ・・・・
シンジ!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
総合病院 立ちすくむアスカの姿・・・
 
5時間近くの手術だった・・・
 
現在の医療なら簡単に治せるはず・・・
だがそうはいかなかった・・・
 
医者の話によると
傷ついた臓器の箇所が難しく、おまけに衝突した車のスピードがかなり早かったらしく、頭も割っていて
内臓からは大量の出血が見られていたらしかった
 
「手術は済みました・・・が、意識不明の重体です。長時間の手術のせいで、体力もかなり落ちています・・・おそらく・・・2,3日が山場ではないかと・・・。」
 
看護婦の言葉は・・・アスカの頭の中にやけにうるさく、そして・・・何よりも重くのしかかった。
 
 
 
 
 
 
 
「そ、そんな・・・シ、シンジ君が・・・。」
 
病院には、警察の人からの連絡を聞き、慌てて来たミサトと、シンジとアスカたちの親友であるトウジ、ケンスケ、ヒカリの姿もあった。
 
「なんで・・・なんでシンジなんや・・・。」
「シンジ・・・・。」
「碇君・・・。」
 
トウジとヒカリとケンスケとミサトは 集中治療室の前。ガラスの向こう たくさんの管やらをつながれているシンジの姿を眺めながら・・・目に涙を溜めていた。
 
一人・・・アスカだけは・・・・集中治療室の外の廊下にあるベンチに座り込み
蒼い瞳を鈍くさせていた。虚ろなまま・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「アスカ・・・ねぇ・・・アスカ」
「・・・シンジ?・・・・・シンジなの!?」
「うん。僕だよ。僕はそばにいるよ。だから・・・」
「シンジ・・・シンジ!」
「いつでも側にいるよ・・・そう・・・たとえ・・・肉体が壊れても・・・」
「し、シンジ・・・?」
「この身が朽ち果てても、アスカを・・・」
「し、シンジ!嫌!行かないで・・・シンジ・・・」
 
 
消えていくカラダと愛した笑顔
 
暗い
闇の中へ
引きずり込まれる少年のカラダ
 
止めたくても
止められず アスカは闇の中
シンジの手すら触れられず
シンジが闇へと引きずり込まれるのを
泣き叫びながら
見ているだけしかできなかった・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
「シンジ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・か・・・・アスカ・・・・スカ・・・・アスカ!」
 
 
 
 
 
 
 
「!?」
 
「・・・大丈夫?アスカ・・・。うなされてたわよ?」
 
時刻は・・・夜9時を過ぎていた。
アスカは何時の間にかベンチの上で寝てしまっていたようだ。
 
「あ・・・・ヒカリ・・・。」
 
ずっと 眠りながらも涙を流していたアスカの側にいてくれたのはヒカリだった。
 
「・・・碇君の・・・夢を見ていたのね?」
「・・・・うん・・・・。」
「・・・大丈夫よ・・・アスカ。碇君は・・・・きっと助かるわ。」
「・・・・シンジが・・・・シンジが消えちゃう夢見たの・・・。」
「・・・・・・。」
「嫌ぁ!シンジが・・・シンジが・・・死ぬなんて・・・・嫌ぁ!!」
「・・・・・。」
「アタシ・・・事故おきる前に・・・・ひどいこと言っちゃったの・・・・バカシンジなんか・・・大嫌い・・・って・・・・シンジが・・・・シンジが事故したの・・・あたしのせいなんだ・・・・アタシが・・・あんなこと言ったから・・・。」
 
何も言葉が出なかったヒカリ。
溢れる涙を無理矢理我慢し、泣きじゃくるアスカから目を反らしていた。
 
その後・・・発狂したアスカは、看護婦に鎮静剤を打たれ、再び眠っていた。
 
 
 
 
 
 
「シンジ・・・惣流が泣いてるんや・・・戻って来いや・・・なぁ・・・シンジ!」
 
トウジは ずっと 窓の向こう ベッドの上でまぶたを閉じているシンジに向かって叫んでいた。
ケンスケは・・・トウジの横で・・・涙を流していた。
 
 
 
 
 
「洞木さん・・・アスカのこと・・・ありがとう。」
「いえ・・・。私も・・・アスカと一緒にいないと・・・恐いので・・・。」
「・・・。」
 
ずっとアスカの側にいてくれたヒカリに礼を言うミサト。
ずっと泣いていたようだ。目をあかくはれさせ、頬には涙の跡が残っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「先生!患者の容体が!」
 
 
・・・翌日のことだった・・・
シンジの容体が悪化したらしい・・・
 
アタシは・・・家にも帰らず・・・
ずっとベンチに座り込んだままだった
アタシの前を
何人かあわただしく走ってる
だけど・・・それも・・・目には映らなかった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
シンジの事故から3日が過ぎた
看護婦が言っていた
ここで意識を取り戻さなければシンジは・・・
 
 
アスカは ずっとベンチにいた
悲しみを押し殺したミサトが毎日病院に来て、アスカへの食事も持って行っていたが
アスカはそれらを受け付けはしなかった。
ただ・・・虚ろな目で
『シンジ・・・・』
そう呟いていただけだった・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「加持君・・・アタシ・・・どうすればいい・・・?」
「・・・葛城・・・。」
 
シンジの様子を見に来た加持にすがりついたミサト
 
「・・・シンジ君・・・。NERVの護衛がなくなって・・・こんなことが起きるなんて・・・。」
 
窓ガラスの向こうのシンジを見ながら そう呟いたのは 加持と同じく、シンジの様子を見に来たリツコだった。
 
「ねぇ・・・リツコ・・・加持君・・・。運命って・・・あるの?」
「葛城・・・」「ミサト・・・。」
「・・・アタシの両親は、形は違えど・・・セカンドインパクトで死んだわ・・・。それが人の手で引き起こされたことだとしても、家族をなくしたの・・・。」
「「・・・・・・。」」
 
流れるミサトの涙には 二人は言葉を出せないでいた。
 
「その上・・・また・・・家族を失うの!?嫌!!・・・シンジ君・・・・シンジ君を・・・助けてあげて・・・。」
 
シンジを
弟のように可愛がってあげていた
血は繋がっていなくとも
家族同然だと思っていた
そのシンジが
消えてしまいそうなことに
壊れそうな程悲しんでいた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ふと・・・見上げた
視界の先 愛しい人の姿
 
「・・・シンジ・・・?シンジ!!」
「アスカ・・・逢いたかったよ。」
 
そして飛び込むアスカはシンジの腕に抱かれた。
 
「シンジ・・・アタシ・・・アンタのことが好きだからね!」
「アスカ・・・」
「シンジ・・・もう・・・アタシを置いて・・・どこにも行かないでね!?」
「・・・アスカ・・・。」
 
そして・・・
二人の距離が
遠くなってしまう
 
「・・・シンジ?・・・・シンジ!待って・・・待ってよ・・・シンジ。待って!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・・・また同じ夢・・・・
あれから・・・同じ夢を繰り返し見てた
ずっと・・・好きだった人が
抱きしめてくれる
だけど
その先には
必ず二人が離れてしまう
そう
永遠に思える闇の中で・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
もう・・・今は・・・シンジの笑顔が見えない・・・
ねぇ・・・誰か・・・思い出させて・・・
 
シンジの声を・・・
 
シンジの笑顔を・・・
 
シンジのぬくもりを・・・
 
シンジの優しさを・・・
 
シンジの全てを・・・
 
誰か・・・思い出させてよ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
事故から3日目の夕方だった
シンジの容体が再び悪化したらしい
 
だけど・・・もう・・・アタシは何も考えられなかった・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(ピー・・ピー・・ピー・・)
 
慌しい集中治療室
中では
容体が悪化したシンジを
懸命に救おうとする医師達がいた
 
「心拍数・血圧ともに低下!」
「いかん!心臓マッサージ、急げ!」
 
 
 
 
 
 
そんな慌しい治療室を眺めながらアタシは・・・
 
「誰か・・・シンジの顔を・・・思い出させてください・・・。」
 
そう
呟いていた・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
何もない
ただ暗いだけ
そこはまさに闇そのものだった
 
・・・・・ここは・・・・?
あれ・・・・僕は・・・・
そうだ・・・アスカと映画を見て・・・それで・・・
・・・・・・・・・・・・・
そっか・・・・僕・・・アスカにひどいこといって・・・
帰ろうとしたアスカを止めようとして
それで・・・
 
 
暗闇の中
少年は 彷徨っていた
 
あれ・・・なんだろ?光・・・?あ、あそこに行けば・・・何か見つかるかな・・・
 
見つけた先
一筋の光が差し込んでいた
 
・・・暖かい・・・・
この先って・・・何が在るんだろ・・・
 
光に触れる指
だが
シンジの耳に
 
 
 
 
自分を呼ぶ声が聞こえた・・・
 
 
 
 
 
行ってはダメ
 
?・・・だ、誰?
 
君は・・・まだ向こうに行くには早すぎる
君の愛しい人が待っているんだから
 
だ、誰なの・・・?君達は・・・
 
僕達のことは関係ないよ
だから 君は逢いたいと思う人のために
あの光の向こうへは行かないで
 
僕が・・・逢いたいと思う人・・・?それは・・・アスカだ・・・・
 
逢いたいのね?あなたの愛しい人に
 
・・・逢いたい・・・・死にたくない・・・逢って・・・・僕の気持ち、伝えたい・・・
 
君のココロの強さは 彼女のためかい?
 
そう・・・・アスカが・・・僕を強くしてくれた・・・アスカがいたから・・・・今の僕が在るんだ・・・
 
なら・・・逢いたいと想う気持ち・・・強く強く想って
そして・・・あなたの大切な人の笑顔を思い描いて
ずっと いて欲しいと想ってる大切な人の姿を
思い描いて
 
 
 
アスカ・・・・
逢いたい・・・・
逢いたいよ・・・
逢って・・・
まだ伝えてない・・・
僕の本当の気持ち・・・・
伝えたいよ・・・・
だから・・・・
死にたくない・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
死にたくないよ!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(ピー・・・・・ピー・・・・・ピ・・・ピー―――――)
 
心電図の音が
終わりを告げた・・・
 
「・・・・ご家族の方を・・・・
 
医師の悲痛な言葉が出されようとした・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ここへ呼んで・・・・
 
(ピッ・・・・
 
「!?」 (ピッ・・・・・ピッ・・・・ピッ・・・)
 
だけどそれは、一つの・・・奇跡が
 
(ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・)
 
悲しみを消した
 
 
 
 
 
 
ただ・・・逢いたかったんだ
だから・・・生きようとしたかった
・・・・アスカの事が・・・・
大好きだから・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
笑ってくれた・・・
 
「アスカ・・・ゴメン・・・ね。」
 
まだ意識を取り戻して間もない瞬間だったのに
無理してアタシにそんなことを言ってくれた
 
笑って・・・
 
力弱く・・・
 
けれどはっきりと
 
「アスカ・・・・また・・・逢えて・・・嬉しい・・よ。」
 
そう言ってくれた
 
その時のアタシは・・・
 
シンジの笑顔も
 
声も
 
溢れる涙で霞ませていた
 
悲しいからじゃなくて・・・
 
嬉しくて・・・
 
声にならない声で
 
泣き叫んでいた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「シンジ!お見舞いに来たわよ!」
 
シンジが意識を取り戻してからは 毎日アスカがお見舞いにきていた。
勿論、トウジやケンスケ、ヒカリたちも来るのだが
どこか二人に気をつかって、来てもすぐに帰ってたのだった。
 
「あ、アスカ。・・・ま、毎日ありがとう。」
「べ、別に・・・。アタシが勝手に来てるだけなんだから・・・お礼言われなくてもいいわよ。」
 
照れくさそうにそう言うアスカ。
だけど笑顔だけは隠せないようだった。
顔は微笑を浮かべている。
 
「・・・ねぇシンジ・・・カラダのほうはどうなの?大丈夫?」
「あ、うん。医者もまさに奇跡だって言ってたよ。驚くほど回復が早いってさ。だから、来週には退院できそうだって。」
「ホント?よかったじゃない!」
「うん。あ、あの・・・アスカ・・・。」
「ん?」
「・・・僕が事故した日・・・あの時・・・ヒドイこと言って・・・ごめんね。」
「なっ・・・」
 
思わずその言葉に涙を流してしまうアスカ。
 
「え・・・あ、アスカ!?どうしたの?」
「・・・バカ・・・なんでそこでシンジが謝るわけ・・・?アタシのほうが・・・ヒドイこと言ったのに・・・。」
「・・・アスカは・・・悪くないよ・・・。」
「・・・『は』ってなによ・・・『は』って。まるでアンタ一人だけが悪いように言って・・・。」
「だって・・・そうだし・・・。僕は・・・自分の気持ちに嘘をついたから・・・。」
「・・・・嘘?」
「うん。ホントは・・・アスカと一緒にいたかった。なのに・・・あんなこと言っちゃった・・・・・・・。」
「・・・・・ホントに?ホントに・・・アタシと一緒にいたかったの?」
「・・・うん。ホントだよ。」
 
少し顔を赤くしたシンジ
それにつられてアスカも赤くなる。
 
「アスカと一緒にいたいと思ったから・・・僕は・・・助かったんだ・・・。」
「・・・シンジ・・・。」
「アスカと一緒にいたいから・・・アスカと逢いたかったから・・・・。・・・・アスカが・・・大好きだから・・・だから・・・僕は・・・死にたくないって思った。」
 
そして・・・再び涙を流すアスカ。
 
「ホントに・・・・アタシのことが・・・好き・・・なの?」
「ホントだよ。アスカ。ずっと・・・言えなかったけど・・・ずっと・・・大好きだった。」
「・・・・じゃぁ・・・これ、受け取って。」
「え?」
 
そう言うとアスカは
シンジの背中へと手をまわし
そっと自分のカラダをシンジの元へと寄せ
 
優しく
 
口唇で口唇に触れた
 
ホントの気持ちを乗せて
 
「あ、アスカ・・・。」
「・・・これが・・・アタシの気持ちとアンタの言葉の答え・・よ。」
「・・・・うん。ありがとう・・・。」
「それと、もう一つ!」
「え?」
「はい、これ!」
「・・・?これは・・・?」
「開けて見なさい!」
「う、うん」
 
アスカが渡したもの・・・
それは・・・小さな小箱に包まれた
 
「こ、これって・・・」
 
銀色に輝く
 
「そ。アンタがアタシにくれたものと同じ・・・」
 
ブレスレットだった。
 
「あ、アタシには合格祝い、って言ってブレスレット買ってくれたでしょ?なのにアタシはアンタにはあげなかった。そのお返しもそれには含めているわ。ありがたく受け取りなさい!」
「・・・うん。ありがとう・・・。嬉しいよ、アスカ!」
 
渡されたブレスレットを眺め
アスカの瞳を見つめてそう言って微笑んだシンジ。
乗り越えた壁の先に
二人が
再び出会い
そして
涙していた・・・
 
「それとね・・・シンジ。そのブレスレットの裏側見てみて。」
「裏側?」
「そ、いいものが彫ってあるから。」
 
銀のブレスレット
それには・・・
 
『 ASUKA・SINJI 』
 
と、刻まれていた。
 
「これ・・・。」
「アタシとアンタの名前入りのブレスレット。世界で二つしかないものよ!」
「二つ?」
「アタシとアンタのブレスレットの二つだけ!だから・・・」
「だから・・・?」
「絶対・・・絶対・・・絶対にアタシと一緒にいてね!」
「・・・うん。」
 
そう言って微笑み
抱き合うシルエットは
終わらない 恋を 模っていった
 
 
人は
抗って
抗って
闘いながら
命を掴むのかもしれない
 
闘う世の中で
生きることの辛さと意味を感じた二人
 
少年はただ・・・
生きる意味を
大切な人だけに奉げただけだった
それは・・・
他人にとっては
意味がなくても
少年にとっては
色褪せる事ない
色褪せたくないことだった・・・
 
 
 
 
 
 
 

〜おまけ〜
 
シンジが退院してからは アスカとシンジの関係も元通り。ただ違う事が一つ・・・
 
「ほら、アスカ!早く行くよぉ!」
「わかってるわよぉ!もう!ちょっとくらい待てないの!?」
「ちょっとって・・・毎日毎日そう言ってアスカのちょっとって・・・ちょっとじゃない気が・・・」
「何か言ったぁ!?」
「あ、いや・・・ゴ、ゴメン・・・。」
 
変わらない朝を繰り広げている。
その二人の横ではエビチュを4本ほど飲み干しながらミサトが。
 
「シンちゃん、退院して間もないのに早速アスカにいじめられてるのねぇ。全く、また朝の夫婦喧嘩再開の毎朝になるのねぇ。」
 
とからかう言葉を言うのだが・・・
 
「あら、ミサト。これからはそんなからかい意味なくなるわよ?」
「・・・どして?」
「これからは・・・ホントに夫婦になるんだから!」
「・・・・はぁ!?」
「さ、早く行きましょ!シ・ン・ジ!」
 
そう言ってシンジの腕に抱きつくアスカ。シンジは照れているがそれが嬉しくてたまらないという表情を表していた。
 
「う、うん。じゃ、行こうか、アスカ。」
「うん!じゃ、行ってくるわね、ミサト。」
「それじゃ、行ってきます、ミサトさん。」
 
そう言って仲良くハートマークでも周りに散りばめてそうな勢いで家を後にした二人だった。
そして、静かになった部屋でミサトとペンペンが
 
「・・・ま、毎朝・・・あんな調子・・・?いやー!!独り身には拷問よー!!」
「クワッ!」
 
と、叫んでいた。
 
学校では 腕を組む二人を見て驚く生徒が大多数みかけられた。
そして口々に
 
 「やっぱ付き合ってたんだなぁ・・・」
 「ちくしょー・・・今までのは芝居だったのか・・・。」
 「碇君・・・ちょっとショック〜。」
 
こう言っていたのだった・・・。
 
 
 
 
 
(シーンジ!アンタが・・・アタシを想って生きてくれたんだから・・・アタシはずっとアンタの側にいるからね!)
 
 
 
 
優しい風が微笑む中
ずっと紡げなかった言葉は
一つの悲劇の先に紡ぐ事叶えられた
果てしない闇の先に
幸せを掴み始める
二人だった・・・
 
 
fin....
 
 
 
 

(あとがき)
初めまして、皆様。ミヤビと申します。歳の程15の青二才です。
僕はけっこうなリキ入れて作ったつもりのこの作品、皆様の御目にはどう映りましたでしょうか?
拙い作品ですいません。激甘いLASを望む人も・・すいません。LOVEは入ってても激LOVEが作れなかったので(汗)
ともあれ、こんなミヤビのこんなつまらない作品を読んでくれた親切な方にはお礼を申し上げます。ホント、ありがとうございます!それではぁ〜。


マナ:ミヤビさん、投稿ありがとーっ!\(^O^)/

アスカ:失ってみて初めてわかる大切なものが、失う前にわかったわ。

マナ:毎日、夢にまで見る程、思い詰めるならあんなこと言わなきゃいいのに。

アスカ:こんなことになるなんて思ってなかったもん。

マナ:一時は危なかったシンジだけど、無事でよかったわ。

アスカ:あの時は、どうしようかと思ったわよ。

マナ:こういう時、わたし達には何もできないものね。

アスカ:そんなことないわよ。

マナ:どうしてよ? なにもできなかったじゃない。

アスカ:フッ! シンジを救ったのは、医学じゃなくて、アタシの愛なのよーーーっ!\(*^O^*)/

マナ:言ってなさい。(ーー;
作者"ミヤビ"様へのメール/小説の感想はこちら。
aaark903@kcat.zaq.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system