日本昔話−アスカの恩返し−
                                              written by モーミ

昔々、第三新東京市というところに、シンジという少年が住んでいました。
シンジの母親は、シンジが物心つく前に事故で亡くなり、父親は仕事に明け
暮れ、家に帰ってきません。
そんな訳で、シンジはほとんど一人暮らしをしているようなものでした。

ある日、シンジがいつもの様に山で柴を刈って家に帰っている時の事でした。
道の脇の茂みから、鳥の声が聞こえてきました。
(何かあったのかな?)
シンジは好奇心にかられて、茂みの奥を覗いてみました。
するとそこには、罠にかかった一羽の火の鳥がいるではありませんか。
火の鳥は、何とか罠をはずそうとして暴れていましたが、シンジに気がつくと、
敵意のこもった目で睨み付けました。
「可哀相に・・・。今外してあげるから、おとなしくしていてね」
シンジはそう言うと、罠を外してあげました。
火の鳥は、お礼を言うかのように一声鳴くと、何処かへ飛んでいきました。
「もう、罠なんかにかかるんじゃないよ!」
シンジはだんだんと小さくなっていく火の鳥に声をかけると、うちへ帰って
いきました。

その夜の事です。
シンジが夕食を食べようとした時、誰かがドアを叩きました。
(こんな時間に誰だろう)
そう思いながらドアを開けると、そこにはシンジと同い年位の女の子が立って
いました。
実った稲穂のような黄金色の髪と、日本晴れの空のような澄んだ青い瞳の
とても可愛い女の子でした。
「立ち話もなんだし、中に入って話をしましょ」
女の子はそう言うと、部屋の中へ入りました。
シンジはあまりの事に、しばらく呆然としていましたが、我に返るとあわてて
アスカの後を追いかけました。

「私はアスカ。惣流・アスカ・ラングレー。よろしくね」
「僕は碇シンジです。こちらこそよろしく」
女の子−アスカ−はリビングのソファーに、シンジは床に座って自己紹介を
しました。
「あの・・・・・惣流さん・・・」
「私の事はアスカって呼んで。私もアンタの事はシンジって呼ぶから」
「アスカさん・・・・」
「『さん』はよけいよ。呼び捨てでいいわ」
「じゃあ・・・、アスカ、どうしてここに来たの?」
「あんたバカァ?こんな所に遊びに来たとでも思ってんの?道に迷ったに決まってるでしょ」
アスカは胸を張って答えます。
そんなアスカの様子にシンジは
(道に迷ったなんて威張れる様な事じゃないのに・・・)
と思いましたが、あえて口には出さず
「それなら今日はもう遅いし、うちに泊まっていきなよ」
とだけ言いました。
この一言でシンジとアスカの同居生活の始まりました。
「私は借りを作らない主義なの。一宿一飯の恩を返すまでここに居るわ」
と言うのがアスカの言い分です。

アスカは家事を全くしなかったので、シンジは今まで以上に忙しい毎日を
送るようになりました。
それでもシンジは辛いとは思いませんでした。
アスカの笑顔を見ると元気が出ます。
寂しいと思うことも無くなりました。
アスカの存在は次第にシンジにとって無くてはならないものになっていきました。

そんなある日の夜中のことです。
シンジの父親−ゲンドウ−が珍しく家に帰ってきました。
寝ているシンジを起こさないように静かにシンジの部屋の前を通り過ぎます。
そして、ゲンドウは自分の寝室の前についた時、ようやく異変に気づきました。
扉には貼り紙がしてあり、かわいい字で
「Keep Out! 勝手に入ったら殺すわよ!!」
と書いてありました。
ゲンドウがいない内にそこはアスカの部屋になっていたのです。
ゲンドウはしばらくその貼り紙を眺めていましたが
「ふっ、問題ない」
と呟くと、無造作に扉を開けました。
するとそこは夜中とは思えないほど明るい部屋でした。
不思議に思ってあたりを見回すと、部屋の梁で一羽の火の鳥が寝ているではありませんか。
「シンジすぐ来い!」
ゲンドウはとても驚いてシンジを呼びました。
シンジはいきなりの声に飛び起きると、アスカの部屋に急ぎました。
そこにいたのは、とても驚いているゲンドウと、一羽の火の鳥だけでした。
「これはどういう事か説明しろ」
ゲンドウはシンジに詰め寄りますが、シンジにも訳が分かりません。
シンジはただおろおろするばかりです。
「シンジ、火の鳥を起こせ」
「どうして?」
「火の鳥に直接事情を聞く」
「そんなの無理だよ。見たことも聞いたことも無いよ」
「かまわん、死んでいる訳ではない」
二人ともかなり混乱しているようで、会話に内容がありません。
事態は全く進展しそうにありませんでしたが、この騒ぎで火の鳥が目を覚まして、
梁から降りてきました。
ゲンドウとシンジが見つめる中で火の鳥はアスカの姿になりました。
「ちょっと、アンタ。乙女の部屋に勝手に入るなんてどういうつもり?」
アスカはいきなりゲンドウにくってかかります。
「問題ない」
「問題大ありよ!くらえ、鳳翼天翔!!」
冷静に対応するゲンドウでしたが、アスカに対しては意味がありません。
あすかの鳳翼天翔で、ゲンドウは空高く飛んでいってお星様になってしまいました。
「さてと・・・」
アスカはゆっくりとシンジの方を振り向きました。
「シンジ、勝手に私の部屋に入ってくるなんてどういうつもり?」
「ごめん」
アスカは顔が真っ赤でかなり怒っているようです。
シンジは謝ることしかできません。
「アンタは私の部屋に勝手に入ってきた責任を取らないといけないわよね?」
「分かってるよ。僕にできることなら何でもさせてもらうよ」
アスカはシンジの言葉に満足そうな微笑みを浮かべました。
「じゃあ、アンタはこれから
私のためだけにご飯を作って
私のためだけに掃除をして
私にだけ微笑んで
私だけを見つめて
私のために生きて行くのよ。いいわね?」
シンジは一瞬訳が分からなかったのですが、顔を真っ赤に染めると恐る恐る
尋ねました
「それって、ずっと僕と一緒に居てくれるってことだよね?」
「な、何よ文句があるの?私の言うことを何でもきくんでしょ」
アスカもシンジと同じように耳まで真っ赤ですが、怒ってるのか照れているのか
分かりません。
「文句なんてある訳ないよ。ただ・・・アスカと一緒にいられるなんて・・・・
その・・・夢みたいだったから・・・」
「そう」
二人とも真っ赤になたまま俯いてしまいました。
しばらく静かで幸せな時が流れていきました。
やがてシンジは顔を上げるとアスカに言いました。
「アスカ、きっと幸せにするね」
「当然でしょ!」
二人は顔を見合わせると微笑みあいます。
お星様になったゲンドウも空から二人をやさしく見守っています。

こうしてシンジとアスカは末永く幸せに暮らしました。

fin


マナ:モーミさん、日本昔話−アスカの恩返し−改訂版投稿ありがとう。押し掛け女房アスカ、ゲンドウお父様に会ったのね。

アスカ:女の子の寝室に入ってくるなんて、最低よ! 何考えてるのかしら。どうでもいいけど、押し掛け女房じゃ無いって言ってるでしょーが!

マナ:シンジのお父様をお星様にするなんて、何考えてるんだか・・・。

アスカ:当然でしょ! シンジとのラブラブな生活に邪魔な物は排除するのよ!

マナ:どうかしら? シンジもそろそろ愛想つかしてるみたいだけど?

アスカ:シンジは、アタシと一緒にいられるだけで夢みたいだって言ってるのよ! いいかげんなことは言わないでほしいわね!

マナ:だって、アスカと一緒に寝たらすぐに火の鳥になって、暑くて仕方が無いってぼやいてたわよ?

アスカ:仕方無いでしょ! 寝てしまったら、元の姿に戻っちゃうんだから。

マナ:シンジも火傷しながら寝るくらいなら、わたしの所へ来たらいいのに。

アスカ:フフフフ。それだけアタシへの愛情が深いのよ。まぁアンタにはわからないでしょうけどねぇ。

マナ:ム! いずれ焼き鳥にしてあげるわ!

アスカ:その前にアンタが丸焦げね!

マナ:起きている時なら、火の鳥じゃ無いから大丈夫よ!

アスカ:アマイ!

マナ:どうしてよ!

アスカ:アタシとシンジの身を焦がす様なあつーーーーい愛で、丸焦げよ!

マナ:・・・・・よく、そんな恥ずかしいセリフが言えるわね・・・。
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