第2話 シンジの気持ち

葛城家

 自分の部屋のベッドで寝ころんでS−DATを聞くシンジ

ヘッドフォンから流れる軽やかな音楽もシンジの心に響かない

 頭の中には、アスカとの出会いからユニゾンの練習、

怒る顔、加持に甘えていた顔、そして「ママ」と寝言を言った寝顔

沈みゆく弐号機を引き上げるためマグマに飛び込んだ自分・・・

それらが走馬燈のように流れていく

 ガバッ

シンジは半身を起こしベッドの上に座り込む

 「そうかーな?よくわかんないな?」

彼は今だ自分の内にあるとトウジに指摘された アスカへの恋心を認められずにいた。

その時 玄関のドアが荒々しく開かれ廊下をドンドンと五月蠅く渡る

音がする。まるで使徒が来襲するように

荒々しく開かれるシンジの部屋の戸

 「このー バカシンジ あたしが待ってなさいっていったでしょ。」

開口一番アスカが怒鳴る

 あ

シンジは、失念していた約束を思い出し入り口を見ると

そこには地獄の赤鬼が腰に手を当てて立っていた

 「ゴメン」

身に付いた処世術で反射的に謝罪の言葉が紡ぎ出される

 「あんた またそれ?ホントに済まないっておもっているの?」

 「ゴメン」

この時シンジはアスカと視線が合った 怒りに燃える碧眼を認め慌てて目をそらすシンジ

 『参ったな。トウジたちが変なこと言うからアスカの顔まともにみられないよ。』

しかしこの態度はアスカの怒りの炎に油を注ぐ

 「シンジ 何 その態度 あたしの目をちゃんと見て話をしなさいよ。」

 「え うん。」

シンジは、視線を戻そうとするもすぐに逸らせてしまう。

 心臓の鼓動は早鐘のごとくそれを刻み 体温が上昇し 顔面が熱くなるのがわかる

いつもと様子の違うシンジを見たアスカは

 「うー シンジ 後ろめたすぎて あたしの顔を見れないの?」

 「う うん。」

 「まあ いいわ。約束破ったお詫びに何か奢りなさいよ。」

 「え 何?」

 「そうね〜。明日の学校からの帰り喫茶店でパフェがいいな。わかった!」

 「え・・・・二人で行くの?」

奢らされるより 別なことを意識するシンジ

 「当たり前じゃない。あんたが奢るんでしょ!」

 「でも・・・。」

 「これは約束よ。今度破ったらただじゃ置かないから。あと 今夜は

 ハンバーグお願いね いーい?」

 「わかった。じゃ 買い物行ってくる。」

 「ふん じゃお菓子もお願いね。勿論あんたの奢りよ。」

 「うん。」

 「じゃ さっさと行く。」

 「はい。」

 「ハイは1回って・・・1回だったわね やけに素直じゃない。」

 「うん。」

 「あと帰ってきたら、あたしの部屋の掃除してそれと洗濯、そしてお風呂も入れること。」

 「わかった。他にすること無い?」

 「いや いいわ」

シンジは、逃げるように部屋を出るとアスカと顔を合わすことなく玄関を飛び出ていった。

アスカは、買い物に行くシンジを見送る

 「むうぅぅ。」

アスカは、少し不満であった。シンジがもう少し言い返してくることを期待したのだ。

その時こそ いたぶってやろうと思っていたのであるが あーも素直に反応されたら

あれ以上は言えない・・・。

 昨夜、ミサトと加持のよりが戻ったらしいことをアスカは感じていた。加持との恋は実ることが

無かったのだ。が さほどの寂しさはなかった。これからも加持は今までと同じように接してくれそうだから・・。

 『あたしの加持さんへの感情は何だったの?』

 『加持さんなら全てあげてもいいと思った でも・・・。』

自分の今の感情を把握できないアスカ

 『まあ いいわ 失恋ごときに この あたしがめげていられないのよ!』

そこまでで思考を打ち切り 着替えるために自室に戻るアスカであった。

 この時、彼女はシンジの通常らしからぬ態度に気付いていたが、それは昨日のキスに

起因するものであり、この時彼が自分への恋心を自覚しつつあるなどというようなことは

聡明な彼女にしても理解の範疇を超えていた。

 その夜、当然夕食はハンバーグとなり アスカは満足したが、シンジはアスカが気になりながらも

正面から彼女の顔を見れなかった。

 

 数日後

 あの日以来平穏な日々が過ぎていた。

 当然の事の様に シンジはアスカにパフェを奢らされた

アスカは罰だと思っていたが・・・シンジにとっては必ずしも不快な時間でなかった。

 それからというものシンジがいつになくボーッとしていることが多くなった。

もともと 元気いっぱいシャキッとした人間ではなかったが・・・。

 「あの 委員長ちょっといいかな?」

放課後、下校しようとしたヒカリをシンジは呼び止めた。

アスカとレイはハーモニクスのテストのため早退している。

 「あたし?」

ヒカリは自分を指さす ヒカリ自身シンジから個人的な相談をされる事は

初めてであった。しかも二人きりで

 「うん ちょっと いいだろ。」

 「え ええ。」

シンジはヒカリを学校近くの公園に誘った。

ベンチに腰掛ける二人 近くでは子供たちが遊んでいた。

 その光景を見たシンジがつぶやく

 「平和だな。ここを見ていたら使徒だエヴァだって戦っていることが

 別世界のことみたいだよ。」

 「あの 碇君?話って何かしら 私も妹の世話なんかがあって

 そんなに時間はとれないんだけど。」

ヒカリは、シンジの真意を問い正しかった。

 「あ うん。」

シンジは言いにくそうに俯く。

 「言ってみなさいよ。そのために私をここに誘ったんでしょ?」

ヒカリは優しく問いかける さすが2−Aの母

 「あの 委員長って、アスカと友達だよね。」

 「ええ まあ。」

 「あのー アスカのいいところって何処かな?」

 「はい???」

まさか クラスの中で一番アスカと接しているのはシンジで 彼からそのような質問が

出ようとは考えもしなかったヒカリは狐に化かされたように呆けた顔になる。

 「ねえ 教えてよ。」

ヒカリが我に返った時 真剣なシンジの顔が目の前にあった

 「え ええ。」

戸惑うヒカリ ありきたりにアスカの特徴を思い出す

 「えーっと そりゃ 容姿端麗だし 成績優秀 スポーツ万能 それでいて

  私たちを守ってくれるエヴァのパイロット スーパーヒロイン」

 「そんなことは 誰でもわかるよ。それってアスカの外面だけじゃないか

 そんなのでなく ほら つき合いがないとわからない ほら なんっていうか。」

 「人間性とかかな?」

 「うん。」

シンジの答えを聞いてヒカリは人差し指をあごに当て思案することしばし

 『まあ あの性格だからねぇ・・・。でも。』

 「そうねぇ・・・・。アスカってかわいいの。」

 「だから そんなことじゃなく・・・。」

シンジの反論をヒカリは遮る

 「ううん アスカはね、たとえば碇君にひどいこといって アスカなり碇君なりが

 その場を離れるでしょ。でもね その後アスカはそのことを気にして 碇君事を

 物陰から見ているのよ。人前じゃ 強いだけにいじらしく感じるわ。」

 「え そうなの?」

 「 で そのことを指摘したら 赤い顔をして否定するの もう

 思わず抱きしめたくなるわ。素直じゃないんだから。」

 「え・・・。」

シンジに引きが入る

 「バカね 私に変な趣味はないわよ。でもね 私の知っているのは一部分

 本当の彼女の心なんて どれだけわかってあげられるか・・・。薄々だけど

 陽気なアスカに陰があるような気がするの だぶん アスカの人に見せたくない

 触れられたくない心・・・。わからないわ。もっとも 私自身 自分の心を全て知って

 いる訳じゃない・・・。人なんて 心の部分同士しか見せられない 解らないのかも

 しれないけど それでも お互いにわかりあわなくてはならないって思うの。」

 「委員長 なんか哲学的だね。アスカの心か・・・・。僕ってアスカのことどれくらい

 解っているのかな?わかんないや。」

そう言ってシンジは首を傾げる。

 「でも 碇君 何故 こんな事 私に聞くの?アスカのいい所なんて碇君が一番

 知ってそうじゃない?」

ヒカリは不思議そうに問う それは、彼女が話を切り出されたときに持った単純な

疑問であった。

 「うん 実はね・・・。」

シンジは、恥ずかしそうに過日のトウジたちのとの会話ついて話す

 『す〜ず〜は〜ら なんて事を どうせ碇君をからかうつもりだったのでしょう。でも・・・』

ヒカリはトウジたちへの怒りを少し中断して シンジに訊く

 「で 碇くーん。アスカのこと好きなの?」

 「それが よくわからないんだ。委員長 男子が女の子を好きになるってどういう事かな?」

 「・・・・。私も女だから男の子がどう思っているなんて解らないわ でも ほら 一緒にいたいだとか 何かをしてあげたいだとか

 守ってあげたいとか。」

ヒカリは事例を羅列するか・・・

 「そんなこと 言ったって アスカは僕の周りの人間で一番一緒の時間が長いし

 食事だって アスカの服や下着の洗濯だってしてるんだよ。生理だって言えば 痛み止めの薬を貰ってきたり・・・。

 これって 母親並みじゃないかな?」

 「え・・・・そうなの。」『アスカ!あんたバカ?』

まさか 同居人とはいえ下着の洗濯までさせているとは それに・・・・。ヒカリに完全に引きが入る

 「それにアスカは僕より強いし・・。」

 『まあ そうかもね。』

 「それに 独りにしておけない放っておけないっていうんだったら 綾波だって そうさ ちゃんと生活してるか

 気になるよ。」

 「綾波さん・・・?」

ヒカリは、赤い瞳の同級生を思い出す・・・。シンジの話は続く

 「わからないんだ アスカへの気持ちが・・・。だから ここ2〜3日アスカの顔が

 まともにみられないんだ。視線が合うとつい反らしてしまう・・・。」

シンジは、そういうと頭を抱えてしまう 辛そうなことが傍目にも解る ヒカリはかける言葉を選ぶ

 「・・・碇君 じゃ 訊くけど アスカは、碇君とどう接している?」

 「アスカは、僕をいつも怒ったり馬鹿にしたりする。何かと用事を言いつけるし・・。」

 「そう 碇君 それが嫌 やめて欲しい。」

 「・・・・・。」

 「どうなの?。」

 「僕だって 人間だから 腹が立つ 煩わしいときもある。・・・・・でも

 アスカが・・・それをしてくれなくなったら・・・・・・・・寂しい。」

 「寂しい?」

ヒカリは問い直す

 「うん たぶん寂しい。父さんに捨てられて そして ここに来るまでの記憶

 あんまりないんだ。でも ここに来て ミサトさん や 委員長、トウジ、ネルフ

 のみんな そしてアスカと知り合ってから 毎日が なんていうんだろ 音が

 あり色があるんだ。それまで送ってきた生活がいかに無機質であったかが

 わかったよ。」

 「・・・。」

 「アスカは、僕を怒鳴ったり、馬鹿にしたりして優しい言葉なんてかけてくれない

 使徒との戦いの時だってそうさ『足手まといになるな』ってメッセージを送ってくるけど

 うっとおしいって反面とても落ち着く・・・。」

シンジはそう 言ってベンチから立ちあがる。

 「そうさ、アスカは僕に優しくもしてくれない 慰めてもくれない。でも  でも

 僕はアスカから強さや勇気や励ましをもらっているじゃないかな。」

 「碇君・・・。じゃ もひとつ聞くけど アスカがもし 碇君以外の男の人とキスしたり その それ以上の

 行為をしたり 将来 結婚したりしたりしたら 碇君 どうする?」

沈黙するシンジ しばらくの静寂の後

 「嫌だ・・・・。嫌だ 嫌だー。」 

シンジの心の叫び 思わずヒカリは怯む

 「馬鹿にしてくれたっていい。優しくなくてもいい。僕の側に居て欲しい。

 他の男の所なんて行って欲しくない・・・。委員長これって 僕の我が儘かな?」

 「ううん。碇君のホントの気持ちと思う!それで どうしたいの?」

 「・・・・・。どうすればいいの?」

 「碇君が考えて したいと思うことをすればいいのよ きっと・・・。」

シンジにまたしばしの沈黙が訪れる しかしシンジはそれを破り

 「どうしたいかなんて よくわからない でも 僕はアスカの側にいたい。

 アスカを感じたいたい・・・・。」

 「・・・・・・・。」

 「だから アスカが僕の事を同じチルドレンとか家政夫としてしか見ていなくても、僕は

 アスカを好きでいたい。たとえ アスカが僕を必要としなくても・・・。

 いつかは、アスカの全ては無理でも少しでも心の内を解りたい そして、アスカを支えるようになりたい。

その想いを、使徒と戦う・・・いや生きる励みしたい。 こんなの可笑しいかな 委員長!」

シンジは、両手の拳を握りヒカリの方に振り向きそう宣言する。

ヒカリ いや 自分自身に対して・・・ちょっぴり自信を持って。

 「碇君!碇君が決めたのなら 私は何も言うことはないわ。」

ヒカリは、ベンチに座ったままシンジに微笑む。 

 「うん なんか スッキリしたよー。あ 僕これからネルフでテストがあるんだ。

 行かなくっちゃ!今日は、ありがとう委員長!」

 「いいえ 大したことはしてないわ。じゃ 碇君 また明日。」

 「うん じゃね。 さぁ がんばるぞー。」

シンジの目の輝きが増す 別れ際のヒカリに極上の笑みを残して

傾きかけた日に照らされ まるで天使のよう

  ((ドキン))

思わずヒカリは顔を赤らめ立ち去るシンジを姿が見えなくなるまで見送る

 『アスカー 私はあんたが羨ましいよー。あんなに想ってくれる人がいるなんて。

 それにしても鈴原と相田、碇君をからかって でも 碇君が自分の想いに気付いたから

 まあいいか・・・。 はあ 鈴原 あんたも人の世話妬く前に・・・。』

少し落ち込むヒカリであった。

が ここでヒカリは、アスカのシンジに対する動向をもって彼女なりにアスカの心情を推理する

 『しかし アスカって 碇君をどう思っているのかしら?』

アスカのシンジに対するきつい態度の数々 それは彼を嫌っているからでなく 心を開こうとしているから

だということが人生経験の乏しいヒカリであっても理解し得た。

 また それが、シンジが欲しているかもしれない優しい態度で表されないのはアスカ自身の精神の未熟さか

あるいは不器用さのものであろうとヒカリは思う。が 決定的な原因はわからない アスカはヒカリに対しても

自分の本音を全て語っていないことを ヒカリ自身わかっていた。

 『アスカ・・・。私じゃだめなの?』

ヒカリは、愛すべき親友を思い悲しくなっていた。

 


 はは 今回はシンジの気持ち シンジの決意ですが・・・

普通あんな相談 同級生の異性にしますかね?

ヒカリにしても あんな 答え方をしないでしょうか?

どうも 私の年齢に反映して話がじじむさくなりますか (^_^;)


ヒカリ:碇くんも苦労してるわね。

アスカ:どうせなら『一気に告白しちゃえ』って言ってくれればいいのに。

ヒカリ:そんな無茶な・・・。(汗)

アスカ:でも、これでシンジもちょっとは積極的になるかな?

ヒカリ:自分の気持ちに気付いたみたいだしね。

アスカ:2人の愛は一気にクライマックスへ向かうのよぉっ!

ヒカリ:愛もいいけど、もうちょっと自分のことは自分でしなさいよ。

アスカ:だって、シンジがしてくれるんだもん。

ヒカリ:せめて、下着とか・・・あれとかくらい。(ーー)

アスカ:あはははは。(汗)
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