第6話 目覚め!帰還の時 ユイ・リターンズ

 

 ネルフ 訓練道場

 ドベシッ キュー

シンジは、青畳の上に背中から叩きつけられる

 「うぅぅぅー。」

押し寄せる背中の痛みを堪える

 「ちょっと しっかり しなさいよ。」

シンジの右手は 怒声を飛ばすアスカの左手にしっかりと掴まれていた。

 「もう あたしだって かなり手加減しているんだから.」

 「どこがだよ!容赦ないじゃないか!」

シンジは不満を露わにして唇を尖らせる

 「何ですってー!」

 あの夜、シンジと結ばれてから このところ 彼ににべったり甘えん坊だったアスカだったが

やはり 基本的には勝ち気な性格は変わらないらしい 言葉の端々にそれが伺われる

 「はい はい そこまで。」

二人の言い争いを道場の隅で聞いてた保安諜報部の若手リーダー そして 正式にミサトより

シンジの訓練担当に任じられた鳥海が微笑ましい口喧嘩を止めに入る

 「「あ 鳥海さん。」」

二人の声が知らずにユニゾンする。

 「セカンド・・いや アスカ君 まだ シンジ君には 君の相手は無理だ。

 わかっているだろ?それに、そんな 甘い 組み手じゃ 実戦には役立たないよ。

 手加減のしすぎだよ。」

 「えー これで 手加減しているんですか。」

シンジから思わず漏れる反論。

 「ああ 拳を打ち込むにしても腰を入れず手だけだし 投げ飛ばした時だって 君が受け身を出来ず頭を

 打たないように引き手を離さなかったし・・・。」

 「え そうなの?」

シンジは確認の意味でアスカの方を見る

 「あ 当たり前じゃない・・・あたしはシンジに怪我して欲しくないし・・・。」

顔を真っ赤にして照れ隠しであらぬ方向を向くアスカ

 「ア アスカ・・・。」

 「ゴメンね シンジ 今度はもっと 考えるから・・・。」

お互いに見つめ合う黒い瞳と蒼い瞳 二人は自分たちのLASフィールドを展開しようとしたが

ウオッホン

鳥海の咳払い一つ

 「ここは、訓練道場なんだけど・・・。そんなことは帰ってから二人でやってもらえないかな。」

へへへ

 鳥海の的確な指摘に罰が悪そうに頭をかく二人

 「さて アスカ君は、シンジ君とレベルに開きがあるから組み手は当然ダメ。

 こういうものは教え方があるし、アスカ君の戦闘能力にも悪影響がでそうだ。いいね?」

 「わかりました。」

アスカは少し不満ながらも、同意をする 鳥海の申し出がしごく当たり前であることがわかっていたから。

 アスカにしてみれば、シンジが訓練をして家に帰るのが遅くなり二人の時間が短くなるのが嫌で 

シンジの訓練に参加していたのである、まあ その訓練がアスカを守れるほど

強くなりたいというのが理由であるので彼女にしても無碍にやめろとは言えなかったせいもあるが。

 そのような、思惑をすかされにもかかわらず 素直に従ったのは彼女の精神的進歩といえよう。

 そんな彼女の心の内を思いやって鳥海は一つの提案を出す。

 「まあ 一緒に訓練するなとは言わない。そう 形とか 武具の振るい方だとか教えてあげてくれ。

 組み手は私が教えよう。アスカ君は実戦では私より強いかもしれないが、教え方は私の方が上手いと思う。」

シンジと訓練を中止されると思ったアスカの表情が自然に緩む。 その表情を見た鳥海は微かに微笑む事を禁じ得なかった。

 「では よろしく頼む。」

鳥海はそう言い残して踵を返し道場を後にした。鳥海が、アスカに感じたのは何処にでもいる少女の姿、そう目の前の少年に

恋をする・・・。鳥海は、直接アスカのガードに携わったことがなかったが、部下からもたらされたアスカの評価は

優秀だが 我が儘で 高飛車な いけ好かない女というものだった。それは、彼の感じた物とは当然異なるものであった。

 『あいつら、まともな仕事ができんのか、これはちょっと締めねば・・・。』

保安諜報部アスカ担当班は当然叱責を受けるこことなったがこれは別の話

 

 「あれは、何かしらね?」

発令所で腕を組んだミサトは目の前のモニターに映るゼブラ模様の球体に

顔をしかめた。

 「MAGIは答えを保留しています。」

 「うーん ちょっち わからない とりあえず回避能力の高いアスカが先行

 シンジ君とレイはサポートで言ってみようか?」

ミサトは、作戦案を立て傍らのリツコに視線を移す、リツコは賛成の返事の代わりに頷く。

 「OK アスカ、シンジ君、レイ ではそういうことで よろしく。」

 「「「了解」」」

3人の声が重なる

 「でーわ 二人ともサポートよろしく。」

アスカ操る弐号機が、謎の球体にそろりそろりと近づく

と その時 弐号機の足下に暗い影が展開される。

 「何これ?キャッ!!」

突然 影に向けて沈下し出す弐号機に気付いてアスカが悲鳴を上げる。

 「どうした アスカ??」

アスカのただならぬ声を聞いたシンジは、影に飲み込まれていく弐号機を

目のあたりにして驚愕する

 「何だ あれは??」

 「なんだじゃないわよ。シンジ!さっさと助けに行くわよ。」

 「あ 君か!助けるって?」

初号機の突然に呼びかけにシンジは不意をつかれる

 「弐号機を引き上げるの!」

 「引き上げる?どうして?」

 「今の弐号機じゃ、あの状況は辛いのよ!」

 「わかった。で どうするの?」

 「簡単よ!飛び込んで 弐号機を外に投げ飛ばす。」

 「そうか OK いくよ。」

シンジは、影に飲み込まれていく弐号機に向けて走り寄ろうとしたが

 「ところで 僕らはどうなるの??」

と素朴な疑問がわくが 動き出した初号機は

ジヤンプ一閃 かなり距離があったにもかかわらず一瞬で弐号機の横に

降り立つと

 当然のごとく 初号機も影に飲み込まれていく

 「あんたバカ?なんでシンジまで来るのよ。」

弐号機からアスカの怒声の通信が届く 怒ったような嬉しそうな映像ととともに

 「えーと その・・・。」

しどろもどろの応対をするシンジ

 「シンジ ここは『アスカの事を守るって誓ったじゃないか』って言うの!」

初号機がカンニングまがいに教えてくれる

 「アスカのこと守るって誓ったじゃないか!」

ボンッ

 「あ あんた バ バカァ 戦闘中でしょが。」

真っ赤な顔で怒っているのか喜んでいるのかわからないアスカがモニターに映しだされた

 「さーて いくわよん。」

 「何 何?」

気合いの入った初号機に シンジは思わず疑問を口にする

 「シンジ?今の声誰??」

アスカが不審そうな声を漏らす。

 「えー アスカ聞こえてるの。」

 「当たり前よ。 シンジ誰か他にプラグの中にいるの?」

 「えー となんて言うか、プラグの中は僕だけしかいないけど・・・。外にっていうか・・・・。」

 「何 言っているの?」

 「はい 話はそこまで!」

初号機が割って入ると無造作に 弐号機の機体に手をかけ そのまま影の外に投げ飛ばす

重力の法則などまるで無視した弐号機は空にダイブしビルにぶつかる

 「何 すんのよ!シンジ!」

 「今のは シンジじゃなく あたし。」

アスカの非難に対しシンジに代わって答える初号機

 「あなた誰??」

 「へへ あたしの声が聞こえるって事は、そっちもそろそろね。アスカちゃん

 答えは直接会ってからにしましょう。さあ 行くわよ シンジ。」

 「「行くって どこにさ?」」

ユニゾン疑問のシンジとアスカ それに答えず更に影に沈みゆく初号機

 「さーて それではレイ 打ち合わせどおりキョウコと頼むわ。」

 「了解。じゃ いよいよね!ユイ!」

突然の初号機からの話しかけにもかかわらず 心配の欠片もないにこやかな表情のレイが零号機からのモニターにでる

 「そう では 行ってくるから。」

 「だからどこにだよ?」

シンジが問いつめる

 「さあ いざ 行かん!!未知の世界へ!!」 

 「何 それ 聞いてないよー!」

 前世紀末から 現在に至って活躍中の大型鳥類の名を冠する3人組コメディアンのようにシンジは非難の声を上げた。

 「どんなところかな?期待してるんだけど わくわく!」

 「なんだよ あー ミサトさん 助け・・・・・・」

初号機は完全にその姿を影に飲み込まれてしまう。

 「シンジーーーーー!」

アスカの絶叫が響き渡り 後を追おうとするが弐号機が全く反応しない

 「なぜ 動かないのよ!!」

悪態をつくアスカ

 「私が止めているからよ。アスカちゃん。」

突然アスカの頭脳に声が響く

 「誰??」

 「大きくなったわね。アスカちゃん。」

 「あなた誰よ!!」

 「思い出さない?わからない?」

抑揚のない声が語りかける

 「あんたなんか 知らないわ。それよりシンジを助けなきゃ・・・。」

 「悲しいわ アスカちゃん。私に心を開いてよ。」

 「だから シンジー。」

今やアスカにはシンジのことしか眼中にない 

 「彼は大丈夫!!ユイがついているもの!」

知らない女性がシンジと行動をともにしている事にアスカは苛立ちを覚える

 「ユイって どこの女よ。シンジをどうするつもり。」

 「あらまあ アスカちゃん 焼き餅?」

 「うるさい あんた誰よ さっきから。」

 「ユイはシンジ君のお母さんよ、アスカちゃん!私の言うことを聞いて

 私を感じてみて そうすれば私が誰かわかるわ!」

 「うるさい!!」

アスカは怒鳴り声をあげる この感情がまるでないような声の主に

怒りがこみ上げる。

 「もう ちょっと アスカ 静かにしなさい。」

FROM EVA−00のモニターがONになる

 「ファー じゃない レイ あんたもうるさいわ シンジが・・。」

 「あなたが一番うるさい。ちょっとキョウコ この猿を黙らして・・。」

レイはアスカに思いもよらない名を告げる

 「レイ あんたね。人の娘を猿呼ばわりはやめてよ。」

 「あ そう じゃ 落ち着かせなさいよ。あたしはミサトから退避命令がでたから下がるわ

 弐号機も同じだから 早めにね。あたしは、髭眼鏡にユイからのメッセージをつたえなくっちゃ

 ならないからね。自分の子の面倒ぐらいはみれるわね、キョウコ!!」

 「わかったわよ。ホントあんたってユイに似てるわね。暴走はしないでよ。私が帰るまで

 止める人いないんだから。」

 「へい へい。」

レイの相づちとともに通話は切られる

 『・・・・・。』

二人の会話を聞いたアスカに緊張が走る

 「・・・・・。」

 「どうしたのアスカちゃん??」

 「・・・・・ママなの??」

 「そうよ アスカちゃん。」

 「嘘!!ママは死んだわ。あたしの目の前で!!」

アスカは、過去の情景を思い出し反論する

 「あー 確かにね。でも あれは 私の身体と精神の一部、魂の大部分は

 この弐号機の中にあるわ・・・。」

 「そんなの嘘よ。そんな・・・・・。」

アスカは認めたくなかった、母が生存していることを・・・・。もし母が生きているのであれば

シンジに癒されるまでの自分は何だったんだろうか?あの10年間を全て否定するようで

が 反面全く正反対 母に会いたい気持ちの存在も否定できなかった。

 「わからない?今のあなた そう 人と本当に心を触れあった あなたならわかるでしょ アスカちゃん!

 シンジ君をわかろうとしたように私を感じて・・・。」

 『シンジと・・・。』

アスカは、この脳裏に直接響くような声を冷静に受け止める・・・・

・・・どこかしら懐かしい感じ これは・・・・

 「ママ? ママなのね ママ・・・ウッ ウッ・・。」

アスカは嗚咽を漏らした

 「アスカちゃん」

今は感じる 母の嬉しそうな 済まなそうな 心

 「アスカちゃん シンジ君は心配いらないわ。ユイがついてるもの!!」

 「ユイ?シンジのお母さん?」

 「そう アスカちゃん希望するところの未来の義母さんね。」

ボンッ 

 その言葉を聞いたアスカの顔が真っ赤になる

 「ユイさんって どんな人?ママ」

 「素敵な人よ。容姿端麗 眉目秀麗 頭脳明晰 行動力抜群 まあ 変な嗜好と

 暴走が玉に瑕かな。私とは大学時代から良い友達だった。些細なことで喧嘩別れしたけど・・・。」

少し寂しそうなキョウコの気持ちがアスカに伝わる

 「ママ・・・。」

 「さあ アスカちゃん 早く帰って レイを手伝ってあげて レイは、ユイが何時出てきてもいいように

 計画を進めているはずだから・・・。」

 「出てくる??」

 「そう ユイさえ戻れれば・・・。彼女なら 私をサルベージしてくれる。だから レイに そして

 ユイに協力して!!」

 「ママと また会えるの?」

 「そう ユイなら・・・。」

母親と会える その想いが アスカを揺り動かす

 「本当に シンジは大丈夫?」

 「勿論よ。私だって あなたの想い人に会いたいもの 嘘は言わないわ。」

 「わかった。レイを手伝えばいいのね。でも レイって何者?ママやユイさんのこと知っていたみたいだけど?」

 「今は何も聞かずに 頼むわ。どうせ 今のネルフの幹部どもじゃ。ユイの邪魔するだけだもの!

 赤木さんだって コンピュータ以外は三流の学者だし・・・。」

 「リツコが三流??」

アスカにしてもリツコの才能は認めていた。そのリツコを三流って言いきる母は・・・。

 「じゃ 頼むね。」

その後、少しの間 現在の状況説明をした後 キョウコの心は消えた

 「むぅぅぅ。」

キョウコが去りし後 プラグの中でアスカは 自分の行動を模索していた。

 「仕方ない。まだわからないことが多いけど シンジやママのためだ!!」

そう 判断した、アスカは早速行動に移った。

 

 「どうしたの??」

ミサトはやっと我に返った。自分の指示通りアスカを動かしたら 急に

影みたいな物に飲み込まれそうになり それを救出にいった初号機が

身代わりに影に飲み込まれていった。

 その間に、エヴァ各機で通信が為されたようだが意味不明の通信で

アスカとレイが帰ったら内容を問いただそうとミサトは思っていた。

 「あれは何?」

ミサトは傍らのリツコに答えを求める 

 「使徒ね。パターン青が検出されたわ。おそらく 上空の球体が影で 地面の影みたいなのが

 本体ね。直径680メートル厚さ3ナノの極薄空間をATフィールドで形成 その中は『ディラックの海』

 と呼ばれる虚数空間 別の宇宙に繋がっているわ。引き上げたケーブル先は何もなかったでしょ。」

リツコは自らの解析結果を口にする

 「あんたバカ?そんなはずないじゃん!」

ミサトとリツコが声の先に視線を移すと腰に手をあて呆れた表情のアスカと 半眼でこちらを見つめる

レイが並んで立っていた。

 「どういうこと??」

内心 むっとしたリツコがアスカに問い返す

 「だから あれが『ディラックの海』のわけないじゃん。もしそうだったら エヴァの機体の一部でも飲み込まれたときに対消滅で

  チュドーン よ。本当に、リツコってママが言ったとおり三流ね〜。どうせ またくだらない救出プランを

 練ったんでしょ?言ってみなさいよ。」

アスカのバカにしたような応対に 苛立ちを募らせる リツコ アスカが死んだはずの母親の名をだしているにも

関わらず それに気がついていない

 「いいわ。現在 指令に対し提出中のプランは、992個のN2爆雷を中心部に投下 エヴァ2体でATフィールドを中和させ

 1000分の1秒虚数空間に干渉 莫大なエネルギー量で使徒の『ディラックの海』を破壊する・・・。」

 「はあ ホントにバカね『ディラックの海』が本当なら そんなことしたら 本当にどんなことになるかわかってないの?

 まあ あれは違うから 悲惨な結果にはならないだろうけど どっちにしろ あたしは協力しないわよ。

 おそらくレイもね。」

 「そんなこと言ったって 受諾されれば指令からの命令になるわ。拒否権はないのよ。」

 「いいわよ 独房にでも何でも入れれば、第一あんた シンジの命なんてなんとも思ってないでしょ?」

 「そう 初号機の回収が最優先 パイロットの生死は問わない。」

リツコは言い放つ その答えを聞いたアスカは、もう用がありませんとばかり プイと横を向いてしまう。

 「ちょっと どういう事よ。人の命をなんだと思っているの?」

ここでミサトが口を挟みリツコに詰め寄る

 「でも これが 指令の意向でそれによって作成したプラン。今更何?あなただって、シンジ君達の命を無視した。

 使徒殲滅プランを立てたことあるでしょ!!」

 「そんな・・・・。」

 ミサトは口ごもる事実だけに反論できない

 「あたしも 協力しないわ!」

それまで 静観していたレイもここで口を開く リツコは苛立ちを覚える

 「そんな レイ あなたまで 指令の命令よ!!」

 「知った事じゃないわ。」

 「・・・・。」

ここで横を向いたいたアスカがレイに向き直り

 「ちょっと レイ あんた やることがあるでしょ。さっさと 司令室に行って こんな無駄なプラン

 止めるようにしてよね。」

 「アスカ わかったわ。」

レイは踵を返し立ち去ろうとする。

 「指令があなたの意見を採用すると思う?」

そんなレイにリツコは言葉を投げる

 「そう 綾波レイの言葉なら ダメでしょうけど・・・・。」

振り返ったレイは ニヤリと嘲笑する

 「まあ 見ていなさいリツコ結果を・・・。それと ミサト あなたを見直したわ。」

それだけ言うとレイは再び歩き出した。

 

 ネルフ 司令室

 「綾波レイ入ります。」

 「レイ何の用だ?」

ゲンドウは、作戦中にもかかわらず司令室を訪れたレイを咎めた。

 「今後のプランについてです。」

 「君にその権限はない。どうしたというのだ?」

冬月は、レイの態度が自分の知るそれと違うのに気づき眉をひそめる

 「そうですか。でも これを見れば 反対をしないと思いますよ。碇ユイさん

 の提唱したプランですから!」

ユイの名前にゲンドウと冬月の表情が凍り付く そして レイの提出した

書類をみて驚愕のそれと変わる。

 「これを 信用しろと言うのかね。」

ゲンドウは、鋭い視線をレイに向ける

 「たぶん 指令はそう言って拒否するだろうってユイさんは言っていました。だから

 ユイさんからのあなたへのメッセージをそのまま伝えます。」

スゥーッ

 レイは深呼吸をした後 一気にまくし立てた。その結果

 「確かに ユイだ。わかった このようにしよう。」

全てを聞き終わったとき ゲンドウの頬は緩んでいた。

 「では 失礼します。」

レイは挨拶をして立ち去った

 「よかったな碇。」

 「いえ これからが大変です。冬月先生。」

 「ふふふ 大変そうな顔をしていないぞ。」

 「先生も ふふふ・・・。」

 

 「「現状で待機ですって??」」

ゲンドウからの指令を聞いたミサトとリツコがユニゾンする

 「レイ あなた指令になんて言ったの。」

 「別に 今後の作戦プランを上申したまでよ。」

レイは事も無げに言う

 「そんな 越権行為だわ!」

 「そうかもね ミサト でも採用したのは碇司令よ。一度 彼が口にした以上

 これは司令からの命令 それに背くことは越権どころか反逆行為!わかる?」 

 「ぐう。」

ミサトは黙らざるを得なかった。確かに理由はともあれゲンドウから発せられれば命令である。

 「私の意見より あなたの意見を信用したのね?司令は?」

リツコは信じられないといったような口調で問う

 「そうね。でも 心配はいらない。あたし自身を、信用したわけじゃないから。」

 「どういうこと?」

 「そのうちわかるわ 赤木博士。」

そこまで言うとレイは用件は済んだとばかりアスカの側に近づいた

 そんなレイにアスカは小声で話しかける

 「レイ どう うまくいった??」

 「問題ないわ アスカ。」

 「そう でも シンジ大丈夫かな。」

 「たぶんね。」

それだけで会話を済ませ二人は使徒を写したモニターに向き直った。

 

 「ふーん 期待はずれねー。」

初号機の周りに広がる果てしない暗黒の空間

 「ソナーとか他の計器が全く使えないじゃないか!どうするんだよ?」

 「あー シンジ嘆かない。」

 「君は 肝が据わっているね。で ホントにどうするか考えている。」

 「まあ なるようになるわ。」

 「そんな 無責任な!」『アスカー 僕はダメかもしれない。もう一度したかったな。』

シンジの心の叫び

 「あーら こんなところでエッチねぇ。シンジ!」

 「勝手に人の心見ないでよ。だいたい ここはどこだよ?」

 「ここ?そうね。使徒の中 まあ 本体って言ってもいいわ。別の宇宙

 あるいはクライン空間と呼ぶところ。」

 「なんだよ それ?」

 「詳しい説明は、帰ってからアスカちゃんにでもして貰いなさい。まあ メビウスの輪の三次元的空間

 版とでも思ってなさい。」

 「じゃ 果てがないじゃないか?帰れるの?」

 「あたしを信用なさい!!シンジ もう あたしが誰かわかっているでしょ。そう あなたが心の中で

 思っているそれ 正解よ。」

 「母さん?」

シンジは躊躇いがちにその名を口にする

 「おーあたりー。」

 「本当に母さんなの?」

 「そうよ!!嬉しくないの会えて。」

 「いや 嬉しいんだけど・・・。ちょっとイメージが・・・。」

 「は 軽い女だと思った?」

 「そんなことないよ。」

 「そう さて そろそろ帰るわよ。シンジ!アスカちゃんにも会いたいし それにあの人にも文句言わなきゃ。」

 「それって エヴァから出るって事?」

 「その通り ぜーレのじじいども思い通りにさせないわ。」

 「誰 ゼーレって?」

 「帰ったら 教えるわ!!さあ 協力して・・・・!!」

 「わかったよ。」

シンジは、初号機の周りにおびただしい力のATフィールドが展開されるのを肌で感じ取った

そして それが初号機の右拳に集束する。

 「行くわよん。」

 廬山 昇龍覇ーーーー!!

音もなしに空間が切り裂かれシンジの目の前が開ける そこに見えるのはいつもの第三新東京市の風景

 「なんだよ 今の?」

 「母さんが昔 修行で習得した技よ!」

 「それって 何時だよ?」

 「そうねぇ。大学出てからしばらくしてだから15歳くらいかな。」

 「母さん 何歳で大学出たんだよ?」

 「13歳! アスカちゃんと同じよ。さあ ぐだぐだ言ってないで使徒殲滅よん。」

それから シンジは何もしなかった。いや出来なかった。

 母 碇ユイの気合いの入った声だけがプラグの中で響く

 「ア タタタタタタッー それ ハイッーーー。オラオラオラ」

さっき見た使徒の球体に 影に 初号機の 拳が 蹴りが容赦なく打ち込まれ

使徒の組織が破壊され 体液が飛び散るのがわかる。

 

 「「「「なに あれ?」」」」

発令所で 驚愕の声が挙がる

 突然 監視中の使徒の影たる球体が内側から切り裂かれた

と思うと 咆哮をあげた初号機が、使徒の体液にまみれ飛び出て

使徒に対し猛然とパンチやキックを繰り出しだした。

 「パンチの速度 音速を越えています。」

使徒もATフィールドを強めようとするが 初号機の拳はそれを

全て通過して 本体にダメージを与えているようだ。

 「初号機シンクロ率400%を越えています。」

 「なんですって!!」

リツコが慌てて近くの端末に飛びつく

 「エントリープラグ内を写すわ。」

ピッ

 モニターに映し出されたのは 呆けた顔をしているシンジであった。

 「シンジー!」

シンジの姿を見たアスカは堪らず呼びかける

 「あ アスカか・・。」

 「アスカ か じゃないわよ。心配したわ、でも戦いながら話できるなんて 凄いわねぇ。

 半端じゃない戦闘力よ今!」

 「いや 僕は何もしていないんだ。母さんが勝手に・・・。」

ブッツ

 その時 急に初号機との通信がとぎれる

中央モニターには 使徒の極薄本体に拳を打ち込んだ初号機が写る

 使徒はドンドンその円形の身体が小さくなり 最後は初号機の拳の中に消えたしまった。

勿論影たる球体も消滅する。

 「ふん たわいない。」

 「母さん終わり?」

 「あーーーー。」

 「どうしたの?」

 「サンプル取るの忘れた。シクシク・・・。いい研究材料なのに・・・。」

ガクッ

 『母さんって 何者?』

シンジは、母の正体について自問自答する

 「何者って 天才科学者であり。碇ゲンドウの妻。そして シンジあんたの母親よ。」

 「自分で天才って言うか?アスカみたいだよ!!」

 「仕方ないじゃない 事実なんだから。さあ あたしも 実体化するから 話は後々。」

シンジの周りに光が満ち LCL内の一点に集中するのがわかる。

 「母さん!」

シンジは光に呼びかけた。

 

 初号機格納ゲージ

プシューッ

 初号機からエントリープラグがイジェクトされる。

 「生命反応が2つ??」

マヤの発令所からの報告を聞きリツコとミサトは首をひねる。

 ゲージには、彼女らと初号機担当の職員以外 アスカとレイはいうに及ばず ゲンドウ、冬月、青葉に日向の

姿も見える。

 ガシャッ 

エントリープラグのハッチが開き LCLがあふれ出る

中から疲れた顔をしたシンジが降りて来てアスカがそれに駆け寄る

 「シンジー。」

 「ただいま アスカ。」

 「もう 馬鹿 馬鹿 馬鹿 心配したんだから。」

シンジに抱きついたアスカは彼の肩に顔を埋め 拳で胸を叩く

 「ごめん じゃなく 心配かけたね 悪かった。」

 「こんな時は ごめんでもいいの。」

 「はは・・・。」

 「シンジ!」

 「アスカ!」

周囲の目を気にせず 二人の唇は重なる

そんなバカカップルに目を止めず 毛布を持ったゲンドウがエントリープラグに歩み寄る

 ゲンドウを迎えるように プラグから出てきた 黒い髪 黒い瞳の20代半ばの

綾波レイにそっくりの容貌を持った女性

 ゲンドウは手にした毛布をその女性に渡す 黙って物憂げな表情で女性は受け取る

そして それを身体に羽織り一息深呼吸をして

 「きゃー エッチ! 痴漢! 変態! しーんじらんなーいーーー!」  

ゲージ中を震わせるような悲鳴を上げた。

 その大声に さすがのゲンドウもたじろぐ

 「いや ユイ 僕だよ ゲンドウだよ!」

悲鳴を上げていた女性 そう 碇ユイの声が止まる

 「ゲンドウ? あんた なの??」

 「そうだよ ユイ!」

ゲンドウは照れたように笑う シンジはじめ 周りの人間はゲンドウのそんな顔を初めて見た。

 「そう 老けたわねー あんた。」

 「仕方ないよ ユイ 10年ぶりだよ。」

 「ふうーん でも この髭剃りなさい 似合わないから あと このサングラス

 趣味悪いから これも止めなさい。」

 「うん わかった。そうするよ。」

 「「「「「・・・・・・。」」」」」」

あまりのゲンドウの受け答えに シンジやアスカは勿論 周囲の者は言語を忘れたみたいだ。ただ一人ニコニコ微笑む

冬月を別にして・・・。

 「ところで・・・。あなた。」

 「なんだい。ユイ?」

表情が変わったユイに対し 少し緊張して答えるゲンドウ

 「あたしが、いない間 結構 悪どいことしていた様だけど・・・。シンジやレイに対しても・・・。」

 「いや 全て君を呼び戻すためだよ。ユイ。」

 「あーた!そんなことで あたしを誤魔化せると思っているの??」

 「ゴメン。」

 「ほら あんたは なんでも すぐ謝ったら 事が済むって思ってない?」

 「だから ゴメン ユイ 許してくれ。」

 「あんた バカねー それを 止めなさいって言ってるんでしょ。」

 「ユイー・・・・・。」

ゲンドウは、困ったような笑顔を浮かべる

 「もうー へらへら しない。男でしょバシッと行きなさい!」

 「ゴメン。」

 「まあ あんたの やった事は後でおいおい問いただすとして・・・。あたしに言えないようなことはしてないわよね。」

ビクッ

 ゲンドウの顔が強張る 

 「そ そ んな 僕が ユイに隠し事なんて しないよ。全て ユイを戻すために・・・。それって どんなことだよ?」

しどろもどろのゲンドウ

 「そうねー たとえばー 浮気だとか・・・・。」

ここで ユイは視線をリツコに走らせる それを見たゲンドウは狼狽える

 「ず ずるいよ ユイ 知っているんじゃないか?」

 「浮気 したのね?ひどーい 冗談で言ってみただけなのに、したのね 浮気!」

語気に怒りがこもる

 「あれは 仕方なかったんだ。」

 「うるさい このバカゲンドウ もう 信じらんないー。」

 「ユイが なかなか 帰ってこないから・・・・。」

 「知らない!」

ゲージに響き渡る ユイとゲンドウの痴話喧嘩 それだけ仲が良いのであろうか?

 「あの 副指令?」

日向は冬月に声を掛ける

 「あの女性誰です?」

 「うん あれこそ 碇ゲンドウの妻にしてシンジ君の母親 碇ユイだ。」

 「え あの人が・・・・」

 「そう 確かにユイ君だ。」

冬月は懐かしそうに目を細める。

 「あの 青葉さん!」

日向は傍らに居た同僚に語りかける

 「指令とシンジ君て似ていないって思っていたんですが・・・。」

 「親子だな!!」

 「はい。」

悪い物を見たように俯く二人

 シンジとアスカは身につまされる物があったのか 窮屈そうにゲンドウらを見守り

リツコは複雑な表情をしていたし ミサトと他の職員は唖然とし

レイでさえも 見て見ぬふりをしていた。

 


 ついに 戻ってきました 碇ユイ 彼女については アスカやシンジを喰ってしまうほど濃ーいキャラに

したいと思います。

 次回「天才?マッド?あたしが、碇ユイよ。」


マナ:碇司令・・・。(ーー;

アスカ:碇司令って・・・いったい。(ーー;

マナ:シンジがどうしてすぐ謝るのかわかった気がする。

アスカ:あれじゃ、シンジより酷いわよ。

マナ:碇司令のイメージが一気に崩れていくわ。

アスカ:でも、ユイさんが怖いからってのもあるわよ。

マナ:ってことは、シンジがすぐ謝るのはアスカが怖いから。

アスカ:アタシは怖くないわよっ! 優しい女の子だもん。

マナ:シンジを今まで何回ビンタしたっけ?

アスカ:そ、それは・・・。(^^;
作者"もん"様へのメール/小説の感想はこちら。
nishimon@mail.netwave.or.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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