第11話 トウジ、初デート

 

 「さあ 行きましょうか キョウコさん。」

コンフォートマンションを出たところで

少し緊張気味のトウジは、キョウコを振り返った。

 落ち着いた模様のサマードレスを着たキョウコと相変わらずジャージのトウジ

キョウコはそんなトウジを微笑ましげに見つめる

 「まあ トウジさん そんなに 急がないで・・・。せっかくですから 手でもつないで行きましょうか?」

 「え なんですって キョウコさん?!」

突然のキョウコの申し出に顔を赤面して狼狽えるトウジ

 「いいじゃ ないですか!! それとも 嫌ですか?」

 「え ワシは そんな あの・・・」

まだ 何か言っているトウジの手に自分のそれを重ねるキョウコ

 「あ あの キョウコさん・・・・・。」

自分を 見つめる 少し大人びた女性 重ねた手から少しぬくもりを感じる・・・

 『なんや この 感じ・・・・。』

手を繋がれて 最初は思わぬ事で戸惑ったトウジだが 時間が経つにつれ 不思議な安堵感を得ていた。

 『決して 嫌やない』

自称硬派を語るトウジにしてみれば デートだといえ 易々と女性と手など握る輩は断固として否定してきた。

 しかし 今の自分の置かれている立場は・・・・

トウジが考えをまとめていたところ それは キョウコの呼びかけにより中断させられる

 「どうしたのですか?トウジさん?」

トウジが ふと気で付くと キョウコの蒼い目に自分の姿が映し出されていた。それだけ 顔が接近していたといえよう

 「わあ なんでも ありまへん。」

慌てて身を引くトウジ

 「ふふ おかしな トウジさん さあ いきましょうか?」

 「はい・・・・・・。」

ぎこちなく キョウコと手をつないだトウジは 怖ず怖ずと歩き出した。

 

 「なによ あの女!!あんな うらやま・・・アホなことして!!」

物陰から先ほどの二人の様子を見ていたヒカリが呪いの言葉を吐く

 「ヒカリ あの 女って 一応あたしのママなんだから・・・。」

 『ママなんとかしてよ!!』

しかし 興奮したヒカリは、アスカのなだめにも心の嘆きにも気付かない

 まあ ビースト因子によりデビルマンレディにならないだけましか

 「アスカ!後を付けるわよ!」

 「あ はい!」

 もう 素直な返事しか術がないアスカ

二人の迷探偵は物陰に隠れながらキョウコとトウジを見守っていた。

 

 第三新東京市 中央ブロック 『スフィアバレー』

 「うーん これもいいかな・・・。」

キョウコは、サマーセーターを自分の身体に当ててみる

 「どう 似合う?」

トウジに向き直ると首を傾げてみた。

 「いや その ええと 思うんですけど・・・・。」

トウジには、どこがいいのかわからないが キョウコが着てみれば似合うとは思っていた。

 「キョウコさんは なん着ても 光るから ええと思いますわ!!」

トウジにしてみれば 最大限の褒め言葉をキョウコに投げかける

 「トウジさん 嬉しいこと言ってくれますね。じゃ これも買おうか・・・。」

 「さっきから 凄い勢いで買ってますけど・・・・。大丈夫でっか?」

トウジは、少し心配したようにキョウコを見る

 「ああ 全部家に送っちゃうから トウジさんに持たせやしないわ。それとも お金のこと心配してるの?

 ネルフから 支度金やら エヴァの特許料やら 貰っているから 今 結構リッチなのよ。」

キョウコは、商品とカードを店員に私ながらトウジに説明した。 

 「そうでっか。」

トウジは、改めてキョウコを大人の女性と認識した。どうも 姿から自分と同じ学生のような気がするのを禁じ得なかった。

そんなトウジをキョウコは興味深そうに見つめ返す。

 「うーん トウジさん ちょっといいかな?」

 「はい?」

 「ジャージもトウジさんのトレードマークでいいんだけど・・・私の我が儘言わせて貰っていい?」

 「へえ なんでも。」

 「じゃ デートのお礼に・・・・こっち来て・・・・。」

 「はあ??」

キョウコは、訳の解らないような顔をしたトウジを引っ張って別のコーナーに連れて行った。

 

 「なによ。鈴原に服ばかり見せびらかして 鈴原も鈴原よ鼻の下のばしてさ!!」

ヒカリの怒りは募る

 「あ ママ あの服いいなー。今度借りよう!」

ヒカリとは裏腹に別のことを考えるアスカ そんな 態度に対しヒカリの視線が鋭くなる

 「ちょっと アスカ 私の話を聞いてる?」

 「あ ゴメン。」

 「聞いてないのね?」

 「ゴメン。」

 「何 すぐ謝って 碇君の真似?」

 「あ いや そういうわけじゃ・・・。ごめんなさい。」

 「もう いいわ。ほら 移動するわよ・・・。」

再びキョウコ達の後を追うヒカリとアスカ

 

 「うーん 似合うわよ トウジさん。」

目を細め納得をした表情になるキョウコ

 「そうでっか?ようわからんのですけど?」

トウジは、姿見に映る自分の姿を見て感想を漏らす

 薄茶のシャツに 萌葱色のパーカー 綿パンツに デッキシューズを履いたトウジがそこに立っていた。

 「いや もっと自信を持ってよ!!トウジさん 格好いいわ!!」

心なしかキョウコの目も活き活きとしてきた。

 「まあ キョウコさんが言うのなら 間違いないけど・・・。ええんですか?

 こんな ぎょーさん こうてもろうて?」

トウジは申し訳なさそうな視線をキョウコに投げかける。

 「いいのよ。デートのお礼よ!!」

 「普通 逆とちゃいまっか?」

 「いいの!トウジさんなら 問題ない の三連呼よ。」

 「なんでっか。」

 「気にしなくていいわ!さあ 何か食べましょうか!!」

店員から 今までトウジの着ていた物を入れた紙袋を受け取ったキョウコは先に立って歩き出す。

 「キョウコさん それは・・・」

 「大丈夫 ちゃんと私が洗濯してお返しするわ。」

 「いくらなんでも それは」

トウジは、慌てた そんなことまでキョウコにさせては 申し訳なさを通り越して失礼だと思った。

 「いいの 私が好きでするんだから じゃ 行きましょう。」

そういうとキョウコはトウジの隣に並び手を取り歩き出した。

 

 「次は 食事か・・・。あれ ヒカリ どうしたの。」

アスカは傍らで呆然としているヒカリに気付いた。

 「鈴原〜・・・・・。」

 「何???」

 「かっこいい・・・・・・。」

夢遊病患者のように呟くヒカリ

 「え?」

その 言に対処しきれないアスカ・・・・しばらくの沈黙

 「あ ヒカリ 早く 見失っちゃうよ!!」

 「う うん」

慌てて キョウコ達の後を追う二人であった。

 

 レストラン DINER

 「ふう 旨かったですわ。」

 「そう 私もこういうところ久しぶりかな。」

食事が終わり デザートでトウジはコーヒーを飲み、キョウコはチョコレートパフェをつついている。

 ちょうど お昼時で店内は満員である。

 「え そうなんですか?」

 「そうよ・・・ズーッとエヴァに取り込まれていたから。」

 「すんません。気いつかんで。」

トウジは、キョウコに嫌なことを思い出させたことを詫びた。

 が キョウコは、パフェを食べる手を止め 首を左右に振る

 「いいのよ 私は・・・・自分のミスだから・・・。ただね アスカには申し訳のないことをしたと思うの。」

 「はあ。」

キョウコは、エヴァに取り込まれたのは自分の魂だけで 半分抜け殻の身体をもった自分がアスカの前で

自殺をしたことをトウジに話す。

 「私が、自殺したことで あの子は とても深く傷ついた。そして それが 性格が歪む こういうのはあの子にとって

 良くない言い方かもしれないけど・・・・。でも トウジさん アスカのこと性格が悪いと思っているでしょ!!

 高飛車で 高慢知己で 口が悪くて 捻くれているって 感じていない?」

 「そんなこと・・・・。」

トウジが、母親の目の前で子供の悪口を言えようはずもない、それぐらいの常識は彼も持ち合わせていた。

 「正直に言って!!」

キョウコは、トウジの目を正面から見つめる

 「う 確かに そう 思うっとったかもしれん・・・。」

しどろもどろで答えるトウジ

 「そうよね。でも あの子の性格の悪さも 原因は全て私 私がそばに居なかったから・・・あの子は悪くない!!」

少し涙ぐむキョウコ そこに居たのは外見とは裏腹な 一人の母親であった。

 そんなキョウコを見て トウジは拳を握りしめ

 「あの キョウコさん 惣流の事 あ アスカの方やけど この頃取っつき易うなったと思う。ちょっと前までは

 確かに 性格悪いと思うとった。でもな 嫌いやなかったで 口は悪うて 素直やないけど 優しいところが

 あるんは 知っとった。この間 惣流にワシとの関係を問いただされたけど ワシ 友達やって答えた。

 これは 偽らざる気持ちや ワシ あいつとええ友達になれると思う!!」

 「そう 友達と思ってくれるの?」

 「へえ そして これからは、同じパイロット仲間や 早うシンジや惣流に信頼してもらえるよう頑張るわ!」

トウジは決意を口にする。

 「・・・・ありがとう。アスカのこと頼むわね。」

 「そんな ワシ たぶん惣流の足ひっぱって どやされるわ。」

トウジは、困ったように笑った。

 「まあ アスカなら やるかもね。」

 「「ははは」」

キョウコの顔に微笑みが戻る。

 『ワシ 惣流の事 考え違いしとった。謝らなぁ あかんなぁ。』

トウジは、キョウコの微笑む姿を見てそう考えていた。

 『でも ええな お母さんがおって。』

トウジはアスカが羨ましくなり 再びパフェを食べ出したキョウコを見つめる。

 「どうしたの?トウジさん。」

キョウコが不思議そうな顔をした。

 「いや なんでも ありまへん パフェって結構美味しそうかなって思うとりました。」

トウジは、キョウコの食べるパフェに話題を移すことで誤魔化そうとする。

 「トウジさん 甘いもの好き?」

 「いや 嫌いではないちゅうか どちらかと言えば好きな方ですわ・・・。」

 「食べる?」

 「じゃ 一口よばれますわ。」

 「じゃ あーん。はーと

キョウコは自分の食べていたスプーンでアイスクリームをすくい トウジに差し出した。

 「いくらなんでも それは キョウコさん。」

トウジは キョウコの行動の意味を知って 真っ赤になる

 「いいじゃない。ほら早くしないと熔ける あーん。」

 「え そんな・・・・。」

 「あーん」

 「え」

あーん

 開いたトウジの口に甘いものが広がる

 「おいしい?」

 「・・・はい・・・」

遠い昔 まだ幼かった頃 トウジが母親にそうやって物を食べさせて貰った思い出が蘇る

 『・・・・・なんや 懐かしいな・・・・』

思わず目頭が熱くなり 目の奥が潤んでくる

 「どうしたの トウジさん??」

 「なんでも ないです。ちょっと アイスが冷とうて 歯に凍みましたわ」

あわてて言い訳をするトウジ

 「そう?あれ 口元にクリームが付いてますよ。」

キョウコは、ハンカチを取り出しトウジの口元を拭う

 「・・・あ・・・」

こみ上げてくる物を制御できないトウジ 口元に当てられたキョウコの手を自分のそれで上から押さえ顔を伏せてしまう。

 「すんません。キョウコさん。」

俯いたトウジから発せられたのは 詫びとも感謝とも とれる言葉。

 キョウコは、トウジのぬくもりを感じながら 彼の心情を察しはかった。トウジが自分に今抱いている感情も・・・。

 キョウコは、トウジに対してどんな感情を持っているか自問していた。好意があるのは確かであるが、彼に何を

求めているのか アスカに対するのと同じような母性の表現か それともかなり年下であるが恋愛感情を持っているのか・・・。

答えは、出せないが、キョウコは、どうすれば良いかは解っていた。彼に対しては大きな包み込む愛情をもって接すれば

よい、将来 トウジとどういう関係になるかわからないが、自分はそうすればよい。そうすることこそ、自分がサルベージされて

現在に至っている理由の一つであるとキョウコは結論づけていた。

 ガシャン

突然 近くのテーブルが乱暴に叩かれる音がする。

 そちらに視線を移したキョウコの表情が少し優しく崩れる。

 

 「なによ あれ キーッ ええい 忌々しい。」

ヒカリは腹立ち紛れにテーブルを拳で叩く 大きな音がする

コップ等が壊れなかったのは幸いといえよう。 

 「まあ まあ ヒカリ。」

アスカが困惑気味にヒカリをなだめる

 『ママ 何考えているのよ??』

泣き出したいアスカであった。

 

 歩行者天国

 「なんか すっかり キョウコさんの世話になりっぱなしですな。」

トウジは、隣を歩くキョウコに申し訳なさそうに話しかける

日曜の昼 歩行者天国に人出は思ったより多い

 「いいんですよ。私が誘ったんだから・・・。」

トウジに対して気にすることないと手を振るキョウコ

 「でも 男として なんか・・・・。」

少し口ごもるトウジ

 「じゃ これぐらい いいでしょ!!」

キョウコはトウジの腕に自分のそれを絡める。

 「わぁ なんすんですか キョウコさん!!」

突然のキョウコの振る舞いに驚くトウジ 心拍数・体温とも急上昇する。

 「ね 少しだけ いいでしょ?」

 「はあ・・・・。」

モデルの様な美女と腕を組んで歩くトウジに 道行く男性達から 羨望の視線が投げかけられる。

 『視線が痛いわ ほんま』

初めての経験にどうしていいのか解らないトウジ

ふと キョウコの足が止まる

 「何ですか。キョウコさん?」

トウジがキョウコの視線の先を追ってみると露天商のアクセサリー売りの姿があった。

 「え あんなんが欲しいんでっか?」

トウジは、その店の商品を見てみたが たいした額の物は置いていない 薄っぺらなトウジの財布でも

一つや二つ買ってもどうって事ないものであった。

 「まあね。私も、女ですから・・・・。」

 「あれくらいなら ワシでも買えるけど キョウコさんにはもっとええ物が似あうんちゃうやろか?」

 「でも ・・・・それじゃトウジさんでは無理でしょ?私は、トウジさんから頂けるなら たとえ石ころでも嬉しいですわ。」

そこまで言うか!キョウコさん? この言葉に トウジがキョこの期待通り反応したのは言うまでもない。

 「ほな プレゼントしますわ。キョウコさん!!」

 「嬉しいわ!!」

トウジの言葉を聞いて露天の商品を選び始めたキョウコ

 

 「あんにゃろう!!中学生にたかるんかい!!!」

ヒカリが苛立ち 非難の台詞を吐く

 「ふぇー ママ もう止めてよ。」

ヒカリとは対照的に泣き出しそうなアスカ

 『何 考えてるの?まさか 本当に鈴原のこと・・?』

トウジを義父と呼ばなくてはならないのか?? アスカの背筋はこの上もなく寒くなる。

 

 

 しばし後 キョウコが選んだのは イルカが丸まったデザインのリングであった。当然たいした値段でない

 「トウジさん 付けて貰えます?」

キョウコはトウジにリングを渡して、左手を差し出す。

 「はあ なんか照れますけど・・・。」

トウジは何も考えず薬指に指輪を入れようとする

 「トウジさん?それでいいんですの?」

 「はあ?」

 「だって 左手の薬指に指輪を入れるって・・・。」

キョウコは恥ずかしそうに微笑む ここで いくら ニブチンのトウジにも意味がわかる

 「わあ すんません。」

トウジは慌てて中指に入れ直す

 「ちぇっ ちょっと 残念。」

 「はい なんか言いましたか キョウコさん?」

 「なんでもないわ!!」

微笑んで互いに見つめあう キョウコとトウジであった。

 

 「・・・・・・・。」

 「どうしたの ヒカリ?」

先ほどまで ぶりぶり怒りまくっていたヒカリが突然沈黙したのでアスカは心配になり彼女の顔を覗き見た。

アスカが見た物は、愁いに沈むヒカリの表情

 「鈴原・・・キョウコさんと居て楽しそう・・・私あんな鈴原の顔見たことない。」

 「ヒカリ・・・・。」

今はヒカリの刺すような視線は、すっかり消え失せ 自信なく弱々しく二人を見つめていた。

 

 キョウコは、自分に向けられた視線が弱ったのを肌で感じていた。

 「さてと ライバルにも塩を送りますか。」

 「なんですか キョウコさん??」

トウジはキョウコの発言の意をはかりかねた

 「ねえ トウジさん リング もう一個いいですか?」

 「へ へえ 安物さかい もう一つくらいなんともありまへんが・・・?」

 「じゃ お願い・・・・私じゃなくて・・・・。」

キョウコは傍らの物陰に向けて歩き出し そこに隠れていた赤いワンピースの少女を引き吊り出す

 「この子に買ってあげて!」

 「はあ どなたでしょうか その人 キョウコさん??」

 「解らない?」

キョウコはそう言ってヒカリが被っていた帽子を取った。

トウジにとって見慣れた しかし、今日は雰囲気の変わった少女

 「え 委員長か?」

あまりのヒカリの変貌ぶりにトウジは戸惑いを隠せない そして、彼女の隣のスーツ姿のアスカに気付く

 「なんや 委員長もデートかいな!!」

勘違いして少し複雑な気持ちのトウジ

 「トウジさん これはね。」

キョウコがアスカからサングラスを取り上げる

 「え 惣流かいな・・・・・。えらい男前やな。」

 「ちょっと どういう意味よ」

思わずトウジと口喧嘩を始めるアスカ

 「アスカちゃん Schweig!」

アスカの言葉をキョウコが遮る

 「トウジさん 洞木さんは、あなたのことが心配なの。それに いつも 彼女にはお世話になっているでしょ!

 だから いいでしょ!私からもお願い。」

言い終えた後 露店のアクセサリーを目で示すキョウコ

 「え わかりましたわ。委員長 なんか こうたるわ。」

 「・・・・・でも・・・・・。」

 「ええんや 委員長には、弁当のことや ナツキのことで えろう世話になっとるわ。これぐらい 当たり前や!」

 「・・・・・うん ありがと・・・・。」

真っ赤になったヒカリが選んだのは キョウコと同じデザインのリングだった

 「ねぇ トウジさん 洞木さんにも 付けてあげて。」

リング二個の精算を終えたトウジにキョウコが声を掛けた。

 「え なんか ええやろ そんなん なあ 委員長!」

トウジは照れ隠しにヒカリに同意を求める

 「・・・・・。」

固まって何も言えないヒカリ

 「トウジさん お ね が い。」

キョウコはもう一度 頼んで トウジの目を見つめた。

 優しく諭すような蒼い目

 『わかりましたがな キョウコさん』

 「貸せ!」

トウジは、少し乱暴にヒカリの持っていたリングを取り上げ彼女の左手の中指にはめた。

 トウジの手が離れた後、伸ばしていた指を握り 右手をその上から当て力を込め胸元に抱き寄せ俯くヒカリ

 『ヒカリ 良かったね』

傍らでこのやり取りを見ていたアスカは心の中で友に呼びかける。

 そんな 子供達をニコニコ見守るキョウコ

 「さーて トウジさん!」

 「なんですか キョウコさん?」

キョウコは少し残念そうに切りだした。

 「私 急に仕事が出来たんです。」

 「そ そうでっか。」

 「まあ これがぜーんぜん もうけにならない仕事ですが・・・。」

 「はあ?」

 「という 訳で、デートは洞木さんに代わって貰います。いいですか?」

 「えー なんで ですか?」

トウジは、キョウコのとてつもない申し出に半分腰を抜かした。

ヒカリも、驚いて言葉が出ない。

 「すみません。トウジさん この埋め合わせはしますから お願いします。はい これ映画のチケット。」

キョウコはハンドバックの中からペアチケットを取り出すとトウジに手渡す。

 「あと もう少ししたら 始まります。急いだ方がいいですよ。」

 「へ へえ。」

 「じゃ さあ 行くわよ アスカちゃん!!」

キョウコは側にいたアスカの腕を取り立ち去ろうとする。

 と 立ち去り際 振り返る

 「トウジさん」

 「はい?なんですか キョウコさん?」

 「洞木さんは、私の代理ですから・・・ほら さっきみたいに腕を組んで行ってくださいね。」

 「えーーーー。」

 「お願いしますよ。トウジさん!あ 晩ご飯までには帰ってね。今日はユイも早く帰って来ることだから賑やかにやりましょ!」

そう言い残しキョウコとアスカは人混みの中に消えていってしまった。

 後に残されるトウジとヒカリ お互いに何も言えずにいる 突然

 「い 委員長 行くで。」

ぶっきらぼうにトウジが切り出し 左腕を差し出す。

 「え」

トウジの行動の意味を知り 真っ赤になるヒカリ

 「か 勘違いすなや キョウコさんの頼みやから しかたのうするんや。」

 「うん。」

ヒカリには理由はどうでも良かった。ただ トウジとそうやって デートすることが嬉しかった。

 そろそろとトウジの腕に自分の腕を絡める トウジの腕の感触が直に伝わる。

 「いこか」

 「うん」

キョウコ達とは反対の人混みにトウジとヒカリは消えていった。

 

 「ママ 仕事ってなによ?」

アスカは、有無を言わさずに自分を引っ張っていくキョウコに問う

 「あら やってるじゃない 今?」

 「だから 何?」

 「あなたの母親よ。これが ちっとも儲からないんだわ。」

キョウコはしみじみ語る

 「もう ママ!!」

アスカは少し拗ねる

 「でも・・・・アスカちゃん 男装も いいわねぇ・・・・、男の子も欲しくなったわ。」

 「そ そ そう でも 義理でいいなら シンジがなってくれるわよ そのうち・・・。」

 「はあ??それって」

 「あ!」

ボン

これ以上ないくらい真っ赤になるアスカの顔

 『この へっぽこ娘が』

 「でもねぇ でも もう一人くらいは 子供が欲しいかな それには まず いい人を 探さなくっちゃ・・・。」

キョウコは心底そう考えた。今ではアスカの父たる前夫に完全に未練はない

自分が居なくなって いやそうなる以前に他の女の元に走り その上娘を放ったらかしにする男など・・・

そういう意味では、相手が怪しさ100倍で少し考えが固執しているゲンドウであるが 一途に愛し合うユイを

見て非常に羨ましく思っている。

 「ママ??」

突然黙りを決めた キョウコを心配してアスカがキョウコの顔をのぞき込む

 「うん 大丈夫 アスカも 弟か妹 欲しい??」

 「う まあ い いても いいわよ。」

アスカはしどろもどろで答える アスカにとって姉妹とは解らない存在である。ヒカリにも姉と妹がいるが学校での会話に

彼女らはよく登場する、アスカにはどういうものかわからない。身近にいるシンジにしても一人っ子であったが、そのシンジに

してみても、最近はレイに対しそういうつもりで接しているというし 近い未来ユイに子供でも出来れば間違いなくシンジの姉妹(兄弟)である。

 『弟か妹か・・・・。いたら 楽しいかな?』

そう 思うアスカであった。そんなアスカとは別に

 「いてもいいか・・・・・。はは そうね 私もまだまだこれからだもんね。」

キョウコは納得したように頷く

 「そうそう まあ 新しいパパが出来たら早めに紹介してね。」

 「あーら ひょっとしたら トウジさんが新しいパパかもよ!」

 「ゲーッ ママァー。止めてよ。」

 「ふふふ」

 「もう ははは」

大声で笑い合う二人 さんさんと降りしきる太陽の光の下 仲の良い親子が其処にいた。

 

 同日 夕刻 コンフォートマンション 葛城宅

 「ただいまー」

玄関から入ってきたアスカの所へ ペンペンが走り出てくる

 クワーッ クワクワ

何か言いたげに アスカの足下にまとわりつく

 「どうしたの?ペンペン?」

アスカは、物言わぬペンペンに苛立つ

 「あ アスカ お帰り。あれ ずいぶんボーイッシュな格好だね。」

奥の部屋から シンジが出てくる

 「あー シンジ あんた・・・・・。」

その顔を見たアスカの時間が止まる

 カシャ

近くで降りるカメラのシャッター音

 「逆カップル なーんてね。」

レイが、笑いを堪えながらカメラ片手に立っていた。

 「何 どうしたの レイ アスカ?」

まだ 真相がわからない シンジ

 「あ あ あんた か か鏡見てご覧なさい。」

アスカが、どもりながらシンジを洗面所に連れて行く

 シンジが覗いた鏡に中には TシャツとGパンを着た 薄化粧の黒髪の女の子が不思議そうな顔でこちらを見つめていた。

 「ひょっとして これって 僕?」

シンジは、信じがたい様に顔のあちらこちらを触る。

 「「レイ!!」」

シンジとアスカがユニゾンで怒鳴る。しかし レイは動ぜず

 「女装のシンちゃんと男装のアスカ・・・・。若かりし頃のパパとママの思い出って 子供達に見せてあげるの。」

自分の考えを披露する

 「「パパとママー??」」

ボンッ

 ユニゾン赤面する二人 しばし呆然

 「はい はい 仲がおよろしいことで さいならー。」

カメラを持ったレイは そそくさと逃げ出す

 クワー 

ペンペンの鳴き声で我に返る二人

 「「レイ」」

止めておけばいいのに、レイの後を追いかける 当然 シンジは、ちょうど帰宅したユイとミサト

アスカと一緒に帰宅していたキョウコにも恥をさらすことになった。 

 


 4人のチルドレンに対して それぞれ指示を出すユイ ネルフ本部でのトウジの特訓 レイの新プロジェクトへの参加

そして シンジとアスカに出されたのは、別々の修行のプランだった。離ればなれになる恋人達

 次回 やっと 新たなる旅立ち


アスカ:高飛車で 高慢知己で・・・ママぁ、アタシが可愛くないのぉっ!(TOT)

ヒカリ:そんなことどうでもいいわよっ! なによっ! このラブラブ振りはっ!(ーー#

アスカ:いいじゃん。結局は、鈴原の仲をママに取り持って貰ったんだし。

ヒカリ:そうだけど・・・うーん、ほんと何考えてるのか、わからない人だわ。

アスカ:腕まで組んじゃって。プププ。

ヒカリ:あ、あれは・・・その。(*^^*)

アスカ:今回は、かーいいシンジも見れたし、良かったわぁ。(^^v

ヒカリ:アスカより、なんか可愛いかも・・・。

アスカ:なわけないでしょーっ!!!
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