第13話 シンジ、杜の都に来たる

 

 シャーッ

リニアのドアが開く 荷物を抱えて 降り立つシンジ

ここは仙台シティ ステーション ラッシュ時ではないが結構人混みがしている

セカンドインパクトで日本も主要都市の幾つかは壊滅しており 第2都市に機能を移築していた

幸い ここ仙台シティは、セカンドインパクトの余波はあまりなく 以前の町並みを維持していた。

 「うーん 困ったな。確か迎えに来るそうだけど・・・。」

シンジは、荷物を置き バックの中から手紙を取り出す。

荷物と言っても 大きめのバックと母から渡して貰った長刀”桔梗仙 冬月”だけであるが

こちらの方はいくら携帯許可があるとはいえ 物騒なので袋に包んで何かわからないようにしてある。

 シンジは、母ユイが書いた手紙 宛名に”比古セイジュウロウ”と和紙に墨で書れているそれを眺める。

母の話によれば、かなり豪快な人間で 今シンジの持っている”桔梗仙 冬月”を片手で軽々振り回したという

 『僕の苦手なタイプかもしれないな?』

そう思いながらもシンジは、母の語った 比古セイジュウロウの容姿を思い出し それに似た人を人混みの中に捜す。

 「あ あの あなた 碇シンジ さん?」

そんなシンジは後ろから 躊躇いがちに名前を呼ばれる。

 「え?」

シンジが振り返ると そこには 年の頃なら17歳くらい 白いセーラー服を身に纏い 長い黒髪を赤い大きめのリボンで後ろにまとめた

女子高生が微笑んで立っていた。

 「はい 僕は碇シンジですが・・・。あなたは?」

シンジが答えるとその女性は、ほっとしたような顔をして

 「よかった 見つかって・・・・。でも・・・・。」

シンジは、その女性が、自分を見て少し戸惑っているような感じを受けた。

 「どうしたんです?」

 「いや エヴァンゲリオン初号機のパイロットっていうから どんな 厳つい人が来るかと思ったんですけど・・」

 「はい??」

 「こーんな 可愛い子だったなんて キャッ!」

 「はあ?」

シンジは、最近アスカの手前一人前の男になると言う事を目標としている

そんな 気持ちでいる今 可愛いといわれ少し腹が立った。そんな事はお構いなしに女性は好奇心満々の表情でシンジを見つめる。

 「頼りになりませんか?」

少し むっとしたようにシンジは女性に問う

 「いえ ちょっと意外だったものですから 失礼しました。」

シンジの表情を読みとり女性はしまったとばかりに頭を下げる。

 「いえ いいんです で あなたは?」

シンジも大人げない事はやめ機嫌を直し女性に訊いた。

 「申し遅れました。私は、父セイジュウロウより あなたを家までお連れするように仰せつかって参りました。

 私の名前は、真宮寺サクラと申します。碇シンジさん よろしくお願いします。」

その女性 サクラは、おもむろにもう一度頭を下げる。

 「あ こちらこそ でも セイジュウロウさんがお父さんって 確か”比古”って姓字じゃなかったかな?」

シンジは手元の手紙を見て首を傾げる

 「父セイジュウロウは我が真宮寺家に、婿入りしました。旧姓が”比古”ですわ。」

サクラにとってみれば退屈な事実

 「そうですか?」

 「では 碇さん 参りましょうか。」

サクラは、先に立って歩き出すも少し歩調をゆるめてシンジに並ぶ彼女もシンジより幾分背が高く

シンジが横を見るとサクラの首筋が目に入る。横髪をおろしているためシンジの目の前で髪が揺れる

シンジの視線に気付いたのかサクラのそれと鉢合わせする 慌てて視線を戻すシンジ

 「荷物を持ちましょうか?碇さん?」

サクラが微笑みながらシンジの顔を覗き込む

 「いや 荷物と言っても二つだけだから」

 「そうですか?それって本身ですね?」

サクラがシンジの持つ”桔梗仙 冬月”に視線を注ぐ

 「本身?」

 「あ 真剣の事よ。父さんが貴方のお母さんに贈った刀ですか?」 

 「そうです。母が結婚祝いにセイジュウロウさんから貰ったといってました。」

 「そうですか?・・・・・・父さんらしい。結婚祝いに刀ですか?普通は、切るなんて禁句でしょ結婚式には?」

サクラは、自分の父を思いやって複雑な表情をする。

 「でも 母は、別に気にしてないようでした。・・・ある意味 浮世離れしてますから 家の母さん。」

 「でしょうね。家の父さんと友達づきあいできるんですから・・・・・・・。」

 「え!?」

今までのサクラの言を聞いてシンジの心の不安が鎌首をもたげる。セイジュウロウなる人物が母ユイみたく

常識という物を無視した人間ならどうしよう はたして 自分で対処できるのか?

 「どうしました?」

サクラは黙りこくったシンジに気付き怪訝そうな顔をする。

 「いや あははは。」

もう 笑って誤魔化すしか他に手段がないシンジであった。

 『アスカ 助けてよ!』

遠い空の下に居るアスカに助けを求めるシンジ 仙台の空は何処までも青かった。

 

 仙台シティ郊外 荒鷹神社

高い山の中腹に建てられた神社である

シンジがサクラと共に鳥居をくぐり 参道を通って社殿に行く間かなりの石段を登った。

 シンジが参道の真ん中を歩いていこうとするとそこは正中といって神様の通り道だからとサクラに言われ道の端に引っ張られた。

 変なしきたりがあるのだなとシンジは思う シンジはどちらかというと無神論者である アスカにしてもそうだろう

ネルフは、そのシンボルマークに付いているロゴからも唯一神を信仰する傾向にあるなかなとシンジは思う。

 そして、アダムに始まる使徒の存在とその理由を考えた時 なんか超自然的な意図というものをシンジは感じていた。

実際 神様という者がいればなんとかしてくれというのが シンジの想いである。

 やっとの事で、長い石段を登り切り 社殿に着いた頃にはシンジの息は荒く 少し汗も掻いていた。

 『アスカが見れば情けないと怒られそうだな!』

シンジは、自分の体力のなさに自嘲した。

 そして、思い出したように首元からロケットを取り出し開いてみる。中にはアスカと並んだ自分の写真 思わず顔がほころぶ。

 「へえ 綺麗な子ね?彼女?」

いつの間にかサクラが写真を覗き込んでいた。

 「うわぁ サクラさん ビックリしました。」

 「ねえ 彼女なの?」

サクラも年頃の女の子 こういう話には興味があるらしい。

 「ま まあ そんなものです。」

シンジは狼狽えながら曖昧に答える。

 「へえ じゃ 寂しいでしょ?シンジ君 父さんのところでしばらく修業をするって聞いていたら?彼女は、泣いていない?」

サクラは、意地悪そうにジト目で見る。

 「え いや アスカも別の所に修業に行ってますから。」

 「アスカちゃんっていうのか彼女?修業?彼女も?」

 「はい。彼女もエヴァのパイロットなんです。」

 「はあ じゃ 職場恋愛ってわけだ。」

 「は そうなるのかな。」

シンジは、実際よそ目で見ればそうなるのかと思い直す。しかし 同居している事は恥ずかしいので伏せておく。

 「あの サクラさん 急ぎません?」

 「あ はい えーっと シンジ君て呼んでもいいよね?」

 「どうぞ 碇さんって呼ばれるのがさっきからくすぐったかったです。」

 「そうなんだ。じゃ 行こうか 父さんが待ってるわ。」

サクラが、シンジを連れて社殿に入り奥へと進む やがて 板張りの広間にでる。道場であろうか?

 「おう サクラか。お客は連れてきたかい?」

板張りの間の奥には神棚が祭られており その前に壮年の男が胡座を掻き 酒を飲んでいる。

長髪で目つきが鋭く 羽織っている作務衣から見える身体はたくましい。

 「ええ 父さん お連れしたわ。シンジ君 私の父 真宮寺セイジュウロウです。」

サクラがシンジをセイジュウロウの元へ促す。シンジはセイジュウロウの前へ恐る恐る進み出る。

 「あ あの 碇シンジです。はじめまして・・・あの これは 母からの手紙です。」

セイジュウロウの前に座ったシンジは、あまりの眼光の鋭さに それだけ言って シンジは、ユイの手紙を差し出す。

 「ほう 貸してみな。」

セイジュウロウはシンジから無造作に手紙を受け取ると目を細めて読み出した。

文面が進むに連れ彼の口元から笑みが漏れる そして 最後まで読んで顔を上げた

 「ほう 確かにユイの字だ。懐かしいな ユイは元気か?」

 「はい 元気ですが・・・・あの 母さんと知り合いなら 一度会いに行ってください。」

まさか エヴァに取り込まれていたと言うわけにもいかずシンジは、母親に直接会う事を勧める。

 「そうか あまり 連絡がないから避けられていると思ったが いいのかい 会いに行っても?」

 「はい 母さんも喜ぶと思います。」

シンジは確信を持ってセイジュウロウに告げる。

 「ところで セイジュウロウさんは、母さんとどういう関係だったのですか?」

シンジは不躾な質問をセイジュウロウにする。

 「おう オレは、京都大学での先輩さ もっともユイと仲良くなったのは冬月って人の元で古武道に励んだからかな?

 あの頃は楽しかったな。剣術では負けなかったが、素手では一回もユイに勝てなかった。実際強くていい女だったよ。

 おまえの母さんユイはよ。」

セイジュウロウは懐かしそうに語る。

 「そういえば、いま 冬月さんもネルフにいるんです。一度是非来てください。」

シンジは冬月の事もセイジュウロウに告げる

 「そうか・・・ユイにもあいつの結婚式以来会ってないもんな。それとユイと仲の良かったハーフの留学生の惣流

 ユイとは昔からのつき合いと言っていたが あいつも何しているんだか?」

 「それって キョウコさんのことですか?セイジュウロウさん キョウコさんもご存じなんですか。」

 「そう 惣流キョウコだが おまえ知っているのか?」

 「ええ 今 ネルフにいます。」

 「そうか よく 昔は、奢らされたなバイトの金が入る度に、どんちゃん騒ぎだったから。」

 「はあ・・・・」

シンジは、セイジュウロウにたかるユイとキョウコの姿が目に浮かぶ あまりに現実的だ。

 あの二人は心を許した相手には容赦がない。そう言うわけで あの二人がまともにつき合う

この人セイジュウロウの人柄がシンジにも伺われた。

 「あの セイジュウロウさん」

 「なんだい?」

 「母さんやキョウコさんと親交があったのでしょう。その 恋愛感情はなかったのかと・・・・。」

シンジは興味本位な質問なので上目遣いに尋ねる。

 「ははは そうくるか。まあな 確かに二人とも極上だが・・・あいつらはさっぱりしすぎて 男みたいなんだ。いい友達だよ。

 それに そのころは もう サクラの母親のワカナと婚約していたしな。」

 「そうですか・・・・。」

シンジは、ユイやキョウコに対抗するネタを仕入れることができない事に落胆した。

 「まあ 一度 是非ネルフに来てください。」

シンジは、セイジュウロウに念を押す事を忘れなかった。

 「おう そうさせて貰うわ。二人ともいいおばさんだろうなぁ はは どんな面になってやがるか?」

シンジは今の二人の容姿についてセイジュウロウにそれを告げるのを止めた まさか事実を話すわけにもいかない

本人が確認するのに任せようと考えた。

 『それくらいは 母さんが対処してよね』

 「ところで・・・おまえの持っている”桔梗仙 冬月”かしてみな。」

シンジの思惑を知らずセイジュウロウは立ち上がりシンジの所に来る。

 「あ はい どうぞ。」

シンジは、躊躇いなしにそれを渡す。セイジュウロウが刀を袋から出し柄に手を掛ける

次の瞬間 シンジの意識は闇に沈んでいた。

 

 「父さん なんてことするの?」

昏倒するシンジを見て サクラがセイジュウロウを咎める。

 「心配するな 峰打ちだ。しかし ユイの息子ってから 凄腕のお兄さんと思ったのに全然じゃないか?」

セイジュウロウは呆れたように倒れているシンジを見つめる。

 「そんなの 物腰でわかるでしょ。シンジ君が素人なのは・・・父さん 目が曇ったの?」

サクラの剣幕は凄い

 「そういったってな。ユイだって見た目は素人なんだぜ それであいつに言い寄る男が何人痛い目にあったか。

 わ わかったよ悪かった ホントにサクラは死んだワカナに似ているな。」

 「話を逸らさない。」

 「悪かったってるだろ。だが 全くの素人を教えるとなると・・・・。よし サクラ こいつの面倒はおまえが見ろ。」

 「え?」

突然の父親の言い付けにサクラは言葉が止まる

 「え じゃねえよ。サクラ おまえだって すでに北辰一刀流の免許皆伝だし 飛天御剣流だって最終奥義以外は

 体得してるだろ。それに 最近は何かオリジナル技まで考えてるじゃないか 腕は十分だろ。

 いいか おまえも人に教える事で自身の剣も進歩するだろうよ。」

 「ええ それは そうだけど・・・。」

 「それに 免許皆伝になれってユイも言ってない 破邪の剣の発動だけでいいそうだ。」

 「でも それって・・・・。」

 「才能はあるそうだ。ユイが言うんだからな。それにユイの相手 こいつの父親の旧姓は六分儀だそうだ。わかるだろ 六分儀!」

 「え それって・・・・・。わかった やってみるけど。」

 「じゃ 頼まぁ オレはよ 氏子さんとこ行ってくるから。」

 「父さん そんなこと言って ただ単に 面倒くさいから 私に押しつけてない?」

 「う そんなことねえよ じゃ サクラ 頼むぞ!」

図星を突かれたのか セイジュウロウはそそくさと出て行く

 「もう・・・。」

腰に手を当て父親を見送ったサクラは横たわるシンジを見てため息をついた。

 

 ヨイショ ヨロヨロ

サクラは、シンジを抱きかかえて 廊下を 足取りも怪しく進む

そして シンジに当てた 客間について すでに敷いていた 布団にシンジを運ぶ

 いくら サクラが日頃から身体を鍛えており シンジが軽量とはいえ サクラにとっては厳しい仕事である。

 「うーぅん」

抱かれているシンジは、震動からか目を覚まそうとする ここで サクラが保っていた微妙なバランスが崩れる

 キャ 

 ドシーン

サクラは布団の上にシンジごと倒れ込む ここでシンジ再起動 目には木目の天井が映る

 「知らない天井だ・・・・。」

ぬけぬけと以前と同じ台詞を吐くシンジ ふと 胸に重みとぬくもりを感じる 心なしか甘い体臭も

ふと 顔を横に向けると 大きく息をついているサクラの横顔 そして視線を下に移すと自分の胸と重なるサクラの胸の双丘

 『はは どうなったのかな?』

突然の幸運にシンジは感謝をする。やはり この辺は女性経験がある余裕か?

 このバカシンジ 殺す!!

シンジの頭の中に突然登場したアスカから殺気が走る

一方のサクラは、まだ 異性に対しての経験があるわけではない シンジが覚醒したと知るや慌てて飛び起きる

 「ご ご ごめんなさい。」

サクラはシンジに背中を向け正座してから しどろもどろで謝る。シンジは当然サクラが何をしていたか予想していたから

 「いえ 済みません。サクラさん 重かったでしょ。」

と素直に感謝の意を表す。

 二人の間に走る沈黙の間 サクラにとって 異性と二人きりで話す経験は無かったし シンジもアスカ以外にあまり女性と親しく

なった覚えはない。

 「えーと その シンジ君の面倒は私が見る事になりました。」

 「え なんですか?」

間の抜けた返事を返すシンジ その対応からか サクラは冷静さを取り戻しつつあった。

 「はい。ここでの修業ですが、私がシンジ君を教えます。よろしいですか?」

 「え サクラさん 出来るんですか?」

やっと サクラの告げる意味を知り シンジは驚きのあまり問い返す。

 「え?出来るんですかと聞かれたら 大丈夫よ と言うしかありません。世界の破壊を防ぐため・・・」

 「サクラさん 君もなの?」『どうして 僕の回りには真面目な人がいないんだろう』

最近 壊れ気味の人間しか回りにいない事を嘆くシンジ

 「知らないわ 私は3枚目だもの。ハッ シンジ君を見ているとどこからか電波が・・・いやー 何でもないわ・・・。

 えっと 貴方の修業の面倒をみれるかって話だったわね。えーと それなんだけど

 私も、4歳の時から剣を握っていますから多少の腕には覚えがあると自負しています。大丈夫よ!」

サクラは ドンとばかりに胸を叩く

 「はあ?」

少し不安なシンジ 自分と歳もあまり変わらない 外見は虫一匹殺せないような可憐なこの人で大丈夫だろうかと考える。

 「父さんも認めていますから大丈夫です。シンジ君 私が貴方を男にしてみせます。」

聞きようによっては、恥ずかしい言葉を吐くサクラ

 「どういう意味でしょうか?」

思考一転 シンジは顔を赤らめ聞く

 「へ?」

きょとんとしたサクラ シンジのいわんとする事を理解し耳まで紅潮させる

 「へ 変な意味はないですよ!ちゃんと修業を完成させるってことです。もう アスカさんに言いますよ!」

サクラは唐突にアスカの名前を出す。

 「え それは、止めてください。罰は何でも受けますから。アスカに言うのだけは・・・。」

それこそ この世の終わりが来ると確信するシンジ 彼とてまだ命は惜しいらしい。

 「冗談ですよ!さあ 今日は疲れたでしょ。お風呂沸かしますから 入ってください!その間に晩ご飯を作ります。

 シンジ君好き嫌いはないわよね?」

サクラは、話を切り替えた。何時までも不毛の会話はしたくないようだ。

 「え そんなぁ。僕も手伝いっていうか 今日からサクラさんの弟子でしょ 僕は? 僕がしますよ!お風呂と台所の場所

 教えてください?」

シンジは、家事をすることを申し出る。

 「え いいのよ。私は、いつもしているから。」

手を振り拒否するサクラ

 「でも とりあえずやらせてください!!出来なければお手伝いお願いします。」

 「うん じゃ 頼むわね。」

サクラは、シンジの熱意に押され シンジの家事への参加を了承する。

 

 「じゃ サクラさん 風呂水を汲んでくる水くみ場はどこですか?」

 「はい!?」

シンジの申し出に意味がわからず困惑するサクラ

 「いや 風呂に水を張らなくては・・・。」

 「水道の蛇口を捻ればいいでしょ?」

 「そうなんですか?」

あまりの安易さにシンジは首を傾げる

 「じゃ 薪置き場は、薪割りしなくちゃ!」

 「あの シンジ君何言ってるの?」

次第にサクラの顔が険しくなっていく

 「だって 風呂を沸かすのにも かまどでご飯を炊くにも必要でしょ?」

 「はあ?シンジ君 家を神社だからとか ここは田舎だとか思ってバカにしてない?」

サクラは腰に手を当て 呆れたように言い放つ。

 「え だって 修業って言えば薪割りじゃ?」

 「今時薪なんて?誰がそんな事言ったのよ?」

 「母さんが修業の参考にしろって・・・・。これをくれたから。」

シンジはバックの中から本を取り出した。サクラはそれを手に取ってみる

 「何々”少林寺”って拳法じゃない。それと”笑傲江湖”って凄い物読んでるわね。これは・・・”るろうに剣心”・・・・・

 父さんの愛読書ね。最後は”サクラ大戦”・・・・・いい趣味してるわね。」

 「終わりの方は なんかの 説明みたいですね。」

 「ちょっと シンジ君 誰に説明しているの。」

 「やあ みんなわかっていると 思ったんですが 念のため。」

 「まあ いいわ。シンジ君 お風呂の水張りも沸かしもボタン一つ、電磁調理器も電子炊飯ジャーもあるわよ。

 21世紀を嘗めるんじゃないわ。」

 「はい!!」『ひどいよ!母さん。』

シンジはユイに騙された事に気付いたようだ。 罰が悪く頭を下げる

 「さあ 始めましょう。シンジ君。」

 「はい!サクラさん。」

こうして シンジの修業第1日目が始まった。

 

 「さてと あとは、みそ汁が沸いたらOKね。あ シンジ君 味見てくれる?」

サクラが、汁をお玉ですくい 小皿に移しシンジに差し出す。

 「はい・・・・昆布だしですね。ちょっと薄いかなって思いますけど これは好みかな?いいと思います。」

 「そうかな シンジ君若いんだから もっと濃くしようか?」

 「いいですよ これで、薄味の方が身体にいいし・・・しかし さっき味見させて貰いましたが 全部の料理いい味ですね。」

 「うーん たぶん 水がいいからじゃないかな。天然のわき水を使っているから・・・。」

 「そうですか?でも 少しで済みましたね。ペットボトルの天然水を買いに行くより楽だ。」

そう ここ真宮寺家では、飲料水と調理に使う水は先のシンジの言葉通り水くみ場たる泉からくんできていた。

それでも桶いっぱいで足りるので、シンジの水くみが修業というのはてんで的はずれである。

 「そう ありがとう。シンジ君が手伝ってくれて早く終わっちゃった。」

サクラはそう言って割烹着を脱いだ。

 ジーン

シンジは感動していた。初対面で家事能力の高い女性に会ったのはキョウコは別としてヒカリ以来である。

 『これが 普通なんだよな?』

どうして 自分が会う女性は、家事能力が乏しい人ばかりだろうかとシンジは疑問に思う

確率的には少ないと思うのに 現実はシンジに残酷であった。

 「シンジ君!?」

感慨にふけるシンジにサクラが声を掛ける

 「はい!」

 「ご飯にしましょう。ご飯を食べたら お風呂が、沸いているから先に入って!」

 「はあ?」

 「父さんは どうせ 夜遅くならなきゃ 帰らないし、明日から修業を始めるから・・・早く休んだ方がいいわよ。」

 「わかりました。」

シンジは、そう言ってサクラと一緒に食卓に着いた。

 

 

 ザァーーッツ

湯船から お湯が溢れる

 『いろいろあったな 今日一日!』

セイジュウロウに不意打ちを食らった頭はこぶになっており 頭を洗った時少し痛かった。

 『でも サクラさんが優しい人で良かったな・・・・。』

さっきのサクラの胸の感触がシンジの脳裏に蘇る

 『胸はアスカの方があるかな えへ』

不埒な考えで下半身が熱膨張

 「シンジ君 着ていた物洗っとくわね?」

その時 風呂場の外からサクラの声がかかる

 「うわぁ サクラさん いいですよ。」

自分の淫靡な心を見透かされたようで慌てるシンジ

 「遠慮しなさんな。私 失礼かもしれないけど シンジ君の事 弟みたいに思ってきちゃった。私 一人っ子だから・・・・。

 お姉さんって こうやって 弟の世話を焼くのかなって考えたりして ねぇ いいでしょ そう思っても?」

風呂の扉越しのサクラの呼びかけ

 『そうなのかな?』

シンジは、自分の姉を名乗りながらビールをがぶ飲みし 思いっきり世話をかけ続ける女性を思い浮かべる。

 『本当はお姉さんって こんなのだよね たぶん』

シンジはサクラが至極当たり前なのに安堵する 

 「だめかな?」

少し沈んだサクラの声

 「いえ とんでもないです。僕みたいに冴えない男が弟だと サクラさんに迷惑がかかるかも・・・。」

 「じゃ いいんだよね。シンジ君?」

 「は はあ 僕は別に、構いませんが。」

ガラーッ

風呂場のドアが開く

 「やった!じゃ 背中流してあげる!」

 「うわぁー!!!」

突然のサクラの来襲にシンジは思わず湯船から立ち上がる

サクラの視線が思わずシンジの膨張気味の下半身に凝縮

キャー

当然のごとく上がる悲鳴(おいおい 自分で乱入してそれはないだろう)

反射的に浴槽に身を沈めるシンジ・・・・前途多難である。

 

 「はあぁー」

客間の布団に横たわり 湯当たりを沈めるシンジ

 「ごめんなさい・・・。」

ふすまが開いて コップに冷たい水を持ってきたサクラはシンジにそれを渡す。

 「ありがとうございます。サクラさん」

シンジはそれを受け取り喉を潤す 当然料理にも使われた自然水である 心地よく身体に浸食される。

 「本当にごめんなさい。」

シンジが一気に飲み干しコップを返すとサクラは申し訳なさそうに頭を下げる。

 「いいですよ。減るもんじゃないし?」

その言葉で先ほどの光景を思い出してサクラは、再び赤面する

 「じゃ 私は隣で寝ていますから。何かあったら起こしてください。では シンジ君お休みなさい。」

ふすまが閉められサクラが引っ込む。

 「サクラさんか・・・・。」

今し方 サクラが出て行ったふすまを見る サクラが着ていたのは淡いピンク色のパジャマ

 『あれが普通だよな?』

シンジは今更ながら 自分の同居人達の部屋着が凄い事を思い知った。

 『アスカは気にしていないんだろな、ミサトさんは信頼してくれているのかな?』

そう考えながらもシンジはいつの間にか睡魔にむしばまれ深い眠りに堕ちていった。

 

 「シンジ君ー 起きて 朝よーーー。」

サクラの元気な声はシンジを眠りの世界から呼び戻す。

 「さあ 顔を洗ったら これに着替えて!」

サクラはすでに稽古着と袴をはいて シンジに同じ物を差し出す。

 「あ はい 今いきます。」

シンジは、元気よく飛び起き 洗面もそこそこにサクラの待つ庭に飛び出す

 シンジが到着した時サクラは、庭をほうきで掃いていた。シンジが来たのに気付くとほうきを近くの壁に立てかける

 「さあ 今日から修業開始ね。でわ 朝ご飯前に軽く走りましょうか。」

 「よろしく おねがいします。」

お互いに礼

 「じゃ 初日だから 思い切り軽く 5キロくらい行こうか?」

 「え!?」『何が軽くですか!!』

顔をしかめるシンジ

 「あー 悪い せっかくやる気なのに それじゃ 10キロにしましょう 行くわよ!!」

 「わぁー」

サクラはシンジの上げた声を喚声と思ったのか満足そうに頷くと先に立って走り出す。

 速き事 風の如し シンジの視界からあっという間に消えようとする。

 「待ってくださいよー。」

シンジは 慌てて後を追い出した。

 

 「おかしいわね?シンジ君?思ったより体力無いわね?」

 「はあ はあ 済みません・・・。」

ランニングの後で屈んで大息をつきながら シンジはサクラを見上げる。

 「うーん 大体 これくらいは、チルドレンが鍛える通常メニューって 情報をもらったから。」

 「誰にです。」

 「えーっと ちょっと待って。」

サクラは懐から紙を取り出す。

 「えーっと 碇ユイ って シンジ君のお母さんか・・・。セカンド・チルドレン Aの7歳から6年間こなした

 プログラム・・朝のランニング20キロってあるわよ。その他 格闘術・高等教育カリキュラム・パイロット養成

 プログラム。軍事訓練等って チルドレンって優秀ねー。」

 「アスカと一緒にしないで下さいよ!!」

思わず反論するシンジ

 「え Aって アスカさんの事なの?・・・・・シンジ君、これじゃーアスカさんの尻に敷かれていない?」

 「放っておいてください。」

事実であるのでシンジは否定しない サクラは顔をしかめながら

 「そう・・・・・でも 今回は、肉体を鍛えるのは ランニングと木刀の素振り それと軽い打ち合いぐらいしかしないから。」

 「え そんなんでいいんですか。」

 「ええ それでいいって父さんとユイさんの話し合いの結果らしいわ 

 普通なら物にならないんだけど 貴方の場合 エヴァに乗った時有効に為す技を習得させてって依頼だから・・・。」

サクラは難しそうな顔をして答える。

 「そうですか?」

 「じゃ シンジ君 ご飯を食べた後 道場で、特訓よ。」

 「はい サクラさん!」

元気よく答えるシンジ この後 サクラの神技を見せつけられ愕然となる。

 

 荒鷹神社 離れの道場

 「じゃ まず シンジ君 あなた 私が何処にいるかわかる?」

シンジとサクラは向かい合って立っている。サクラとシンジの手には木刀が握られている。

 「何を言ってるんですかサクラさん 目の前にいるじゃないですか?」

馬鹿にしているのかというように少し目に剣が宿るシンジ

 「そうね、シンジ君が見ているから 私がここに居るのがわかるわね?」

 「当たり前じゃないですか。」

 「じゃ これで目隠しをしてみて!」

サクラがシンジに布きれを放る

 「え はい わかりました。」

サクラの行動の真意を問いかねるがそれに従うシンジ

 「はい しましたよ。」

シンジは目隠しをする 当然 何も見えない。

 「はい それじゃ。私が何処にいるかわかる?」

声が背中の方からする

 「サクラさん 後ろにいますね。」

 「はい そのとおり そして・・・・。」

いきなり正面から両手で抱きしめられる 自然とサクラの胸元に顔が寄り 甘酸っぱいサクラの体臭が香る

 「わあー 何をするんですか」

思わず飛び退こうとするシンジ

 「待って 今 シンジ君は、肌で私を感じている そして 私の臭いも感じているかしら?」

 「は はい」

真っ赤になり頷くシンジ

 「舌を出してみて!」

 「ひゃい!」

言われたとおりに下を突き出すシンジ そこに サクラの指が当てられる 少し塩っぽい

 「さあ 私の指のお味はどうかしら・・・クス これで舌で味を感じたわね。いいわ 目隠しをとって!」

シンジは、目隠しを取り払った。サクラの笑顔が飛び込んでくる。

 「これって 五感ですか。サクラさん。」

 「そうよ。普通人間が感じる 視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚 の総称ね。そして これ以外の第六感

 物事の本質を直感的に感じる うーん 心眼っていうのかしら それわかる?」

 「インスピレーションとか勘とかいうものですか?」

 「そう それかな 私も 自分ではこうだと思ってるけど 言語で説明し辛いのまあ 論より証拠 やってみましょうか?」

 「え??」

シンジの疑問を無視し サクラは、懐から耳栓と布袋を取り出す

 「格好悪いなあ。」

耳栓をして 布袋を覆面みたいに頭から被る。

 「さあ シンジ君かかって 来なさい。」

そう言うとサクラは木刀を構えた

 「え 何するの?」

サクラから返事がない 聞こえていないからだろう

 「こっちから 行くわよ。オリャー」

サクラからシンジに向けて上段から一撃

 「うわー」

思わず自分の木刀で避けようとするがまともに打ち合い 落としてしまう。

 「さあ 来なさい シンジ君。私からは、もう攻撃しないから」

 『まさか 見えてないよね サクラさん?』

不審に思うが言われたとおり シンジは木刀を拾い打ち込んでゆく

しかし シンジがどんな方向で打ち込もうと そして 静かに後ろに回ろうとサクラは的確に木刀を使うか身をかわすかして

全然シンジの攻撃は届かない 終いには後方から投げた木刀も手で受け止めてしまった。

 「ま 参りました。」

シンジは膝をついてサクラに頭を下げる。

 「わかった?これが心眼の初歩ただ単に貴方の行動を感じただけ 私は未熟だから結構疲れるんだけど・・・。」

サクラはシンジの降参を悟り布袋などを取り 手ぬぐいで汗を拭く

 「サクラさん 実は見えてたりして?」

冗談ぽく シンジは、サクラをジト目で見る

 「そんなはずないでしょ。私がずるしていると思う。心眼を疑うのいいわ!もう一つ証拠を見せてあげる。」

眉間にシワをよせたサクラがそう言い放つやシンジの前からサクラの姿が消える

 「あれ 何処に行ったんですかサクラさん?」

シンジは首を振りながら辺りを見回しサクラを探す

 「ここよ。」

次の瞬間シンジの前に立ちはだかり、でこピンをかますサクラ

 「うわぁーーーー。」

これにはシンジは、心底驚いた ここ仙台に来て驚天動地の連続であったが、今回のは得体の知れない事実・・・

 「どうやったんです?」

シンジは、サクラのやった事の見当がつかずに説明を求める。

 「これはね”氣殺”っていう技なの 私は自分の気配を完全に殺した。シンジ君 貴方の目には私は映っていても

 それを脳が認識していない そう人と思ってない。だから 私の存在がわからなかった。心眼さえ以てすればそんな事ないのに。」

そう言ってサクラは悪戯っぽく笑う。

 『勝てない・・・僕は、この人には絶対勝てない!!』

畏怖の気持ちさせ抱くシンジ サクラに使徒以上の恐怖を感じる

 「サクラさん!!」

 「何?」

 「悪人にならないでくださいね!!」

 「はい!?」

サクラはシンジの言う意味がわからない

 「だって こんな事できたら悪事のし放題じゃないですか。」

シンジはしみじみと思った事を口にする

 「あのね・・・人に見えないだけで カメラには写るし センサーには反応するの!!まあ それでも いろいろ悪い事は出来るけど

 私はそんな事するわけないじゃない!」

呆れたようにサクラは語る

 「よかった。」

胸をなで下ろすシンジ

 「あのねぇ シンジ君 これくらいで感心して貰っては困るんだけど・・。貴方には心眼を開眼して貰わなければいけないし

 もう一つ 霊力っていうか アストラルサイドから 力を引き出してくれないといけなんだけど・・・。」

サクラは困ったような顔をする。

 「でも そんなの・・・・だって 心眼ってどうやって会得するんですか?」

シンジは無理だとばかりにサクラに問いかける。

 「まあ 人それぞれ 命に危険に晒され目覚める人もいるし 滝に打たれたり 普通に武道の鍛錬中だったり

 五感の一つ主に視覚を失って得た人もいるし 命を落としかけてって人も・・・・。シンジ君がどれかわからない。」

 「えー そんな」

 「でも 私なりに、導いて行こうと思うから とりあえず 私を信じて!頼りないかもしれないけど!」

 「いや そんな。信じてます。」

シンジは先程来のサクラの技を見て 彼女に師事することに迷いはなかった。

 「じゃ お昼から 私の”霊剣荒鷹”を使った。修業をしてみましょう。」

 「霊剣荒鷹??」

 「そう 日の本に、人の鍛えし四振りの霊刀あり。古より伝わりし二剣二刀 ”荒鷹”もその一つ。

 私の内なる心の力を物質界に具現してくれる媒体。」

 「四振りの霊刀?じゃ あと三本同じようなのがあるんですか?」

 「あと”神刀滅却”、”光刀無形”、”神剣白羽鳥”が存在するけど行方は・・・シンジ君もそのうち会えるかもね 彼らに」

 「彼ら?物でしょう?それらって」

シンジはサクラが刀を人のように呼称した事に異を唱える。

 「うーん 私は、”荒鷹”に人間の様な物じゃないけど 心と言うか意志みたいな物を感じるわ。」

サクラが自信なさそうに答える

 「意志?」

 「上手くいえない。心眼で見れば 普通の物と魂のある生き物では、違ってみえるの ”荒鷹”生き物のようにつまり

 魂があるように見える。シンジ君が持ってきた”桔梗仙 冬月”だって微弱だがそれを感じる。」

 「そうなんですか。」

驚くシンジ 母はそんな事は一言も言わない。

 「そう だから 物の内の魂と協力できれば、とんでもない事 たとえば 鋼鉄の固まりを真っ二つにするとか・・・。

 可能なのよ・・・・実際は信じられないわね?」

 「いえ そんなこと ありません。」

シンジは司令室での母ユイの様を思い出す。あのときは・・・・大理石の台や壁 天井まで・・・・

 「え 本当?どうして 信じられるかな?」

サクラは意外というような顔をする。

 「はは 百聞は一見に如かずかな?」

 「そう?そのためには自分を知り 相手を知り 森羅万象 物を知る事 それぞ心眼!」

 「わかりました。」 

 「いいわ じゃ。お昼から そのお稽古 いいわね!」

そう言うとサクラは、シンジに笑みを送る それを受け微笑み返しのシンジ

ここで シンジに疑問が浮かび神妙な顔つきになる 

 「あの サクラさん 学校は?」

 「シンジ君のため しばらく行かない。私の高校は成績さえ良ければ 出席の方はなんとかなるもの。」

 「済みません。僕のために無理を言って。」

 「いいって 済まないと思うなら 早く体得してよね。」

サクラはもう一度微笑みシンジの肩を叩いた。

 

その昼からは シンジにとって 意味不明の修業 目隠しをして ”桔梗仙 冬月”を構え ただ”荒鷹”を構えたサクラと向かい合うだけ

 『見えない目で 私を 荒鷹を感じなさい』

サクラはそう曰う シンジにとっては、目隠しをした暗闇の時間があるのみ・・・・。シンジに、サクラは感じられない。

 その日から 午前中は基礎体力の養成と軽い打ち合い 午後からは 目隠しをして向き合うだけの不毛な時間を過ごすようになる。

シンジにとって午前中は、身体全体が悲鳴を上げるような訓練であるが 午後からは半分眠ったような楽な時間を過ごしていた。

 そして 1週間も経てば午前中の時間でさえ慣れが出てくる。そうなれば 身体を鍛錬する分 三度の飯は、とても美味しい。

 10日ほどたった夕餉の席 シンジは、快調にご飯を食す・・・・が サクラは、シンジが来てから初めて 夕食を残した。

 「ごめんね。せっかくシンジ君が作ってくれた。晩ご飯を残して・・・。」

サクラは、申し訳なさそうにシンジに頭を下げる。

 「どうしたんです?サクラさん?体調が悪いとか・・・。」

シンジは、サクラの顔色を伺う サクラは、恥ずかしそうに微笑みながら

 「いや シンジ君の修業につき合って 身体を使うのは何ともないんだけど 午後からの修業に神経を使いすぎて・・・

 面目ない。シンジ君の面倒を見るって大口叩いたのに情けないわ!」

と言い手を左右に振る。

 『え』

シンジは、仰天した。自分がボーッとしていた あの修業にサクラは体調を崩すほど集中していたのか あのサクラが・・・。

そうが考えた時 シンジの心の中にサクラに対する申しわけなさがあふれ出る。

  「ごめんなさい サクラさん!」

シンジは、そう言うとサクラに頭を下げる

 「どうしたの 急に?シンジ君。」

突然のシンジの行動に戸惑うサクラ

 「最低だ!僕って サクラさんが、食欲が落ちるほど神経を使っているのに・・・。僕の修業なのに・・・。」

自分を罵り落ち込んでゆくシンジ

 「そう 自分を卑下しないで。」

サクラは優しくシンジを諭す

 「でも 僕はサクラさんを裏切ったんだ。修業中ボーとしていました。」

 「え・・・・?そ そうなんだ。でもね 私が力不足だから そうなるのかも。」

 「そんなことないですよ。」

 「やっぱり 私には無理なのかも・・・父さんに、頼もうか・・・。」

サクラは自信なさそうに目を伏せる。

 「おっと そいつは 出来ない相談だぜ!!」

何時の間にかセイジュウロウが食堂の入り口に立っていた。

 「父さん」「セイジュウロウさん」

サクラとシンジが名前を呼ぶ

 「一度 はじめた修業だ サクラ おまえが最後まで面倒をみな!」

 「でも・・・・・。」

サクラは何か言いたげに父を見つめる。

 「はん いいさ。どれだけ時間がかかっても シンジには必要な事だから・・・。なーに 修業が遅れ それでサードインパクトなんてぇもんが

 起こったって オレは、シンジを恨まねぇよ。サクラ おまえだって そうだろ?」

 「もう シンジ君にプレッシャー掛けてどうするの?」

 「だって 事実だろ?必要な事っていうのはシンジだってわかっているはずだ。そうだろ シンジ?」

セイジュウロウはシンジに視線をくれる。

 「も 勿論です。」

シンジは、しっかりと返す。

 「ほーら みてみな」

セイジュウロウは、それ見た事かとサクラに視線を戻す セイジュウロウの目に不安なサクラの表情が写る

 「わかったよ!ちぃーっと 手伝ってやるよ シンジ 飯終わったら道場に来な!」

セイジュウロウとて娘には弱いらしい 踵を返すと立ち去った。

 「もう 父さんたら。」

セイジュウロウのぶっきらぼうな態度に頬をふくらませるサクラがそれを見送った。

 

 「さーてと シンジ オレはサクラみたいに優しくないぜ さっさと構えな。」

木刀を片手で持ち、それを肩に掛けたセイジュウロウが怒鳴る

 「でもいんですか?僕は真剣ですよ?」

シンジは、”桔梗仙 冬月”を構えセイジュウロウに確認する。

 「あほう オレに、掠りでもしたら 即 修業は終了で帰っていいよ。オレの身体に当たらないんだから

 真剣でも割り箸でも一緒だ。」

セイジュウロウは、呆れたように吐き捨てる

 少しムッとしたシンジであるが、あそこまで言うセイジュウロウの実力は解っているつもりであった。

しかし 事故という物はある シンジはそれを心配していた それが自分の思い上がりであるという事が後に解る。

 「さあ はじめようか。」

セイジュウロウが両手を広げる

 「父さん 無茶はしないで!」

サクラが心配そうにセイジュウロウとシンジを見つめる

 「殺しはしないさ・・・・。たぶんな いくぜ シンジ」

 「はい」

シンジが頷いた 次の瞬間右肩口に感じる鋭い痛み

 「うわぁー」

思わず悲鳴を上げ 左手で肩口を押さえるシンジ

 「どうだ 飛天御剣流 龍槌閃だ。まだまだ いくぜ龍巣閃!」

セイジュウロウの木刀が神速で振るわれ シンジは身体のあちらこちらにダメージを受ける

 『逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ』

シンジは、痛みで萎えようとする闘志を奮い立たせセイジュウロウに向かって斬りつける

 「龍巻閃!」

セイジュウロウは、シンジの攻撃をさらりとかわし 背中を打ちつける

 「うわぁ」

前のめりに倒れるシンジ 手に持った刀が飛ぶ 思わず遠くなる意識 しかし シンジは頭を振り

意識が沈むのを押さえる。

 「まだまだー。」

シンジは声を絞り出し再び”桔梗仙 冬月”を構える

 「いい根性だ。そーれ 龍翔閃!」

シンジの顎から衝撃が上に抜ける

 グハッ

血を吐き 仰向けに倒れるシンジ 背中を床でしたたか打つ

 「もうやめて 父さん!!」

見かねたサクラがセイジュウロウとシンジの間に割って入ろうとした。

 「馬鹿野郎 サクラ!シンジが痛みを感じているのは おまえのせいなんだぜ。おまえの教えが不甲斐ないからだ!

 おまえは、そこでシンジの痛みを感じてろ!!」

セイジュウロウは、駆け寄るサクラを手で制し なにやら合図を送る。

サクラは唇をかみ手をぎゅっと握りながらそれに従う。

 『違う サクラさんは悪くない 悪いのは僕だ。不甲斐ないのは僕だ。』

シンジは、自分の為に身体を壊してまで修業につき合ってくれたサクラに対し済まなく思い

いい加減半分で、それに応じていた自分を恥じていた。

 『僕は恥ずかしい。セイジュウロウさんの攻撃は避けれない。でも 耐えてみせる サクラさんと僕を待っているアスカや

 みんなのためにも。』

シンジはヨロヨロと立ち上がり”桔梗仙 冬月”の切っ先をセイジュウロウに向ける。

 「おう 男だねー!でも そろそろ終わりにするぜ。死なない程度にがんばりな!」

飛天御剣流 九頭龍閃!!

いままでと比べ物にならない衝撃がシンジを襲う 連続に訪れるダメージ それが意識が沈もうとするシンジを呼び戻す

その 撃の間は刹那であろうが シンジにはそれ間を感じられた。その数8回・・・・。

 ウー

シンジは堪らず膝をつく その時背後から襲うセイジュウロウのプレシャー

 「うわぁー」

シンジは、思わず刀を横に構え峰に左手を当て セイジュウロウの撃を受け止める。

口元に笑みが漏れるセイジュウロウ 驚愕の表情のサクラ

 「あれ セイジュウロウさん笑ってる サクラさん何驚いているの?」

シンジから自然と漏れる声

 「ほら できたじゃねえか シンジ!」

セイジュウロウの楽しそうな声 

 「え!?」

シンジは、いつの間にか照明が落とされ辺りが真っ暗なのに気付いた。

そんな中なのに セイジュウロウの笑みもサクラの驚きも伺える

 「今の斬撃を受けれたじゃないか。オレは力こそ押さえていたが速度は手加減してないぜ。

 気配もほとんど消していたし、音だって立てちゃいない、真っ暗な中で後ろから打ったそれがわかったんだ。

 それの感じ 忘れるんじゃないぞ!」

セイジュウロウはシンジに念を押す

 「は は ありがとうございました!」

セイジュウロウに、礼を言うとそれまで保っていたシンジの意識は闇に沈んだ。

 「シンジ君!!」

シンジが気を失うやサクラが慌てて駆け寄りシンジを抱き起こすがシンジは目覚めない

サクラはシンジの胸に耳を当ててみたが心臓は少し速いが正常に動いており呼吸もしっかりしていた。

 「ふぅー」

サクラは胸をなで下ろす。

 「心配するな。急所は全部外してある。」

そんなサクラを見たセイジュウロウが苦笑いをする

 「あのねぇ!父さん もーちょっと 手加減できないの?」

サクラは父を咎める

 「まあ そう言うな・・・。でも たいしたもんだ。流石ユイの息子だな。」

セイジュウロウは感慨深げに言う

 「ええ そうね。」

サクラもシンジの顔を見つめ同意する

 「おまえも気付いていたのか?こいつが無意識で九頭龍閃の最後の一撃をかわしていたのを。」

セイジュウロウは関心深げにサクラを見やる

 「あたりまえでしょ。父さんの娘だもの!!」

サクラは当然とばかりに胸を張る

 「あーははは そりゃいい。じゃ サクラ、今日はシンジについててやんな。不肖の弟子を持った無能の師匠の責任だわな。」

 「私は、無能かもしれないけど・・・シンジ君は不肖じゃない。」

サクラはシンジの頭を膝に乗せそれを優しく撫でながら呟く

 「おや そうかい。まあ シンジを頼まぁ 粗末にしちゃ ユイが怖いからな!さてっと オレは、シンジの作ってくれたおかずを

 肴にいっぱいやるかぁ〜。」

セイジュウロウは、笑いながら道場を出て行った。

 父を見送ったサクラは、膝の上のシンジの前髪をかき上げる

 『がんばったね シンジ君』

サクラはシンジを胸元まで抱き上げ口元と頬に着いた血を拭う 身体のあちらこちらに痣がある事を確認する。

あどけない顔を見るとサクラの心に愛おしさが沸いてくる 思わずシンジを抱きしめるサクラ

 「う うーん・・・・・。」

気を失っているにもかかわらず呻き声をあげるシンジ サクラは、雷に打たれたように身体を離すが

シンジは目覚めようとしない。

 「なーんだ 寝言か?」

サクラは、自分のしていた事が後ろめたいのかホッとする。

 「・・・・・アスカ・・・・。」

再びシンジから漏れる声 サクラは全身にびくりと力が入るがすぐに抜けた

 「あーあ こんな時も・・・・か。お姉さん 参っちゃったなぁ!」

サクラはまだ見ぬアスカに想いをはせ シンジに、でこピンをかます。

 「さて シンジ君を運んで手当てしますか・・・・・あ」

サクラはここで再びシンジを部屋まで運ばなければならない事に気付く

 『あー 父さんにやって貰えば良かった。』

しかし 一度酒盛りをはじめた父が面倒がってそんな事をするわけがない 道場に布団を運べというだろう。

サクラは自分の浅はかさを呪い 弱々しくシンジを抱きかかえた。


 ついに 心眼の一端を掴んだシンジ。さて もう一つの課題 霊力の発動はできるのか・・・。

そして シンジが出会った荒鷹神社の巫女レイ 容姿も性格も異なるもう一人のレイに戸惑うシンジ

そして 修業の終わりにシンジに課せられる二つの試練

次回 「サクラに向けて放てよ心剣」

しかし 比古清十郎と真宮寺さくらを親子にするなんて 無茶苦茶な設定だね 我ながら・・・・

この二人の詳しい設定は原作を参考にしてください。


アスカ:シ、シンジ・・・。アタシというものがありながら。(ーー#

ヒカリ:お、落ち着いて。ね。(^^;

アスカ:なによっ! このサクラとか言う女っ!(ーー#

ヒカリ:なによって・・・。ほらほら碇くん、夢でもアスカのこと考えてるし。ね。(^^;

アスカ:でもでも。シンジを2回もだっこするなんて、許せないわっ。

ヒカリ:意識がないんだから、仕方ないじゃない。

アスカ:やっぱり、変な虫がつかないように。アタシも一緒に監視に行くべきだったわ。

ヒカリ:アスカが一緒だったら、問題が起きてたかも・・・。

アスカ:あーーーん。シンジぃぃ、早く会いたいよぉ。

ヒカリ:よしよし。(^^;
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