第14話 サクラに向けて放てよ心剣

 

 ハッ

目を覚ましたシンジの視界に木目の天井が飛び入る

 「あ この天井は・・・。」

そう 自分も知っている 真宮寺家の客間の物

 『僕は、どうしたんだろう?』

疑問を感じたシンジは半身を起こしてみる

 『いててて』

身体中のあちらこちらに痛みを感じ よく見ると湿布が貼ってある。

シンジはここでふと足下に重みを感じていた。

 『あ サクラさん。』

シンジの太股の辺りで 布団に突っ伏すような格好で サクラが眠っていた。

 『何故こんなところで寝ているのかな?』

明かり取りの窓から差し込む朝日でサクラの顔が照らされる

 シンジの視線に気付いたようにパッチリと目を開けるサクラ

二人の目と目が合う

 「あ おはよう シンジ君!」

サクラは微かに微笑み朝の挨拶をする

 「お おはよう ございます。サクラさん!」

シンジはサクラの寝顔を黙って見ていたのが少し気まずかった。

サクラもそれに気付き

 「はしたないところお見せしました。」

と頬を赤く染める。

 「僕は、どうなたのかな?」

シンジは昨夜の事を思い出す 夕食の後 セイジュウロウに稽古を付けて貰った。

かなり打ちのめされた事を覚えているが・・・・・。

 『そうだ 確か・・・・・・・暗闇の中セイジュウロウさんの攻撃を受け止めたんだ。』

シンジはガバッと立ち上がった。途端に全身に走る激痛 

 ウゥゥー

たちまち両手で身体を抱きかかえ膝をついてしまう

 「もう まだ無理しない方がいいわ。湿布替えてあげる。」

サクラは軽くシンジを窘めると傍らにあった救急箱を取り出し 手際よくシンジの身体の湿布を交換してゆく

両方の肩 脇腹 足に痛々しく貼られた白い四角形

 「ごめんさいね 父さん加減なしだから。」

サクラは済まなそうにシンジの手当をする

 「いや いいんです。なんか セイジュウロウさんのお陰で進歩あったみたいですから・・・。」

シンジは、サクラに気を遣いセイジュウロウを庇う

 「そうね・・・・・私じゃダメだったのが、父さんが手伝うと これだものね 私って無能の師匠よね・・・・。」

シンジの心遣いは帰ってサクラを落ち込ませた。

 「・・・・ごめんなさいサクラさん・・・・・。」

シンジはサクラにどう言葉を掛けて良いかを見失っていた。

 「でも いいものね。シンジ君に得た物があれば私はそれで・・・・。」

 「サクラさん!!!」

シンジはサクラの手を握った。思わぬシンジの行動にサクラは戸惑いの色を隠せない

 「シンジ君!?」

 「僕は、・・・・サクラさんに・・・・もう・・・」

 「??」

 「もう セイジュウロウさんには頼まない。どんな事があってもサクラさんについてゆく・・・サクラさんを信じる

 セイジュウロウさんだって サクラさんを信じていたから 僕の事を任せたんだ。だから・・・・。」

シンジの重ねた手からサクラに熱い想いが伝わる

 「シンジ君!」

 「サクラさん!」

手を取り見つめ合う二人・・・・・”二人は・・・さくら色”・・・と 違った。

 「ごほん シンジ君 あまり無理は させないから 今日からも修業頑張りましょうね。」

少し恥ずかしいシュチュエーションにおかれている事に気付いたサクラは手を離し咳払いをした 

 「はい サクラさん・・・・今の何ですか?」

不思議そうに首を傾げるシンジ

 「どうせ アホな 作者の戯言でしょ!放っておけばいいわ!!」

サクラは吐き捨てる

 「そうですか?ところで サクラさん 今日の修業をはじめる前にセイジュウロウさんに挨拶したいんけど。」

 「父さんに?」

 「はい 昨日のお礼とこれからはサクラさんにだけ教えて貰うという事をハッキリ言いたい。」

 「・・・・・父さんなら本殿の方にいるけど・・・・いいの私で・・・。」

 「勿論です。お願いします!サクラさん。」

 「うん!」

シンジの言葉を聞きサクラは、はじけるような笑みを浮かべた。

 

 「セイジュウロウさん!」

社務所から本殿に渡る廊下でシンジは祈祷が終わって帰ってきたセイジュウロウに鉢合わせる

 「おう シンジか。身体の具合はいいみたいだな。」

 「はい お陰様で、急所を外してくれたそうで、ありがとうございました。」

シンジは、頭を下げる

 「気にするこたぁーねぇよ。で 何の用だい?修業の続きもしないで。」

セイジュウロウは鋭い目つきでシンジを見つめる。

シンジは、自分の意向をセイジュウロウに伝えた。

 「ほう ずいぶんシンジに気に入られたな。」

セイジュウロウは、シンジの後ろに控えていたサクラに視線を移した。サクラは無言で俯く。

 「まあ いいけどよ。オレとしてみれば ユイに言われた事さえやってくれれば、サクラが師匠でもいいさ。

 もともとオレがそうした事だし・・・・・。まあ 頑張ってくれや。でもシンジ”破邪剣征・桜花放神”は・・・。」

セイジュウロウはここで言葉を切った。

 「なんですか?」

シンジが続きを促す

 「やめとこう。おまえの師匠はサクラなんだからな・・・はっはっは。」

セイジュウロウは、高らかに笑いながら立ち去ってしまった。

 『なんだろう セイジュウロウさんが言いたかった事は・・・』

しかし シンジに答えが見いだせるはずもない

 『まあいいや 僕はサクラさんを信じてついていけばいいんだ!』

シンジはそう思うと側に立っていたサクラを見た。

 「おや その人ですの。第三から来たという人は?」

本殿の方から突然掛かる声 そこには巫女姿の女性が立っていた。

 髪は漆黒 長いそれを束ねもせずに後ろに流している 袴の赤がよく映える女性

歳はサクラより少し上であろうか

 「ええ そうです。レイさん。」

サクラがその巫女さんに返事を返す。

 「レイ?!」

その名にシンジは最近自分の義姉妹となった 赤い目の少女を思い出す。

 『この人もレイって名前か。家のレイとは感じが違うよね。まあ 家のレイはあれだから・・・・』

シンジはそう考え クスリと思わず笑いが漏れる

 「人の名を呼んで笑うとは失礼な人ね!」

バカにされたと思ったのかレイと呼ばれた女性はシンジを睨み付ける

 「ごめんなさい。僕の妹『姉かな?』もレイというもので・・。悪意はないです済みません。」

シンジは、素直に謝罪する。

 「そ そうなの?・・・・ならいいわ。えーっと」

 「レイさん 彼は碇シンジ君といいます。父さんの知り合いの息子さんです。シンジ君 この人は火野レイさん

 私の従兄弟になります。この荒鷹神社の禰宜をしています。今は巫女姿で父さんの手伝いをしていますが・・・。

 昨日までレイさんは実家に帰っていたのでシンジ君に紹介する間がありませんでしたね。」

 「従兄弟ですか?サクラさんの?」

 「そう 私の母親の妹が嫁いでいるの レイさんのお父さんは、錯乱坊というお坊さんなのよ。」

 「お坊さん?」

 「そうよ もし会うことがあったら”チェリー”って呼んであげて。」

 「・・・・・チェリー?」

 「いいじゃない 姪がサクラだし・・・・。」

 「そうですか はは。」『僕の回りって変な人ばかりだよね。これって 定め?』

サクラが二人の間に立ち不毛な紹介をする。

 「そう・・・よろしく。碇シンジ君。」

 「こちらこそ レイさん」『なんか この呼び方違和感あるなぁ』

ふたりは握手を交わす。と ここでレイがジト目でサクラに視線をはわせる

 「あたしが留守の間にこんな可愛い子引っ張り込んで・・・。ずるいわよサクラさん。」

 「いや そんな シンジ君はここに剣の修業に来て それで 私が教えているんで その。」

どぎまぎしながら言いつくろうサクラ

 「修業?へー あんたが 人に物教えてるの?シンジ君 こんな へっぽこ娘に教えて貰って大丈夫?」

レイはシンジに問いかける

 「へっぽこ?サクラさんが?そんなことないですよ。」

シンジはレイの意見を否定する

 「そんなことないわよ。どこみているのシンジ君。この娘が、何かに躓いて物を壊すってのは日常茶飯事だし

 誘導尋問にはすぐ引っかかるし・・・その上 すごーい焼き餅妬きなんだから 小さい時何かね あたしが幼なじみ

 の男の子と遊んでると それは凄い形相で・・・・。」

 「シンジ君になんてこと言うんですか?レイさん あなたはいつも言葉に刺があるんです。そんな事だからサボテン女なんて

 よばれるんですよ。」

サクラが怒って口を挟む

 「なんですってー。サクラさん あんたとは一度徹底的に決着を付けないといけないようね。」

 「望むところです。今からでもやりますか?」

 「いいわね。丁度お仕事も一段落した事だし・・・。神崎風塵流 技の冴えを思い知らせてあげるわ。」

 「じゃ 30分後裏庭でいいですか?」

 「ふん そういうことでいいわ。では!」

レイは捨て台詞を残して その場を去る 突然の事に右往左往するシンジ

 「シンジ君」

 「はい」

サクラからの呼びかけに身をすくめるシンジ

 「ちょっと 修業を中断するけど・・貴方に立ち会いをお願い。」

 「え でも サクラさん。どうして やめましょう!」

シンジは、あのサクラが何故果たし合いみたいな物に応じるのか理解し得難かった。

 人格は高潔で清廉潔白な彼女が・・・・。

 

 「さあ いくわよ!」

反りの少ない刃を持つ薙刀”一文字助光”を構えたレイがサクラに言い放つ

すでに巫女服から道着に着替えている

 「いざ。」

双方一礼のあとサクラが”荒鷹”の柄に手を掛ける 

シンジは、二人の気迫に押されどうしようか おろおろするばかり

 ハアッー

レイが中段から踏み込む サクラは打ち込みを後方へのスゥエイでかわした後 抜刀する

 チィィィーン

打ち合わさる金属音 サクラは首を捻った後 今度は右に飛び着地する

 ガチッ

そして サクラは薙刀の刃を”荒鷹”で受け止める。

 「やるわね!」

不敵な笑いのレイ ハラリとサクラの袴の裾が切れる

 「そちらこそ。」

息の乱れ一つ無いサクラ 二人は、再び距離をとって打ち合いを始めた。

 『どうなっちゃうの?』

シンジは、見ているだけしかできない 自分を無力に思った。

見ているだけと言ってもシンジには今の二人が何をしたか解っていない。レイが踏み込み気付いた時は

二人の得物の刃同士が合わさっていた。

 「お やっているな。」

そんな シンジの横にいつの間にかセイジュウロウが並んでいた。

 「あ セイジュウロウさん とめてくださいよ。」

シンジは、セイジュウロウに懇願する。

 「まあ いいじゃねえか 納得するまでやらせろよ。あの二人なら大丈夫だ。」

 「そんなあ。」

シンジは、セイジュウロウの無責任さに呆れる

 「シンジ ところで今のサクラたちの動きが見えたか?」

 「いや わかりません!」

 「おいおい 昨日 見えたのは、まぐれか 両の眼だけでなく心の目も使いな。」

今度はセイジュウロウが呆れる

 「ちなみに 今のは、レイが上段から切り込みの後すぐに突き そして薙刀を回して柄で顎を狙う”無双三段”って技に連鎖して

 その後足払いを掛け最後にもう一度上段から切り込む 連続5連撃だぁ。わかったか?」

 『心の目か・・・』

シンジは、もう一度昨日の事を思い出してみる

 『あのときは、夢中だった。無心だった。』

シンジは思い切って目を閉じ 心を研ぎ澄ます。

 『あっ』

何も見えない が サクラとレイの気みたいな物がぶつかっているのが解る

 「双龍閃!」打ちつけられる”荒鷹”の刃と鞘

 「大車輪!」勢いよく回る薙刀

 「乱れ雪月花」サクラの神速の三撃

 「流星衝!」高く飛び上がり頭上から切り下ろされる薙刀

サクラとレイは ある時はかわし ある時は受け止め お互いに有効な撃は入らない 少し間をあける二人

 「三千世界!!」

サクラの身体が三つに分かれる 左右に居るサクラは”荒鷹”を下段と八相に構え

真ん中のサクラは上段に構えレイに向かって迫る

 シンジには右側の八相に構えたのが実体のサクラと解るがレイは”荒鷹”の刃を虚体の物も受け止める

レイの横をすり抜けたサクラは、再び同じ間合いで構える

 「あーあ ”荒鷹”じゃなかったら虚体は無視するのに・・・”荒鷹”って虚体も攻撃力があるからよけるの大変!

 しかし、虚体の練り方も上手くなったわね いくら”氣殺”の逆だからと言っても たいしたもんだわ。と感心してないで

 さあ 今度はあたしからいくわよ。神崎風塵流 飛竜之舞!!」

レイが薙刀を一閃すると彼女の回りから3匹の炎の龍が現れレイを中心とした炎の壁が広がる

 「どうして こんな事出来るのさ?」

シンジが、目の前に起こった事を否定すべく疑問を唱える。

 さっきの分身攻撃も 今回の龍もシンジの常識を越えている

 「だから これが、霊力の発動さ。精神世界から空間移送して炎の力を物質界に具現しているんだ。」

セイジュウロウがシンジの疑問に答える。シンジは答える事も出来ず二人の戦いを見つめる

 炎の龍をかわすべくサクラがそれを避けるように移動する。

 「チャーンス!バーニング・マンダラー。」

レイが右手で印を切る サクラを指向性の紅蓮の火の玉が襲う

 「わぁー 当たる。サクラさん!!」

爆発する炎・・・・次の瞬間シンジは見た 中段に”荒鷹”構えるサクラとその目の前に広がる赤い八角形の壁

 「え ATフィールド!?」

シンジの呟きもつかの間 サクラが剣を振り降ろす

 「破邪剣征・桜花放神〜」

”荒鷹”から衝撃の光球が放たれレイを直撃する 光の爆発 後には薙刀を肩に掛け渋い表情のレイが立っていた。

 「ち 今日は、あたしの負けよ。」

 「いえ よい お稽古でした。」

満面の笑みのサクラ レイの身体には傷一つ無い

 「どういう事です。桜花放神ってこけおどしですか?」

シンジは、呟く

 「まあ どういう事か解るさ。」

傍らでセイジュウロウは右手の方を指示する。そこにはシンジに迫る先ほどの炎の龍

 「まだ 残っていたんだ。うわぁ」

目をつぶるシンジ 軽い暑さが通り過ぎる

 『え?』

自分の身体を見渡すも焼けこげ一つ無い

 「ははは サクラもレイも相手を害そうって気持ちはない。だから 炎も光も見てくれだけさ・・・が もしもお互い相手を倒す事をイメージ

 していたら どうなったとおもう シンジ。」

 「どうなったんです。」

 「レイの身体は粉々 お前の身体も消し炭だあな シンジ。」

当然といったように答えるセイジュウロウ

 「はい シンジ君お疲れ様!」

 「ちぃーとは 参考になった?」

サクラとレイが近づいてシンジに笑いかける

 「二人とも 僕をからかったんですね?」

シンジは頬を膨らませる

 「そういう つもりじゃないんだけど、私たち いつもあんな調子だから 気を悪くしたらごめんなさい。」

サクラは困ったように謝る

 「いいじゃねぇか シンジ あれくらい出来るようになってくれっていう見本だ。機嫌直しな よーし 昼飯はオレが

 奢ってやらー 行こうぜ。といってもラーメンぐらいだがな。」

セイジュウロウの申し出にレイの目が輝く

 「伯父様 私もいいわよね。シンジ君の役に立ったんだし。」

 「あ ああ したかねぇな。」

セイジュウロウは不承不承それを認める。

 「やった じゃ あたしは、ニンニクラーメン チャーシュー特盛りだ。餃子も付けてね。」

 「臭うぞ レイ!!」

顔をしかめたセイジュウロウをレイが薙刀を持っていない方の手で引っ張ってゆく

 『あれくらいって・・・無理だよ。』

 「ごめんなさい。シンジ君 ちゃんと 説明すればよかった。」

黙るシンジを申し訳なさそうに見つめるサクラが口を開く

 「いや そのことじゃなく 僕にあんな事出来るのかなって?」

 「あんなことって 桜花放神のこと?」

 「ええ」

サクラは頬に人差し指をあて少し考え

 「大丈夫!私が出来るんだから シンジ君もできるわよ。」

 「でも 僕とサクラさんじゃ・・・。」

 「出来る 私が大丈夫って言ってるの。」

サクラはシンジの肩を叩く

 「さあ 行こう。」

 「はい・・・・・。」

少し気持ちが軽くなるシンジ サクラと共にセイジュウロウ達の後を追う

 「あの ところで サクラさん?」

 「何?」

 「ラーメン何を食べるんですか?」

 「フカヒレチャーシュー大盛り!!」

即答するサクラ たしか アスカが屋台で頼んだのと同じだとシンジは思い出す

 『サクラさんて・・・・・・。』

(火野)レイいわく サクラもへっぽこで 焼き餅妬きという 

 『アスカに似たところあるよね!』

遠い中国で修業しているアスカとサクラをだぶらせるシンジ

 『アスカもサクラさん並とは言わないから少しは家事をしてくれると僕も楽なんだけど』

シンジの密かなる願いであった。

 

 「霊力の発動っていってもね。難しいのは最初だけ 一度できれば 後は何度でも出来るわ。」

ここは、サクラの自室 勉強机に衣装ダンス、そしてテレビやオーディオ類、ベッドも置いてある。

昼食のあとサクラに誘われ、この部屋にシンジは初めて入っていた

 『サクラさんベッドを使うんだ。』

サクラは、今それに腰掛け 勉強机の椅子を使うシンジに話しかけている。

 「シンジ君の場合 もう エヴァのコアである霊子水晶を反応させているらしいから すぐ 霊力は発動できると思う。」

 「そうなんですか?」

シンジは、自分もサクラやレイみたいに不可思議な技を使えるようになるという事を信じられなかった。

 「それは、保証するわ。でも それですぐに”桜花放神”を撃てるようになるかって事は疑問だわ。」

 「・・・・。」

そう言うとサクラは立ち上がり引き出しから焼けこげた巻物を取り出しシンジに渡す。

 「開けてみて」

サクラの依頼にシンジは従う 巻物を開くと焼けこげており 水に濡れた染みも見受けられたが文面等は

書かれていない白紙の巻物であった。

 「私が”桜花放神”を会得する時 極意と言う事で渡された巻物だけど 見てのとおり白紙よね。私は、おっちょこちょいだから

 火にあぶってみたり 透かしてみたり 水に濡らしたりしたけど やっぱり 白紙だった。」

 「これが極意書?間違いだったんでしょ?」

シンジはサクラに問いかける。

 「うーん 私もそう思った。でもねぇ シンジ君 間違いの巻物を私が何時までも持っていると思う。」

シンジはこれには納得する。多少変わったところはあるが サクラが聡明な女性であることはこれまでの生活で

十分伺われた。意味のない事をする人ではないとシンジは思う。

 「じゃ 何のために白紙か?ねえ シンジ君 本当の強さってなんだと思う?」

サクラはシンジに優しく問いかけた シンジはしばらくの間考えて 自分の考えを紡ぎ出す

 「やっぱり 力だと思う。サクラさんやセイジュウロウさんが持っているような力。なぜなら力無き正義は無力だと思うから。」

 「そう?質問を変えるわ・・・・じゃ 正義って何?」

サクラは禅問答のように問う

 「悪い物を廃し 善なる物を守る力かな?」

 「・・・・そうね。では 善と悪の違いって何?」

 「え・・・・・・・・。善は人を益する物 悪は人を害する物・・・かな?」

 「それが シンジ君の答えね。」

 「はい。」

シンジは敬虔な気持ちで答える

 「そう・・・・でもね。それは、シンジ君の心で正解なのであって 全てに正解といえるかな?」

 「どういう意味ですか?」

シンジはサクラの質問の意をはかりかねる

 「別にシンジ君の考えが間違いというわけじゃないわ。でもね この世の善悪のううん全ての価値観なんて人 

 いいえ 魂の数だけ存在するんじゃないかな?どれが 正解なんて言えない なんて 私は考えている。」

 「・・・・・・。」

 「そこで 私が考えている一番大事なのは自分の良心・・・抽象的ね。これに逆らわないようにしている。

 良心に逆らったつけは自分に返ってくる。どんなに 抗おうと・・・・。」

 「自分の良心?」

 「そう・・・自分の価値観 考えに基づく良心 私にとってそれは全てを優しく包みこむ慈しみの心だと思う。

 力には正義も悪もない。ただ力があるだけ・・・でも 私にとって愛するものを守るという心が善の力となり

 邪なものを断つ事が出来る。そして邪なるものを廃しながらも・・・私は、それでもその邪なるものをも慈しみたい

 いつか・・・いつか 遠い未来にでも分かり合えるように・・・これが破邪剣征・桜花放神の極意と思っているわ。」

 「僕には良く解りません。」

シンジはサクラの真摯な考えを聞き襟を正す 自分とそんなに年が変わらないサクラがこれほどまでの考えを持っている

”力無き正義は無力だ”と言った自分の考えは否定しないが・・・自分の敵たるものも慈しむとは・・・サクラの情愛の深さを

感じ取っていた。

 「そうね。これだって私の一人よがりな考えかもね。でもね 私はそういうつもりで生きたいし それで後悔しない。

 私って転生を信じているんだ。この世で分かり合えなくても来世ではってね。」

 「それでも分かり合えないかもしれない。」

シンジは、皮肉めいた口調で話す。シンジは、サクラを否定したいわけではない、自分はこれまで使徒を幾つか殲滅してきた

彼に対して使徒は滅するべき敵であった。しかし、サクラの弁を借りれば彼らとて慈しむ存在で無かっただろうか?

母ユイによれば彼らの目的は、サードインパクトを起こし次の起源の種となる事だという、自分たち人類にとっては、正義ではないが

彼らにとっては正義であり自分らこそ邪な存在である。自分も死んで転生して同じ立場に立てば仲間となり得るかもしれない。

いや 共存さえ出来ればレイのように一緒に生きていけるかも・・・・。では ゼーレの人たちはどうだろう、同じ人類でありながら

自分と全く考えを異にするもの、彼らとは分かり合えるだろうか・・・・、自分たちの存在を否定する彼らと・・・。

 「もし 人間同士で分かり合えなければ、高知能生命体じゃなく お互いにミジンコにでも転生すれば分かり合えるよ。きっと。

 何度も言うようだけど これはあくまで私の考え 人それぞれ自分の価値観はある それをもて なおも相手を慈しめということで

 極意書は白紙なんだと思うわ。」

シンジの疑問に答えたサクラはここでおおらかに笑った。

 「はは・・・・なんとなく 解りました。・・・・サクラさん・・・あなたは、僕の剣の師匠だけじゃなく 心の師かもしれない。

 全てを慈しむか・・・・・・。考えさせてください。」

シンジは、そう言うと椅子から降り正座してサクラに向かって頭を垂れた。

 「そう・・・・そう言う気持ちになれた?じゃ いいわ 明日からは、朝の一時間だけ剣を振るい技の発動の練習をする。

 後は・・・・何処でもいい 好きなところで 森羅万象全てを感じ 慈しむ心を解って欲しい。いいわね。」

そう言ってサクラは座したシンジの両肩に手を置く

 「はい!」

今のシンジにあるのは 直向きな心 そして シンジは自分に期待を掛けてくれているサクラの心も理解していた。

 『全てを 慈しむか・・・・・アスカ・・・・・相手を倒す術を学ぶより 僕向きな様な気がするよ。君もそう思うだろ?』

シンジはそう彼方のアスカに語りかけ胸元のロケットに手を当てた。

 

 「じゃ シンジ君行くわよ?」

サクラが、荒鷹神社の正殿で瞑想に耽っていたシンジを促す。

 シンジは、サクラに森羅万象・慈しみの心を理解するように言われ ここ荒鷹神社の正殿は勿論 滝に打たれたり山中で座したり

あらゆるところで瞑想に耽っていた。目を閉じ 心の目を開くと 風の囁き 木々のざわめき 水の流れ 他の動物の息吹 大地の温もり

を感じる事が出来た。それは シンジを包んでくれ シンジも彼らを愛する事が出来た。朝一時間しかない霊力の鍛錬でも

すぐに力の流れを放出することが出来た。ATフィールドを前面に押し出すような感じで望めば案外簡単だった。そして 現在では

それを球体までに練りあげ放出する事で物理的な破壊も出来た。

 そして、今日の最終試練の日を迎える事になる。

サクラに連れられシンジは裏山の洞窟に来る。

 「へえー こんな所に洞窟なんてあったんですねぇ。」

シンジは、新しい発見に好奇心を示す。

 「ええ ここは、我が真宮寺家につたわる試練の洞窟・・・シンジ君 貴方にはここに入って反対側の出口から出て貰う。」

 「それだけですか?」

シンジは、意外そうに問う

 「そう それだけ、中は真っ暗だけど 大丈夫ね。そして・・・・・・まあ 後は自分で確かめなさい。でも言っておくわ。

 過去にこの試練で命を落とした人もいるの・・・ 覚悟しておいて」

サクラは、そう言ってシンジを送り出す。

 「え??」

サクラの言にシンジは思わず生唾を飲む

 「シンジ君 大丈夫よね。」

サクラの心配そうな目

 「なんとか。」

シンジは気を引きしめ”桔梗仙 冬月”を片手に洞窟に向かって歩き出す。

サクラに刀を持ってゆくようにと言われた時 どうして と不思議に思ったが素直にそれに従ったシンジであった

が命がけという様な事を言われ緊張が走る

 「シンジ君!!」

サクラが声を掛ける

 「なんですか?サクラさん?」

 「いや・・・・出口で会いましょう。」

 「はい!」

シンジはサクラに極上の笑みを返す サクラの頬が染まる。

 「行きます。」

シンジは、暗闇に向かって足を踏み出した。

 

 『ここまでは、楽勝だね。』

シンジは暗い洞窟をしっかりした足取りで歩く 真っ暗ではあるがシンジには出口までの一本の道がしっかりと見えていた。

心眼の賜であろうが?サクラに言わせるとこんなに短時間で会得できるのは真宮寺家の歴史の中でも初めてとの事であった。

 実際シンジにしても 殺気の緊張を忘れ自分に生まれた新しい感覚に酔いしれていた。

 『うーん どうしたものかな?僕って天才かも?』

バタン

突如 石に躓いて転んでしまう・・・・集中力を切らすと心眼は曇るらしい

 『まだ ダメだよね?僕って。』

シンジは驕った自分を反省する。

 やがて洞窟のやや広くなったところに出る 今までは高さも2メートルほどしかなかったたがここは5メートルはあろうか

幅も20メートルほどあり 大きい部屋みたいである。

 その時シンジを斬撃が襲う

 「わぁー」

シンジはかろうじてそれを”桔梗仙 冬月”で受け止める。そして 撃を放った相手は素早く離れ

次の攻撃を繰り出す 洞窟内に立ちこめる 鋭い殺気

 『殺される。』

相手の放つ気により シンジにもそれを感じ取る事が出来た。

 修業をしてきたと言っても 心眼と霊力の鍛錬だけで 実質的な剣の道は素人同然である。

それでも 相手の打ち込んでくる方向は解るのでなんとかかわしたり受け止めている。

しかし それも 遅れがちになり 身体のあちこちに傷を負う

 『なんで こうなるのさ?』

シンジは、攻撃してくる理不尽な相手に腹を立て 

 『僕は、死ぬのか?』

と相手に憎しみさえ覚えた。

 『力無き正義は無力か・・・・・・・・・・!』

そう 諦め変えた時 シンジの心にサクラの言葉が響く

 「全てを 自分にとって 邪なるものさえも慈しみたい」

 『僕は この相手を 慈しむ事が出来るだろうか?』

シンジにとって 攻撃を加えてくる相手は、自分を害するもので悪である・・・そんな相手を

 そう思ったシンジは相手と間合いをとりもう一度 心の目で相手を見つめる。

相手は、シンジとの間合いを詰め 必殺の一撃を出そうとしている・・・がその感じをシンジは読みとった。

 「止めてください。サクラさん!!」

相手の動きが止まる

 「よし そこまで!!」

洞窟の奥が開き 目映い光が差し込む 一瞬シンジは目がくらんだが すぐに目の前に”荒鷹”を構えたサクラが

立っているのが解った。サクラは優しく微笑んでいたが 目には光るものがあった。

 「解ってくれたの?私を あんなに殺気を放っていた私を・・・。」

サクラの言葉が途切れる。

 「当たり前です。サクラさんが教えてくれた”全てを慈しむ心”・・・僕には、まだ全ては無理かもしれない。

 でも あなたは、サクラさんは僕にとって間違いなく慈しむべき存在です!」

凛として答えるシンジ

 「そう ありがとう。シンジ君。」

サクラは”荒鷹”鞘に収めシンジもそれに習い”桔梗仙 冬月”を収める。

と サクラはシンジに駆け寄り身体をきつく抱きしめた。香るサクラの甘い体臭 伝わる甘美な感触

 「うわぁ 恥ずかしいですよ。やめてくださいよ。サクラさん。」

しかし サクラは離れようとしない シンジも男の子 口では否定しても 美少女に抱きすくめられて嫌なわけがない。

 『バカシンジ 殺す!!!』 

鬼のようなアスカの顔がシンジの脳裏に登場する

 『これは 内緒にしておかなくては・・・・。ハハ』

鼻の下を伸ばしながらもシンジは決心をしていた。

 「ゴホン、いい加減に しておいて欲しいんだが・・・。」

セイジュウロウの咳払いが洞窟に響く

 あ

自分がやっている事に気付いて慌てて 飛び退くサクラ

 「サクラ?えれー シンジの事気に入ったらしいな?おまえが年上だが シンジを旦那にするか?」

セイジュウロウはニヤニヤと意地悪そうに笑う

 「もう・・・・そんなんじゃないって!それに シンジ君にはアスカさんっていう恋人が居るのよ!」

顔を真っ赤にしたサクラが照れ隠しに手を左右に振る

 「ほう そりゃー 残念だ。シンジならサクラの相手に申し分ないと思ったんだが・・・まあいいか。

 さて シンジ 最終試練の壱は終わった。次がホントに最後だ。桜花放神打ってみな。」

セイジュウロウは、シンジに最後の仕上げを告げ 近くにある 高さ2メートルほどの岩を指さす。

 「あれを 粉々にしてくれ。ただし 岩以外は 何も壊しちゃいけない。さて サクラ 衣か何か岩に掛けてくれ。」

セイジュウロウはサクラに作業を促す

 「・・・・・・・。」

無言のサクラ

 「どうした。サクラ?」

サクラの意をはかりかねるセイジュウロウ そして サクラは重々しく口を開き決心を告げる

 「父さん!!私が、岩の前に立つわ!!」

サクラの申し出にセイジュウロウは少し顔をしかめるも

 「そうかい?まあ その方がシンジも気合い入るわ。それじゃ いいか シンジ。」

サクラの気持ちを推し量りシンジに指示を出す。

 「え でも もし失敗したらサクラさんが・・・・。」

シンジとしてはサクラに怪我をさせたくない。自信はあるが・・・・もしもという事を心配していた。

 「大丈夫ね。私はシンジ君を・・・信じています。だって 私の愛弟子だもの!」

サクラは、そう言うとシンジをまっすぐ見つめる

 『サクラさん・・・・・・。』

意を決したシンジはサクラに頷く 言葉は要らない目と目で気持ちは通じ合っていた。

 サクラは、一笑してから”荒鷹”を近くの木に立てかけ岩の前に立ち目を閉じる。

 「おい サクラ?おまえ。」

セイジュウロウがサクラに対し何か言いたげであったがサクラはそれを手で制した。

この時、セイジュウロウはサクラが命をかけている事が解った。”荒鷹”手放せばもしもの時シンジの攻撃を避ける術はない

シンジのさじ加減の間違いでサクラの身体は滅されるだろう。しかし 決意をした娘を止めるセイジュウロウではなかった。

 そんな 二人の想いを知らぬシンジはサクラに向けて歩み寄る。

 シンジは、サクラと30メートルほど離れたところに立ち”桔梗仙 冬月”の切っ先をサクラに向け心を研ぎ澄ます。

 『今は解る。風の流れ 回りの自然の息吹・・・・・そして 僕を信じてくれるサクラさん。そして・・・・・目標の岩・・・・・・・

 そして その中にある僕自身・・・・・・僕の気持ちをサクラさんに・・・・そして、砕く岩に・・・・。』

 破邪剣征・桜花放神

シンジは、”桔梗仙 冬月”振り下ろした。切っ先から湧き出る 力の光球 それは 地面を這うように進み

サクラをそして岩を包み込む 光がはじける・・・・・。

 そこに立っていたのは、何一つ変わりがないようなサクラと岩

 「失敗か・・・・・。」

シンジは、がっくりと肩を落とし落胆する。

 「いいえ 今のは確かに 奥義”破邪剣征・桜花放神”だったわ。私は、ちゃんと受け止めました シンジ君の心。

 貴方は、私を慈しむと同時に 壊すべき岩も慈しんだ・・・・そして そのため岩は壊せなかった。試練などで滅するべきで

 ないと思ったのね。・・・・・・私は、合格でいいと思います 父さん!」

サクラは目を静かに開けシンジとセイジュウロウに告げる

 「サクラさん!!」

 「へっ おまえが、そう言うんじゃ いいんだろ。シンジ!修業は終了だ。帰っていいぜ。」

セイジュウロウはやれやれとばかりにシンジに修業の終わりを宣言した。

 「サクラさん セイジュウロウさん ありがとうございます。」

シンジはサクラとセイジュウロウに頭を下げた。

 「痛ーぅ」

そこでサクラが左肩を押さえ膝をつく 左手から流れる赤い血

 「サクラさん。」

シンジが慌てて駆け寄る

 「大したこと無いわ。シンジ君 ちょっと雑念が入ったのかしら?これからは精進してよね。」

 「サクラさん、すみません。」

 「いいわ。この間は私が手当したんだから 今度はシンジ君がしてよね。」

サクラはそう言うと片目をつぶってウィンクをした。

 「もちろんです。サクラさん!」

シンジは、首を縦に何度も振る。

 「よく やったシンジ!!」「流石は、あたしの子。」

あらぬ方から掛かる声 シンジが振り返るとそこには一振りの刀を持ったゲンドウと嬉しそうに口をゆがめたユイが立っていた。

 「あらー シンジ?アスカちゃんに続いて サクラさんまで傷物にしたの?悪い子ね?」

ユイは、怪我をしたサクラを見るなり意地悪そうにシンジを咎める

 「な なんて事を言うんだよ母さん。人が聞いたら誤解するだろ!!」

シンジは、口から泡を飛ばし反論する。

 「はん 事実でしょうが!まあ 目的は違うけど・・・・ふっ・・・冗談よ。まあ シンジも頑張ったわね。サクラさん!そしてセイちゃん

 ありがとう 礼を言うわ。特にサクラさん 家のバカ息子の為に身体を張ってくれて・・・・いくら感謝しても足らないわね。」

ユイは、珍しく殊勝な顔をして二人に頭を下げた。

 「いえ そんなこと・・・・・私も シンジ君に感謝しています。シンジ君に会えた事で私の剣は確実に進歩しました。

 お礼を言いたいのは私です。」

サクラは肩口を押さえたまま姿勢を正し ユイに頭を下げる。

 その態度にユイは目を見張った。

 「うわぁー あんた。本当にセイちゃんの子?凄く礼儀正しいじゃない。セイちゃん?どうなのよ あたしは、信じらんない!!」

ユイは、好奇の視線をセイジュウロウに向ける 

 「ユイ!!その言葉 そっくり そのまま お前に返す!意味解るだろ?」

セイジュウロウは半ば呆れたようにユイに返事を返した。

 「ぐぐ 悪かったわね・・・・。と シンジ笑っていないで さっさとサクラさんの手当をしなさい。」

きまりが悪かったユイは、話題を逸らすべくシンジにサクラの傷の手当てを促した。

 「わかったよ。サクラさん 肩をかします。歩けますか?」

シンジは、はっと気付きサクラに歩み寄りいたわりの言葉を掛ける

 「おーっと ちょっと待ってよシンジ。あんた”桔梗仙 冬月”あたしに返しなさい。」

サクラと立ち去ろうとしたシンジをユイは呼び止める

 「え いいけど 僕に、くれたんじゃないの?」

シンジは、怪訝な表情をしながらも鞘に収めた”桔梗仙 冬月”をユイに差し出す。

 「これは、セイちゃんがあたしの結婚祝いにくれたもの、やっぱりあたしが持っているわ。代わりに、ほれ あんた。」

ユイはゲンドウに目配せした。

 「シンジ お前には、これをやろう 私の祖父が、米田という人から託されたものだ。」

ゲンドウはユイの言葉を受け、携えていた刀をシンジに渡す。

 「うん、新しい刀をくれるの?”桔梗仙 冬月”もせっかく馴染んできたのに・・・」

シンジは、ぶつぶつ言って刀を手にしたが、その刀を手にした途端刀から伺える強い波動

ゲンドウの手にあった時は、感じなかったがシンジの手に渡った途端それは発動した。

 「これは・・・」「それは・・・」

シンジとサクラの声が重なる シンジが抜刀すると刀身を包む神々しい霊光

 「それは、”神刀滅却”よ。サクラの”霊剣荒鷹”と同じ古より伝わりし二剣二刀の一つ・・・・。」

ユイが説明する。シンジは、その刀身を見つめる

 『やっと 会えたね 碇シンジ』

”神刀滅却”がそう語り掛けてきたような気がした。

 「シンジ君を持ち主と認めたようね。」

刀身を見てサクラが頷き 痛む手で鞘を持ち右手で”霊剣荒鷹”を抜く 共鳴する二つの霊刀

 「再会を喜んでいるみたいですね。」

 「そうね・・・・・・痛ーぅ。」

サクラが顔をしかめる。

 「うわぁ サクラさん・・・早く手当てしましょう。」

二人は刀を収めるとシンジが手を貸して足早に立ち去った。

 「たいした奴だぜ。シンジはよ。」

セイジュウロウが感心したようにシンジを褒める。

 「流石 あたしの子でしょ。セイちゃん。」

 「まあな うちのサクラもいいだろ。」

 「あんたの子らしくないわ。」

ユイは、セイジュウロウをからかう

 「ほっとけ。」

セイジュウロウは、少し拗ねたように顔を背けた。

 「でも いい稽古だったわね。あたしも、ここで肩慣らしをしてみるか・・・。」

 「ほう 剣でかい?」

セイジュウロウは、ユイの言葉に興味を示し視線をユイに戻す。

 「いや 素手で十分。ちょっと これ持ってて。」

ユイは有無を言わさずセイジュウロウに”桔梗仙 冬月”を渡す。

 「え?!」

 「じゃ いくわよ。目標はさっきの岩ね。・・・・はぁーーーーーーー。黄昏より昏きもの 血の流れより・・・・」

ユイは両手を交錯させ何事か呟く 彼女の回りに赤い力のフィールドが集束する。

 「やめろ ユイ!!!」

セイジュウロウの絶叫が荒鷹神社の裏山に響き渡る しかし どんな言葉もユイには届かない

 「・・・・・等しく滅びを与えんことを!」

 ドラグ・スレイーーーブ!!

ユイの手から力の赤い奔流が流れ出て岩に当たる

 チュドーン

大音響と共に岩が光に包まれ 跡形もなく原子の塵となる

 「やったー 成功!あたしも まだまだ 捨てたもんじゃないわね。」

ユイは拳を突き上げ一人悦にいる

 「確かにな あれさせなければな。」

セイジュウロウは身体を震わせ 岩の後方を指示する そこにあるのは切り立った岩の壁 いや かつて存在したというのが正しい表現だ

それは見事に崩れ去り 一抱えもあろうという岩がいくつも重なり合っている しかし それは不安定で微妙なバランスを保っているように

見受けられる。

 「あれ?」

ユイの頭を疑問符が支配するが 聡明な彼女はすぐに自分の置かれている状況を把握する。

 「あんた!セイちゃん!!」

 「「なんだ ユイ?」」

ユニゾン返事のゲンドウとセイジュウロウ

 「逃げるわよ!」

 「どうしてだ?」

ゲンドウは、不思議な顔をしてユイを見つめる。

 「どうして?あの岩の状況を見て解らない?この後のお定まりのパターンとして まあ 鳥か何かが飛んできて・・・。」

パタパタ

 ユイの言葉通り 何処からともなく飛来する漆黒のカラス

 「岩の上に留まって・・・・・。」

顔をしかめながら続けるユイを尻目にカラスは、重なり合う岩の上に舞い降りた。

 「バランスが崩れて・・・・崖崩れになる! ウッ シクシク」

次第に涙目になるユイ 

カラッ

カラスの乗っていた岩から小石が落ちる それを引き金に一斉に崩れる 岩の塊たち

 「「「うわぁー」」」

3人は、一目散に駆けだした。

 「ユイ 何とかならんのか?」

走りながらゲンドウはユイに問いかける

 「何ともならないわ。」

 「さっきのドラグなんとかをもう一度だせんのか?」

 「無理よ。技の前におまじないみたいなのを唱えていたでしょ。あれは魔法の呪文みたいなものなのよ。あれで精神を一定方向に安定させて

 アストラルサイドから力を引き出しているのよ。間と精神集中が必要なの この状況では無理よ。」

走りながらユイは首を振る セイジュウロウが罵声をあげる

 「ユイ てめー ちったぁ息子を見習え。自分の世界に入ったら他に目がないんだから!」

 「しかたないでしょ!なんって あたしの名前の由来は”天上天下唯我独尊”の一字から取ったんだから!!」

 「ううう そんなん自慢になるか! ところでユイ!あの岩 俺たちを追いかけてきていないか?偶然か?」

 「偶然じゃないわ。さっきのドラグ・スレイブの力場が まだあたしやあんた達にまとわりついてるの だから あたし達

 にくっつこうとしているの。まあ それもしばらくすれば切れるから・・・・。それまで逃げようね!」

 「「しばらく?どれくらいだ?」」

鍛えているセイジュウロウはともかくゲンドウはすでに息が上がりかけである。

 「ゴメン わかんない。」

無邪気に返すユイ

 「ユイの馬鹿野郎!!今度 何かやる時は ネルフにいるんだったら惣流を連れてこい!!」

セイジュウロウは吐き捨てキョウコが同行していない事を嘆く 逃げまどう3人 自ずとあがる声

 「「「やな感じぃ〜」」」

カァ カァ アホゥー

3人の嘆きとカラスの鳴き声が木霊する仙台の空は何処までも青かった。

 

 「サクラさん ちょっと 診せてください。」

 ここはサクラの部屋 シンジは、サクラの傷を確認すべく患部を見せるように頼んだ。

 「え ちょっと 恥ずかしいけど。」

サクラは少し顔を赤らめながら胸元を押さえ稽古着の肩をはだける 血はすでに止まっていたが 固まった血が肩から腕に掛けて

こびりついており痛々しい限りである。

 「ごめんなさい。サクラさん 僕が未熟なばかりに・・・・。」

シンジは情けなくなった。全てを慈しむという気持ちで技を放ったが結果はこれである

 「いいのよ シンジ君 私は、貴方の気持ちを受け取った。まあ 多少 気のコントロールはミスしたみたいだけど・・・。

 後は、自分自身で訓練に励み技を磨く事ね。」

 「はい。」

シンジは素直に頷きサクラの手当を始めた。アルコールで消毒し 傷口をガーゼで押さえる。

イタタ アウ アー

怪しげなサクラの声があがる

 「ちゃんと お医者さんに診て貰った方がいいかもしれません。」

シンジは、サクラの手当を一通り終えそう勧める。

 「うん じゃちょっと行ってくるか、あ そうだ 技を磨くためにいいものあげる。」

サクラは、はだけた稽古着を直し 自分の机の所に行き 引き出しをあさり出す

 「え 奥義書か何かかな?」

 「シンジ君 まだ 私の家をバカにしていない?」

サクラの眉がつり上がる。

 「これよ はい」

シンジの前に差し出されたS-DVDディスク

 「21世紀を嘗めないで、これくらいは常識でしょ。」

 「はあ。」

 「奥義書じゃなくて 奥義ディスクよ。」

サクラは人差し指を立てらせて左右に振りながら説明する。

 『時代はかわったね。』

妙に納得するシンジ そこへ裏山でとどろく大音響

 「なんだろうねシンジ君」

 「さあ」『母さん また余計な事していないよね。』

シンジの予想は見事的中していた、この事件でさした被害が出なかったのは僥倖といえよう

 人的被害はゲンドウの筋肉痛だけであったのだから・・・・。


 修業を終えたシンジ 一方そんなシンジを送り出したネルフで訓練に励むトウジ。

充実の日々を送るトウジは学校帰りに新しくできた喫茶店にヒカリと寄るが。

次回 父の形見 

 アスカ様は次回もお休みです。


ヒカリ:碇くんっ、とうとうやったわねっ!(^^v

アスカ:バカシンジっ! コロスっ!(ーー#

ヒカリ:な、なんでよ。破邪剣征・桜花放神を会得したじゃない。

アスカ:見詰め合って、さくら色になってわっ!

ヒカリ:あ、あれは・・・。(^^;

アスカ:しかも、抱き合ったりしてぇぇぇっ! ウキーーーーーーーーーー!!(ーー#

ヒカリ:だ、だからね。それは・・・。(^^;

アスカ:覚えてらっしゃいっ! シンジっ!(ーー#

ヒカリ:い、碇くん・・・。アスカに桜花放神は通用しそうにないわ。なむぅぅ。(ー人ー)
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