第15話 父の形見

 真っ暗な部屋にモノリス達が浮かぶ

その中に佇む碇ゲンドウ 正対するキール議長と映像のないモノリスたち

 「シナリオが大幅に遅れているぞ。」

 「我々を無視した参号機の接収 フォースチルドレンの選出」

 「人類補完計画に支障をきたすのではないかね。碇!」

ゲンドウに浴びせられるモノリスからの批判の声

 「人類おかん 私の母は他界しておりますが・・・・。」

 「碇 何を言っているのだ?」

 「それとも悪寒のことですか。風邪でもひかれましたかな?」

 「碇 ふざけているのか?」

 「うーん モヒカンは髪型だし・・・・。」

 「碇!!」

 「桃缶は好きですな。」

 「碇 いい加減にしろ。」

 「金柑は薬になりますかな。」

 「もういい おまえにはやめて貰う。」

 「おっと そりゃ いかん!!」

モノリスの叱責をのらりくらり寒い駄洒落ではぐらかすゲンドウ

 「あんた 寒い洒落はもういいわ。こんなくされ爺いども 放っておきましょう。」

 「きさま・・・・・碇ユイ。」

唐突に登場したユイを認識してキール議長のバイザーが光る

 「はい はい。もうわかっていることだろうけど 改めて あんたらゼーレに宣戦布告するわ。」

ユイは、キールとモノリスに対し左手を右肘に当て 右中指を突き上げる

 「げ 下品な・・・・碇 その馬鹿女と同じ意見か?」

モノリスの一つが叫ぶ

 「馬鹿・・・・人の愛妻を捕まえて失礼な人ですな。ユイと私は一心同体 ユイの言葉は私の言葉でもある。」

ゲンドウはむっとした表情でモノリスを睨み付ける

 「そういうこと おとといきやがれ じじいども。」

 「これまでのようだな。」

キール議長は、ゲンドウに決別を告げる。

 「そうですな キール議長。」

ゲンドウは、キールに視線を移す。

 「次に会うときには、私は恐怖の対象となろう。では それまで 生きながらえることを・・・。さらばだ。」

キールの映像が消える。モノリスたちも消える。部屋の照明がつく。

 「くたばれ イン○じじいども。」

ユイが舌を突き出しゼーレのメンバーをなじる。

 「ユイ・・・・」

 「なによ あんた。」

 「少しは上品に・・・・。」

 「ぬあんですって!!」

 「あ いや ごめん 僕が悪かった。」

いつも 一言多いゲンドウであった。

 

 

 「えーと トウジさん 自動式拳銃を撃つ上で大事なのは マガジンを入れた後

 薬室に弾をきちんと装填する事ねバレルを引くんじゃなく グリップを前面に押し出す。」

キョウコは、ネルフの制式拳銃であるシグ・ザウアーを右手で握り説明通りの仕草をする。

 ここは、ネルフ内の射撃場 トウジは、キョウコから拳銃の射撃レクチャーを受けている。

エヴァのパイロットに採用されてから トウジにとって忙しい日々が続いていた。シンクロ、ハーモニクスのテスト

エヴァの基本的構造の理解 緊急の場合の対処方法の習得などは、トウジにとって頭の痛い事だった。

 一方 トウジにとって、気に入っている部分もある 当然 身体の鍛錬も必要とされたため ネルフ内にある

マシーンが完備されたジムやプールなども使用できたし 空手、柔道、ボクシングなどの格闘技になども専門の教官が

教えてくれる。もっとも この第3新東京市にも そのような民間のジムは存在していたが結構通うのに金がかかり今までの

トウジには金も暇もなかった。ところが今では費用は請求されないし 奨励してくれる 格闘技が好きなトウジにとっては願ったり

の環境であった。家に帰ればユイかキョウコが食事を作ってくれているし何かと世話を焼いてくれる。今 修業のためここを離れている

彼女らの実子であるシンジやアスカには済まないと思っているがトウジにとって凄く居心地がよい。

 トウジは学校をしばらく休んでいるが充実した日々を送っていた。

ところで日常でのエヴァの初期カリキュラムでトウジはリツコ始めとしたネルフのメンバーから指導されていた。

 担当は、それぞれ決まっていたが今まではどの項目もおおむね順調であった。ただ 格闘術で女性のユイに一度も勝てず

あまつさえ自分より華奢なレイにもいいようにされているのは癪であったが。

 で そのレイであるが、最近は何かというと行動を共にする事が多い、同じチルドレンであるので訓練プログラムも似ているし

彼女の方が先輩であるため、何かとアドバイスしてくれている。トウジは教室でいた時はレイは

つかみ所のない人間だと思っていたが実際話してみると、さっぱりした性格をしており、あまり女を意識させないでいた。

 トウジとしても彼女の正体は知っているが、それはそれ結構気の合う仲間として付き合っていた。

確かにレイは知識は豊富であるが、当たり前の一般常識については少し乏しく、トウジがそれについて

語ると目をパチパチと瞬かせ興味深げに聞き入ることもしばしであった。

 一度ユイに訊いてみたところ

 「知識と性格はあたしのコピーだけども、今になっては似ているところはあるけど別人格として歩き始めている。」

との事であった。まあトウジとしてはユイが常識なしと疑ったのは当然であった。そしてユイは、そのうえで

 「まだ 生体細胞が安定してないけど、それも改善するわよ。」

ともユイは語った。確かに、定期的に医局でキョウコやリツコの診察を受けている。まだ不安定なのだろうか?

 それが証拠にトウジは一度レイに

 「あたしは生理がないから。」

などどあっけらかんに言われ面食らった事もあった。それもユイによれば安定さえすれば人間としての生殖も可能らしい。

 それで なんだかんだでレイとはいい関係を保っているトウジであったが 今日はレイ以上にいい関係にあるキョウコから

射撃について教えて貰っていた。

 「トウジさん 話聞いています?」

トウジが、想いに耽っているといつの間にかキョウコが目の前に立っており咎めるようにトウジの目を覗き込んでいた。

 「あ すんません 考え事してました。」

トウジは素直に頭を下げた。キョウコの眉間に皺が寄る

 「あのね トウジさん!どんな訓練でもそうだけどいいかげんにやっていると怪我をしますよ!特に銃器の訓練だと

 ホントに命に関わるんだから・・・。」

キョウコはいつになく厳しい口調で言うと 表情も硬くトウジを睨む

 「わぁ すんません。キョウコさん 気を付けます。」

トウジは、何度も頭を下げる。彼としては、キョウコに嫌われたくない 何故なら本当に親身になって自分と妹の心配をしてくれるし

なにより彼女を慕っていたからだ。

 「まあ 気を付けてください。じゃ ちょっと私が撃ってみますね。」

気を取り直したキョウコはシグを右手に構えると15メートル先の標的に正対する。

 「最初は時間はいいですから とにかく的に当てること この時トリガーをひくことはあまり意識しなくていいです。

 照準をきちんとあわせて、あとはしっかりグリップを握り親指の付け根に向かって人差し指を握り込む。」

パァン 

 乾いた音と共に標的の中央に穴があく。

 『ほう』

腕を組んでみていたトウジは感心する

 パァン パァン・・・・・

キョウコは、リズムよく標的に向けて撃つが標的にあいた穴は最初の一個のみ

 『あれ キョウコさん あまり 射撃はうまくないんやろか?』

トウジは、首を捻る。射撃場には、銃器の使用が予想される部門 主に諜報保安部の職員が興味深げに見物していたが

彼らは、キョウコの射撃を見て凍り付いていた。そこへキョウコを揶揄する言葉が投げかけられる

 「あーら キョウコさん あまり 射撃がお上手じゃないのかしらん?」

いつの間に来たのか口元に悪戯な笑みを浮かべたミサトが腕を組んで立っていた。

 「え なんでしょうか?葛城さん?」

全弾を撃ち終えたキョウコが振り向き小首を傾げる

 「いや あんだけ撃って一つしか当たらないなんて・・・ププ。」

ミサトは口元を押さえる ミサトにしてみれば、サルベージ後なんでも完璧にこなすキョウコに感心せられ頭が上がらないと同時に

少しやっかんでいた。それでキョウコにも駄目なところが有るのを見つけ嬉しかったのだ。

 実はミサト キョウコの娘であるアスカを中国に送っていった際に失態を演じており その事でキョウコに詰め寄られたのに

少し憤りを感じていた。それはアスカの親とすれば至極当たり前の態度であったのだが、キョウコの容姿があまりに若かったから

小娘に言われているような感じで癪に障ったのがミサトの本音である。

 「????」

キョウコはミサトの言っている事を理解しかねるのか首を傾げたままである

 『よし 追い打ちをかけてやれ。』

もう 逆恨みとしか言えないような思考にミサトはとらわれた。

 「キョウコさん 鈴原君にはあたしから射撃を教えましょうか?」

意地悪くミサトは告げる

 「いえ 私がレクチャーします。」

しかし、キョウコはしっかりと申し出を断わる

 「あのね あれだけ撃って 一発しか当たらないへたっぴが教える事なんて出来ないって言ってるの!!」

ミサトの口調は知らずに激しくなってゆく

 「一発?全弾命中だと思いますが?」

キョウコは、当惑の表情をみせる

 『このー 親子揃って負けず嫌いなんだから。』

ミサトは、心の中でキョウコとアスカを比べ非難をする

 「実際当たってないでしょが!!」

 「当たってますよ。」

しかし、キョウコは頑として怯まない。

 『なんで キョウコさん あんな意地はるんやろか?』

横ではらはらしながら事の成り行きを見守っていたトウジは、何時にないキョウコの態度に戸惑う

 「当たってるって 嘘ばかり・・・いいわ 勝負しましょう。」

ミサトは凄んでキョウコに勝負を挑んだ。

 「勝負ですか?」

 「いーい 15メートル標的で勝負よ10発撃って 何点とれるか いいですか キョウコさん。」

 「え?!」

ミサトにはキョウコが引いたように見えた。

 『チャーンス』

ここぞとばかりにミサトはもう一度強く押す

 「これに 勝った方が鈴原君の先生よ。いいですか キョウコさん。」

 「そんな・・・・!」

 『ひひひ 困っている・・・いいわよ。』

ミサトは、ほくそ笑む

 「じゃ 判定は、コンピュータによる電子判定にしましょう。じゃ あたしから。」

ミサトは、懐から愛用のシグを抜くと標的に正対する

 パァンー   パァンー   パァンー

小気味よく打ち出され横に飛ぶ薬莢 標的には、中央の黒点から外れている8点のエリアに穴が2発あいていたが

ほとんどは10点9点エリアである真ん中に集中していた。

 葛城ミサト 92点

電子採点表はすぐにミサトの点をディスプレイに映し出す。なかなかいい点である。

 「ふん どんなものよ。」

ミサトは、得意げな顔をする。伊達に作戦部長ではない。

 「あの 葛城さん」

キョウコが、何かいいたげにミサトを見つめる

 「何よ!」

 「あの 射撃場では、訓練用の弾丸を使いましょうね。」

 「はあ?」

確かに今 ミサトの撃ったのは実戦用に装填していた弾である。

 「それは、どうも 済みません。さぁ キョウコさんの番ですよ。」

ミサトは、口では丁寧に謝るも慇懃無礼な態度を崩さない。

 「・・・・どうしても やるのですか。」

 「やるの!!」

厳しい口調のミサトにキョウコは諦め標的に向かう

 パンパンパンパン

リズムよく撃っていたミサトとは違いあっという間に10発撃ち尽くすが、標的にあいた穴はど真ん中の一個のみ

 『よっしゃ 勝ったー。』

ミサトは、勝利を確信した。

 惣流キョウコ 100点 WINNER

 「へ?」

ディスプレイを見たミサトは自分の目を疑った。

 「なによ こんなんインチキ。壊れているんじゃない?」

 「あの 葛城三佐・・・・。」

傍らで見ていた保安部員が躊躇いがちにミサトの名を呼ぶ

 「機械は壊れていませんよ。いいかげんにした方が・・・・。」

 「何 言ってるのよ 勝ったのは あたしのはずよ。このオンボロ機械が・・・。」

ミサトの激高に保安部員は首をすくめそれ以上の発言を控えた。

 「壊れてないわよ。ミーちゃん あんたの負け。」

 「誰よ!!」

声の方を見やったミサトが見たものは のほほんと笑みを浮かべたユイだった。

 ユイはゼーレの老人達に啖呵を切っており上機嫌であった。

 「どういう事ですか ユイさん。キョウコさんの標的には1発しか命中していないじゃないですか。

 100点じゃなく10点の間違いとしか思えません。」

ミサトはユイに食って掛かる

 「まあまあ ミーちゃん。・・・・キョウコ もう一度 これでやってみてよ! えーっと 標的距離40メートル標的を6つ別に用意して。」

ユイは射撃場の係官に指示を出しながら キョウコに持参した回転式の拳銃を手渡す。

 それは古ぼけた中折れ式の回転式拳銃 もう生産されて100年以上も経っているのではないだろうか。

 それを見たキョウコは、目を細め一緒に手渡された弾丸を込め標的に向け右手の銃を差し示す。

 パァン パァン パァン

6つの標的の真ん中に6つの穴があく

 「え?」

ミサトとトウジの頭に大きな疑問符が付く

 「キョウコさん 上手いやないですか。さっきは何で外したんでっか。」

トウジは、感心してキョウコに尋ねた

 「え 先ほども 全弾命中だと思いますが・・・。」

 「一発だけじゃ 無いんですか?」

トウジは再度尋ねる

 「全部 命中よ トンちゃん。」

ユイが、トウジを諭す

 「そんなこと ゆうたって・・・・まさか・・・・。」

この時 トウジの頭にある仮定が浮かぶ しかし 一方では あまりに非常識なので それを否定するが

 「そうよ 見事な ワンホール・ショット さすがキョウコ!トレインパパの娘ねぇ」

ユイは、トウジの仮定に正解の丸印を付ける

 「ほんな あれ 全部同じ所に当たっとんですか?」

 「ヤー そのとおりですわ。トウジさん。」

トウジの問いかけにキョウコが答えた。

 「やっぱり 私は回転式の方が、好きですね。しかし ユイ”エンフィールドNo1MKT”なんて よく見つけたわね

 かなりカスタマイズしているみたいだけど・・・いい感じね。」

キョウコは、”エンフィールド”の銃身を感心したように撫でる

 「まあね。トレインパパのあれ程じゃないけどね。」

ユイがため息を漏らす

 「・・・・・・。」

ユイの返事を聞いたキョウコは少し寂しげな表情をした

 「あ ごめん。無い物ねだりしてもね・・・悪かった。」

 「いいの ユイ。」

キョウコは、首を横に振る

 「さあ トウジさん 訓練を再開しましょう。あれ 葛城さんは?」

ミサトは、罰が悪いのか行方を眩ましていた。この場で キョウコの腕前を理解していなかったのはミサトとトウジだけである

 「さあ 何処いったんでしょう?」

トウジは、ミサトが逃げ出したのは分かっていたが敢えて知らないふりをする。かつて憧れた女性であるが現在トウジの内の

ミサト株は暴落中である。

 「まあ いいわ さあ 訓練を続けましょう。」

 「はい キョウコさん!!」

トウジの快活な声が射撃場内に響き渡る。ここで トウジに素朴な疑問が沸く

 「キョウコさん なんで 回転式拳銃が好きなんですか?」

 「だって・・・・自動式って 私みたいな左利きには冷たい作りでしょ。」

 「まあ 確かにってキョウコさん 今まで右手で撃っとったやないですか。」

トウジは、意外な答えにもう一度確かめる

 「ええ 私が左手で撃つと大抵の銃は壊れちゃうから・・・だから右手で撃つの。」

 「はあ?」

 「そのうち 見せてあげますわ。私の左手のショットを。私のことは、ここまで さあ 続けましょう。」

 「そうそう。」

傍らのユイもキョウコに賛同してトウジの訓練を見守っていた。

 

 翌日 朝 第壱中学校 2−A

 「いよっ 委員長 おはようさん。」

佇んでいたヒカリの肩をトウジが後ろから叩く

 「あ 鈴原 おはよう 久しぶ・・・・・・。」

しばらくぶりにトウジが登校するという電話を昨日ヒカリは貰っていた。

今日は朝早くから弁当を作り、いそいそと登校してきており、そのトウジに挨拶をして貰ったヒカリは

振り返って 思わず言葉を失う そこにはジャージではなく 白色カッターを着て学生ズボンをはいたトウジが

これも久しぶりに登校してきたレイとともに立っていた。

 「どうしたの 鈴原 その格好・・・あ 綾波さんも おひさしぶりね。」

ヒカリは気を取り直しレイにも挨拶を投げかける

 「洞木さん おはよう。もう 綾波じゃなく 碇さんか レイっていう名前で呼んでほしいんだけど。」

レイはヒカリに自分が碇の姓を冠するようになった事を告げた。

 「碇って・・・それじゃ。」

 「そう シンちゃんと結婚したもの!!」

 「え?! じゃ アスカは・・・・・。」

しばし 流れる沈黙の時

 「嘘よ。」

 「・・・・。」

 「シンちゃんとは兄弟になったの。さっきの冗談だから アスカには内緒にね。あの子にこの手の冗談は通じないから。」

 「え ええ」

ヒカリは頷いた。

 「みんな おはよう。あれ トウジどうしたんだ その格好?」

そこにケンスケが登校してきてトウジの姿を認めて驚きの声を上げる。

 「なんや みんな?学校に制服で登校してきて変かいな?」

トウジは、自分に対する皆の応対に不満を露わにした。

 「いや そうじゃなくて・・・。鈴原 ジャージはどうしたの。」

 ヒカリが、彼のトレードマークの所在について質問した。

 「あ あれな。ジャージもええけど 学校におるときは今度からこれにするわ。」

トウジは、少し顔を赤らめて恥ずかしそうに告げる。

 「「・・・・・?!」」

トウジの決意に首をかしげるヒカリとケンスケ このときレイが目を細めて意地悪そうに口を挟む

 「ねー キョウコが用意したものね!」

 「あほ レイ。・・・・ちゃんとアイロンまでかけてもろうて 知らん顔できるかいな。」

レイに対してあわてて弁解するトウジ

 「まあ キョウコは、あんたに甘いからね。ひょっとしたら 実の娘のアスカよりもねぇ。」

レイは、からかうようにトウジの鼻面を人差し指でなぞる

 「そんなこと あるかいな。レイ おまえはちぃーっと 口がすぎるで。この口がいかんのや。」

トウジもお返しとばかりにレイのほっぺたを摘む。

 「ひ ひたいーー ひょうじきゅーん(トウジ君〜)。ひゅるしてー。」

歪んだ猫なで声を出すレイ トウジは、仕方なく手を離す。

 「あーん 痛かった。」

 「いらんこと 言うからや。」

 「へへへ」

 「ふふふ」

笑いあうトウジとレイ

 『なに 何よ?』

ヒカリは、このときいつの間にかトウジがレイのことを名前で呼んでおり 異常に仲がいいことに気づく。

 「鈴原 あんた 綾波じゃない 碇さんと仲がいいみたいだけど・・・。」

 「レイでいいわよ。洞木さん・・・あたしも、これからあなたのことをヒカリと呼ぶわ。」

レイが、自分の名前の呼称の希望をヒカリに提案する

 「ええ そうするわ レイ。で さっきの話だけど・・・。」

ヒカリはレイの呼び方よりトウジとの仲が気になっていた。

 「え 仲がええって言うてもな レイ。」

トウジは視線をレイに向ける

 「うん 別に こんなものじゃないの。アスカとシンちゃんみたいなのが仲がいいって言うのよ。」

勝手に納得するレイ

 「あんな 馬鹿カップルを引き合いに出さないで!」

ヒカリの口調が荒くなる

 「そんなこと言うてもな。結構 一緒におる時間が長いしな それに今まで知らんかったけど 話も合うしな。

 家でもネルフでも よく一緒に飯食うし 二人でDVDも観るしな。」

トウジは事も無げに語る。それは 最近の生活の真実 トウジにとってレイは入浴時や更衣の時など限られた時以外は

女を感じさせない相手であり ここしばらくはよく行動を共にしていた。

 「こんなもんや ないんか。なあ レイ。」

 「うん こんなもの こんなもの!」

レイは、トウジの問いかけに嬉しそうに相づちを打つ。

 『そんなわけないじゃない!!』

ヒカリは心の中で彼らの非常識さを怒鳴りたい気分であった。ただ単に羨ましがっていたこともあるが・・。

 「なあ トウジ 新しい生活ってどうなんだ?」

ケンスケは、トウジにエヴァのパイロット生活について訊く それはケンスケにとって羨望すべきことであった。

 「うん シンクロテストして ユイさんや綾波と格闘して キョウコさんに射撃を教えて貰う毎日やったな。」

 「え 射撃って 本物の銃を撃つのか?」

ミリタリーヲタクにとっては垂涎の事実

 「そうや なんかシグ・ザウエルちゅうネルフの制式銃らしいけど・・・結構当たるで。」

 「うぅぅー なんちゅう羨ましい。」

 「なんや 慣れてしもうたら 退屈な毎日や けど気を抜いたら キョウコさんに怒られるけど。まあ 詳しい

 話は放課後にでもしたるわ。今日は、ゆっくり委員長やケンスケと話をしてこいってキョウコさんに言われたから。」

 「そうか わかった。」

それまでに いろいろと質問事項を考えれるなと思うケンスケであった。

 「委員長も つきおうてな!」

 「え ええ」

考えの淵に沈んでいたヒカリは、流されるように首を縦に振った。

 

 放課後

 「さて 帰ろか。」

トウジは、ヒカリとケンスケに声をかける

 「ええ」「おう」

二人は返事を返すがケンスケがレイに引っ張られ レイがケンスケの耳元でなにやら囁く

 「なあ トウジ 俺 ちょっと用事ができたんだけど」

 「そうか ほなまた明日。」

 「ああ じゃあな。」

ケンスケは、そそくさとレイとともに教室から出て行く。

 「なんや あれ?」

トウジは首をかしげる もちろんレイが気を利かせてヒカリと二人きりにしたことなどニブチンのトウジには分からない。

 

 「お こんなところに 新しい喫茶店ができとるわ。ここによろか?」

 「え ええ。」

ヒカリはトウジの問いかけに肯定の意を表す。

 その喫茶店は、帰り道のオープンスペースだったところに建てられており結構な敷地を閉めていた。

トウジとヒカリは、その”CAT'S EYE”と書かれた看板がある喫茶店に入っていった。

 二人が中に入ると中も結構広く ステージみたいなところもあり ピアノやアンプ エレキギターやベースが置かれている。

 「チャオ いらっしゃいませ。」

二人を見つけて 店員らしい 女の子が近寄ってくる 小麦色の肌 長く黒い髪 エメラルドを思わせる瞳

年齢はトウジたちより少し上であろうか 大胆な肩を露出させた情熱的なドレスを着ている。

トウジたちがあっけにとられていると 

 「お客さん違いますか。なんか用ですかー。」

勝手に解釈をして 鋭い視線を向けてくる

 「おいおい 緒方君 彼らは君に驚いているんだよ。」

奥から この店のマスターらしい男が現れる 壮年いや もう少しで初老の域にかかるであろうか 髪に少し白いものが

混じっているが 体格のいい目つきの鋭い男で少し咎めるような目つきで緒方と呼ばれた女性を見ている。

 「Capisco リョウさん。あ お二人とも失礼したでーす。座ってください。」

 「あ ああどうも。」

トウジは答えヒカリとともに近くの席に着きアイス・コーヒーを2つ頼む

 「いや お二人とも失礼したね。私はこの喫茶店を経営している冴羽といいます。オープンしたばかりなので

 これからは贔屓にお願いするよ。」

 「はあ?」

間の抜けた返事のトウジ

 「あ さっきのはアルバイトで、ウェイトレスとピアノ演奏をしてくれる緒方オリヒメ君だ。第壱高校に通っている。」

 「そうでっか。」

冴羽と名乗った男は渋い表情で先ほどの女性について語る

 「リョウさん 何 人の事を話をしているですか?」

 「あ いや なんでもない。」

注文のコーヒーをもって来たオリヒメが冴羽の会話に割り込む

 「お待たせしたデース。」

トウジとヒカリの前にコーヒーが置かれる

 「あの 緒方さん なんか ちょっと言葉のイントネーションが違うんですけど?」

ヒカリが感じたことを素直に口にする

 「oh 私 イタリアと日本のハーフね。父の仕事の関係で最近引っ越してきたデース。父はネルフの広報担当でーす。」

ああそういえば・・トウジは、過日に紹介された新任の広報部長を思い出した。前任者はゼーレの息がかかっており、

後任は信用のおけるを登用しよう人物ということで冬月副司令がイタリアの他機関より引っ張ってきていた人間であった

彼は絵画にも堪能であり情操教育の一環としてトウジもレイと一緒に緒方から習っていた。

 「ああ そうでっか。お父さんにはお世話になっております。」

 「はあ?」

トウジの言葉の意味をすぐには理解しがたいオリヒメであった。

 トウジは、いずれは分かることながらもチルドレンということは伏せて

自分の保護者であるユイやキョウコがネルフの職員であることのみを語った。

 「そうですか。じゃ これからも何かとお会いすることがあるかも知れませーん。よろしくお願いしまーす。

 では 今日は、お会いした記念に 私が一曲ピアノを弾いて差し上げるです。」

オリヒメはそういうとステージのピアノに向けて歩き出す。

 演奏が始まる 流れるクラシックのメロディ ヒカリは聞き覚えのある曲だがタイトルは出てこない。

 「君たち 第壱中学の生徒かい?」

演奏が続く中 冴羽が二人に問いかける

 「へえ そうですけど。」

トウジは首を縦に振る

 「じゃ そこの生徒さんで惣流さんって女の子を知らないかい?」

冴羽は続けてアスカのことを訊いてきた。

 「惣流ってアスカのことですか?」

ヒカリが冴羽に尋ねる

 「そう 惣流・アスカ・ラングレーさんだが・・・知っているのかい?」

 「一応 同級生ですわ。アスカになんぞ用ですか。」

ヒカリに代わってトウジが返事を返す

 「ああ それは、直接彼女に話すよ。今度機会があったら連れてきてくれないか。」

不審そうなトウジに冴羽は頭を下げた。

 『なんやろ まさかこのおっさんロリコンって事ないわな?』

トウジはいぶしかげな視線を冴羽に向ける 冴羽はトウジの想いを察して慌てて手を振り否定する。

 「違うよ。変な意味じゃない。彼女に・・・・渡したいものがあるんだ。」

 「そうでっか・・・・まあ ええですわ。一応 アスカには伝えときますわ。でも あいつ今は余所にいってるさかい

 少し時間がかかりまっせ。」

 「じゃ 頼むよ。お礼といっては何だが、今日のコーヒー代タダでいいから!」

 「へえ おおきに。」

そこで オリヒメの演奏が終わる。

 「拍手をください。」

オリヒメが得意そうな笑みを浮かべながらステージから降りてくる

 パチパチ

手を叩くトウジとヒカリ オリヒメは二人に近づくと

 「あなた達 今の曲なんていうかわかりますか。」

質問を投げかける

 「えーっと・・・・・。」

ヒカリにとって何度か聞いている曲であるが曲名は出てこない

 「ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトのピアノソナタ第11番イ長調 K331通称”トルコ行進曲”でんな。ルードヴィヒ・フォン

 ・ベートーベンの”エリーゼのために”と双璧をなすピアノ入門曲でしたかいな。お上手でした。」

 「え?!」

ヒカリはトウジがサラリと答えたのを聞いて驚きを隠せない、しかし反面いい加減なことを言っているようにも思える。

ヒカリもモーツァルトやベートーベンくらいは知っているがフルネームでいえようはずもない・・・

 「正解デース。曲についてもピアノについてもよくご存じで・・・・あなたも弾かれるのですか。」

 「いや 常識程度に知っているだけですわ。」

 「そうですか。」『うーん この人 なかなかいいですねー。』

ピポパポピィピィーーーン オリヒメのトウジに対する好感度があがった。

 「なんや 今のは?」

 「気にしちゃいけないでぇーす。」

オリヒメはウィンクをする

 「鈴原・・・・・。」

ヒカリは唖然とした。ヒカリはトウジがこのようなことの知識があるとは思ってもみなかった。

しかし、トウジとしてみれば 少し前にネルフ内の情操教育の際にキョウコが曲を弾いて説明してくれており彼女から

モーツァルトの説明を受け その受け売りをしたにすぎないのであるのでカンニングみたいな気がしたが・・・。

 

 カララン

出入り口の鈴を鳴らしてトウジとヒカリは出て行く。

 「アリガトゴザイマシタ。」

オリヒメは、二人が出て行った後 コーヒーグラスとお冷やを片づけ それを盆に乗せて奥に持っていく

 「どうやら 惣流って娘にあえそうだな。」

二人の出て行った後を未だ眺めている冴羽に いつの間に現れたのか 口ひげを蓄えた黒い帽子 黒いスーツの男が

声をかける。

 「ああ 次元 おまえさん達が取り戻してくれた あれを渡せそうだ。」

 「しかし あんなもの女子中学生は喜ばないぞ。」

次元と呼ばれた男はあきれたように首をすくめる

 「いいのさ 俺から 猫のおっさんに対するけじめかな。あれをおっさんの血を継ぐものに渡すのは。」

 「そうかい まあ 俺もルパンも 野良猫のおっさんには世話になったからな。」

 「ああ 次元とルパンには感謝している。」

冴羽はそういうと穏やかな視線を次元に向ける

 「へっ 気にすることないぜ。リョウ今夜は飲み明かすかい?」

 「ああ。よかろう。」

冴羽は、かすかに微笑み次元の申し出を了承した。


 突然 トウジの前に現れた喫茶店のマスター冴羽リョウ、キョウコは彼の事を知っているようであるが・・・。

ネルフで訓練に励むトウジは落とし物に気づく そしてユイから語られる彼女とキョウコの過去

タームさんのリクエストどおりにオリヒメがちょっと登場です。勿論ソレッタじゃ無く緒方姓ですが 

 次回 父の形見 中編


アスカ:ママ、凄い・・・。(@@)

マナ:あの葛城さんを凌ぐなんて、恐ろしいわ。

アスカ:アタシのママは、怒らしちゃいけないことがよくわかったわ。

マナ:ところで、オリヒメさんが登場したわよ。誰かさんのリクエストとか?

アスカ:やっかいな性格の娘、出してくれるわねぇ。

マナ:アスカよりは、性格いいと思うけどさ。

アスカ:スパイに言われたかないわねっ!(ーー#

マナ:燃やす・・・。(ーー#
作者"もん"様へのメール/小説の感想はこちら。
nishimon@mail.netwave.or.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system