外伝 その壱 Happy Birthday! & Alles Gute zum Geburtstag!

 

ネルフ本部内 発令所

  「うーむ 深刻な状況ね。」

ネルフ作戦部長 葛城ミサトは、真に憂いていた。

 「問題は、いかに予算を確保するかね。」

腕を組み考える。上司の困った姿を認め 彼女の下僕もとい部下である日向は仕事の手を休めた

 「どうしたんですか?ずいぶんお悩みのようですが僕でよければ話を聞きましょうか?」

ミサトに対して(愚かにも)好意持つ彼としては当然のフォローであろう 現在ここに詰めているのはミサトと日向のみである

 「いや いいのよ。日向君・・・・。」

ミサトは、日向の好意を必要ないとばかりに手で制した。

 「そうですか・・・・。」

日向は多少の不満を覚えながらも上司の怠惰で滞りがちの仕事に復帰する。

 「うーん・・・・。」

再び思慮にふけるミサトの視線が日向のデスクの卓上カレンダーに止まる。

 「あ そうだ!!」

さすがは、いや一応はと言っておこう ネルフの誇る頭脳明晰な作戦部長 いいアイデアが浮かんだのだろうか?

 『これは、いいわぁ。我ながらたいしたもんだわ。』

一人悦にいるミサト 事実自分でも名案だと思って 試しに日向に提案してみる。

 「いいですね。僕も賛成です。」

ミサトの予想通り日向は、二つ返事でOKを出した。

 「よーっし 日向君 あたしは、このことを司令達に提案してくるから 後の仕事をお願いね。」

 「え・・・わ わかりました。」

 体よく仕事をミサトの分まで押しつけられてしまった日向 自分も賛成した手前嫌とは言えない いや そうでなくとも

ミサトには逆らう術を彼は持っていなかったが・・・。

 『まあ いいか!楽しそうだし』

小躍りして発令所を出て行くミサトをため息混じりで日向は見送った。

 

 司令執務室

 「葛城三佐 入ります。」

ミサトは、すました顔にどこか笑みを宿して部屋に入った。

 「今日は何?ミーちゃん?別に呼んでないけど?」

そんな ミサトをユイが自分の端末の前から立ち上がり出迎えた。

 「えーっと 今日はお願いがありまして・・・・。まあ 仕事からはちょっち離れますが・・・。」

ミサトは、躊躇いがちに切り出す。以前なら司令室でこんな事は口が裂けても言えなかったろう事実を

 「何かしらん?」

ユイが興味深そうに話の続きを促す

 「今度の土曜日 11月21日の件ですが・・・。」

 「11月21日?」

 「誕生パーティを開きたいと思うのですが・・・・。」

 「誕生・・・あー そうか そうだったわね 彼女!」

ユイは手の平を反対の手の拳でポンと打った どうやらその日が誕生日の人物を思い出したらしい

 「ジオフロントで野外風にパーティーをしたいのですが・・・許可を貰えますか。」

ミサトは、ゲンドウの視線を意識しながら 恐る恐る進言する。

 「そうねぇ あそこなら雨なんか降らないし、ある程度温度調節はきくし 何より たくさん人がこれるわね。」

ユイは、口元に手を当てミサトの提案を検討し始め肯定の理由を論述した。

 「シンジ君の友達も招待しようと思っています。まんざら知らない仲じゃないので。」

 「確かにね・・・。いいわよね あんた?」

ユイは、OKの結論を出したのか振り返りゲンドウに同意を求める

 「しかし・・」

司令の机に座っているゲンドウは何か反論しようとする

 「いいわよね!」

ユイは、声を大きくしてもう一度 言葉を繰り返す

 「も 問題ない。」

ユイからのプレッシャーに弱いゲンドウはすぐ折れた。

 「と いうことよミーちゃん。パーティはあんたが主催するの?」

 「はい 料理なんかはシンジ君に頼ろうかななんて思っています。」

 「いいわね、じゃ お願いするわ。」

ユイも、お祭り騒ぎの計画ならミサトにお任せとばかりに思っている。

 「わかりました。あ ユイさん 当日 出来たらパーティの用意を手伝って欲しいのですが・・・。」

ミサトは、図々しくも司令部参謀 副司令待遇のユイを雑務にかり出そうとする。

 「いいわよん。ミーちゃん!日頃世話になっているものね。彼女には!」

ユイは、当然手伝うとばかりに首を縦に振る。

 「でわ 細かい事は後ほど連絡します。葛城三佐 帰ります。」

ミサトは用が済んだのか敬礼の後立ち去ろうとする。

 「待ちたまえ!葛城君!!」

ゲンドウの鋭い声が飛び退出しようしたミサトを呼び止めた

 ひっ

首を竦めるミサト

 「なんでしょうか・・・・?」

ミサトは、びくびくしながら振り返る

 「酒類やその他の飲み物は私が手配しよう。主賓の好みは知っているからな。」

執務席のゲンドウは顔の前で手を組みニヤリと笑う

 「は はぁ しかし。」

その冷笑にたじろぐミサト

 「心配するな。費用ぐらいは私が持ってやる。が 料理は頼んだぞ。」

 「葛城三佐 了解しました。」

ミサトは嬉しそうにもう一度敬礼をして部屋を出た。

 「いいのか 碇?」

同室していた冬月がゲンドウの意を計る

 「いいのですよ 先生 彼女・・・には世話になっておりますから・・・」

ゲンドウはおもむろに冬月に答える

 「いいこと言うわね あんた。さぁて プレゼントを考えなくてはね。」

ユイは、首をひねり思考モードに入る。

 「そうだな。」

冬月も同意をする。

 「私は、すぐ決まったよ。」

ゲンドウは、メモに2行の走り書きをする

 「へぇー いろいろ悩むあんたらしく無いじゃない見せてよ。」

ユイはゲンドウのメモを覗き込もうとした。

 「内緒だ!ユイ。」

ゲンドウは、さっとメモを隠す

 「ケチ!!」

ユイはプウッと頬をふくらませた。

 

 ヤッター

ミサトは廊下で小躍りしていた。こんなに簡単に意見が通るとは予想していなかったのだ。

 『これで酒が死ぬほど飲めるわ。しかも司令持ち 飲みだめするわよ!!』

そう ミサトが憂いていたのは自分の酒代の捻出であった。

ディスティニーランドでの失態のつけで現在弁済金を払っているミサト

当然 それは葛城家の家計を直撃していた とはいっても 日常の光熱費はネルフ持ちだし

食費等の生活費は隣に住んでいるユイ達を頼っていたのでもろに影響を受けたのはミサトの酒代だけである。

 しかし アルコールをエネルギーに換えて稼働するミサトには深刻な問題であった。

『この事実さえ作れば 来月はあたしの誕生日にも同じ事をして そうだ鈴原君の誕生日も来月だし

 帰還すればアスカだって・・・・。クーッ 我ながら名案だわ!!』

現在 アスカは修業で中国にいる しかし近日中には帰る予定だそうだ。

 確かに名案であった。誕生プレゼントを買いパーティを会費制にしてそれを払っても ミサトは

他の人以上に酒を飲む、飲むったら飲み倒す当然得をするのはミサトである。

 「ひーひひひ さて 主賓に連絡をとるか!!」

ミサトは意気揚々技術部に向け歩き出した。

 

 技術部 リツコのラボ

 「ここの所に設置すれば、展開が早いと思いますけど?リツコさん!」

 「あー そうですね。じゃ そのように、予定図をひきましょうか。」

大型のディスプレイの前でキョウコとリツコが新システムの図面を見ながら検討をしている

 リツコは、キョウコに対して敬語を使う 当然彼女の能力に敬意を払っているし

自分の意見も尊重して貰っていた。外見は別として今は姉のように思っており

実際 いろいろとプライベートな事も相談していた。

 当然 キョウコは、真摯に回答をしており リツコはキョウコに全幅の信頼を置いている

今二人の関係は上手くかみ合っていた。

 「入るわよーん。」

そんな二人の所に前触れもなくミサトが訪れる

 「あ こんにちは、葛城さん」「あーら 何かしら ミサト?」

キョウコとリツコは、ディスプレイから目を離し不躾な来訪者を迎える。

 「えーと 11月21日の誕生日の事だけど。」

 「「はい!?」」

重なる二人の答え

 「あん リツコの誕生日ですよ、その日は、キョウコさん。」

ミサトはキョウコも返事した事で説明の必要があると感じ、その日がリツコの誕生日である事を告げる。

 「・・・・そうですか・・・・リツコさん11月21日が誕生日ですか。」

唇に手を当て何か考え込むキョウコ ミサトはその姿に何か引っかかる物を持ちながらも

 「で リツコ もうその歳じゃ誕生日も 大して嬉しくないだろうけどパーティを開くから

 その日は、開けといてね。」

リツコに、パーティの開催を告げる

 「はいはい 確かに歳をとるだけだものね。嬉しくはないけど まあ ありがたくお祝いして貰うわ。」

リツコは、左手で頬杖を当てながらミサトに礼を言う

 「じゃね、当日 あ キョウコさんも参加できますよね、当然。」

ミサトは何やら考え事をしているキョウコに向きなおった

 「あ はい・・・・わかりました。」

いつになく精彩を欠いた返事をするキョウコにミサトは少し苛立を覚える

 「もう 部下の誕生日くらい素直に祝いましょうよ。そんな狭い器量じゃないでしょキョウコさんは。」

不満とばかりに唇を尖らせるミサト

 「あ そうですね。お祝いしますよ。」

 「よろしい、じゃ 後でパーティの開く時間を教えるから早めに来て飾り付けを手伝ってください。」

ミサトはキョウコに指示を出す。

 「え 私?」

キョウコは思いがけない指名とばかり自分を指さした。

 「ええ ユイさんも手伝ってくれるんです。キョウコさんもいいですよね。」

 「・・・はい、わかりました。」

キョウコは、いつにない歯切れの悪い返事をした。

 「じゃ 頼みます。あたしは、他の人に連絡するから・・・。」

ミサトは、そう言い残しラボを後にした。

 このとき 大きくボタンを掛け間違えている事に気づくミサトではない

何故なら彼女の頭はすでに酒が支配していたからである。

 

 ネルフ訓練道場

 「・・・てわけで、リツコの誕生パーティをするから 参加してね。」

ミサトは、道場で汗を流していたシンジとトウジに誕生パーティーの参加を募った。

 「もちろんですよ、ミサトさん。」

二つ返事のシンジ

 「あー プレゼント考えなくてはあかんな?」

乗り気のトウジ そこへ これから訓練に参加するのであろうか?道着を着込んだレイがやってくる

 「あ レイ いいところへ来たわ。今度の土曜11月21日だけど誕生パーティをするのよ来れる?」

ミサトはレイにも参加を促した。

 「誕生日・・・ああ そうだったわね。」

レイは、頷いた後に赤い瞳をミサトに向け確認するように問う

 「アスカが居ないけど、いいの?」

アスカの不在を告げる ミサトは確かにと思いはしたが

 「まあ あの子も、勝手にパーティをしたなんて言ったら怒るけど 居ないんじゃ仕方ないじゃない

 それにアスカの誕生パーティじゃないんだから構わないでしょう。司令やユイさんの許可はとってあるわ!」

とレイの心配が杞憂であることを諭す。

 「そう 父さんと母さんが・・・・。じゃ いいわ あたしも行くわ。」

レイは、少し首を傾けながら参加することを約束した

 「それでは、シンちゃん 料理はお願いね、あ それと相田君や洞木さんにも声を掛けといて なーに未成年者からは

 お金は取らないわよん。」

そう 言ってミサトは高笑いを残して道場から出て行った。

 

そして 時は流れ 11月21日 コンフォートマンション

 「はい はい そうですか、わかりました。料理は、ほとんど出来ています。じゃ 迎えを待っています。」

シンジは、電話の受話器を置いた。

 「誰からや?シンジ。」

ヒカリと共に料理の盛りつけを手伝うトウジはシンジに尋ねた。

 「ああ マヤさんからだよ。今 キョウコさんと一緒に飾り付けをしているらしい。僕たちの迎えは

 青葉さんが来てくれるそうだよ。父さんが予約しているそうだからケーキも取ってきてくれって。」

 「そうか 楽しみやな、よっしゃ今日は食うでー。」

 「鈴原!ちゃんと 仕事をしなさい。」

舌なめずりをしたトウジをヒカリが咎める

 「わかっとるわ。ところで ケンスケ プレゼントの手配は大丈夫やな。」

トウジは、レンジで焼いているローストビーフの番をしているケンスケに確かめた。

 「もちろんさ、ちゃんと注文しておいた。そろそろ 時間指定の宅配便で届くさ。」

リツコへのプレゼントは、シンジ、トウジ、ケンスケ、ヒカリでお金を出し合い可愛い猫のオブジェを注文していた。

レイも誘ったのだが思うところが有ったのか一人で買うと言い張って 今 加持に連れられ外出中だ。

 ピィーンポーン

玄関のベルが来訪者が有る事を知らせる。

 「ほーら 話をすればだ。シンジ出てくれよ。」

ケンスケは、シンジに応対を依頼した

 「わかった。」

シンジは、玄関へ消える しばらくしてシンジは箱を2つ抱え帰ってきた。

 「荷物は二つだったよ。」

シンジは箱をリビングに置く

 「一つは、あー確か注文したお店だね。」

シンジとケンスケが箱を開けるときれいにリボンをかけた包みが現れる。

 「うん 間違いない。あとは、・・・あっ アスカからだ。」

宛先ラベルには汚い字の日本語で住所と差出人アスカの名前が書かれてあった。

 「開けてみよう。」

シンジが、箱を開けると 緑の包み紙に赤いリボンで”Happy Birthday!!”と書かれた包みと

赤い包み紙で緑のリボンをかけた”Alles Gute zum Geburtstag!!”と書かれた箱が入っており

1通の手紙が添えられていた。

 シンジ宛だったので封をシンジが切ると中には便せんが入っていた。

 「げっ ドイツ語だ!なんて書いてあるか、わかんないよ どうしよう。」

ケンスケに視線を向け助けを求めるがケンスケも悲しそうに首を振った。

 「なに なに アスカから?」

 「なんや ラブレターかいな?」

ヒカリとトウジも興味深そうに近寄ってきた。

 「ああ でも ドイツ語で書いてあるから なんて書いてあるかわかんないんだ。」

シンジは、困り果てたように返事をした。

 「なんやセンセ 情けないな 外国籍の彼女がおるんやったらチィートは勉強せいや。」

トウジは、やれやれとばかりに頭を振る。トウジはこのところキョウコから英語とドイツ語を習っている、マスター度合いもキョウコに

言わせればまあまあの評価であった。

 「なんだよ じゃ トウジが訳してみろよ。」

シンジはアスカからの手紙をトウジにつきだした。

 「へへ ラブレター読んでもええんか?」

手紙を受け取りながらトウジはシンジをからかう

 「いいよ 読めるもんなら。読んでみなよ。」

 「へい へい じゃ 訳してやるわな。えーっと日付はええな 宛名書きは・・・『”Mein Liebst Sinji”私の最愛のシンジ? 

よう書くわ!武士の情けや、これはみんなの前では訳さんでやるわ アスカ!』これもええわな で 本文やけど”Hallo”」

 「それくらいは、僕でもわかるよ。」

 「うるさいな えーと”Kurz nicht gesehen.Wie geht es dir?・・・”」

そこそこのなめらかさでドイツ語を読み上げていたトウジの声が止まり手がプルプル震え出す

 「どうしたのさ?」

不安顔のシンジ アスカに何かあったのかと心配する

 「たいへんや!!えーっとな」

トウジの日本語訳はその場のみんなを驚かせるのに十分な内容であった。

 

 第3新東京市 TOKYU HANDS

 「さってと これでいいか!レイ 決まったかい?」

加持はレジで商品の代金を支払いプレゼント用に包んでくれるように店員に頼んだ。

 「・・・・これがいい!」

レイは、ピアノ型のオルゴールを見せた。

 「そうか?あれ レイ・・・」

加持はレイの手元を見て首を捻る

 「何?」

レイは、加持の態度に不審な物を抱いた

 「おまたせしました。」

その時 店員が加持に品物を差し出す。それを見て目を見開くレイ

 「どうして そんなことするの?」

レイは、加持の行動に疑問を持った。

 

 同時刻 司令執務室

 「ねぇ あんた。プレゼントは何にしたの?」

ユイは、ゲンドウにコーヒーを差し出してから彼の肩にしなだれかかる

 「それは当人にでも聞いてみる物だな。」

 「へぇ まあいいわ しかし あんたすぐにプレゼントを思いついたみたいだけど・・。」

ユイは、ゲンドウにしてみてば不思議な事柄であったので思わず口にする。

 「ああ 葛城君が言ってこなくてもプレゼントはするつもりだった。」

 「・・・・そう・・やっぱり見せてよ。」

 「碇 私も気になるぞ・・・!」

冬月が口を挟む ゲンドウに詰め寄る二人

 「だめだ!」

強硬な態度をとるゲンドウ

 その時、司令デスクのビジュアルフォンが鳴る

 「ああ 私だ。」

ゲンドウが応対する

 「ちっ」

上手くかわされてユイは舌打ちをし ゲンドウの為に煎れたはずであろうコーヒーを口にして

モニターを何気なく覗いた。そこにはジオフロントに居るマヤの姿が映っていた。

 『あ そうだ、飾り付けを手伝う約束だった。行かなくっちゃ!』

ユイは、ミサトとの約束を思い出していた。そんなユイは、モニター越しのマヤの背景を見て

口の中のコーヒーをゲンドウの頭に向け吹き出した。

 

 ネルフ医局 鈴原ナツキの病室

 「さあ ナツキちゃん 行くわよ。」

ミサトは、ナツキを乗せた車椅子を押す パワーアシストが利いて楽々である。

 「はい 葛城さん。でも 大丈夫かな・・・あたし病人なのに?」

ナツキは、自分の身体でみんなに迷惑をかける事を懸念する。

 「いいのよ いざとなれば、キョウコさんも居るんだし・・・。」

ミサトは担当医師であるキョウコの出席を口にする。

 「だからだよ。だって・・・・」

ミサトは、次のナツキの言葉で脳天から杭を打たれたようになった

 

 コンフォートマンション

 「なにが大変なのさ?」

シンジは、トウジが驚く顔を見て 不安感を募らせる

 「まあ 聞けや。アスカはな

    ハーイ しばらく会ってないけど 元気してる?あんたのことだから そこそこだろうけど・・・。私は、まあまあね

    結構楽しくやってるわ。あんたもレイの足を引っ張らないようにがんばりなさい。あと 鈴原にも

    頑張れって伝えておいてよ。ヒカリや眼鏡にもね!

     ところで、一緒に送った包みは誕生日のプレゼントよ。ドイツ語で書かれた赤い方はママに、英語で

    書いた緑の方はリツコに渡してよ。私も、ママとリツコの誕生日が同じでびっくりしたわ。直接 渡したかった

    けど、シンジに頼むわ。さーて 私も もうちょっとしたら帰るから 待ってなさいよ。じゃ。

                                惣流・アスカ・ラングレー

    追伸    シンジ 浮気したら、殺す!!

 てな事を書いとるわけや。」

トウジは、さらりと訳して困った顔をして腕を組む。

 「アスカらしいねって、トウジ キョウコさんも今日が誕生日なの?」

 「せや。それやのに、シンジ キョウコさんは、今何しとるんや?」

シンジの言葉にトウジはますます沈み込んだように顔を伏せる。

 「えーっと 確か・・・・ミサトさんに言われてマヤさんと飾り付けを・・・。」

キョウコの心情を推し量って言葉が続かないシンジ

 「キョウコさん 自分も誕生日なのに・・他の人の誕生パーティの飾り付けをしてるのね。」

ポツリと漏らすヒカリ

 「ミサトさん知らないんだろうけど残酷だな。オレだったら耐えられないよ。そんなの・・・。」

ケンスケの言葉も詰まる

 「とりあえず、ケーキは追加出来るかどうか訊いてみようよ。プレゼントは、どうしよう。」

シンジが提案するが、プレゼントのことになると考えが続かない。

 「せや、レイがデパートにまだおるんとちゃうか?携帯にかけてみよ。」

 「わかった。」

シンジが自分の部屋に携帯を取りに走る。

 早く 早く

呼び出し音をいらだたしく聞くシンジであった。

 

 第3新東京市 TOKYU HANDS

 「そうなんだ。わかった。」

レイは、首を縦にコクコクと振る ユイの記憶を受け継いだレイはリツコの誕生日は知らなかった

覚醒するまでは、リツコとはそういう仲ではなかったのだ、しかし キョウコの誕生日の記憶はあったので

今日が誕生日といわれたらキョウコの事のみを思い浮かべたのだ

 「そうさ 今日は、リッちゃんとキョウコさんの誕生日さ。だから プレゼントも二つ!」

加持は店員から渡されたプレゼントの包みをレイに見せる

ここでレイは目を細める

 「でも よく二人の誕生日が同じだと知っていたわね。加持さん。」

加持は、レイの問いかけにチッチと舌打ちをして立てた指を振り自慢する

 「身近な女性の誕生日は、すべて 頭に入っているのさ。」

 「ふーん じゃぁ あたしの誕生日は?」

 「えーっと・・・・・。」

加持は言い淀む レイの誕生日 クローンで使徒たる彼女の誕生日など答えられようはずもない。

 「母さんと同じでいいわ。」

 「じゃ 3月30日かい?なんか プレゼントするよ!」

 「・・・・・よく知っているのね。」

レイは、呆れたように加持を見返した。

 そんな時レイの携帯電話がメロディを紡ぎ出す。

 「はい レイちゃんです。」

レイは、ディスプレイのシンジの名前を確認して通話ボタンを押下した。

 「ふん ふん じゃー あたしの買ったのを共同で買った事にしてあげる。だから あたしも そっちに入れて。」

レイは、シンジに提案を示した、どうやらシンジも同意したようだ。

 「じゃあ また後で。」

レイが電話を終了したのを見て 加持は、声をかけた

 「おい シンジ達も知らなかったのかい?」

 「ええ 赤木博士の誕生日としか知らなかったそうだわ。葛城三佐から聞いたって。」

 「そうかぁ。葛城かぁ」

加持はミサトがまた一つ不始末をやらかした事に気づきがっくりと肩を落とした。

 「加持さん あなたも大変ねぇ。」

レイは、加持の境遇を哀れんで彼の肩をポンポンと叩いて慰めた。

 

 司令執務室

 「熱い 何をするんだユイ!!」

ゲンドウは後頭部を押さえる

 「なんで キョウコが、飾り付けなんてしているのよ。」

 「はい?」

ユイの剣幕を確認したのであろうか、モニター内のマヤが怪訝な顔をする

 「だって だって 今日は、キョウコの誕生日でしょうが!!」

 「えぇーっ!!!今日は先輩の誕生日でしょう?」

モニターの向こうのマヤの目がまん丸になる

 「なんですって リッちゃんもなの!!・・・・とにかく止めさしなさい。マヤちゃん いいわね。」

モニターの向こうでマヤは、雷に打たれたようにお辞儀をしてビジュアルフォンを切った。

 「あんた どうしよう。」「碇 私も、キョウコ君のしかプレゼントを用意していないぞ。」

通話が終わりユイと冬月がゲンドウに話しかけた。タオルで、頭を拭きながらゲンドウは

 「なんだ。知らなかったのか 私はちゃんと二人分用意してあるぞ。」

意外と言ったような顔をする。

 「「ええ(ああ)リッちゃん(赤木君)の誕生日は知らなかった。」」

ユイにしてみればキョウコは親友であり、冬月にしても少ない教え子の一人であるためその誕生日は知っていた。

 「ふたりとも 君たちのプレゼントはキョウコ君じゃなくてはだめな物なのか?」

ゲンドウは、プレゼントの中身を問う

 「「そんなことはないけど(が)」」

 「では それぞれ 共同で買った事にして 私のプレゼントに添えればよい。私のを3人からの

 プレゼントにすればよい!!」

ゲンドウは事も無げに曰う

 「さすがぁ あたしのゲンちゃん!!」

ユイは感心してゲンドウに抱きつく

 「も 問題ない。」

顔を赤くするゲンドウ

 「で あんたは、何をプレゼントするの?」

ユイは再度問う

 「ああ ユイも共同にしたんだからよいか、これだ。」

ゲンドウは、メモをユイと冬月に差し出した。

 「「こ こ これは、」」

驚きに歪む二人の顔 ユイは呆れたようにため息を漏らす。

 「あんたねぇ・・・・まあ いいわ。キョウコのは、あたしが持っていくわね。」

 「いや それは・・・・大丈夫か?私が持っていこうと思ったんだが!」

 「だからん〜 二人で行きましょう いいわねぇ。」

ユイは、甘えたように鼻を鳴らし腕をゲンドウの首に絡める。

 「も 問題ない!!」

茹で蛸のようなゲンドウが居た。

 

 ネルフ医局 

 「なんですって 今日はキョウコさんも誕生日ーーーー!!!」

ナツキの一言で、病室というのに大声を上げるミサト

 「は はい。今日は、キョウコお姉さんとリツコ先生の誕生日だから 二人にプレゼントを用意していたんですよ。」

ミサトの声に怖じながら ナツキは、枕元の2つの包みを指さす。

 『まずい まずい まずい』

ミサトは、心の中でまずいを連発していた。知らなかったとはいえ 飾り付けなんかを頼みプレゼントも買うように

言ったように思う。今思えば キョウコの態度に引っかかる物があった。

 「あのー ナツキちゃん 一人で行けるかな?」

ミサトは、躊躇いがちにナツキに申し出た。いくら厚顔無恥のミサトでもキョウコの前には行きにくいらしい。

 「はあ?そりゃ ジオフロントまでは人も多いし 電動車椅子だから大丈夫ですけど・・・・?どうしたんですか。」

 「え・・・実わぁ・」

ミサトは、ナツキに正直にキョウコに対する仕打ちを話した。

 「・・・・・まあ、なんとかは蛇に怖じずって言うけど 知らないって事は・・・。」

ナツキは絶句する

 「そう 言われると身も蓋もないんだけど・・・・」

ミサトは畏まる

 「まあ いいでしょう。知らなかったんだったら 正直に謝ればキョウコお姉さん何にも言わないと思うよ。」

 「たぶんね それだから 尚さら 恐縮するんだけど・・・。」

ミサトは、申し訳なさそうに頭を掻く

 「でも 謝らなくてはいけないんじゃない・・・・私も 付いていってあげるから。」

 「悪いわね。頼むわん。」

遂に小学生に頼るミサトであった。

 

 ジオフロント パーティ会場

 「キョウコさん やめてください。」

テーブルの花を飾っていたキョウコの所にマヤがすっ飛んできた。

 「もう少しで終わりますよ!伊吹さん。」

キョウコは手を休めようとしない

 「でも でも キョウコさん あなたも今日が誕生日なんでしょう?」

マヤは、ユイから聞いた事実を確かめた。

 「あれ わかっちゃったんですか?ユイからですか?」

キョウコは作業の手を止めマヤの方に顔を向ける

 「ええ でも なぜ自分も今日が誕生日と言わなかったんですか?言っていれば 葛城三佐もこんな事は

 させなかったと思います。」

マヤは、キョウコの意を計りかねる

 「なんかね、言いそびれちゃって、それに リツコさんの誕生日を祝いたい気持ちはありますよ。ほら プレゼントも

 買っていますし・・・。」

キョウコは、傍らの包みを指さす

 「そんなぁ。」

マヤは、居た堪れ無くなりキョウコに駆け寄り、きつく抱きしめた。まあ キョウコは身長が180センチ近くもあるため

マヤがキョウコに抱きついた形であるが・・・。マヤはキョウコの事を可愛いい後輩のように錯覚していた。実際はキョウコが

上司の立場にあり年齢もマヤよりかなり年上である。しかし若々しい外見の為、マヤから見てキョウコが

甲斐甲斐しく見えたのである・・・。

 「あの 伊吹さん 私はそっちの気はないんですが・・・。今 好きな男性もいますし・・・ね。」

キョウコは、マヤの行為に逃げ腰になる キョウコの言葉を聞きマヤは我に返り慌ててキョウコから離れる

 「いや あの キョウコさん 私も変な趣味はないんです。ただ なんかキョウコさんが可哀想で 自分も誕生日なのに

 先輩の誕生パーティの飾り付けを手伝ってプレゼントまで・・・・私、葛城三佐の無神経さが許せません。」

マヤは憤る

 「伊吹さん私の為に怒らないでください。葛城さんも知らなかったんですから悪気はないですよ。私はいいですから

 リツコさんのお祝いしましょうよ。」

キョウコはミサトを庇った、彼女が悪気があって事を実行する人間ではない事を十分承知していたからである。

キョウコは諦めたような笑いをマヤに向ける。

 「そんなぁ。ダメですよ。ちゃんとお祝いします。ユイさんもわかっていたみたいだし、私も先輩だけじゃなくキョウコさんも

 お祝いしたいです。」

 「ありがとう マヤさん その言葉で十分私は嬉しいです。」

キョウコはエンジェルスマイルを浮かべる

 『なんか キョウコさんも素敵だな、たしか好きな男の人がいるって聞いたけど』

マヤは、キョウコの右隣に立つべき男を予想してみた。

 『司令はユイさんが居るし、冬月副司令は歳が離れているし・・・青葉さん、日向君 うーん ひょっとして加持さん?』

マヤは身近な男性を思い浮かべるキョウコはエヴァから帰ってあまり時が経っていない、となればネルフ内の男性が

対象であろうと仮定していた。シンジやトウジは、はなから除外である まさか娘アスカの同級生が恋愛対象になるとは

考えていなかった。リツコの言”男と女はロジックじゃない”を無視した考えであるが・・・。

 「どうしたんですか?伊吹さん?」

キョウコは、突然黙りを決め込んだマヤを心配して声をかけた。

 「な なんでもないですう。」

マヤは、自分の考えを見透かされそうで、それを誤魔化すべく慌てて手のひらを振った。

 「そうですか?じゃ急ぎましょうか!」

キョウコは作業を再開した。

 「あ キョウコさんだから それはいいですぅ。」

マヤは、再びキョウコを押し止めようとした。

 「でも それじゃ準備が終わらないでしょ。リツコさんをお祝いしなくては、私はユイや伊吹さんに祝って頂けるだけで

 十分です。さあ 急ぎましょう。」

キョウコのもっともな意見にマヤは従うしかなかった

 『それにしても 葛城三佐 あとで先輩と一緒にとっちめなくては・・・。』

マヤはこのことをリツコに話したら、彼女がミサトを糾弾するであろうと確信していた。

 

ネルフ玄関ゲート

 「さあ ついたぞ。」

ワゴン車の運転席で青葉は後部座席を振り返る

 「「「「ありがとう ございます。」」」」

シンジ、トウジ、ケンスケ、ヒカリは青葉に礼を言う

 「いや 礼を言うのはオレの方さ。しかし 参ったよ、キョウコさんも今日が誕生日なんて・・・まあ おかげで

 キョウコさんにも花束を買う事が出来た。日向君やマヤちゃんにも伝えたから、マヤちゃんはユイさん経由で

 知っていたみたいだった。まあ 俺たちオペレーター三人組で組んでのプレゼントだが・・・」

青葉は、ほっとしたようにため息を漏らす。彼としても新しい上司であるユイとキョウコが嫌いでない

むしろ尊敬さえしている。

 「いえ 僕らもびっくりしましたよ。アスカからの手紙がなかったら知らなかったんですから・・・。しかし、父さんが

 ちゃんとケーキを2つ頼んでいたとは思わなかったな。」

シンジは、カーゴルームの料理とケーキを荷物を運ぶためのカートに載せながら意外そうに青葉に語る。

 『葛城三佐 本当に使徒戦の戦術面以外は役立たずだな』

青葉は、素直な感想を持ちながら カートに料理をのせジオフロントに向かうシンジ達を見守った。

 

 ジオフロント パーティ会場

 大きなテーブルに、ケーキが二つと料理が並べられ サイドテーブルには各種の飲み物が置かれている

 「しかし 私とキョウコさんの誕生日が同じとは知りませんでしたわ。光栄です。」

リツコは顔を紅潮させてキョウコに語りかける

 「私もですわ。リツコさん それで私たち気が合うんですね。」

キョウコも、嬉しそうに頷く

 「キョウコ君赤木君 おめでとう さて司令部からのプレゼントだが まずは赤木君にはこれだ。」

冬月が二人に近寄り封筒を手渡す 開いたリツコが見た物は第3新東京市のジオフロント近くにある

屋敷の目録だった

 「これは・・・。」

それは、猫屋敷と呼ばれている場所 その場所を所有していたのは高齢の女性であるが

近隣に鳴り響いた猫好きで何匹もの猫を飼っておりの猫のブリーディング雑誌に何度か紹介された家である

 「どうして・・・?」

 「いや この所有者が最近他界されたのだ。で そこの屋敷が猫共々処分される事となった。勿論猫は殺されるか

 捨てられるかだった。それを差し止め猫ごと買い取った男がいる。それで そこ男は君に管理を頼みたいそうだ。

 もちろん、猫の事に詳しいハウスキーパーとも契約してある。どうだ赤木君。」

冬月はリツコの表情を伺う

 「そう あの人が・・・・喜んで頂きますわ。」

リツコの答えを聞いた冬月はその頬に笑みを浮かべ次にキョウコに向き直る

 「キョウコ君にはあれだ。」

冬月は、ジオフロントの彼方を指さす 聞こえてくる爆音 現れたのはヨタヨタと飛ぶ戦闘ヘリ

後部ローターを持たず フラットブラックにペイントされたそれは 右左に千鳥足を踏むように近づいてくる

そして荒々しく近くの平坦地に着陸する。

 「凄い 凄すぎるー。実物は初めて見たよー。」

ケンスケが感涙にむせぶ 着陸したヘリの風防が開けられパイロットスーツ、ヘルメットの乗組員が降りてくる

近づいてきた彼等がヘルメットを取るとゲンドウとユイである事がわかった。

 「もう ユイ頼むから君が操縦するのは止めてくれ 墜落しそうだったじゃないか。」

ゲンドウの声が恐怖で震えてる

 「おかしいなぁ?前やった時には上手くいったのに?」

ユイはあごに手を当て首を捻る

 「いつだ 何処でだ。」

 「学生時代にゲームセンターで・・・。」

 「・・・・・。」

ゲンドウは絶句した。それでも気を取り直し

 「いや。私はキョウコ君が操縦できるからユイも出来ると思ったんだが・・・」

 「へへへ、キョウコは学生時代に京都であたしが武道に狂っているとき、いろいろ資格を取ったんだよ。車とヘリと船の免許でしょ

 潜水士に調理師、気象予報士、危険物爆発物毒物取り扱い、溶接とか電気工事それと教員免許なんかをね。」

 「君は、どうした?」

 「ははは、あたしは、セイちゃん達と殴り合いや斬り合いよ。あたしが、京都大学時代に得たのはE計画の基礎くらいね。」

 「それで よくヘリを操縦しようなんて思ったな・・・もういい也。」

ゲンドウは前世紀後半のアニメに登場したコロ助というロボットの口まねをした後、咳払いをしてキョウコの所に歩み寄る

 「キョウコ君 あのヘリが君への司令部からのプレゼントだ。まあ物が物だけに君の所有物と言うわけにはいかんのだが

 これからしばらくは、いろいろ近隣を飛び回って貰う事になるから足代わりに使ってくれたまえ。」

ゲンドウは、ヘリを指し示し

 「くれぐれもユイには操縦させないように」

と小声で付け加えた。しかし、地獄耳のユイには聞こえていたようだ

 「うるさいわね わかっているわよ。さて 相田君 何か言いたげだから このヘリについて説明させてあげるわ手短にね。」

ユイはゲンドウを一睨みしてケンスケに微笑みかけた。ケンスケは心得たとばかりに説明を始めた

 「このヘリはカモフka−52アリゲーターという名で、ロシアはカモフ設計局で作られた物です。同局伝統の2重反転ローターを

 採用しており特徴として並列複座となっています。ka−50ブラックシャークの発展・・・・・。」

ヲタクケンスケの説明が続く ユイは自分で振った手前しばらく聞いていたが場の雰囲気がしらけてきた事を察し

 「そ そこまで、今日は主賓がキョウコとリッちゃんだからそこまでね。」

パンパンと手を叩いてケンスケの演説を止めた。

 「ちえっ」

知識をひけらかすのを止められたケンスケは不満を漏らすもキョウコとリツコの誕生パーティという事でおとなしく引き下がる

 「これは私たち発令所のオペレーターからです。」

キョウコとリツコに花束がマヤから渡される。そして 加持が買ってきた包みを二人に渡す。

 シンジとレイも、それぞれキョウコとリツコの前に立ちプレゼントを差し出す。

 「これ 僕らともう一つはアスカからです。」

シンジは、キョウコにレイが買ったオルゴールとアスカからの包みを持たせた。

 「あら シンちゃん 私の誕生日をわかっていたのね?」

 「あはは 当然です。アスカから聞いて知っていましたよ。」

シンジは、キョウコからの問いかけに いつ知った と言う事は付け加えず答える。

 「そうですか。あ トウジさんもありがとうございます。」

キョウコは、シンジの隣に立っていたトウジにも頭を下げた。

しかし このときトウジは腕を組み難しい顔をしていた、キョウコはトウジのただならぬ雰囲気を感じ取る

 「どうしたんですか?トウジさん。」

問い返すキョウコに戸惑いの色が浮かぶ

 「ワシは、寂しいんや キョウコさん!」

 「はい!?」

 「シンジは黙っとったけど、ワシらが今日がキョウコさんの誕生日であった事をしったんは、ついさっきや

 アスカからの手紙で初めて知ったんや。」

 「そ そうなんですか?」

キョウコは新たな事実に目を大きく見開いた。

 「まあ 知っとったんはアスカとシンジの父ちゃん達だけ見たやけど・・・。なんでキョウコさん ワシらに言うてくれなんだんや?」

 「それは・・・つい言いそびれて・・・・。」

キョウコは罰が悪そうにトウジから視線をそらせ顔を伏せがちにする

 「言いそびれてやない。キョウコさんのことやから、みんなが楽しそうにしとるから水を差してはと思うたんやろうけど

 後で、そのことをみんなが知ったらどう思う、ワシだけやないみんなキョウコさんが好きなんや。そのキョウコさんが

 辛い想いしたと知ったら・・・。」

 「私は、別に辛くは・・・。」

キョウコは、トウジの言葉を否定する

 「辛うなかったんか、ほんとに寂しうなかったんか、キョウコさん!」

トウジは、正面からキョウコの顔を見据える

 「・・・・そりゃ・・・・・少し寂しかったです。」

キョウコは、少し口ごもったが視線を戻しトウジのそれと合わせた。

 「もう 無理せんといてください。言いたい事 して貰いたい事があったら 遠慮のうワシに言うてください。

 ワシ子供やさかい。どれだけキョウコさんのお役に立てるかわからんけど、出来るだけの事はしますけん。

 それとワシに敬語はつかわんでください。もう他人行儀はやめましょうや。」

トウジは、そういって拳を握りしめた。そのトウジの姿を見てキョウコはしばし考え口を開く

 「トウジさん・・・・わかりました。今度からはトウジさんに伝えたい事、して欲しい事は、はっきり言います。・・・・私決めました。」

 「何をですか?」

 「あなたは、やっぱり私にとって”輝く希望の星”です。私、トウジさんに好いて貰えるように努力します。

 あなたに対する態度も変えます。いいですね。」

 「はあ 努力なんかせんでも ワシ、キョウコさんの事大好きでっせ!」

間の抜けた返事をするトウジ 

 『あんにゃろう 堂々と言ってくれるじゃない』

ヒカリがキョウコの事を苦々しく見つめる そのヒカリに気づいたキョウコは彼女に対して宣戦布告する。

 「洞木さん!ということです。私、負けませんわ!」

ヒカリも怯まずに堂々と返答する

 「わ 私だって・・・・勝負はフェアに行きましょう!」

 「望むところです!!」

キョウコは頷いた。このやりとりをユイはにやにやと口元に笑みをたたえながら傍観していた

 『あれあれ キョウコ 今回の事で遂に本気モードになったわね。いままではトンちゃんがアスカちゃんの同級生って

 事で歳の差を考えて遠慮していたみたいだけど。』

ユイは、キョウコがトウジの事を気にかけている事は承知していたが、今まではトウジに対しアスカへの感情と同質の

母性を持っているのか、それともトウジに異性を求めているの判断しかねていた。おそらくキョウコ自身もそうであろうと

思っていたが、今日の事でそれが一定の方向性を持った事を感じていた。

 『まあ 踏ん切り着けるにはいい時期かもね。そう言う意味じゃミーちゃんに感謝すべきか!』

ユイは、このとき視界の隅に物陰でナツキと共に居るミサトを認めた。

 「ミーちゃん そんなところに居ないでこっちに来なさいよ。」

ユイは、こちらに来にくそうにしており、傍らのナツキに励まされているミサトに声をかける

ユイの呼びかけに、身体をびくりとさせミサトはそろそろと近づいて来た。

 「ミーちゃん あんた キョウコに言いたい事あるんじゃなかった。」

ユイは、キョウコの所に行く事をミサトに勧めた それを受けたミサトは怖ず怖ずとキョウコの前に進み出る

 「あの キョウコさん 済みませんでした。私は知らなかったんです。ごめんなさい。」

ミサトは、深々と頭を下げる

 「いいんですよ、おかげで私も気持ちの整理がつきました。感謝さえしてますよ。」

 「え そうなんですか。あーよかった あっ キョウコさん誕生日おめでとうございます。」

ミサトは、何故かわからない内に事態が好転している事を素直に喜んだ。

 「ありがとうございます 葛城さん では ケーキの蝋燭をお願いできますか?」

 「了解!!」

ミサトは、軽く返事をしてケーキに蝋燭を立てらすべくテーブルに向かう

 「えーっと リツコは30本ね!キョウコさんは・・・・」

 「19本ですよ。葛城さん。」

キョウコはしれっとしてミサトに本数を伝える。

 「え?!」

ミサトは言葉に詰まる

 「19本です。わかりますか か つ ら ぎ さ ん

 「あ はい!」

キョウコの迫力に押されミサトは言われた通り蝋燭をその数だけ並べた。

蝋燭に灯がともり キョウコとリツコがそれを一息で消す

 誕生日 おめでとう キョウコ(さん) リツコ(さん)

みんなが二人の誕生を祝い 場が和む。

 それぞれが料理や飲み物をつまみ出す。

そんな中トウジは食べ物を頬張りながら隣のシンジに問いかけた。

 「なあ シンジ ちょっとええか?」

 「なんだよ トウジ?」

シンジは、親友の問いかけに答えるべく飲み物をテーブルに置きトウジに向き直った。

 「あのな さっき キョウコさんが委員長に勝負するみたいな事を言うとったけど、なんの勝負や?」

 「・・・・トウジ・・・・。」『さっきのやりとり聞いてて分からないの、僕でもわかったのに』

シンジをとてつもない脱力感が襲う

トウジの言葉に場が水を打ったように静まる

 「あれ ワシ なんか変な事言うたかいな、なあ シンジ?」

がっくりするキョウコとヒカリ・・・・彼女らのトウジ獲得の道は険しい。


 「誰がための補完」のサイドストーリーです。

 キョウコとリツコって設定では誕生日が同じだったんですね。(もちろん声を当てている川村さんと山口さんが同じだからですが)

で こんな話を思いついてみました。


アスカ:ママとリツコの誕生日って、一緒だったのね。

マナ:アスカのお母さんの方が、なぜか一回り程、年下になってるけど。

アスカ:ま、誕生日おめでとうって感じね。ってことは、もうすぐアタシの誕生日?

マナ:そうなるわね。お母さんをちゃんとお祝いしなくちゃ、自分の誕生日に響くわね。

アスカ:それも・・・困りものねぇ。

マナ:とにかく、みんなが幸せになれて良かったわ。

アスカ:あの鈴原が相手じゃ、みんな幸せってわけでもないかも。

マナ:碇くんの上をいくなんて、相当なもんだわ。

アスカ:がんばれぇぇぇ。

マナ:どっちを応援してるの?

アスカ:それは・・・ど、どっちも。(汗)
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