想いは永久に…

第二話:黄昏色の情景

by.夢幻の戦士
『緊急警報、緊急警報発令中!』

アナウンスが慌ただしく、僕の耳の中を駆けめぐる。

『本日12時30分、東海地方全域に緊急避難命令が出されました。
付近の方々は、速やかに近くのシェルターに避難して下さい。繰り返します…』

あの日、僕が初めて第3新東京市にやって来た日だ。

僕は帰ってきたんだ……

上空を行き交う戦闘機には目もくれず、感傷に浸るシンジ。

その向こうでは、戦闘機が‘使徒’によって次々に落とされてゆく。

それを見たシンジの胸に、あの日の後景が鮮明にフラッシュ・バックされる。

(今度こそ、守り抜いてみせる!!)






「くそっ!・何故我々の兵器が効かぬのだ!?」

胸に派手な勲章を付けた軍人が、口から泡を吹かして怒鳴る。

その横で白髪の老人が、やれやれと言った感じでため息をつく。

「だが我々にはまだ切り札が残されている!」

「そうだ、あれが残っている」

「うんうん」

(所詮、何をやっても無駄さ。それにしても遅い。碇の息子、シンジ君が此処へ着いても良い時刻のハズだ。時間に煩い彼女が時間を間違えるハズは無いのだが‥)

彼は俯きながらそんな事を考えていた。






(早く来ないかなー、ミサトさん)

シンジの頭の中は、それだけで一杯だった。

近くで行われている戦闘のことなど、全く気にしていないようだ。

そこへ、赤い車が彗星のように、颯爽と現れ停止した。

(あれ?・変だな〜、ミサトさんの車は青いハズなのに。
それにこれはどう見ても、フェラーリだよね)

混乱しているシンジの前に、彼女は叫んだ。

「早く乗りなさい! 死にたいの!?」

シンジは慌ててフェラーリに乗り込んだ。

急発進した車のGに押し殺されそうになりながら、シンジは横目で運転席の女性を見た。


くっきりした顔形
        
         流れるように美しい赤い髪

                     吸い込まれるようなブルー・アイ


それはまさしく、シンジの大切な人の一人である、アスカその人であった。

幾分スピードを落として、初めてアスカは口を開いた。

「自己紹介がまだだったわね。私の名前は、惣流 アスカ・ラングレー。
アスカって呼んでもらっても構わないわ」

「あ、は、初めまして。アスカさん」

彼の頭はパニック状態だった。

そこから、あるだけの気力を振り絞って言葉にした。

シンジにしてみれば久しぶりだが、アスカにとっては初めてなのだから。

「そんなに緊張しなくて良いのよ、もっと肩の力を抜く!
貴方が碇 シンジ君ね。資料通りだわ。時間に正確って言うのは、良い心懸けよ」

「あ、ありがとうございます」

「…ところでシンジ君、ジェットコースターは好きかな?」

「え?」

突然の質問にどう答えて良いか解らず、取り敢えず「好き」だと答えた。

「今から戦自(戦略自衛隊)が、N2地雷を使うみたいだから揺れるわよ…」

怖いことを平然と言ってのけるアスカ。

不安そうな眼差しを向けるシンジに、アスカは胸を張って言った。

「大丈夫よ。だてにネルフ開発部ご自慢、『万能カー・エクセル』を借りてきてないわよ♪ 〈ミリル〉、爆雷ポイントと照らし合わせて、もっとも被害の少ない通路は何処?」

〈ハイ・アスカ。このまま直進して、3キロ先を右の国道です〉

呆気にとられているシンジに、アスカが簡単な説明をする。

「この車には、人工知能『エクセル』が搭載されているの。通称〈ミリル〉。
『彼女』が出された質問に的確なアドバイスと簡単な自動操縦くらいはやってくれるの。まぁ、この子を作ったのは私なんだけどね」

凄いの一言につきた。

シンジの居た世界とは明らかに違う世界。シンジの頭はフリーズしていた。

「さぁ、いっくわよーー!!!」

アクセル全開で走り抜けるアスカと『エクセル』。

恐ろしいスピードと、誰かの絶叫と共に、その場が白く歪む。

N2が投下されたから。






「やったぞ」

発令所では軍人が両手を上げて狂喜乱舞していた。

「見たか我らの底力を!」

「おい、画像はまだか!?」

『電波障害が起こっております。画像はまだ回復できません』

正確なオペレーターの声に、醜悪な笑い声が木霊した

「あの爆発だ、ケリはついているさ」

「そうだとも」

『画像回復します』

『爆心地に高エネルギー反応』

スクリーンに映し出せれたのは、溶けかかっている使徒の姿だった。

さしもの使徒も、N2爆雷の熱は防げなかったようで、溶けてはいるようだが生きている。

それでも戦自のお偉いさんには堪えただろう、何せ切り札さえも効果無いのだから。

「…街一つ犠牲にしたのだぞ」

「我らの切り札が…」

「バケモノめ!!」

毒づく男達の下へ、一本の電話が。

「はい、はい、解りました。……では、失礼します」

受話器を置き、振り返る。そして。

「本時刻をもって、今作戦の全指揮権を君らに預ける……期待しているよ」

「その為にネルフはあるのですよ」

冬月が皮肉を込めて答える。その目には、明らかな自信がありありと伺えた。

退出する軍人達を後目に、冬月は呟いた。

「それにしても自己再生機能まで持っているとは……
しかし、そうでなければ単独兵器として役にはたたなんか」

スクリーンに映し出された使徒は、溶けかかった肉体をもの凄い速度で再生させている。

(早く来てくれ、シンジ君。今我らに残っている希望は、君しか居ないのだから。
それにしても碇め、これは司令のする仕事だぞ)





それから20分後。

シンジ達はネルフに到着した。

車のボディは、多少焦げ付いてはいたが大きな破損は無いようであった。

(し、死ぬかと思った)

車の中に居るシンジの呼吸は荒かった。

それもそうだろう。

あの爆発の中、神懸かり的なドライビング・テクニックで、降り注ぐ落下物の雨を
回避して此処まで来たのだから。

(アスカ…変わってない)

少年はある種の絶望に似た感覚を覚えた。

「そうだ。着く前にこれ、読んどきなさいね」

そう言われて渡されたのは、分厚いファイルだった。

シンジの過去のようには薄くなかった。

「そこにはこの施設の全容が書かれてるから、しっかり目通しておきなさいね。
それから、ID、持ってるでしょ」

「これですか?」

そう言うと、一枚のカードをアスカに見せた。

「そうそう。ん、その手紙見せて」

シンジの確認をとらずに、勝手に手紙を見るアスカ。

暫くして

「ねぇ、これ何て書いてあるの?」

その内容は、達筆な草書で書かれていた。

「読めませんか?」

「読める訳ないでしょ!」

「『碇 シンジ殿。貴殿に第三新東京市までお越し願い候。
至急来られたし。内容は後日に。
碇 ゲンドウ』

と、書いてあるんです」

これが親が子に対して書く手紙だろうか。

アスカが唸りたくなる気持ちも解る。





「こっちよ」

アスカに連れられ、本部内を行くシンジ。

端から見れば、姉弟のようにも見えなくもない。

(確か此処で、エレベーターからリツコさんが出てくるはず…)

しかし此処でも、少年の期待(?)は裏切られることになる。

エレベーターのから出てきたのは……。

「時間通りねアスカ」

「当たり前でしょ。紹介するわシンジ君、彼女は」

アスカの声を、青い髪の女性が制した。

「私は、ネルフ技術部主任の綾波 レイ。レイと呼んでもらっても構わないわ」

「初めまして、レイさん」

シンジの笑顔に赤くなって顔を背ける二人。

(ちょっと、何で私が赤くならなきゃいけないのよ!?)

(可愛い! 可愛すぎる!! 此は即、ファンクラブ設立ね!)

アスカは良いとして、レイは…‥いや、言わないでおきましょう。

「あ、あの〜、もしもし?」

シンジの一言で我に返る二人。

「あ、え〜〜っと、取り敢えず着いてきて。見せたい物があるの」

足早に歩き出すレイ。

その顔はまだ赤かった。




「ここよ」

ライトアップされた目の前には、巨大な顔が浮かび上がる。

(エヴァ初号機‥‥)

「凡庸人型決戦兵器 エヴァンゲリオン初号機……貴方のお父様の仕事よ」

複雑な想いで見つめる先に、シンジは何を見ているのだろうか?

悪夢の過去か、希望の未来か。

「良く来たな、シンジ」

(父さん!?)

後ろを振り向くが、そこには誰もいなかった。

(居ない?! じゃあ何処に?)

「此処だ此処だ」

それはエヴァから聞こえてきた。まさか…?

シンジの胸に、言いしれぬ不安が去来する。

「此処だと言うに、解らんヤツだ」

エヴァの頭の上に、作業着姿の碇 ゲンドウが居た。

「久しぶりだな、シンジ。大きくなったな」

慈愛の表情のゲンドウ。

サングラスをかけていないためか、幾分若く見える。

突如訪れた沈黙を破ったのは、ゲンドウではなく、以外にもシンジだった。

「何のために呼び出したの?」

低く、それでいてしっかりした声をゲンドウに放った。

「すまないがシンジ、至急これに‥エヴァンゲリオンに乗って貰いたい」

「ちょっとまって下さい。訓練も無しにいきなり」

「仕方がないのよアスカ。今動けるパイロット候補は、シンジ君しか居ないから…」

申し訳なさそうに答えるレイ。

「どうして僕じゃなきゃいけないの…」

答えは解っているが、あえて聞く。

「他にパイロットは居ないの」

この質問は、両脇にいるアスカとレイがパイロットではないと解っているため、
代わりに誰がパイロットかを探るための物だった。

「居ることにはいるのだが…」

その時、ゲートの向こうから包帯だらけの少女が、傷を庇いながら歩ってきた。

「ちょっ、あんた何してるのよ!?」

慌てて止めに出るアスカ。

「行かせて下さい! みんなが危ないときに私だけ何もできないなんて」

「貴女の怪我は全治二ヶ月の大怪我なのよ!? そんな体じゃ犬死にするだけよ」

駆けつけたレイの説明も聞かず、それさえも振り解こうとする少女。

その姿は、鬼気迫る物があった。

「シンジ、乗ってくれるな…」

ゲンドウは、再度シンジに問いかけた。

「解ったよ。僕が…!」

視界の中に、アスカとレイの制止を振り切り、倒れそうになる少女の姿が写る。

それを見たシンジは、5メートルある距離を一瞬で飛び越え、彼女を抱き留めた。

「君、大丈夫?」

「は、はい…」

優しい眼差しを送るシンジの笑顔に、少女の顔は赤くなった。

「君…名前は?」

「き、霧島 マナです」

「マナ、君は此処で待っていてくれ。あの怪物は僕が倒すから!」

少年の力強い声に、安らぎに似た感情をマナは覚えたという。

「あ、あの、お名前は?」

「碇…碇 シンジ」

マナを遅れて到着した医療班に任せると、シンジは初号機に乗り込んだ。



『エントリープラグ注水』

『A12精神回線接続』

『双方向回線オープン』

『シンクロ率、23,35パーセント』

『ハーモニクス、全て正常位置。パイロットに精神異常ありません』

「大したものだわ。初めて乗ってこの数値。驚きだわ」

そう言いながら、レイの表情は変わっていない。

「一度しか言わないから良く聞きなさい!
発進後、取り敢えず距離をとりなさいね、そして相手の出方を待って反撃よ」

アスカの的確な作戦を聞きながら、シンジは、静かに目を閉じた。

「シンジ、初号機はクセは強いが操作性では一番扱いやすい。
だから存分にやってこい!」

ゲンドウの声が、エントリープラグに木霊する。

「指令、構いませんか?」

最終確認をする。

ゲンドウは何も言わずに頷いた。

「発進!!」

発射時のスピードから来るGを体全体で感じながら、シンジは静かに涙した。

(もう…あの頃には戻れない
 もうみんなには…あの頃のみんなには会えない)

黄昏色に染まる過去の情景が、シンジの心を涙で濡らす。

(……でも、護るべきは今! 変えるべきは未来!)

シンジは使徒と二度目の戦闘を開始した。





















〈後書きもどき〉

えーーっ

先ず初めに、私はLASでも、LMSでもありません。ですから、期待していた人には御免なさい。

それにアスカとレイに関してですが、これは普通の設定では満足できない作者のエゴでこうなりました。

簡単に言いますと、子供と大人の立場を入れ替えた感じです。

詰まるところ、子役が大人に・大人役が子供に、という具合です。

それに、アスカとレイの結末はハッピーエンドにします。

これはお約束ですから。


《次回予告》

戦う内に、シンクロ率が上がってゆく事に驚くネルフ。
だが、使徒が張るA・Tフィールドに不安の色を隠せない。そしては徐々に押されるシンジ。
そこでシンジが見せた『力』とは!?

次回:ゼロ・フィールド


尚、カミソリメール等はお断りします。
純粋な感想のみをお受けします。

ああ、ちなみにアスカさん。
私は虚数空間へ避難しますので、どの様に攻撃しようとしても無駄です。


マナ:ねぇ。ねぇ。なーんかとってもいい雰囲気っぽくない?

アスカ:なにがよ?

マナ:このまま、わたしとシンジが、とーっても仲良くなっちゃいそうじゃない?

アスカ:なわけないでしょ。

マナ:だってさ、どう見てもわたしの方がシンジとの距離近そうだしぃ。

アスカ:ちょこっと出て来ただけでしょっ! 何、勝手に浮かれてんのよっ。

マナ:アスカなんか、いなくてもいいって感じぃっ!

アスカ:どこ見てんのよっ! アタシの方が目立ってたでしょうがっ!(ーー#

マナ:夢幻の戦士さんっ! わたしとシンジをラブラブにしてねぇっ!(*^^*)

アスカ:殺されたいようねっ!

マナ:ざーんねんでしたぁ。わたしも虚数空間にいるから、アスカの手は届かないもーんっ!

アスカ(ーー#
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