想いは永久に…

第五話:苦戦

by.夢幻の戦士
シンジは今日もマナの病室を訪れていた。

今やそれが日課になっているほど。

「具合はどう?」

優しく問いかけるシンジに、答えるマナの顔が薄い朱色になる。

「うん、大丈夫。もうすぐ退院できるって先生も言ってたし・・・けど」

「けど、何?」

「退院したら、碇君に会えなくなる・・・・・」

暗くなるマナに、シンジは最高の笑顔を向ける。

「・・・いつでも、何処にいても、絶対に会いに行くよ」

「ほ、本当!?」

「うん、約束する。それに、毎日学校やネルフで会えるじゃないか。だから哀しい顔しなでさ、笑おうよ、ネッ!」

彼女はあまりの嬉しさに、シンジに飛び付く。

いきなりの事に後ろに倒れそうになるがそこを何とか踏み止まる。

楽しい一時は、実はここまでだった。








「太平洋上に未確認飛行物体発見!!」

この声に、眠っていた発令所が目を覚ました。

すぐさまアスカがチェックに入る。

「パターンは?」

「今スーパーコンピュータ《GIA》が解析中」

「目標、まっすぐ第三新東京市に向かって進行中!」

「あと、何分?」

「この速度だと・・・・・あと28分後です!」

すぐさまアスカは腕時計を見る。

(あと28分・・・午後二時ジャストか)

「パターン照合完了・・・・・パターン青! 使徒です!!」

全職員の目がゲンドウ一人に注がれる。

今日のゲンドウは、あの黒服だった。

「第一級戦闘配備。各員は持ち場に着け、エヴァ初号機パイロットに至急連絡。到着次第エヴァで迎撃。それまでに敵使徒の情報を可能な限り収集しておけ・・・」

『了解!』








その時ちょうど5時間目が終わるところだった。

警報が、静寂な空気を一瞬にして打ち砕く。

シンジの携帯にも連絡が入る。

「先生!」

「・・・解った」

冬月はシンジがチルドレンだと知っている。

すぐさまこの事態を把握し、シンジをネルフに向かわせた。

「生徒は全員、地下に設置されたシェルターに避難するんだ。決して急ぐな」

冬月は最後の生徒が教室を出たのを確認すると、急いでシェルターへと走った。







5分後。

シンジの姿は発令所にあった。

「アスカさん、使徒は?」

「あれよ」

モニターに映し出された使徒は、シンジが知っている使徒とは僅かに形状が違っていた。

流線型のフォルム、そしてそこから蛇のように突き出た長い首。

シンジが知っている使徒がエビとするならば、今回の使徒は亀に見て取れる。

呆然としているシンジに、アスカが状況を説明し始める。

「最終防衛ラインまであと少し。通常兵器はまったく効果無し。ミサイル等の大型兵器は使徒が張るATフィールドに阻まれて爆破、もしくは使徒が出す光のウィップで破壊、そして爆破・・・」

「前回の使徒が陸戦型なら、今回の使徒は高速機動型かしら・・・」

後ろで何やら計算していたレイが、突然話に参加する。

「高速機動型・・・?」

「ええ、そうよ」

レイが手元のキーを叩く。

画面が変わり、数十分前の映像が映し出された。

そこには使徒に攻撃する戦自の戦闘機が、高速で移動する使徒に破壊されてゆく様が克明に映し出されていた。

それも使徒は攻撃すらしていない。戦闘機が自爆していくかのような錯覚さえ引き起こしかねない。

「ソニックブーム・・・」

「ええ、その通りよ。音速を超えたときに発生する風、通称“ソニックブーム”。これが間近を通過するんだから、戦闘機が巻き込まれるのは当たり前だわ」

しかしそれは空中での話だ。

地上では非常にゆっくりした動きしかしていない。

接近戦に持ち込めば勝てる。

そんな公式が、何時しかシンジの頭の中に出来上がっていた。








「エントリープラグ注水」

「A10精神回線開接続」

「双方向回線オープン」

「シンクロ率、67%」

シンクロ率は以前と比べれば格段に落ちているものの、まだ高い数値にあった。

アスカが難しい顔をしている。

不安なのだ。何かと言われて言い返す自身のない、言い知れぬ不安。

そんな事をアスカが考えているとは露知らず、シンジは発進を急かす。

『アスカさん、出撃の許可を』

「・・・発進!」

射出されてゆくエヴァの映像が、スクリーンに映し出されている。

使徒は最初の位置から動いていない。動こうとさえしていない。

まるで何かを待っているかのように。




地上に出たエヴァは速攻で攻撃を仕掛ける。

初めから“ゼロ・フィールド”を纏って、使徒に渾身の一撃を入れた。

だが・・・

「何!?」

「そんな・・・!?」

使徒の装甲に左拳を入れた途端、エヴァの手が無惨な形に押し潰された。

シンジの口元が苦痛に歪む。

咽の奥から混み上がる痛みを何とか自制し、使徒を見据える。

光の鞭がエヴァを襲ったのは、それと全く同時だった。

目視出来ない程のスピードで鞭を振るう。

イヤ、それは鞭というより刃に近いだろう。エヴァの拘束具が、紙のように切り刻まれてゆく。

援護射撃を受けて何とか体勢を立て直したシンジ。

そして射出されたパレットガンで応戦するが、当たらない。

シンジの腕が悪いのではなく、使徒の動きが速過ぎるために。

さらに4本の鞭の内1本が、エヴァの脚に巻き付く。

エヴァの巨大な体が宙を舞う。

『うわああああああああああああああああああああーーーーーーー・・・・・』

為す術もないまま大地に叩き付けられた。








「レイ、これは一体どう云う事よ!?」

髪を振り乱してレイに返答を求めるアスカ。

「多分あれは超電導で移動しているのよ・・・」

「超電導・・・って、あのリニヤに使われてる、あの?」

「あの使徒は地球から出ている僅かな磁気を利用して移動している、だからあんな高速スピードを可能としているのよ。そして、エヴァの左手が砕けたのは只単に、使徒の装甲がエヴァの耐圧構造より高かったためよ(簡単に言えば、もの凄く硬い)」

冷静に今起きている現象を説明してゆくレイ。

今の彼女はただ冷徹な科学者にしか見えないだろう。

しかしそれは、そうでもしないと自分を保っていられなくなるから。

職業上、人の死というものをイヤでも見せつけられるのだから。それが自分に近しい者なら尚更だ。

だから心を押し殺す。

皆それを知っているから何も言わずにいる。

発令所全部の目がモニターに集中する。

すこしでも有利に戦闘を展開したい。だが望みのシンジの能力が通用しない。

それはシンジ本人が一番解っていることだろう。

ビーーー  ビーーー  ビーーー

「何!? この警報!」

発令所内に鳴り響く警報。

急いで原因を探るスタッフ達。

その原因を見つけたのは、オペレーターの鈴原 トウジだった。

「こらあかん!」

「どうしたってのよ!!」

「外にまだ人が!」

「「「「なにーーー!!?」」」」

モニターの隅に映し出された画像には、3人の少年達が居た。

シンジから見てその場所は死角となり、彼はその事に気付いていない。

『シンジ君!』

「何ですかアスカさん!?」

『落ち着いて聞いて。今君の後ろには、君と同じ中学の生徒が3人居るわ』

「なんですって!」

『だからそこをギギャギャーーー・・・・・・』

「アスカさん! ダメだ。通信回路を破壊された・・・」









「ケーブル切断!」

「体内電源に移行確認!」

「エヴァ、活動限界時間まであと4分!」

事態は最悪の方向へと動いている。

使徒にケーブルを切断されたことにより、活動範囲が限りなく狭くなった。

さらに外に人が居ることが解り、動くに動けない。

救助に行こうとも、危険すぎて行かれない。

絶望という天幕が、徐々に、そしてゆっくりと降ろされようとしていた。






使徒の苛烈を極める攻撃にあいながら、シンジはそこを動こうとはしなかった。

後ろにはこの前のように人が居る。防御に徹していては勝機はない。何とか反撃したい。

しかし時間は残り僅か。攻撃できたとしてもそれが最後の攻撃になるだろう。

(何か無いのか! 何か!)

必死に考えるが妙案が浮かばない。

残る手は・・・一つしかなかった。

(自爆・・・・・・・しかないのかな)

『こ〜の大馬鹿モン!! お主はそんな男じゃったのか!!!』

あまりの声の大きさに、シンジは思わず見回した。

自分以外誰もいるはずはない。

しかも声は鼓膜ではなく、頭に直接聞こえる。

(ロンさん?)

『後ろの坊主達は今、ヴォイスがシェルターに連れていった。これでお主も自由に戦えるのゥ』

(でももう打つ手が・・・)

『お前の背負っているものはその程度のモノか? これ迄、何のために修練を積んできたのか思い出せ』

何のために・・・

それは護るために

何を? 誰を?

この街を、世界を そして愛する人達を!

そう

自分が死んでしまったら元も子もない。それ以前に彩音と交わした約束を破ることになる。それだけはしたくない。約束を破るなんて、約束を果たせないなんて、もう二度としたくは無い。

シンジの瞳に、生気が戻る。

(今、手元にある武器はプログナイフだけ・・・でもナイフだけじゃ、アイツの装甲を貫けない)

『まだ有るじゃろう、とっておきのが』

(『念』ですか? でもそれだけじゃ、アイツに傷一つ付けることはできない)

『出来なかったら変える迄よ。それ相応の武器にの』

(変えるって、どうやって・・・)

『助言はここまでじゃ。
ああ、そうそう、言い忘れるとこじゃった。心奥流拳法 “流水の型” が、こういう場合に効力を発揮するじゃろうて』

(ちょ、ちょっと待って・・・!)

正直言って訳が分からない。

心奥流の型の一つに“流水の型”と呼ばれる基本の型がある。

敵からの攻撃を前腕部分で受け流し、近接戦闘に持ち込むというモノである。

だが、それが今、どの程度役立つというのか。

しかし迷っている暇は無い。

すでに内部電源は2分を切った。

考える。無理矢理落ち着かせて考える。

(・・・・・・・・そうか、そういう事なんだ・・・)

エヴァがプログナイフを取り出し構えた。

明らかに違った鋭い眼光と共に。








その変化は、発令所にも伝わっていた。

もう打てる手など無いはずなのに・・・・・・・

「どうする気かしら・・・あの子」

「決まってるじゃん! 勝つ気なのよ」

いつもは冷静なアスカを此処まで興奮させるのは、エヴァが、シンジが見せる鋭い攻撃的な眼光のためか。

その変化は、オペレーター達にも伝わった。

「高エネルギー体がナイフ周辺に収縮し始めています!」

それは肉眼でもハッキリ解った。

初めは球体だったそれが、いつしか長く、鋭く、しなやかに伸びていく。

それはまるで刀のように

「シンクロ率急上昇。もう測定できひん!」

「エヴァ! 動きます!」

「活動時間、1分を切りました!」







「おおおおおおおおおおおおおおーーーーッッッ!!!」

シンジは使徒に向かって突進した。

波のように押し寄せてくる鞭を、“清流の型”で捌いてゆく。

逃げようとする使徒。

その動きを、かわした鞭を踏みつけることにより防いだ。

あと、残り30秒

「はあああああああああッッ・・・」

ナイフをバットのように振りかぶる。

狙いはコアのみ

20秒

後ろから槍と化した鞭が、エヴァの背に突き刺さる。

しかしそれでも、今のシンジは止められない。

10秒

「斬り裂けエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!」

まるで自分に言い聞かせるように、ナイフを振り下ろす。

白い光刃が、使徒のコアをえぐる。

5・・・・・

4・・・・

3・・・

2・・

1・

エヴァの活動が停止すると共に、使徒の上半身が大地へ沈む。

「パターン青・・・消滅」

「使徒、沈黙確認!!」

割れんばかりの歓声を挙げる発令所。

アスカとレイは抱き合って喜ぶ。

ゲンドウと加藤も安堵の表情を隠せない。

勝利者であるシンジはというと、安らかな寝息をたていた。

大量のエネルギーを放出し続けたのだから無理もない。

エヴァに付いた傷跡が戦いの壮絶さを物語っている。それさえも忘れてしまうような寝顔に、職員達は魅入られた。

後日、この映像を編集し女性職員達に配り回った人物が居るのだが、それはまた別の話。

確保された生徒達はシンジと同じ中学に通う、加持リョウジ、日向マコト、青葉シゲル、である事が判明した。

彼らはその後、3時間に及ぶ御説教の上、学校の教師全員と両親にも大目玉を食らい、完全に精神汚染完了状態だったという。シンジとは隣のクラスのため面識が無く、ただ単純な好奇心から外に出たという事だった。








「ホッホッホ、良うやったわい」

兵装ビルの屋上に、ロンとヴォイスの姿があった。

「ご機嫌だな、爺さん。で、あいつの評価は?」

親しげな口調だが、そこには尊敬と畏敬の念が込められているようにも聞こえる。

「ふ〜む。
動きは荒いが基本はしっかり押さえているようじゃの。
100点万点中・・・50点というところか。銀月、お前さんはどう見る」

「動き自体はそう悪くない。筋も良いし、センスも良い・・・が、刀剣の扱いがまるで解ってない。これが解ってないと、近い内にあいつは死ぬぞ。確実に」

ヴォイスの目が、それが冗談では無いと教えている。

しかし次の瞬間には、真面目な表情を一気に崩した。

「これなら俺でも役立てそうだな、来たかいがあるってもんさ! そろそろ次の段階にレベルアップしても良いかもしれねぇな」

「次の敵が来るまで、そう時間がない。教えられる事は少ないが、出来る限りのことはしよう」

そう言う彼らの顔は、非常に穏やかなものだった。



















































後書きもどき

使徒の設定も勝手に変えてしまいました。

姿形を変えるのは、これが最初で最後にします(リクエストかなんなりあったら、またやるかも)。

次からは本編の形態の使徒を、そのままパワーアップ アンド オリジナル設定で出します。




次回予告

使徒戦で意外な苦戦をしたシンジ。

そこから始まる地獄のような猛特訓

そのような特訓が1週間続いたある日、シンジはアスカを公園へと連れ出した。

己が犯した罪を言うが為に


次回 強さと弱さ


アスカさん、次回は貴女がヒロインです。ラブラブには出来ないでしょうけれど


マナ:まさか、こんなにシンジが苦戦するなんて・・。

アスカ:でも、最後は見事な勝利だったじゃない。

マナ:清流の型かぁ。これで、防御も完璧ねっ。

アスカ:確かに、今回の敵には有効だけどねぇ。

マナ:どうしたの?

アスカ:ラミエルには通じないかもしれないわよ。

マナ:大丈夫だって。わたしも退院できたし。

アスカ:アンタ、なんか役に立つわけぇ?

マナ:わたしとシンジの愛の力で、使徒を粉砕よっ!

アスカ:そんな愛の力っ! 絶対ないっ!

マナ:あるわよっ! 綾波さんばりの、わたしの笑顔、見せてあげるわねっ!

アスカ:気持ち悪いから、そんなシーンが無いことを祈るわ・・・。

マナ:なんですってーーーっ!(ーー#
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