想いは永久に…

第七話:激震! 第三新東京市

by.夢幻の戦士

その日、学校ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

マナが笑顔を取り戻したという事も大きかったが、それ以上に転校生である碇 シンジと並んで歩いていた(今朝判明)、という衝撃的事実の方が断然大きかった。。

その後景は端から見ていても微笑ましいものだったが、「イヤーーーー、私の碇君が・・・!」とか、「うおおーー。霧島さん、何で俺じゃなくてそいつを・・・」などと言っている輩も多かった。



当事者でもあるマナは、そんなことを気にする風もなく、久しぶりにシンジと一緒に居られる喜びに笑顔を見せていた。

若いとは好いことですネェ。

あ、それともう一つ話題が。

2−Bの3バカトリオと呼ばれる、加持・日向・青葉の3人が、シンジの前にやってくる成り、いきなり土下座して謝り始めたから有らぬ噂のオンパレード。

何せ加持達が

「俺達がお前にしたことは、一生かかっても許されないことかも知れないけど、どうか許してくれ」

などと言うものだから、「もしかして・・・」という風な誤解が生まれてしまった。

それを払拭するためにシンジは、自分がエヴァのパイロットであること、あの日の出来事などを話さなければ為らなくなったという。

その日一日、シンジは質問責めに苦しみ、一年下の伊吹 マヤからは弟を助けたという理由で抱き付かれ、マナが、夫の浮気を信じられない妻の様に泣きながら、シンジに問いつめたという。

ある意味、シンジにとっては厄日だった。








下校途中、シンジはさり気なくマナに話しかける。

「霧島さん」

「なぁに? 碇君」

突然の事なのに、マナは解っていたかのように笑ってみせる。

さっきまでの騒ぎは何処へやら、その笑顔はまるで天空に舞う天使のように輝いていた。

「(うっ、かっ可愛い)あ、あのさ、霧島さんの家に行きたいんだけど・・・」

「え、わっ私の家に、ですか!?」

今度はマナが驚いた。

まさかいきなり自分の家に行きたいと言われれば、誰だって驚く。

マナが押し黙ってしまったのを見て、シンジは初めて自分が大胆なことを聞いたことに気付いた。

「あ、ごめん」

「・・・・・・いいよ」

「え」

「着いてきて、私の家こっちだから」

自分の後ろにいるシンジから、まるで逃げるかのように走り出すマナ。

突如として走り出したマナを必死で追い掛けるシンジ。

何故走り出したか解らないシンジ。マナの横顔を見れば即理解しただろう。彼女が首まで紅潮させていたことに。






「ここが・・・私の家」

コンフォート17マンション、最近出来た真新しいマンション。

二人は今、マナの部屋の扉の前に居た。

「ちょっと待っててね、いま部屋の中片づけてくるから」

マナが扉の向こうに消えてから数分、扉が小さな音と共に開かれた。

「どうぞ・・・」

部屋の中に通されたシンジ。

そこは、年頃の少女が住むにはシンプルすぎた。

かつてのレイの様に酷くはないが、彼女には似合わない。

「霧島さん、一人暮らしなの?」

シンジの問いに、マナは僅かに俯いたまま答える。

「うん。私、家族居ないから・・・」

「・・・寂しく、ない?」

「もう・・・・・慣れた」

語尾が僅かに震えている。

そんな事さえ忘れ去ったかのような発言を、シンジはマナに言った。

「ねぇ、霧島さん。その・・・僕の所に来ない?」

「!!」
                                       
「いや、その・・・やましい事なんかじゃなくて、一人で居るよりかは大勢で居た方が楽しいしさ」

「・・・・・・・」

「君さえ良ければ・・・ん?」

ここまで言ったところで、シンジはあることに気付いた。

マナの目の焦点が合っていない。うつろな瞳が宙を彷徨っている。

(シンジ君とふたりっきり・・・二人っきり・・・・・・同棲・・・これは愛の告白)

霧島 マナ、フリーズ。

あまりの嬉しさに、どうやら頭がオーバーヒートを起こしたようですね。これは

無論シンジは善意で申し出たはずなのに、マナはそう思っていない様子。

シンジが何度も現実に引き戻そうとするが、効果は無い。

「霧島さ〜ん、戻ってきて〜〜」

マナが現実に戻ったのは、それから1時間後のこと。











3日後

「これより、零号機再起動実験を開始します」

ネルフ本部では零号機の起動実験が行われていた。技術部と整備班、総出による大修復のお陰で、本来なら半年以上先になるはずだった起動実験が、僅か1ヶ月で行えるようになった。

そのせいか、レイの瞼が重くなっているのは仕方がないが、せめて今日ぐらいシャキッとして欲しいと思うのは加藤だけではないようだ。

「マナ、調子は?」

『いつでもどうぞ』

「スタート!」

掛け声と共に、機械類が音を立てて起動する。

各所から確認の声があがる。

「第一次接続開始」 「主電源コンタクト」

「稼働電圧臨界点をオーバー」 「フォーマットをフェイス1からフェイス2へ移行します」 「パイロット、零号機と接続を開始します」

「パイロットの状況は?」

「パルス及びハーモニクス、すべて正常値」 「シンクロも問題有りません」 「中枢神経素子にも異常は看られません」

「端末、チェック終了」

「絶対境界線まで、あと2.4」

「2.0」

「1.6」

「1.1」

「0.9」

「0.7」

「0.3」

「0.1」

額の汗が首筋へと垂れる。

「ボーダーライン・クリア」 「零号機、起動しました!」

喜びとも、悲鳴ともつかない声が、歓声として沸き上がった。

レイとゲンドウは、安心して疲れが出たのかそのまま寝入ってしまっていた。

代わりにアスカが指揮を執る。

「OK マナ、上がって良いわよ」

『このまま出来ます』

「無理しないの。それに貴方はメートヒュン【女の子】なんだから、無理は禁物。お肌にも好くないし、ね」

『はい・・・解りました』

その時、けたたましい警報がネルフ本部に危機を報せる。

加藤が受話器を置く。

「未確認飛行物体が、真っ直ぐ此方に向かってきている。おい碇、おき・・・・・てるじゃねぇか」

「第一種戦闘配備。初号機パイロットに、至急連絡を」

いつの間に起きたのでしょうか? この人は。

「碇、零号機は使わないのか・・・?」

「実戦で耐えられると思うのなら、とっくにやってると思わないか・・・」

「それもそうか」

「至急シンジを」

しかしゲンドウの声は最後まで続かなかった。突然の地震によって、本部のガラスが砕け散る。

「きゃっ」 

「うわっ」 

「何だ!?」 

「状況は!」

「都市迎撃システム、84%機能停止!!」

「強羅絶対防御ライン、壊滅!」

余りにも展開が早すぎることに、ゲンドウの顔に焦りが出る。

「今さっきの揺れは何だ」

「使徒が発した怪光線によるものだと思われます。《GIA》からの解析によると・・・!!」

オペレーターの相田の顔から血の気が引いた。

「どうした」

「怪光線の正体は・・・・・・加粒子砲です!!!」

「「「「何!!!?」」」」

驚く暇もなく、次の揺れがネルフを震撼させた。

「今度はなに!」

起きあがったレイが、ヒカリに問いただした。

ヒカリは今起きている現象を端的に正確に報告する。

「現在、使徒はほぼジオフロントの真上にいます。使徒はそこから穿孔機のような直径23メートルの巨大シールドで、真っ直ぐここを目指して掘り進んでいます」

「それから導き出される結論は・・・?」

「本部への、直接攻撃・・・!」

「時間にして、あとどれくらい」

「今第一防御壁に接触します」

上から金属同士が擦り合う音が聞こえ、軽い振動の後収まった。

どうやら第一防御壁は大した障害には成っていないようであった。

「23在る装甲防御を突破して、本部を攻撃する予想時刻は、午前0時19分です!」

加藤はすぐさま腕時計を見る。その行動に、全職員が加藤と同じように腕時計を見る。

「あと10時間足らずか・・・」








「まさにお手上げね」

コーヒー片手に落胆の意を表しているのは、作戦部部長補佐・アスカであった。

その横からトウジが説明し始める。

「1/1ダミー消失、12式自走臼砲完全蒸発、ATフィールドも健在」

「まさに無敵の城、いえ空中要塞ね」

「今の内に撤退するのがええんとちゃいますか?」

結構真面目な顔で言うにも関わらず、アスカは笑っていた。

余裕の笑みではなく、追いつめられたときに出る特有の含み笑い。

「あたしの辞書に“逃げる”という文字はないわ!」

「じゃぁどないせぇっちゅうんですか!?」

半分泣いている。

「一つだけ、手があるわ。しかも最良な方法がね♪」








「攻撃範囲外からの超長距離射撃! 本気か!?」

司令室に居る加藤の声が裏返っている。

「はい。この使徒は一定距離以内に存在する攻撃対象を、自動的に排除するようにプログラミングされているようです。そのため、近接戦闘は非常に大きなリスクを伴います」

「《GIA》の判断はどうなっている」

「賛成2、条件付き賛成が1、でした」

「勝算は」

「16,13% その次に高かったのは0,15%でした」

「・・・聞いたか碇。あとはお前の判断次第だ」

加藤は横にあるマイクに向かって呼びかける。

ゲンドウは今司令室には居ない。彼は今、整備班総出で破壊された迎撃システムと壊滅した回線の復旧をしている。移動中のため、無線機を常時携帯しているから今の会話も全て聞いている。

『反対する事も出来ない状況だ。存分にやりたまうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

((落ちた・・・))

こういった状況に慣れているのか、心配すらしていない様子。

司令の許可を得て、アスカは司令室を後にした。








アスカは今度は、オペレーターで技術部部長であるレイの右腕・洞木ヒカリと一緒に何やら計算し始めていた。

そこに、コーヒーを両手に持ったレイが姿を現した。

「はい。差し入れ」

「ん」

受け取ったコーヒーを一口で飲み干し、またモニターに集中する。

「なにやってるの? 貴方は」

アスカは無言の返答を返す。そのアスカに見切りを付け、レイは同じ質問をヒカリに振った。

「使徒のATフィールドを破るエネルギー産出量を調べていたんです」

「で、結果はどうだったの?」

「最低でも1億9000万キロワット。これだけないと破ることは疎か、使徒に当たりもしません」

「それで? 貴方には答えは出てるんでしょ? こんな膨大なエネルギーを産出する手段を」

「イエーッス」

アスカの自信に満ちた笑い。

こういうときのアスカには必ず大それた・・・基、ど派手なことをする。

「そう。で、どこから」

「日本中からよ!!」

((ホッ・・・良かった))

アスカのことだから、その電力を世界中から徴収する、なんて事を言い出すのではないかと不安だった二人は、心の片隅で安堵した。

これでエネルギー問題は解決した。

残る問題は・・・

「エネルギーの方はこれで良いとして、射撃に使うライフルはどうするの。手持ちの武器じゃ、2億ものエネルギーには耐えきれないわ」

「だからぁ、借りるのよ(ハート)」

「借りるって・・・・まさか!!」

「そ。戦自が開発中のプロトタイプをね」

それを聞いたレイは、その時軽い頭痛を憶えたという。

その直後から、日本中で停電の知らせが各市町村を通して行き届いたという。




つくば戦略自衛隊技術研究所

現在ここにはネルフ総司令・碇 ゲンドウが研究所の責任者と話を付けていた。

「・・・という名目でこの機器をお借りしますが、宜しいですかな?」

「どうぞどうぞ、貴方のような高名な方に頼りにされるとは一研究者として感激です」

感極まって涙さえ見せそうな勢いである。

研究者で、ゲンドウの名を知らぬ者はいないと言われている。

彼は、若き先駆者達の憧れであり、目指すべき目標でもあるのだ。

「なるべく原型を残したままお返しいたします。それではやってくれ!」

屋根を退かして現れた零号機が、ポジトロンライフルを器用に運び出していく。





「これで迎撃の準備は万端ね! ポジトロンライフルはどうなってるの?」

受話器の向こう側からゲンドウの声がする。

『あと3時間くれないか、整備班の意地に賭けても完成させてみせる!」

「2時間よ。それ以上待てないわ」

『解った。それまでには何とか完成させてみせる』

「はい。それでは」

アスカはそのまま回線を切った。

ゲンドウも受話器を電話に戻す。

「おーーーい、全員聞け!」

働いていた整備員全員が振り向く。

「あと1時間で仕上げるぞ!!!」

〈ウィーーーーーーーーーーーッス〉






『槍は整いそうよ。身を守るモノはある?』

「それはやっぱり、盾で防ぐしかないわよ。アスカ」

「何かみすぼらしい盾ですね」

「洞木さん、何事も見掛けで判断するとろくな事無いわよ」

『じゃあ万全なんだ』

「SSTOのお下がりだけど、全面にフル電磁コーティングを施してあるわ。使徒の加粒子砲にも20秒は耐えられるわ」

反撃の準備は着々と整い始めていた。









そしてまた舞台は発令所へ。

「此処やな。射程距離、配電設備、どれをとっても申し分なしや」

アスカとトウジは、ホログラム映像で映し出された双子山と報告書を見比べていた。

「確かにね・・・よし!」

アスカはマイクの前に出ると声を張り上げるように怒鳴る。

「プロジェクトネーム ウィリアム=テル、始動!!!」

かくして、ウィリアム=テル作戦は開始された。











シンジとマナは、アスカから作戦内容と配置位置を聞かされていた。

「明朝午前0時をもって作戦を開始するわ。シンジ君がオフェンス、マナがディフェンスよ。その一時間前には配置を完了させておきたいから10時半には準備を完了させておくように。何か質問は?」

シンジが手を挙げる。

「何? シンジ君」

「どうして僕がオフェンスなんですか?」

「それはあんたのシンクロ率が高いからと射撃の巧さが物を言ってるからよ」

しかしこれにはもう一つの理由があった。

それはシンジのシンクロ率が余りにも高すぎると云う事。もしディフェンスでエヴァに直接砲火されでもしたら生死に関わる。だがマナが乗る零号機はプロトタイプであるため、装甲が初号機よりも数段硬い。

そういった理由からの配置付けでもあった。

「解った?」

「はい」

「マナは?」

「解りました」

「それでは、作戦開始時刻まで待機!」

「「はい」」







そして夜。

マナとシンジは仮設されたブリッジの上に座っていた。ここからだと月がよく見える。

ふと、マナがシンジに質問した。あの時のシンジがレイにした時のように

「ねぇ、碇君」

「ん? 何?」

シンジは優しい微笑みを言葉と共にマナへ返す。

それを見たマナは顔を紅くしながら、しどろもどろながら話し始めた。

「あ、あのそのね、碇君は、なっ何でエヴァに乗ってるのかな〜って」

「僕は・・・みんなを守るために乗ってる」

「そうなんだ」

「霧島さんは何でエヴァに乗ってるの?」

いきなり話を振られ、おろおろするも深呼吸を2回ほどで落ち着いたみたいだ。

「私も守るために乗ってるの。私ね、小さい頃にお父さんとお母さんが事故で死んじゃって、それからずっと施設で育ってきたの。
でもね、碇君のお父さん・・・碇司令から『エヴァのパイロット候補になってくれ』って頼まれてね。嬉しかった。今まで誰にも頼られたことがなかったから。そしてこの街に来て、たくさんの友達もできて、思い出のある街だから、守りたい」

話すマナの肩が僅かに震えている。

不意にシンジはマナを抱きしめた。

だがそれでもマナの震えは止まることはなかった。

Cyu♪

「・・・・・(ボッ」

いきなりのシンジのキスに、あたふたと慌てるように取り乱す。

「震え・・・止まった?」

マナは恥ずかしさと驚きと、そして嬉しさの余り何も言えない。だが震えが止まったのを見て、シンジは鮮やかな笑みを見せる。

おでこにキスというモノだったが、それでもマナには刺激が強すぎたみたいだ。

サイレンの号令が作成開始を告げる。

「それじゃぁ碇君、さよなら・・・」

「マナ!」

行こうとしたマナをシンジは呼び止める。

「・・・僕、今お菓子作りに挑戦しててさ。良かったら食べてくれないかな? この作戦が終わったら」

「・・・・・・・」

「だから・・・『さよなら』なんて言わないでよ。一緒にお菓子食べよう、ね?」

彼女は答えない。

だが月をバックに満面の笑みをシンジに向けている。それだけで想いは伝わった。

マナがその場から居なくなったのを見計らって、物陰に隠れていたロンとヴォイスが姿を現す。

その時のシンジの顔は、いつもの優しい天使のような表情から、一人戦場へ向かう戦士の貌になっていた。

「シンジ、どうやらこの場所に正体不明の輩が侵入した」

ロンの口から重大な事柄が告げられる。

「ゼーレが動き出したみたいだな。どうするよ、シンジ」

ヴォイスが返答を求める。

「・・・作戦はこのまま決行します。向こうが何かを仕掛けてくるのは明白ですが、何をするかまでは特定できない以上、向こうの出方を待ちます」

「賢明だな。それで? 俺たちゃ何をすりゃ良いんだ?」

「ヴォイスさんは僕たち・エヴァパイロットの護衛と何かあった時に備えて待機してて下さい。龍老師は全体の警備と不審者の取り締まりを御願いします」

「「承知」」

シンジはその場を後にした。




エヴァの中で説明を受けるシンジとマナ。その顔は真剣その物。

「いい、一度しか言わないから良く聞きなさい! 陽電子は地球の重力や自転、空気中の物質に阻まれて直進しない。だからその調節を忘れないように! 照準はコンピューターが自動的にやってくれるわ。だから自信もって!」

シンジに向けた激励もそこそこに、今度はマナに声を向けた。

「マナ。貴方はシンジ君が失敗した場合の時に備えて、いつでも飛び出せるように待機して於いて。外した場合、再充電と冷却処理などを合わせて隙ができるわ。その間に攻撃があるだろうから、貴方はシンジ君を全力で守りなさい!」

叱責にも似た激励を済ませる。

作戦開始時刻。

「今から貴方に日本中の電力を預けるわ、しっかりやりなさいよ! シンジ!!」

シンジは一瞬どきりとしたが、すぐに目線を戻す。

「電圧上昇、加圧域へ!」

「冷却システム始動、最大出力へ!」

「陽電子流順調!」

「第二次接続完了!」

一つ一つの作動を確認しながら、ポジトロンライフルへとエネルギーを送る。

「全加速機運転開始を確認!」

「強制収束機作動!」

「セーフティー、解除!!」

「撃鉄起こせ!!!」

シンジがライフルの撃鉄を上げる。

照準を合わせると引き金に手を掛ける。






5分前

「早くしろ」

「もう少しだ」

二人の男が、何かをしている。薄暗い中で一体何をしているのだろうか。

「良し、終わったぞ」

「早くづらかれ」

男達はその場から風の様に素早く立ち去った。

その後を影のように追っていく人物が居るなどとは知る由もなく。

(儂には機械類のことはさっぱり解らん。しかし頑張れよ、シンジ)












秒読みが開始される。

「十秒前」

「9」

「8」

「7」

「6」

「5」

何事もなくこのまま過ぎればいい。

職員達の胸には、いつしかそんな言葉が浮かんでいた。

「4」

「3」

「2」

「1」

「ファイア!!「使徒内部に高エネルギー反応、拡大!!」

初号機から一筋の光が、ラミエルに向かって放たれる。

時を同じくして、ラミエルからも光の筋が放たれる。

二つの光はちょうど中間の位置で互いに干渉しあい、軌道を大きく逸れて爆発した。

「外れた! ヒューズ交換急いで!!」

「使徒の第二射が来ます!」

「マナ!!」

閃光が初号機に届く一歩前。

マナの乗った零号機が盾で加粒子砲の行く手を遮る。

「く・・・くぅ・・・」

しかし、加粒子砲の熱によって盾が融解し始める。

そしてあっという間に盾は溶け、加粒子砲がそのまま零号機を襲う。

だがそうなってもマナは初号機・シンジの前から退こうとしない。彼女は灼熱地獄の中、必死になって耐えていた。

(早くしろ、早く!!!)

祈るように再充電されるのを待つ。

「大変です!!」

「どうしたの!?」

洞木ヒカリからの悲鳴を聞いて、アスカはモニターから視線を放した。

「冷却タービンに異常が発生。このままでは第二射が撃てる迄保つか解りません」

「何ですって!?」

「ポジトロンライフルでも異常発生。先程の第一射の衝撃のせいか解りませんが、銃身内部に亀裂が入っています。このままだと第二射の前に暴発する危険性が!!」

この重大問題がシンジの耳に届くことはなかった。

もし聞いていたとしても彼ならば撃っていただろう。躊躇い無く。

(今だ!!!)

シンジがライフルのトリガーを引く。それと同時に零号機が崩れ落ちる。

黄色の輝きは真っ直ぐ使徒に向かって飛んで往く。

(((((当たった)))))

だが・・・

跳ね返された。

あの鏡のようなフォルムは、そのために有ったのかもしれないと思うほど、見事に弾き返された。

「そんな・・・」

アスカが唇を噛み締める。

ポジトロンライフルは発射後に爆発。冷却システムは完全に沈黙した。

諦めかけた。

全ての手を使い果たし、もう為す術がない。

しかしそれでも諦めない男が、そこに一人居る。

大地を踏みしめ立つ鬼神の影が、はっきりと目視できた。

「まだ、まだだァ!」

シンジは叫ぶや否や、使徒に向かって走り出した。

しかしいざ走り出そうとしても、ケーブルが邪魔になって一定の距離まで行くと止まってしまう。

「何やってんの、ケーブルなんか早く外して」

『外れないんですよアスカさん』

こんな時に冗談を言う者など居るはずもない。そもそもシンジはウソなど言わない。となれば

それに気付いて急いでケーブルを遠隔操作で外そうとするも、命令が拒否されて実行できない。

「くっそーーーーー!!」

獣の呼び声のようなシンジの叫びが、闇夜を切り裂きながら木霊する。







その叫びを聴いたヴォイスは、背負っていた長剣を引き抜く。

「俺の出番って訳だな。シンジ、動くなよ」

引き抜いた長剣が銀色に輝き始める。

長剣を振りかぶるように構えると、輝きは一層その眩しさを増していった。

大きく目を見開くと、初号機のケーブルに狙いを定める。

「いっくぜぇ! “光刃 レーヴァンテイン”!!」

長剣から弾け飛んだ三日月の形をしたソレは、太いケーブルをまるで小枝のように切り裂いてみせた。

一仕事終えたヴォイスは、タバコを吹かしながら言う。「さぁ、後は自分でどうにかしてみせな。シンジ」 と。







突然のことに驚いている暇は、今のシンジには無かった。

シンジは眼前にある物体に向かって、一心不乱に駆けだした。

時速はマッハを超える。

しかしそんな中でも、ラミエルの加粒子砲はエヴァを逃さなかった。

タッチの差でエヴァの姿が閃光の中に消える。消失したのか

否、次の瞬間、エヴァの姿はラミエルの真下にあった。

「ここがお前の弱点だ。龍老師から教わった『凝』の高等技・『極』で見分けたんだからな!」

シンジは初号機の腕を限界まで引き締め上げる。

狙うは唯一点。そこしか今の状況では勝つ見込みは無い。

ゼロ・フィールドを右手に集中させる。

ラミエルは咄嗟の判断でATフィールドを展開するものの、シンジのゼロ・フィールドの前では意味を成さない。

「心奥流拳法奥義 勁徹!!」

ラミエルのフォルムに、最強の一手を叩き込むシンジの姿は鬼気迫るものがあったという。

その衝撃音は地下のジオフロントまで響いた。

初号機はラミエルに腕を突き刺した様な格好で動きを止めている。

最早失敗したか成功したかさえ不明という状態。

暫くすると、初号機の右腕が風船のように破裂した。ラミエルは・・・・変化無し。

失敗か、と思われたその時。

ラミエルが地に落ちる。

あまりに突然の出来事に、アスカ達は、その時起こったことを頭で理解出来ないでいる。

そんな事になっているとは知らず、シンジは踵を返すと、零号機からエントリープラグを引き抜いてハッチをこじ開けようと躍起になっている。

火傷などを物ともせず、ハッチを開けようとするシンジ。

開け放たれたハッチから大量のLCLが流れ出す。その中には、ぐったりとしている少女が居た。

少年は少女を抱きかかえ揺さぶるが、少女は呪いを掛けられた眠り姫の様。

それでも諦めず懸命に叫び続ける。少女の名を

微かに・・・少女の瞼が動いた。

「シ・・・ン・・・・・・ジ・・くん・・・・・・・」

「マナ!」

マナはシンジの姿を視るや否や、大声で泣き出した。

何を言っているのかさっぱり解らないが、よほど怖かったのだろう。シンジの胸の中で泣いているマナの姿は、雨に濡れた迷い猫の様にも見受けられる。

そんなマナをシンジは、ただ抱きしめるほか無かった。

その後、マナとシンジは衛生班によって運ばれ治療を受けることになった。

初号機はと云えば、右腕が完全に無くなっていたので修復には最低で1ヶ月掛かると、レイが嘆いていたと云う事は、これとは別の話。











双子山から少し離れたインターチェンジ。

そこに止まっているワゴンから何やら話し声が聞こえる。

「はい。エヴァ初号機は我々の妨害にも関わらず、第五使徒・ラミエルを撃破。その後、零号機パイロットを救出しました。
・・・・・・いえ、そんな事は・・・・・・はい。解りました。直ちに帰投します」

携帯を切る。

「でもよぉ、何でチャッチャとぶっ殺さないのかねぇ。そうすれば早いのにさぁ」

相方の男が愚痴を漏らす。

どうやら今回のことについて不満があるようだ。

「仕方あるまい。エヴァ初号機は我々の計画には無くては成らない物だからな」

そういってエンジンを掛ける。

「ならば・・・その事をもう少し聞かせて貰おうか」

いきなり現れたロンによって、二人は車の外に引き吊り出された。

「爺! てめぇ、何モンだ!?」

「我らの調査では、初号機パイロットの特別教官になっているが・・・・」

「フン、貴様らなんぞに名のる名前など無いわ」

「くそ爺が!!」

男が銃を取り出すより速く、ロンはその男の膝を叩き折った。

声なき声を出しのたうち回る男を後目に、もう一人の男に詰め寄る。

「う・・うわーーーーーー」

叫び声も終わらぬ内に、二人は取り押さえられ後から来たネルフ諜報部に引き渡された。

こうして、長かった一日が終わった。









薄暗い書庫のような部屋の電話が鳴りだす。

「もしもし。はい・・・・・そうですか。動き出しましたね。・・・解りました、はい。それでは」

男は受話器を電話に戻すと、キッと向き直る。

その表情を見て、本を読んでいた全員が男の方に目線を合わせる。

「『銀月の剣士』と『深緑の拳皇』から、増援の要請がありました。『スカーレット グレネーダー』 『エンプレス オブ ブルーイッシュ』の両名は、至急二人の元へ急行して下さい」

するりと立ち上がりドアへと向かう2人。

彼らが去った部屋では、何事もなかったようにまた本を読み出す影が幾つか在るだけだった。







「そうか・・・」

キールは報告を聞き終えると満足げに頷いた。

「捕まった二人の工作員は如何致しましょう」

「消せ。利用価値の無くなった物なぞ必要ない」

「はっ」

それから10分後。

投獄された二人が、謎の変死体で発見されたことは言うまでもない。
























後書きもどき

完結にまとめようとしたら、結構長くなりました。

かなり強引な展開になってしまいました。申し訳ありません。

シンジが使った技やヴォイスの技については、また後日、場を改めて紹介することにします。

もしそれまで我慢できないという人はメールにて返答いたします。

誤字脱字がありましたらご連絡下さい。

それでは


マナ:いいっ! いいわっ! とってもいい感じじゃないっ!

アスカ:(ーー#

マナ:シンジと、なんかすっごーーーく、いい雰囲気なんじゃないっ!?

アスカ:(ーー#

マナ:しかも同棲よっ! 同棲するのよーーっ!(*^O^*)

アスカ:アンタが勝手に暴走してるだけでしょうがっ!(▼▼#

マナ:シンジとラブラブ路線一直線よーーっ!(*^O^*)

アスカ:どうなってんのよっ! これーーーっ! うらーーーーーーっ!(▼▼#

マナ:このまま一気にわたしとシンジは公認のカップルにっ!

アスカ:次、アタシとシンジのラブラブがなかったら、コロスっ!(▼▼#

マナ:むりむりぃぃっ! もうシンジはわたしのものよぉっ!(*^○^*)v
作者"夢幻の戦士"様へのメール/小説の感想はこちら。
tokiwa35@hotmail.com

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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