想いは永久に…

第八話 Dangerous Doll

by.夢幻の戦士

今日はマナがシンジの家に引っ越してくる日。

シンジ達の目の前には、二階建ての木造建築があった。

セカンドインパクトの余波にも負けぬその姿には、どこか懐かしさが漂っていた。

(今日から・・・ここが私達の愛の巣になるのね・・・・ホォ)

マナ、すでにトリップ。

もう自力では戻っては来れません(断言)

シンジの顔に、冷たい汗が滴り落ちる。

「え〜〜っと。霧島さん、荷物はそれだけで良いの?」

ふと我に返るマナの真横には、シンジが貌に『?』を浮かべながら後ろにある数個の段ボールを指さしている。

「え? あ、はい! 必要なモノだけを揃えましたから・・・」

言い終わるとすぐに、また顔を伏せるマナ。

しかし次の瞬間、マナの思考回路は停止する。

「遅いわよ! まったく、何をちんたらしてたんがか」

「スミマセン、アスカさん。予定より五分ほど遅れました」

玄関から出てきたのは、ジーンズにタンクトップというラフな服装のアスカだった。

この貌は声とは裏腹に笑っていた。

当然マナはこの事態に対応できずに、目が点になる。

「い、碇君・・・これは一体・・・・」

アスカとシンジはユニゾンしてある一点を指さした。

その先には、『惣流』と書かれた古ぼけた表札が。

「ま・・・まさか私が住む家って・・・」

「そ。私の家(ハート)」

「しかし助かりましたね。こう広いと二人で居るのにはちょっと怖いですからね」

「な〜に言ってんのよ。あの使徒に恐れず立ち向かっていく、あの、シンジ 碇が、怖いですって〜〜・・・?」

二人は笑い合いながらそんな話を続けていた。

その頃、肝心の入居者・マナはといえば・・・

(そ・・そんな、碇君との同棲は・・・・・・どうなっちゃったの)

それは妄想です。シンジ君はそんな事、一言も言っていません。

(きゅう〜〜〜〜)

スローモーションの様に後ろへと倒れるマナ。

アスカ達はそれに気付くと急いでマナを受け止める。

マナが目を覚ましたのは日付が変わってからの事だった。








深夜

シンジは綺麗な歌声で目が覚めた。

吸い寄せられるかのように向かった先はベランダ。

そこにはパジャマ姿のアスカが月明かりの中で 、静かで、それでいて優しい音色を、その唇から紡ぎだしている姿が目に入った。

月光が辺りを青白く染め抜き、木々はまるで妖精が降り立った時のようにに光を放っている。

その光景は幻想的で、神秘的だった。

いまこの瞬間、大自然に祝福された精霊の女王が生まれた瞬間を見ているような錯覚にも似た幻を、いや、現にアスカはそうだったのだろう。それだけアスカという女性が美しかったために。

シンジはその姿を食い入るように、ただただ呆然と見つめていた。

やがて歌が終わる。

それに伴い、何処からともなく拍手が聞こえてきた。

アスカの見つめた先には、シンジが割れんばかりの拍手を贈っている姿が目に入った。

「ゴメン・・・起こしちゃった?」

「いいえ。それより今の歌、とっても綺麗な歌でしたね。アスカさんのオリジナルですか?」

「ううん。ムッティのオリジナルなの」

その時のアスカの貌を、後にシンジは“太陽のように輝いていた”と日記に記している。

「お母さんのオリジナルですか」

「この家はね。昔、私がまだ小さかった頃に住んでいた家なの。ドイツに行っていた間も、ここは今のままで残ってた。そのころに、教わった歌なんだよ? この歌」

嬉々と話すアスカに、シンジはあの時の情景を重ねる。

(あの時のアスカは、こんなに笑っていたかなぁ・・・)

「そうだ! シンジ君って確か、テェロ弾けたよね? 聞かせて聞かせて」

まるで子供のようにはしゃぐアスカの姿は、まさに妖精のようでもあり天使のように純粋で無垢だった。

「良いですよ。でも弾けるの少ないですよ」

「いいのいいの。聞かせなさい!」

シンジはまだ整理されていない自分の部屋から愛用のテェロを引っぱり出してきた。

それから造り出される音は皆繊細で、その上、とても上品な音色だった。

しかもそれらは折れそうな弱い音色ではなく、しっかりとした芯を持った力強さをも兼ね揃えてた。少なくとも、弾き手に微塵の迷いもないからこんな澄んだ音色が出せるのだと、アスカは理解した。

その日、月が照らし出す夜空に素敵なテェロの音色と美しい歌声の合唱が、夜が明けるまで続いたという。




















翌日ネルフでは、先日の使徒戦をモニターに映し出し今後の対抗策を論じていた。

そのスクリーンには、初号機が奥義を放った瞬間の映像が映し出されている。

「にしても凄い技やなー、使徒がこない成るなんてなー」

オペレターの鈴原 トウジーが感嘆の声を上げていた。

「副指令、何なんですかこの技は?」

同じくオペレーターの洞木 ヒカリが加藤に質問した。

加藤はゆっくりとした動作で喋り始めた。

「日本の古武術に『骨法』という武術があると聞く。その秘技“徹し”に似ている様な気もしないではないが・・・」

「それって、どないな技なん?」

「俺の専門ではないから詳しく知らん。だが聞く所によると強烈な一打により生み出された衝撃を、相手の表面ではなく内部に浸透させる技だという。
まぁ、形意拳で云うところの“浸透勁”と原理は同じらしい」

「成程。だからモース硬度・30ある使徒に、技が決まったのか・・・」

「物体は硬ければ安全というわけではないからな」

後ろの扉から現れた人影は、迷わず自分の定位置に来ると遠慮なく話し始めた。

「物体が硬いと、その中に伝わる衝撃はダイレクトに浸透する。衝撃波を防ぐにはある程度の柔軟性が必要だ。前回の戦いを知っていたから、今回の使徒は遠距離が可能で、しかも装甲も硬かったのだろう。が、硬すぎたな」

「さすが物理の教授。講釈にも説得力がありますね」

「褒められるほどの事は言ってはいないつもりだが・・・」

「それで・・・どうする碇。今後の対応策は」

「取り敢えず今まで通りエヴァによる戦闘しか有るまい。しかし今回のような事がないように、厳重な注意を払うように。以上だ!」

全員の影がその場から消えるのに、1分と掛からなかった。

一人、難しい顔で作戦司令室に残るゲンドウ。

「すまないね。こんな所に呼び出してしまって・・・」

ゲンドウは独り言を言うかのように呟く。

「いえ。伯父さんの頼み事は断れませんよ。それに、三家の中では僕が一番の暇人ですから」

何もなかった空間から、一人の男が音もなく出現しだした。

スーツ姿で、帽子を深く被っているため顔までは確認できないものの、その目に宿る鋭い眼光を見れば、この男がただ者では無いことが容易に知れる。

ゲンドウは振り向きもせず用件だけを伝える。

「私の息子・・・シンジを知っているね。アレが今、エヴァのパイロットとして使徒と戦っている」

「知ってます」

「君に来て貰ったのは他でもない。人知れずシンジをガードして欲しい」

そう言われた男は、クスッ、と軽く笑った。

「それだけですか? 僕が調べた情報に依れば、シンジ君の周辺には頼りになりそうな人達がたくさん居るじゃないですか。まさかその人達全員、信じられないんですか?」

「まさか・・・ただね、不安なのだよ。老婆心とでも云うのか・・・それとも私が年老いただけなのか判断が付かないんだが、シンジには、彼らもしくは彼女らでも対応出来ない事態がやって来るような気がしてね。だから・・・頼む」

「最初に言ったでしょ? 伯父さんの頼みは断れないって。お受けいたします、その依頼」

「有り難う。ときに・・・」

ゲンドウが何かを言い出す前に、彼はその事について喋りだしていた。

「父も母も元気すぎる程元気ですし、武(タケル)伯父さんは今・仕事で南米へ飛んでいます」

その答えに満足げにメガネを上げると、ゲンドウは思い出した様に言った。

「そうだ・・・アイツはどうした?」

「ああ、龍司(リュウジ)伯父さんですか? あの人ならアメリカです。何でも今受け持ってる仕事が長引いたみたいで。今日本に居るのは僕とリツとカズ。そして、お父さんと叔父さんだけです」

それを聞いたゲンドウは、感慨深げに頷いた。

「今度・・・みんなで一緒に酒でも飲もう」

「はい・・・」

男は始めと同じようにまた影へと姿を埋めた。

そして誰も居なくなった部屋をゲンドウが後にしたのは、それから5分くらい経ってからの事だった。



























アスカは機嫌悪そうに、隣で恋愛小説を読んでいるレイに話しかけている。

「にしても・・・どうしてこんな辺鄙な所に会場を設置するのかしら」

「仕方ないでしょ、向こうの都合でこうなったんだから。こちらが何か言って云う事聞く相手だと思う?」

「思いたくないわね」

二人は今、高速で飛んでいるジェットヘリに乗っている。向かう先は元・東京都都心。その姿は、かつてここが大都市・東京であったとは信じられないほどに水没していていた。

15年前のセカンドインパクトによって海面が上昇し、いまや東京と言われた街はその原形を留めていない。

彼女らは今日行われる対使徒用兵器・JAの完成披露パーティー 兼 起動実験に招待された。

もっとも、招待とは名ばかりで実際のところは自分たちの力をネルフに見せつけるために呼んだにすぎないが。

「あ、あの〜〜〜・・・」

「何シンジ君、トイレでも行きたくなった?」

「何で僕まで行かなきゃならないんですか・・・・・・?」

本来なら残っていなければならないシンジが何故ヘリに乗っているかというと・・・・・・・

今朝、正装したアスカがシンジの二の腕を取り上げ、ゴーインにヘリポートへ連行し、レイも手伝いシンジをこれまたゴーインにヘリに押し込め誘拐したのだ。

「これも社会勉強の一環よ。我慢しなさい!」

アスカのこの一言のせいで、何も言えなくなってしまったシンジ。ぐうの音さえ出せない。

会場には、各界の大物達がひしめいていた。

ネルフと書かれたテーブルには、数本のビールが並べられているだけ。

皮肉以外の何者でもない。

(弱ったわねー・・・あたしお酒飲めないのよ)←アスカ

(ビール・・・それはいけない飲み物・・・だから私は飲まない)←レイ

(・・・・・・・・・・・・・未成年だからね)←シンジ

3人がそんな事を考えているときに、研究責任者である時田が壇上に出てきた。

そしてJAについての説明が延々と続く。アスカ達3人は、そんな事などお構いなしに談笑に浸っている。

周りの視線など物ともせずに・・・





















同時刻

一台の乗用車が、猛スピードで旧東京に向かって疾走している。

その中で黒服の男が何処かに電話をしている。

助手席では、和服を着た女性がもの凄い早さでノートパソコンのキーボードを叩いている。

「ああ、そうだ。サクラがハッキングした情報に依れば、あのJAとかいう移動兵器、もしコントロールを失えば大惨事に成りかねない・・・確かにネルフが何かアクシデントを起こすだろう。だが、万が一に備えて『淑女』にもスクランブルを掛けておいてくれ。・・・・解った。では(ピッ)」

「ふ〜、終わりました。向こうの対ハッカー用の警備システムがしつこかったですけど、何とかまけました」

得意そうに眼鏡を動かす。

「琴崎さんは何時此方に?」

「すぐに来るそうだ。時間の有余がない、急ぐぞ」

男は思いっ切りアクセルを踏み込んだ。

車は一個の弾丸と化す。

助手席の女は凄まじいGによって、座席にめり込んでいた。











場所は戻って披露会場。

いま時田とレイが、JAの安全性と信憑性について討論を繰り広げていた。

「格闘戦を前提とした陸戦兵器にリアクターを内蔵するのは、いくら150日連続稼働が可能としても、安全性に欠いていると思われますが」

「5分しか動けない決戦兵器なんかよりはマシだとおもいますが?」

「遠隔操作では緊急時に問題を残しかねます」

「まだ子供であるパイロットに負担を掛け、精神汚染を引き起こすよりは、より人道的と考えます」

さも自分の考えが正しいと言っている顔だ。

「人的制御の問題点もあります」

「制御不能に陥り、暴走を引き起こす危険極まりない兵器よりは格段に安全だと自負しております。
制御できない兵器など時代遅れの何ものでも有りません。ヒステリーを起こした女性と同じで手に負えません」

レイは唇を噛み締める。

「そのために、パイロットとテクノロジーがあるんです」

「まさか科学と人の心だけで、あの化物を倒せると仰りたいのですか?」

「無論です」

それを聞いた時田は鼻で笑って見せた。

「そんな甘い考えでいるから、ネルフは先の様な暴走を許すんですよ!
その結果! 国連は莫大な追加予算を迫られ! 某国では二万人を超える餓死者を出しているんです!それ程の事件にも関わらず、未だに暴走の原因すらも掴めていないとは!
良かったですね〜〜、貴方方ネルフは特務機関で超法規的に保護されて、貴方達には全く被害は無いのですから!!」

それを聞いたレイはキョトンとした顔になった。それはアスカやシンジにも同様だった。

白衣を引っ張られたレイは、視線をその方向へ向けた。

そこには、さもマイクを物珍しそうに眺める赤ん坊の様な瞳をしたシンジが居た。

シンジはレイからマイクを譲り受ける。

「時田さん」

「おや? 君は誰かね。ここは関係者以外立入禁止の筈だが」

「エヴァ初号機専属パイロット、碇 シンジです」

この発言で、会場内は騒然となった。

シンジは今までの振る舞いがウソのような威圧感有る視線と雰囲気で、他の来賓客を圧倒させた。

「質問・・・宜しいですね」

「は・・・はい。どうぞ」

「まず連続150日で動けるという話ですが、本当ですね」

「え、ええ。それが我が日本重工のウリですから」

「では聞きますが、それはその間にメンテナンス無しでも活動に支障を来さない、という事になるんですか? そしてそれは“使徒”という未知の敵を公定して設定された稼働時間ですね?」

「い、いや、さすがにそこまでは・・・」

「出来ないのですか? それでは話になりません。それに今さっき、人道的にどうのと言っていましたが、そもそも戦闘に個人の倫理観を持ち込むのはおかしいです。パイロットは全員僕と同じ子供です。しかし僕らは自らの意志でエヴァに乗って使徒と戦っています。無論、死ぬことを覚悟して、です。さっきの発言は僕たちに対しての侮辱以外の何ものでもありません・・・!」

顔から血の気が引く時田。

さらにシンジの猛抗議は続く。

「そして、僕たちはネルフの技術班、整備班を信頼して戦っています。もし仮に何らかの事態に陥ったとしても、そこが僕らパイロットの腕の見せ所です。難局を如何に脱するか、如何に乗り切るか、それは人間でしか出来ないことと思いますが、違いますか?」

最早何も言い返せない時田。

「それと、ネルフは完全な独立機関です。ネルフの基本資金はネルフ直営の企業グループによって賄われているので、国連からの資金援助は基本的には必要としていません。しかし、表面上は国連の一機関なので、受け取っているだけです。そして、餓死者を出した国に対しては、ネルフ直属の使節団が状況を調査したところ、二万人ではなく、五千人だったそうです。それに対してネルフはすぐに救援及び医療団を派遣して、この問題を解決したはずです。さらに! エヴァはまだ一度も暴走などしていない。仮にしたとしても、それはトップシークレットなので外部に漏れることなどありえない! もしあるとするならば、ネルフ内部にスパイが居ることになりますが・・・・・・」

体が強ばる感覚に襲われながら、時田はシンジの放つ絶対零度の視線に耐えていた。

トドメとばかりに、強い口調で言い放つシンジの姿は最戦線で指揮を執る、気高き獅子の心を持った王者のように光って見えた。

「最後になりましたけど、この事について後でネルフ、及び国連の方々の取り調べがあると思いますので、そのつもりで」

発言が終わり、シンジがマイクから手を離したときには、時田は地べたに這い蹲るような格好で倒れていた。

シンジがアスカ達の元へと戻ると、手厚い抱擁の嵐が待っていた。

「良くやったわシンジ。さすがあたしが見込んだことだけはあるわ!」

「も〜〜撫で撫でしたい! カッコ良かったわシンジ君!!」

彼女達の溢れんばかりの喜びを体全身に浴びて、貌を紅くしながら、シンジは話題を変えようと必死になった。

「そ、それより、起動実験がまだ残ってますから、最後まではしゃっきとしてましょうよォっ」

悲しいことに、シンジの声は興奮した彼女達には聞こえていなかった。







10分後

何とか意識を取り戻した時田達によって、起動実験は開始された。

起動されたJAはシンジが知っているのとは、少し違っていた。

外見上は変わりなかったが、注目すべき点は火器の有無だった。

連続機関砲 長距離用ストレンジライフル 対使徒用60oカノン 対空用・対地用ミサイル各種 etcetc

まさに動く武器庫だ。

そんなモノを見せられて、アスカは呆れて呟いた。

「あんなのがもし爆発したら、その周辺はどうなんのよ・・・・・・」

爆破した周辺が焦土と化すのは明白だろう。

その光景がありありと想像できるシンジは、殺気を込めた目線でJAを睨み付けた。

そして数分後、実験は始まった。

地獄の旋律を奏でながら・・・・・・












予定されたことだった。

JAの暴走は予めネルフが用意していたシナリオの一つだったはずだ。確か・・・暴走して居住区の一歩手前で止まるようにプログラミングしたはずだった。

しかし今はどうだ。

JAはその身に纏った重装備の火器全てを、此方に向かって打ち出してきたではないか。

機械故の躊躇ないその攻撃は苛烈を極め、非常通路は逃げまどう人々で埋まった。

計器類の影に隠れたアスカが、隣にいるレイに、爆音にも負けぬ大音量で叫んだ。

「ちょっ! これどういうことよレイ!!」

爆音が大きいため聞き取りにくい。

「何言っているか解らないわアスカ!!」

「何でこういう事になるのかって聞いてるのよ!!」

「私に聞かないで!! 私の専門外だわ!!!」

「そんなことより、一体全体これからどうすんですか!? 二人とも!!」

シンジの叫びが届いたのか、二人は言い争いを止めた。

「で、手はあるわけ?」

「この人に手伝ってもらいましょう」

シンジは脇に抱えていた時田をアスカ達の元へと突き出した。

「さぁ、解除コードを教えて下さい」

「そ、それは企業秘密」

時田の腕を掴んでいたシンジの手に力が注がれる。

「教えて?」

「(コクンコクン)わ、解ったから。解ったから痛いからその手を離してくれ」

「で」

「解除コードは“希望”・・・・・だが、近寄ろうにもこの状況では不可能だ」

それだけ聞ければ十分だった。

もしそれが不可能の場合でも、エヴァであのロボットの命令系統を破壊してやればいい。

シンジは携帯を取り出そうとした。



「無理よ」

レイの一言で、その場の時間が、はっきりと停止した。

「いま・・・・なんて・・」

信じられずに聞き返す。

「無理って言ったのよ。初号機は破損部分が多すぎて使用不可能。零号機に至っては人工筋肉が溶解してて、これまた使用不能。まさに打つ手無しね」

まさに絵に描いたような悪夢。

さらに不幸は連鎖するかのように続く。

JAが撃ち出した銃弾が、コントロールルームの防弾強化ガラスを撃ち破った。

衝撃と熱でコントロールルームの床下が脆くも崩れ去る。

咄嗟の防御で難を凌いだシンジが目にしたのは、今にも崩れかかりそうなブロックに、必死にしがみついているアスカの姿だった。その下、数十メートル下には剥き出しになったコンクリートの地面と瓦礫やガラスが針や槍のように鋭く尖っている。

「大丈夫ですか!? アスカさん!!」

駆け寄るシンジは、アスカを引き上げようと手を取った。

しかし次の瞬間、シンジの体は下へと傾いた。

アスカ一人なら軽く持ち上げられる自信がシンジには有った。だがこの重さはただ事ではない。

よく見ると、アスカの他に誰か居る。

それは

「レイさん!?」

あの蒼い髪の毛から赤い血を流しながら、レイはアスカの右手に掴まっていた。

「たははは、ゴメンねシンジ君。私達、君の足手まといに成っちゃって・・・」

「良いですから、そんなこと良いですから、待ってて下さい。いますぐ引き上げますから!」

引き上げるにしても、二人いっぺんに引き上げるのはいくらシンジでも無理だった。

(僕が強化系だったら、二人一緒に持ち上げられるのに・・・・)

現にシンジの腕は悲鳴を上げている。

助けを呼べる状況じゃない、時田は何処かへ逃げてしまった。打開する方法はないか

念である程度強化されていても、それにも限界はある。シンジの右腕は、とうにその限界を超えていた。

それを読みとったレイはシンジに言った。

「有り難うシンジ君・・・アスカ今まで有り難う」

「「レイ!!/レイさん!!」」

ゆっくりと手を離し落下するレイの姿は、地に墜ちる天使のよう。

(短い人生だったわね・・・次に貴方達に会うのはいつかしら)

落ちる最中、レイはこれまでの出来事が走馬燈のように駆けめぐった。

初めて学校に行った日の事 初めて友達が出来た日の事 初めてアスカにあった日の事 アスカと共にネルフに入った日の事 そこで初めてシンジに会ったこと

それら全てが一瞬のことのように頭を駆けめぐる。

衝撃が、レイを襲った。

しかしいつまで経っても痛みは襲ってこない。最初の衝撃だけ

恐る恐るレイが目を開けると、そこにはシンジの険しい貌があった。

(ウソ・・・どうして、どうしてこんな所に来られるの・・・? もしかしてこれは夢??)

だがレイの手を掴んでいるシンジの手からはぬくもりが感じられている。夢ではない

レイは今ある状況が理解できない。

シンジが自分を支えている格好がもっと信じられない。

まるでコウモリの様に逆さまに成りながら、シンジはアスカとレイをしっかりと掴まえていた。

支えも無しに宙づりに成ってるシンジに、驚きを隠せない二人は口を開きっぱなしでその格好を見つめている。

勿論、これは“念技”である。

『凝』で『念』を足裏に集中させ、接触部分の物質が持つ『オーラ』を同化させ『纏』で凝縮し張り付く『念』の高等技・『着』を使って、掴み所のない岩肌や壁、果ては立つことの出来ない水の上にも容易に立つことが出来る。

だが体を保護していた『念』を『着』に使ってしまったために、激痛は直接シンジに流れ込み始めた。

シンジは込み上げる悲鳴を喉元で押さえつけながら、絶え間なく続くJAからの砲弾が着弾して生じて降り注ぐガラスや破片からの痛みに耐えていた。

「もういいから! その手を離して! でないとシンジ君まで、だから御願い!!」

「アスカの言う通りにして! 貴方は人類にとって必要な人間なの! だから私達のことは」

しかし二人を放すなんて事は、シンジには出来ない。

「五月蠅い!!!」

シンジの怒鳴り声に、二人は萎縮した。普段の彼から決して発することのない激しい怒りのオーラを一身に受けながら。

「大丈夫。必ず助けるから。
もう・・・二度と逃げ出したりしないから・・・・・もう・・・・二度と愛する人を見捨てたりなんてしないから・・・・もう! 愛する人を失うなんてしたくないんだ!!」

まるでそれは、愛の囁きにも似た響きだった。

二人は知らず知らずの内に赤面し始めている。

「だから・・・僕を信じて、綾波! アスカ! 必ず助けるから!!」

ドクン ドクン

その言葉を聞いたとき、アスカとレイは胸の奥から言葉に代えられないほどの何かを感じていた。

シンジの曇りのない瞳に吸い込まれるように魅入る二人。鼓動が早まる。

(なっ何この気持ち・・・!? これじゃァ、まるで・・・)

(この気持ち・・・とても暖かい。この感情は何・・・・・・・?)

しかしこの間にもシンジの限界は迫っていた。

その中で、ふと気付いた。

(砲撃が止まっている・・・・・・・・?)

苦しみの中で、シンジはハッキリと見た。

紅い閃光がJAの火器を破壊して往く様をハッキリと。

それはどうやらこの上から攻撃しているようだった。10qも離れた距離から、遠目でやっと見えるほど細かいJAの火器を尽く破壊するなど、出来るのだろうか

誰もがそう思うだろうが、シンジにはある確信があった。こんな事が出来るのはアノ人の仲間しか居ないのだという確信が。


















屋上で一組の男女がJAに対して攻撃している。

男は片手に巨大で独特の形状のショットガンを持ち、それを10q離れたJAに寸分の狂いもなく命中させ続けている。これはもう神業と言っても良いだろう。

その足下には無数の空薬莢が転がっていた。

男は無言で傍らにいる女性に手を差し出す。

「さっきのが最後でした。もう弾は何処を捜しても有りません」

「・・・・・・・・」

「それに、もうあのロボットさん動かないんじゃないですか?」

「お前の両眼は飾りか? 良く見ろ。ヤツはまだ動いている」

「へ!?」

見えにくいが確かにまだ動きを止めてない。

それどころかこっちへ向かってくる。

「あわわわ、どうして〜〜〜〜」

「多分、さっきの銃撃による衝撃で命令系統が混乱したんだろう。あとはサクラ、お前の仕事だ」

独り言のように言い放つと、男はシンジの居る下の方へと降りていってしまった。

「せっかく二人っきりになれるチャンスだったのにぃ〜〜っ」

どうも論点がずれている様な・・・

一頻り愚痴か嫌みとも判断付かないことを言い終わると、

「でも、それはそれこれはこれ。二人ッきりに成るには、まず始めにお仕事お仕事♪」

掛けていた眼鏡を外した女の貌に妖艶な微笑みが生まれる。

和服の袖をたくし上げると両手を前へと翳す。

「建御雷【たけいかずち】!!!」

女の両腕から青紫の電光が放たれるや否や、その電光がJAへ向かって伸びていく。

JAのボディが蒼い閃光に包まれた。

一方、男は垂直の壁を“高等念技・着”を遣い、滑るようにして降りていく。

そしてコントロールルームに辿り着くのに10秒も掛からなかった。

『着』で剥き出しのコンクリート壁にへばり付いているシンジを見付けると、男は片手でシンジを掴むと、シンジを含む3人を軽々と引き上げた。

いきなり現れた男に多少の驚きはあるものの、比較的簡単にその存在を認めることが出来た。彼は自分たちを助けに来てくれたと云う事に。

男はシンジ達に何も言わず、大声で上にいる女に言った。

「サクラ!! 牽制はもう良い! 彩音、準備は良いか!?」

「出来てます!」

上の方から、懐かしい声が還ってきた。

真面目な顔の彩音。

こんな顔をするのは、よほどのことがない限りしない。

真っ直ぐ見つめるその先には、動きが鈍くなったJAが在る。

JAのボディからは、白い煙が音を立てて上がっている。このまま時が経てば、メルトダウンも起こしかねない。

「早くしないと大惨事になるわ。狙う箇所は動力炉ただ一つ。一撃で決めなさい」

さっきまでの軽口は何処へやら、まったくの別人へと変貌した女が彩音に念を押す。

大きく見開かれた瞳に『念』が集中する。

「(見えた!!)魔槍・グングニル!!!」

叫ぶと同時に右手をJA目掛けて突き出す。

すると、JAの中央部に大きいな穴が何かが凹むとき出る音と共に突然出現した。向こう側には落ちていく夕日が見える。壮大な音と共に崩れ落ちるJA。

安堵と共に崩れるシンジ。

その側を黒いコートをマントのように翻しながら去る男の姿を、シンジは横目で確認しながら、念の使いすぎによる疲労で強制睡眠を強いられる。














1時間後

アスカとレイは検査のため病院へと運ばれ、時田はスパイ容疑と器物破損・業務上過失傷害罪(奇跡的に死亡者は出なかった)で逮捕された。時田の身柄は、(国連が管轄する内容だったので)国連の国際高等裁判所に送られる事となった。

誰も居なくなったヘリポートに、シンジは一人残った。

その近くには彩音達の姿もあった。

「有り難う御座いました、彩音さん」

「いいっていいって、私達は私達のやることやったまでなんだから。あ、忘れるところだった。紹介しておくね。この人達は私の先輩の」

「九重橋 サクラです。呼び名は『エンプレス オブ ブルーイッシュ』です。これから宜しくお願いしますね。おっとっと」

お辞儀をしようとして掛けていた眼鏡を危うく落としてしまうところだった。

どうやら少しポケポケの様だ。

次の自己紹介はシンジ達を危機から救ってくれた、あの男。

「俺の名前は、ガリオス=バルディー。コードネイムは『スカーレット グレネーダー』だ」

「でもみんな名前で呼ばずに“レオン”って呼んでますから、シンジさんもそう呼んであげて下さい」

「サクラ、余計なことを言わなくて良い」

「それで、何で彩音さんやサクラさん達がここに居るんですか?」

「それについては俺から話そう」

レオンがこれまでの経緯を話し始めた。

「先日の戦いで『ゼーレ』から妨害を受けたという事は、報告で知っているな」

「はい」

「今後、そのような事態が増えてくれば少ない戦力でターゲット(シンジ)を守り抜くことは困難だ。そのために、我々はここに来た。理解できたか?」

「解りました。ところで彩音さん、今日は何処に泊まるんですか? もし良かったら、アスカさんの家に泊まりませんか? アスカさんには僕から言っておきますから」

「じゃァそうしよっかな。さーちゃんはどうする?」

「私達はホテルを「いや、寄らせて貰おう。あいにく部屋を取り忘れたから困っていたところだ」

「決まりですね」

「あ、あの〜〜、ホテルは・・・」

「ちょうど迎えのヘリが来たみたいですし、話は後でゆっくりと」

降りてきたヘリに乗るシンジ達とは別に、車で来たレオンは路上に停めっぱなしだとレッカー車に持って行かれるかもしれないという理由で別れることになった。

その時、サクラが無理矢理でも付いていこうとしたので、シンジと彩音はサクラを無理矢理ヘリに押し込めた。

ヘリが十分飛び去ったのを確認すると、レオンは後ろを振り向き言った。

「隠れていないで出てきたらどうだ」

「気付いていたんですか?」

日が落ちて辺りは夜が支配する空間から、スーツ姿の男が、ゆらりと現れた。ゲンドウと話していたあの男だ。

男は何をする風でもなく、ただそこに居るだけだった。

日本刀の切っ先のような眼光を宿して

「気配は消した筈なんですけど・・・・・・まさか貴方は」

「ああ、数年前ある仕事で俺の両眼は光を失った。だがお陰で目に見えぬモノが見えるようになった。“信じるのは目に見える『モノ』ではなく、自分自身の『目』に写るモノ”と、俺の師は好く言っていた。その頃は良く意味が解らなかったが、今なら解る。現に俺はお前の影が見えた」

「スゴイや・・・・・まさに武人の極みだ。感服しました」

男は深々と一礼する。

「忘れ物だ・・・」

レオンは鈍く銀色に光るモノを、男に向かって投げた。

「(パシッ)すみません。拾っていただいて」

レオンが投げたモノとは、忍者が用いる“苦無”だった。

「あれほどの惨事の中、何故人が一人も死ななかったのか? 答えはお前が誰一人死なないように誘導していたからだ。
俺が碇 シンジの元に駆けつけるより早く、お前は比較的大きな落下物をこの“苦無”で破壊しておいた。死なないように」

「・・・・・・・・・」

「お前は何者だ、なぜ碇 シンジを守る」

「最初の質問には答えかねますね、でも通り名だけなら良いなら答えられます。“ウォーター”・・・・・・・・・・・そう呼ばれています。なぜ守るか、それは依頼されたからです。それに・・・誰だって人が死ぬのはイヤでしょ?」

「確かにな・・・・」

「少なくとも僕たちが争う必然性は無いですよね?」

「・・・・・・・・今はな」

「今度一緒に飲みに行きましょう、良いお店知ってますから。勿論僕の奢りで」

「・・・・・考えておこう」

「色好い御返事をお待ちしております、ミスター・ガリオス。それでは」

そういうと男は闇へ溶け込むように消えてゆく。

レオンは何事もなかったかのようにその場を去った。

車のエンジン音が、遠ざかっていく。



















「碇、JAが暴走、しかも負傷者が多数出た。これはシナリオには無いぞ」

「・・・・・・解っている」

そういうしかないゲンドウの顔には、余裕の色など無い。

「もしかしたら老人達がシナリオを書き換えているのかもしれねぇぞ!?」

「それはないとは思いたいが・・・・・・・」

「死亡者は居ないとの事だが、アスカ君やレイ博士が入院する事になった。これはネルフにとって非常に大きい損害だ。どうするよ碇」

「・・・・・・・彼女を呼び戻そう。セカンドチルドレンと共に!」



























「キール議長、JAの開発は永久凍結と成りました」

「そうか、目障りなモノを消すには騒ぎを起こすのが一番だ」

キールと他の議員は、その答えを聞いてニヤリと笑う。

「これは今回の事の一部始終を納めた映像です。ご覧に成られますか?」

「うむ」

立体映像で映し出された映像に、始めの内は笑って観ていたものの最後の方になるに連れて顔が青くなっていった。

「止めろ! 今すぐ止めろ!!」

議員が慌てて映像を消す。

「どうなされました議長、ご気分でも?」

「ふーふーふー」

呼吸が荒い、脈拍も急激に上がっていく。

深呼吸によってようやく沈静化していくが、その反応は明らかに異常だった。

少なくとも、この場に居る他のメンバーはあんな反応を示したキールを見るのは初めてだった。

しかし次の発言は、もっと驚かせる内容だった。

「直ちに、サードチルドレン・碇 シンジを速やかに排除せよ!」

「! お待ち下さい議長。いまサードに居なくなられては我らのシナリオに多大なる影響が」

「いえ、それは無いでしょう。そのためにファースト・セカンドが居るのですから」

「しかし、今回は余りにも急ですぞ議長。一体何故に」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・詳しくは言えないが、サードチルドレンは我らの存在に気付いている節がある」

「なんですと!?」

「まさか碇が!?」

「・・・・・・推論はいくらでも立てられるが、今は早急にサードを排除せよ。それが当面の緊急議題だ」

全員が一斉に立ち上がる。

「「「「「「「「「「全てのシナリオは、我らゼーレの為だけに!!!」」」」」」」」」」













































後書きもどき

うううーーーーー

好き勝手にやってたら何だか大変なことに成っちゃいました。

でも書き上げてしまった以上は、完結させます。

でも修正効くかな? 不安(^^;;

今回は調子に乗ってマナちゃんが冒頭以外出てきていないのに気付きました。

でも、今回はアスカちゃんメインだったのでお許しを。レイちゃんも出しました。これ以上行くと出番が少なくなりそうな勢いだから。

それで、次回はお二人はお休みです。念のため





次回予告

オーバー ザ レインボーで運ばれてくる弐号機

それに乗ってやって来る一人の少女

少女と共に日本へやって来るネルフ作戦部長 

作戦部長と同伴してやって来る2人の男性

異国から来る少女に、シンジは何を見るのか!?

暗い水底でガキエルの牙がシンジ達を狙う

次回:ミナソコ


お楽しみに♪


マナ:なによこれーーーーっ!

アスカ:ん? とってもいい感じじゃない。(^^v

マナ:だんだん、わたしがギャグキャラ化していってるじゃないのっ!!(ーー#

アスカ:もともとそういうキャラでしょ?

マナ:わたしとシンジのラブラブは、どこ行ったのよぉぉっ!

アスカ:そーんなの、最初から無かったのよっ!! わははははははっ!

マナ:しかもっ! アスカばっか、目立ってぇっ!

アスカ:せいぜい、ギャグキャラとして、アタシとシンジを盛り上げるのねっ。

マナ:イヤよっ! そんなのイヤーーーーっ!

アスカ:シンジといい感じになってきてるしぃ。このまま、ラブラブ路線よぉっ。

マナ:夢幻の戦士さんっ! 次回も、(きゅう〜〜〜〜)って倒れるシーンだけだったら、燃やすわよっ。(ーー#
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