教会大決戦




 ジオフロントの森の小さな湖の辺に建てられた、これまた小さな教会で一組のカッ
プルが結婚式と披露宴が行われていた。


「あなたと、わたしが夢の国〜♪森の小さな教会で結婚式をあげました〜♪」


 披露宴の歌というと流行り廃りがあるものだが、世代を超えた定番が、奏でられて
いる。



「冬月先生、ユイはこの曲が好きで、結婚式は、森の小さな教会にかぎると
常々……」

「ふむ、やはりこのために教会を新築して正解だったな」


 一番奥の席でヒゲ親父とボケ老人が涙をながして聞きほれている。
 涙の原因は歌ではなく、今は亡き彼らの女神を想ってであることはいうまでもな
い。


「歌じゃ腹は膨れないわよ!エビチュ追加ね!エビチュ!」

「おいおい、今日ぐらいは控えてくれよ。シンジくんとアスカの晴れ舞台じゃない
か。たのむから飲みすぎて正気をうしなわないくれ……」

 新郎と新婦の保護者兼姉とその夫


「今年こそは碇指令と……」

 某マッドな金髪おばさん


「私もいつか素敵な人と……」

 歳を考えると、ちょっとキツイが、永遠の夢見る乙女。


「歌はいいねぇ〜 リリンが生んだ……」

 ワンパターンは新郎の友人にして新婦の恋敵?


「メシやメシ!ただメシ仰山で、ワイはしあわせや!」

 花より団子の新郎の友人S


「わたしも、いつか鈴原と……」

 新婦の友人にして、むくわれない乙女


「売れる!売れるぞ!碇と惣流の……」

 いいかげんに成長してほしい新郎の友人A


「クェークェー」

 一応、新郎新婦の家族?


「まだよ!勝負は下駄をはくまでわからないわ……」


 あきらめわるく、舌なめづりをしているのは、おなじみ茶髪おかま
 およそ軍隊において、情報を活用した状況分析は必須のはずなのだが、現在の状況
を理解していないのは、不屈の闘志か?それとも現実逃避か?


「恋する乙女に不可能はないのよ!それにわたしには秘策があるわ!」


 そうですか、失礼しました。


 その他、いつもの面々を来客に迎え、式はつつがなく進行していた。




「ありがとうごさいました。有志によるてんとう虫のサンバでした。さて、ここで夫
婦最初の共同作業として、ウェディングケーキの入刀を行いたいとおもいます。お二
人が夫婦になって最初の共同作業です。みなさま、温かい目で見守ってください」


 パチパチパチ


 歓声と拍手が鳴り響く中、床が割れ二段重ねのケーキがせりあがってくる。


「このケーキは新婦のご友人の洞木ヒカリ様が、今日のために心をこめてつくったも
のです。
さぁ、カメラやビデオをおもちのお客様はどうぞ前にて、ご撮影ください」


 われ先にと前に出てきたカメラマンの位置が決まり、いよいよ入刀をしようとした
その時


  バタン!


 大きな音とともに、教会のドアが開らき、最後の招待客が現れた、レイである。

 レイは、いつものポーカーフェイスで教会の中をぐるりと見渡して、中央正面のシ
ンジとアスカの姿をみとめると、近づいてきた。


 ペタペタペタ


 ビデオをとるために前にいたケンスケがレイのために場所を空け、レイの後ろに回
りこむ。


 パーン!


 回りこんだ瞬間、レイの裏拳が炸裂!


「な、なんで……」

「私の後ろに回りこむから……」


 ケンスケ轟沈


「ちょっと、レイ。なに、どこぞのスナイパーみたいなことをいってのよ。それに、
あんた結婚式に、なに着てきてんのよ!そんな、できそこないのプラグスーツなんて
着てきて!ま、ちょっとはかわいいけど」


 ケンスケのことは、まったく気にもとめず。アスカはレイの服装に文句をつける。


「わたしには、何もないもの……」

「あ〜に、バカいってんのよ。この間、あんたの為に礼服を見たててあげたじゃな〜
い」

「いい、これから仕事だから……」


 レイは、いつもののポーカーフェイスで答える。


「仕事?おかしいわね。お留守番の青葉くん以外は全員非番のはずよ。リツコ何か入
れた?」

「入れてないわよ。だいたい、将来の息子と娘の結婚式くらい……ごにょご
にょ……」

「ほ〜らね。レイあんたの勘違いよ。さっさと、そんなの脱いで着替えなさいよ」

「ダメ……だって、私はゴジラ30だから……」

「はぁ?」


 出席者全員の疑問符がこぼれる。


 カポッ!


 リトルゴジラ出現!


「がおーーーーーーーー。がおーーーーーーーー。」


 リトルゴジラは、雄たけびをあげるとケーキに向かって突進し一撃で叩き落した。


「な、なにするのよ!せっかく、ヒカリが心をこめてつくってくれたケーキを!」

「がお。がお。がお。」

「あ、あんたね!『がおー!』とか、『あんぎゃー!』なんていったってわかるわけ
ないでしょ。ちゃんと日本語でしゃべりなさいよ」


 カポッ!


「わからない、だって私は三代目だから……」


 カポッ!


 たしかに、三代目ゴジラである。リツコは、きっちり本家を参考に、W型プラグ
スーツのバージョンアップをしていたらしい。



「ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー
!!」


 仕事といっていたくせに、歓喜の雄たけびをあげながら次々とテーブルをひっくり
返すリトルゴジラ。


「ああ、ぼくとアスカの結婚式が……。そうか、ぼくはいらない子供なんだ。だか
ら、しあわせになっちゃいけないんだ……ブツブツ」


 初セリフがこれとは、あいかわらず情けない……。どうして君がアスカに選ばれた
のか作者は疑問だ。


「あに、バカいってんのよ。アンタは世界一いい女である、あたしが、選んだ男なん
だから世界一いい男なの!ちっとは自信持ちなさいよ。それより、レイを止めること
考えなさいよ」

「ふ、無理ね。三代目ゴジラプラグスーツは、対戦車ライフルでもなければ倒せない
わ」

「まさに、科学の勝利ですね。先輩!」

「あんで、そんなバカみたいなもの作るのよ」

「趣味よ!」

「碇……」

「問題ない。式の進行は15%の遅れだけだ」


 
 その間にも、リトルゴジラの快進撃は続く。


「ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー
!!」


 テーブルをひっくりかえし、並べられた料理と飲み物が次々と投げ出される。


「おのれ!バチキかましたる」


 親友の結婚式を壊そうとする乱入者に、正義の怒りを燃やした男は、そう叫ぶと走
り出そうとする。  


「やめて鈴原!危険よ」


 振り返ったトウジは、止めようとするヒカリを振り切る。


「委員長!止めるんやない。男には、たとえ負けるとわかっていても、大事なものを
守るために、戦わなあかんときがあるのや!」

「鈴原…… わかったもう止めない。がんばって…… わたし、待ってるから」


 顔を赤らめたヒカリの応援にトウジは、うなずくと駆け出した。


「おりゃぁ〜 綾波〜! ワイの大事なタダメシになにするんや!」

 
 洞木ヒカリ一六歳。本当にむくわれない乙女……。


 当然のことながら、トウジの特攻は、まったくの無意味に終わり、暴れまくるリト
ルゴジラを止められる者はいないかと思われたが


 ピタッ!

 
 リトルゴジラの足が急に止まる。


 ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目で威嚇するリトルゴジラ。しかし、相手もにらみ返してくる。


 ギロリ!


「あんぎゃぁぁぁぁぁーーーーーー!」


 リトルゴジラは雄たけびをあげ、右足で床をかき突進体制をとる


「やろうってぇの!あたしのかわいいこの子たちには指一本触れさせないわよ」


 子供を守ろうとする母親は最強だという、ミサトの一括に、リトルゴジラは動きを
止めジリジリとさがると、くるりと後ろを向いて逃げ出す。


 
ペッタンペッタンペッタンペッタン!!!!!



「あなたたちもう大丈夫よ。あたしがいる限り、指一本ふれさせはしないわ」

 
 怪獣王ゴジラをガン飛ばしだけで、撃退した最強の酒徒、葛城ミサト。彼女のい
う、子供たちへの愛情の深さは並ぶものはない。


 プシュ


 グビグビグビ 


「プハァ!やっぱ、自分で守っただけに一味ちがうわ!」


 夫は使徒戦のさなかスイカと心中を選び、妻はえびちゅのためなら、ゴジラも恐れ
ず。
 似たもの夫婦とは二人のためにある言葉。
 末永くおしあわせに……





 酒徒ミサトの前からは逃亡したもののリトルゴジラの猛攻は続く。


「ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー
!!」


 歓喜の雄たけびを上げて、次々とテーブルをなぎ倒す。



「ちょっとレイ。いい加減にしなさいよ!」


 アスカの怒声にリトルゴジラは振り向くと、ペロッと舌をだしてみせて、再び破壊
活動に走る。


「く〜!よくも、無視してくれたわね!こうなっら、こっちにだって考えがあるわよ
!」


 パチン!


 アスカが指を鳴らすと、白い背中の羽と、頭の上の輪と背中の羽がとってもプリ
ティなレイ一代目、二代目が現れる。


「たのむわよ!レイ」

「「まかせて、結婚式はわたしが守るもの」」


 天使のレイちゃんズはアスカの頼みを引き受けると歌い出す。


「「モスラや〜♪モスラ〜♪」」


 モスラの幼虫の召還に、本能で天敵とわかるのであろう、リトルゴジラの動きが一
瞬止まる。


「モスラ、ゴジラの天敵ね。しかし、私のつくったプラグスーツが、たかが蛾の幼虫
なんかにまわるわけないわ。安心しなさいレイ!」

「がおーーーーーーーー。がおーーーーーーーー。がおーーーーーーーー。」


 リツコの応援に、勢いづくリトルゴジラ。リツコあんたはどっちの味方なんだ?



 天使のレイちゃんズの召還に答えモスラの幼虫が現れる。


 もぞもぞもぞ


「きたわね!モスラの幼虫」


 もぞもぞもぞ


「でも、アスカ……」


 もぞもぞもぞ


「あによ。シンジ」


 もぞもぞもぞ


「あれは、簀巻きというんじゃないかな……」

「う、うるさいわね。とにかく、モスラに変わりはないわよ」


 布団で簀巻きにされたレイ…… いやモスラの幼虫は必死でリトルゴジラにむけて
進撃してくる。


 もぞもぞもぞ


「ふ、無様……」

「あら〜ん。やっぱり、シンちゃんはアスカの尻に引かれてるわね。アスカだめよ。
夫の浮気は家庭の不満からよ。やさしくしてあげないと〜♪」


 すっかり、ご機嫌なミサト。大声でいつものごとく、酒の肴にアスカをからかいだ
す。
 その横で、決めセリフを邪魔されたE計画責任者が、「の」の字を書いてすねてい
た。


「うっるさいわねミサト。あんたにいわれたくないわよ」

「あら、わたしはちょーっとだけ家事はだめだけど、夫に不自由はさせてないわよ
ん」


 ちょっとだぁ!この場に居合わせた全員が心のなかでつっこんだらしい。


「そうねえ。ホント自由にさせてるわね。そんなんだから、浮気されるのよ」

「な、なんですって!」

「ふふん。知らなかったのねミサト。この間も、マヤを自販機のところでくどいてた
わよ」

「ちょっと、加持こっちに来なさい」

「ま、まてミサト」

「問答無用」


 静粛であるべき、教会に加持の悲鳴が鳴り響く。合掌……


「ふん、飴とムチで飼いならしておかないからよ」


 二年前は、飼いならされた男は最低といってたくせにと、新郎が横でつぶやいたの
は幸い聞こえなかったようである。


 その間にも、ゆっくりと確実に両雄の距離は縮まる。


 ペタペタペタ

 もぞもぞもぞ


 ついに、通路の真中で対峙する両雄。
 これから、はじまる宿命のライバルの一戦に、シーンと回りは静まり返る。


 ペタペタペタペタペターーーーペッターーーーーン!!!


 助走をつけたリトルゴジラは、一気に飛び上がり、モスラの幼虫に飛び乗る。


 ペタンっ!


「ぐぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぇ」


 ペタンっ!ペタンっ!ペタンっ!ペタンっ!ペタンっ!


 攻撃が、有効とみるやいなやリトルゴジラは息もつかさぬ連続攻撃で、モスラの幼
虫に反撃の糸口をあたえない。


 ピクピクピク…… 

 ガクッ……


 泡を吹いて倒れたモスラの幼虫に、日向とマヤが駆け寄る。


「ダメです。脈がありません」

「瞳孔も完全に開いています」


「あっちゃぁ!やっぱ、簀巻きじゃだめね」

「勝率0の突撃死。いわゆる犬死ってやつね」


 大人たちの冷静な分析の中、リトルゴジラの勝利の雄たけびあがる。


「ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー
!!」


「まだよ!まだ、モスラは負けてはないわ!」


 アスカの声が鳴り響く。


「 でも、アスカ。モスラ完全に死亡だって……」

「ふふん〜♪モスラは幼虫から蛹となって孵化したときに最強となるのよ!!」


 アスカの言葉に答えるかのように、死んだはずのモスラの幼虫から羽が生えてく
る。


「おおお!」


 二枚の羽をまっすぐのばし、そのまま羽ばたき舞い上がる。



 ふわり      



「いけ〜!モス…… な、な〜によこれ〜!」


 ふわりと、舞い上がったのは、羽はあるもののモスラの成虫ではなかった。


「ア、アンタ!なんで、モスラにならないのよ!」

「だって、わたしは死んだもの……」


 新しく天使になったレイに、天使のレイちゃんズがよってくる。


「そう、あなたも死んだのね……」

「心配ないわ。あなたが死んでもかわりはいるもの……」

「そう、私は用済みなのね……」


 天使のレイたちは、話を終えるとそのまま、天に帰ろうとする。


「ちょっとレイ!まちなさいよ。リトルゴジラはどうすんのよ!」


 アスカの抗議の声に

「そう、よかったわね……」

「わたしには何もないもの……」

「ダメ!碇くんが呼んでいる……」


 三人三様で、わけのわからないことを答えると、そのまま天に帰っていった。
 


 切り札、モスラを失い。もう、リトルゴジラの攻勢を止める者は何もないかと思わ
れたその時、悲劇はおこった。

 
 びゅーん
 
 バシィ

  
 ふたたび、ミサトをみとめたリトルゴジラは、君子危うきに近寄らずと、回れ右を
したのだが、そのとき偶然にも、尻尾がミサとの手からえびちゅを叩き落したのであ
る。


「あー!わたしのかわいいえびちゅがー!」


 キッと、リトルゴジラをにらみつけたミサトは、すくっと立ち上がる。
 その目はすでに、よっぱらいのおっさんでなく、戦を前にした軍人の目である。
 そのままミサトは、ゲンドウの前に進んだ。


「碇指令。リトルゴジラ殲滅のために、Z型プラグスーツの封印解除。フォース、
フィフスの動員、および、シクスチルドレンの認定を許可ねがいます」

「問題ない。やりたまえ、葛城二佐」

「ありがとうございます」


 敬礼をすると、ミサトは日向に指示をだすべく、立ち去る。


「おい、碇いいのか」

「式の運営に50%のおくれが出た。このままでは、碇家補完計画に重大な遅れが出
る」

「やもえんか」

「ああ」


 ミサトの指示のもとチルドレンの召集、および、Z型プラグスーツが用意される。


「先輩。あのわたしZ型についてはよくしらないんですけど」


 一部では、レズと思われるほど、リツコにべったりなマヤが知らないというのも非
常にめずらしいことだ。


「ガキエル戦でシンジくんとアスカの共鳴により、弐号機はこれまでにない、シンク
ロ率を記録したわ。Z型プラグスーツは、それをより効率的に共鳴させるためのスー
ツなの」

「じゃあ、なんで採用されなかったのですか」


 バタン


 リツコが答えようとしたそのとき、ミサトが教会のドアを押し開け入ってきた。


「えびちゅのあだ討ちよ!攻撃開始!」


 ミサトの号令に対する、チルドレンたちの反応


「ミサトさんおりてもええですか?」

「フフン、なかなかみじめな格好だねぇ」

「相田ケンスケ16歳!ついに、チルドレンに認定されました。天国のお母さん…う
ううう」


 尻尾がひとつに、足ふたつ、腕の変わりに羽があり、そして頭部がさんこ。


「キ・キングギドラ〜!」
 
 
 その姿をみて歓声が沸き起こる。
 そうZ型スーツとは、モスラに並ぶ、ゴジラの永遠のライバル、キングギドラを模
したスーツなのである。


「Z型プラグスーツ通称、リトルキングギドラ。ガキエル戦の戦訓をもとに、チルド
レン三人の共鳴を補助し、エヴァとのシンクロ率をUPすることを目的に開発された
スーツ。しかし、やもえぬ事情で今日まで封印されてきたの」


「どーしてなんですか?先輩」


 マヤは、興味津々という形で


「理論上も実験段階でも、三人の共鳴の補助という目的は達成されたのだけれど、一
番の問題は心だったのよ」

「心ですか??」 

「そう、結局、DNAとか色々あって、女男女。つまり、レイ、シンジくん、アスカ
の順で並んでくれるのが一番よかったのだけれど、シンジくんがちょっとでも、レイ
の方をむくと、アスカが焼き餅やいて、シンクロ率が大幅に低下。起動すら……」


「あーーーー!あーーーーー!」


 アスカが、大声を上げてリツコの言葉をさえぎる。


「そんなの、不格好にきまってるからでしょう!D型プラグスーツのほうが、一〇〇
倍ましだわ」

「ま、そういうことにしておきましょ」


 軽く、アスカをいなすリツコ。ここらへんさすがに大人の女である。


「リツコ。ちゃんとつかえるんでしょうね。あんな、二線級のチルドレンばかりで」


 ジト目で、リツコを見つめるアスカ。


「理論上は、(熱血)バカ、ホモ、(カメラ)バカと理想的な配列と組み合わせなん
だけどね……」


 さすがのリツコも、チルドレンの質の悪さに自信がない様子である。


 しかし、かわいいえびちゅを臨終させられ復讐に燃えるミサトにそんな状況などは
理解できない。


「さぁ、リトルゴジラをたおすのよ!リトルキングギドラ!」


 バタバタ バタバタ


 しかし、羽を動かすだけで、いっこうに前進しない。


「どーしたのよ!いったい!やる気がないの!」


 猛り狂うミサト。


「あの〜ミサトさん。ええですか?」


 三人の中で、意外なことにもっとも冷静なトウジが話しかける。
 もっとも、後の二人は、歌を歌っていたり、チルドレンに認定されたのに感激して
滝の涙を流しているだけ、はっきりいうと、いるだけで役に立ってないのだが……


「どーやって、歩けばええんですか?」


 中身の人間は、三人で六本。Z型スーツは二本。六本の足を二本に詰め込んでるの
である。歩けるわけがない。


「ふふん。鈴原くん。君のすね毛がすりすりして、きもちいいねぇ……」


 まぁ、約一名は楽しんでいるようであるが……


「……」


 ミサトは、くるりと後ろを振り返るとリトルゴジラを手招きして、リトルキグング
ギドラの前まで呼び寄せる。


 ペタペタペタ


「さぁ。リトルキングギドラ!敵は目の前よ!必殺噛み付き攻撃よ!」


 バタバタ バタバタ


 しかし、相変わらず羽をバタバタさせるだけで一向に攻撃に出ないリトルキングギ
ドラ。


「なによ!なんで攻撃しないの」


 再び、怒り狂うミサト。


「あの〜ミサトさん。ええですか?」

「あによ!えびちゅの敵が取れないというの!」


 もう、いってることがむちゃくちゃである。


「あの、首のばすことできんのですが」


 当たり前の話しである。
 キングギドラになりきるには、ろくろ首でも無い限り不可能であろう。


「こ、根性でなんとかしない!」

「はぁ、ミサトさんがいうならがんばりますが……」


 必死でリトルゴジラに噛み付こうとするトウジ。


 バタバタ バタバタ バタバタ バタバタ


 しかし、むなしく羽をバタバタさせるだけである。


「鈴原くん。もうすこしよ!」

「あかん。ミサトさん。やっぱダメです」


 バチーーーーーーン!

  
 ミサトは、トウジの頬をたたく


「なにをいってるの!あなたが諦めたら、誰がえびちゅの敵をとるの(あとの二人は
やくにたないし)」

「ミサトさん!わいが間違ってました!」

「わかってくれたのね。鈴原くん……」

「ミサトさん……」


 共通の敵にむかって協力しあう美しい光景がここに展開される。
 だが、しかし、世の中はそんなに甘くはない。


 びゅーん 


 ビターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 リトルゴジラ必殺の尻尾攻撃。
  
 ミサトと青春ドラマをしていたトウジだけでなく、自分の世界にいっちゃってた、
カヲル、ケンスケを一撃のもとに葬り去った。

 リトルキングギドラ五分で退場。


 「ふ、無様ね」


 運び去られるキングギドラに向かって非情な決めセリフをはくE計画責任者。


「ちょっと、リツコ!あなたねぇ。少しは責任感じなさいよ!」

「あら、どうしてかしら」

「あ〜んな。できそこないのプラグスーツなんかつくって、おかげで貴重なチルドレ
ンが三人も負傷したのよ」

「封印しておいた、Z型プラグスーツを勝手に持ち出したのはあなたよミサト。それ
に、現状で与えられた戦力で最大限の戦果をあげるのが、作戦部長としての責務でな
くて、自分の作戦能力の欠落を技術部の責任にしないでほしいわね」


 三十路女同士の実におとなげない争いが展開される。


「な、なんですって!金髪の若作りのおばさんからいわれたくないわ!ああ、そうか
若作りしないと、男の子よってこないもんね」

「誰が、若作りよ。男の一人くらいわたしだっているわ!碇指……。副指令、碇指令
は……」

「ああ、碇ならたった今『冬月先生。後をたのみます』といって消えたが、なにか
ね」


  自分に飛び火するのを察したゲンドウはすでに逃げ去ったあとであった。

  
「あら〜ん。どっこに男がいるのかな〜。ミサトちゃんわからないなぁ。作る物は欠
陥品だらけだし、男は作れないし、ほ〜んとリツコって……」


 勝利を確信し、リツコをからかいだすミサト。

 しばらく下をむいて、「男なんて」とか「母さんも私も捨てられた」とか、ブツブ
ツいっていたリツコであったが、ミサトの欠陥品発言にマッドの血が騒いだのであろ
う、顔をあげたリツコの顔は完全に科学者の顔であった。


「マヤ。あれを用意して!」

「先輩。ついに、あれをだすんですね」

「そうよ。早くして」

 
 ガーーーーーーーーーー


 蹴散らされたウェディングケーキの乗っていたテーブルが床下に沈みしばらくする
と、再びせり上がってくる。



「見なさいミサト。これが技術部の総力を結集した。最終兵器リトルメカゴジラよ
!」



 高らかに、言い放つリツコ。それをうっとりと見つめるマヤ。しかし、なぜか周り
の反応は芳しくなかった。


「あんたバカぁー!」


 その沈黙をやぶったのはお約束の人アスカである。


「そーんな。新秋葉原とか新アメ横で売ってるようなおもちゃで誰が感心するのよ」

 
 列席者一同、アスカの言葉にうんうんとうなずく。
 それも、そうだろう。なんせ、メカリトルゴジラの体長はわずか、1メートル程度
である。
 おもちゃ会社「セントウ」がだしている。ラジコンゴジラとたいして代わり映えの
しない大きさであるのだから


「なにを言ってるのアスカ。小型でも性能は保証付きよ。みてみなさい」

   
 ゴォーーーーーーーーーーー!

 
 リツコがボタンを押すと同時に、リトルメカゴジラは火炎放射を始める。


「ほほほほ!ねぇすごいでしょ。そんじょそこからの火炎放射器より性能はいいの
よ」


 ゴォーーーーーーーーーーー!


 見せびらかそうというのであろう。リツコは教会中をなめ回すように火炎放射を続
けると、カーテンに引火してあっという間に教会中が火の海になる。


 メラメラメラ メラメラメラ


「ほほほほほほ!どう、すごいでしょ。ネネ〜♪」


「どこがすごいんだ!」

「やめろマッド!」

「ばぁさんは用済み!」
 
 
 当たり前のことだが、このリツコの問いかけ対する返答は逃げまどう列席者の罵声
であった。しかし、いっちゃってるリツコには、リトルメカゴジラの価値が理解され
てないと思いこみ更なるアピールに走る。
 

「ほら、ミサイルも撃てるのよ!」


 
 ビューン ビューン ビューン スシュババババババババババン



「もうダメだ!逃げようアスカ」


 出席者が逃げるなか、最後まで残っていた二人であったが、火災と次々と撃ち出さ
れるミサイルで崩壊していく教会に見切りをつけ手をとって逃げ出そうとする。


「覚えてなさいよリツコ!あっ!」


 捨てぜりふを残し、シンジの手を取って逃げ出そうとするアスカであったがドレス
の裾を踏んで倒れてしまう。
 そして、その上にミサイルによって破壊された梁が落ちてくる。


「きゃーーーーーーー!」

「アスカーーーーーー!」 
 

 どかっ!


 絶望の叫びをあげたシンジの胸に、投げ込まれてきたのは彼の最愛の人アスカだっ
た。
 

「へ……?」


 予想外のことに二人が、顔を見合わせてアスカが先ほどまでいた場所に顔をむける
と、そこにはアスカを投げ飛ばして代わりに梁の下敷きになったリトルゴジラがい
た。


「レイ!」

「綾波!」

 二人はあわてて、近寄るとリトルゴジラを、無駄であるとわかりながらも両手を
ひっぱり梁の下から引き出そうとする。


「だめだぁ抜けないよぅ」


 アスカが半べそで泣き出すと、リトルゴジラは二人の手をやさしくふりほどく。


 カポッ! 


「アスカ。泣くなんてあなたらしくないわ……」


「レイ。だってだって……」


「速く逃げなさい。このままじゃあなたも碇くんも死んでしまうわ」


「レイ……」


「いいの。わたしが死んでもかわりはいるもの……」


 カポッ!


「バカいわないでよ。アンタはアンタでしょ。アンタのかわりなんているわけない
じゃない」

「綾波!」 


 伝えたいことはことは言い終えたのだろう。
 そのまま、リトルゴジラは助けだそうとする二人の手をふりほどき、速く逃げろと
ゼスチャーするだけであった。
  

「アスカ。逃げよう」


 リトルゴジラを助けるのは不可能と判断したシンジはアスカの手を引いて立ち上が
らせる。


「でも、シンジ。レイが……」

「このままじゃ、綾波の思いが無駄になる。行こう」


 シンジは、強引にアスカを抱き上げると出口に向かって走り出す。
 アスカの悲痛の叫びを残して……


「レイーーーーーーーーーーー」


 二人の脱出を見届けたリトルゴジラの顔は、ほほえんでいた。






 ガラガラガラ


 二人が脱出したと同時に教会は崩れ落ちた。


 
 純白のウエディングドレスと顔を煤で真っ黒にしたアスカがぽつんとつぶやく。


「あたしとシンジの結婚式がめちゃくちゃ……」

「不吉よ!この結婚は呪われてるわ!」


 アスカのつぶやきに我が意を得たりとばかりに、叫び出す女。
 霧島マナである。


「な、なんですって!アンタあたしに喧嘩売ってるの!」

「事実でしょ!」

「どこがよ!」


 アスカの問いかけにふふんと鼻を笑ったマナは自信たっぷりに話す。


「結婚式の最中に、身内による暴動にはじまり、火災、さらにはそれによる死傷者続
出。呪われてるにきまってるでしょ」

「た、たいしたことないわよ。雨降って地固まるていうでしょ。レイはともかく、雑
魚キャラが多少どーなろうが全く問題なしよ」


 たしかに、日向や、特に青葉がいなくなったとしても大した影響はない。
 もっとも、日向も「ミサトさん好き好き」がなければ存在価値はない。


「まぁ。ひどーい。シンジ聞いたぁ。本当、アスカってひどい女よね」

「ええと……」


 いきなりふられて、どもるシンジ。しっかりしろ!


「ねね!シンジもそう思うでしょ。それにね。ウェディングケーキ入刀という最初の
夫婦の共同作業すら上手くいかなかったのよ。アスカとの夫婦生活の未来を暗示して
るのよ」

「ええと……」


 指で頬をぽりぽりかくシンジ。


「アスカなんかとはきっぱり別れて、かわいいマナちゃんと一緒になったほうはしあ
わせよ。ネネネ」


 ここぞとばかりに一気にたたみかけるマナ。


「アンタばかぁ〜!」


 マナを突き飛ばし、シンジから引き離したアスカは両手を腰に当てたいつものポー
ズをとる。


「あたしは事実をいっただけよ!」
 

 マナもここが勝負とばかりに必死でくいさがるが、アスカは「フフン」と鼻で笑
う。
 

「なによ!日本人は形から入るものよ!たかが、ケーキの入刀。されど、大事な夫婦
の最初の共同作業よ!」

「形よりも、既成事実よ!」

「「「「へ?」」」」

 
 マナだけでなく列席者一同の疑問符が沸き起こる。


「夫婦の共同作業の成果で妊娠三ヶ月よ!」

「「「「ひょぇーーーーーーーーーーー」」」


 結婚しただけに、昔のように「不潔よ」とか「いやーんなかんじ」とかわけわから
ないことをいう者は、さすがにいなかった。 
 次々と二人にお祝いの言葉をかけてくる。

 そして、アスカとマナ、勝利と敗者の女の目が合うとアスカが勝利の笑みを浮かべ
る。


「なによ!あたしだって、シンジと(露天風呂で)裸のお付き合いなんですからね」


 悔し紛れに、おもいっきり誤解をされる捨てセリフを残し、半べそをかきながらマ
ナは走り去っていった。


「シンジ〜 今のマナの捨てセリフに覚えはあるのかしら」

「ええと、その……」

「この浮気者!」


 シンジがアスカに半殺しにされたのはいうまでもない。 




「まぁまぁ、アスカもそれくらいで結婚式の続きをしましょ」

「まぁ、ミサトに免じて今回は、これくらいでゆるしてやるわ」

「はひ……」

 
「これくらい」でとアスカはいうが、シンジの頬は腫上り、服はボロボロ。
「これくらい」で、このありさまなのだから、次に待っているのは「死」であろうこ
とは、想像にかたくない。 
  

「でも、ミサト。教会がこのありさまでどうやって続きをやるの?」

「こんなに、大きなキャンプファイヤーができてるじゃない。これを囲んでの結婚式
もおつなものよ」

  
 さすがはミサト。宴会を仕切らせれば右に出るものはない。


「さぁさぁ。料理も追加したわよ!アスカとシンちゃんの前途を祝って乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」」


 ミサトの音頭で、結婚式と称する大宴会がこうして繰り広げられた。
 
 

 あるものは、ビールを片手に陽気に歌い。 

 あるものは、ひたすら写真をとり。

 あるものは、料理をひたすらつめこむ。

 あるものは、新郎新婦と語り合う。


 何をしていても、みな新郎新婦を心から祝福していた。

 
 そんな、あるものたちの会話
  

「なぁ碇。碇家補完計画より早すぎる展開だぞ」

「問題ない」











 空にぽっかりお月様

 さしもの大宴会も幕を閉じ、つわものどもが夢の後

 宴のあとに残るのは、焼け落ちた教会のあと。


 もぞもぞ


 もぞもぞ
  
  
 無人のはずの焼け跡でなにやら、うごめいてる。



 もぞもぞ


 もぞもぞ

 
 しばらくして、そのものは立ち上がった。


「がおーーーーーーーー。がおーーーーーーーー。」


 リトルゴジラである。



 カポッ!


「よく寝た…… 暖かくて気持ちよかった……」


 いままで、プラグスーツに守られて適温の中、ずーと居眠りをしていたらしい。


 きょろきょろ

 きょろきょろ


「誰もいない。そうわたしは一人なのね……」


 さすがにミサトが仕切っても、二二時までは宴会はしていない。


「おなか減った……」


 レイは、ポツンとつぶやくと、プラグスーツのなかをあさり封筒をとりだす。
「依頼料」「霧島マナ」と署名されてた封筒には、にんにくラーメン無料券の束が
入っていた。


「ニヤリ」



 カポッ!



「ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー!!ガオーーーーーーーーー
!!」



 歓喜の雄たけびをあげると、駅前のラーメン屋へリトルゴジラは去っていった。 



 ペタペタペタ

 ペタペタペタ


 













 ポテッ!





 カポッ! 
 



「鼻がいたひ……」 
 









作者注:この小説は、マダマニアウサさんのリトルゴジラ・レイちゃん復活委員会に
協賛しています。


マナ:なんでこうなるのよっ。

アスカ:アタシがシンジと結婚して、悔しいんでしょうっ。

マナ:違うわよっ! なんでわたしが悪の親玉みたいになってるのって言ってるのっ。

アスカ:嫉妬に狂った女は、何するかわかんないわねぇ。恐いわぁ。

マナ:その上っ! もうっ、すごーくマヌケじゃないっ!

アスカ:地でいけるキャラね。

マナ:地ぃっ!? そんなはずないでしょーーーーっ!

アスカ:まさかファーストを操ってくるとはねぇ。

マナ:これはなにかの間違いよ。悪夢よっ。

アスカ:計画が失敗したからって、そんなに落ち込まないの。

マナ:そんなこといってるんじゃないぃっ!

アスカ:今更いい娘ぶったって、所詮アンタは悪役なのよっ!

マナ:ガーーーン。

アスカ:わかったら、とっとと自分の悪行を認めるのねっ!

マナ:いいじゃないっ。

アスカ:えっ?(@@)

マナ:こうなったら、とことん邪魔してやるぅぅぅっ! 徹底的に邪魔してやるぅぅぅっ!

アスカ:あ・・・いや・・・。(^^;;;;;
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