キミはボクが守る        −南樹−



沈む日の赤みが黒に染まり始めたころ。
リビングでくつろいでいたシンジは何気なく時計を見る。
そろそろでかけていたアスカが帰ってくる時間だと、なんとなく考えていた。

プシュ

「おかえりーアスカ」

返事が無くドスドスと怒りに満ちた足音が近づいてくる。
また、気に触ることでもしたのかと今日の出来事を振り返っていると、
シンジの前に案の定怒りに満ちた顔のアスカが現れた。

「くやしいーー」

「ど、どうしたの急に?」

「チカンよチカン、帰ってくる途中にお尻を触られたのよ」

「はぁ、そんな事か」

自分の事で怒っていたのではないと解りホッとするが、最後の言葉はまずかった。
シンジの無関心がアスカの気に触った。

「そんな事とは何よ、そんな事とは。あんたにあたしの悔しさが解るの」

「あの・・・その・・・」

「傷ついた乙女に向かって、そんな事とは何よ」

「ごめん」

「あやまればいいって問題じゃない!」

「アスカが傷ついたのは解ったからさ、その・・・」

事態の収集をはかり、アスカをなだめようとするが、最後の言葉はまずかった。
シンジが話しを終わらそうとしている事がアスカの気に触った。 

「解ったて何よ、どこをどう解ったのよ」

「いや・・・えっと・・・」

「実際、見てもいないで勝手なことばかり言って」

「ごめん」

「あやまればいいって問・・・!」

「?」

このままでは当分、堂々巡りになると気が付いたアスカにふと名案が浮かぶ。

「そうね、バカシンジに解らせるには身をもって体験させるのが一番ね」

「えー、そんなのいやだよ」

「うっさい!言っても解らないなら、こうするしかないじゃない」

「・・・でも、僕がアスカ役だろ?」

ドゲシ

シンジのフトモモにローキックが炸裂する。

「いったー、なにすんだよ」

「なにアホな事いっているのよ、あんたがチカン役にきまってんじゃない」

「えー、なんでさ・・・」


しばらく問答した後。
しぶしぶと承諾したシンジに帰りのリニア内で起きた状況を再現させようとする。
ダイヤの乱れと会社帰りの人とかでかなりの混雑だったらしく、
アスカの後ろに立つシンジとはかなり密着している。

「そう、それでね、後ろから・・・触ってきたの・・・」

「!」

アスカの言葉を軽くあしらおうとしていた自分が恥ずかしくなった。
混雑している中で逃げるのは不可能だと容易に想像はできる。
女の子がこんな状況になったら・・・。



「・・・どうしたの、触らないの?」

「できないよ・・・」

「あんたはチカン役なんだから触るの!」

「できないよ、そんな事・・・」

「いいから!」

有無を言わさない迫力で触ることを強制してくるアスカに対して、
どうして?と思うも仕方なく言うとうりにする。


躊躇していたシンジの手が少しずつ近づきアスカのお尻にスッとふれる。

ビク

アスカが大きく震えた・・・微かに声が聞こえてくる。
しまった、と心の中で後悔したシンジが声をかけようとした時、
アスカがその場にへたり込んでしまう。

「ごめん、アスカだいじょうぶ?」

「・・・シンジは悪くない・・・」

「えっ?」

「こわかった・・・こわかったの」

先ほどの体験を思い出したアスカは、
膝を抱え込むように座りなおし顔を膝に押し付ける。

後ろでたたずむシンジは、声をかけたかった、抱きしめたかった。
しかし、頭の片隅に自分は彼女にとって何なのか?そんな渇いた考えがよぎると、
・・・何もできなかった。


拒絶されるのが・・・怖かった。


「あたしだって・・・あたしだって普通の女の子なんだよ」

「・・・うん」

「好きでもない男に触られるのが・・・どんなに怖いか」

「・・・うん」

「シンジ、どうしてそばにいてくれなかったの?」

「・・・ごめん」

「シンジ、どうして助けにきてくれなかったの?」

「ごめん」

「シンジ、あたしはみんなが思っているほど強くはないんだよ」

「・・・・・・」

「シンジがいてくれないと・・・あたしは・・・あたしは・・・」

アスカの言葉の答えを返すように、包み込むように、後ろから力強く抱きしめた。
ある決意と共に。

「ごめんね、そばにいてあげられなくて」

「・・・・・・」

「ごめんね、助けてあげられなくて」

「・・・シンジ」

「ごめん、ごめんね・・・」

自分の肩に温かい雫が落ちているのをアスカは感じていた。
抱かれた腕にそっと手を添える。


「アスカは・・・・・・アスカは僕が守るよ」

「シンジ・・・」

「迷惑かな?」

「ううん、うれしい・・・ありがとうシンジ」

二人にとって短いような、長いような時が過ぎていく。




今日の夕食は、アスカの好きな物ばかりが並び素晴らしいものとなった。
ホクホクと食べる笑顔のアスカに、つられてこちらも笑顔になる。

『よかった、いつものアスカだ』

心底安心した、さっきまでのアスカが嘘のようだ。

「ねー、シンジ今日は一緒に寝ようね」

ブハァ

すすっていた緑茶を盛大に吹き出す。
-
「ゴホッ・・・ど、どうしたの急に?」

「だって・・・寝ている間に・・・」

最後の方はゴニョゴニョといって聞こえなかったが大方の察しはつく。
おそらく、『寝ている間にチカンでも来たら』だろう。

「そんな訳ないだろ」

「だって・・・」

先ほどのまでのアスカの出来事を思うと・・・どうしても。

「ダメだよ・・・」

「・・・アスカは僕が守るって言ってくれたのはウソだったのね」

「ウソなわけないだろ」

じゃあ、と期待に満ちたまなざしを向けられたシンジは・・・。

「・・・・・・わかった、今日だ・・・」

「今日からね!」

「・・・・・・・・・・・・」


こうしてシンジとアスカの初めての夜がやってくるのでした・・・・・・。







−後書き−
最後まで読んでくれた方ありがとうございます。

今回はちょっと中途半端になってしまった感じで少し残念です。
ちなみに痴漢はアスカに半殺しの目にあい警察に突き出されています。

それではまた。
                           南樹


マナ:痴漢にあった可哀想な女の子を装って、なにしてんのよっ!

アスカ:装ってって、実際可哀想じゃないっ!

マナ:痴漢の相手を半殺しにしといて、よくもまぁ。

アスカ:それは関係ないでしょ。

マナ:じゃ、なんで半殺しにしたこと、シンジに言わないわけぇ?

アスカ:だって、別に言う必要無いし。

マナ:シンジに守って貰わなくても、自分で対処できるでしょっ!

アスカ:いちいちウッサイわねぇっ! いいじゃないっ! シンジに守って貰ったってっ!

マナ:なにが、「どんなに怖いか」よぉっ!(ー3ー)

アスカ:むぅ!!!! ハラタツワネーーーっ! あーそうですかっ! いいわよっ! そこまで言うんならっ!

マナ:なによっ。

アスカ:ちゃんと痴漢の怖さがわかればいいんでしょっ!

マナ:ちょっと、アスカ。(@@)なにもそこまで・・・。わたしは・・・。(^^;;;;

アスカ:明日、シンジを痴漢してやるーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!(^O^)

マナ:違うでしょ。(ーー)
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