* LAS以外興味ない方にはまったく面白くありません*
*戦略自衛隊の自衛官達のことを気にしていない方にも面白くありません*

以下は、2001年に発生した東京での惨劇を記した外伝である

Coldcat, do you copy?
Iceman, communications are clear
You`ve got lovely guests tonight, bandits four o`clock
Vicecall, lead, all weapons hands free
Tally ho!!!
Blue wing, keep your course
Redpanda, fox two
Shit! One`s on my tail
Splash!
Blue three, hit!

「全機、目標を撃墜せよ」
「東京に落とさせるな!」
「総力を挙げろ!」

安らかな寝顔
KNIGHT OF A PRINCESS
作者:名無し

ANECDOTE:使命と意義

 東京、霞ヶ関にある政府官庁は水没していた。一年前の大災害―セカンドインパクトによってその機能は麻痺していた。今のところ、政府は長野に移転している最中であった。
 セカンドインパクト―その直接的な被害はあの津波だった。南極での爆発は相当なものであったらしく、南半球の沿岸都市は数百メートルもの巨大な津波によって完全に破壊されていた。北半球もその被害を逃れることは出来なかった。東京やニューヨークといった経済都市もまた、数十メートルに及ぶ津波によって沿岸部を破壊されていたからだ。幸いだったのは、彼らは南半球ほど被害は無く、復旧も容易であったことだった。
 問題は、一度引いた水が再び増えているということだった。沿岸設備を破壊し尽くしたあの津波はすぐに引いたが、次第に水かさが増え始めたのだ。説明によると、爆発によって消滅した南極大陸は、一種のクレーターを形成しているらしいとのことだった。そして、溶けた氷が作り出した大半の海水はそのクレーターの中で海面より高い位置で溜まっているらしいとのことだった。だから、南極大陸が消滅し海水が増大しても東京やニューヨークは水没しなかったらしい。
 問題は、そのクレーターから海水が漏れ出し、海面が如序に高まっているということだった。それはと東京がいつしか人間では無く魚の住みかとなることを意味していた。いつしか沈んでいってしまう都市。イタリアのベネチアが世界中に仲間を持ったのだ。そういったロマンに浸っているほど、世界情勢は明るくなかったが。
 沈む運命にある東京には、まだ一○万人もの人間が住んでいた。多くの国民・企業はすでに安全な場所に退避し新たな都市を建設しつつあったが、中には生まれ育った街から離れたくないという人々もいた。無論、彼らも海水が自分の家を浸すようになれば、諦めて住居を変えるであろう。しかし、今はまだその時期では無かった。東京が居住不可能になるまで、あと一年はあった。いわば、江戸の開拓から始まった東京の黄昏、そういうことだった。
 
「合衆国の動向が怪しい?」、長野に移転された防衛庁の幕僚会議室において、矢矧ソウジ一佐が疑問の声を漏らした。二人の男の前には決して広いとはいえない会議室―ここはまだ仮の施設だった―の壁にプロジェクターが米軍戦力の位置を映し出していた。
「ああ、この前も<はるな>が連中のいやがらせを受けた」、利根アキラ海将補が説明する。
「上のツケですか」
「そうだ。政府は米国と手を切りたがっている。現状では在日米軍への"ご好意"なんてできるほど予算が無いからな」
「そして、米国は"思いやり予算"を必要としている」
「そうだ―まあ、日本は連中と比べると、まだましだからな。一度戦後を経験している。復興速度からいったら、日本に敵う者はいないよ」
「で、今度の恐喝ですか」、矢矧は両手を挙げながら言った。
「言葉に気を付けたまえ、連中は一応同盟国なんだぜ」
「私にどうしろと?」、矢矧はさして悪びれた様子も見せずに聞いた。
「もうちょっと切れる男と思ったんだが」
「確認しただけです。つまり空自の仕事となるわけでしょう」
「うん、そうだ。FS-3を一個小隊回す」
「極秘に開発しておいて良かったですね。F-2の値段を吊り上げてまでも」
「今のところ海自は使えん。イージスが<こんごう>だけでは海上での迎撃は無理だ。空自に任せるしかない」、利根は悔しそうに言った。海上自衛隊所属の彼としては悔しさを隠し切れなかった。
「ええ、まあ、相手が護衛のついていないB-2程度なら」
「連中がラプターを投入しないことを祈るよ、神が存在するなら」
「そんなもの一年前に忘れましたよ、私はね」

 セカンドインパクトからの復興―それはあまりにも恐ろしいものであった。世界中で紛争が勃発し、無秩序が支配権を手に入れた。世界の警察を自負するアメリカ合衆国や、そのいいなりであった国連はそれをどうすることもできなかった。米国自身、自らを守るために軍事力を自国に引き上げていたし、国連は世界各国の軍事力を頼りにしていたからだ。手を取り合っての共栄共存―それがいかに先進国のエゴであったかを証明する皮肉な現実だった。
 復興がもっとも著しかったのは北半球の二ヶ国―日本とドイツであった。かって敗戦国として廃墟から国を作り上げ、世界有数の経済国にまで発展させた日本人とゲルマン人はその勤勉さを再び発揮させて再び蘇らんとしていた。日本とドイツは世界でもっとも安全で裕福な国―そう言われたぐらいだった。
 これに我慢ならなかったのが米国であった。米国はそれまで経験したことの無かった経済への大打撃を受けていた。九○年代の米国経済を支えたハイテク産業がシリコンヴァレーと共に消え去り、ニューヨーク・ワシントンD.C.といった経済・政治拠点が灰燼と化した。そして、米国人は開拓精神を持ち合わせていても再建することは得意では無かった。彼らはその再建に必要な無傷の後方支援地を持っていなかった。シカゴに始まる五大湖周辺の工業地帯をも破壊されていたからだ。
 米国はそのため、日本の"思いやり予算"―在日米軍の維持費―を始めとする数々の"経済援助"を必要としていた。だが、日本にもそのような馬鹿馬鹿しいことをするメリットも余裕も無かった。だから、その資金提供は終わろうとしていた。そして、米国の恐喝が始まったというわけだった。

「諸君、今回の作戦は簡単なものだ。トウキョウシティーに新型爆弾を投下する―それだけだ。連中がイーグルを持っていることを考慮して護衛もつく」
 米国空軍、その精鋭爆撃部隊がアラスカでブリーフィングを行っていた。
「民間都市へですか!」、疑問の声があがる。彼らも軍人である前に人間であった。
「その通りだ。我々は日本人に爆弾を落とす」、指揮官が感情を表に出さずにはっきりと言った。
「任務だ。感情は許さん」
文句は出なかった。彼らは命令に従うよう、訓練されている。そして、セカンドインパクトが起きた後も彼らは軍人であった。軍人に疑問は許されない。命令に従うのが彼らの義務である。たとえ、それが悲劇を招こうとも。

 自衛隊は陸上・海上・航空の三部所に分かれている。名前の示すとおり、あくまで国を守るための組織である。そして、ある意味軍人の理想の姿でもあった。とくに、このご時世、富の集中し始めた日本には自衛隊が必要不可欠であった。何せ、あの米国でさえ日本を白い目で見るようになっているのだから。
「え〜資料の示すとおり、アメさんはどうやら本気らしい。一○万人の半難民が住んでいる廃墟寸前の元首都を破壊するつもり、ということだね、こりゃ」
 厚木基地の一角に設けられた待機所に、パイロット達の失笑が沸き起こる。
「で、君たちはそれを守る役。FS-3があるから、まあ何とかなるだろう」、彼らの指揮官である矢矧はそう言った。
「専守防衛っていうのはこういうときは便利だね。相手がここに来るって、わかるからな」
「矢矧一佐、質問が」、若いパイロットが挙手する。
「何だね」
「我々の交戦規定でありますと、自機が撃たれないと防戦できません。僚機が火に包まれても自分は弾一発撃てず、という状況は・・・」
「ああ、今日限りあの馬鹿げた条文は諸君の脳裏から消していい。どうせ平和憲法なんてこのご時世じゃあまり意味無いからな。領空審判の警告だけでいい。後はオール・ウェポン・ハンズ・フリーだ」、矢矧は得意そうに言った。事実、彼自身がそうできるようあちらこちらに根回ししたからだ。
 疑問が無くなったことを見届けた矢矧は満足そうに頷いた。
「諸君達が空で楽しむ前に、整備長に一つだけ話をさせてくれ」
 矢矧が手招くと、厚木基地の整備長―パイロット達から「おやっさん」と親しみを込めて呼ばれていた―が歩いてきた。鍛えられた目が整備長を見つめる。
「あ〜おやっさんです」
爆笑が沸き起こった。
「はは・・・ああ、そうだな。わしがまだ子供のころだった。前の戦争の時だな」
 静けさが戻った。
「あのころは酷かった。東京は今以上に焼き尽くされてな。焼夷弾やら機銃弾やらで東京にはろくな建物が残っておらんかった・・・わしも爆弾の雨から走って逃げ回っておった。怖くて怖くてなぁ・・・今でも夢に見る。それでなぁ、自衛隊に入ったんだ。今度は守ってやるってなぁ。だが、わしはパイロットになれんかった。それに、もう年だ。だがなぁ、あんたらの整備長だ。日本を守る飛行機の整備長だ」
 整備長は少し涙ぐんだ。
「頼む。わしや五○年前のあんたらの先輩が守れんかったこの街、守ってやってくれ。空は任した!今度はぁ、絶対にぃ守ろうや」
 一瞬の静けさの後、歓声が沸き起こった。皆立ち上がり、掛け声のもとで敬礼する。
「国民に敬礼!」

 FS-3は米国の横槍で瓦解した国産戦闘機計画―FS-X―の名残りともいえる戦闘機であった。共同開発となったF-2の予算を極秘に流用し、他からも予算を取って開発された日本独自のステルス戦闘機であった。F-2が既存機の改良型であったにも関わらず値段が異常に高かったのはこのためであった。
 FS-3の存在は米国に察知されてはいたが、その性能はまでは明かされていなかった。驚くこと無かれ、日本の民間・軍事技術の総結集ともいえるプロジェクトにより、世界最高の戦闘機が開発されたのであった。この機体でなければ今回の作戦は完全に無理、と断定されるところであった。
 パイロット達はそのFS-3に乗り込む。スイッチを入れ、機体を起動させる。地上班のセットアップにより、準備は万全であった。戦闘機が次々と空に消えていく。
 矢矧はそれを見ながら思った。整備長じゃないが、畜生。絵になるじゃねぇか、国を守る男っていうのはよぉ。五○年前の人間達に見せたかったもんだ。できるならば、今のアメさん達にも。

 戦闘機隊が爆撃隊を発見したのは昼であった。早期警戒機が辛うじて発見した米国の送り込んだ刺客―爆撃隊はステルス爆撃機とステルス戦闘機で構成される大編隊であった。空中給油によってはるばるアラスカから飛んできたご一行様、といったところだ。
 迎撃はまず、旧式機であるF-15イーグルの突入で始まった。既存機としては最高性能を誇るイーグルは、囮役としてミサイルを放ちながら急降下で迎撃を開始した。それに続き新鋭機のF-2が迎撃を開始する。米軍側も応じ、空に無数の花火が発生する。
 米軍は任務を遂行しようと必死であった。空自は国民を守ろうと、その命を散らしていった。少なくないステルス戦闘機が撃墜されるが、自衛隊側の被害はもっと大きい。旧式機が多い自衛隊では、最新鋭のF-22ラプターに敵わないのだ。米軍は勝利を確信した。
 四機のFS-3がミサイルを一斉に放ったのはこのときであった。後のエヴァにも使用される最新鋭の探知装置を使ってのミサイル発射は、これまでの戦闘を覆す結果を生み出した。爆撃機に多きな被害が出た。
それは自衛隊に防空戦の勝利を確信させ、米軍の意図を挫かせるものだと思われた。
Victor-eight, bombs away
N2, clear
円筒形の包みにN2と書かれた爆弾が投下されたのはその時であった。一発。一発の爆弾だった。そして、それが広島・長崎を再現した。
 
閃光・爆発。東京に大きなキノコ雲が発生した。
「ああ、畜生!畜生!」
 パイロット達の叫び声が聞こえた。トランシーバーからは泣き声さえ聞こえる。東京は完全に灰と化した。地獄だった。日本は再び殺戮を許してしまったのだ。

 東京事件 ― セカンドインパクト後の政治的混乱が引き起こした日本と米国の軍事衝突。アラスカを飛び立った米国空軍の爆撃部隊が東京にN2爆弾を投下し、残っていた市民一○万人を殺した事件。米国政府は基地司令官の暴走であるとして日本に謝罪している。日本と米国の国際関係をそれまでと逆転させた事件である(歴史用語集―2028年度版) 


マナ:国の衝突で、いつも犠牲になるのは国民なのね。

アスカ:アタシの祖国ながら、これはちょっと許せないわ。

マナ:よくこれで第3次世界大戦がおきなかったわね。

アスカ:セカンドインパクトの後だから、戦争する余裕もなかったのよ。きっと。

マナ:混乱の時って、こういうことがあるものなのね。

アスカ:この後、平和になったんならいいけど、更に使徒戦があるんだもんねぇ。

マナ:ほんと、早く平和になってほしいわ。
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