第三新東京市ニュース
作者:名無し

ぱぱぱぱ〜ぱ〜ぱぱぱ〜♪(テーマソング)
第三進東京市ニュース
「こんばんは、2026年2月8日午後8時のニュースです」
 ニュースキャスターが二人映し出される。
「今問題となっている住宅問題について、第三新東京市を運営している特務機関ネルフより今日、公式発表がありました」
映像が切り替わり、ネルフ会見の模様が画面に映る。眼鏡をかけた、ネルフの制服を着た男が発表を行っていた。声は昔オペレーターでもやっていたのか、と思わせるほど響きがよかった。
「昨日、ネルフ幹部会議において都心に残っていた最後の兵装ビルの撤去が決定されました。以降、この土地を民間団体及び企業へ提供することとなります」
 記者が質問する。
「土地の価格は?」
「住宅として使用できるのはいつ頃からですか?」
 ネルフ代表が答える中、一つの質問が出る。
「夜日新聞ですが、先月おきたMAGIシステムの異常行動問題について。当社にきた匿名の電話によると、あれは二人のネルフ職員によって引き起こされたということらしいのですが」
 ネルフ代表は途端に凍りついた表情を浮かべた。微かに震える声で代表が答える。
「当組織はそのような事実を存じ上げませんが」
「しかし、あれはMAGIの前でいちゃついていたその職員カップルが、システムを狂わせたということらしいですが」
「あの事件についてはネルフ広報部に問い合わせてください。我々は住宅問題について会見を開いています」
 中継が終わる。
「今日は都市システム専門家の町田さんを招いております。町田さん、ネルフの対応はどう問題の解決に貢献するでしょうか?」
「そうですね、まず住宅用の土地が確保できます。また、これに合わせて都市システムの根本的改革が望めます。会見でも出ましたが、先月のMAGI異常問題からわかるように、第三新東京市もそろそろ行政システムを整備しなくてはなりません」
「では、ここで先程から話題になっているMAGI問題のダイジェストです」
 画面に『MAGI異常問題』、とタイトルが出る。
「1月12日、第三新東京市の行政を司るネルフのMAGIコンピューターシステムが突如異常を報告しました。これにより、ネルフは残された能力でジオンフロント運営のために都市の行政能力を一時的に凍結、地上は混乱に陥りました。ネルフによれば原因は未だに不明ですが、報道関係者独自の調査による職員の匿名証言により、二人のネルフ職員が原因ではないか、とされています。名前は判明していませんが、一人は日本人男子、もう一人はアメリカ国籍のドイツ人女性であるらしいとのことです。MAGI異常の原因は、この二人が職務中にキスをしたり抱き合ったりしてMAGIに何らかの異常を発生させたとのことです。MAGIのシステムは極秘であり、どのような状況が問題を引き起こすかわかっていませんので、この二人の行動が故意のものであるか、事故であるかはわかっていません。ネルフは内部調査機関を設けて調査中である、と事故後に開かれた会見で述べています」
 画面が再びスタジオに戻る。

「では次のニュースです。第三新東京市郊外にあるマンション、コンフォート17において不可解な現象がおきています。コンフォート17は一○年前の使徒戦で残った数少ない建造物ですが、この歴史あるマンションで住人の健康に問題が起きています。上原記者が取材に行きました」
 画面が変わり、コンフォート17が映し出される。
「はい、ここコンフォート17において心霊現象ではないか、と疑われる現象が起きています。住民が次々と不快感を訴えているのです」
 画面が再び切り替わり、玄関越しのインタビュー画面になる。最初に現れたのは管理人のおばさんだった。
「ええ〜まいったわ。昼間は大丈夫なんだけど、夜になると吐き気を覚えるのよ。なんか砂をじゃりじゃり食べるような甘い感覚に捕らわれて、気持ち悪くなるわ、ホント。まるで目の前で恋人のキスを二四時間見ているみたい」
 続いて普通の主婦が映し出される。
「本当、一五年前からここに住んでいるけど昔からこうだったわ。そうね、ちょうど使徒戦が始まってしばらくしたあたりからだったかしら、この感覚。最初はたいしたものじゃなかったわ。ダンナに甘えたくなる気分程度だったわね。だけどここ数年で強くなって、このごろは気持ち悪くなるの。バカップルって言葉ご存知?」
 今度は紫色の長い髪の毛をした四○代ぐらいの女性が出てきた。
「あ〜あれね。うん、確かに不快よ。けどね〜仕方がないのよ、あの二人。大変だったから、甘えてるんじゃない?」
「原因を知っているんですか?」、上原記者は始めて質問をした。
「ああ、知ってるわよん。そうね、エビチュビールおごってくれたら・・って駄目か。ごめんねぇ、司令から口止めされてるのよ」
 画面が変わり、上原記者がコンフォート17を背景に映し出される。
「何人か事情を知っている住人に会いましたが、原因は語ってもらえませんでした。ネルフの実験か何かかもしれません。いずれにせよ、ここで不可思議な現象がおきていることは間違いありません」
 画面がスタジオに戻る。

「次のニュースです。今日、第三新東京市北にある商店街がネルフと交渉を始めました。交渉を訴えたのは商店組合で、ネルフに対して要求を述べています。ネルフは交渉を極秘に指定し、取材を拒否しています。このため、交渉の理由・要求等は不明です」
 その時、書類がキャスターに渡される。
「今入りました情報によりますと、商店街はある二人のネルフ職員の入店を拒否する、とのことです。商店組合の公式発表によりますと、この二人がいるときは客が商店街に近寄りたがらないと述べています。また、客だけでなく自分達も強い不快感を訴え、この二人が店に入ることを拒否するとネルフに公式要求した模様です。ある店の主人が残したコメントでは、『あれはバカップルなんてもんじゃない』とあります」
「コマーシャルの後は近年増えつづける『第三新東京市精神失調症候群』の特集です」

 画面にネルフのロゴマークが映し出される。途端に青空と緑の丘の上で二人のネルフ職員が走っている姿に変わる。一人は黒髪で中性的な顔立ちの青年、もう片方は栗色の長い髪と蒼い瞳の美人な女性だった。お互いに抱きしめあい、丘から第三新東京市を見下ろす。
「僕達が幸せなのも、ネルフが守ってくれるからだよ」、と青年。
 画面にネルフに入ろう、というメッセージが現れ、最後に二人の短いキスシーンで終わる。

「引き続きニュースです。今日の特集は、近年増えつづける『第三新東京市精神失調症候群』です」
 画面が再び切り替わり、タイトルが出てくる。そして、ドキュメンタリータッチの放送となる。ナレーションが説明を始めた。
「第三新東京市精神失調症候群とは、近年この街で増え続けている精神病です。最初の確認された患者は2016年、ちょうど使徒戦が終わったころに出ました。症状は軽いものでしたが、患者は恋人同士の触れ合いに恐怖を覚えたと述べています。原因は不明でしたが、とにかく恋愛に関すること全てが怖くなったということです」
 画面に再現映像が映し出されていた。
「その後、患者数は如序に増え続けました。また症状も次第に悪化し、酷いときには精神錯乱までありました。共通していたのは、全ての患者が恋愛に関する異常を示したということです」
 映像が病院内のものに変わり、ベッドに座る患者が映し出される。
「○○○さん、これが何だかわかりますか?」、医者が精神病患者に見せる出鱈目な絵を取り出した。ただの模様にしか見えない。
「キスするカップル」、患者は答えた。医者は新しい絵を取り出した。これもまた模様にしか見えなかった。
「抱き合う男と女・・・ハートマークとキスマーク・・・アルファベット三文字でLとAとS・・・栗色の髪の毛をした美人と黒い髪のハンサムな男」、患者は次から次と出される絵にそう答えた。
ナレーションが再び始まる。
「このように、患者は恋愛に対して異常な行動を示します。精神病の権威、原田博士は原因をこう説明しています」
 画面に太った中年の医師が映し出される。
「そうですな、これは様々な精神病によく似ています。例えば幼いころに辛い経験をした人が、大人になってもそれを拒絶することに似ています。車に跳ねられて車にも乗れないとか。だから、患者達も何か強烈な恋愛に関する体験をしたのでしょう」
「それはどんな体験でしょうか?」
「あまり想像したくありませんが、極端に長いキスだとか、甘い甘いキスだとか、そんなところでしょうな。そういった強烈な甘い体験が、脳に拒否反応を起こすと考えていいでしょう」
 画面が切り替わり、研究施設が映し出される。
「最近の脳科学の発展で、記憶を映像で再生するシステムが開発されました。症候群研究グループはこれに目を付け、患者の記憶を再生しました」
 

 画面に映し出される男と女。栗色の髪の毛が印象的な外国人女性と中性的で優しげな顔の青年が喫茶店にいた。視点は彼らの正面からだった。
「シンジ〜」
「どうしたの、アスカ?」
「アタシ、もう駄目。シンジを見てると体が溶けちゃいそうなどほ熱くなるの」
「だったら、僕が冷ましてあげるよ」
 途端にキスする二人。
「シンジぃ〜」
「アスカ、可愛いよ」
「どれくらい?」
「世界で一番!」
「えぇ〜世界程度なの〜」
「ごめん、ごめん、アスカの可愛さは宇宙一、いや次元一だもんね〜」
「えへへ、だったら、その可愛いアスカちゃんにシンジはどうしたい〜?」
「キスしちゃう」
「んん・・ん・・」
「アスカ、好きだ」
「アタシも、愛している」
「だったら、僕は愛しても愛しても足りなくらい愛してる」
「ずるい〜アタシだってもっと愛してるもんね〜」
 再びキスする二人。

 画面が再び切り替わる。疲れた表情の研究グループがいた。
「この後、映像は一時間続きましたが、研究グループはそれを録画しコンピューターに処理を任せました。しかしコンピューターも狂ったために、分析手段が無く、現在に至ります。専門家によれば、このやり取りを生で見た場合、発狂してもおかしくないとのことです。」
 画面が切り替わり、第三新東京市全体が映し出される。
「増え続ける『第三新東京市精神失調症候群』。原因は未だよくわかってはいませんが、研究は確かな成果を挙げています。もしかしたら、これは自然が示す人類への警告なのかもしれません」
 音楽が流れ、スタジオに画面が切り替わる。
「今夜のニュースは以上です。おやすみなさい」
 キャスターが頭を下げ、『終』と画面の隅っこに表示される。


 テレビが消される。
「ねえ、シンジ」
「なあに、アスカ」
「平和だと思っていたのに、結構事件があるのね」
 原因はアンタらだ、とそれを盗聴器で聞き取ったLAS対策本部長葛城ミサトは思った。暴走する二人への対策を任じられたため、ミサトはこの地位にある。彼女は馴れ、エビチュ、そして夫にした加持によって、辛うじて二人の甘い空間に耐えることのできる数少ない人間だった。
「そうだね、アスカ。だから、僕達もネルフで頑張らないとね」
 やめてくれ。頑張ったら、余計被害が増える。
「じゃあ、今夜も頑張ってね、シンジ♪」
 第三新東京市とコンフォート17の住民の冥福を祈りたくなるわ。ミサトはビールを空けながらそう思った。加持、早く帰ってきて。


マナ:アスカぁぁぁっ!! なにしてんのよっ!

アスカ:なにって、事件が多いなぁって・・・。

マナ:原因は全てあなたでしょうがっ!

アスカ:なんでよ? アタシはいけないことしてないわよ?

マナ:とってもいけないことしてるのよっ!

アスカ:アタシのどこがいけないのよっ。

マナ:シンジといちゃいちゃして、周りがどんなに迷惑してると思ってるのよっ。

アスカ:だって、好きなんだもーん。

マナ:世界の為に、わたしにシンジをよこしなさいっ!

アスカ:結局、それが狙いなのね。(ーー)
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