「レイとアスカ」
平成13年12月06日初稿/平成14年06月05日改訂
序章
良く晴れた5月の或る日、第3新東京市立第壱中学校の校庭では球技大会が開かれていた。
シンジ達男子チームは既に2回戦で敗退、準決勝に進んだ女子の応援をしていた。
グランドを縦横無尽に駆け回るフォワードのアスカ、相手を翻弄する神秘的デフェンスのレイの活躍で
シンジ達のクラスは終始優勢に試合を進めていた。
太陽の光の中で躍動するアスカとレイの姿を見つめながら、シンジは自分の心の中で大きな存在となっている
ふたりとの関係を思い返していた。

第1章 降り注ぐ光の中で
木々の緑が日毎に眩しく感じられるようになってきた初夏の或る日、ここ第3新東京市にある
第壱中学校の校庭は賑やかな喧騒で覆われていた。
第3新東京市全体の後援者であるネルフの支援を受けて開催されたクラス対抗のサッカー大会。
来賓席にはネルフ司令である碇 ゲンドウの他に葛城 ミサト、赤木 リツコ、加持 リョウジの姿も見られた。
当初こそ学校関係者が挨拶に来たが、ゲンドウに一瞥され逃げるように去ってからは、来賓テントは
ネルフの治外法権になっていた。持参したお茶や軽食を伊吹マヤ2尉が手際良く配り終えると
そこはネルフのブランチの様相を呈していた。
「それにしても優勝チームには全員にスタンディングギアをプレゼントするなんて思い切りましたね。」
加持が優勝トロフィーと共に並べられた新品のスタンディングギアを見ながら半ばあきれた様に呟く。
1機60,000円という価格は中学生にとってかなり高価なものであった。それゆえ今回の大会が
一層の熱を帯びた事は否めない事だったが不思議とそれを非難する声は上がらなかった。
「ネルフだからこそ出来た事ですよね、先輩。」弾むようなマヤの声。
「そうね、こんなに早く量産化できるとは正直思わなかったけれどね…。」
そう答えながらスタンディングギアを見るリツコの眼差しは優しさと誇らしさに満ちていた。
それも当然の事かもしれない。これこそエヴァの為に開発した技術を応用してリツコが精魂込めて
創り上げた、人を幸せにする為の技術の結晶なのだから。
スキーのブーツを更に小型化した様なギアは最先端のふたつの技術が組み込まれていた。
ひとつはエヴァの操縦機構を応用した脳波を感知して作動するシステム。
もうひとつがATフィールドを応用した力場を発生させるシステムで、このふたつを組み合わせる事で
足が不自由な人でも普通の人と同じ様に…否、それ以上に自由に活動する事を可能にしていた。
レベルを調整する事で普通のブーツとしての使用から、地上数センチの高さを浮上して
まさに飛ぶように走ることも可能にするという優れものであった。
この最先端の技術を応用し、多額の費用が必要とされるスタンディングギアの開発がリツコから提案された時、各国のネルフの幹部達は良い顔をしなかったが、ある意味でそれは当然の事であった。
リツコが提案した開発費は余りにも巨大であり、それに比してギアの単価は余りにも安かった。
けれど単価の大幅なUPを要求する幹部達に向かってリツコは臆する事なく主張した。
「これは度重なる災害の中で負傷し身体が不自由になった人達の為に不可欠なものです。
その人達すべてに行き渡るようにする為には、この価格は絶対に譲れません!」
広く冷たい会議場に凛としたリツコの声が響き渡る。リツコは唯ひとりで数十名の幹部達と対峙していた。
このお互いに一歩も引かない竦みの状態に終止符を打ったのはゲンドウだった。
「各幹部の方々にもそれぞれ言い分があるだろう。だが…。」そこで眼鏡を直すゲンドウ。
絶妙の間に会場内の空気が一瞬だけ緩む。そして、その機を逃すゲンドウではなかった。
「我々は世界に対して償いをしなければならない。我々は罪人だという事を忘れてはならないのだ。」
償い、罪人という言葉に会場が大きくどよめく。ゲンドウの一挙一動がその度に会場にうねりを起こす。
既に会場のすべてはゲンドウの影響下にあった。
「サードインパクトこそ起こさなかったものの、人類補完計画における使徒とエヴァンゲリオンとの戦いに
巻き込まれた人々や研究過程での事故等による死者や負傷者の数は膨大なものとなっている。」
低く抑えられたゲンドウの声が言霊の様に会場を埋め尽くしていく。
「我々の為さねばならぬ事は余りにも多く、そして時間は容赦なく過ぎて行く。」
冷厳ともいえる口調から次第にゲンドウの声が熱を帯びていく。引きずられて熱くなっていく会場。
そして演説が最高潮に達した瞬間、ゲンドウの魂の叫びが投げかけられる。
「今こそ諸君に問おう、是か非か!」
その言葉が終わるか終わらないかの内に湧き上がる歓声。それは会場を大きく揺るがせる程であった。
会場がひとつの意志にまとめられたこの瞬間の感動を、リツコは生涯忘れることはないだろう。
その男性が今、自分の隣で真剣な眼差しでサッカー大会を見ている。
微笑みひとつ浮かべない無愛想な顔。けれども、その奥に秘められた優しさをリツコは感じる事ができた。
「これも碇司令のご尽力の御陰ですわ。本当に感謝しております。」
「礼には及ばない。君の言う通りこれは人々の為に必要なものだからな。」
愛想のないゲンドウの返事に会話が少し途切れる。応援や歓声が遠くに聞こえている。
眩しい太陽の光がグランドとテントの中の明暗をくっきりと分けている。
テントの作り出す影の中でゲンドウは何かを考えているかのように瞳を閉じていた。
そんなゲンドウを慈愛を湛えた微笑で見守るリツコ。
「フォースチルドレン…鈴原君の調子は良いようだな。」不意にゲンドウが口を開いた。
「はい、彼が協力してくれたおかげで貴重なデータを得る事ができました。」
突然のゲンドウの問いかけにも余裕で答えるリツコ。それは、まるで予測していたような絶妙のタイミング。
「そうか、うん…。」リツコの素早い反応に言葉につまるゲンドウだったが何かを決したかの様に再び口を開く。
「リツコ…いや、赤木博士。」正面を向いたままリツコに話しかけるが、ここが一応公式な場である事を
思い出したのか慌てて呼び方を言い直す。
「はい。」そんな不器用なゲンドウを柔らかに受けとめる。
「傷ついた者達が普通の人々と変わらずに暮らせる世界を…。」そこで言葉を切るとゲンドウは顔を上げた。
ゲンドウの視界に躍動するアスカとレイの姿が、そして懸命に応援するシンジの姿が入る。
「そして、子供達が太陽の下で何の心配もなく汗を流せる世界…それを実現させるのが我々の義務だ。」
「ええ…。確かにそうですわね。」ゲンドウと同じ光景を見つめたままリツコが静かに同意する。
「…これからも君には苦労をかけてしまうな。」そう呟くゲンドウの顔がかすかに赤く染まる。
「そんな…苦労だなんて思っていませんわ。」そんなゲンドウの様子が可笑しくて、そして嬉しくて
リツコの顔に微笑が浮かぶ。そのまま、そっとゲンドウの腕に寄り添う。
そんなリツコの行動を黙認するゲンドウ…だが憮然とした表情の中に一瞬照れたような微笑みが
浮かんだのを見逃すミサトではなかった。
「あらあら…。」仲睦まじげなふたりの様子に、こちらも微笑みを浮かべたまま加持を見る。
そして、そのまま加持に擦り寄ろうとするが見事にかわされて、椅子からこけそうになってしまう。
「ちょ、ちょっとお〜!」思わず上がる不満の声。
怪訝そうな顔をしているマヤに愛想笑いを返すと、キッと加持の横顔を睨みつける。
「ふたりとも、がんばっているみたいだぞ。」そんなミサトの不満に気づかない振りをする。
「シンジ君は?」周囲の状況を判断して、不承不承ながらも加持に話を合わせる。
「どうやら既に負けたらしいな…。あそこでふたりを応援している。」
「まったく、だらしないのね…。サッカーはともかくとして、女の子に対しても同じだから困るのよね。」
「おいおい、そういう問題か?」ミサトの言葉に再び雲行きが怪しくなったのを研ぎ澄まされた感覚が察知する。
「そうよ!まだどっちつかずでいい加減なんだから。全く男っていうのは…。」そこでジロリと加持を睨みつける。
「ほら、アスカにボールが渡ったぞ。」矛先が再び自分に向く前に先手を打って話題を変える加持。
「ホント、男ってずるいんだから…。」そう呟きながらアスカに視線を移すミサトだった。

青い空に白いボールがくっきりと映える。
宙に浮いたボールめがけて赤みがかった金色の長い髪が隼の翼の様に大きく広がる。
次の瞬間ボールは初めからそこにあったかの様にアスカの足元に存在していた。
「ヒカリ、ナイスパス!」そのまま巧みな足捌きでボールをドリブルして一直線に突き進んでいく。
「頼んだわよ、アスカ!」背中に投げかけられたヒカリの声があっという間に小さくなる。
「あたしを止めようなんて100億年早いわよ!」そう叫びながら上級生のタックルを次々とかわして行く。
錐の先の様な鋭いアスカの強襲を防ぐものは何一つ存在しなかった。
アッという間にゴールキーパーと1対1になると余裕の笑みでキーパーの様子を伺い、右足を大きく振り上げる。
「ド〜ラ〜イ〜ヴシュート!」気合の入った叫び声と共に放たれたシュートはネットを大きく揺らした。
余りの速さに反応できず、その場に呆然と立ち尽くすキーパーを尻目にアスカの右手が掲げられる。
高らかに鳴らされるホイッスルに少女達の歓声が重なる。
「凄いな、惣流。これでハットトリックだよ。」カメラのシャッターを押しながらケンスケが感嘆の声をあげる。
「どや、シンジ。鼻が高いやろ、彼女の活躍で!」ニヤリとした笑みを浮かベてトウジが話しかける。
「そんな、鼻が高いだなんて…。」そう言いながらもアスカの活躍に嬉しさを隠し切れないシンジ。
その言葉に一瞬顔を見合わせ、そしてニヤリするトウジとケンスケ。
「ほ〜、そっちの言葉に反応するんか。」「なるほどなるほど、惣流が彼女って事は認めるわけだ!」
「え、それは…。うん、そうなんだけど…。」途端にシンジの歯切れが悪くなる。
「何や、まだはっきりせんのかいな。男らしくビシッと決めんかい、シンジ!」
トウジは腕を胸の所で組み、少し背中を反らせるとシンジに説教を始める。
「ええかシンジ、こういう事は男の方がびしっと決めてやらなあかんのや。」
既にヒカリと恋人関係になっている余裕からか、近頃トウジはこういった話題では饒舌になっていた。
もっともトウジとヒカリが互いの気持ちを告白するまでにはアスカとシンジの人知れぬ苦労があり、
しかも当初の目論見とは異なりヒカリの方から告白してしまうというおまけつきであったのだが…。
それでもこの説教が親友であるトウジの自分に対する思いやりから来ている事はわかっていたので
甘んじて受けるシンジだったが、流石に少し反発したくなってしまう。
「何だよ…トウジだって委員長から告白してもらったくせに…。」
「今、何ぞ言うたかの、シンジ!」アスカ並みの地獄耳である。
「トウジ。これは僕の問題だから、僕が決めるよ。」そう言ってキッとトウジを睨みつける。
「何やと、わしの心からのアドバイスが聞けんちゅうのか!負けじと睨み返すトウジ。
一触即発の緊張…と、その時慌てふためくケンスケの声が響いた。
「おい、不味いぞ。相手チームのカウンターだ。」
「大丈夫だよ。あそこなら…。」
「そや、あそこにはあいつが居るからな。」
ケンスケとは対照的に全く動じることがないシンジとトウジ。余裕の笑みさえ浮かべている。
そんなシンジやトウジの言葉など聞こえるはずもない相手チームの選手は懸命にゴールを目指していた。
(下級生相手に、こんな一方的な試合になるなんて…。何としても一矢報いなきゃ。)
最後のデイフェンダーを振り切って、後はゴールキーパーと1対1の勝負になる…はずだった。
「だめ…、ここは通さないわ。」突然、背中越しに試合中とは思えない物静かな声が響く。
「えっ!?」慌てて後ろを振り向くが当然のごとく誰もいない。気を取り直してゴールを目指すが…。
「あなたを通したら、碇君に誉めて貰えなくなっちゃうもの……。」
「さあ、そのボールを頂戴。あなたには相応しくないわ。」
「くすくす…ばあさんはもう用済みなのよ。」
四方八方から聞こえてくる声に困惑を越え、恐怖を感じてパニックに陥る。
そして自分でドリブルしていたボールを踏みつけて、ものの見事に転んでしまう。
足元からこぼれ落ちるボール。その行き着く先にひとりの少女の姿があった。
蒼い髪、赤い瞳、白磁の様な白い肌。この世界のものとは思えない不思議な雰囲気を纏っている。
唖然として自分を見上げる相手チームの選手に無表情のまま囁くかの様に声をかける。
「ごめんなさい、こういう時どんな顔をしたらいいのかわからないの…。」
そう呟くとボールを大きく蹴り上げる。ヒカリの足元に寸分たがわず転がっていくボール。
余りの見事(?)なデフェンスに言葉のなくなるグランド。そこに響くシンジの声援。
「ナイスデフェンス、レイ!ナイスシュート、アスカ!その調子でがんばれ!」
シンジの声にグランド全体が再び活気づく。ボールが中央に戻され、選手達が配置につこうと移動する。
「碇君、わたし…がんばる。あなたの為に…。」シンジの側を通る際、声援に応えるレイの頬がポッと赤く染まる。
「何で、レイの名前を先に言うのよ〜!」同じく移動中のアスカ。立ち止まるとシンジを問い詰める。
「がんばれ、アスカ!がんばれ、レイ!…これでいいかい?」苦笑しながら、それでも嬉しそうにアスカに応える。
「うん、あんたが応援してくれるから元気100倍よ!」そんなシンジにアスカも満面の笑みで応える。
「「それじゃ、行ってくるわね!」」見事なユニゾンをしながらシンジの元から駆け出すふたり。
赤い金色の髪と蒼い髪が薫風を受けふわりと揺れる。
いずれ劣らぬ白く長い脚が茶色いグランドに眩しく映える。
そんなふたりの少女の後ろ姿を見送りながら感心した様にトウジとケンスケが呟く。
「それにしても変わればかわるもんやな…。いや、どっちもやけどな。」
「確かに…綾波があんなに感情を表すようになるなんて…。」
「そして、惣流の奴があんな素直になるなんて…。」
そこまで言うと振り返ってシンジの顔をジッと見つめる。
「あのふたりを我が校で…いや第3新東京市で1、2を争う美少女に変えたのがこの男なんて…。」
「「最大の謎だ…。」」頭を抱えたまま絶叫する友人達に苦笑するしかないシンジだった。
その時、シンジの頬をそっと風が撫でた。それにつられて空を仰ぐ。
蒼く穏やかな空…数ヶ月前までの凄惨な戦いを続けていたことがまるで夢の様に思えた。
不安、後悔、自己嫌悪、絶望…戦いの中での思い出したくないマイナスの記憶が甦り、シンジの心を苛む。
けれど、そんな混沌の中で見つけた大切な輝き。シンジの心はその輝きとの出会いの時に飛んで行くのだった。

第2章 レイ−月の光のごとく静かに
綾波 レイ…初めて彼女に出会ったのはシンジがこの第3新東京市に到着した夜だった。
使徒来襲の混乱の中での数年振りの父ゲンドウとの対面。そして一方的なエヴァンゲリオンへの搭乗命令。
立て続けに自分の身に降りかかる想像もできない様な事態にシンジはパニックに陥りかけていた。
すべてを投げ出して、この場から逃げ出してしまいたい…後5分もあれば本当にそうしていたかもしれない。
その時だった、シンジの目の前にレイが現れたのは……。
ゲンドウの言葉に、傷ついた身体を懸命に奮い立たせようとするか弱い少女の姿。
身体中に巻かれた包帯の白が余りにも痛々しく傷の深さを感じさせた。そんな身体を引き摺りながら
それでもエヴァに乗ろうとするレイにシンジは自分がエヴァに乗ることを決意したのだった。
あの時レイが居なければ自分はエヴァに乗らなかったかもしれない。
だとしたら、きっと今の自分も存在しなかっただろう…。
そう思うとシンジは自分とレイとの間に、決して切り離す事のできない絆のようなものを感じるのだった。
その後、エヴァの零号機、初号機のパイロットとして、またクラスメイトとしてレイとの時間を共有していくに連れ、その絆が強くなっていくような気がしていた。
レイは寡黙であり、自分の感情というものを外に出そうとはしなかった。むしろ感情そのものが欠落していると
いう方が正鵠を得ているかもしれしれない、そして周囲の人々はそう考えていた。
それゆえゲンドウやネルフの限られた人以外はレイに関わろうとはしなかった。
緩やかな存在の無視、人々はレイに対してそういう形で対応していた。感情のないレイになら
そういう態度で接しても充分だと思われていたのかもしれない。
けれどもシンジは気づいていた…レイの心が少しずつ開かれている事に。
それは春待つ花が、冬の寒さの中で暖かさを確認しながら少しずつ花びらをほころばせていく姿に似ていた。
レイとの思い出を振り返るシンジの心のスクリーンに様々なレイの姿が映し出される。
ヤシマ作戦の開始を待つ際にエヴァに乗ることを絆と言った時のどこか寂しげな横顔。
そして作戦の後で初めて見せてくれた天使の様な微笑。
肩からバスタオルを羽織っただけの眩しいばかりに白い裸身。
教室の片隅で雑巾を絞るレイの姿に母親の姿を感じたのも、その頃だった。
レイはシンジにとって捉え所のない側面を持つと同時に、まるで自分の事の様に理解する事ができる
側面を持つという不思議な存在であった。
レイは守らなければならない対象であり、心惹かれる異性であり、母の面影を感じさせる女性であり、
自分の心を話せる大切な友人であり、同じ敵と戦う頼もしい仲間であった。
シンジにとって、レイは最初からそれらすべての側面をもつ存在であり、そしてどれかひとつではなかった。
自分にとって綾波がどのような存在なのかシンジには上手く言い表す事ができなかった。
けれども…そう、もし強いて言うならば…。
綾波 レイ…それは、遠い昔に別れ別れになってようやく再会したもうひとりの自分。

第3章 アスカ−烈風のごとく激しく
惣流・アスカ・ラングレー…彼女との最初の出会いも強烈なインパクトがあった。
エヴァンゲリオン弐号機を輸送する国連艦隊の旗艦である空母オーバー・ザ・レインボー。
大海原を疾走する艦上でシンジは鮮やかな黄色いワンピースをまとった彼女に出会った。
青い空、青い海、そして無機質な灰色の空母の上で鮮やかな色彩を放つ少女…それがアスカだった。
自己紹介と共にアスカから差し伸べられる右手。白く柔らかそうな掌に一瞬躊躇するシンジだったが意を決して
右手を伸ばす。あと数センチで二人の掌が触れ合う…まさにその時だった。
甲板を走る悪戯な風に大きく捲くり上げられるアスカのワンピースのスカート。
丁度、正面に立っていたシンジにスカートの中が丸見えになってしまう。
あの時目に映った彼女の下着の白の眩しさと、その直後にくらったビンタの強烈さは
おそらく生涯シンジの記憶から消えることはないだろう。
その直後の使徒との戦いでのアスカの鮮やかな動き、燃え盛る闘志に感嘆するシンジだった。
眩しく、凛々しく、そして勝気な有言実行の天才少女…、それがシンジの当初の印象だった。
そしてネルフや学校で一緒に過ごす内に、その印象は更に強められていった。
けれど、ユニゾンの為に同じ部屋で過ごした夜…その時に垣間見たアスカの心に秘められた寂しさと哀しみは
一見誰よりも強く、他人からの手助けなど不要な様に思える彼女が実は誰よりも守ってあげなければならない
存在である事をシンジに気づかせた。
この夜があったからこそ、その後の使徒との戦いの中でアスカの心が傷ついていくのに気づく事ができたし、
アスカを守る為に強くなる事ができた…シンジはそう思っていた。
もしアスカの哀しみや寂しさに気づくことなく、彼女の表面的な強さや凛々しさにだけに目を奪われていたら
戦いの中で彼女の心が傷つき壊れていく事に気づかなかったかもしれない。
あの夜、偶然寝ぼけたアスカが自分の隣で眠ってしまわなかったら、そしてアスカの本当のこころに自分が
気づかなかったら、自分達はどうなっていただろう?
間違いなく今の自分はいなかっただろう…。もしかしたらアスカも心に数え切れない傷を負ったまま
荒んでしまっていたかもしれない。自分の事をわかってくれないすべてを憎んで…。
あの夜こそ自分とアスカにとっての本当の絆が結ばれた時なのだろう、シンジはそう信じていた。
幾つもの偶然と必然が錯綜する中で掴み取った真実。
惣流・アスカ・ラングレー…ようやく巡り合えた、かけがえのない女性。

第4章 ふたりの少女
エヴァンゲリオンに乗る事を選択したシンジは否応無しに使徒との凄絶な戦いに飲み込まれていった。
精神の休まる時間もない戦いの中で、生死を共にする同じ年の少年と少女達のこころが近づいていくのは
ある意味当然の事だったかもしれない。
もっともその近づき方はアスカとレイでは全く違うものであったけれど……。
同じエヴァンゲリオンのパイロットであり、同じ学校のクラスメイトである3人。
ほぼ同条件のふたり。唯一異なるのはレイが一人暮らしなのに対してアスカがシンジと同居している事だった。
出会った時から絆を感じていたレイとは離れて暮らし、後に自らの意志で絆を結ぶ事になるアスカと
ひとつ屋根の下で暮らすことになるのは運命の不思議さなのかもしれない。
今にして思えばシンジがレイから感じ取ったのは最も近い異性−母や姉や妹としての意識だった。
レイと一緒にいると普段は聞き役に回るシンジが話し手になる事が多かった。
女の子を相手にシンジが自分から話しかける…昔のシンジしか知らない人が見たら驚愕しただろう。
シンジはレイに対しては異性に対しての緊張感と共に仄かな安心を感じていた。
何も言わなくても、なんとなく相手の気持ちが伝わってくる。レイが今何を思っているのかを感じ取れた。
だからこそシンジは戸惑いながらもレイと話をする事ができた。
もしもレイがごく普通の女の子であったならシンジは緊張の為、満足に言葉を交わす事すらできなかったろう。
それに対してシンジがアスカから感じ取ったのは、異性−女性としての意識だった。
同居人として部屋こそ違うものの、同じ屋根の下で、同じお風呂を使い、同じテレビを見ているふたり。
余りにも近すぎて日常の中に埋没してしまう異性としての胸のときめき。
ミサトに対しての変化がまさにそれであった。同居当初こそミサトの発する大人の女性としての色香に
くらくらしていたものの、一緒に生活する様になって下着を洗濯したり、だらしない所を見ていく内に
ミサトを女性としてではなく、ずぼらでの飲んべで、そして優しく温かい姉として見るように変わっていった。
こんなミサトやレイの時とは異なりシンジはアスカに母や姉や妹を感じる事はなかった。
クラスメイト、パイロット仲間、同居人…時間の殆どを共有する誰よりも自分に近い人。
家族?…そうかもしれない。でもアスカは母さんや姉さんや妹じゃない。
親友?…そうかもしれない。でもトウジやケンスケ達とは違う。
そんな中で何気ない仕草や、言葉、持ち物から不意に喚起される女性としてのアスカの存在。
これは時間と空間を共有する割合がいくら大きくなっても決して薄まることはなかった。
シンジにとってアスカはいつでも気になる女の子であった。
当初シンジはアスカに対して異性としての緊張感をさほど意識しなかった。
屈託なく、というよりはシンジを男として意識していないアスカの態度は異性と接する事に
慣れていなかったシンジにとって却ってありがたかった。
それが変わったのはいつからだろうか?
そう…ユニゾンの為に一緒に暮らし始めた、あの時…
アスカの涙と本当のこころを垣間見てしまったあの夜から…
シンジはそう確信していた。
普段は傲慢とさえ取られかねない程、勝気で積極的なアスカの姿。シンジはそんなアスカに
目映いばかりに輝き、尽きる事などないかのような真夏の太陽のイメージを重ねていた。
そんなアスカが垣間見せた哀しみと寂しさ。そのギャップが一層シンジの心に深く響いた。
アスカの本当のこころを分かってあげたい…あの夜からシンジはそう思うようになっていた。
けれども、それは簡単な事ではなかった。
アスカは決して本当の自分を見せようとはしなかった。
どんなに辛くても、どんなに寂しくても一人で乗り越えようとした。それは今までアスカが
自分に課してきた生き方そのものだった。決して他人に弱みは見せない。
受けた屈辱、傷つけられたプライドは100倍にして返してやる。
自分を認めさせる為に、誰よりも賢く、誰よりも強くあり続ける…。
そんな一人ぼっちの、哀しい生き方だった。
だからアスカが、時折垣間見せる些細な言葉や動作から判断していくしかなかった。
人との関わりを極力持たないように生きてきたシンジにとって、それは思った以上に難しい事だった。
擦れ違いや誤解からお互いに傷つけあう事も幾度となくあった。苛立ち、反感、そして浴びせられる罵声。
アスカが放つ言葉の刃に傷つけられる度にシンジのこころは挫けそうになった。
それでもシンジがアスカのこころを知りたい、わかってあげたいと思い続けたのは何故だろう?
あの夜、涙と一緒に零れたアスカのこころが余りにも哀しく思えたからだろうか…。
いつも明るく前向きなアスカの笑顔を守ってあげたいと思うようになったからだろうか…。
それとも時折、彼女が見せる不器用な思いやりに気づくようになったからだろうか…。
やがてシンジはアスカの仕草や言葉の欠片から彼女の本当のこころを理解できるようになっていった。
それと同時にアスカの優しさ、愛らしさも見えるようになっていった。
今までの強く、凛々しいアスカのイメージとは違う、ごくごく普通の女の子としてのアスカの発見。
それはシンジにとって驚きであったが、それ以上に大きな喜びを感じていた。
シンジがアスカのこころに近づくに連れ、アスカにも変化が現れてきた。
アスカがシンジの前では少しずつ、本当に少しづつだが素直な自分を見せる様になっていた。
それは一緒に暮らし始めた頃のシンジを男と思わない様な態度とは明らかに違っていた。
シンジの事を心配したり、甘えたり、怒った振りをして気を引こうとする等女の子らしい一面を覗かせていた。
そしてシンジが本気で自分の事を心配し、自分の事を理解しようとしてくれている、その事がわかった時
アスカの心を縛っていた冷たい鎖が砕け散った。
自分のこころが傷つく事を恐れずにアスカのすべてを包み込もうとするシンジの勇気が
アスカの頑なこころを解かし、強がりもプライドも必要のない本当のアスカへと誘ったのだった。

…思い返せば、レイとシンジは双子の様に心の中まで似ていたのかもしれない。
だからレイとは何もしなくとも、ある程度お互いの心を通じ合えることができた。
それに対してアスカとシンジは、心の中で似ている点もあったが、異なる点のほうが遥かに多かった。
だからこそ、アスカとはお互いの心を通じ合う為に幾重もの努力をしなければならなかった。
傷つきながら、それでも確かに近づいて行くふたり。
レイとは肉親の様に言葉にしなくても通じる何かがあった。だが、それゆえの限界があったのかもしれない。
そしてアスカは他人であるが故に容易に理解する事ができなかった。けれど、だからこそシンジにとって
かけがえのない大切な女性になれたのかもしれない。
アスカの強引さ、身勝手さは当初シンジにとって苦痛だったかもしれない。けれど、それがアスカの弱いこころを
隠す為のものだと気づいた時、シンジはそれらすべてを優しさで包み込む事が出来るようになっていた。
シンジの優柔不断さはアスカにとって苛立ちを感じさせるものだった。けれど、それがシンジの傷つき易い
こころの弱さと優しさの表れだと気づいた時、アスカは笑顔でシンジを見守る事ができる様になっていた。
そしてお互いが臆病で寂しく、そして優しいこころを守りながら、それでも懸命に生きている事に気づいた時
ふたりは誰よりもお互いを理解している事、そしてどれほど愛しく思っているかを知ったのだった。
アスカとの絆を通してシンジは、自分と違う事をただ拒むのではなく、理解していこうとする事…
それが人の成長と可能性だと考える様になっていた。
人は傷つく事を恐れずに努力する事で、互いにわかりあえる事ができる。
自分とアスカが出来たのだから、きっと他の人達も…。
シンジがそう考える様になった頃、戦いも終局を迎えようとしていた。
互いに補い合う事ですべての量産機を撃破したシンジとアスカ。
ふたりがほっと一息ついた時、人類補完計画は発動した。
混乱と戸惑いの中、シンジは母ユイの声を聞いた。
人の行く末を決めるように言われたあの時…シンジには迷いはなかった。
人は無理にひとつにならなくても、努力する事できっと理解する事ができる。
そして人はそれぞれが違う所があるから、素晴らしいんだ…そう思えるようになっていたから。
(母さん、あの時の僕の選択……間違っていなかった。今確かに、そう思うよ。)
あの時…シンジの答えを聞いた母の声が嬉しそうだったのは錯覚ではなかったのだろう。
それはまぎれもなく子供の成長を喜ぶ母親のものであった。
そして、別れ際に母がシンジに贈ってくれた言葉。
「アスカちゃんと仲良くね。幸せにしてあげてね。…それとレイとあの人の事もお願いね。」
今もはっきりと思い出す事ができる母からのエール。それは今もシンジの心の支えになっていた。
「母さん…。」そう呟くと、涙がこぼれないよう空を仰ぐ。
その時、蒼く澄んだ空にシンジは母の微笑を見たような気がした。

第5章 薫風の中で
ピー!甲高い笛の音にシンジは我に返った。
審判から相手チームの選手のひとりにレッドカードが手渡されている。
そしてその足元にレイが左足首を押さえながら、うずくまっているのが見えた。
「大丈夫、レイ?」レイの肩を抱きながら心配そうにアスカが尋ねる。
心配するアスカやヒカリに不安を与えない様にと微笑もうとするレイだったが、その努力は功を奏さなかった。
稲妻の様に走る激痛に耐え切れず俯いてしまう。レイの白いうなじを幾筋もの汗が伝う。
「まずいな…完全な死角からの反則タックルだったからな。」
「受け身すら取れんかったしな。頭なんぞ打っとらなければええんやが。」
そんなケンスケとトウジの言葉が終わる前にシンジはグランドに飛び出していた。
「レイ!」駆け寄るシンジに心配をかけまいと笑顔を見せるレイ。
天使の様な無垢な微笑み。けれど額を伝う汗の量が痛みの激しさを物語っていた。
「さあ、乗って。」レイの所に着くや否や背中を向けると、レイに乗るように促す。
一瞬目をパチクリさせるレイだったが、シンジの意図に気づくと頬を桜桃の様に赤く染める。
そして迷う事無くシンジの背中に自分の身体を預ける。
シンジはレイを背負うと校庭の片隅に設置された救護テントに向かって行った。
その後ろ姿は力強く、以前のシンジに比べ逞しくなっていた。
そう、変わったのはアスカやレイだけではないのだから……。
そんなシンジの後ろ姿を見送るアスカの頬が赤く染まっているのにヒカリだけが気づいていた。
(あらあら、アスカったら…羨ましいのかなレイが……ふふ。)
ふたりの後ろ姿をじっと見つめるアスカ。指先を弄んだり、足元がウロウロしたりどうにも落ち着かない。
その理由をヒカリは充分すぎる位理解していた。シンジとレイと一緒に行きたいという素直な思いと
チームのエースストライカーとしての自覚の板ばさみになっているのだ。
そんなアスカの姿を嬉しそうに見つめる。親友の公私にわたる成長がたまらなく嬉しかった。
(アスカ、偉いね。碇クンと一緒に居たいのにチームの為に我慢しているなんて…ほんと偉いね!…でも。)
「いいの〜、アスカ?ふたりで行かせちゃって?」アスカの顔を覗き込むように意味ありげな笑顔で話しかける。
「だ、大丈夫よ、レイは大切な妹だよ…って、前にはっきり言ってくれたから。それに…。」
その先を言いかけて、慌てて掌を当て唇を塞ぐ。そのまま瞳を閉じていつかのシンジの言葉を反芻してみる。
(僕にとって一番大切な女性はアスカ、君だよ!って言ってくれたんだもんね!)
あの時の事を思い出す度にアスカのこころの中がほんわりと温かくなる。
シンジを愛しいと思う心が次から次へと湧き出てくる。嬉しくて、嬉しくて誰かに話したくなってしまう。
(これが、幸せっていうことなのかな?ねっ、ママ。)
心の中でそっと母親に問いかけてみる。最後の戦いの最中、弐号機の中で感じた母の温もり。
それはシンジが与えてくれる温もりと共にアスカの生きていく力の源となっていた。
そう、自分は確かに愛されていた…そして今も愛されているのだ。
だから、与えられる愛情と同じ位、ううん、それ以上の愛情を皆に与えていこう…そう考えていた。
それがシンジや母に対して自分ができる唯一の感謝の証なのだから。
「いいの、アスカ。レイったらここぞとばかりに碇君に密着しているわよ。」
ヒカリの言葉によって急遽現実に引き戻されるアスカ。シンジの背中に胸を押し付けているレイの姿が
アスカの視界に入る。予想外のレイの行動に慌てふためくシンジ。千鳥足の様にフラフラしている。
そんなふたりの姿にアスカの怒りが一気にレッドゾーンまで駆け上る。
「ちょ、ちょっとヒカリ、後お願いね。」
ヒカリの返事を待たずに飛び出すと使徒も逃げ出すような勢いで追撃する。
「あ〜あ、やっぱり行ってもうたか、惣流の奴。」
いつの間に来ていたのか、トウジが楽しげにヒカリに話しかける。
「ちょっと意地悪しちゃったかな?」これまた嬉しげなヒカリの声。
「かまへん、かまへん!どうせ此処に居たってシンジと綾波の事が気になって他人に当たるだけやからな。」
「そうね、碇君がいないと大変だもんね!」
的を射たトウジの発言とヒカリの言葉にその場に集まっていたチームメイトが爆笑する。
リラックスした雰囲気を少し締めるかの様に、ヒカリが皆に檄を飛ばす。
「みんな、勝とうね。ここで負けたら後でアスカに何言われるかわからないわよ!」
ヒカリの言葉に苦笑するチームメイト達。もし負けたりしたらどうなるか、容易に予想できた。
けれどその顔にプレッシャーはなく、明るく、皆輝いていた。
アスカったら仕方ないなあ…まあ、がんばってあげましょうか!そんな思いがチームに満ちていた。
そしてレイが倒された場所からのフリーキックで試合が再開されようとした時、突然流れ始めた
校内放送から聞きなれた声が聞こえて来た。
「ちょっと、貸しなさいよ。あたしが薬塗ってあげるから!」
「嫌、碇君に塗ってもらうの。碇君、痛くしないでね…優しくして。あたし初めてなの…。」
「えっ、初めてって!…う、うん。優しくするからね。ちょっとだけ我慢してね、レイ。」
「うん、碇君にして貰えるんだもん。痛いの我慢するわ。」
「むきーっ!あんた達、何て会話してんのよ!これじゃ、まるで…。」
「まるで…、何なの?」
「うっさいわね!とにかくあたしが手当てしてあげるわよ!ほら傷を見せなさい。」
「嫌よ。私の初めては碇君に捧げるの…そう決めたの。」
「たかが擦り傷の手当てに、まだそんな事言ってるの〜!もう頭に来た。勝負よ、レイ!」
「ちょっとケガ人に無茶言わないでよ、アスカ。レイも誤解を招くような言い方しないの。」
グランド一杯にシンジとアスカとレイの遣り取りが響く。
「おお、やっとるやっとる!」期待通りの展開に満足そうなトウジ。
「さあ、私達も頑張りましょう!」ヒカリが満面の笑みで叫ぶ。
ホイッスルと共に再開されるゲーム。3人の痴話喧嘩をBGMに再びボールが宙を舞う。

「宜しいんですか、司令?全校中に聞こえていますよ。」
「構わん…計算通りだ。加持、ご苦労だった。」
「なに、救護テントに放送設備を置いただけです。子供にもできる事ですよ。」
「それにしても賑やかですね〜、アスカちゃんとレイちゃん。シンジ君、入り込む余地がないですね。」
「そうよ!もっと派手にやっちゃいなさいよ!ひっく。」
「こら、大人しいと思っていたら何時の間に…・嗚呼、こんなに飲んじまって。」
「構わん…予定通りだ。」
「そうそう、さあ今日は気分が良いから脱いじゃおうかしらん!」
「こら、葛城!何してんだ。リッちゃん、ちょっと手伝ってくれ。」
「全く、仕方のないひとね。」
「構わん、予定…。」「今、何かおっしゃられましたか、碇司令?」「……。」
「おい、リッちゃん。仕方ないマヤちゃん、葛城を押さえてくれ。痛てっ!こら葛城、蹴るな!」
ネルフのテントもシンジ達に負けず喧喧囂囂の盛り上がりを見せていた。

第3新東京市立第壱中学校グラウンド。
風薫る季節、ここで開かれている小さなサッカー大会は永遠に続くかの様な賑わいをみせていた。
その中でも一際賑やかなふたりの少女達。
陽光の様な赤みがかった金色の髪と涼風の様な蒼い髪が楽しげに揺れる。
じゃれあいの様な喧嘩の声が青い空に響き、そして溶けていく。
それは一人の少年が様々な苦難の末にようやく守り抜いた、ふたつの大切な輝き。
その輝き達にもみくちゃにされる少年を薫風が祝福するかの様に優しく通り抜けて行くのだった。
FIN


ヒカリ:平和っていうのは、こういう日常を言うんでしょうね。

アスカ:辛い時があったから、平和のありがたさがわかるのよ。

ヒカリ:そのわりには、綾波さんと戦闘状態が続いてるみたいだけど?

アスカ:平和になったから、素直に自分の気持ちを出せるようになったってことよ。

ヒカリ:綾波さんも、自分の感情を出せるようになって良かったわね。

アスカ:で、アンタはどうなのよ?

ヒカリ:わたしは、サッカー頑張ってるわよ?

アスカ:鈴原のことよ。

ヒカリ:それは・・・。(///)

アスカ:ふっ。まだまだね。(^^v
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