「ミーン、ミンミンミンミンミンミーン…」 1年中夏と化してしまった、この街に蝉が鳴く。 それと共に蒸し返すような暑さが、リニアトレインを降りた少年に襲いかかる。 20世紀最後の年にセカンドインパクトの影響で水没してしまった旧東京にかわり、 長野に首都機能を移転させ、第二東京とした。 また、『使徒』と呼ばれる侵略者の迎撃都市として、ここ第三新東京市が旧箱根に作られた。 「暑いなぁ…」 少年は手を額にかざし、空を見上げてみる。 新世紀エヴァンゲリオン Another Story「心、少しだけ強く」 ――Phase0―― 「僕を迎えに来る人はまだいないのかな?」 公衆電話の受話器を置きながら少年は言う。 ちなみに電話の向こうでは… 『本日午前12時30分に東海地方を中心とした…』 と言っている。 要は非常事態宣言が出ていて電話はつながらない、人はみんな地下シェルターに逃げ込んで街中には人っ子一人いない… そんな状態なのだ。 「待つしかないのかなぁ?」 そう言って少年は、ポケットをがさがさ言わせて封筒を1つ取り出した。 彼の父からの手紙である。 「いくらなんでも『来い』だけはないよ…父さん」 ふぅとため息をつく少年。 父が自分に対して、不器用なのは知っている。しかしいくらなんでもこれは… 「この人って父さんの何だろう?愛人?新しい母さん?まさかね…」 はぁという顔をして少年は写真から視線を外す。 写真にはまだ若いであろう女性が、露出の高い服を着て写っている。 しかも、胸元を強調して『ここに注目!』などと書いてあるところや キスマークがついているのを見ると、常識を少し疑ってしまう。 ――この人が迎えに来るんだよね…大丈夫かなぁ?―― この少年ならずとも心配になるところである。 その頃… 「よりによってこうなるなんてねぇ…」 青のルノーをサングラスをかけた女性がすっとばしている。 彼女の名は葛城ミサト。 国連直属機関『ネルフ』の一尉にして、作戦部長。 司令、副司令についでナンバー3の地位にいる女性。 そして、先ほどの彼が持っていた写真に写っていた本人である。 「何もサードチルドレンを迎えに行く時に使徒が来なくたっていいじゃないの!」 ミサトはぼやくが、使徒が彼女の言葉を聞くとは到底思えない。 そう言いながら、彼女は交差点をドリフトターン… 「ちょちまずいわね…」 道端に一旦止めたルノーの中から外を見上げた彼女はこうつぶやくと、 再びアクセルを踏み、駅に向かったのだった。 場所は再び第三新東京駅 「遅いなぁ…」 石段に座りながら迎えを待つ少年。 ボーっとしていると、戦闘機の爆音が聞こえ、それと共に何かの爆発音が聞こえる。 そちらを向いた少年は… 「えっ?何なんだあれ…」 と思わず声に出してしまう。 彼の向いた方向にはビルがあり、その上を戦闘機が何機も飛んでいる。いや、彼の注意を引いたものはそれではない。 戦闘機の下、ビルの隙間から見える怪獣とも言える二足歩行の巨大なそれである。 呆然として見つめる少年。 小さい頃に読んだ怪獣の本に出てくるそれとは形を異にしているが街を破壊しながら進んでいく様子や、 その上を戦闘機が飛んでいる様子などはまさしくそれである。 「えっ?ちょっとあれって…」 しばらく呆然としていた少年だったが、ふと気が付いたように視線を直す。 その先には… 「ちょっと…これってちょっとやばいんじゃないのかな?…ってうわー!!」 使徒に撃墜されたらしき国連軍の戦闘機が彼の方に向かって落ちて来る。 慌てて逃げ出すが、いかんせん人間と足の速さと、重力加速度のかけっこである…。 少年は無駄と知りつつも手で己の顔をかばった。 「あそこね!…ってちょっち危ないじゃないの!」 いや、ちょっとどころではない…。 葛城ミサトは愛車のルノーをすっ飛ばし、墜落してくる戦闘機の爆風から少年をかばうように車をスピンさせる。 「…?えっ?」 少年は来るはずの爆風がいつまで待っても来ず、代わりにスキール音がしたので顔を恐る恐る上げてみる。 目の前には青いルノーがいて、先ほど写真に写っていたと思わしき女性がドアを開けている。 「あなたは…?もしかして葛城ミサトさん?」 「そうよ!説明は後、早く乗ってちょうだい!」 「はっ、はい!」 少年は慌ててルノーの助手席に飛び乗る。 しばらくミサトは無言で車を走らせていたが不意に口を開く。 「そう言えば、名前をまだ聞いてなかったわね?」 「えっ?でも…」 「あらぁ?こういう場合はやっぱり自分でも名前言うもんじゃなぁい?」 にやりとして少しばかり意地悪く言う。 ――どういう場合だよ…―― 少年は心の中でつっこみながらも自分の名前を告げる。 「僕の名前は…」 そう。少年の名前は… 「碇…碇シンジです。」 あとがき: こんにちは!ノリリンです。 予告編に続き、0話です。本当は1話に組み込んでもよかったのですが、あえて0話にしてみました。 かなり短いですね。はい。すみません。 さて、気づいたと思いますが、シンジ君、全くと言っていいほどどもっていません。 さて、これからどうなるでしょうか…
感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構 ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。 |