第三新東京市… 首都機能の分離拡散による合理化のために作られた都市で、政治機能の中心的役割を果たしていた。 しかし15年前の大惨事により、壊滅的なダメージを受け、官庁街は廃墟と化している。 そしてかつての経済産業省があったビルの前に今高札がかかげられている。 三国EVA 立志編 巻ノ一 ――櫻ノ木ノ下ニテ―― その高札の前に立ち、ため息をつく少年がいた。 黒曜石のような瞳をもち、それと同じ色。 背は少し高め。170ちょっとと言ったところか。 腰に長剣を帯びているが、顔は端正で、女の子と言われてもすんなり通ってしまいそうな顔である。 彼の名は碇シンジ。 この第三新東京市に母親のユイと2人で貧しく暮らしている。 父親は政府崩壊の後しばらくの後に失踪。だからシンジは父親の顔をあまり覚えていない。 「義勇軍か…今日本中が大騒ぎになっているのに僕はここにいる。どうしたものだろうか…」 シンジはかぶりを振る。すると… 「あらあら、男の子がうじうじするもんじゃないわよ?」 と明るい声が聞こえたのでシンジが振り返ると、茶色の髪と瞳を持った活発そうな女の子が立っていた。 しかし背中にはとても女の子が持つものとは思えないような長い棒かなにかを袋で包んだものがある。 「一体何を悩んでいるの?」 「今日本中は大騒ぎじゃないか。それなのに何も出来ない自分が不甲斐なくてさ…」 「ふ〜ん、そっか…」 そう言ったまま少女はシンジの顔をじっと見る。 「あなた、名前は?」 「え?」 「名前よ、名前。それとも名無しなの?」 「あ、僕の名前は碇シンジ。」 「私は霧島マナ!よろしくね♪」 そういうとマナは右手を出して握手を求める。 「…よろしく。」 女の子と握手などしたことないシンジは戸惑いながらマナの手を握り返す。 「でさ、さっきのことなんだけど…」 「え?」 「アタシのうちに少しばかりだけどお金があるの。それを使って武器とか人を集めて誰かの手助けをしない?」 「あ、うん…って、えぇぇ!?」 「あらぁ?こんな高札立ってるくらいだし、今は黄巾党討伐のためにどこも人手を欲しがってるはずよ!歓迎されるはずだわ。」 「そりゃそうだけど…僕なんかとでいいの?貧乏だし…」 「そんなの関係なし!貧乏が気になるんなら、いっそ結婚しちゃってうちの財産をアタシごとあなたのものにしちゃえばいいのよ!」 そう言ってマナは顔を真っ赤にする。 「え…」 と言ったまま絶句するシンジ。 「それは冗談よ」 と言って複雑な笑みを浮かべる。 「とりあえず、こんなところで立ち話もなんだからどこかの店に入らない?」 「ところで霧島さんさ…」 「マナでいいわ」 「マナさんは・・・」 「さん付けは気持ち悪いからやめて。」 「う、うん…」 意外とあっさり認めてしまうシンジ。 「マナさ、さっきから気になってたんだけど…」 「何?アタシがかわいいって?きゃー!もうシンジったら!」 体をくねくねさせるマナ。 「そうじゃなくて、その大きな包みは何なの?」 と壁にかけてある長い棒を指す。 「あ、これ?(なんだそれか…)ふふふ、何だと思う?」 「何だろう、武器かな?」 「それはねぇ…」 マナが口を開きかけた時、ドアが荒々しく開けられた。 しかし入ってきた人はその荒々しさとは無縁の蒼い髪に、ルビーのような赤い瞳を持ったとびっきりの美少女であった。 荒々しさをうかがわせるものがあるとすれば、手に持っているマナと同じような長い棒である。 「おじさん、いつものやつ。」 とボソリと言うと、シンジ達の隣の机に腰掛ける。 「ね、あの子」 「あ…何?」 見とれていたシンジはほんの僅かに反応が遅れる。 「もう。仲間になってもらったら強そうじゃない?もってるモノなんてアタシのと同じ気がするし…」 「え?」 シンジは改めてその少女を見る。 蒼い髪はシャギが入っていて彼女によく似合っている。 そしてルビーのごとく赤い瞳は神秘さをたたえて、彼女の美しさを引き立てている。 シンジの視線に気付いた彼女が顔を向け、怪訝そうな表情をする。 「あ、いや…」 シンジが慌てて椅子から転げ落ちた時にことは起こった。 ドアが叩き割られたかと思うと人相の悪い男が10人ほどなだれ込んできた。 咄嗟に机の下に隠れるマナとシンジ。 ふと隣を見ると先程の少女は平然と座っている。 賊の首領らしき男が声をあげる。 「我々はこれから、世直しのために張角様のもとにはせ参じるものだ。」 「そのための資金をいただきにきた」 「騒いだら少々ややこしいことになるぞ」 店の主人は真っ青である。まさか自分の店が黄巾党予備軍に襲われるとは… ずかずか入ってきた男たちは当然のごとく、蒼髪の少女に気付く。 「ほぉ、上玉じゃないか!どうだい、俺たちの一緒にこねぇか?悪いようにはしないぜ?」 だが彼女は、一瞥をくれただけで興味なさそうにしている。 あれやこれやと話しかける男達であったが、何を言ってもこれと言った反応を示さないのでしまいに怒りを表し始める。 「おい、聞いてるのか!」 と、一人が腕をつかむ。しかし彼女はぱっと払いのけ男を蔑んだ目で見る。 「汚いおっさんは用済み…」 それを聞いた賊は一斉に刀の鞘を払う。 「優しくしてりゃあつけ上げりやがって…者ども!構うことはねぇ、無理矢理犯してでも連れて行くぞ!」 賊がじりじり近寄っていくと、彼女は棒の包みを持ってパッと立ち上がり、壁を背にして立つ。 「やっちまえ〜!!」 しかし数分後に倒れていたのは賊達の方である。 途中から我慢出来なくなったシンジ達が加勢したとは言え、少女一人でも十分に倒せたのではないか?と思えるくらいその少女は強かった。 「ありがとう…」 声は小さいが誠意のこもった表情で言う彼女。 「いや、女の子が乱暴されそうになってるのに黙って見てるなんてさ…」 照れくさいのかシンジは顔をうっすら赤くし、頬をかいている。 「けれどあなたって強いのねぇ…」 マナは素直に感心している。 「小さい頃から仕込まれてたから…」 「そ、そうなんだ…」 どう答えてよいかわからず、場が一瞬静寂に包まれる。 その静寂を破ったのにはマナである。 「ねぇ、あなたアタシ達と組まない?そしたらきっと天下無敵よ!」 「え?」 一瞬呆けた顔をする少女。 「え?そんな…」 シンジは戸惑っている。 今知り合ったばかりなのに、と思うのはやはり彼の性格だろうか。 しかしこの慎重さが後に何度も虎口を脱出できる要因なのだ。 「あなた達とならいいわ。どうせ義勇軍に入ろうとしていたところだもの。」 彼女はしばらく考えていたがやがてこのような結論を述べた。 「なら決定ね!」 そういうか早いか、少女の手をとって喜ぶマナ。 「そう言えば自己紹介がまだだったわね」 「私は霧島マナ!マナって呼んでね」 「僕は碇シンジ。呼び方は…任せるよ…」 マナの後に慌てて続けるシンジ。 「私はレイ。綾波レイ。」 「そしてこれは…」 レイは持っている棒、いや、青龍刀に目を向ける。 「EVA之零式『青龍堰月刀』」 「やっぱりあなたもEVAの持ち主だったのね」 マナが自宅の桜の木の下で言う。 「EVAってなに?」 シンジが問う。彼は何も知らないらしい。 「使い手を選ぶ武器って言うのかな?その武器に相応しい人が使わないと持ち上がりすらしないわ。」 「現にシンジじゃ、アタシの持ち上げられないでしょ?」 「確かに…」 マナもEVAの使い手である。彼女のEVAは「四式『鉄脊蛇矛』」。黄色い矛である。 「僕は違うんだよなぁ…」 シンジはため息をつく。 「それなのに義兄弟になっちゃっていいの?」 彼ら(主にマナとレイだが…)はあの後、すっかり意気投合し、ついでにシンジも巻き込んで義兄弟になろうという話になったのである。 本当はシンジとそのまま夫婦になりたかったとかそうでなかったとか… 「当然じゃない!シンジだって意外と強いじゃないの!」 意外は余計である。 彼の母、碇ユイは剣術の達人で小さい頃からそれとなくシンジを鍛えていた。 おかげで彼は細いながらもかなりの筋肉を持ち、腰に帯びている長剣も他のそれより重いはずだが彼は難なく振り回している。 「で、兄弟の順番は?」 「やっぱりシンジがお兄ちゃんよね!」 「そう…碇君がお兄ちゃん。これは運命(さだめ)…クスクス」 レイは初登場の時と性格が変わっている気もするがあしからず。 「え〜!!?」 「何?か弱い女の子に一番上をやらせようっての!?」 EVAをブンブン振り回している女の子が言うせりふではないような気もするが… しかし心優しいシンジ君はここで引き受けてしまう… 「わかったよ、僕がやればいいんだろ?」 「わ〜い!さすがはお兄ちゃん」 「お兄ちゃん…(ポッ)」 お兄ちゃんと言われ、シンジも満更ではない様子。 結局、シンジが長兄、レイが次姉、マナが末っ子ということになった。 マナ曰く。 「末っ子のが甘えられるじゃない!」 だそうだ… 「僕達3人、生まれた日は違うけど、兄弟になったからにはできれば同じ日に寿命をまっとうしたいね」 シンジの爆弾発言に真っ赤になる2人。 (シンジったら…これはお兄ちゃんから『あなた』に格上げするしかないわ!) (お兄ちゃん…そう、私はお兄ちゃんと1つになるの。同じ日に死ぬとはそういうこと…) 何かよからぬことを考えていなくもなさそうだが… ふと3人が上を見ると、桜の花が咲き誇っていて、時々風が吹くと花びらが舞っている。 第三新東京にもようやく遅い春がめぐってきたようだ。 そしてここから日本再建への壮大なドラマが始まる…
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